SCP-1374-JP

登録日:2019/02/12 Tue 14:56:47
更新日:2024/03/23 Sat 23:49:30
所要時間:約 13 分で読めます





列1
aSCiPNETへようこそ。
a
aSCP-1374-JP関連文書(3)を閲覧しますか?(y/n): y
a
a
a……
a
a………
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aあなたの許容クオリア値(Permissible Qualia Level)は閲覧上限値を超過しています。閲覧にはクリアランスに応じたクオリア抑制処置パターン-714が必要です。
a
a処置パターン-714を実行しますか?(y/n): y
a
a前頭葉にアクセスしています………成功
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a生体データをデータベースに照会しています………成功
a
a機器を脳波に同期しています………成功
a
a処置パターン-714を開始します。
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a……
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a………
a
aレベル4/1374-JPクリアランス向け処置パターン-714(PQL: 20-48)が完了しました。情報が開示されます。閲覧中、あなたの脳波は常に測定され、異常が認められた瞬間機動部隊がアクセス端末の存在する座標に派遣されます。閲覧終了後は、必ず抑制解除手順を行って下さい。
a
aファイル#01「SCP-1374-JP報告書」を開きます………
a












誰もが望んだ、誰からも望まれぬ結末。



SCP-1374-JPとは、シェアード・ワールド「SCP Foundation」に登場するオブジェクト (SCiP) 。
項目名は「大団円」。

JPのコードが示す通り日本支部で生まれたSCPであり、2018年に開催された「悪のコンテスト」のエントリー作品である。
そしてコイツ、数あるオブジェクトの中でもかーなーりーのクセモノである。



特別収容プロトコル

まず、コイツは前提として、冒頭に書いた手続きを踏まないと報告書が読めない。
が、そのために「許容クオリア値」略して「PQL」が設定されており、上限値を超えると抑制処理を受ける必要がある。
閲覧そのものはできるが、[PQLが閲覧上限値を超過しています]と表示され、一定の部分が読めなくなる。

で、読めなくなる部分の中にオブジェクトクラスが含まれている。つまり、コイツのオブジェクトクラスは実質不明。
そして肝心の特別収容プロトコルだが、

SCP-1374-JPに関する全資料はSCP-1374-JP-Bに分類され、閲覧する際には前頭葉への電気刺激によるクオリア抑制処置パターン-714が行われます。閲覧中にSCP-1374-JP-Vが発生した際は、1374-JP-V接触用処置パターン-714(PQL: 5)を受けた低PQL機動部隊わ-0"寡黙"により確保し、[PQLが閲覧上限値を超過しています](以下、座標1374-JP)へ移送します。
座標1374-JPに集合しているSCP-1374-JP-V群は、ガラスの天井が備え付けられた収容施設をSCP-1374-JP-V群を覆うように建設することで収容します。座標1374-JP外のSCP-1374-JP-Vは機動部隊によって確保、内部へ移送します。
全SCP-1374-JP-AやSCP-1374-JP-C及びそれらを記録したデータは、機動部隊やRAISAの担当職員らによって削除されます。またメディアを常に監視し、大規模なSCP-1374-JPの流出を事前に防ぎます。

つまり、この報告書自体がオブジェクトの一部なのである。



概要

コイツが何かと言うと、ミーム的拡大効果を持った情報災害である。
この情報は、図形であるSCP-1374-JP-A、文書であるSCP-1374-JP-B、音声であるSCP-1374-JP-Cの三つが存在する。
通常のクオリア値がだいたい100なのだが、このレベルのPQLを持った対象がこのうちいずれかに接触すると、これら情報の内容が何だろうが「楽しそう」とか「幸せ」とか[PQLが閲覧上限値を超過しています]とかのポジティブな好意的/楽観的クオリアを取得し、笑い声をあげながらSCP-1374-JP-Vに変化する。
ただし、クオリア抑制処置を受けてそのレベルが一定以下になっていれば、変化することはない。

で、それぞれの情報について解説する。
  • SCP-1374-JP-A
いわゆるニコちゃんマーク。異常性があり、たまに不明な手段で増殖する。PQLが14~17以下であれば、感染はしない。
  • SCP-1374-JP-B
Aに言及したあらゆる情報。人の記憶以外、全てが感染性を持つ。PQLが17~74以下であれば、感染はしない。
  • SCP-1374-JP-C
オブジェクトの異常性に暴露してSCP-1374-JP-Vになってしまった人々が放つ音声。笑い声や歌声、[PQLが閲覧上限値を超過しています]なども含まれる。一番おっそろしいのがコレで、死亡していようが骨だけになっていようが、肉体が再生して-Vに変化する。PQLが6~9以下ならば、感染はしない。

