2020年のSUPER GT

登録日:2021/02/18 Thu 18:52:00
更新日:2024/01/09 Tue 15:42:15
所要時間:約 27 分で読めます




この項目では、日本の自動車レースシリーズであるSUPER GTの2020年シーズンについて解説する。SUPER GT自体の概要に関しては項目を参照されたい。詳細なエントリーリスト、順位結果、ポイントランキング等は、項目の長さの都合上割愛する。


シーズン開幕まで

前年のDTM(ドイツツーリングカー選手権)との交流戦の大成功を受けて、2020年はSUPER GTが国際化をさらに推進する第一歩となる年…のはずだった。GT500(上位クラス)におけるDTMとの統一規定が完全に施行される初年度だったからだ。しかし新型コロナウイルスの世界的大流行で国際交流どころではなくなり、当のDTMでは1年であっさり撤退したアストンマーチンに代わるエントリーが現れず、アウディも2020年を最後に撤退という衰微を辿ることになってしまった。DTMはルールを緩くしたGT3規定を採用して生き残るが、GT3規定はSUPER GTだとGT300(下位クラス)に採用されているもの。それに、わざわざ日本に向かって交流しなくてもドイツや欧州でGT3によるレースは沢山行われているため、今後SGT・DTM両者はふたたび疎遠になることを心配されている。

いわゆる「コロナ禍」の猛威はSUPER GTそのものにも影響を及ぼした。シーズン前テストは予定通り行われたものの、感染拡大が収まらなかったためにシーズン初戦は7月まで延期。第4戦まではまったくの無観客を強いられてしまった。開催地も、メーカーとの繋がりがあって財政的に安定な富士・鈴鹿・もてぎの3か所に限られた。その結果、東京オリンピックの会場になって開催が制限される筈だった富士スピードウェイ(静岡県、トヨタ資本による運営)が、オリンピックの延期まで手伝って4回も使えてしまう事態に。最終的なカレンダーは以下のレース概要通りになった。

レース概要

第1戦 富士スピードウェイ(7月18・19日)

GT500予選ポールポジション*1平川 亮*2(No.37 TGR Team KeePer TOM'S|トヨタ・GRスープラ GT500)
GT300予選ポールポジション 蒲生 尚弥(No.65 K2 R&D Leon Racing|メルセデス・AMG GT GT3 Evo)
GT500クラス優勝 No.37 TGR Team KeePer TOM'S(平川 亮/ニック・キャシディ|トヨタ・GRスープラ GT500)
GT300クラス優勝*3No.52 埼玉トヨペット GreenBrave(吉田 広樹/川合 孝汰|トヨタ・GRスープラ JAF-GT)

7月開幕となった第1戦は、GT500・GT300ともに新型マシンのスープラが優勝する、いわば「スープラ祭り」となった。
GT500では、1周目にNo.12 Calsonic GT-Rがクラッシュでいきなりリタイヤ。他のGT-Rも後方に沈む悔しい結果となった。エンジンをFRに換装し、ついに面影だけが市販車と一緒になったホンダNSX勢は予選でトヨタ勢に食らいつく。しかしレースでは、No.16 Red Bull Mugen NSX、No.17 Keihin NSXに相次いでトラブルが発生。ピット作業を終えた後、勝負権の残ったマシンのレースペースは完全にスープラと差があり、気付けばスープラが1位から5位までを独占する屈辱を味わった。スープラは6台エントリーされている。坂東ェ…反対に歓喜するスープラ勢は、No.37の優勝に留まらず、No.36のau TOM'Sが2位に入った。トムスがチームとしてワンツーフィニッシュを飾る、これ以上ない結果となった。

GT300では、序盤はポールのLeon AMGとNo.11 Gainer GT-Rが競り合っていた。しかしLeonの左タイヤのみ交換を大胆にも上回り、タイヤ無交換を敢行*4した埼玉トヨペットスープラ、そしてマッハ号ことNo.5 マッハ車検トヨタ86が大きくアドバンテージを得た。マッハ号はアグレッシブなドライビングで恐れられるオリベイラが駆る、No.56 Realize GT-Rの猛追を受けながらも3位表彰台を獲得。2位はNo.11のGainerが、そして優勝はスープラ祭りをさらに盛り上げる形で埼玉トヨペットが勝ち取った。ドライバーの吉田はこれが自身2勝目*5、川合は新車のスープラとともにデビューウィンとなった。

