売国機関

登録日:2021/03/07 Sun 22:57:41
更新日:2024/02/10 Sat 21:57:59
所要時間:約 6 分で読めます





思想(イデオロギー)なぞ関係ない。ただ、愛国あるのみ。


思想(イデオロギー)なぞ関係ない。ただ、義務あるのみ。

“格好悪い”んだよ この平和は――!!

くたばれ――私の未来のために。


『売国機関』は原作:カルロ・ゼン、漫画:品 佳直による漫画作品。新潮社のウェブコミックサイト「くらげパンチ」で連載中。2022年8月15日に7巻が発売された。



◆概要

大国同士の争いに巻き込まれて振り回される国家と、その中で暗闘する特務機関の暗闘を描いている。

カルロ・ゼンの代表作である『幼女戦記』のテーマが末期戦の悲惨さなら、
こちらは戦後の過酷さをテーマとする作品。


なお本人に言わせれば『ハートフル&ほのぼの』とのこと。

相変わらず同志のセンスは独特である。



◆あらすじ

欧歴一九〇八年、連邦と王国、二つの大国による戦争が終わりを告げてから一年。

両国に挟まれ戦場となったチュファルテク合同共和国は未だ動乱の只中にあった。

列強に押し付けられた『平和』を良しとしない者、共和国を利用し自国の利益にせんと目論む者たちによって。

ヨランダ・ロフスキ率いる特務機関『オペラ座』はそんな不安定な『平和』を維持せんと奔走する。

たとえ自国民にすら銃を向けてでも――


【登場人物】
※cv表記は単行本発売記念PVのもの

◆チュファルテク合同共和国

  • ヨランダ・ロフスキ

特務機関『オペラ座』を率いる女性軍人。階級は少佐。

まれいたそボイスのお姉さんだぞ。お前ら喜べよ。

戦争の最前線を戦い抜いた塹壕貴族の一人であり、現場主義の権化。なお、本物の貴族でもある。

愛国者であり我が物顔で共和国をのし歩く連邦や王国を強く嫌っているが、
同時に仮初とはいえ『平和』である現在のありがたみを理解しない自国民も侮蔑しており、
銃を向けることにも躊躇いが無い。

一方で戦場を共にした仲間たちには慈悲深く献身的であり、
かつて自分たちが見殺しにした共和国東部の生き残りには石を投げられようとも抵抗しなかった。


  • モニカ・シルサルスキ

士官学校を首席で卒業したばかりの新人少尉。
殉職したジェイコブ中尉の穴埋めとしてオペラ座へと派遣される。
なまじ優秀だったためにヤバい人が集うヤバい職場に放り込まれて、ヤバいお得意先を回らされる羽目になった気の毒な人。

戦場を知らない『戦後の軍人』であるため過激な言動の多いオペラ座隊員たちに振り回されることも多い。

しかし首席だけあって理解力はそれなり。



  • リーナ・マートン

オペラ座に所属する女性軍人。階級は准尉。

元衛生兵だが、狙撃の腕も確か。

現場を知らないモニカを案外と面倒見よく色々教えている。

常に眠たげなどんよりとした目つきをしているが、変装時には理知的で明るそうに振る舞っていた。
その変貌ぶりは変装術を教えたデイブ本人もドン引きするほど。


  • ジャコモ・ロッティ

オペラ座所属の法医学医で退役軍医中尉。

飄々とした気さくな人柄で医者としての腕も良いが、容赦なく拷問まがいの尋問も行う。


  • ロベルト・マイナーク

オペラ座の課長代理で階級は大尉。元砲兵。
ヨランダの片腕。


  • ベルナルディーノ・バーク

オペラ座の一員。元工兵。

オペラ座一のジェントルマンだが、必要となれば子供であろうと撃てる冷徹な面も。


・グスタルボ

戦時中ジェイコブの部下だった傷痍軍人。
戦争末期に捕虜となっており、片足を失いながらも生き延びていた。

路上で物乞い状態だったのをヨランダに保護され、後にオペラ座に所属となる。階級は軍曹。
以降は義足を着用し、リーナ共々モニカの教育係を務める。


  • ジェイコブ

オペラ座の一員で階級は中尉。
首相官邸を襲撃した暴徒の鎮圧中に降伏した少年兵に背後から撃たれ死亡する。

ヨランダからは洟垂れ扱いされつつも信頼されており、
死後に無意識で彼に呼びかけてしまう場面も。


  • デイブ・クローリー

オペラ座の事務方担当。皮肉屋。


  • セルジョ・ハイネマン

オペラ座の局長で退役陸軍大佐。
ヨランダ達を統率するトップ。

王国と連邦への憎悪からいつ暴走するか分からない部下と軍部に悩まされる。


  • 情報部長
参謀本部所属の将官。
一見するとヨランダとは敵対しているように見えるが、
実際には参謀本部内の内通者を炙り出すために手を組んでいた。

王国弱体化のために社会主義者との協調を画策する危うい面も。


  • 首相
共和国首相。
善良な人物ではあるのだが、その分オペラ座はじめ軍部への警戒心が強い。
また、協調主義ゆえに国民からは弱腰と批判されている。

ヨランダ等からは現場を知らないおめでたい男として酷評されている。


  • タバコ売りの兄妹

路上でタバコなど日用品を売っている兄妹。
まだ幼いが、信用の置けない共和国通貨での取引は応じてくれないなど既にしっかりしている。

  • シスター・テレサ

cv.下屋則子
教会で働くおっとりしたシスター。

その正体は王国のスパイ。
市井に紛れ込みながら情報を王国に流している。

しかしながら職務の度を越した陰謀狂いであり、
表と裏両方の立場から各所に情報を流して疑念を植え付け、事態が引っ掻き回されるのを眺め狂喜する。
その一方で仕事と割り切って謀を行う人間を嫌い、謀殺することも辞さない超危険人物。

