クラーラ・マグノリア/アン・マグノリア(ヴァイオレット・エヴァーガーデン)

登録日:2021/07/04 Sun 18:27:16
更新日:2023/09/08 Fri 20:57:28
所要時間:約 15 分で読めます




アン・マグノリアとクラーラ・マグノリアは、暁佳奈原作の京都アニメーションの小説・アニメ作品であるヴァイオレット・エヴァーガーデンの登場人物。

小説版では序盤も序盤の第2話目、アニメ版では後半の全13話中の第10話に描かれた話に登場し、読者視聴者に感動と衝撃を与えた。



人物紹介


クラーラ・マグノリア(CV:川澄綾子
依頼人でアンの母親。
名家のお嬢様。不器用だが好奇心旺盛で様々な習い事に手を出し、乙女気質で恋物語を好む人だという。
だが重い病を患っており、依頼当時は市街地から離れた広い屋敷から出られない状態となっている。
病弱な当主で男手もなく子どものアンも幼いことから、財産を狙う利権問題も抱えている。
「遠くにいる人」に手紙を送るためにヴァイオレットに依頼した。その人物とは…?

アン・マグノリア(CV:諸星すみれ)
依頼人であるクラーラの娘。小説版で7歳とあり、アニメ版も近い雰囲気で描かれている。
母親に似て好奇心旺盛で、誰よりも母親のことが大好きな少女。それだけに自分たちの時間を邪魔してくる来客を快く思っていない。
ヴァイオレットに対しても最初は警戒心をあらわにしていたが、徐々に心を開いていく。
好きな遊びは人形遊び、なぞなぞ、虫取り。

クラーラの夫にしてアンの父である人物については小説とアニメで描写が異なる。
小説版では名家出身でクラーラと恋愛結婚したものの、ある商いに失敗して以降は家庭を放棄したろくでなしと化してしまった。
アニメ版では先の戦争で戦死したとされている。


登場エピソード概要(小説版・アニメ版共通部分)

小説版とアニメ版の差異もあり、台詞部分は厳密な抜き出しではない形とする。
また小説版とアニメ版での差異について、一部については注釈を付けつつここで取り上げる形とした。


ある日、自動手記人形のヴァイオレット・エヴァーガーデンがマグノリア邸を訪れる。
クラーラが依頼したものであり、1週間の間滞在して手紙を書きあげていく。
美しく来訪者にアンは好奇心と警戒心両方を抱えつつヴァイオレットを観察。
やがて好奇心の方が勝ち、クラーラとヴァイオレットの仕事の合間にアンとヴァイオレットの間も交流が進んでいく。

しかしたった1週間の間にもクラーラの病状は進み、母親との永遠の別れが近いことを察しているアンは寂しさを募らせていく。
手紙を書くのをやめるようアンは頼むも、クラーラは決して聞き入れない。
「わたしより大事な手紙なの?」
「アンより大事なものなんてないわ」
「うそつき……!」
「噓じゃないわ」
クラーラはなだめるが、アンの不安と寂しさは限界だった。

「うそつき!ずっとうそつき!」
手紙のことだけじゃない。お母さんちっとも良くならないじゃない。すぐに元気になるって言ったくせに!」

これを受けた母クラーラは
小説版:体調の悪さを隠せないまま笑顔で黙り込むも、やがて涙をこぼしながらアンに一度部屋の外に出るよう促す。
    アンは謝るために残ろうとするが、ヴァイオレットが追い出す。
アニメ版:衝撃を受け涙をこぼし、母の涙を見たアンはクラーラが引き止めるのも聞かずに自ら屋敷の外に飛び出していく。


しばらくしてアンを見つけたヴァイオレット。
彼女なりに励ますが、アンの気持ちは収まりそうにない。
母親を泣かせる「悪い子」な自分への怒り、母親の余命が近いことへの悲しみ、そして貴重な時間を消費してしまうヴァイオレットへの憤り。
言葉にならない様々な感情を目の前のヴァイオレットにぶつけるアン。
それでも冷静に、ヴァイオレットは彼女に言葉をかけようとする。