第2戦 富士スピードウェイ(8月8・9日)

GT500予選ポールポジション 野尻 智紀(No.8 ARTA|ホンダ・NSX GT500)
GT300予選ポールポジション 小高 一斗(No.6 Advics Muta Racing INGING|トヨタ・86 マザーシャシー)
GT500クラス優勝 No.17 Keihin Real Racing(塚越 広大/ベルトラン・バゲット|ホンダ・NSX GT500)
GT300クラス優勝 No.2 Cars Tokai Dream 28(加藤 寛規/柳田 真孝|ロータス・エヴォーラ マザーシャシー)

富士2連戦となった第2戦。GT500の予選は、初戦でスープラがポイントを荒稼ぎしてウェイトハンデを食らったこともあって、日産とホンダを交えた拮抗したものとなった。ポールポジションは上記の通りオートバックスオレンジのARTA NSXが付け、Keihin NSXとともにフロントローを独占した。GT300は新規チームのMuta Racingが2戦目でいきなりポールを獲得。他のマザーシャシー勢も好調を印象付けた。

GT500はスープラ勢がレースペースの地力を見せつけ、No.36 au TOM'Sがバトルを繰り広げる姿が何度も捉えられていた。しかしフロントローを独占した2台のNSXの二人旅という状況は崩せず。しかしARTA NSXがピットから復帰した所で一気にレースが動く。なんと、順位の入れ替わったKeihin NSXを捉えようとしたその時、シケインの立ち上がりでARTAの野尻がスピン。マシンを大きく破損させることはなかったものの、優勝争いからは消えてしまう。これで直接対決を受け付けなかったKeihinが、チームとして2年半ぶりとなる優勝を飾った。No.36 au TOM'Sが2戦連続の2位、No.14 Wako'sスープラも2戦連続3位と、ポイントランキングで大きなリードを築いた。予選結果から期待されたGT-Rは、No.12 CalsonicやNo.23 Motulのペースが伸びず、最高位がNo.3 CraftSportの8位とまたしても振るわなかった。

GT300は決勝レースでもJAF-GTが好調。ポールのAdvics 86をNo.61 Subaru BRZが追い詰めると、そのBRZとNo.2 Syntium Appleロータスがほぼ1レース丸ごとバトルを繰り広げるという展開に。これを振りきったCars Tokaiが、ロータス採用6年目にして初優勝。柳田が移籍してきてわずか2戦目での躍進だった。チームとしては、なぜかプロトタイプカーを使っていた頃以来10年ぶりの優勝。2位がBRZ、3位がディフェンディングチャンピオンのNo.55 ARTA NSX GT3だった。ARTAのルーキー大湯は初表彰台。この後スーパーフォーミュラでも初優勝を飾っている。

第3戦 鈴鹿サーキット(8月22・23日)

GT500予選ポールポジション 伊沢 拓也(No.64 Modulo Nakajima Racing|ホンダ・NSX GT500)
GT300予選ポールポジション 嵯峨 宏紀(No.31 apr|トヨタ・プリウスPHV GR Sport JAF-GT)
GT500クラス優勝 No.23 NISMO(松田 次生/ロニー・クインタレッリ|日産・GT-R GT500)
GT300クラス優勝 No.11 Gainer(平中 克幸/安田 裕信|日産・GT-R GT3)

鈴鹿に舞台を移した第3戦。そのGT500予選では、Nakajima Racingが2012年以来実に8年ぶりのポールポジションを獲得。2012年から今に至るまで、GT500でダンロップタイヤを履くチームはここのみであるため*6、まさにダンロップと二人三脚でつかんだ久々のポールと言える。GT-R勢はNISMOが今シーズン最高グリッドを獲得して復活を予感させた。逆にウェイトハンデが累積している2台のTOM'Sのスープラは後方に沈んだ。GT300は、ドライバー紹介映像でパフォーマーぶりを発揮する嵯峨*7が、コース上のパフォーマンスでもポールを獲得する活躍を見せた。プリウスがPHVモデルになってからは初めてのポイント獲得となる。

