カンフーハッスル

登録日:2020/01/17 Fri 06:56:18
更新日:2024/04/11 Thu 23:01:33
所要時間:約 19 分で読めます





我不入地獄 誰入地獄(我、地獄に行かずして誰が行く)


ありえねー。


「少林サッカー」を凌ぐ!超攻撃型エンタテインメント炸裂!!



『カンフーハッスル(原題:功夫/英題:Kung fu Hustle )』は2004年に公開された香港/中国映画。
日本での公開は2005年1月1日(配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)。

2001年(日本公開は2002年)に公開されて国外でも大きな話題を集めた『少林サッカー』に続く、チャウ・シンチー(周星馳)監督・主演作で、前作が米国でも高い評価を受けたことから、本作ではハリウッド資本を受けて制作された。

引き続き、前作でも発揮された人脈とノウハウを使いつつも巨額の予算が得られたことから前作でも大きな話題となったCGアニメ等を利用したVFX効果のレベルが大きく向上しているのも特徴。
わざとらしく見えた前作のCGに対して、今作では一部のシーンを除いては、現在の視点で見ても自然なレベルで特殊効果が入れられている。

また、香港映画お馴染みのワイヤーアクションも取り入れられているが、チャウ・シンチーは『トリビアの泉』に出演した際に技法を知って、反対に持ち帰ったとの“トリビア”も囁かれる。

また、VFXに頼らない殺陣も本格的で『マトリックス』シリーズ等のハリウッド映画にも携わったユエン・ウーピンと、
カンフー映画全盛期の大スターの一人でプロモーターとしても知られるサモ・ハン・キンポーが名を連ねている。

また、日本では“『少林サッカー』の続編”ということもあってか、コメディ映画としてのプロモーションがされており、確かに本作でもコメディ的な要素は少なくないものの、“ありえね~”をキャッチコピーにされてしまう等、完全にお笑い方面でプロモーションされた。
それ以上にチャウ・シンチーが子供の時から憧れ、慣れ親しんだ香港の武俠小説やカンフー映画へのオマージュとしての側面が強く、出演者に往年の香港映画界を支えた重鎮や、アクション指導、俳優としても活躍した“本物”の武術家がキャスティングされている。
また、前作から引き続いての日本の漫画の他、米国のカートゥン的な演出も見られる。

実際、本作に於いて言及されている人物名や架空の武術や超人的な技については明確に元ネタが存在したりしており、それ等を踏まえて見ると“より”楽しみが増す……という仕掛けとなっている。そうした事情が日本でイマイチ受けなかった部分ではあるのだろうが。

前作に比べると笑える要素は少ないためか、日本では前作程のヒットとならなかったものの、本国や米国では前作以上の評価を受けた。
現時点での“香港映画史上最大の興行収入を得た作品”であり、前作『少林サッカー』の記録を塗り替えての評価である。

05年にハリウッドで公開された外国語映画としても最大のヒット作ともなり、ゴールデングローブ賞外国語映画部門にノミネートされた他、米国放送映画批評家協会賞を受賞。
米国以外では英国アカデミー賞外国語映画部門にノミネート。
第42回台灣金馬奨では最優秀作品賞と最優秀監督賞を受賞と、この年のアジア映画の頂点であった。


【物語】

──1930年代の上海。
西洋の資本や技術も入り、急速に近代化すると共に組織犯罪も横行していた街では、対立組織に対する苛烈な攻撃と粛清を武器に急速にのし上がってきた新興ヤクザ“斧頭会”が天下を獲り、その威勢の前には警察権力も無力で、寧ろ買収されて顎で使われる有り様であった。

……そんなある日、貧しいながらも呑気な住人達が街の喧騒とは無縁の平和な生活を送る、町外れの貧民窟“豚小屋砦”に二人組のチンピラがやって来る。

斧頭会の構成員と組長を名乗ったはいいが、ヘッポコぶりからあっさりと正体を看破されたチンピラが大家の奥さんに恫喝される中、チンピラが苦し紛れに着火した爆竹が、たまたま豚小屋砦の前を通りかかった本物の斧頭会の兄貴(副組長)の頭を焼いてしまい、ブチ切れた兄貴と取り巻き達が乱入。

