SCP-020-JP

登録日:2020/07/23 Thu 22:10:47
更新日:2022/11/28 Mon 07:38:15
所要時間:約 10 分で読めます




SCP-020-JPはシェアード・ワールド『SCP Foundation』の日本支部に登場するオブジェクトのひとつである。
項目名は『翼人』。
オブジェクトクラスはSafe。

概要

SCP-020-JPは、10~12歳の女の子である。
この少女の異常性であるが、なんと両腕が鳥のような翼になっている。
翼は天使のように背中から生えているのではなく、両手が変化したもの。ハーピーがイメージとしては近いかもしれない。
翼は本物の鳥のように柔軟で軽量な骨に支えられており、羽毛もしっかりと生えている。
大きさは開帳3mとそこそこ大きい。

遺伝子を調べた結果、██%のDNAがタンチョウ*1と類似していることが分かった。
つまり、両腕の翼は遺伝子操作の結果であると思われる。
無理な遺伝子操作の代償か、この少女は先天的な発育不良であり、骨粗鬆症*2の症状も見られる。
加えて[編集済]の一部や内臓が不完全であり、一般的な食べ物は消化できない。
このためか、130cmの身長に対して体重は20㎏ほどしかない*3

ちゃんとした教育を受けていないのか、知能は4歳児ほど。
しかし脳に異常はないようで、新しいことを教えればちゃんと覚える様子。
その他、発声器官に異常は見られないが、一言も喋らない。



……で、この娘は飛べるのか?
Noである。

胸と腕の筋肉には多少の発達が見られるが、それを加味しても飛行するためには全く不十分。
そもそも、SCP-020-JPのモデルと思しきタンチョウの体重はわずかに8.8㎏。
先ほど体重が20㎏は軽すぎると書いたが、「それは人間としては」であり、空を飛ぶ鳥としてはあまりに重すぎる。
加えてSCP-020-JPの骨格は、翼以外はほぼ人間と同じ構造である。
鳥類の骨格は飛翔に適した特殊な構造をしており、骨は中空構造の中に支柱が入っていることで頑丈さと軽量さを両立している。
骨粗鬆症や内臓の欠陥はもしかしたら遺伝子操作の弊害ではなく飛ぶために故意にそうされたのかもしれないが、「体の頑丈さ」が欠けている時点でどのみち飛翔は無理。

収容後に2回飛ぼうとしたことがあるので、自分の翼が何のために使われるのかは理解しているようだが、結局墜落して足の骨を折ってしまった。
飛ぶのは無理でもニワトリのように羽ばたきを生かしてのジャンプぐらいはできるのかもしれない。まあ着地したら骨折しちゃうんだけどね
彼女を生み出した存在は空を飛ぶ人間を作りたかったのだろうが、現実的に考えて人型の生物が生身で空を飛ぶのはかなり無理があるのである。

つまりSCP-020-JPは、「ただ両手が鶴みたいな翼になっているだけの病弱な女の子」に過ぎない。
基本的に自分の意思を持ったオブジェクトはどんなに無害そうでもオブジェクトクラスEuclid以上に指定されるが*4、SCP-020-JPは自力で脱走するのはほぼ無理なのでSafeとなっている。

食事は、ちゃんと消化できるように穀類と野菜をふやかしてよくつぶしたものを1日3回与え、3日に1回は外をお散歩する。
このときは腰ひも付きリードを付け、担当職員監視の上で行う。
特別収容プロトコルは以上の通りシンプルだが、一つだけよく分からないものがある。
それは「食事を与える際に担当職員は指定の仮面を着用する」というもの。
これはSCP-020-JPの収容経緯が大きく関係している。

収容経緯

SCP-020-JPは██県████山中で衰弱してカラスに襲われているところをたまたま近くにキャンプに来ていた大学生グループに発見され、保護された。
その後、██自動車道で実施されていた検問によって財団の知るところとなり、収容に至ったという。
……検問の人は大学生グループの乗った車に両手が鳥の女の子が乗っててぶったまげたに違いない。

発見当時SCP-020-JPは病院の検査着のようなものを着ており、左足に足環がはめられていた。
この足環には「日本生類創研 T-003」と刻印されていた。

………あー、なるほど。
識別番号003ということは彼女のような存在があと2人はいるということだろうか?
この足環は電磁波を発しており、SCP-020-JPを監視するための発信機と思われる。
発信装置は足環にがっちり溶接されており、分解できなかったため切断してSCP-020-JPの足から取り外し、別途保管している。

