SCP-3935

登録日:2020/11/07 Sat 18:21:51
更新日:2024/03/04 Mon 13:27:29
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ひたすらに平和を貪る民衆の、狂おしい平常心と無関心に比べれば、凶悪事件など可愛いものである。



SCP-3935とは、シェアード・ワールド「SCP Foundation」において登録されたオブジェクトの一つ。
オブジェクトクラスは「Euclid」。


説明

SCP-3935は、インディアナ州に存在するサルベーション高等学校、そのプールの地下に存在する異常空間である。
サルベーション高等学校のプール地下、建物の地下室の北西にある、崩壊した壁を通って到達できる。

この空間によって、周囲の地域に異常現象が発生するため、財団が関与する前に捜査していたUIU連邦調査局異常事件課が、嘗てこの地域に在住していた住民を移住させた。なのでアメリカ各地に散った元住民の監視と、SCP-3935付近の臨時サイト-81-5を通じて、侵入者を出さないようにすることが収容プロトコルで定められている。

崩壊した壁から25m程下には、石造りの部屋が存在し、ここが後述の異常現象の源であると推測される。尚、現在SCP-3935内は非常に不安定な空間であるため、現段階では調査が進行していない。


発見

そもそもこのオブジェクトが発見されたのは、1976年4月18日にサルベーション高校の異常現象を調査していたUIU連邦調査局異常事件課の調査員が、共に探索していた用務員と共に行方不明になってしまったから。

その後、多発する異常現象に対処しきれなくなったUIUは、財団に救援を求めたことから、このオブジェクトの発見に繋がった。

どうやら当初の予定では、財団の力を借りずに解決するはずだったらしいが、こんなことになるのなら初めから呼んでほしいものである。余計な被害が増えてるし。だからお前ら無能だといわれるのではないのか?



で、その際にUIUから押収した最高機密の書類から、発生した状況を伺うことが出来た。
付与されていた写真には、顔が不自然に歪んだ、10人のチアリーダーが写されていた。


主に確認された異常現象は、以下のとおり。


夜の学校、プールの底から聞こえる声

2階の女子トイレの鏡に映る「顔の無いもの」

昼の放送中に紛れんで来る第三者の話し声

音楽室の隅に現れる、小さくて黒い人間の形をしたもの

白い刺繍で「失神」と書かれた紫色のバッグをもった、見覚えのない学生

空中に吊り下げられ、醜く顔が歪んだ9人の若い女性(ほとんどの目撃者が、醜い、形容しがたいと語る)

空に浮かぶ、少女と思われる幻影(写真が現存)


この他にも複数あるが、重要度の高いものだけ記載させていただく。UIUは財団の力を借りたくなかったのか、自分たちだけの判断で記憶処理剤を住民に摂取させ、住民全員を移住させた。



問題はこの記憶処理剤。なんと財団が現在使用しているY-909よりも前に開発されていたもの。

アニヲタ支部の方は理解していると思うが、Y-909が開発される前の財団は、粗悪な記憶処理剤しか作成出来なかった。

そして発見された当時、財団は既にY-909による正確な記憶処理を成功させていた。


これが何を意味するか。間抜けなUIUが関与したらとんでもないことが起こるとは思えないだろうか。

そしてその不安は見事に的中してしまった。


財団が1970年代まで使用していた『財団製クラス-シルバー記憶処理剤』に良く似た成分の処理剤、通称『UIU記憶処理剤』には致命的な欠点があった。

それは効果があまりに不安定すぎて、他の記憶能力にも悪質な効果、早い話記憶障害を引き起こしてしまうのだ。


その結果、記憶に障害を抱えたままアメリカ各地に散った元住民を財団職員が訪ねても、彼らには正確な情報を思い出すことは、ほとんど出来なかった。完全にやらかしてるわ。





財団による調査と異常現象


財団は幾人かのエージェントをSCP-3935内に送ったが、最終的に全員が行方不明となったことから、捜索は一時中止となり、代わりに異常現象を調べつつ、アメリカ各地に散った元住民の記憶を再生させていく計画を練った。

また学校内部に至っては現在、非常に危険性が高い為、近い将来D-クラスを用いた実験が予定されている。



以下は財団によって調査された異常現象。


UIUエージェントの服装をした、高校に向けて個人を誘導しようとする人物の報告。この人物は観測が長すぎる場合消失する。

エージェント・ウィルズは車に接近する際、小さな黒い人影が車両の下に座っているのを見たと報告した。車の下を見たあと、その人影はそこになかった。エージェント・ウィルズはその後常に周辺視野に黒い人影を見ると報告している。

高校の近くの森林から音が聞こえるという多くの報告。森林の調査では荒廃した寝室が一つある家屋と裏庭の9つの[削除済み]のみが発見された。
吊られた9体の女性実体の出現により探査チームは逃走した。さらなる森林の調査では家屋を発見することはできなかった。

日没後、多くのエージェントが、暗闇の中で自身の方に痙攣しながら移動し、到達する直前に地面に滑りこみかき消える9体の女性人型実体を目撃したと報告する。
森林の中で似た存在が報告されている。

