エル・トポ(映画)

登録日:2016/06/07 Tue 04:52:41
更新日:2022/06/30 Thu 00:27:12
所要時間:約 7 分で読めます





「モグラは穴を掘って太陽を探し、時に地上へたどり着くが、太陽を見たとたん目は光を失う」




■エル・トポ

『エル・トポ(原:EL TOPO)』は、1970年に公開されたメキシコ映画。*1
アレハンドロ・ホドロフスキー制作、監督、脚本、音楽、主演。
最強のガンマン“エル・トポ”の冒険を宗教的な啓示を交えて描く。
『エル・トポ』とは「ミスター・もぐら(土竜)」という意味である。
無数の死体や流血に彩られた映画としても知られているので、苦手な人は注意。

【解説】

奇才、アレハンドロ・ホドロフスキーの名を世界に広めたカルト映画の傑作にして所謂ミッドナイト・カルトの先陣を切った作品として知られる。
商業ベースの映画では無い、ホドロフスキーが自らの宗教的知識によって描いた芸術作品なのだが、そのエンターテインメント精神に溢れた世界観と異邦感漂う抜群の画面作りの美しさが話題を呼び、米国では当時のサブカルチャーの支配者たるポップアートの巨匠アンディ・ウォーホルや、ジョン・レノン&ヨーコ夫妻の賞賛を受けた。
元々は小さな映画館で深夜にひっそりと上映されていただけだったというが、口コミで人気を得る内にジョン・レノンは45万ドルもの資金を出して本作の配給権と続編の権利を買って大きな映画館でも上映。
……が、一般ピーポーには不評で、僅か3日で上映が終了してしまったらしい。……芸術と商業は別ってハッキリわかんだね。*2

……とはいえ、難解ながらも魅力的な映画である事は確かであり、部分的な要素を抜き出した場合の其々のエンタメ性、宗教的なメッセージ性の映像としての再現率は極めて高く、以降の様々なジャンルの作品に残した影響は大きい。

日本では劇作家、詩人の寺山修司により絶賛された事で名が広まり87年に公開。
サブカル好きの知識人や若者に持て囃されてきた歴史がある。
日本でも本作が様々なジャンルの作品に与えた影響は大きく、近年の作品に限っても『MGS』シリーズの生みの親である小島秀夫がシリーズのボスキャラ戦のアイディアは本作のイメージを元にしていると発言したり、須田剛一が『NO MORE HEROES 2』の発表時に本作が企画のイメージの核である、と述べている。

……実際、物語の舞台設定は極めてワクワクとさせる物があるのだが、期待して視聴すると、確かに嘘は言われてないけど大ヤケドする可能性は高いので注意されたし。

【物語】

物語は聖書、及びその他の宗教的な啓示を柱としており、各章のタイトルにもそれが表れている。
基本的なストーリーは単純で、無駄を極力省いた場面の積み重ねがシュールな笑いを呼ぶ。
※以下はネタバレ含む。*3

プロローグ

幼い息子と共に旅していた最強のガンマン、エル・トポ。
荒くれ者共を撃退したのを切っ掛けとして、暴力に支配された町を解放する。

創世記

「俺は神だ(迫真)」
支配者の慰み者となっていた女に誘われ、息子を捨てて旅に出たエル・トポは砂漠に住む四人の達人と対決し、真に最強のガンマンになることを目指す。

預言者たち

神通力を持つ四人の達人に、汚い方法で戦い勝利したエル・トポ。
……だが、悟りを得た彼は己の行為の愚かさと無意味さも知り絶望。
銃を捨てたエル・トポは女達にも見棄てられて長い眠りにつく。

詩篇

死ぬ事も出来ないまま人から隠れ棲む奇形(フリークス)の一族の棲む穴蔵に運び込まれて“神”として祀られていたエル・トポだったが、長い時を経て覚醒。
日の当たる世界に行きたいと願う一族の願いを聞き、麓の町に繋がるトンネルを掘る事を決意する。