とまあ、特に音声の非汚染PQLが途轍もなく低い。
このため、専門の機動部隊のPQLは5以下に保たれている。此処まで来ると人間的な感情の発露はほぼなくなるが。

で、肝心のSCP-1374-JP-Vだが、本来の顔の代わりに黒線で描画されたSCP-1374-JP-Aが存在する。
発声は問題なく行い、ほぼ常時SCP-1374-JP-Cを発している。
特筆すべき事象として、変化した瞬間元々持っていた疾患やケガなどのダメージが一瞬で完治、さらにスーパー耐性を獲得するため全く死ななくなる。

変化から最短で数秒、最長で数日経過すると、このSCP-1374-JP-V……「曝露者」は、ある特定の座標である[PQLが閲覧上限値を超過しています]をめざし移動を始める。
普通なら死んで当然のルートを通るのだが、スーパー耐性があるため死なずに移動する。
で、その座標に到着すると、既に到達している別の「曝露者」と手をつないで円陣を組み、SCP-1374-JP-Cである歌唱曲「[PQLが閲覧上限値を超過しています]」を歌い始める。
ちなみにその座標にいる「曝露者」の総数は[PQLが閲覧上限値を超過しています]とまあ、とんでもねー規模に跳ね上がっている。

このままではAKおよびXK-クラスの世界終焉シナリオが発生する、というわけで、瀬戸茂博士により「曝露者」の終了か無力化の方法が模索されている。

SCP-1374-JPによる精神汚染は、収容中のオブジェクトの収容違反を引き起こす恐れがある為、許容されません。
例えSCP-1374-JPによってしあわせになれるとしても、我々の理念を忘れてはならないのです。


タイムライン

報告書の中には、財団とこのオブジェクトのせめぎ合いのタイムラインが記されている。
全てが始まったのは、2018/8/1である。

  • 2018/8/1
日本のとある村において、初めてSCP-1374-JP-Aとその「曝露者」が確認されている。

  • 2018/8/2
光の量は変わらないにも関わらず、太陽が肉眼で視認できるようになった。しかも、その表面にはSCP-1374-JP-Aが存在していた。
絵本のおひさまか。
その通りだ。

  • 2018/8/3
[PQLが閲覧上限値を超過しています]に到達している4人の「曝露者」が発見された。
元はとある一家だった模様。

  • 2018/8/8
今度は被子植物の一部にSCP-1374-JP-Aが確認され始めた。
だから絵本の花か。
その通りだと言っている。

  • 2018/8/9
財団の調査を受けた瀬戸博士により、SCP-1374-JP-Aには自己複製能力がある、という仮説が立てられた。
増殖を防ぐべく、曝露した植物の焼却が立案されたのだが……。

  • 2018/8/15
日本上空の雲にSCP-1374-JP-Aが確認。
無意味と化した焼却計画はとん挫した。

  • 2018/8/17
「曝露者」の増殖は恐ろしい勢いで進み、この時点で世界[PQLが閲覧上限値を超過しています]ヶ国の全ての国民が「曝露者」になってしまった。
これは、世界人口全体の[PQLが閲覧上限値を超過しています]%にもあたる。

  • 2018/8/23
この時点で世界の生物の全てが「曝露者」になってしまった。
財団オワタ。

ここから3つほどタイムラインがあるが、[PQLが閲覧上限値を超過しています]

  • 2018/9/8
しあわせは認められなかった。


……書くまでもないが、発生から世界終焉シナリオまでわずか37日である。


インタビュー記録

「曝露者」と化した元研究員に対し、専用の処置を受けクオリアを抑制した瀬戸博士が行ったインタビューがある。
とはいえ、相手の方は発声全てが感染の媒介であるため、応答は一つを除いて[PQLが閲覧上限値を超過しています]である。

だが、このオブジェクトが一体なんであるのか、そして何を意味しているのか、瀬戸博士の質問が全てを語っている。

瀬戸博士:その歌で、一体何を伝えようとしているのでしょうか。団結の呼び掛け?それとも、我々の無力さへの嘆き?

SCP-1374-JP-V-1: [PQLが閲覧上限値を超過しています]

瀬戸博士:ええ、理解しました。SCP-1374-JPは、望まれなかった選択肢なのですね。しあわせは当事者の間では殆どの場合望まれますが、その上で見ている彼らにとっては、必ずしも望ましいものではないようです。だから、報復や見せしめ、或いはその罪の代償として、この平行宇宙をしあわせにしている。違いますか?

