熊徹(バケモノの子)

登録日:2021/07/09 (金曜日) 11:29:51
更新日:2024/02/20 Tue 11:21:14
所要時間:約10分で読めます




CV:役所広司

アニメーション映画『バケモノの子』の登場キャラクター。

「おめぇ、俺と一緒に来るか?」

「何泣いてんだ馬鹿野郎!メソメソしてる奴は嫌いなんだよ!!」

概要

人間とは別個の知的社会性種族・バケモノの街の一つである「渋天街」に暮らす巨躯な体格*1をした熊の獣人。

街指折りの武芸の達者で、長である「宗師」にも立候補している。
しかし傲岸不遜という宗師に務めるには到底相応しくないその気質から、街の住民たちからは疎んじられていた。

しかしある日一人の人間の少年との出逢いが、彼の運命を変えてゆく。

モチーフは『七人の侍』などといった多数の名作に出演した日本の名優・三船敏郎

性格・能力

上記の通り、傲岸不遜且つ手前勝手な性分で、他者を顧みることも余りない。普段の態度も横暴であり、決闘の際も相手を煽るような挑発をするなど、御世辞にも好人物とは言い難い。
ただし人情がないのかというと決してそうでもなく、バケモノ社会からは疎まれた存在である人間の九太を自身と重ね合わせて育てようとするなど、世間体に惑わされず飽くまで自身の判断で物事を決める懐の深さがある。
また俗欲も皆無で、実力が認知され多数の弟子たちからの月謝で相当な収入を得て尚も、見窄らしい住居に住み続け、自宅を改築することもなかった。豪勢な邸宅に住んでいる猪王山とは対照的である*2

物心ついたころから親のいない天涯孤独の身であり、そのため唯一家族と呼べる存在である九太には特別な感情を抱いている。
彼との交流と修行は、普段は威張り合いながらも熊徹自身の最大の生き甲斐となり、次第に街最強の武人の称号とも言える宗師を目指すモチベーションにも繋がっていく。
一方で九太に対する依存心が極めて強く、彼が青年に成長し自主的行動が目立つようになると、それを良しとせず過保護、過干渉になり子離れをしようとしないという、親、保護者として問題のある行為を見せ、次第に九太に不満を抱かせることになる。
尚、幼少期の頃は周囲からかなり疎ましく思われており、それ故嫌がらせを受けることもあったという。
恐らく傲岸不遜な振る舞いは、こういった辛い幼少期を送ったことが起因しているのかも知れない。

交友関係については、再三記すように傲岸不遜極まりない態度から基本的に住民たちとの折り合いは良くない一方、多々良や百秋坊、猪王山といった友人も少なからずいる。
多々良と百秋坊とは特に気が合い、日常的に一緒に居ることが多く、二人をそれぞれ「多々」、「百」と呼んでいる。そんな多々良と百秋坊も熊徹の破天荒ぶりを咎めはしつつも、何だかんだで彼のことが気がかりである節がある*3
猪王山は武芸の実力を競い合うライバル同士ではあるが、言い換えればそれ程両者は互いの力量を認め合っていることでもあり、事実日頃の二人の交流を見ても関係は良好であることがうかがえる*4。ただし猪王山は熊徹と違い保守的で多数派の意見を尊重している節があり、それ故に意見が対立してしまうこともある。
また現渋天街の宗師である卯月は、数少ない熊徹の恩人の一人である。
彼は宗師故の温厚篤実と器の広さからか、周囲から敬遠されている熊徹を常に気にかけている節があり、破天荒な彼の気質も容認している*5。そのためか、熊徹は卯月に対してだけは頭が上がらず、謁見の際も低姿勢となる。
もっとも、熊徹の質素な暮らしぶりや自らの指示による各地域の宗師に謁見させる旅の費用は工面しなかったことから、金銭的な援助はしていない模様。

上記のように弟子にして義理の息子ともいえる九太に対しては特別な感情を抱いており、彼との交流は自身にとっての最大の生き甲斐となった。

上記のように、街の丘の上にある庭付きの1LDK程度の広さがあるやや古びた小屋が自宅であり、鶏を飼育している。

好物は卵かけご飯であり、朝食は決まって飼育している鶏が産んだ卵を材料とした卵かけご飯にしている程。

定職には就いておらず様々なアルバイトを掛け持ちして生計を立てている。武人としての質が認められかなりの収益を得てからは不明。

巨漢でありながらその身のこなしは軽く、側転を決めたり木々の枝を軽々と飛び移るなど、
その身体能力は極めて高い。
武芸ではその身体能力を活かした自己流の流儀であるが、
誰からの指南を受けた武術ではないため、本人の壊滅的な説明下手も相俟って体得には困難を極める。
恐らく弟子が中々集まらなった主な要因と思われるが、九太は熊徹の日頃の動作を真似して会得に成功した。