町の外の小さな池の底から浮かびあがり、再び沈み消失するまで水面に留まるいくつかの遺体(一度に9体まで)の報告。
森の中の家の裏庭に現れた9つの[削除済み]に何らかのつながりがある可能性がある。



この小さな黒い人影9つの[削除済み]。UIUが集めた情報にも同様の存在がいた。彼らは一体なんなのか。

とりあえずこの二つの異常現象については、頭の片隅に置いといてほしい。



3935.5: インタビュー


財団は嘗てサルベーション高校の英語教師を勤めていたバレリー・フレッチャー夫人にエージェント・エイムズがインタビューを行った。

やはり粗悪品のせいで記憶に障害が起きていたが、彼女のまた残っていた記憶から、


  • 小さな街であり、世間話が直ぐに伝わりやすい環境だった。

  • 森には以前から不審な若者の集団が確認されていたこと。

  • 一人の少女が行方不明になった。どうやら未婚で妊娠したらしく、宗教に厳格な人々から強く迫害されたからとのこと。

  • 後に女の子の首吊り死体が見つかり、夫人が筆跡を確認したこと。

  • 以降の街は、小さな子供が現れる幻覚が多発したこと。

  • SCP-3935のことは誰もが知っていたが、気味悪がって誰も近寄らなかった。しかし行方不明になった少女が消える前に、例の壁の穴について訪ねにきたこと。


最後にエージェント・エイムズは、例のチアリーダーの写真を夫人に見せた。


すると夫人は、明らかに狼狽し言葉を口にする。



フレッチャー夫人: ええ……知っています。これは、うう。チアリーダー達です。(静止) チアリーダーには、ええと、よく考えさせて……チアリーダーは10人いました、そう思います。彼女らの一人に何も起こっていなければ、間違いなく10人です




その後に判明した事実から、以下の事実が浮かび上がってくる。





嘗てサルベーション高校の付近は、厳格なキリスト教徒の住民らによって、慎ましくも平和に生活していた。
高校にはチアリーダーが10人在籍していた。


ところがある日、チアリーダーの一人が妊娠してしまった。
当然ながら家族は激怒した。某宗教において、未婚の妊娠は禁忌にあたる。結果的に家族は彼女を追い出した。

他の住民や学校の生徒に教師、果てはチアリーダーの仲間たちまでも彼女を見捨てた

少女は一人で赤ん坊を産み落としたが、心身追い詰められ、森で首を吊ってしまった。それを知った住民たちは彼女のことを口にしなくなった。














だがこうは考えられないだろうか?


住民らは事件を隠蔽したのではないか。そう考えれば、多くのことに納得がいく。
誰もが静かな生活を守るために、少女を徹底的に追い込み、彼女が不慮の死を遂げた後には全てを隠蔽した。

全ては平和な生活のために。






しかし思わぬことが起きた。少女は、プールの地下に存在するSCP-3935の力によって異常存在となったのだ。恐らくは、お腹の中にいた赤ん坊も。

全ては住民たちの嘘。そのように全てを無かったことにされた少女が何を思ったか、想像に難くない。

彼女は赤ん坊と共に、その絶大な力をもって自分を迫害した家族や住民を子孫の出来ない体に変化させ、自分を見捨てた嘗ての仲間に永遠の苦痛を味わわせ続けているのだろう。


上空に浮かんだ少女の幻影。彼女こそが10人目のチアリーダー。

学校に現れる黒い人影、これは溺死させられた赤ん坊。

そして首を吊った顔が歪んだ9人の女性は、他のチアリーダーたちなのだろう。



全ては、自分と赤ん坊を死に追いやった住民への復讐のために。
自分たちを見捨てた者たちへの復讐のために。




彼女の復讐が終わる日が来るのかどうか、それに答えることの出来る者はいない。
とある小さな街でおこった、奇妙な事件。
凄惨だが忘れ去られた事件。

まさに



SCP-3935


これこそが静かな狂気が作りし物(This Thing a Quiet Madness Made)


余談

このオブジェクトのハブに記されたclass-of-76、そして目撃された白い刺繍で「失神」と書かれた紫色のバッグをもった、見覚えのない学生

これらのことから、SCP-3935の発生にはSCP-4833『失神交響楽』が関わっているものとみて間違いないだろう。


嘗てSCP-2000によって再生される前の世界の記憶を保持していた現実改変者で構成された彼らは、嘗ての世界を忘れさせないために多くの若者を誘拐・改造し、記憶に留めさせるために行動している。

このSCP-3935も、そして忘れ去られた彼女もまた、彼らの手によって異常性をもたらされた可能性がある。



追記・修正は身勝手な振る舞いを踏みとどまることの出来る人におねがいします。






SCP-3935 - This Thing a Quiet Madness Made
by djkaktus
https://scp-wiki.wikidot.com/scp-3935
http://scp-jp.wikidot.com/scp-3935(翻訳)
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最終更新:2024年03月04日 13:27