SCP-2321-JP

登録日:2021/02/25 Thu 20:03:21
更新日:2023/09/19 Tue 11:45:27
所要時間:約 11 分で読めます




SCP-2321-JPはシェアード・ワールド『SCP Foundation』の日本支部に登場するオブジェクトのひとつである。
オブジェクトクラスはEuclid。

概要

SCP-2321-JPは、日本各地で発生する異常現象である。
現象の内容は、「てるてる坊主がしゃべる」というもの。

てるてる坊主が何なのか分からない人はいないと思うが、一応解説。
てるてる坊主は、明日の天気が晴れることを願って作られる人形である。
具体的には、詰め物を布か紙でくるみ、首のところを紐などで縛れば完成。
ペンで顔を描いたりすることもあるが、実はこれは本来誤りであり、祈りが通じて晴れた時に顔を描くのが正解。

呼び方は地域差があり、「てるてる法師」「てれてれ坊主」「日和坊主(ひよりぼうず)」などがある。
また、明日に雨が降ることを願って逆さにつるすのは「ふれふれ坊主」「あめあめ坊主」「るてるて坊主」などと呼ばれる。
小学生のころ、遠足の前日に作ったことがある方も多いのでは?
そしてプール授業やマラソン大会の前日にふれふれ坊主を作った人も多いはず

SCP-2321-JPの説明に戻る。
しゃべりだしたてるてる坊主(SCP-2321-JP-Aに指定)は、作った人に対して「どうして明日晴れて欲しいのか」を尋ねる。
それに答えると、残念ながら明日は雨が降るからそれは叶わないと話す。

その翌日は必ず雨になり、作った人は激しい怒りをてるてる坊主に抱き、その首を刃物で切り取ってしまう。物騒だな
てるてる坊主の首を切った作成者は、SCP-2321-JPに関する記憶が次第に曖昧になっていき、最終的に夢の中の出来事だと思うようになる。
そして首を切られたてるてる坊主はもうしゃべりだすことは無い。

ちなみに、この「首を斬る」というのは童謡の「てるてる坊主」が元になっている。

具体的な歌詞は各自ググるなりして調べて頂きたいが、大まかな内容は「てるてる坊主よ 天気にしてくれたら金の鈴をあげるよ 天気にしてくれたら甘いお酒をあげるよ でも雨だったら首をちょん切るよ」という感じのもの。

ここまでなら「天気を正確に予測するてるてる坊主」というだけのオブジェクトなのだが、実はSCP-2321-JPは財団の機密情報に関与している可能性があった。
それは、この記事が「制空権ハブ」に属しているためである。

制空権ハブとは、「財団が世界の天候を制御している」という設定を共有しているハブである。
天候を制御する方法や目的は何でもよく、記事作成者にゆだねられている。

すなわち、このてるてる坊主たちは何らかの手段で財団が管理している天候の情報を感知している可能性があったのだ。
そこで財団はSCP-2321-JPに対する調査を行い、SCP-2321-JP-Aを回収、関連人物への記憶操作を行うという特別収容プロトコルを作製した。

インタビュー記録/2321-JP-A

回収されたてるてる坊主へのインタビューがこれである。

対象: SCP-2321-JP-A-2
インタビュアー: 加賀美研究員
実施日時: 2024年6月18日
________________________________________

<記録開始>

加賀美研究員:初めまして、SCP-2321…。

SCP-2321-JP-A-2: おいこら!ここはどこなんだ!急に変な連中に掴まれたと思ったらこんな何も見えないとこに閉じ込めやがって。俺をここから出せ!

加賀美研究員: それはできません。これからいくつか質問をしますので、嘘偽りなくお答えください。

SCP-2321-JP-A-2: ふざけんじゃねぇ。大体お前たちになんの権利があって俺をこんなとこに連れてきたんだ?えぇ?

加賀美研究員: その質問にお答えすることはできません。ではまず最初に、あなたは自身がてるてる坊主であることを認識していますか?

SCP-2321-JP-A-2: はっ、そんなのあたり前だろ。

加賀美研究員: だとするならば、こうして会話を行えていることに違和感を覚えないのですか?普通、てるてる坊主が喋るというのはありえないことだと思うのですが。

SCP-2321-JP-A-2: まぁそうだな。普通じゃありえない。でもな、流石に絶対に叶わない願いを祈らせ続けるのは可哀想ってもんだろ。

加賀美研究員: あなたの言う願いとは、あなたを作った人の「明日は晴れてほしい」というものでしょうか。 

SCP-2321-JP-A-2: あぁ。それが俺たちが作られる理由だし、それ以外に祈ることなんてないだろう?