レースはいきなりもう一方のプリウス(No.30 apr)がクラッシュしてセーフティカーランに。これによってGT500リードのNakajima RacingのModulo NSXが差を詰められた上に、それ以下の7番手のマシンまで数珠繋ぎになってしまう。これを堪えきれずに一気にオーバーテイクを許したModuloに代わってトップに立ったのはNISMOのMOTUL GT-Rだった。その後方ではNo.38 Zent Cerumoスープラが好機をうかがっていたが、トラブルによりリタイヤとなった。さらにMOTULはNo.100 Raybrig NSXと複数回に渡って競り合いを繰り広げ、そのあともう2回セーフティカーが発出されてしまったため、ギャップを大きく広げることも叶わずにいた。最終的には、逆転される可能性もあったもののNISMOが逃げ切って優勝。名門ながら昨年未勝利という苦節を乗り越えて、2年ぶりの勝利となった。ミスしたチームに日本語でブチギレる熱血イタリアンクインタレッリには笑顔、松田の目には涙がみられた。これで最初の3戦は全て違う車種が勝利をつかむ混戦になった。

GT300は序盤はプリウスがリードを築いていたものの、早めのピットからのセーフティカー発出でロスが大きく響き、No.55 ARTA NSXや、No.56 Realize GT-Rに逆転を許す。初戦同様に無交換で攻勢をかけたNo.5のマッハ号が上位に躍り出るも、最終的にはタイヤ摩耗が苦しくFIA-GT3勢に抜き去られてしまった。じわじわと順位を上げてトップに立ったNo.11 GainerがRealizeとGT-R同士のトップ争いを展開していたが、そこに食らいついてきたARTA NSXとRealizeが2位争いという形に変化。No.18 Upgarage NSXまで加わるなか、RealizeにARTAが追突*8。両者ペースを大きく落としてしまったばかりか、ARTAはボンネットが破損し脱落。これを切り抜けたUpgarageの後方ではRealizeがNo.61 Subaru BRZ、No.65 Leon AMG、さらにNo.2 Syntiumロータスに追いつかれ、ラインを失ってクラッシュしたLeonが脱落。スプーンカーブでLeonを除く3台のバトルに発展すると、その一番内側に飛び込んだロータスが3位に浮上。そのまま3位ロータス、2位Upgarage、そして優勝がNo.11 Gainerという結果となった。結果的に両クラスで日産GT-Rがレースを制した。下四行がすべて、最後の5周あたりに起こっているのは恐ろしいまである。

第4戦 ツインリンクもてぎ(9月12・13日)

GT500予選ポールポジション 立川 祐路(No.38 TGR Team ZENT Cerumo|トヨタ・GRスープラ GT500)
GT300予選ポールポジション 青木 孝行(No.360 Tomei Sport|日産・GT-R GT3)
GT500クラス優勝 No.17 Keihin Real Racing(塚越 広大/ベルトラン・バゲット|ホンダ・NSX GT500)
GT300クラス優勝 No.65 K2 R&D Leon Racing(蒲生 尚弥/菅波 冬悟|メルセデス・AMG GT GT3 Evo)

GT500予選ではNSX勢がホームコースで好調を見せつけ、全車がQ2に進出。しかしポールポジションは、自身のポール最多記録をさらに伸ばしたNo.38 Cerumoの立川に奪われてしまった。GT300ではポイントランキング2位に付けていたNo.2 Syntiumロータスがタイムを抹消されてしまい苦しい最後尾スタート、ランキングトップだったNo.11 Gainerは12番手からのスタートに。そしてポールポジション獲得はNo.360 Tomei SportのRun Up GT-R。青木がポールを獲得するのは、フェラーリ・F430でチャンピオン争いをしていた2009年以来のことだった。