SCP-020-JPを保護した大学生の一人へのインタビュー記録がこちら。

インタビュアー: ████博士

付記: SCP-020-JP回収時、サイト████にて発見の際の状況を記録。

<録音開始(20██/08/24)>

████博士:さて君で最後だ。えー██████君。カーチェイスでお疲れのところすまないが、もう少し辛抱してくれ。

██████:いや疲れてるけどさ。まあ運転してたのは███だし…全っ然状況がわからねえんだけどあんたら何なの。あと、あの子…あの子は大丈夫なのかよ。

████博士: ああ、怪我は見た目ほど大したことはないな。どちらかというと栄養失調の方が問題だったが、まあ大事はあるまい。

██████:…あの子、なんなのさ。知ってんだろ。酷い事とかしてねえよな。

████博士: 即答できればいいんだが。それを知りたくて我々も君らに質問をしているわけだ。大丈夫、我々は彼女を守りこそすれ、傷つけることはないよ。他の友達へも同じ質問をしているが、最初から話してくれるかな。

██████: なんか腑に落ちねえけど…えーと、俺ら夏休みで、サークルの連中で█████山のキャンプ場から帰る途中だったんだよ。午後五時ぐらいだったか、███道から20分?30分ぐらい走ってるときに、最初にアッキが林の奥になんかあるって気づいたんだ。50mぐらい先かな、 カラスがいっぱいいて…動物の死体かなんかだと思ったけど、人の死体なんじゃないかって███が冗談言ってさ。それで俺ら悪乗りして車降りて見に行ったんだよ。

████博士: そうして近づいてみると、あれ…彼女が倒れていたと。

██████: まあ、そう。最初はでっかい鳥かと思ったけど足が見えてさ。動いたからびっくりして、とにかく枝とか鞄とか振り回してカラス追い払って…本当に近寄るまでは鳥と人が一緒にいると思ったから…びびった。

████博士: そうだろうね。他におかしなものや気づいたことは?

██████:いや気づかなかった。山ん中だし。あの子はガクガク震えてうずくまってて…顔あげたら俺と目があって、いきなりこっちガッと抱きついてきて。とにかく怪我してるしさ。助けなきゃ、って最初に言ったのは俺だけど、たぶん他の二人もみんなそう思ってた。

████博士:そこなんだが。その…彼女はどう見ても人間ではないと君らの目にも映ったわけだが。それでも助ける必要があると思ったのかね?全員が?

██████: …ったりまえだろ!そりゃあんななりじゃ普通に病院にはつれてけねぇなとか、いろいろ考えはしたけど…大体人間だろうがただの鳥だろうが、弱ってる奴が襲われてるとこ見て助けなかったら人でなしじゃん。そんで追い払ったあと、人間じゃないからやっぱり放っておこうなんてしねえよ!

████博士:…うむ、いや失礼した、人間として当然の行動だ。彼女の外見が愛らしい少女のようではなく、たとえば人の腕のついた鳥でも君は正義の心で助けたろう。

██████: クソむかつくなおっさん…まあでもこう、走ってるときになんか自分の知らねぇ世界があるんだ、って映画みたいな高揚感?はあったけど。いやあの子にゃ悪いんだけど。授業はかったるいし、休みったって部室でいつもの連中とだべってるだけだったし。それに車んなかであの子しっかり俺にしがみついてて…それでまあ、これは俺らで守ってやんなきゃならないな、ってさ。

████博士:ハハ、初々しいね。まあ大体分かったありがとう。あと少々検査をしたら、お友達ともども帰宅の許可がでるよ。

██████: っておい、おっさん最初の質問答えてねえぞ。ここなんなんだよ、なんかの研究所なんだろ、まさかあの子みたいなのもあんたらがここで作ったんじゃな(雑音)

<録音終了>

終了報告書: その後の実験の結果、SCP-020-JPが特別な影響力を及ぼしてはいないことが確認されたため、3名は他の目撃者同様、AクラスからBクラスの記憶処理を施して解放されました。 - ████博士

受け答えを見るに「どこにでもいる普通の学生」といった感じだが、熱い正義感を持った心優しい青年だったようだ。
そしてこの博士が微妙にむかつくことには同意

SCP-020-JPは収容後に極度のストレス状態となり、まったく食事をとらなくなってしまった。
調べたところ、彼女を発見したインタビュー記録の大学生への刷り込みが確認された。
つまり、SCP-020-JPはあの大学生のことを親かそれに近い存在と認識してしまったのである。

Bクラス記憶処理を実施してもこの刷り込みは消えず、さらに強力なCクラス記憶処理が検討されたものの、SCP-020-JPが何か日本生類創研の情報を持っているかもしれないという意見からそれは見送られ、████博士の考案した「代替案」により収容を行っている。
その「代替案」というのが仮面であり、SCP-020-JPが慕う大学生の顔がプリントされただけのチープにも程があるもの。
いくら4歳児並みの知能しかないとはいえばれそうなものだが、今のところこれで何も問題は起きていない模様。

