ヴェクサシオン

登録日:2019/01/12 Sat 16:12:12
更新日:2023/02/19 Sun 11:55:33
所要時間:約 3 分で読めます






「演奏、60回目…」

3時間後――

「演奏、240回目…」

さらに5時間後――

「演奏、500よんじゅっかいめ…」

さらにさらに7時間後――

「えん、そう、きゅうひゃく…」

「あれ? いま なんかいめ、だっけ? これって、はっぴゃくで、おわり、だよね?」

「ああ、わすれちゃった。ごめん。もういっかい、はじめからやりなおし…」

\ S T O P !!/




「ヴェクサシオン」とは、フランスの作曲家エリック・サティ*1によって作られたピアノ曲。
「世界一長いピアノ曲」としてギネス世界記録に登録されている。

この曲の最大の特徴はゆっくりめな約1分ほどのピアノ曲を単純に840回に渡ってループして繰り返すというもの。

は、840!? と驚く人もいるかもしれないが、実際に譜面には

「このモチーフを連続して840回繰り返し演奏するためには、大いなる静寂の中で、真剣に身動きしないことを、あらかじめ心構えしておくべき」

というコメントがあるのである。

でも1分程度でしかもそんなに難しくもない曲だからやってみれば意外と840回いけそう…なんてことはなく本当に辛い。

まず1分×60=1時間であり、840÷60=14時間となるのでガチで演奏するには半日以上もの時間が必要になる計算になってしまう。

半日もただ同じフレーズの曲をリピートし続けるだけなので、正直言って聞いている側もさすがに飽きてくるのは当然。
むしろ聞き続けているとイライラしてくるらしい。


あまりの長さからフル演奏はCDにすら収録できないため、まさに嫌がらせの曲である。
リピート再生すればオーケーだけどな!


全く演奏をしない曲「4分33秒」の作曲者であるジョン・ケージらによって1963年に初演。
10人のピアニストと2人の助っ人を用意して夕方から翌日の昼までという18時間もの時間をかけて完遂したそうである。

また、この曲は複数の演奏者が交代しながら続けていくのが基本となっている。
少人数でやるとその分、インターバルが短くなるのでかなり辛い。
日本でもかつて、1967年の大晦日から翌年の正月までの年越しイベントとして演奏された事がある。

トリビアの泉でこの曲が紹介された際も実際に3人のピアニストで50回交代で夜通し演奏された。
演奏者は仮眠を取りつつ演奏にあたっていたが途中で交代が遅れる場面もあり、終盤になって来ると観客もピアニストもグロッキー状態であった。

一人だけで演奏するのはほぼ不可能とされており、
ピーター・エバンスなる人物は595回、15時間演奏し続けた結果、幻覚症状を引き起こしてしまい、リタイアしたという。

仮にもしも、この曲をたった一人で完遂できればそれこそまさにギネス級の伝説となるだろうが、下手すると精神的に死ぬのでやめておいた方が良い。




◆余談

上記のジョン・ケージはこのヴェクサシオンをも超える演奏時間を持つと言われる「ASLSP」なるものを創作している。
その演奏時間は実に639年
……もはや何も言うまい。


曲名のヴェクサシオン/Vexationsは「嫌がらせ」という意味を持つ単語である。
まさに視聴者、演奏者、挑戦者をも泣かせて困らせる嫌がらせな曲である。
この曲名のせいで、上記の「4'33」の様に何らかの哲学的な意図がある曲なのか、それとも サティ流のジョーク かで判断が分かれているという。




追記・修正はこの曲を一人だけで演奏しきった場合にお願いします。


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最終更新:2023年02月19日 11:55

*1 「ジムノペディ」などを作曲した超有名な作曲家