GT500はスタートからZent Cerumoスープラ、Keihin NSXがNo.64 Modulo NSXを交えて激しいバトルを展開。Keihinが結局トップを奪った。その後方では追いつけなくなったModuloにNo.8 ARTA NSXとNo.19 WedsSport Bandohスープラが接近。しかしWedsSportは単独スピンしたGT300が制御不能になって接触し、もらい事故でリタイヤという悔やんでも悔やみきれない結末に。この事故処理を経てレースが再開すると、第3戦の再現かのようにModuloの後ろに隊列が。この猛追を耐えきれなかったModuloは残念ながらまたもや順位を落とす。その前方では、No.36と37、2台のTOM'Sがまさかの接触。同士討ちは避けられたもののダメージを負ってしまう。この時のデブリを回収するためのセーフティカー発出を経て、序盤にリードを奪って逃げきったKeihinが今季二勝目を手にした。2位にはZent Cerumoが、3位には予選の好位置をキープできたNo.16 Red Bull NSXが入った。Red Bullの表彰台は、ルーキー笹原にとって初めて。ヨコハマタイヤ勢にとっても嬉しい今季初表彰台だった。

GT300ではポールスタートのRun Up GT-Rのペースが良かったが、前述のWedsSportのもらい事故によるセーフティカーランが、No.7 Studie BMW M6とNo.22 RQ's AMGの接触によって長引くという事態が起こる。その後方では3位争いのNo.25 つちやエンジニアリングのHoppyポルシェ911がNo.87 JLOCのランボルギーニ・ウラカンにオーバーテイクを許す。ピットイン前の走行を長めにとったRun Upは、No.65 Leon AMGに逆転を許してしまうが、2位の座を死守どころか優勝も狙えるギャップだった。しかし、あと少しの所でRun Upがストップ。そのまま逃げ切ったLeonが優勝、2位にJLOC ランボルギーニ、3位にはNo.61 Subaru BRZが入った。

第5戦 富士スピードウェイ(10月3・4日)

GT500予選ポールポジション 福住 仁嶺(No.8 ARTA|ホンダ・NSX GT500)
GT300予選ポールポジション 小高 一斗(No.6 Advics Muta Racing INGING|トヨタ・86 マザーシャシー)
GT500クラス優勝 No.39 TGR Team SARD(中山 雄一/ヘイキ・コバライネン|トヨタ・GRスープラ GT500)
GT300クラス優勝 No.56 Kondo Racing(藤波 清斗/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ|日産・GT-R GT3)

シーズンは半分を過ぎ、ウェイトハンデがさらに厳しくなったGT500の予選、2勝したNo.17 Keihin NSXやポイントを積み重ねるTOM'Sの2台などがQ1に脱落した中、代わって日産勢が全車Q2に進出。フロントローにはいまだノーポイントだったNo.12 Calsonic GT-Rがつき、それを上回ったNo.8 ARTA NSXがポールポジションとなった。しかしこれを見てからでは驚くであろうものがGT300の予選結果。なんとウェイトハンデが100kgカンストした3台(No.11 Gainer GT-R、No.61 Subaru BRZ、No.65 Leon AMG)が揃ってQ2に進出するサプライズが発生。スバルに至っては4番手、Leonはなんと3番手を獲得した。それを上回ってポールを獲得したのは、今季2度目となる小高のAdvics 86だった。

GT500はスタートしてすぐNo.24 Realize GT-RがARTAをオーバーテイクして一気にトップへ。しかし好調な日産勢の中でも、No.3 CraftSport GT-Rはフロントのパーツが脱落してリタイヤとなってしまった。レース再開後もRealizeとARTAがやり合っていたが、これを制してARTAがトップに復帰。ピットイン可能な1/3が過ぎても接近戦は続いていたが、2台まるごとNo.100 Raybrig NSXにアウトラップのペースで上回られ、さらにはピットアウトのタイミングによって、トヨタ勢にも追い抜かれてしまった。程なくしてRealize GT-Rはスローダウンで勝負権を喪失。ARTAがトヨタ勢を再逆転できるかという争いになった。No.37 KeePerスープラとの接近戦を演じてARTAは3位に入ったが、2位にはNo.14 Wako'sスープラがつけ、それらを寄せ付けずにリードを守ったNo.39 Densoスープラが優勝という結果になった。累計ポイントでは、このレースの順位が響いてNo.14 Wako'sが僅かにNo.37 KeePerを上回った。

