夢一夜(夢十夜)

登録日:2018/10/03 Wed 17:02:43
更新日:2023/07/11 Tue 17:26:52
所要時間:約 4 分で読めます





こんな夢を見た。


夢一夜とは夏目漱石が執筆した短編集である夢十夜の中の作品の一つである。
梶井基次郎の檸檬と同じく、短い文章ながら非常に人気が高い作品であり、夏目漱石の文章力がふんだんに発揮されている。
既に著作権が切れているため、 青空文庫 で読むことが出来る。
仁王を掘り出す夢六夜と共に国語の教科書に収録されている。

登場人物


語り手。こんな夢を見たという形で夢の内容を読者へ語る。
第一夜では、胡坐をかいて寝床に座っている自分の前に「もう死にます」という女が現れる夢を見る

語り手の夢に現れた輪郭の柔らかな瓜実顔(日本人によくある面長)の女。
頬は真っ白だが血の気は通っており唇は真っ赤であるが「もう死にます」と男へ言う。

ストーリー(要約)


語り手の男はある夢を見た。

胡坐を書いて寝床にいる男の前に、血相の良い横たわる女が現れ「もう死にます」と言う。

到底死にそうな表情には見えないが、男は(ああ、もう死ぬだろうな)と察する。

死にますといいながらも女は潤いのある目をパッチリと開けており、その瞳の奥には男の姿がくっきりと浮かんでいる。

「(こんな健康な瞳をしているのに)大丈夫かい。死ぬんじゃなかろうね。」と心配しながら訪ねる男に対し、女は再び「でも、死ぬんですから、しょうがないわ」と言う。

じゃあ、「私の顔が見えるかい?」と一心に聞くと「見えるかい、って。そら、そこに写ってるでしょう」と笑った。

その後女は「死んだら、埋めて下さい。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちて来る星の破片を墓標に置いて下さい。そうして墓の傍に待っていて下さい。また逢いに来ますから」と男に頼む。

男は、いつ逢いに来てくれるのかを女に尋ねる。

女は「日が出るでしょう。それから日が沈むでしょう。それからまた出るでしょう、そうしてまた沈むでしょう。――赤い日が東から西へ、東から西へと落ちて行くうちに、――あなた、待っていられますか」

その問いに男は頷くと女は「百年座って待っててください。そしたらきっと会いに来ますから。」と言い、瞳に涙を浮かべ、目を閉じ女は絶命した。

男は言われたとおりに真珠貝で穴を掘り、女を穴へ埋めた。そして星の丸い破片をかろく土の上に置き、苔の上に座りながら自分の置いた墓石を何日も見つめ続けた。

赤い日が東から登り西に落ちるのを勘定をしつくせない程、苔の生えた丸石を眺め続けるうちに、男は女に騙されたんじゃないかと思い始める。

その途端、石の下から男に向かって青い茎が伸び、一瞬で男の胸のあたりまで伸びてきたと思うと、この時を心待ちをしていたように頭を垂れる茎の先端についていた一輪の蕾の花弁が開いた。

その花は真っ白な百合で、遥か上から水滴が落ちてくると百合は自重でフラフラと動いてしまう。

男は自分から首を前に差し出し、白い百合と接吻をした。顔を上げると、遠い空に暁の星が一つだけ瞬いた。

男は「百年はもう来ていたんだな」と初めて気が付いた。

用語解説


  • 暁の星

金星の事。金星は英語でVenus(美女・女神)の意味を持つ。

  • 白い百合

女の白い顔を想起させるような白い百合。「百」年後に「合」う。

  • 星の破片

女の墓石の代わりにした星の破片。丸みを帯びておりその形状は瓜実顔の女を想起させる。
待ってる間に苔が生えてきており、長い時間が経った事が分かる

  • そこ

瞳の中のこと。自分を見つめる女の顔が男の瞳にしっかり写っている。

  • かろく土をかけると

「かろく土」という土ではなく、軽く土をかけるという事。軽くはかるくの他にかろくとも読む。



夢一夜のポイント


読めば分かる通り、言ってしまえば死んだ女性が百合となって生まれ変わって来るだけの短い話である。
しかし、なぜこの作品が後世にも語り継がれているかというと、それは夏目漱石の書く文章の美しさにあるだろう。
特に、情景や時間の流れ想起させる文を登場人物に極力喋らせず、詩的な表現で地の分で書いている点が評価されている。

この話はもちろん、夢二夜以降も面白いので、気になったら是非青空文庫で読んでみてはいかがだろうか。



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最終更新:2023年07月11日 17:26