昔勇者で今は骨(ライトノベル)

登録日:2020/05/08 (金曜日) 14:35:07
更新日:2023/10/11 Wed 19:05:24
所要時間:約 8 分で読めます




■ 概要

「昔勇者で今は骨」とは、佐伯庸介によるライトノベル。電撃文庫。イラストは白狼。2020年6月時点で既刊5巻。
また2021年に電子書籍限定で書下ろし中篇を入れた短編集『昔勇者で今は骨EX 小骨集』が発売されている。
作者の佐伯庸介は2004年に「ストレンジ・ロジック―鬼の見る夢」でデビューしたものの、2冊目を出すことができないまま失踪同然に引退。
司書経験等を経て10年以上の時を経て友人らの励ましにより再デビューを果たしたという経歴を持つ。
本作は作者の復帰2作目*1である。
現在、カクヨムで1巻と書き下ろし短編が、アークライトコミックスとニコニコ静画で漫画版が無料配信中。漫画版の作画は内々けやき
アークライトコミックは2020年4月をもってサイト閉鎖、現在はコミックリュウに移籍して連載が行われている。
漫画版はリュウコミックスより第一巻が発売中。

■ あらすじ

勇者アルヴィスは魔王オルデンとの最終決戦において命を落とす。しかし、彼は何とアンデッドとして蘇る選択をし、見事魔王を打ち倒したのであった…!
……それから三年。事後処理をかつての仲間に丸投げしたアルヴィスは、墓場で他のアンデッド達とともに悠々自適の生活を送っていた。
そんな彼に、仲間からの声が届く。

い・つ・ま・で・遊び惚けとんじゃアルヴィスー!

…自分の預金が凍結されたこと、仲間の一人が失踪したことを聞かされたアルヴィスは、渋々世にも珍しいアンデッドの冒険者「スケルトン・アル」として冒険に出ることになったのだが…?

主人公が少々風変わりな点を除いては、お手本のような王道ファンタジーである。
「主人公がアンデッド」という設定を反映してか、死と魂にまつわるエピソードが多い。


■ 登場人物

  • アルヴィス・アルバース/スケルトン・アル
享年19歳。死後3年。
唯一魔王の暗黒の衣を貫くことができる聖剣スカットゥルンドに選ばれた勇者。
魔王との最終決戦で鎧ごと心臓を潰され死亡。手間と時間のかかる蘇生呪文を使うスキが無く、撤退して仕切り直せる状況でもなかったため、蘇生呪文より「遥かに手軽な」死霊術を自らに使うことを選択、スケルトンとして蘇り魔王を討った。
三年後、事後処理を仲間に丸投げし、墓場でアンデッド仲間とボードゲーム三昧の生活を送る彼だったが、かつての仲間が失踪したこと、ついでに自分の生前の貯金が凍結されたことを聞かされ、渋々冒険者として旅に出ることになった。
勇者がアンデッドになったことは世間には秘密であるため、表向きは勇者の仲間「スケルトン・アル」として活動している。アンデッドを仲間にしていた事が世間に知られるのが憚られるため身を隠していた、という設定。
…が、なんだかんだで人助けをしてしまうため生前面識のあった相手にはほとんどバレている。
死霊術師の冒険者が使役するアンデッドを連れ歩く事が普通に行われている世界ではあるが、さすがにアンデッドが単独で冒険者登録するのは異例中の異例であり、心無い扱いを受けて凹む事もしばしば。

必要とあらば自分の功績をあっさり人に譲ることはおろか、自分を犠牲にすることにも全く躊躇の無い人物。その究極が自らをアンデッドにすることである。
その在り方は良く言えば勇者の鑑、悪く言えば異様であり、かつての仲間をして「頭がおかしい」と言わしめた。
アンデッドになった今もなお戦闘力は人間の域を遥かに超え、神聖魔法も達人の域。生前から王宮に出入りしていたため王宮マナーや上流階級との交渉事も完璧とチート。
弱点と言えばターンアンデッドの呪文と自らの身体を魔力で動かしているためスタミナに問題がある点、あと勇者らしく人の家の壺やタンスをやたら覗きたがる悪癖があることくらいである。
あちこちの王侯貴族に婚約者が12人いる。この事実を知った仲間たちには大変な不評を買ったが、これは勇者を婿に取れば自分の家の格が上がるという政治的な理由から押し付けられたもの。
そのため、魔王を倒して生還した場合、政治的に大変厄介な存在になっていたことは間違いなく、皮肉にもアンデッドになった今こそがしがらみを全て放り出して人生を満喫できる状態と言える。
生前の自分のことは、「一つのことしかやらない面白みのない人間で結局そのまま死んじゃった」と語っており、趣味のボードゲームは死後に覚えたもの。