GT300ではポールスタートのAdvics 86が、No.31 aprプリウスPHVをオーバーテイクしたNo.56 Realize GT-Rの猛追に遭うことに。Realizeの勢いは止められず、ここでリードを奪った。Realizeの支配に待ったをかけるように、ここでNo.52 埼玉トヨペットスープラがタイヤ無交換を敢行。しかしニュータイヤの性能を引き出したRealizeが再びトップに立つと、No.65 Leon AMGとの2位争いにシフトすることになった。その後ろからクリアラップに恵まれた*9して追いついてきたNo.55 ARTA NSXがそれに加わると、なんと埼玉トヨペットは2台からのオーバーテイクを矢継ぎ早に食らい表彰台から滑り落ちる。この結果、終盤の逆転劇でLeonが3位、ARTAが2位、そして優勝はレースを通して好調だったNo.56 Realize GT-Rとなった。

第6戦 鈴鹿サーキット(10月24・25日)

GT500予選ポールポジション 福住 仁嶺(No.8 ARTA|ホンダ・NSX GT500)
GT300予選ポールポジション 阪口 晴南(No.96 K-Tunes Racing|レクサス・RC F GT3)
GT500クラス優勝 No.23 NISMO(松田 次生/ロニー・クインタレッリ|日産・GT-R GT500)
GT300クラス優勝 No.21 Hitotsuyama Racing(川端 伸太朗/近藤 翼|アウディ・R8 LMS)

ウェイトハンデが一番溜まっている状態で迎えた第6戦。GT500ではポイントリーダーのNo.14 Wako'sスープラや2台のTOM'Sスープラが下位に沈むなか、ホンダ勢が相変わらずのホームコースでの強さを見せる。結果、ウェイトも軽いNo.8 ARTA NSXがポールを獲得。前回の鈴鹿ラウンドでポールを獲得したNo.64 Modulo NSXはフロントローからのスタートになった。GT300はウェイトカンスト勢であるNo.61 Subaru BRZが当たり前のようにフロントローを獲得。No.52 埼玉トヨペットスープラやNo.56 Realize GT-Rもそれに食らいつき、Q2に進出してみせた。そんな中ポールを獲得したのは、昨季2勝・ランキング2位ながらこれまで苦戦してきたNo.96 K-Tunes RC F。

GT500では見事にスタートを決めたARTAがトップを守り抜いて前半を終える。しかし、序盤でNo.64 Modulo NSXをオーバーテイクしてポジションをアップしていた、No.12 Calsonic GT-Rがピット後にARTAをも追い抜く。大きな差を逆転したCalsonicは順風満帆か…と思われていたその時、GT300の埼玉トヨペットがクラッシュ。脱出まで時間がかかったことから、安全のためセーフティカーが出される。ギャップを広げられず残念と思われたばかりか、ここでNo.23 Motul GT-Rが実はポジションを上げており、さらに非常にタイムリーにピットインしていた*10。この絶好機にピットを済ませた*11Motulは、なんとトップのCalsonicと同一周回だったのでトップになってコース復帰*12。セーフティカー中にトップの入れ替わりが起こった。Motulにとっては、予選でクラッシュし何とか決勝に間に合った段階からの、見事な大逆転劇だった。そのままリードを奪い返されることなく、Motulが優勝。2位にCalsonic、3位にポールスタートのARTAが2戦連続で入った。惜しくも4位だったNo.3 CraftSport GT-RがARTAをオーバーテイクできれば、日産の表彰台独占という様相だった。

GT300はポールスタートだったK-TunesがNo.61 Subaru BRZの追撃を振り切れずに、さらにはNo.6 Advics 86以下にもオーバーテイクを許した。このまま余裕のトップでピットインまで行けるかと思われたスバルだったものの、前述のセーフティカー発出によりマージンを失ってしまう*13。結果、ピットインによるポジションの下降が大きくなってしまい、No.11 Gainer GT-Rも同様に後方へ沈んだ。これによって利を得たのは、早めのピットインを済ませていたNo.21 Hitotsuyama Audi、No.6 Advics 86だった。そして、No.5マッハ号とのバトルを制して3番手にはNo.4 初音ミクAMGが入り、そのまま3位初音ミク、2位Advics、優勝がHitotsuyamaという結果になった。アウディは2017年以来3年ぶりの優勝、川端と近藤はともに初優勝となった。

