機動戦士ガンダム なぐりあい宇宙

登録日:2018/09/08 Sat 06:06:50
更新日:2024/04/01 Mon 22:34:14
所要時間:約 3 分で読めます





劇場版 機動戦士ガンダムではありません。

「今日こそ決着をつけようぜ。連邦さんよ……」

「望むところよ。いびつなザク……!」


『機動戦士ガンダム なぐりあい宇宙』とは、島本和彦(カズヒコ・ヨシカズ名義)と、そうま竜也(ソーマ・レイ名義)による漫画作品である。
いわゆる宇宙世紀一年戦争後期が舞台であり、連邦エースパイロットジオンのエースパイロットの激闘を描いた物語……。
と、言ってではないのだが、なにせ書いているのが日本一の熱血漫画家の島本和彦なので例にもれずすさまじい濃い作品となっている。
わかりやすく言えば島本はあのGガンダムの制作に噛んだ一人である。

アンソロジー「ガンダムジェネレーション 2」に収録されている。



【ストーリー】

宇宙歴0079。
ジャブロー攻防戦において、連邦・ジオンの両軍はMSの全力を投じて激戦を繰り広げていた。
そんな中、ただ一機でジオンのザクグフドムを蹴散らしていくジム・コマンドがいた。

「遅い、遅すぎるよ
そんなスピードでわたしに挑むとは
命知らずにもほどがあるなーっ」

パイロットの名はマルグリッド・ハインリッヒ。NT能力を持つ連邦の女性エースである。
数の差も性能差もものともせず、彼女はジオンのMSを撃破していく。
だがその前に、歴戦の傷で武骨に歪んだ一機のザクⅡが現れた。

「フフフ……
強ええな、アンタ……
でも、その戦い方
キレイすぎるぜ……」

不敵な笑いとともに現れた”いびつなザク”は「MSの戦いってのはそんなもんじゃねえ」と嘯き、マルグリッドに向かってくる。
当然、マシンガンを連射して反撃するジム・コマンドだが、いびつなザクはなんと左腕をそのままにして銃弾を防ぎ、至近距離まで突撃してきた。

「本当のMSの戦いってやつを教えてやるぜ!」

信じられない戦法に対応しきれないマルグリッドのジム・コマンドに、いびつなザクは残った片腕でパンチをお見舞いする。
しかし、そのときマルグリッドに友軍から撤収指示が届き、彼女は離脱しようとするが、いびつなザクはなおも食いついてくる。
なんとか頭部機関砲でいびつなザクをハチの巣にして振り切るが、ジム・コマンドの足にはいびつなザクの腕が執念深く握りついていた。

「恐るべきやつ……」

マルグリッドは戦慄し、いつかいびつなザクが再び自分の前に現れることを予感した。
そして飛び去って行くジム・コマンドを、いびつなザクのパイロットも見上げていた。
彼の名はレツ・ヤジマ。機関砲弾をコクピットにも浴びて全身を穴だらけにされながらも、その目には揺らぐことない闘志が燃えていた。


この時点でもはやいろいろおかしいが、舞台は宇宙へと移る。


連邦のエースであるマルグリッドは乗機に最新のマグネット・コーティングを施してもらい、万全を期す。
対してヤジマのジオン軍はもはや補給もままならないが、スクラップを集めてMSをでっちあげようと試みていた。
信頼する部下たちに向かってヤジマは鼓舞する。

「気合を入れろ!
俺たちみたいなうす汚ねえただの人間だってな
気合さえ入ってりゃニュータイプと一緒よ!」

そして戦場はソロモンへ移る。ババーン。
圧倒的な強さでジオンのMSを撃破していくマルグリッドの前に、ついにヤジマのいびつなザクが現れる。

と、そのときだった。マルグリッドのニュータイプ能力にヤジマが感応し、二人は精神世界で邂逅を果たしたのである。
注:ヤジマはオールドタイプです。

「お、お前女だったのか!?」

「なぜ
なぜあなたはニュータイプでもないのに
こんなに戦えるの!?」

「しかも……
こんな内的世界にまで入ってきて……!!」

「それは……根性(ガッツ)だ!!」

「それが不自然なのよ!!」

ニュータイプの常識を真正面から叩き壊されてうろたえるマルグリッド。
そりゃただのオールドタイプが当たり前のようにこんなことして「ガッツだ!」で説明されたらパニクるわな。

だが、二人の戦いは突然放たれたソーラシステムで水入りとなり、決着は次回に持ち越される。

そして一年戦争は運命のア・バオア・クーへと突入する!
連邦とジオンの無数のMSが飛び交い、ガンダムジオングが死闘を繰り広げる。
その中で、マルグリッドとヤジマの戦いも決着へと近づいていた。

弾切れになったいびつなザクはシールドを外してブン投げ、その隙に肉薄して素手でぶん殴る。
ジム・コマンドのビームサーベルを素手で受け止め、腕が溶解しながらもさらに片手で殴りかかり、ジム・コマンドも殴り返す。
機体の性能ではフルチューンされた最新鋭機と寄せ集めの旧式機で圧倒的な差がある。だがそれでもヤジマは根性で食い下がってあきらめない。
もはや、両者の戦いは互いの意地をかけたただの殴り合いとなっていた
やがて、気が付いたときには両者は汗だく。しかし、いびつなザクは両足と左腕を失い、かろうじて右腕だけが残る満身創痍となっていた。

