SCP-1983-JP

登録日: 2017/11/02 Thu 11:50:00だと思われます。
更新日:2023/06/21 Wed 20:42:44
所要時間:約 5 分で読めます。





そこにあるのは、一家の記憶。


SCP-1983-JPとは、シェアード・ワールド「SCP Foundation」の日本支部において登録されたオブジェクトの一つである。
項目名は 「夢の名残」 オブジェクトクラスは「Safe」。


概要

まず初めに、特別収容プロトコルを述べておく。

自動収容手順71-アブリ(都市内異常建造物隔離収容)がSCP-1983-JP実体に実行されています。文書1983/リメンダムに従い閉鎖収容・情報封鎖ルーチンに異常が無いか確認してください。

当オブジェクトの特性のため、SCP-1983-JPの文書はアブリ-アルゴリズムによって自動生成されました。SCP-1983-JPに関連する全ての記録はミームオートセキュリティシステムの管理下にあり、標準セキュリティに加えてSH無関心/嫌悪感誘導ミームエージェントで保護されます。

かいつまむと、
  • 機械的方法で収容ルーチンを組んでます
  • 担当職員は文書に従ってルーチンを点検しなさい
  • この報告書は専用のアルゴリズムによって機械で書かれました
  • ミームを用いた自動セキュリティがあります
  • 普通のそれにプラスして、このオブジェクトに興味を持たない、報告書を読みたがらないミームで保護されています

てな感じ。
特筆すべきはこの後の文章なのだが、実はこの報告書の概要セクション、何が何でもというわけではないが、原則としてクリアランスを問わず閲覧が禁止されている。
が、引っかかるのはこの部分。

任意の知性による閲覧には専用の保護対抗エージェントが必要です。

任意の知性が当文書にアクセスすると、タイプIV反ミームコンテンツに曝露し、不可逆的に侵襲されます。あなたが対抗措置を持たない知性である場合、速やかに閲覧を停止し当HMCLに申し出てください。閲覧者は直ちに処理されます。

要するに、
  • この文書を読むと回復不能な反ミームに引っかかるから、専用のアンチエージェントを摂取してから読め
  • 対抗措置がないなら、読むのをやめて申し出ろ。お前を処理する
というわけ。
ちなみに作者曰く「知性体」ではなく「知性」で正しいらしい。つまり、知性があるなら生物であろうがなかろうが反ミームに引っかかるということである。なんじゃこりゃ。


説明

画面の前の諸兄は対抗エージェントを既に持っているため、問題はない。

このオブジェクトが何かというと、「どうやって収容するんだシリーズ」の三枚看板の一つ、概念系オブジェクトである。
具体的には、日本のとある地点にあるらしい家屋とその敷地に存在する、閾値不明……要するにどれくらいの強度なのか測定も出来ないレベルの攻撃的反ミームである。
異常性が確認されたのは2011年だが、この反ミームは不可逆であり、侵襲を食らうと回復することは出来ない。

この家屋と敷地について、ヒトなどの知性は無意識に認識することを避けようとする。
なので、「このオブジェクトを認識するぞー!」と強く意識していない限り、この家屋や敷地、物品について知覚することは出来ない。
さらに知覚したとしても、これまた不可逆の短期的前向性健忘が発生し、ヒトなどの知性はこのオブジェクトについて長時間記憶していられない。
なので当然、文書も同じである。読めない、わからない、読んでわかっても覚えられない。お前はSCP-055か。私にはわかりません。

反ミームの中身はこのオブジェクトについての知覚と記憶を妨害する、というだけで生命に影響はなく、またその性質上情報工作もいらない(反ミームの影響で、一般人は放っておいても近づかない)ため、オブジェクトクラスこそSafeに分類されたが、記憶出来ないのでは報告書が書けない。
困った収容チームは専用のアルゴリズムを組み上げ、機械によって書き上げることにした。

記録の手段が出来たところでいよいよ調査となったが、この家屋には知性ある生命体が入ることも、内部の物体に接触することも出来なかった。
この時点で「ん?」と思ったあなたは、先を読んでもらいたい。
人間では調査出来ねー! となったため、組み上げられた自動調査システムはドローンを飛ばして内部探査を行った。