チンピラが事態を住民達に押し付けたことで、犯人探しが始まってしまう。

……しかし、半ケツ理容師を殴ろうとした瞬間、反対に何者かに吹っ飛ばされた兄貴は、胴体を二つ折りにされて籠に押し込まれる。

瀕死の兄貴の命令で手下が本物の“斧頭会”専用の爆竹を空に放つと、大きな斧のサインが……。

それを見て本物の(・・・)組長以下、大集結する斧頭会のヤクザ達。

住民達が表に引き出され、犯人探しと共に凄惨なリンチが開始されようとしたその時、名を挙げたのは豚小屋砦の住人で、それまでは素性を隠してひっそりと生きてきた三人の達人であった。

面子を潰され収まりがつかない組長は、達人達を始末する為に裏社会で伝説となっている殺し屋を呼び寄せるが……。


【主な登場人物】

※以下、ネタバレ部分は折り畳み。

  • シン
演:チャウ・シンチー/吹替:山寺宏一
一応は本作の主人公。
前作の主人公と名前が一緒だが、セルフパロディ(「サッカーなんかもうやめた!」)以外に血縁等の関連があるのかどうかは不明。
幼い頃は正義感が強いが少し間の抜けた少年で、怪しい浮浪者(演:ユエン・チョンヤン)に“世の中を救うカンフーの天才”と煽てられるままに安っぽいカンフー教本「如来神掌」を子供にとっては高い金で買い叩かれていた。
それでも、純粋に世界平和に役立つことを信じてインチキ教本で学んでいたが、いじめられていた聾者の女の子を助けられなかったことからくじけ、悪の道に走った……ものの、そこでも資質の問題なのか半端者のチンピラ以下にしかなれなかった。
勢いのある“斧頭会”を名乗り、ショボい詐欺行為をしようとしたことが全ての騒動の元凶となる等、ハッキリ言ってクズ。
やることなすこと上手くいかないが、鍵開けは神業で、それで“斧頭会”のリンチから逃れた。
また、本人も気付いていないが異様に回復力が高い(・・・・・・・・・)という特異体質の持ち主で、ナイフで刺されてもコブラに噛まれても知らずに回復していた。
終盤、自らが解き放ってしまった火雲邪神の拳を裏切りから受けてしまうが……。


  • シンの相棒
演:ラム・ジーチョン/吹替:草尾毅
シンとは同郷らしい太っちょで、シンと共に詐欺行為に手を染めている。
詩人を気取ったりと調子のいい部分もあり、知らずにシンを不幸な目に遭わせていることも。
中盤、余りの惨めさからキレたシンに一方的に別れを告げられる。
演じているのは前作の“空渡り”であり、シンチー作品を経て以降の地位を築けたという。


  • 大家夫婦
演:ユン・ワー/吹替:樋浦勉
演:ユン・チウ/吹替:磯辺万沙子
“豚小屋砦”の大家で、朝から酔っ払っては住人にセクハラ行為を働くようなお調子者の旦那と、ヘビースモーカーで口うるさく、腕っぷしの強い奥さんの不細工な夫婦。
妙になよなよしているからか、旦那は奥さんにボコボコにされ上階から叩き落とされても生きているというギャグ補正の超人で、奥さんは音響兵器並の大声を持ち、カートゥンか特撮の高速フォーム並のスピードで走れるギャグ補正の超人である。
“斧頭会”の襲来の際には、旦那は頭に突き落とされた鉢植えの土を再び盛って死んだフリを続け、奥さんはさっさと部屋まで逃げて布団をひっかぶって隠れていた。
結局、ヤクザ達は素性を隠して暮らしていた住人の三人の達人に追い出されるものの、トラブルの元であるとして三人を追い出そうとして他の住人達から非難を集める。