このように、長所こそあれ性格的に不器用な面が目立ちがちだが、
九太との種族を超えた信頼関係によって最終的に大いなる奇跡を引き起こす。

来歴

ある日の夜、多々良に連れられ人間界の街である渋谷を徘徊していたところ、高架下で一人のみすぼらしい人間の子供を目にする。

自身の弟子になるか提案した後街へ帰ると、広場で自分たちを追ってきたその子供と再会。彼を自宅に招き入れると、その少年を「九太」と名付た。

翌日の朝、九太を朝食に誘うも彼が嫌いな食材(生卵)を食べるよう強要し言い争いとなったことが原因で彼がその場から逃走。それを追う形で広場に寄ると猪王山に遭遇し、彼と人間の九太を弟子に取るか否かで武闘対決に発展するが、
相手を舐め腐ったことで敗北。
しかしその直後、宗師・卯月がその場に現れ九太を弟子に迎え入れることを許可され、帰宅後には九太から「もしあんたといて強くなれるなら、俺あんたの弟子になってやってもいいぜ」と言われた後、必死にあれ程嫌がっていた卵かけご飯を食べる様を目の当たりにして感激、改めて彼を弟子として育てることを決意した。

翌日から早速稽古を開始するも、説明があまりに大雑把かつ漠然であるために無論九太がそれを理解できる筈はなく、
結果お互いのイライラをぶつけ合ってしまいお世辞にも良い師弟関係とは言い難いスタートとなった。

その後卯月の計らいで渋天街以外の各地の宗師を訪ね回り、それによって九太は強さの意味を見出した他、日常的に熊徹の動作を観察し真似し続けたことによって次第に身のこなし方が身についていく。

それによって修行が軌道に乗り出し、いつしか二人は街の評判を買い、
住民たちの支持を受けるようになった。


8年後、熊徹は正式に次期宗師候補者に任ぜられ、九太との良き師弟関係も築いていたが、
ある日彼は自主稽古を申し出るようになり、それを切っ掛けに自主行動が目立つようになる。
元来九太への子離れをするつもりのなかった熊徹はこれを頑として許さなかったが、次第に彼は自身の視界に入る機会が日に追って少なくなっていった。

そしてある日の夜、九太が人間界へ関心を示し出したことで大学への進学を希望していることを告げられる。
しかしそれを許さなかったことで彼に見切りをつけられてしまい、一方的に別れを切り出され、そのまま九太は熊徹の元を去ってしまった。

後日、卯月が遂に神への転生を決意したことに伴い正式な後任を決定する闘技試合が開催される。しかし九太との不本意な別れによる傷心は癒えぬままであった。

当然モチベーション0のまま試合に望むこととなり、開始早々、自暴自棄から無茶な攻撃を対戦相手の猪王山にしたことで案の定却って墓穴を掘ることとなり追い詰められた挙句、まさかの戦意喪失しその場に倒れ込んでしまう。

そして軍配が猪王山に上がろうとしたその時、
見切りをつけられたはずの九太が現れる。

そしてーーー

九太「何やってんだ馬鹿野郎!とっとと立て!!」

そう彼から叱咤激励されると、己を奮い上がらせ立ち上がり、試合を強引に再開させる。
そして九太の熱い声援を受けながら猪王山へ猛攻を仕掛け、ついに隙を突いてカウンターの右ストレートを渾身の力で彼の顔面に叩き込んだ。

猪王山はそのまま倒れ込み、主審が1つ、2つ、3つとカウントを数え始める。
そして10になっても、猪王山が起き上がることはなかった。

ーーー勝負は決した!熊徹!ーーー

当初は人格者・猪王山への対抗心という他愛もない動機から立候補した次期宗師。
当然皆からは無理だと揶揄されていたが、九太と出逢い共に修行し、一時は仲違いしながらもそれを乗り越えた二人の掴んだ、奇跡の勝利であった。