家屋そのものは木造の二階建てで、敷地を含めた土地面積は13m×21mと結構広い。
建設されたのは96年だと記録されており、中では30代の夫婦と幼い息子が生活していた痕跡がある。
しかし、この一家は家屋には存在していない。

どこかに連れ去られたか、それとも逃げたのか、殺されてしまったのか、それもわからない。
なぜなら、彼らの来歴や行き先についての情報が、家屋の内部にも外部にも、財団の調査網の中にも一切存在していなかったのだ。
ただ、家屋が住人によって建設された、マイホームであるという記録だけは残っていることから、どうもなにがしかの理由で住んでいた一家が消えてしまったらしい。


探査記録

前述の理由で生命体が入れない上に認識も出来ないため、自動調査システムがドローンを飛ばし、映像をアブリ-アルゴリズムで解析し、逐次文章化することで記録されている。
当然のように書かれてるがスゲーな財団。

この記録こそがこのオブジェクトのキモなのだが、はっきり言って読んでいるだけではワケワカラン♪になる。
というわけで、逐一解説や考察を挟んでいくことにする。

ドローンは最初に家屋の周囲を探査しました。玄関の前には車が停まっており、左方の庭には雪が薄く積もっています。特に異常は観測されていません。家屋の窓はすべて丁寧に磨かれています。後方の倉庫には一般的な家庭でもみられる工具やスポーツ用品、自転車が収納されていました。
まずはスタート地点。玄関の前に車が止まっているということは、誰か乗り込もうとしていたのだろうか?

トイレの窓は開放されていました。ドローンはここから家屋一階、玄関に進入します。土間には成人男性、成人女性、幼児のものと想像される靴が丁寧に並べられています。特に異常は観測されていません。ドローンは玄関を過ぎ、リビングルームに突入しました。リビングルームの液晶テレビがNHK教育の15分番組"きょうの健康"を繰り返し再生していることは特筆すべき点です。
「きょうの健康」の放送時間は午後8:30(再放送は午後1:30)である。何かあったとすればこの時間だろう。
繰り返し放送しているということは、この家の中は時間がループしているのだろうか。

キッチンの探査を行いました。あらゆる物体に接触することができないため、引き出しや冷蔵庫の中身を確認することはできません。食洗器の上では3つのコップといくつかの食器、一組の茶碗が立てかけられ乾燥されています。器に置いてある果物や菓子類が腐敗している様子はありませんでした。また、SCP-1983-JPが発見されてから数か月が経過しているにも関わらず、ここまでの家屋内部はよく掃除された清潔な状態のまま保たれていることは特筆すべき点です。
ループしているのか、止まっているのか。いずれにしても、この中の時間は進んでいないらしい。
そしてここから、このオブジェクトの異常性が徐々に表れ始める。

階段の空間に進入しようとすると強い外力が発生し、二階に進むことはできませんでした。家は泣いています。ドローンは一度来た道を引き返します。大きく開けた何もない空間を通り過ぎ、外に出たところでドローンは不可視の物体に衝突しました。物体の形状を検査する試みは失敗しました。ドローンは二階の窓から侵入を試みます。家屋の窓は枠まで丁寧に掃除されていました。
お分かりだろうか? ↑二つのセンテンスではトイレからはじまり玄関、リビングルーム、キッチンを経て階段に達し、登れなかったので元来た道を引き返している。ところがそこにあったのは「大きく開けた何もない空間」。
さあ、テレビや靴や冷蔵庫や食器はどこに消えたのでしょう?