なお、生前の貯金であるが、法的には「死者の遺産を何者かが無断で使用している」という状態であったため、アルの元に返ってくることは無く「アルヴィス・アルバース基金」として有効活用された。……本人に無断で。


  • ミクトラ・クート
旅の途中でアルが出会った冒険者。ヒロインの一人。
本名はミク・ト・ランテクートという貴族であり、ミクトラは冒険者としての仮の名。貴族であることが丸わかりの名前ではやりにくいらしい。
名門貴族の一人娘だったが、跡継ぎになる弟が生まれたのを機に家を出奔、冒険者となる。
当初アルをモンスターと勘違いして斬りかかったが、彼が勇者の仲間であったこと、冒険者として彼のほうが格上であることに感服、仲間になる。
勇者アルヴィスに多大な憧れを抱いており、アルが仲間にすら語った覚えのないプライベートに関するクイズを50問出題し、彼を試した。
…堕死王セッケルとの決戦の直後、アルの正体を知り、まる1日悶絶することになる。
アルからは対等な友人関係を希望されているが、実力的にも彼の正体的にもそれに答えられないことに苦悩し、結局彼の従者になることを選択した。


  • ハルベル・エリュズ
「何ヶ月も前から連絡が取れない」という依頼を受けたアルが向かったエンデ村で出会った少女。ヒロインの一人。挿絵の顔芸率が高い。表紙とギャップが…。
ただの田舎の村娘ながら、国王に直接意見するクソ度胸の持ち主。アンデッドに並々ならぬ興味を抱いており、アルやミクトラからは「生身の男性に興味がない」と思われている。
+ 以下ネタバレ
本人に全く自覚は無かったが、類まれな死霊術の才能と凄まじい魔力量の持ち主。原因不明の疫病で全滅した村人たちを無意識にアンデッドとして操っていた。
村人たちは見た目も人格も生前と全く一緒という超高級品。
事件解決後、村人たちを助けるため*2にアルと一緒に王宮へ旅立つ。
+ さらなるネタバレ
死の神ネーガルの「お気に入り」。彼女の才能は生誕時からの彼の加護によるもの。
光明神マルドゥのお気に入りである勇者アルヴィスと似たようなもので、つまり死の神ネーガルの「勇者」と言える。

  • フブル・タワワト
勇者アルヴィスの仲間の一人。アルヴィスとイザナの神聖魔法の師。女性。エイン王国魔導宰相。
200年以上を生きる大魔導師であるが、肉体を魔法で10歳前後の姿に固定している。種族は人間だが、プロフィールでは「人間(?)」となっており、何やら含みがある。
立場上、アルの巻き起こした政治的な厄介事の尻ぬぐいをやらされる立場。楽隠居状態のアルを呼び出したのは自分なのだが。
卓越した魔術の使い手で、自分の肉体を表面的にアンデッドにするといった芸当もこなす。直接戦闘能力も高く、戦闘描写はまるでドラゴンボール。
ナルシストなのか、「ぷりちーなわし」と自称し、たまに「アイドルになりたい」と寝言を言っている。「自分の愛らしさで各国の調整をこなしてきた」らしい。
アルが(ヨイショ半分とは言え)「第二の母だと思っている」とまで言う人物で、実際オカン気質の親切な人。
本人の前では表に出さないが、自身の愛弟子であるアルヴィスが死んだことを酷く気に病んでおり、魔王討伐が終わってからしばらくは夜毎うなされる生活を送っていた。


  • マガツ
勇者アルヴィスの仲間の一人。アルヴィスの剣の師。男性。東方から来た剣士で、フブルと違って肉体的にも老人。
魔王討伐後故郷に帰り、五巻にて主人公たちと再会する。


  • イザナ
勇者アルヴィスの仲間の一人。女性。神聖魔法と死霊魔術を同時に使いこなすため、「聖邪」の二つ名を持つ。
死亡したアルヴィスをアンデッドにした張本人。その事を気に病み、アルヴィスを復活させる方法を求めて失踪したことが物語の発端となる。
アルヴィスを男性として愛していた…、いや、現在も愛している。フブルとマガツは二人をくっつけようと色々立ち回ったが、結局進展しなかったらしい。
+ 以下ネタバレ
アルヴィスの仲間になる前の経歴は、魔王軍の幹部の一人、堕人王アイザノム。
魔軍の一人として人類と戦いながらも、魔王の絶大な魔力によって滅亡寸前に陥った同族を見て絶望していたところをアルヴィスと出会い、彼に人類救済の希望を見出し人類側に寝返った。