万が一ばれたらまずいと思ったのか、いくら収容のためとは言えいたいけな少女をだます真似に罪悪感を抱いたのかは定かでないが、ある職員が例の大学生に事情を明かして彼女の世話役として雇ってはどうかという提案をした。

それに対しての████博士の解答がこれ。

██████君を再記憶処理して、SCP-020-JPの飼育員補助に?
確かに実行するのは簡単だし、財団はSCPへの対処に必要とあらば潤沢に予算を取るだろう。
しかし安価な方法で十分ならば余計な予算の承認は降りないだろうな。
大丈夫、餌やりだけならその仮面でも、あれに本物の██████君と、君とを区別する能力はないよ。- ████博士

翼を持つ少女は今日も明日も大好きな「彼」と一緒に暮らしていくのだろう。
しかし、彼女はそれが「彼」ではないことに気付くことはない……。

SCP-020-JPが関係するTale

Taleとは、SCPを題材とした二次創作小説である。

彼女の神さま

前半はSCP-020-JPの世話役の職員、後半はSCP-020-JP視点から書かれたTale。
担当の職員は自身の顔が仮面であることに気付かないSCP-020-JPに呆れと憐憫の感情を抱きながらも、プロトコルに従って食事を与える。
出て行く職員の背中を意味ありげに見つめるSCP-020-JP。
…そう、彼女はそれが「彼」ではないことにとっくに気付いていたのだ。

翼を持つ少女は寝る前に世界のどこかにいるであろう「彼」に思いをはせる。
幼い彼女は果たして何を思うのか…。

旅立ち

こちらはSCP-020-JPを救った大学生のその後。
記憶処理により少女のことを忘れてしまった彼は、大学の学園祭を楽しむ。
「催眠術体験」と書かれたブースを見つけ、ちょっとした興味から中で催眠術を受けたが、途中で眠ってしまう。

学園祭の後、友人と今後の予定を話していた彼は、唐突に忘れていた記憶を思い出す。
……翼を持った女の子と出会った夏のことを。
しかし一緒にいたはずの友人は誰もそのことを覚えておらず、「疲れで夢と現実がごっちゃになったかも」とお茶を濁す。

学園祭から1か月たった時、大学の食堂で昼食をとっていた彼に1人の怪しい男が声をかける。
彼はオカルト研究会「霧の探求者」の一員であり、学園祭で彼に催眠術をかけたのは彼だという。
そして本当は催眠術などではなく、「記憶回復術」という失った記憶を取り戻す儀式だったという。
彼の取り戻した記憶を聞いた男は、少女はある「秘密結社」にさらわれたと語る。
「ソレイユ」と名乗るその男は彼にある提案を持ちかけた。

「私たちの仲間になりませんか?」
「あなたが見つけた女の子は今のままでは危ないのではないでしょうか?」
「あなたが一人で行動するよりはるかに多くの情報が『霧の探求者』にいることで得られると思います」

そして彼は“旅人”になった。

余談

「翼のある少女」というルックスと庇護欲を刺激する繊細さからか、Tale以外でも二次創作での人気が高く、様々なイラストが描かれている。
容姿の公式設定は「両手が翼になっている」というだけだが、モデルになっているタンチョウのイメージからか銀髪+色白の幼女として描かれることが多い模様。
端的に言うと日本支部のアイリス枠。
彼女のウ=ス異本がロリコンものなのか獣姦ものなのかはアニヲタ諸君各々の判断に任せる

またこの記事では日本生類創研について分かった体で進行しているが、メタ的にはこの報告書が投稿されたのはニッソが登場してすぐ(確認できる限りでは二作目)のため、まだまだ設定の固まっていない時期のオブジェクトである。
もっとも(やはり確認できる限りでの)第一作であるSCP-030-JPも脱走事案なので、固まるも何も元からこんなんだったとも言えるが。



追記・修正は翼を持つ女の子の幸せを願いながらお願いします。


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最終更新:2022年11月28日 07:38

*1 北海道に生息しているツルの一種。白と黒のツートンカラーに赤い頭を持っている、多くの日本人が「鶴」と聞いて思い浮かべるであろう鳥。

*2 骨密度の低下により骨折しやすくなる病気。

*3 ちなみに10歳の健康な女児の平均体重は32㎏程である。

*4 表面上は友好的でも腹の底で何考えているのか分からないという潜在的な危険性から。