九太「ヒヤヒヤさせんな」

熊徹「心配しろなんて頼んでねぇよ」

九太「よく勝てたもんだぜ」

熊徹「勝つに決まってんだろ」

九太「馬鹿言え、へろへろだった癖に」

熊徹「うっせぇ」

そう憎まれ口を叩き合いながらも、彼と勝利を分かち合い、喜びのハイタッチを交わした。

しかしーーー

熊徹「おい…九太…この赤ぇのは…なんだ…?え…?九太…どうなってんだ…?」


熊徹の背後には、猪王山の剣が何処からともなく突き刺さった。
それは、猪王山の長男・一郎彦が持つ闇の念動力によって操られたものであった。

そのまま熊徹は気を失い、一郎彦もその場から逃走し、会場は騒然となった。

何とか一命は取り留め宗師庵で介抱を受けた後目を覚ましたものの、依然虫の息であった。
しかし多々良と百秋坊の口から一郎彦が九太と同じく人間であること、そして九太が強大な”闇”の力を用いて暴走した一郎彦を鎮静させるために彼と人間界で闘っていることを聞かされると、重体の身を引きずりながら卯月の元へ赴く。

そして彼は卯月に向けてこう述べた。

ー九太は…一人前のつもりでいるが…誰かの助けが必要なんだ…ー

ー俺は…半端者の馬鹿野郎だが…それでもあいつの役に立ってやるんだ!あいつの胸ん中の足りねえものを俺が埋めてやるんだ!それが…それが半端者の俺にできるたった一つのことなんだよ!!ー

熊徹は次期宗師の決戦での勝利で新たに宗師に就任したが、
それ以前に九太の自立心を受け入れられないばかりに自らの我儘を彼に強いて不満を買ってしまったこと、
そして九太なしでは猪王山との対決に勝利できない、結局自分一人では何も成せぬ半端な男であった。
しかしそんな自分にも、半端者の自分だからこそ、強大な相手にたった一人で立ち向かっている唯一の家族・九太に出来ることはあった。

今現在、渋天街の宗師は熊徹である。
それは即ち、八百万の神への転生が可能であるということ。
卯月は一度転生すれば、二度とバケモノへは戻れないと忠告するが、
九太に助太刀するには一刻も争えない状況、そして一度決めたことは決して曲げないことを信条する彼に、迷いはなかった。

そして熊徹は、燃え盛る大太刀の付喪神に姿を変え、人間界で一郎彦と闘う九太の前に現れる。
彼の心に空いた穴を埋めるかの如く一体化すると、それに号泣していた九太胸の中から叱咤激励し奮い立たせ、闇に呑まれ「鯨」という怪物となった一郎彦へ剣を構える。

鯨が地上へ出現する直前、本体である一郎彦が一瞬姿を現すという弱点を見切り、そのまま一直線に一郎彦に斬りかかった。
そして彼の”闇”を斬り伏せられそのまま”闇”は消滅、鯨も倒され闇から解放された一郎彦は気を失ってその場に倒れ込んだ。

こうして二人は、自らの種族を超えた絆を、猪王山と一郎彦という対となった二人に勝利する形で証明してみせたのであった。

その後九太はバケモノ界での目標を達成したこともあり、渋天街を旅立ち一人の人間「蓮」として人間界で新しい生活を送ることとなった。
彼の"心の剣"となった熊徹は、一郎彦に勝利した朝日を横目に誓った通り、
九太の胸の中から、彼の師として、父親として見護り続けるのであった。


おめぇ、俺と一緒に追記修正するか?

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • バケモノの子
  • 細田守
  • 九太
  • 役所広司
  • 熊徹

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年02月20日 11:21

*1 映画公開時にお披露目された彼の着ぐるみの身長は220cm程度。

*2 もっとも、猪王山の場合はその自宅が見廻組の拠点や弟子たちの宿舎、武芸用の道場等も兼ねていると思われるが

*3 他地域の宗師謁見の旅に同行したり、弟子入り志願者に熊徹に代わって対応したりしている。

*4 因みに劇中で二人が初めて対話する場面では、先に話しかけて来たのは猪王山であり、口調も気さくだったりする。

*5 故に熊徹が九太を育てることも許可したが、その際猪王山は「どうしてそう熊徹に甘いのですか?」と疑問を投げかけているように、一部からはその対応を怪訝に思われていた節がある。