第7戦 ツインリンクもてぎ(11月7・8日)

GT500予選ポールポジション 伊沢 拓也(No.64 Nakajima Racing|ホンダ・NSX GT500)
GT300予選ポールポジション 山内 英輝(No.61 Subaru R&D Sport|スバル・BRZ JAF-GT)
GT500クラス優勝 No.8 ARTA(野尻 智紀/福住 仁嶺|ホンダ・NSX GT500)
GT300クラス優勝 No.56 Kondo Racing(藤波 清斗/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ|日産・GT-R GT3)

ウェイトハンデ半減で行われる第7戦。GT500予選はNSXがトップ3を独占し、その中でも特に予選で好調なNo.64 Modulo NSXが今季2度目のポールを獲得した。ウェイトが半分になったからにはQ2に進出しておきかたったNo.14 Wako'sスープラは9番手で惜しくも届かなかった。GT300では半減すれども51kgを背負うBRZが、前ラウンドの雪辱を晴らすかのようにポールを獲得。No.244 たかのこの湯 RC Fがその後ろの2番手につけた。

GT500では序盤にARTAがModuloからトップを奪取し、そのまま差を広げた。当のModuloはNo.100 Raybrig NSX、No.38 Zent Cerumoスープラにもオーバーテイクを許し、今季3度目くらいの数珠繋ぎの先頭になってしまう憂き目に遭うも、No.23 Motul GT-Rなどからの絶え間ない追撃をなんとか退け、ARTAと共に義務ピットにたどり着いた。するとすぐにセーフティカーランとなり、義務ピットの消化が認められなくなった。これによって、セーフティカー明けにライバル殆ど全車がピットインをせざるを得ないため、ARTAとModuloは余裕をもってそのままゴールイン。タイトル獲得の権利を残したNo.37 KeePerスープラ、No.23 Motul GT-Rなどが表彰台のもう1枠を狙っていたものの、これは同じくタイトルを争うNo.100 Raybrig NSXの手に渡った。これによって3位Raybrig、2位Modulo、優勝ARTAとなったばかりか、猛烈なペースでポジションを上げてきていたNo.16 RedBullが4位、No.17 Keihinが5位に入ったことで、ホンダ勢が史上初めてトップを独占する圧勝劇になった。ホームコースもてぎで快挙達成だった。

GT300は序盤でフロントローのNo.244 たかのこの湯がペナルティ消化のためピットイン*14。ここでスバルがリードを広げるも、後方からはNo.11 GainerとNo.360 Run Upの2台のGT-Rが迫っていた。Run Upは順位を入れ替えて2位に浮上するも、セーフティカー導入もあり、早めにピットインしていたNo.56 Realize GT-RやNo.4 初音ミクAMGに逆転を許してしまう。遥か後方ではNo.52 埼玉トヨペットスープラとNo.61 Subaru BRZが3位争いを展開していたが、なんとNo.25 Hoppyポルシェを退けたGainerとRun Upの2台に逆に追いつかれてしまう。これをミスによって守り切れなかったBRZ、さらにはスープラまでもが逆転を許し、Run UpがTomei Sportにとって久しぶりの表彰台をもたらした。3位Run Up、2位初音ミク、そして優勝でタイトル争いをさらに有利にしたのはNo.56 Realize GT-Rだった。

最終戦 富士スピードウェイ(11月28・29日)

GT500予選ポールポジション 山下 健太(No.37 TGR Team KeePer TOM'S|トヨタ・GRスープラ GT500)
GT300予選ポールポジション 川合 孝汰(No.52 埼玉トヨペット GreenBrave|トヨタ・GRスープラ JAF-GT)
GT500クラス優勝 No.100 Team Kunimitsu(山本 尚貴/牧野 任祐|ホンダ・NSX GT500)
GT300クラス優勝 No.52 埼玉トヨペット GreenBrave(吉田 広樹/川合 孝汰|トヨタ・GRスープラ JAF-GT)