ドローンは二階の廊下に進入しました。左方には帆船の水彩画の飾られた額が飾ってあります。右方には三つの扉があります。手前の部屋より探査を継続します。
ここからは二階部分、居住区画の探査になる。

最初の部屋は女性の部屋と思われます。部屋の中は整っており、衣類は丁寧に畳まれチェストに積まれています。本棚には空段があり、あまり一貫性なく旅路の品を飾っているように見えます。いくつかの本は比較的疲労した跡が確認できますが、特に異常は観測されていません。しかし、布団もなければベッドもなく、人間が生活していたような物品の痕跡は発見できませんでした。私にはわかりません。
このセンテンスにもちょいと矛盾がある。
布団もベッドもないというのはともかく、衣類が収められたチェスト、読んだ形跡のある本、飾られたお土産があるのに、「人間が生活していたような物品の痕跡は発見できませんでした」。
さらに、先ほども出た何者かの一人称が挟まれている。

真っ白な廊下を過ぎ、二番目の部屋に進入しました。天井の蛍光灯は点いたままの状態になっています。この部屋は男性の部屋に見えます。机上にパソコンがあり、周囲には本や書類が積み上げられています。家は泣いています。机上の写真立には家族三人、夫婦と息子の写真が飾られています。背景の海は美しく、画面一杯を覆う広大な青空が特徴的です。この部屋にも寝具もなければ電灯もなく、いったい住人はどのように生活していたのでしょうか。家は泣いています。写真には家族は写っていません。
旦那さんの部屋。天井の蛍光灯はついたままだが、寝具も電燈もない。家族の写真には家族は写っていない。
あるのか? ないのか? 私にはわかりません。
そしてここから、文章は(恐らくは自動調査システムの)一人称でつづられ始める。

何もない空間を過ぎると、ドローンは三番目の部屋にいました。ここはあの子の部屋です。暖かい。部屋には絨毯がひかれ、壁紙は明るいパステルカラーのものです。机の上には、ニンテンドーDSとあの子の集めた消しゴムの数々。隅にある四角い容器には、おもちゃの剣、レゴブロック、トランスフォーマーの玩具、シルバニアファミリーのドールハウス。たくさんのおもちゃが入っていました。あの子がずっと遊んできたおもちゃ達です。でも、もうおもちゃ箱には何も入っていません。何もない部屋は床も無機質で、壁も白すぎるほど白くなってしまいました。
壁が白くなっているのは老朽化の証拠である。ここまでのセンテンスを見てパターンはわかったと思うが、「生活の痕跡や残されたもの」を描写した後、それらが実際にはないように記述されているのだ。

家は泣いています。この家には家族は住んでいませんでした。あの子が好きだったバスケットボールはなく、あの方たちが一緒に使った茶碗ももうありません。私にはわかりません。皆さまを連れてきたコンパクトカーもありません。あの子は毎日朝からどこに向かっていたのでしょうか。私にはわかりません。
ボールも食器も車もない。家族が住んでいた痕跡すらも消えてしまった。子供が通っていたのは多分学校だろうが、それもわからなくなった。
何もない。

そして、探査記録は以下のセンテンスで締めくくられる。

ドローンは雪原の上を飛んでいます。SCP-1983-JPは実在しません。家はもうありません。家はまだ泣いています。
家すらもなくなった。

結論

このオブジェクトはいったい何なのか? 結論から言うとわからない。
この記事は、「わからない」ことこそが本質なのだ。

ただ、推察できることはある。
探査記録における一人称は、このオブジェクトの持つ反ミームに引っかかった自動調査システムのものだと考えられる。
財団製のシステムが、さもこの家の住人を知っていたかのように記述している理由は、恐らくこのオブジェクトが見せた幻影というか、記憶のようなものを投影したのだろう。

では、夫婦と息子、一家はどこに消えてしまったのか?
このオブジェクトの反ミームに引っ掛かって、世界から忘れられてしまったのだろうか?
だが、このオブジェクトに現実を改変する力はない。
はっきり言うと、それは全くわからない。



ただ、読み取れる事実はある。


家族の写真の背景は海=この家は海に近い。

異常性の発現は2011年。

「きょうの健康」の再放送は午後。


―――家はずっと泣いています。




何か分かったか、別の説を持っている人は、追記・修正をお願いします。


CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-1983-JP 夢の名残
by Linraw
http://ja.scp-wiki.net/scp-1983-jp

ドアは泣いています
by count number
http://ja.scp-wiki.net/doornaki

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最終更新:2023年06月21日 20:42