加賀美研究員: まぁ、そうですね。しかし、あなたはあくまで願いを聞いて祈られる立場であって、実際に天候に影響を与えられるわけではありませんよね?

SCP-2321-JP-A-2: まぁ……そりゃそうだな。でもあれだ。案外人の願いとか祈りってのは、バカにできないもんだ。そうだろう?

加賀美研究員: いえ、私はあまりそうは…。

SCP-2321-JP-A-2: …そうかい。お堅い人だねぇアンタは。それじゃあまぁ、なんも見えてこないだろうさ。

加賀美研究員: それはどういう意味でしょうか。

SCP-2321-JP-A-2: さぁな、雹みたいに固いその頭で考えな。それもアンタの仕事だろ?

[以降SCP-2321-JP-A-2は加賀美研究員の質問に対して一切返答を行わなくなったため、インタビューは終了された]

<記録終了>

なお、途中から「なぜ財団が雨を降らせると予定している場所と時間を知っているのか」についての質問が追加されたが、全てのてるてる坊主が回答を拒否した。
この時、てるてる坊主は何かに怯えているようだったという。

インシデント記録/2321-JP-a

SCP-2321-JPが初めて確認されてから約1年が経過したころ、SCP-2321-JP-aが収容されているサイト-8197を中心として財団の天候計画にない積乱雲が発生し、163mmという激しい雨を降らせ始めた。
財団はこの突如として発生した予定外の雲を気象観測衛星「オモイカネ」によるレーザー照射によって消滅させようとしたものの、その度に新たな雲が生成されて失敗。
この時、落雷と同時に生物の咆哮のような音が観測された。

この降雨発生から3時間後、サイト-8197を中心とした半径およそ100mの範囲に赤色の雨が降り注いだ。
この直後、雨雲の中から正体不明の女性の遺体が出現し、サイト中庭に落下した。
遺体の落下から約1分後、サイト上空で前述の咆哮のような音が再び観測され、雨はピタリと止んだ。

このインシデントによって発生した死者・行方不明者は計37名、二次災害等によって損傷した家屋は約8700棟にも及んだ。
回収された女性の遺体には落下の際の損傷はなく、致命傷と思しき頸動脈の深い切り傷のみが確認された。

このインシデント発生中、てるてる坊主たちが何かに怯えている様子が観測されたため、急遽インタビューが実施された。

インタビュー記録/2321-JP-A-103


対象: SCP-2321-JP-A-103
インタビュアー: 加賀美研究員
________________________________________

<記録開始>

加賀美研究員: では早速ですが、SCP-2321-JP-A-103、貴方は一体何に怯えているのですか?

SCP-2321-JP-A-103: 貴方達、取り返しのつかないことをしてしまいましたね。

加賀美研究員: 我々が一体何をしたと言うのですか?

SCP-2321-JP-A-103: とぼけないでください。あなた方が空を滅茶苦茶にするから、あの方の逆鱗に触れたのではないですか。

加賀美研究員: 空…もしや、我々の天候操作技術の事をおっしゃっているのでしょうか。 

SCP-2321-JP-A-103: えぇ、恐らくはそれのことです。あなた方が空を我が物が如く操り始めた、それがよくなかったのです。

加賀美研究員: と、言いますと?

SCP-2321-JP-A-103: 天は古くから人の手の届かぬ領域でした。故に人々は祈り、贄を捧げ、恐れ、崇めてきました。しかし今はどうでしょうか。あなた方は奇妙な鉄の塊や宙からの光などを駆使して天を意のままにしたと驕り、畏怖の心を忘れている…。違いますか?

加賀美研究員: まぁ、結果だけ見ればそうかもしれません。しかし我々は自分の欲のままに行ったのではなく、必要となったからこのような方法を確立したのです。

SCP-2321-JP-A-103: ですがその軽率な行いは、結果としてあの方を怒らせたのです。

加賀美研究員: あの方と言いますと?

SCP-2321-JP-A-103: あなたもお聞きになったでしょう?雷鳴と共に地上に轟いたあの方の怒りの咆哮を、嘆きの叫びを。あなた方があのようなものを作り出さなければ、お妃様は自らを犠牲になど…。

加賀美研究員: お妃様?それは空から落下したあの女性の事をおっしゃっているのでしょうか。

SCP-2321-JP-A-103: えぇ、そうです。あの方はあなた方にお妃を奪われたも同然。あの方は酷く嘆き、その涙は地上に降り注ぐことでしょう。

加賀美研究員: 何故あなたがあの女性のことをご存じなのですか?