GT500における第7戦までのドライバーズポイントは、トップと10点差以内に8人がひしめく大接戦となった。自力チャンピオンの可能性を残したドライバーは5組+1人(No.17 Keihin NSXの塚越/バゲット、No.37 KeePerスープラの平川、No.23 Motul GT-Rの松田/クインタレッリ、No.100 Raybrig NSXの山本/牧野、No.8 ARTA NSXの野尻/福住、No.14 Wako'sスープラの大嶋/坪井)。勝てばチャンピオンというチームが6つもあることはまさに前代未聞だった。GT300はNo.56 Realize GT-Rが第7戦を勝ってランキングトップに躍り出て、自力チャンピオンの可能性で言えばRealizeとNo.65 Leon AMGの2組に絞られた。

決勝の運命をも左右する大事な予選。GT500では、自力チャンピオンの可能性のあったNo.8 ARTA、No.17 Keihin、No.14 Wako'sが相次いでQ1敗退を喫した。ポイントリーダーのNo.37 KeePerがポールポジションをとって、大事な大事な1ポイントも獲得した。GT300はウェイトから解き放たれたのもあって、上位6台が昨季までのコースレコードを塗り替える大激戦に。ポールポジションのNo.52 埼玉トヨペットに至っては、なんとレコードを約2秒更新する鬼気迫るアタックだった。

GT500のスタートはスープラ勢の逃げ切りかと思われた。しかし後方からプッシュしてきたMotul GT-Rが一躍トップに立つ。それを再びひっくり返してKeePerスープラがリードを奪い、Motul GT-Rに至ってはNo.36 auスープラとも争う格好になった。その後ろでは後方グリッドからの苦しいスタートだったKeihin NSXがひたひたと迫っており、それをRaybrig NSXが追う形に。Raybrigにとっては、スタンレー電機がRaybrigブランドを畳むため、このカラーリングで走る最後のレース。表彰台に立って、あわよくばチャンピオンで終わりたいという気持ちもあっただろう。そのRaybrigの猛プッシュは止まらず、なんと2位を走行していたauスープラを捉えてそのままオーバーテイク。このままでは終われないチャンピオン候補の一角、Wako'sスープラはなんと攻めのタイヤ無交換作戦。KeePerにピットタイム・タイヤの温まりでアドバンテージを得てコースに復帰する。しかしGT500にタイヤ無交換は厳しかったか、再び方針転換を迫られることとなってしまった。ピットアウトで一度はスープラの集団の後ろに復帰したRaybrigだったが、それを退けてまたもやトップのKeePerを直接追いかける立場に。そしてその差はじりじりと縮まり、一時は2秒差まで追いつめる、超が付くほどのハードプッシュだった。それでもKeePerはそれを振り切り、実況はだんだんとドラマチックに。ニック・キャシディがフォーミュラE参戦のために途中離脱したものの、パートナーの平川そしてチームを想って車番37を選択したというエピソードも紹介された。そんな平川が最終ラップ、最終コーナーを抜けてマシンをホームストレートに運ぶ。が…
あーヤバイー!37(KeePerスープラ)!37!燃費が、燃費が!チェッカーは100号車(Raybrig NSX)、100号車逆転チャンピオーーン!
―ピエール北川(場内アナウンサー)
悲痛な場内実況の絶叫。ガス欠*15により、力なくホームストレートを駆けていく平川のマシン。その横を駆け抜けていったのはRaybrigの山本だった。この瞬間、No.100 Team Kunimitsuがゴールまであと数100メートルで逆転、チャンピオンを獲得。公式映像には、信じられないとばかりに立ち尽くす山下と、歓喜のあまり泣き崩れる牧野が映った。そして、ライトの消えたマシンを降りた平川は、悔しさからか、ガードレールを一度殴り、その場を去った。そしてその先の第2セクターで、山本のマシンのライトも消えた。お互い死力を尽くした、まさに消耗戦と言える戦いだったのだ。のちに山本はスーパーフォーミュラのチャンピオンも確定させ、国内最高峰レース(GTとフォーミュラ)の2冠を達成。2018年以来二度目の偉業だった。

