烏有此譚(小説)

登録日:2011/05/04 Wed 07:40:31
更新日:2023/01/05 Thu 20:39:11
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二+曰=■



『烏有此譚』とは円城塔の小説。

初出は「群像」2008年5月号(63巻5号)。
講談社より注釈を加えた単行本が2009年12月に刊行された。



■概要■
中篇小説。題は「うゆうしたん」と読む(注1)
作者(注2)の小説はよくわからないことをよくわからない調子で述べるが、単行本化にあたり嬉しいことに注者(注3)によって注釈が付された。

ただし、本文に匹敵する分量で。

しかも注釈で解説するのは関係あるんだかないんだかわからないことばかり。

たとえばシマウマの縞柄への不満だったり、作者の私服についてだったり、古橋秀之『ブラックロッド』に出た兵器についてだったり。

さらにその注釈に注釈が付いたり、注釈の注釈に注釈その1と注釈その2が付いたり、注釈に見せかけた謝辞だったり……。

お弁当箱の蓋を開けたら、真っ白なご飯と、ご飯と同じ量の沢庵(注3)が入っていた感じだろうか。多分。


注1【「うゆうしたん」と読む】
書き下すと「烏(いずくん)ぞ此の譚(はなし)有らんや」となる。なんでこんな話があんのよ、いや、ないんじゃね、くらいの意。
詳しくは91頁注43を参照。


注2【作者】
お話を記した人物<*1>。語り手や視点人物、場合によっては主人公という。誰が/いつ/どこで/なぜ/なにを/どうやって語るかは物語を読み解く大切な手がかりで、特にミステリ小説では語り手にルールを設ける場合<*2>がある。

<*1>メタ発言での作者もよくわからない小説を書く。

<*2>所謂ワトスン<*2-1>役。「ノックスの十戒」でも触れているとおり、彼らはいつの時代もトンチキな考えの発表に忙しい。

<*2-1>ワトスンとワトソン、どちらで呼ぶか<*2-1-1>は日本語を使う者にとって永い議論の的だ。ほかに「ギブスン=ギブソン問題」「ギリシア=ギリシャ問題」「カレー=カリー問題」「プリン=プディング問題」なども考えたが、ずれた気がしなくもない<*2-1-2>。

<*2-1-1>『非現実の王国で』<*2-1-1-1>の作者ヘンリー・ダーガーについて、隣人たちは彼のファミリーネームをダーガー/ダージャー/ダージャァと異なる発音で表した。曰く、周りの人がそう呼んでいたから。曰く、本人がそう言っていたから。
よく会う人の名前を実は知らないことはある。その人の正体についてなら猶更知らず、闇に生きる忍者<*2-1-1-2>はその正体を誰にも明かさず、あなたの隣人が忍者でない証拠が見付からない<*2-1-1-3>のは道理だ。
ダーガーとその作品については映画「ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で」(監督・脚本:ジェシカ・ユー)に詳しい。

<*2-1-1-1>正式には『非現実の王国として知られる地での、ヴィヴィアン・ガールズの物語、あるいは子供奴隷の反乱に因るグランデコ=アンジェリニアン戦争の嵐の物語(The Story of the Vivian Girls, in What is Known as the Realms of the Unreal, of the Glandeco-Angelinnian War Storm, Caused by the Child Slave Rebellion)』。約60年間自室でひっそりと書き続けた物語は1万5000頁の本文と300点の挿絵(3m以上が多数)からなる大長篇で、彼の死後、作品が世に知られた現在も全てを収める本はない。
邦訳版ともなると気が遠くなりそうだが、〈ペリー・ローダン〉シリーズや『ゴーレム^100』の翻訳<*2-1-1-1-1>をやってのける国なので希望はある。

<*2-1-1-1-1>アルフレッド・ベスター著、渡辺佐智江訳、国書刊行会。奇書。

<*2-1-1-2>忍者は一般的に暗がりや狭い隙間を好む習性があると言われ、天井裏、縁の下、石の下、影法師の中、次元の狭間<*2-1-1-2-1>を探してみるとひょっとしたら見つけられるかもしれない。

<*2-1-1-2-1>「凡そこの世に非ず、次元の彼方、別の世界より来たる者を忍びと云う。光牙とは光の牙、絶望に抗う伝説の忍び。人は知らぬ、何処より彼等は来たるのか。人は問わぬ、何故に彼等は戦うのか。訳は要らぬ、夜の淵より出で、光の牙にて闇を裂く――それが、光牙のさだめなれば」
月村了衛『機忍兵零牙』(ハヤカワ文庫JA)

