SCP-710-JP

登録日:2017/02/04 Sat 16:46:04
更新日:2024/04/12 Fri 15:36:01
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彼を撃ち殺したのは財団だ。だから何の問題もない。


SCP-710-JPは、シェアードワールド「SCP Foundation」に登場するSCPオブジェクトのひとつである。
日本支部生まれなのでJPのコードがついている。

特別収容プロトコル

まずは、特別収容プロトコルから説明しよう。
オブジェクトの色々な基準、オブジェクトクラス。つまり取り扱いの容易さは「Safe」……を経て、現在「Keter」。
かつては完全に収容できていると思われていたが、実は全くそうではなかったことが後から判明したパターンである。

かつてはこんなプロトコルだった。
SCP-710-JPは████州に位置するサイト-██の専用ロッカーにて管理、収容されています。対象を使用する際はレベル3職員による許可を得た上で実行してください。無断で対象を使用した職員は処分の対象となります。

が、現在はこうなっている。
SCP-710-JPは収容不可能な状態です。機動部隊はプロトコル「パラドックス710」に記載されているSCP-710-JP使用日程にのっとり発砲を行ってください。SCP-710-JP使用日程はSCP-710-JPによる新たな事件の発覚の都度更新されます。SCP-710-JPによって引き起こされた事件に関する被害者及び関係者にはAクラスの記憶処理を施し、その上で事件の隠蔽工作を行ってください。

つまり、特定のスケジュールに従い、財団がSCP-710-JPを発砲せよ、ということになっているのだ。
「被害者」「事件」で「発砲」と来れば、まあ予想はつくだろうが……。

1つ注意すべきは、「収容できていない」とは財団がオブジェクトを保持していない、ということだけではなく、「オブジェクト自体は手元にあるが、その異常性の封じこめが出来ていない」ことも含まれる、という部分である。

説明

SCP-710-JPはスミス&ウェッソンM66、2.5インチリボルバーに酷似した一丁の拳銃である。この手の物品系オブジェクトの恒例として製造番号などの記録は存在していない。さらに、グリップとトリガーに本来のM66とは異なる特徴をいくつか有している。

SCP-710-JPの異常性は、コイツを発砲した後に発生する。
SCP-710-JPを用いて発砲した場合、発砲した地点の「過去」と「未来」に、発砲した弾丸が出現するのである。その際、SCP-710-JPの機構は問題なく機能しており、また使用された弾薬は普通に消費される。

これらの異常性はある程度制御することが可能であり、グリップの右側面内部にある「random ON OFF」と記入されたスイッチ、および「F、P 00/00/00」と記入されたつまみを操作すれば、弾丸を出現させたい時間を設定できるのだ。

グリップ右側面は取り外し可能になっており、ここから「random」の項目をOFFにすることによってSCP-710-JPの発砲時のタイムワープをコントロールできるようになる。逆に言うと、ONだといつの時間軸に飛ぶかさっぱりわからないのである。

で、このハンドガンに取り付けられているメモリはFとPにより過去、未来の切り替え(つまり「Future」と「Past」)、数字を入力する部分はそれぞれ年/月/日に該当。ただし年の選択は下二桁までしかなく、過去、未来の設定は現在の年数から換算した年数に依存すると推定されている。
例えばこの記事を執筆したのは2017年2月4日だが、メモリを「F 01/3/5」にして午前9時に撃つと、2018年3月5日の午前9時に、同じ場所から弾丸が飛んでくるのである。
また、「空白 00/00/00」に設定すると時間移動は起きず、普通の拳銃になる。

これらの機構については当初わかっていなかったが、最初の実験で弾丸が消えるという事態が発生。
どうなってんだこりゃ、とX線検査を行った結果、時間移動制御スイッチの存在が判明。これをコントロールすればどこかわからないところに弾丸が飛ぶ心配はない、ということで、Safeに分類された。




……が、財団ははっきり言って、このリボルバーをあまりにも甘く見すぎていた。
それは、実験の結果と、収容に至る経緯を繋ぎ合わせることで浮かび上がった、恐るべき事実と可能性が示していた。


実験記録

SCP-710-JPが収容されてから、何度か実験が行われた。
最初の実験は特異性がわかっていなかったため、それが判明してからの二度目以降の実験を引用する。
なおオブジェクトの性質上、他の多数の報告書と違い実験日時は黒塗りの伏字にはなっていない。

  • 2012/10/04
この実験では、Dクラス職員に普通に発砲させてみた。そして、2日後になって、同じ場所から弾丸が飛び出してくるという結果になった。
この実験により、SCP-710-JPが弾丸を移動させられるのは日数単位だという仮説が立てられた。