「そうなっては
もう戦えまい」

「どうかな
やつ(ジオング)だって元気に戦ってるぜ」

勝負は決まったと告げるマルグリッドに、ヤジマははるか空をゆくジオングを見上げながら不敵に返す。
足なんかなくたって大丈夫。しかし、もうまともに動くこともできないいびつなザクになにができるというのか。

「そのカッコウでどうするつもりだ!」

とどめを刺そうとビームサーベルを振り上げるジム・コマンド。
だが、いびつなザクは最後の力でジム・コマンドに飛びついた。
そして、いびつなザクの右手の指が、狙ったのかそれとも偶然か、ジム・コマンドの外部コア・ファイター強制分離スイッチを押したのだ。
強制分離させられ、コア・ファイターのみにさせられたマルグリッドは敗北を悟って銃を取り出した。

「うう……ま、負けた
ニュータイプの私が
ただの旧人類に負けてしまった」

自殺しようとするマルグリッド。しかし、コクピットに短く声が響く。

「よしな」

はっとして外を見ると、そこにはヘルメットとワイシャツ一丁で立つヤジマの姿があった(宇宙空間です)

「勝つこともあれば負けることもあるぜ
同じ人間じゃねえかよ……」

勝者の傲慢さなど欠片もなく、優しく諭してくるヤジマの姿にマルグリッドはいつしか心を奪われていた。

「次に会うときはこうはいかないわよ」

捨て台詞を残してコア・ファイターで去っていくマルグリッド。

「ああ
こっちもだ」

いまだ周囲では激戦が続く中、ワイシャツ一丁のヤジマ(しつこいようですが宇宙空間です)も笑いながら彼女を見送った。

そしてア・バオア・クーの戦いは終わり、連邦とジオンの間には休戦協定が結ばれた。
戦争は終わったのだ。


戦後……木漏れ日溢れるどこかの美しい並木道。
そこを肩を寄せ合って歩く二人の男女がいた。

「もし、次の戦争があったなら
今度は絶対に負けないわよ♡」

幸せそうな言葉をつぶやきながら歩くマルグリッド。彼女は純白のウェディングドレスをまとっていた。
そしてその隣にはタキシード姿のヤジマがいる。

「こっちもだ」

ふたりの行く先には小さな教会がある。
ニュータイプとオールドタイプ、連邦とジオン。そんなことは関係ない。
真っ向からの殴り合いでお互いをわかりあったマルグリッドとヤジマの間には、いまや確かな愛があった。
そして二人は、結婚生活という新たな戦争へ向けて共に歩み出していくのであった。


【登場人物】

  • マルグリッド・ハインリッヒ
連邦側の主人公でヒロイン。
NT能力を持ち、中尉の階級を持つエースパイロット。
ぱっつんヘアーの勝気そうな美少女だが、ハマーン様ほどは目つきはきつくない。
NTである自分の実力には絶対の自信を持ち、それに恥じないだけの強さを持つ。
しかし、常識のまったく通用しないいびつなザクことヤジマに翻弄されるうちに、次第に彼に惹かれていく。

  • ヤジマ・レツ
ジオン側の主人公で、階級は軍曹。
片目を眼帯にした、いかにも歴戦の兵という風格を漂わせる男。
島本イズム全開の熱血漢で、どんな強敵相手でもあきらめるということを知らず、ひたすら根性で食い下がっていく。
また、熱い性格ゆえに人望も厚いようで、乗艦では多くの部下が付き従っていた。
その燃えるガッツはまさに不可能を知らず、普通ならミンチよりひでえよなダメージを受けてもビクともせず、
NTの精神世界にも当たり前のように入っていく。ついでに宇宙空間でも生身で平気。
生まれる時代を数万年単位で間違ってるとしか言えない男。後のカッシュ家かクロス家の先祖ではあるまいか。
なにげに、ジオン軍の一般兵という死亡フラグ全開な立ち位置でありながらハッピーエンドを掴んだ稀有な主人公である。


【登場メカ】

  • ジム・コマンド
マルグリッドの乗機。本人の腕とNT能力によって圧倒的な強さを誇る。
また、宇宙に出た後はマグネット・コーティングによる機動力強化も施され、コア・ファイターも搭載しているなど、
もはやジムの皮をかぶったガンダムといっても差し支えのない高性能機である。

  • いびつなザク
ヤジマの愛機。そうとう長い間激戦を続けてきた機体らしく、あちこちがいびつに歪んでいる。
もはや旧式機に値するはずだが、乗り手に似てすさまじくタフであり、文字通りの殴り合いな戦いを演じる。


【総括】

宇宙世紀に限らず、戦場で悲しい結末を迎えてしまう男女は数多い。
しかし、彼らは幸せを掴んだ。それはなぜか? その一因が、ヤジマの飾らない熱血にあったことは疑いようがあるまい。
自らの本心を伝えきれずにすれ違いのまま悲劇を迎える者たちとは違い、ヤジマの心は常に裸で隠すものなどなく燃え続けていた。
疑うものなどなく、隠すものなどなにもなく、ただひたすら己をぶつけるだけ。しかし、戦いが終われば憎しみなどなく、
さわやかな笑顔を向けるのみ。その優しさにマルグリッドは惚れたのだろう。
事実、後の歴史においても全宇宙に向かって愛を告白して悪魔を打ち破ったカップルや、
ただひたすらに一人の少女のために戦い続けてニュータイプの運命もすべてひっくり返した少年がいる。
愛……それを掴むためには、根性(ガッツ)が欠かせないのである。「愛」の中には「根性」入ってないしね




追記と修正、新婚ファイト・レディーゴー!

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最終更新:2024年04月01日 22:34