<*2-1-1-3>現在、世界人口の3分の1が忍者だ。備えよう<*2-1-1-3-1>。
じゅきあきら『海の大陸NOA』(ボンボンKC)第15話参照。

<*2-1-1-3-1>備えよう。

<*2-1-2>脱線から脱線すれば本線に戻れるとは当然限らず<*2-1-2-1>、それはこの注も保証する。

<*2-1-2-1>お叱りの声が恐くなってきた。次の文を以って打ち止めとする。

「過ぎたるは猶、及ばざるが如し。遺憾なことです。それは大変に遺憾なことだと僕も思う。(中略)やりすぎて猶辿りつけないやりすぎへ向けて、僕らは加速していくだろう。それが崩壊を呼び寄せる一番手っ取り早い手段だから」
円城塔烏有此譚』(講談社)


注3【注者】
断りを入れるまでもなく作者と注者は別人である。


注4【ご飯と同じ量の沢庵】
これを副菜と呼ぶのは余りに暴力的<*1>で、タクアニスト以外は誰も喜ばない。主菜と言い換えたほうがいいのかしらん。

<*1>花中島マサルはご飯と沢庵の比率が1:9の弁当を食べていたが、彼と彼の家庭事情を考えれば別段不思議なことではない。
うすた京介『セクシーコマンドー外伝すごいよ!!マサルさん』(ジャンプコミックス)第34話参照。




■あらすじ(注5)
僕の部屋は雑多なもので溢れかえっていて、埋まりつつある。
末高は裡(うち)に灰が降り始めていて、埋まりつつある。

此れはただそれだけの譚である(注6)


注5【あらすじ】
あらすじが書きづらい話なのでこうして注釈で誤魔化すも、そのせいで見づらくなるジレンマ。どうしよう<*1>

<*1>何か案がありましたら<*1-1>追記・修正等<*1-2>宜しくお願い致します。

<*1-1>勿論それ以外に関しても熱烈歓迎中で御座居ます。

<*1-2>せっかくの新天地であることだし、今まで本文と注釈とを16文字<*1-2-1>の―(ダッシュ)を使って区切ってきたが、水平線プラグイン(----、あるいは#hr())を用いる。
参照:編集用プラグイン一覧

<*1-2-1>さも当初から16文字かのように記したものの、初稿ではもう少し多かった。減った理由としては当時あった1ボックス500文字制限との兼ね合いが挙げられる。


注6【此れはただそれだけの譚である】
ただそれだけの話である。




■登場人物■

部屋の中が兎角散らかっている(注7)
あまり炊飯器(注8)を活用しない人。

末高
無骨で優しい長男坊。
く、灰が降り出していて20万人(注9)を引き受けねばならない。


末高のお嫁さん。
天井を這い回ったり足跡が緑色に光ったりする(注10)
よく菓子パンを食べる。


注7【部屋の中が兎二角散らかっている】
一人暮らしではよくある。
作者の部屋の様子は冒頭より滔々と語られ、その渾沌っぷり<*1>は両親が心配するほど。

<*1>渾沌は開闢や創世と相性が良い。『古事記』は伊邪那岐命伊邪那美命が「浮きし脂の如くして久羅下(くらげ)なす漂へる」渾沌の大地に天沼矛を刺して攪拌し、その後諸々あって<*1-1>日本列島が出来たと伝える。では原初の渾沌を用意したのは誰か、という疑問が当然浮かび、それはチャック・ノリスである公算が大だ。

<*1-1>セックス。


注8【炊飯器】
自動的に米を炊いて徐々に腐らせる機械の極東における呼称。
4頁5行目参照。


注9【20万人】
長野県の安曇野市<*1>と佐久市の人口を足したくらいだ、と言えば大方の人にはご理解頂けると思う。

<*1>ワサビが有名な安曇野市は、神林長平の小説で高さ200メートル級の廃棄物にずっぽり埋もれることとなる。

「新聞紙の醤油のつけ焼きは信州の地方紙、信濃毎日新聞がうまい、などと言わなくてよかったと降旗は思った。地元では信毎、で通る。シンマイ、新米」
神林長平『死して咲く花、実のある夢』(ハヤカワ文庫JA)


注10【足跡が緑色に光ったりする】
名は体を表し得るので問題は特に生じない。
39頁8行目、及び68頁注29参照。




■備考■
本作の執筆前にも図形のプロット(注11)を描いている。


注11【プロット】
お話の骨組みを簡潔に抜き出したもの。詳しくはリンク先を参照。





追記・修正に関しては注5を参照。
重ねて宜しくお願い致します。

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最終更新:2023年01月05日 20:39