  • 2012/12/24
クリスマス・イブにも平常運転で実験。
今度は過去に設定して撃ってみた。相変わらず弾丸は出て来なかったが、資料を調べてみると、発砲を行った実験室で93年に別のオブジェクトの実験を行った際、何者かによる発砲事件が起きたという記載があった。
財団が保管していた弾丸を調べたところ、この実験で撃たれた弾丸だということがわかった。

これを受けた財団は、もしかしてこの拳銃は過去改変型のオブジェクトなのではないか、と考えた。
つまり、過去に発砲事件の記録がない場所で過去に向けて撃てば、「その場所でかつて発砲事件があった」と現実が書き換えられるのではないかと思ったのだ。

  • 2013/1/11
というわけで、年明け早々に実験。
別のサイトの実験室の壁にSCP-710-JPを向けた。もちろんここでは、未だかつて発砲事件が起きた記録はない。
ここで過去に向けて撃ち、現実が改変されるのかどうかを調べる実験だ。
が、結果としてこれは失敗した。いざ発砲、という段になって、サイトで収容していた別のオブジェクトの収容違反が発生。しかもかなりの被害が出たらしく、このサイトは凍結されることになってしまった。

まるで、何もかも最初から決まっていたかのようだ……。

過去に発砲事件が起きていない場所では、この拳銃を過去に向けることは出来ない。
このオブジェクトには、過去を変える力はないことが判明した。

収容経緯

そもそもこのオブジェクト・SCP-710-JPは、2004/4/2に、アメリカのとある州で発生したトラブルが切っ掛けで発見された経緯がある。

当時、射撃場に来ていた一人の利用客が射撃場のオーナーに、「この拳銃、いくら撃っても弾が出ねえぞ!!」とクレームをつけた。
しかし、オーナーが拳銃内の全ての弾薬を調べたところ、問題なく消費されていたことが判明。悪質なクレーマーの文句であるとしてスルーされた。
ところが2012/3/1の同じ場所にて、来客が無かったにもかかわらず、オーナーが2発の発砲音を確認。その後も数回の無人の発砲事件が発生したためオーナーは現地の警察に通報。この報せは、当時その署内に潜伏していたエージェントの目にとまった。

オーナーの証言では、2004/3/26の夜中、不審な人物が射撃場に侵入する事件が発生したという。この時、オーナーは設置してあったショットガンを用いて侵入者を撃退。逃げて行ったこの不審者が落としたと思われる銃を貸出用の銃として利用、この事件を切っ掛けにこれらの一連の出来事が発覚することになった。

財団はこの拳銃がSCPオブジェクトに該当すると考えて事件に介入、関係者に記憶処理を施して発砲事件を隠ぺい。オーナーは拾得物横領の罪で起訴された。
アニヲタ諸君も、拾ったものは警察に届けよう。

財団は現在もこの、SCP-710-JPの元々の持ち主を捜索しているが、案の定見つかっていない。

事件記録

財団はこのオブジェクトを調査する傍ら、「弾丸が時を超える」という異常性に着目し、類似の事件がないかを調べていた。
結果がこれである。
なお、わかりやすくするために、時系列は無視して発砲→着弾の順で記す。

  • 事件その1
発砲:1946/9/16。アメリカのとある州の郊外、何もない場所で男が銃を撃った。
着弾:1995/11/3。アメリカのとある州の郊外、一軒家で妻に暴力を振るっていた男がいきなり誰かに撃ち殺された。

  • 事件その2
発砲:2003/3/3。イタリアのとある街の夜9時、不審な男が銃を撃った。
着弾:1952/10/7。イタリアのとある街の夜9時、とある男性が誰もいない真正面から撃ち殺された。

  • 事件その3
発砲:1994/8/19。日本のとある港で、不審な男が銃を撃った。
着弾:1982/4/10。日本のとある港で、麻薬取引をしていた暴力団組員が至近距離から撃ち殺された。

  • 事件その4
発砲:1982/7/7。ブラジルのとあるホテルで、不審な男が銃を撃った。
着弾:1993/5/4。ブラジルのとあるホテルで、泊まり客の女性が誰もいない室内で撃ち殺された。

  • 事件その5
発砲:1995/11/4。中国のとあるマンションで、ある部屋を買った男が銃を撃って、引っ越した。
着弾:1999/6/2。中国のとあるマンションで、ある部屋でパソコンをしていた学生が後ろから撃ち殺された。

