SCP-2614

登録日:2019/12/26 (木曜日) 23:51:48
更新日:2023/06/30 Fri 23:32:18
所要時間:約 15 分で読めます






全ての物語ファン必見。もちろん「物語」自体のファンもね。



SCP-2614はシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクトである。
オブジェクトクラスSafe
メタタイトルは「時折私が自らの世界を離れようとも」。

特別収容プロトコル


SCP-2614はシュミット博士の個人オフィスにある鍵付きの容器に保管されます。
SCP-2614の研究リクエストは彼のオフィスへ申請してください。

以上。模範的Safeである。
実際、あることをした上で念入りにあることを繰り返さない限り、コイツは安全とみられている。

概要

SCP-2614はアメリカの有名成人向けテレビドラマ「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」の第5シーズンが録画されているDVD。
長年の使用による劣化らしき傷がついており、タイトルロゴが「本棚」という文字で覆い隠されている。
とはいえ再生機器に入れてやれば普通に再生できるし、普通に見ているだけなら何の異常性もない。
また、異常性を発動させても消毒用イソプロピルアルコールで念入りに洗えば元に戻る。

SCP-2614の異常性は、ある登場人物がある映画を見ているシーンの最中にリモコンの再生ボタンを押すことで発動する。
その瞬間、そのリモコンはカメラ視点を制御できるようになる。
上下左右の方向キーで視点を移動し、中央の「決定ボタン」で前進できる、といった具合である。

さらに、これを発動させると作中時間がリアルタイムになり、本来場面転換がある時点になってもそのままその場面が続くようになる。
現実のテレビ局内のカメラをハッキングするとかではなく、その作品世界中での客観的な視点を得られることになる。
つまり、作中世界を自由に訪ね歩くことができるのだ。
また登場人物に見ていることを悟られることはない。ファン垂涎の代物ではないだろうか…。

厳密には訪ね”歩く”というレベルではない。この視点移動には「固形物を通過できない」以外の制約がないのだ。
つまり望みさえすれば開いた窓から家の外へ、他の街へ、なんなら雲の上にだって行ける。
宇宙にすら行けるだろうと予想されているものの、移動速度が遅すぎて現実的には無理のようだ。
このドラマの舞台はアメリカ東海岸のニュージャージー州・ニューアークだが、研究者はコツコツと東に視点を移動させて車で4時間かかるマサチューセッツ州・ボストンまでは行ったことがある。どんだけかかったんだろう。

このリアルタイム・カメラ操作モードに入ると画面の中の世界はほとんど現実と同じと言ってよく、色んな都市が現実の通りに存在し、実在の人物が普通に過ごしている。もちろん早回しや巻き戻しもできない。
しかしこれがドラマだというメタ的な要素は残っているらしく、主要登場人物の声だけが他の人間のそれと比べて異常によく聞こえるようだ。
ただしそれが作中の存在に知覚されることはない模様。

初期実験ログ


では、実際に「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」の世界を見てみよう。
最低限の作品情報として、このドラマはさまざまなストレスに苛まれながら日々を生き抜くマフィア「ディメオ・ファミリー」のボスであるアンソニー・ソプラノ(通称トニー)が主人公である。

世界: ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア
説明: 効果発見後に行われた最初の実験。視点はソプラノ家のリビングルームにある本棚へと移動。メモ帳に“芸術は人の流出物、人は自然の流出物、神は芸術の祖父”と書かれているのが明確に読める。

世界: ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア
説明: 視点は開始位置に正確に10時間留まるように指示された。その間に主人公のトニー・ソプラノはベッドで眠り、朝7時に起床。彼はその後、オレンジジュースが冷蔵庫に入っていないことに苛立つ。この場面は作中に存在しない。

世界: ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア
説明: 視点は2階バスルームの開いた窓からソプラノ家の外部へと移動。夜空は曇っており、現実世界において対応するその日の気象記録とは一致していない。視点は雲を突破し、望むならば何処までも上昇することが可能である。