「なにも…どうにもならないことなのです」

「私の腕が貴女の腕のように…」

「柔らかい肌にならないのと同じくらい」

ヴァイオレットの優しさに包まれて沢山泣き、やがてアンは落ち着きを取り戻した。

「お母さんを取らないで」「せめて手紙を書く間傍にいさせて」とアンはヴァイオレットに頼むが、
「あと数日です」「あくまで依頼人は奥様です」と断る。


「どうして…手紙を書くの…?」

「人には届けたい想いがあるのです」

「そんなの…!届かなくて良い…!」


「届かなくて良い手紙なんて…ないのですよ、お嬢様」


1週間が経ち、依頼を完了したヴァイオレットは去っていった。

そして冬を越して、春、クラーラは亡くなった。


そうしてアンが母を亡くして迎えた8歳の誕生日
手紙が届いた。

《アン、八歳の誕生日おめでとう。悲しい事がたくさんあるかも知れない。頑張る事が多くて挫けているかも。》
《でも負けないで、寂しくて泣いてしまうこともあるかも知れないけど忘れないで。》
《お母さんはいつもアンのこと、愛しているのよ》

その後も

アニメ版:十歳の誕生日に

《アン、十歳の誕生日おめでとう。背も伸びて随分大きくなったんでしょうね。でもまだ本を読むのと踊ることは好きでしょう》
《なぞなぞと虫取りは卒業したかしら?》

小説版:十六歳の誕生日には

《そろそろ車に乗る頃かしら?》

二十歳の誕生日にも

《誕生日おめでとう、アン。》
《二十年も生きたのね、凄いわ。》
《大人になってもたまには弱音を吐いても良いのよ?貴女が不安になっても私がいるわ。》

《アン…ずっと、ずっと…見守ってるわ》


こうして何年もの間、アンの誕生日ごとに手紙が届いた。
母クラーラが病をおして代筆人ヴァイオレットと用意していたのは、未来の娘に宛てた手紙だったのである。



小説版・アニメ版それぞれの違い

上述の大筋を共通として、原作小説とアニメ版とでいくらか違った描写が行われている。

原作小説:『少女と自動手記人形』

小説家と自動手記人形』に続く上巻の第2話として収録。
小説版はアンの視点で描かれる。

前提として、小説版はここまで主人公ヴァイオレットの過去が一切謎の状態、
また小説版のヴァイオレットは武器を扱う。このエピソードでもクラーラの依頼から続けて紛争地域に向かうため、マグノリア邸に持ち込んでいることが語られている。


  • アンの警戒心が強め
病を抱えた母クラーラを放置して家に帰らない父や財産無心に来る親族を軽蔑しており、そんなろくでなしたちにまで優しい母のお人好しぶりにも呆れている。
親族どころか実の父すら信用できない状態であり、加えて医者から母の余命が短いことを既に知らされており、自分の屋敷を訪れた美しくも異質な存在であるヴァイオレットには警戒心を強くしている。

ところが「食事はみんなでする方が楽しい」と思うアンに対し「独りで食べたい」とヴァイオレットが共同の食事を断った意識の違いから好奇心が芽生え、ヴァイオレットを探ろうと食事運びを引き受け滞在する部屋を訪れる。
荷物から見つけた銃について子ども相手でも真剣に語る、無機質ながら美しい姿に魅了されてしまうが、自分があっさり魅了されたのを自覚したことで逆に魔性の人物として一層警戒心を強くするアン。

だが

「命令を、ください」
去り際に部屋を振り返ったことで垣間見た、無骨な銃を握りつつ祈る姿に「寂しさ」「大人の女性」を感じたことで、アンはヴァイオレットに完全に惹かれてしまったのだった。
以降も探るためと言いつつアンは何かとヴァイオレットに声をかけていく


  • 依頼完了後のエピローグ
小説版では8歳、14歳、16歳、20歳のときに届いた手紙の内容が語られる。
また手紙はクラーラに筆跡を似せた上で手書きで綴られている旨と、年齢に応じたプレゼントも用意されていたことが語られている。

ヴァイオレットはアンが大人になり、結婚して娘が誕生した後も自動手記人形を続けている事が結末で示唆されている。
原作小説は収録・発売順と劇中時系列が必ずしも連動しないオムニバス形式であるが、時間経過が明確に示された話の中では本話のラストが一番先の未來を描いている。