  • 事件その6
発砲:???
着弾:2013/4/7。新設サイトで報告書を書いていたS博士が誰かに威嚇射撃を受けた。

時系列で並べ替えると、こうなる。

  1. 1946/9/16。アメリカのとある州の郊外、何もない場所で男が銃を撃った。
  2. 1952/10/7。イタリアのある街の夜9時、とある男性が誰もいない真正面から撃ち殺された。
  3. 1982/4/10。日本のとある港で、麻薬取引をしていた暴力団組員が至近距離から撃ち殺された。
  4. 1982/7/7。ブラジルのとあるホテルで、不審な男が銃を撃った。
  5. 1993/5/4。ブラジルのとあるホテルで、泊まり客の女性が誰もいない室内で撃ち殺された。
  6. 1994/8/19。日本のとある港で、不審な男が銃を撃った。
  7. 1995/11/3。アメリカのとある州の郊外、一軒家で妻に暴力を振るっていた男がいきなり誰かに撃ち殺された。
  8. 1995/11/4。中国のとあるマンションで、ある部屋を買った男が銃を撃って、引っ越した。
  9. 1999/6/2。中国のとあるマンションで、ある部屋でパソコンをしていた学生が後ろから撃ち殺された。
  10. 2003/3/3。イタリアのある街の夜9時、不審な男が銃を撃った。
  11. 2013/4/7。新設サイトで報告書を書いていたS博士が誰かに威嚇射撃を受けた。


オブジェクトクラス変更へ

調査の結果、現在でも世界各地で、このオブジェクトを用いたものと思われる「過去から」「未来から」の射殺事件が多発している。
しかも、財団の博士が威嚇とはいえ、このオブジェクトによる射撃を受けている。S博士がいたサイトは新設されたばかりであり、ここでSCP-710-JPをぶっ放したという記録はない。つまりこの射撃は未来からのものであり、同時に未来のどこかでこのオブジェクトが収容違反を起こす、という事態が確約されてしまったのだ。

そして、

SCP-710-JPの恐ろしさはその性質でもなく時間的矛盾を引き起こすことでもない。タイムパラドックスを逆手に取った、我々財団にも阻止することができない殺人を犯すことが可能であるという点こそ、SCP-710-JPの真の性質なのだ。
そもそも、何故、SCP-710-JPを所持していた人物が射撃場などに侵入し、SCP-710-JPを紛失するなどという事態を起こしたのか。
何故、これはこのサイトに保管されるようになり、サイト内の実験室にはSCP-710-JPによって生み出された形跡がずっと昔からあったのか。
少し考えればわかるはずだ。これは時間連続体の波に乗り、ここまで来た。まるであらかじめ決められていた、運命と言われるもののように。
私はこれでも科学者の一人だ。このようなオカルティズムに浸っていていいような人間ではない。しかし、これらの事象はもはやそのような言葉で表現することしか私にはできない。
SCP-710-JPは内在的なketerである。私はこれを強く主張する。

S博士のこの提言により、SCP-710-JPはKeterに再分類されることとなった。


このオブジェクトの恐ろしさは、時間の不可逆性を逆手に取った、誰にも阻止できない殺人を侵せるという一点にある。
収容までにSCP-710-JPを使用した不審な男が、どうやって過去や未来にそこに誰かがいることを確認し、そしてなぜ撃ったのか? それは何の意味もない問いだ。

実際に、時間を超越した射殺事件は起きている。そして、それは覆すことも防ぐことも出来ない。財団が「これはSCP-710-JPによるものだ」と推測できるのは、事件が起きてから、人が殺されてからなのだ。


オブジェクトは総じて収容違反などあってはならないが、この危険物は輪をかけてまずい。
誰かの手にもう一度渡ってしまえば、その時点で財団に成す術はなくなる。しかし、どうにかせねばならない。
諦めるわけにはいかないのだ。

財団は苦渋の決断を下した。それがあのプロトコルである。

機動部隊はプロトコル「パラドックス710」に記載されているSCP-710-JP使用日程にのっとり発砲を行ってください。

つまり、各地で起きている謎の射殺事件に対し、その事件が起きた日付に向けて、その場所から、その時被害者がいた場所目がけて財団がSCP-710-JPをぶっ放すことで、「その殺人事件は財団によって引き起こされたものである」という事実を確定させるのだ。

外界からSCPオブジェクトを確保し、収容し、外界を保護する。それが財団の理念であり使命。
その財団が、よりによってオブジェクトを用いて、積極的に外界の人間を殺傷するのだ。本来こんなことはあってはならない。
だが、収容違反が起きるよりははるかにマシなのだ。人道も同義も人権も関係ない。
殺された者達は、最大多数を守るための、最小の犠牲なのだ。



……ここまで書くと曲がりなりにも収容は維持できているように見えるが、甘い。
実は、このオブジェクトの収容違反は絶対に阻止できないのである。

一番まずい、そして一番起こり得るのは「財団が関与していないSCP-710-JPによる殺人事件」が起きることである。
財団の現在の対処法は、「現在から過去へ向けて撃つ」ことで成り立っているが、もしこの先同様の殺人事件が起き、財団がこのプロトコルを実行しようとして、トラブルにより発砲できなかったら?