世界: ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア
説明: 視点はソプラノ家のバスルームに入場。トニー・ソプラノがシャワーを浴びながら啜り泣いているのが発見される。これはオリジナルの脚本には記載されていない。

世界: ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア
説明: 視点はトニー・ソプラノの部下であり甥でもある、クリス・モルティサンティの住居へと移動。クリスはアルコールをがぶ飲みし、叔父に対する冒涜的な言葉を吐いているのが観察される。オリジナルの放送では示されていない。

先述の通り、作中世界を望む通りに見て回ることができている。
それどころか元々のドラマ中で描写されていない内容まで見ることができた。ますますファンが欲しがりそうになってきている。



しかし、SCP-2614の真の力はそれどころではない。「ザ・ソプラノズ」のファンだけが歓喜する域には留まらないのだ。

こんなの全世界のオタクが欲しいに決まってる


なぜ、実験記録に世界:という項目があったか気になった方もいる事だろう。

実は、SCP-2614は「ザ・ソプラノズ」の世界で視点をテレビ・スクリーン・ディスプレイに大きく接近させることでそこに放映されている作品の世界に入ることができるのだ。
この入れ子式世界移動はそうして入った世界でも可能であり、適切に作品や場所を選べば事実上どんな映像作品にも入ることができるだろう。
もちろんフィクションもノンフィクションも問わないし、二次元も三次元も問わない。ジャンルだって、年齢制限だって関係ない。夢のようなオブジェクトである。
あくまで視点だけなのでボヘミアン・ラプソディーみたいにこちらからの直接接触や向こうからの認知はできないが、それ故に危険性もないため「この作品の世界観をもっと知りたい」「推しの生活を、一挙手一投足をただ眺めていたい」みたいな方にはうってつけ。
さらに入った世界が現実と大きく違う世界の場合、そこで全く未知の物語と出会い、それが映像作品ならばその中に入ることすらできる。夢が広がりすぎてヤバい。

この性質により、研究者はSCP-2614で行ける世界のマッピングを諦めている。
実験記録の続きを見てみよう。

世界: オズの魔法使*1
説明: 視点は地元のニューアーク図書館へ移動し、子供がデスクトップコンピュータで見ていたこの映画へと入場した。視点は██日間にわたって東に移動し、最終的にはピンクと黄色に彩られた外宇宙と思しき空間へ突入した。

いきなりよく分からないところに行ってしまっている。
子供の見るオズの魔法使いの映画と言うとおそらく1939年のミュージカル映画のはずだが、三次元作品なのに不思議空間に繋がるとはさすがは魔法の世界である。
やり直したのかどうにかしたのかこの後、オズの魔法使いの主人公ドロシーが物語開始時点で住むカンザス州まで視点が戻ってきて実験が再開された。

世界: 白雪姫
説明: 視点はドロシーが住むカンザス州の家から、デンバーで開かれているディズニー映画のプライベート上映へ移動。入場後、視点は一旦上昇して十分な高度を確保した後、作中の出来事が発生している大陸の東側へ降りた。この大陸で、研究者は1人の若い男がイノシシのような生物と戦闘しているのを発見した。研究者の調査の結果、姫の継母である邪悪な魔女が自分の末息子に王冠を託すため、この出来事を引き起こしていたことが判明。この世界観には明らかにテレビが存在しなかったため、実験は中断され、基準世界からのやり直しとなった。

なんかサイドストーリーができてる…
末っ子に王位を継がせるために、ということはイノシシのような何かをけしかけられて戦っていたのは魔女(女王)の長子だろうか。なかなかゲスなことをなさる。
なおこの映画は1937年公開なので「オズ」より古く、年代の辻褄はあっている。


なんでよりによってソレに入ろうとした。いや気になるけど。
知らない人向けに説明すると当作はアメリカの長寿コメディアニメであり、風刺皮肉てんこ盛りの子供向けの皮をかぶった大人向けブラックジョーク系作品である。