そして、物語の導入と最後に、次のような文章が添えられている。


わたし、覚えています。
彼女がいたこと。
そこにいて、静かに、手紙を書いていたこと。
わたし、覚えています。
あの人と、微笑う母の姿。
わたし、その光景を、きっと。
死ぬまで忘れないでしょう。

  • ヴァイオレットの描写
何かに祈る姿や7歳児のアンとの交流を見せたとはいえ、こちらのヴァイオレットは荒事もこなす謎多き仕事人という描写である。
彼女の背景が分かるのは小説版ではもう少し先となる。

  • 短編小説にて
アニメ劇場版の特典冊子に掲載された短編『アン・マグノリアと十九歳の誕生日』*1では、タイトル通り19歳になったアンを主役としたエピソードが描かれ、
マグノリア家の遺産を狙う利権諸々から家を守るために新米の法律家となった姿を見せている。



アニメ版:「愛する人は ずっと見守っている」

第10話として放送。
アニメ版は第1話と中盤のエピソードによりヴァイオレットの過去が明かされており、
戦場で拾われた孤児であること、ギルベルトについて戦場を駆け回り、上官であり大切な人であるギルベルトを先の大戦で失ったことが明かされた後の物語である。

アニメ版では冒頭にアンの視点が少しあるも、ヴァイオレットが屋敷に着いてからはヴァイオレットの視点を中心に描かれる。
ナレーションがなく説明が台詞のみとなってしまうことに加え、作風の違いもあって小説で地の文にあった描写がカット・変更となっている。


  • アンがヴァイオレットを本物の人形と勘違いする。
自動手記「人形」であり機械製の腕を持つ無表情なヴァイオレットを、アンは本物の人形と勘違いした状態から1週間の滞在が始まる。
小説版では初回エピソード「小説家と自動手記人形」のオスカー・ウェブスターが同様の勘違いをしていたが、偶然とはいえ「成人男性が女性の着替えを見てしまう」ことで真相が判明する形であり、マイルドな形になるよう幼子の微笑ましいエピソードとして変更されたのだろう。

金の無心に来る親族がいるのは共通とはいえ、父への信頼を失っていないためかヴァイオレットへの警戒心がいくらか薄れている。
堕落したろくでなし状態で生きているのと戦死のどっちかマシか比べるのも酷な話であるが…
とはいえ僻地に突然現れた美人への違和感や、母との時間が減ってしまうことへの嫉妬心は小説版と同様に抱えている。
一方、ヴァイオレットにも小説版より人間味が見られ、読み聞かせや人形遊びを通して心を開きつつ、アンに冗談を言う場面も。

  • ヴァイオレットがアンに語りかけた「届かなくて良い手紙なんてないのですよ」の背景エピソード追加
アニメ版では前話に配達スタッフがサボって溜まっていた未配達品をヴァイオレットも協力して配達するエピソードがあり、
「届かなくて良い手紙なんてない」は、その中でベテランの配達人に言われた台詞となっている。

  • アンとヴァイオレットの別れの時。「人形」誤解の解消。
アンはこれまでの感謝を告げるかのように、ヴァイオレットに優しくキスをする。
その体温で、アンは、彼女が本物の人形ではなかったのだと気づいたのであった。

  • エピローグ
アニメ版の手紙はタイプライターで綴ったものとなっている。
8歳、10歳、18歳、20歳のアンに向けた手紙の内容がクラーラの声で語りかけられ*2
最後に20歳のアンに向けた手紙とアンが幼い子どもを抱えて空を見上げる未来の姿が映る。


…と、ここでクラーラの依頼を終えた後の、現在のヴァイオレットの様子に時間が戻る。

C.H社に帰還して依頼結果の報告をするヴァイオレット。
小説版では手紙の数は不明であった(アンが配達人に尋ねるも内緒にされている)が、アニメ版ではC.H社内の会話として合計50通と明かされている。
これが長い時をかけて誕生日のたびに、アンのもとに届くのである。
余命の少なさを察した母が残される娘に向けて送る手紙の依頼、それも50通もの手紙を綴ってきたことに感心するC.H社の同僚たち。

しかしヴァイオレットは…


「届く頃には…お母様も…」

「まだ、あんなに小さい…寂しがり屋で…お母様が…大好きなお嬢様を残して…」

「あのお屋敷に一人…残されて…!」

小説版では依頼を受けているヴァイオレットの内心はほとんど語られなかった。
アニメ版では同僚の言葉をきっかけに、代筆中からずっと堪え続けてきた思いと大粒の涙を流す。