それはつまり、財団ではない誰かが、その時間に向けて発砲していた、ということである。
過去からの銃弾ならば犯人らしき人物は探せる。だが、探して見当たらなければ、それは未来からの発砲=SCP-710-JPが財団の手を離れてしまっている、ということである。

ならば隔離すればどうだ、となればこれもNG。S博士のオフィスにおける威嚇射撃の発砲者が確定していないからだ。
また、使うのが人間である以上ミスショットは確実にある。被害者が出ている事件ならば把握は出来るが、それがどこにも被害を出していないただの空撃ちであったら? 的を外して空に、地面に向かってしまった単なるミスであったら?

財団がその全てを把握することは、絶対に出来ないのだ。

ならば破壊すればどうだ、となればこれもダメ。
未来からの射撃が一発でも確約されている限り、破壊する試みは永久に成功しない。
それは、実験その3の結果が物語っている。このオブジェクトは過去を変えることは出来ない。
過去に発砲されていない場所に向けて撃つことは出来ない。同様に、未来からの発砲が決まっているのに破壊されることはない。

そして、破壊できたならできたで、さらに面倒になる。
その後で同様の事件が起きてしまった場合、同じオブジェクト「SCP-710-JP-2」が存在することが決定するからだ。



つまるところ、財団がどうあがこうがどこかで収容違反が起きることは確定しているのだ。
そして、何よりも現状。

財団が撃たねばそれ以外の誰かの手に渡る。財団が撃てばそうはならない。だが、そうすることを決定したのは、財団にそうさせた殺人事件はなぜ起きたのか?

計算式が違っても答えは同じ。1+3も、2+2も、答えは4だ。
1+3から導き出された4という答えを確定させるために、財団は代わりに2+2という式を当てはめて回っている。
だが、そうさせたのは、確定されるべき4は、どこからやって来たのか?


さらにもう一つ。財団の理念とは何ぞや?

確保。
収容。
保護。

異常な特性を持ったオブジェクトを確保し、それが異常な特性を発揮しないよう収容し、それの異常な特性から外界を保護すること。
現状はどうか? SCP-710-JPを収容するために、財団ではない第三者の手に渡さないために、財団はこのオブジェクトで人を殺したという事実を付け足して回っている。

つまり、このオブジェクトによる殺人自体は防げていないのだ。確保は出来ていても、収容と保護は出来ていない。
収容違反を防ぐための収容違反という矛盾。


SCP-710-JPの収容違反は、いつか起きるわけではない。
プロトコルの冒頭をもう一度。






SCP-710-JPは収容不可能な状態です。






収容違反は、財団によってとっくに起こされているのだ。
だが、財団が真に恐れているのはSCP-710-JPの収容違反、そのものではない。
収容違反が起きることがわかっていて、それが阻止できないと確定しているなら、次善の策をきっちり固めればいい。


それが本当に、財団から奪われての収容違反だったら、の話だが。


財団が本当に恐れているのは、SCP-710-JPが収容違反となった原因の方である。
それがPOIやGOIに奪われてのことであれば、追跡・特定・奪還すればいい。
だがもしも、「SCP-710-JPの収容を維持できない、壊滅状態に陥ったから」収容違反となったのであれば?

いつかの未来に、収容を維持できないほどの機能不全を財団が起こす可能性が否定できない。
だからその可能性を限界まで潰すために、「収容違反であっても財団の手元にはある」状態を維持するためにこんなプロトコルを組んでいるのである。



いつか、その時は来る。
このリボルバー拳銃が収容違反を起こす、その時は。
そしてその時、



SCP財団は、まだ存在しているのだろうか?





SCP-710-JP

タイムマシンリボルバー




追記・修正は過去に向けて拳銃をぶっ放してからお願いします。

CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-710-JP – タイムマシンリボルバー
by yanyan1
http://ja.scp-wiki.net/scp-710-jp

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最終更新:2024年04月12日 15:36