SCP-2321-JP-A-103: それは私が…[SCP-2321-JP-A-103の首が切断される。対象は異常性を失い、インタビューの継続は不可能となった]

<記録終了>

この直後、他のてるてる坊主たちも同時に首が切断され、異常性を喪失した。
このインタビューから、回収された女性の遺体(SCP-2321-JP-aに指定)がインシデントに関係していることが推測されたため、サイト-8197にて冷凍保存されている。
また、上空の咆哮を発生させた実体は、航空機による探索では発見できなかった。

さらに、インシデント翌日にもサイト-8197周辺地域に予定されていない乱層雲が発生し、雨を降らせた。
財団は再びレーザー照射で雲を消滅させようとしたが、効果はなし。
3日間降り注いだ雨が止んだ後、サイト入り口に一通の封筒が発見された。
封筒には唐紙で作られた箒を持った女性の人形と、同じく唐紙に北京語で書かれた手紙が封入されていた。
監視カメラには、この封筒が突如出現する映像が残っていた。

手紙の内容は以下の通り。

我が最愛の妻は死んだ。

我が怒りを鎮めるため、再びその身を犠牲にしたのだ。

一度人のために捧げたあの小さき体を、

此度は傲慢な貴様等なぞを守るために使ったのだ。

「貴方の怒りを鎮めるためならば、私はこの身を喜んで差し出しましょう」と笑ったのだ。

そして妻は刃を首に当て、私に別れを告げて地上へと還ってしまった。

私にはわからない。妻は何故お前らのような愚か者のために、永劫の命を投げ捨てたのか。

人よ、教えてくれ。何故妻は貴様らを救おうなどと考えたのだ?

神に近しい力を手に入れ、貴様等は一体何処へ向かおうとしているのだ?

財団はこの手紙の差出人とSCP-2321-JP-aの関連性を調査している。

考察

この記事は、てるてる坊主の起源といわれている中国の風習が元になっている。
中国ではてるてる坊主の代わりに、白い紙の頭に赤い紙の服を着せ、箒を持たせた「掃晴娘(サオチンニャン/そうせいじょう)」という女子の人形が箒で雨雲を払い、晴れにしてくれるという言い伝えがある。

この風習は、とある伝説に由来する。

昔、北京に美しく賢い「晴娘」という名の娘がいた。
ある年の6月、北京に大雨が降り続き、水があふれかえって人々を困らせた。
晴娘が「大雨が止みますように」と天に祈ると、天から「東海龍王の太子の妃になれ、さもなくば北京を水に沈める」という声が聞こえてきた。
晴娘は、北京の人々を守るために天へと嫁ぐことを決める。
雨が止み、晴れ渡った空の下に晴娘の姿は無かった。
それ以来、人々は雨が続くと、切り紙が得意だった晴娘を偲んで「掃晴娘」を作り、門に掛けて晴れを祈るようになったという。

インシデントで天に響き渡った咆哮は、天気を司る神である東海龍王のものだったのだろう。
てるてる坊主は彼の眷属のような存在であり、てるてる坊主たちを通して東海龍王は人々の願いを聞いていた。
しかし財団は天候を制御する技術を手に入れ、自ら天気を決めるようになる。
それに怒り狂った東海龍王をなだめるため、妃であった晴娘は再びその身を犠牲にしたのだ。
しかし、自らをないがしろにされただけでなく、愛する妻まで失った東海龍王は、財団に更なる裁きを下すのだろう……

財団は確かに人々の生活を守るために、天候の操作技術を確立した。
その方がオブジェクトの収容を行う上で都合の良いこともあっただろう。
しかし、それは本当に正しかったのだろうか?
古来より天を司ってきた神をないがしろにし、晴れを願う人々の切なる願いを踏みにじる行為ではなかったのか?

でもあれだ。案外人の願いとか祈りってのは、バカにできないもんだ。そうだろう?

てるてる坊主のこの言葉に対する加賀美研究員の返答が財団の答えなのだろう……

最後に

冒頭で紹介した童謡「てるてる坊主」には、歌にそぐわないとして削除された「幻の一番」があったことをご存じだろうか?
現在の歌詞では願いを叶えられなかったてるてる坊主は首を斬られてしまうが、この幻の一番では違う結末を迎える。

それは「もし雨だったら 空を眺めて一緒に泣こう」というもの。
SCP-2321-JP-Aたちは絶対に叶うことのない願いを持ち続ける人々をただ見るだけなのが忍びなかった。
だからきっとこう言いたかったのだろう


SCP-2321-JP


雨が降るから共に泣こう


追記・修正は遠足で雨に降られたことがある人にお願いします。



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最終更新:2023年09月19日 11:45