そんなヴァイオレットを先輩のカトレアは優しく抱きしめ、語りかける。


「届くのよ…貴女の書いた手紙が」

「それに…遠く離れていても――」



「愛する人は ずっと見守っている」


無言で表示されたこの台詞の字幕でアニメ版第10話は締めくくられる。



アニメ版余談

  • 評価
各所で高い評価を受けているアニメ版であるが、その中でもこの『愛する人は ずっと見守っている』は「屈指の神回」と呼ばれ、メディア紹介の際も取り上げられることがあるエピソード。
また「ヴァイオレットの成長という視点から見れば、これが実質的な最終回と言ってもいい」という人も。

  • テレビ版とソフト版の音楽の違い
このエピソードはテレビ放映版とソフト版とで終盤の音楽が変更されている。
変えられたのはアンの8歳の誕生日部分からであり、
テレビ版:『みちしるべ』の間奏から2番以降とスタッフクレジットが流れる特殊エンディング
ソフト版:特殊エンディングの形でなく引き続きBGMが流れ、本編終了後に『みちしるべ』の1番が流れる全編共通のエンディング形式
なおヴァイオレットが会社に戻ってからの場面はBGMが無くなり会話音声のみで進んでいく。
興味のある人は比べてみるといいだろう。
ちなみに『みちしるべ』と差し替えられた曲には、サウンドトラックCD発売の際に『What It Means To Love(=愛することの意味)』の題が付けられている。

2021年10月29日にはアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』テレビ版の特別編集版が日本テレビの金曜ロードショーで放映されたが、
この第10話の内容は2時間弱の放送枠のラストに、しかもほぼノーカットの形で放映された。
終わりは映像編集に合わせてキャストクレジットを再作成し、上述の特殊エンディングの形で締めくくられている。



劇場版にて

テレビ放映から2年後、アニメの続編にして完結編となる『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が公開された。


デイジー・マグノリアは、数日前に亡くなった祖母の屋敷にいた。
彼女は決して、両親を愛していないわけではない。むしろ、誰よりも愛している。
だが、祖母アンが大好きだった彼女は、仕事が忙しく祖母とあまり会うことのできなかった両親に対して複雑な気持ちを抱いていた。

想いを伝えられず、逆に避けるような言動をしてしまうデイジー。
そんな時、彼女は祖母の遺品の箱の中を見る。
そこに入っていたのは、曾祖母が一人残される祖母のために書いた、50通の手紙。
電話の普及から、いまや主流ではなくなった代筆人「自動手記人形」によって書かれたものだった。

曾祖母の祖母に対する愛を感じるデイジー。
箱の中には、一枚の新聞の切り抜きもあった。
それは、この手紙の書き手についての記事。
お姫様の恋文を、歌姫のオペラの作詞を、劇作家の台本の代筆をこなした、誰よりも話題になったドール。
ライデンの郵便局に勤め、18歳で仕事を辞めたドール。


ヴァイオレット・エヴァーガーデン


そう、劇場版は第10話で7歳だったアンが、誕生日に届く手紙50通を全て受け取った上で亡くなった後の、マグノリア家の未来の様子から始まるのである。

ある悲劇的な事件による制作上の困難、さらに世界的な危機により公開延期を余儀なくされた本作の劇場版。
公開を心待ちにしていた観客の目に飛び込んできたものは、想像もしなかったものであった。
アニメ版の最高のエピソードと言われるこの物語の後日談をプロローグとする演出は、あらすじでも一切語られておらず、観客にとっては完全なサプライズであり、
「開始5分で泣いた」という感想が続出した。

ちなみに劇場版でデイジーを演じたのはこの10話でアンを演じた諸星すみれ氏。
また、この映画の冒頭から10分間は京都アニメーションのYouTubeチャンネルにて無料公開されている。気になった人は見てみよう。




追記・修正は大切な人へ「あいしてる」を伝えた人がよろしくお願いします。


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最終更新:2023年09月08日 20:57

*1 2022年に受注限定販売された短編小説集『ヴァイオレット・エヴァーガーデン ~ラスト・レター~』に再録。

*2 小説版でも「手紙を読めば忘れかけた母の声が思い起こされる」との描写あり