説明: ソプラノ家の近所にある家で発見。舞台であるスプリングフィールドの外へ視点を移動させたところ、研究者はライバル番組である“ファミリー・ガイ”の登場人物を発見した。両者の世界観合一がクロスオーバー・イベントの放送によって正当化されたのは、異常性を示す“ザ・ソプラノズ”のエピソードが最初に放送された10年後のことである。両番組の“マンガ物理学”によって、広範な環境と一部の都市が荒廃しているのが観察されている。

あーもうめちゃくちゃだよ。
ファミリー・ガイもザ・シンプソンズと同じジャンルのアニメだが、より過激である。むしろこの2作品が同居する世界でよくその程度の荒廃度で済んだなと思えてくる。でも多分登場人物もギャグ的な回復能力持ちだから人的被害は少なそう。

世界: 2001年宇宙の旅
説明: 研究者は、作中世界の研究者キャラクターのオフィスに入って読み取り可能な全ての資料を熟読した後、恐らくはアトランティスのような文明にリンクするであろう第二のモノリスを海の中に発見した。*2

モノリスは類人猿を人類に進化させただけでなくアトランティス文明にも関わっていたのか…

なおこの超名作SF映画に対しての実験はこれだけでは終わらなかった。

世界: 2001年宇宙の旅
説明: 上記の実験を繰り返す予定だったが、視点入場時の映画は悪名高き“スターチャイルド”の場面だった。これ以降、視点は移動できなくなり、視覚的に歪んだ自然の風景の渦を通って移動しているような場面が続いた。[データ削除]

視点が木星のモノリスに誘われてスターチャイルドになってしまったのだろうか…?その後何が映ったかは削除されているが、人類にとって高次の非実体生命体スターチャイルドの世界はここには書けない、もしくは人間の脳には有害なものだった、とかだろうか。さすがに見てるこっちまでスターチャイルドにしてくるようなヤバいものではなかったと信じたい。
入る作品によっては安全とは言い切れないようだ。

ドラマとか映画だけじゃなく他のものにも入ってみよう


世界: ソプラノ家のテレビに映った、映画“トロイ”の予告編
説明: 視点の他世界入場能力を発見したのに続き、カメラは映画“トロイ”の予告編でアキレスが部下を鼓舞するため叫んでいるシーンに入った。視点では、実際の映画に入ったかのように場面は展開していった。

あくまで「作中」世界に入れるという性質から、予告編だろうと本編同様の世界がそこには広がっていた。
これ場合によっては未公開の映像を見れてしまうのでは…?

世界: 洗濯用洗剤のコマーシャル
説明: コマーシャルが24秒で終了した後、研究者はコマーシャル世界の西からゆっくりと迫り来る白い“壁”もしくは空間を発見した。研究者たちはコマーシャル世界の街の状態が徐々に暴力的かつ混沌としてくる様子を報告。住民たちに齎される苦痛のため、研究者はコマーシャル放送には入場しないよう忠告されている。

開幕戦かな?

世界: Windowsデスクトップコンピュータ上のMP3のビジュアル映像
説明: 視点は、Windows Mediaの音楽ビジュアル映像を再生中のコンピュータに入場するよう指示された。研究者はダークブルーの何もない空間を発見し、遠くで波形が動いているのを識別できた。これは他の画面で再生中のビジュアル映像を構成する波形だと考えられている。

確かにこれも「映像作品」のうちには入るだろう。
まあ内容としてはただ上記の通りなので入って楽しいかは疑問だが…しかしこれによるとどの端末で見てもあの映像は同じ世界の別の場所のようだ。





















入れ子式世界探索


SCP-2614では、作品内の作品に入ることができる。
上記実験ではテレビのない白雪姫に入ったため、それ以上進めなかった。

…ならば、それをどんどん繰り返して行ったらどうなる?という実験だった。

+ 第2層
世界: サンドマン
説明: “サンドマン”は、“ザ・ソプラノズ”の世界において大人気のテレビドラマである。カルメラ・ソプラノが友人知人と共に今後のストーリーの流れを推測しているのが観察されているが、オリジナルの放送では一度も言及されてはいない。この番組の主人公は更生したカルテルの殺し屋であるジェイミー・“砂男(サンドマン)”・グティエレスであり、彼は自身の投獄後に転居した家族を探し求めるとともに、弟を麻薬とギャングの影響下から救い出したいと考えている。