  • レヴァ
商人の少女。19歳。
アルに故郷への行商の護衛を依頼するが、故郷はオークに占領されていた。
結局故郷はアルによって救われるが、その後のアルと村長の会話によりアルの正体と、アルヴィスの生前にも故郷を助けられていたことを知る。
以降アルに深い恩義を感じるようになり、彼をその顔の広さでサポートする。
ヒロインの一人のはずだが、2巻以降は影が薄く、4巻ではとうとう出番が全く無かった。


  • ダイス
エイン王国王都近隣のパルムック村に、姉のルーラットと共に暮らす子供。男性。3歳。
3歳のはずなのに10歳くらいと見紛う体格を持ち、 やたら老成した言動をする。
+ 以下ネタバレ
前世は魔王討伐の際に勇者パーティーが討ち果たした堕竜王ディスパテ。その記憶と魔力をほとんど受け継いでいる。
3歳の体では何もできないからと自身の魔力で体を無理やり成長させ、狩りで生計を立てている。
自分たちの王が転生したことに気づいた竜族たちから王として復帰するよう勧誘を受けており、前世の因縁からアルに警戒を向けられるが…。
+ さらなるネタバレ
…竜族の元に戻る気は全く無く、今生では人間として一生を送るつもりでいる。
今生の両親から当たり前に愛され、異常な成長をした自分を受け入れた姉を持つ彼にとっては当然の選択であった。


  • プーチ
セクメルの街のスラム街に住む幼児。女性。5歳。
アルを怖がるどころかいきなり懐き、自分の家に招待する。
アルが彼女の家を訪ねたところ母親はすでに死んでいた*3ため、孤児院が見つかるまでの間世話をすることになった。
「なぜアンデッドになってまで自分は現世に存在しているのか」と密かに悩んでいたアルに答えをくれた人物で、アルは彼女のことを「心の師」と呼んでいる。


  • 魔王オルデン
詠んで字のごとく魔軍の王。物語の冒頭で討伐される。
圧倒的な戦闘力といかなる攻撃も通さない暗黒の衣を持ち、彼の出現により人類側は絶滅寸前まで追い込まれた。
人類側の各国の一大同盟と勇者パーティにより討たれ、以後魔軍の勢力は大幅に減退する。


  • 十堕臣
魔王の軍事面での最高幹部たち。うち半数がアルヴィス一行によって倒されている。
魔王のカリスマによってまとめられていた存在であるため、魔王の死後は各々が好き勝手な行動を繰り返している。
4巻までで名前が出ているのは以下の通り。
  • 堕竜王ディスパテ
  • 堕屍王セッケル
  • 堕獣王ケルベラ
  • 堕花王ムンフス
  • 堕海王ワダツ
  • 堕鬼王ゴメイス
  • 堕人王アイザノム


  • フギムニ
魔軍統帥官。魔王亡き後の魔軍最高司令官だが、典型的な文官であるため武官の十堕臣達になめられきっており、勝手な行動をしては残り少ない軍をすり潰す彼らに頭を抱えている。
アルヴィスの生存を知ったあとは、何らかの目的により彼と接触を図ろうとしているが…。


  • 光明神マルドゥ
天界の最高神。人類社会で広く信仰されている。勇者アルヴィスに聖剣スカットゥルンドを与えた。
だが、実際のところ人類と魔族の戦いには中立の立場で、聖剣を与えたのはあまりにも魔族側にバランスが傾いてしまった事が原因のバランス取りに過ぎない。
それでも勇者アルヴィスは彼女のお気に入りで、神託と言う形で助言と無茶振りを行う。
そのためアルヴィスには大変嫌われており、彼が監修したモンスター図鑑の注釈にも「万が一神託がもたらされたら絶対に逃げろ」と書かれている。
アルヴィスを死後に自身の眷属として天界に迎えるつもりだったが、アンデッドになってしまったことで叶えられずにいる。



追記・修正はアンデッドから復活する方法を発見してからお願いします。


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最終更新:2023年10月11日 19:05

*1 1作目は一迅社文庫の「天命の書板 不死の契約者」。レーベル消滅により事実上1巻で打ち切りの状態になっている。

*2 そのままでは魔物として退治されてしまうため、村と村人を丸ごと死霊術師であるハルベルの「持ち物」と認めてもらう必要がある

*3 魂が昇天してしまうと蘇生魔法も効かない