  • 粥麺屋
演:ドン・チーホウ/吹替:坂東尚樹
豚小屋砦で住人の胃袋を支える人の良い粥麺屋の主人。
言葉の節々に英語を入れて喋る。
実は“五郎八卦棍”の使い手たる三人の達人の一人。


  • 仕立屋
演:チウ・チーリン/吹替:岩崎ひろし
豚小屋砦でも重宝される赤パンもお洒落なオカマが入った仕立屋の主人。
なよなよを大家夫婦に弄られる位の人の良いオッサンだったが、実は“洪家鐵線拳”の使い手で三人の達人の一人。


  • 人足
演:シン・ユー/吹替:楠大典
豚小屋砦に住む、無口だが働き者の人足。
実は“十二路譚腿”の使い手で三人の達人の一人。
斧頭会の兄貴を吹っ飛ばしたのは彼だったらしく、犯人探しをする組長によって母子がガソリンを掛けられて火を付けられそうになったことで真っ先に名乗りを挙げて華麗なるキックでヤクザ共と大立ち回りを演じた。


  • 半ケツ理容師
演:ホー・マンファイ/吹替:山口勝平
豚小屋砦で床屋を営む住人で、子供用の服を着ている為に常に半ケツを出している。
演じているのは前作にも登場した特徴的な顔のアイツ(作曲家志望)で、前回の声優は飛田展男、今作は山口勝平とチョイ役ながらインパクトのある出番からか吹替も豪華。


  • 聾者のアイスキャンデー売り
演:ホアン・シェンイー
若い娘。シンチー名物のブサヒロイン枠。……本作では見た目は普通だが。
声を出せないことをいいことにか、シン達が唯一強盗を成功させた相手であるが、彼女には過去にシンへの恩義があった。


  • “斧頭会”組長(サム)
演:チャン・クオックワン/吹替:矢尾一樹
をシンボルマークにする斧頭会のボスで、まだ若いながらも妥協のない残虐性と暴力によって組を支配し、以前から存在していた有力な敵対組織も次々と壊滅、勢力を吸収して斧頭会の絶対的支配を成し遂げてみせた……が、副組長がやられた豚小屋砦の一件にて自分達の暴力ではどうにも出来ない達人達の存在と力を思い知ることになった。
痛い目に遭いながらも面子の為に刺客を雇い入れて挑み続け、後戻りの出来ない所まで踏み込んでしまい、遂には伝説の殺し屋“火雲邪神”をも呼び寄せてしまうことになる。
演じているのは前作の“魔の手”で、この後は物真似に寄らず役者としてもキャリアを重ねていった。
また、前作に引き続き今作では自らがセンターを務める斧頭会の組員達による集団ダンスの振り付けも担当している。


  • “斧頭会”副組長
演:ラム・シュー/吹替:大川透
斧頭会の副組長で、サム(組長)の片腕的存在としてカジノ等を仕切っている。
何故か普段は寄り付かない筈の貧民街を視察していた所を、大家の奥さんに殴られたシンが苦し紛れに放り投げた爆竹が直撃して頭を焼いてしまい、怒り心頭で豚小屋砦に乗り込んでくるも、反対に瀕死の重症を負うことに。
引き連れていた手下達の様子から黒スーツと手斧、連絡用のボスケテめいた爆竹が斧頭会の基本の装備の模様。


  • “斧頭会”相談役
演:ティン・カイマン/吹替:茶風林
眼鏡をかけた斧頭会の相談役。
組長の腰巾着で調子のいい性格。
演じるのは前作の“鎧の肌”で、組長同様にコミカルながら小憎たらしい悪党を演じている。


  • 琴奏者
演:フォン・ハクオン/吹替:千葉繁
演:ジア・カンシー/吹替:辻親八
斧頭会が三人の達人を始末する為に呼び寄せた二人組の暗殺者で、琴の音色を武器に変える“古琴波動拳”の使い手。
背の低い盲目の方は演奏専任だが、背の高い目の見える方は接近戦もこなせる強者で、火雲邪神が姿を眩ました現在は裏の世界で実力No.1と讃えられる使い手。
刃や拳のイメージを付加した音の波動を飛ばすという反則的な技により三人の達人相手でも何もさせずに勝利を奪うが……。