GT300は驚異のラップタイムを記録した埼玉トヨペットをBRZがオーバーテイクした。それでも埼玉トヨペットは食らいつき、トップを奪い返すことに成功する。自力タイトルを決められるRealize GT-RとLeon AMGは、No.6 Advics 86とNo.11 Gainer GT-Rの後ろにいたが、これを両者がオーバーテイク。さらにレース距離の1/3が過ぎるとLeonがタイヤ無交換戦略を選択して優位に立つ。そして埼玉トヨペットも無交換作戦をきっちり遂行し、無交換勢が大きなリードを築いた。しかしAdvics 86をオーバーテイクしたRealize GT-Rは、3位に浮上してこの位置ならチャンピオンというところに復帰。Leonはこのままではチャンピオンは潰えてしまうが、埼玉トヨペットスープラとの差はかなりのものまで広がっていた。そうこうしているうちにRealizeがLeonを捉え、まさに引導を渡すかのようなオーバーテイクで2位浮上。そしてそのままチェッカーを受けてNo.56 Realize GT-Rがチャンピオンを獲得諸事情により近藤真彦監督はいなかったが
埼玉トヨペットがノーウェイト・富士というデジャブ極まりない条件で再びの優勝を達成。2位にRealize、3位にLeonをオーバーテイクしたAdvics 86が入った。

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最終更新:2024年01月09日 15:42

*1 予選で2回戦に進出し、そこで一番速いラップを記録すると獲得できる、決勝レースで先頭からスタートできる権利。

*2 実際は1チームあたり2人のドライバーがいるが、便宜上、予選2回目でポールポジションを決めたドライバーの方だけを記載。

*3 なお、クラスが分かれているが総合優勝・総合順位は特に争われない。

*4 レースをしているとタイヤの摩耗が激しいため、ピットインしたら4輪すべて交換するのが定石である。しかし、すべて交換すると時間がかかるばかりか、全タイヤが冷えているので性能を引き出すまで時間がかかる。これを避けてアドバンテージを得ようと、状況が許せば部分交換や無交換でピットアウトするチームもある。

*5 初めて所属チームが勝った時は第3ドライバーで、結果的にドライブしていない。自身の操縦による優勝となると初めてである。

*6 ダンロップがGT500に1台しか供給していないということは、タイヤのデータが1台からしか取れないために、開発の効率が他のタイヤメーカーと比べてかなり低下するということである。そのため、Nakajima Racingも2007年から10年間優勝を経験しないなどの苦難があった

*7 SUPER GT公式がAll Driver's Appearanceと称して、レースごとにドライバー紹介の映像を撮影する。毎度奇想天外なコスチュームや小ネタを持ち込むチームもあり、嵯峨は特にそれで話題になっていた。

*8 Realizeのほうのブレーキが早かったとの指摘もある。

*9 レースで複数台が競り合っていると、一番タイムを縮められるラインをブロックされたりしたりするため、タイム自体は伸びない。バトルの機会がない場合はタイムを伸ばせて前方との差も縮まるため、バトルをしている前方の2台からの漁夫の利を狙える。

*10 セーフティカーが入ると、コース上のマシンは注意して低速走行しなければならない。この時にピットに入っていると、平常時よりもコース上のポジションのロスが少ない。そのためセーフティカー導入と同時に出来ればピットインする戦略がポピュラー。なおこれによって洒落にならないピットロードの渋滞が発生したため、SUPER GTではセーフティカー中はピットインできなくなった。

*11 なお、セーフティカーが出る前にピットインし、出てきたときにはセーフティカーラン中だったという状況は認められる。セーフティカーが出ると予想してピット戦略を変更しておけば利益を得ることも可能なのだ。

*12 セーフティカー中は隊列を組んで走り、前方の車両を追い抜くことができない。ピットアウトした段階でMotulはCalsonicの前に出ていたため、Calsonicはその位置を譲らなければならなかった

*13 反対に、セーフティカーランの後に全車の差が均一になると、ピットに1度入っただけで何ポジションも落としてしまう。

*14 実はマシンの損傷で第6戦のエントリーを断念しており、第7戦でもスペアカーで間に合わせていた。それにしたがってペナルティを受けなければならなかった。

*15 普通の車の利用とは違い、重量の違いが順位を左右しうるレースではうかつにガソリン満タンにはできない。そのため、ピットインしたら最小限の燃料を補給して送り出すのだが、必ずしもそれで走り切れる保証はない。凡ミスのように聞こえるガス欠も、時として極限に挑んだ結果の一つなのだ。