ねじ式(漫画)

登録日:2018/07/15 Sun 22:57:31
更新日:2023/11/02 Thu 22:47:19
所要時間:約 5 分で読めます




まさかこんな所にメメクラゲがいるとは思わなかった


『ねじ式』はつげ義春の漫画作品。
旅ものと呼ばれる作品をはじめとした、数々の叙情的文学の風格も漂う名作短編を描いてきた氏の作品の中でも特に有名な作品であり、氏の代表作とされている。


【概要】

1968年の『月刊漫画ガロ』6月増刊号「つげ義春」特集誌上で発表され、その衝撃的な内容と構成は大きな反響を呼び、漫画界のみならず、その他の界隈にまで後々までに残る大きな影響を与えることになった。
パロディとしても、真面目な分析としても活発な議論と引用がされてきた歴史があり、インターネット世代になってからも作中で描かれた印象的な場面の元ネタが存在することが明らかにされ、更なる議論や研究が進められることとなった。

物語の舞台は千葉の太海漁港であることは作者によって明かされており、機関車が飛び出してくる場面のモデルとなった区画には漫画の一コマを使ったプレートが飾られたファンの聖地となっている。
物語の着想は水木しげるのアシスタントをしていた時に下宿していたラーメン屋の屋上で見た夢が元になっており、原稿の締め切りが迫りヤケクソになって書いたと語る反面、3ヶ月もの時間をかけて描かれている。
また、夢を元にしたと語りつつも、一つ一つの場面にモデルが存在していたりと作りは細かく、内容も元の夢のような物語だが殆どは創作である。

【物語】

海に泳ぎにきてメメクラゲに左腕を噛まれた少年は静脈を切断されてしまう。
出血多量を防ぐために少年は医者を探すが不案内な漁村では見つからない。
焦った少年は隣村へ行くことを思いついて、隣村へと通じる歩きにくい道(線路)を行く途中で前方からやって来た車(機関車)に乗せてもらうことに。
車が元の村へと戻っていることに気づいた少年が声をあげるが、運転手の狐のお面を被った子供は少年を諭し、少年もそれを聞いて風鈴の音などを聞いて落ち着いていたのだが、やっぱり車は元の村に戻ってしまうのだった。
無駄な時間をつぶしてしまったことを嘆く少年は徹底的、否テッテ的に医者を探すことを決意するが目医者ばかりしか見当たらない。
そんな中で見つけた金太郎アメ売りのおばあさんに医者のいどこを聞いた少年は、遂に自分の求めるビルの一室で開業している産婦人科の女医が、おばあさんの金太郎飴ビルにいることを聞き出す。
おばあさんとの会話の中で、少年はおばあさんが自分が生まれる以前のおッ母さんであることに気づくが、それには金太郎アメの製法の説明が必要だと聞かされ、二人して金太郎アメを咥え折ってから別れる。
やっと医者を見つけた少年はビルの中へ。
目標が見つかり落ち着いたのか、少年は死なんて真夜中に背中のほうからだんだんと巨人になっていく恐怖と比べたらどうってことないということに気づくのだった。
産婦人科に駆け込んだ少年はシリツ(手術)を頼むが、中にいた女医に断られてしまう。
それでも強引にシリツを頼む少年に、女医はお医者さんごっこをしてあげますと言い、裸になった二人は布団の中へ。
麻酔もかけずにシリツを始めた女医に抵抗した少年だが、気づくと切断された血管は◯X方式を応用したねじで繋がれていた。
外科の才能もある女医に感謝を告げた少年はモーターボートで海へ。
それから、ねじを締めすぎると少年の左腕はしびれるようになったのだった。

【内容について】

この、余りにも前衛的でシュールな、それでいてナンセンスな芸術性は大いに話題を呼び、印象的なシーンについても精神分析的なアプローチもされたのだが、つげ本人はそうした解釈については反発していたといい「創作の意味が分からない初期の作品では垂れ流し的に描くから自身の内面が表れやすいが、何年も描いていると作品としての構成を考え、セリフひとつにも自覚して描いているため、自身の内面が出ることは少ない」等とコメントしているとのこと。
一方で、本作について「時間・空間と全く関係のない世界―それは死の世界じゃないんだけど―それを自分のものにできたらと思っている。『ねじ式』ではそうした恍惚と恐怖の世界・異空間の世界がいくらか出ていると思う」ともコメントしている。

つげ本人のコメントはともかく、矢張り本作の不思議な魅力を語る言葉については「意識」「存在」「風景」「時間」や「悪夢」といったキーワードで語られることが殆どだったようである。

つげと親しかった赤塚不二夫は、本作を読んで「こんなものを描いてしまったらおしまいじゃないか」と激怒したと言われる。*1

【映画】

1998年に石井輝男プロダクションにより映画化。
主演は浅野忠信。
『ねじ式』の他にも『もっきり屋の少女』や『やなぎ屋主人』といった複数の作品から題材を取られている。
複数の作品を混ぜ合わせた内容の為にストーリーの流れは不自然だが、場面場面の再現率が高いのが特徴。
原作の『やなぎ屋主人』で、主人公(つげ本人がモデルとされる)が歌う『網走番外地』の監督であった石井が映画化するということでも話題となったらしい。

【余談】


※非常に印象的なメメクラゲの名前は、XXクラゲの誤植から生まれたもの。
つげは、間違えた編集の権藤晋(高野慎三)に「メメクラゲの方が作品に合っているような気がするね」と語ったと言われる。
メノクラゲ(ポケモン)や、忍野メメの名前の元ネタでもある。
高野は、本作を代表する名言の一つである「イシャはどこだ!」を語るスパナ男が松本清張では無いかと思っていたが、アイヌ人の教育者 知里高央の写真が元ネタであった。

※この他、印象的な場面の多くに元にした写真が存在しており、これがネット世代以降の元ネタ探しに繋がった。
現在では、ほぼ全ての場面について元ネタが特定されている。
また、少年が村をさ迷う中で姿が見える旋盤工の少年は過去のつげ自身であり、金太郎飴ビルはつげが少年時代にメッキ工として過ごした工場がモデルとなっている。

※この作品が発表直後から人々に与えた影響は大きく、シュールを持ち味とする蛭子能収が上京を決意したのもこの漫画の影響。
前述の様に、多くのパロディが作品としてもネタとしても残されている。




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最終更新:2023年11月02日 22:47

*1 69年にブレーン役の長谷邦夫が本作と『天才バカボン』を元にしたパロディ漫画『バカ式』を発表していたりする。