  • 火雲邪神
演:ブルース・リャン/吹替:屋良有作
カンフーにのめり込み過ぎる余りに“心が壊れた”と言われる伝説の達人にして、殺し屋界でも並ぶ者のない最凶の存在。
シンが異人類研究所から連れ出そうとした時には目の前の通路に血の川が溢れる等(映画『シャイニング』のパロディ)、不吉な幻視が立ち現れた。
……一方、ハゲ散らかした頭部にランニングとガラパン姿、便所サンダル履きで新聞を読んでいるという休日の親父のような出で立ちで本物かと疑われる程だったが……。


  • “鰐革命”組長
演:ファン・シャオガン
多大な勢力を持っていた“鰐革命”(ワニ革会)の組長で、女房を捕まえた警察に乗り込み好き放題していたが、出て来た所を罠を張っていた斧頭会により処刑されることになる。
演じているのは中国本土で人気を得ていた俳優、映画監督の馮小剛で、劇中の「映画だけは商売にしちゃいけねぇ」という台詞遊びの他、メタ的に見ると本作の香港映画のスタッフから中国映画に対する物の見方が込められた配役だという考察も。


  • 怪しい浮浪者
  • 演:ユエン・チョンヤン
医師を目指すために貯金していた幼少のシンの前に現れた男。
如来神掌という題名のカンフー本(見た目は物凄く安っぽい)を売りつけた。
それを読んで熱心にカンフーの練習をしたシンだが、悪ガキにボコボコにされて浮浪者から騙されていた事を知りチンピラの道を歩む事になったのだが……


【余談】


  • 本作でハリウッドでも名前が浸透したチャウ・シンチーは、この後で自身が原作のファンである09年の『DRAGONBALL EVOLUTION』のプロデューサーに就任していたが、作品の余りの出来の悪さから一切のプロモーションへの参加を拒否している。
    本人によれば監督にも意欲を示していたが叶わず、また、映画の内容についてもアイディアを反映されず原作からかけ離れたものになったという。
    シンチーは、同時期にブルース・リーの出演作であった『グリーン・ホーネット』のリメイク版でカトー役で出演、監督を兼任とされていたが、此方も降板と映画のヒットに対して米国では満足な仕事が出来なかったようである。
    シンチーは、その後13年に『西遊記~はじまりのはじまり~』を制作してヒットさせており、本作では『ドラゴンボール』に影響を受けたと公言し、かつての鬱憤を晴らすような内容となっている。
    また、当該作を絶賛した鳥山明がポスターを書き下ろしている。




追記修正は正義の為に戦ってからお願いします。


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最終更新:2024年04月11日 23:01

*1 香港の武俠小説発祥の架空の拳法の一つ。掌から波動を打ち出す仙術に近い拳法で、過去に映画化された際には特殊効果の限界もあってビームを出す攻撃となっていた。今川監督が香港の武俠小説や映画化作品の影響で描いた『Gガンダム』の石破天驚拳の元ネタでもある。尚、原典では本作の敵の名前になっている“火雲邪神”が生み出した技。

*2 武俠小説の大家、金庸の作品でも特に人気の高い『神鵰侠侶(しんちょうきょうりょ)』のヒーローとヒロインで、原作では美男と美女のカップルなのに本作では年齢を重ねたとはいえ不細工夫婦の名前とされたので、元ネタを知っている観客からは本名を明かした瞬間に爆笑と喝采が起きたとのこと。『神鵰侠侶』は本作でも夫婦を顕す異名として用いられている。

*3 「送鐘(鐘を送る)」と「送終(葬式のお見送り)」の音の共通から。鐘を送る=「今日がお前の命日だ」という意味の侮辱となる。