『平和な日常パートの住人に見えて実は...』という裏ボスみたいなキャラクター。



◆クライス連邦

  • ディアナ・フォン・バルヒェット
共和国に駐屯する連邦軍大佐であり、合同調整局所属。

オペラ座と協調姿勢であるような言動をしつつ、
局の勢力を拡大しようと画策するえげつない策謀家。

二人の息子を持つ肝っ玉かーちゃんでもある。


◆ガルダリケ王国

  • オルロフ
共和国に派遣されてきた王国大使。

『なんでこいつを大使に任命した』と言いたくなるレベルの超タカ派であり、
首相の前ですら共和国を国扱いせずに「チュファルテク」とまるで王国の一地方のように呼ぶほど露骨。

貴族出身の元将軍で、貴族主義の権化。
元共和国捕虜の王国軍人にすら冷淡。

全方向から『コイツ早く死なねーかな』と嫌われている凄い人物。

最終的には記者会見中にシスター・テレサに唆された自国の大使館職員によって襲撃されて死亡。その死は王国内の政治的理由からしばらくは隠匿された。

後に王国外務大臣が対共和国強硬派の筆頭格であった事が判明したため、その縁で大使に着任していたと思われる。
もっとも、その外務大臣からも道化の捨て駒にされていた可能性が高い。

  • ルィバルコ
王国海軍より派遣されてきたオルロフ大使の警護担当武官。階級は少佐。

表向きはいらん事を始めかねないオルロフの抑え役だが、
裏では共和国と連邦への諜報任務を命じられる。

基本的には穏健派であるため、オルロフとの相性は悪い。

シスター・テレサの思惑に乗せられて反オルロフ派を刺激してしまい、オルロフ襲撃事件の引き金に。
襲撃を防げなかったばかりか、投げられた手榴弾の影響で一時的に視力が低下した為に
オルロフを治療しようと近づいてきたジャコモ目掛けて発砲するという大失態を演じてしまう。

生真面目で実直で能力もある海軍将校の見本みたいな人物だが、劇中では周囲から妙な誤解や疑惑の目を向けられる傾向がある、ちょっとかわいそうな人。



【用語】

  • チュファルテク合同共和国

物語の舞台となる国家。かつては王国領の一部だった。
王国と連邦に挟まれた緩衝地帯となっていたが、自由主義の高まりから連邦への接触が始まる。
緩衝地帯が消滅することを警戒した王国に侵攻され、それに対抗する形で連邦も進軍し、戦場にされる。
熾烈極まる塹壕戦の果てに二国の都合だけで停戦が結ばれ、強引な戦後と『平和』を押し付けられることに。

復興は進んでおらず西部は農家が貧困にあえぎ、主戦場であった東部は麻薬が蔓延している。
そのうえ、連邦と王国の双方からの分断工作が進んでいるという悲惨な有様。
更に排外主義者や社会主義者も数多く存在している。

インフレも凄まじい勢いで進んでいる上に、金本位制が崩壊していることから
自国通貨の信用が無いため、自国内で連邦か王国の通貨でなければ支払いに使えないなんてことも。

モデルは恐らくポーランド。実際、劇中でよく使われるデフォルメ絵では馬の擬人化が使われている。


  • オペラ座

正式名は軍務省法務局 公衆衛生課 独立大隊。

共和国の『平和』維持のために武力制圧すら含んだ活動を行う特務機関。

必要とあれば自国民をも攻撃し、連邦や王国とも協調することから『売国機関』と蔑視されることも。

実働部隊は新人のモニカを除けばヨランダを筆頭に実戦帰りのベテランぞろいであり、
現在の『平和』の必要性を理解できている者たち。

一方で侵攻してきた王国、自分たちを対王国の防波堤としか思っていない連邦を
戦時中から見てきた為、内に秘めた鬱憤と憎悪は計り知れないものがある。


  • クライス連邦

共和国西方に位置する大国。

戦後は同盟国という立場を笠に共和国各地に軍を駐屯させており、
まるで属国のようにこき使っている。
ただ、世論はさておき、政府・軍の総意はあくまで『安全保障の縦深』のみを欲しており、余計な負担を増やす植民地や属国、ましてや併合のようなことは望んでいない。

モデルはドイツか。


  • ガルダリケ王国

共和国の東の列強。

終戦後も共和国と連邦双方の内情を不安定にさせようと工作を行う。
元々共和国が自国領ということもあって積極的に再併合を望む・・・というわけでもなく
彼らもあくまで『国境の安全保障上の問題』(あとやはり元支配者としての面子)として共和国が連邦側に加担するのを望まないだけである。
ただ、貴族主義がはびこっている影響で方針が統一されておらず、オルロフのような過激派と穏健派が
せめぎあっているような状況。

モデルになっているのはロシアと思われる。





追記・修正は塹壕で泥をすすり生き延びた人がお願いします。

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最終更新:2024年02月10日 21:57