これまでの実験と同じように物語の中の物語に入れた。しかしこれはおそらく現実に存在しない作品だろうか。
だが、そこでは気になるものが見つかった。

“サンドマン”世界への入場後、グティエレスの弟が老朽化した家でメタンフェタミンを購入するシーンにおいて、研究者は1人のヘロイン中毒者が横たわるベッドの近くにメモパッドを発見した。メモの内容は“ここにかみはいない、おれはさけんだけれど、おれはかれのかげをみつけた、そしてしぬことはできなかった”。研究者たちは当初、これは作中世界を表現する手法であり、この建物のさもしさ*3に言及したものだと考えていた。

+ 第3層
世界: キャロライン、キャロライン
説明: “キャロライン、キャロライン”は、“サンドマン”世界において“ゆかいなブレディ家”や“アイ・ラブ・ルーシー”などと同じように長期にわたって放送されているテレビ番組である。主人公のキャロラインは石油王と結婚してニューヨークに転居した南部生まれの女性として描写される。キャロラインが住むアパートを映した場面で入場したところ、作中世界は無人のように思われた。研究者は街でも、ニューヨーク北部でも、生物の兆候を発見できなかった。

…様子がおかしくなってきた。

+ 第4層
世界: スネークバイト
説明: “キャロライン・キャロライン”の世界において、郊外の放棄された家で再生されていたスプラッター映画。殺人者(発狂した農家の男)が主人公を沼地に追い詰めるシーンで入場した。入場すると、両者は首を回して視点を直視し、それ以降は無反応のままだった。全ての登場人物が同じように反応することが判明。カメラは作中舞台であるルイジアナ州バイユーを抜け、地元の映画館へ移動した。道中、カメラに遭遇した人物は全員その動きを追った。

これまで誰にも悟られることのなかった視点カメラの存在が認識されている。
そればかりか視点によって「作品」が中断してしまっている。

+ 第5層
世界: ██████
説明: 映画館で上映されていたロマンス映画。入場時は食堂のシーン。入場と共に食堂の照明は濃い赤色へと変化した。作中世界の全ての照明が同じ影響を受けている。町は無人のように思われる。空は真っ暗で星が無いものの、暗赤色の輝きが地平線の全方向に観察される。[データ削除]




+ 第6層

世界: 砂嵐
説明: 上記世界のテレビ画面は全て砂嵐状態だったため、研究者は病院の待合室からこの画面に入場。入場して中央ボタンを押すと、視点が“雲”または“フィールド”を抜けたかのように視界のザラザラは晴れた。








視点は最終的に明るい廊下へと到達。前進以外の全ての視点移動が制限されている。
視点が進むにつれて映像はより飽和状態となり[データ削除]

DATA CONCURRENT WITH PATAPHYSICAL HYPERMODEL: DMRG
全ての研究員は潜在的な終了の可能性を伴うことから上記手順を繰り返すことを明示的に禁止されています。





















…このように、物語の深淵へ突き進まない限りはSCP-2614は安全な夢の道具である。
やっぱりこれもSCPオブジェクト、恐ろしい一面が隠れていた。

しかし最後に一体何があったのか、考えてみることにしよう。
情報が少ないためかなりの深読みになることはご了承願いたい。

メタ的に考えれば前半のエキサイティングさと終盤の不気味さの対比がこの記事のウリといえるので無粋かもしれないが、興味のある方には考察の参考になれば幸いである。


追記・修正は入ってみたい世界を決めてお願いします。


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最終更新:2023年06月30日 23:32
添付ファイル

*1 日本支部のページだと「オズの魔法使い」に修正されていたが、後述の1939年の映画を指すのならばこれで正しい。

*2 日本支部のページだと原語版にある”in the ocean”の部分が訳されていなかった。

*3 見苦しい、みすぼらしいという意味