啓示

自分を世話してくれた小人の女と共に、堕落が支配する町へと下りたエル・トポは芸を見せつつトンネルを掘る資金を集める。
やがて女と愛を育むが、堕落した信仰に絶望していた、かつての自分が捨てた息子と教会で再会。
自分を捨てた事を恨み、エル・トポに復讐したいと言う息子の願いを早く遂げさせる為に、再会した親子は共にトンネルを掘り始める。
……トンネルは完成したが、聖者となったエル・トポに対して息子は「師は殺せない」と言い残して立ち去ろうとする。
一方、女がエル・トポの子を産み落とそうとするのと同じ時、エル・トポの静止も聞かずに町へと喜び向かった奇形達は住民達に皆殺しにされる。
怒りに震えるエル・トポにも住民は銃を向けたが、不死身のエル・トポは誰にも殺せず、逆に銃を奪ったエル・トポの復讐により住民達は虐殺されてゆき、残った人間も町を捨てて逃亡する。
……こうして、神の怒りにより町は廃墟と化した。

エル・トポは無情感の中で自らに火を放ち、死ぬ。

エル・トポの死を見送った息子と、エル・トポの子を抱いた女は彼の為に墓を作ると何処かへと去っていった。



エル・トポの墓に蜜蜂達が新たなる生命の象徴たる巣を作ろうとしている場面で映画は終わる。


【登場人物】


■エル・トポ
最強のガンマン。
演じているのは監督本人。

■エル・トポの息子
エル・トポと共に旅していたが、悪の道に堕ちた父親に捨てられ、解放した町の修道士に預けられる。
信仰が堕落しても尚、正しい心を失っていなかったが父との再会に幼き日の復讐を果たそうとする。
演じているのは監督の子供。

■女(マーラ)
町を暴力で支配していた“大佐”の慰み者となっていた女。
町を救ったエル・トポを誘惑して旅に出ると、四人の達人を殺すようにけしかける。
エル・トポから苦い水に喩えられ“マーラ”と名付けられていた。

■女
四人の達人を探すエル・トポの下に現れて、二人目の居場所を教えた女ガンマン。
そのままエル・トポの旅に加わり、嫉妬したマーラから勝負を挑まれるも鞭を振るい勝利。
奇妙な三角関係の末にマーラとレズ関係となり、銃を捨てたエル・トポを見棄てて二人で何処かへと去っていった。

■大佐
荒くれ者共を率いて、我が物顔で町を支配していた俗物。
エル・トポとの戦いに破れて去勢。
屈辱と苦痛の中で自ら命を絶つ。

四人の達人

いずれ劣らぬ個性を持つ、四人の聖者。
道を極めた事により神通力を得ており、エル・トポを上回る力を持つ。
この映画は訳が解らないが、このシチュエーションだけはとても解りやすくて人気。

■盲目のヨガ行者
二人一組で行動する手の無い男と足の無い男を従者として、砂漠に建てた暗い縦穴に住んでいる。
痛みを受け入れているので、大きな傷を負わない=死なない。という悟りを開いている。

■マザコンの職人
自己喪失=無我を極めたガンマンで、早撃ちでは右に出るものが居らず、精密作業に於いても失敗する事が無い。

■うさぎ好きの男
たくさんのうさぎと共に暮らす、音楽好きの男。
エル・トポを招き入れてセッションした。
手製の拳銃は一発しか銃弾が撃てないが、その一発が必ず相手の心臓を貫くという完璧な腕前を持つ。

■仙人
もはや、道を極め過ぎて銃すら捨ててしまっていた老人。
銃を虫取網と交換していたので勝負すら出来ず、試しにエル・トポに殴らせるも飄々とすり抜け、銃を撃ってみても虫取網でキャッチされてしまう(のみならず、次に撃ったら心臓に投げ返すと脅された)……。


■小人の女
穴蔵に隠れ棲む奇形達の一人で、小人症の美女。*4
長年に渡り世話をし続けてきたエル・トポを愛しており、彼と共に町にも下りた。
堕落した町の住人達に煽られ、見世物としてエル・トポと結ばれて彼の子供を宿す。

【余談】

  • 三人目の達人の場面に登場してくる大量のうさぎの死体は本物で、スタッフが淡々と殺していったらしい。

  • 日本ではエル・トポがフリークス達を救おうとする展開が、大分県の「青の洞門」開通の史実と、それを題材とした菊池寛の『恩讐の彼方に』を彷彿させるとして語られる。



追記修正は悟りを得てからお願いします。

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最終更新:2022年06月30日 00:27

*1 製作は69年。メキシコ映画の輸出なんて誰も考えていなかった時代に、こんな前衛的な作品を売りに来たと云う事実が既に凄い。

*2 この時に付けられた低俗な煽り文句が本作をカルト映画としてしか語らせなくなったとの批判も。

*3 しても意味が無いレベルだが。

*4 本作に登場してくる奇形役の皆さんは本物です。