SCP-1374-JP-V-1: [PQLが閲覧上限値を超過しています]

瀬戸博士:その通りです。しかし、例えその事実があろうと、我々は義務を果たさなければありません。我々は[PQLが閲覧上限値を超過しています]である以前に、この世界を守る「財団」なのですから。

SCP-1374-JP-V-1: [PQLが閲覧上限値を超過しています]

瀬戸博士:今の私に悲しみのクオリアは発生しません。これが終われば、私は記憶処理されて、悲しみを覚えることもありません。これを知るのは、この世界のごく一部の人間と、あちらの世界の人間だけで十分でしょう。その中に、私が入る理由はありません。

そして、インタビューの最後はこんなやり取りで締めくくられる。

瀬戸博士:質問ですか、どうぞ。

SCP-1374-JP-V-1: あなた達は何故、私たちのしあわせを望まないのですか?

瀬戸博士質問にお答えください。どうして彼らと我々を[PQLが閲覧上限値を超過しています]するのですか?

やり取りがやや不明瞭である。
「曝露者」に対し質問を許可しているのに、瀬戸博士の応答は「質問にお答えください」。あんた質問しましたっけ?


ちなみに、この質問に対する回答は未だにない。







SCP Foundation

元記事のタグには「外部エントロピー」が存在する。
これは、熱力学第一・第二の法則を破ってエネルギーを生産する……要は、外世界から財団世界に何かを生み出しているオブジェクトに対して付与されるタグである。

記事を読んでいただけたならわかるだろうが、このオブジェクトに対し、財団が現在のプロトコルを制定した経緯が書かれておらず、タイムラインの最後も若干意味が通らない。

しかしこれは、視点を変えると全景が見えてくる。
いわゆる第四の壁を越えるタイプの記事なのだが、このオブジェクトの場合、財団世界に飛び込んだうえで、創作を行う我々を見上げるのがミソである。

このSCPというコンテンツは「オブジェクト」「財団」「創作者兼閲覧者」の三つで成り立っている。

インタビューの最後の部分は、このようなカッコ書きをつけると意味が通る。

瀬戸博士:質問ですか、どうぞ。

SCP-1374-JP-V-1: (SCP記事の執筆者と評価者に対して)あなた達は何故、私たちのしあわせを望まないのですか?

瀬戸博士:(SCP記事の執筆者と評価者に対して) 質問にお答えください。どうして彼らと我々を[PQLが閲覧上限値を超過しています]するのですか?

もう一度言うが、この質問に対する回答は未だにない。





共同創作サイト「SCP Foundation」。
そこに、様々なSCPオブジェクトの記事が執筆され、投稿されている。しかし、その全てがリストに乗り、残るわけではない。
Wikiへの参加者によって評価が行われ、その評価が一定を下回れば、削除され、否定される。

言い換えれば、SCP記事として残るのは、参加者たちが良い評価を付けた、彼らに望まれた選択肢。
国を問わずその多くは、財団世界の人々に苦難が振りかかり、最悪の場合世界が滅亡したり、既に滅んでいたりする。
そうでなくとも、犠牲を払い続けていることもザラにある。


だから、いわゆるハッピーエンド、全てが丸く収まった「大団円」は望まれない。


そのような記事を投稿しても、DownVote(低評価)を受けて消えていくだけだろう。
瀬戸博士も「曝露者」達も、それがわかっている。わかっているから、「しあわせ」を求め団結した。
だが、「しあわせは認められませんでした」。

だから、問う。
あなた達は何故、私たちのしあわせを望まないのですか?





それでは面白くないからだ。




そんな「当たり前」に何の意味がある? 苦難なき財団世界に何の面白みがある?
オブジェクトに脅かされ、ほうほうの体で対処し続け、痛み苦しみそして終焉する。そのほうが見ていて面白い。
財団世界は我々の「オモチャ」なのだから、我々が愉しむために破壊されるべきなのだ。
それが、財団世界に対する我々=読者の総意である、と。


かつて、同じことに気付いたある男は我々をこう評した。
ホラー作家の一団のように趣味の悪い連中だ、と。

「曝露者」達はそのような我々への報復あるいは代償行為として、この世界を「しあわせ」にしている。
その代わりに、既存の社会を破壊しようとも。

さあ、次はどんなバッドエンドが待っているのだろうか?










列1
a抑制解除手順を実行しますか?(y/n): y
a
a前頭葉にアクセスしています………成功
a
a機器を脳波に同期しています………成功
a
a抑制解除手順を開始します。
a
a
a
a……
a
a………
a
aクオリア抑制の解除が正常に完了しました。
a
a不明な精神体があなたの精神構造内に確認されています。不要な情報漏洩を防ぐ為、精神体の強制ログアウト処置を開始します。
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a……
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a………
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aログアウト: Site-8122 アニヲタ
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aお疲れ様でした、アニヲタ。いつものように、我々を苦しめ、痛め付け、絶望させる選択肢を追記/修正しにお戻り下さい。
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aそれでは、さようなら。
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a………
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a……
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CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-1374-JP - 大団円
by kankan
http://ja.scp-wiki.net/scp-1374-jp

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最終更新:2024年03月23日 23:49