嘆きの亡霊は引退したい~最弱ハンターによる最強パーティ育成術~

登録日:2021/11/13 Sat 09:37:00
更新日:2024/04/10 Wed 22:33:18
所要時間:約 21 分で読めます





レーベル:GC NOVELS
著  者:槻影
イラスト:チーコ




概要

「小説家になろう」に連載されていた小説の書籍化作品。
諸々の事情で分不相応な地位に就いてしまって辞めたがっている主人公と、彼を有能だと信じ込んでいる周囲の人々のすれ違いと苦労を描いたファンタジー作品。
この手の物語ではよくある「本人が自覚していないだけで実は主人公が最強」という要素は一切なく、本作の主人公クライ・アンドリヒはある価値観のズレを除いて非常に弱く、思考も割と鈍めに描かれている。
蛇野らいによって漫画化もされている。


あらすじ

とある田舎町で六人の子供達が誓いを立てた。トレジャーハンターとなって世界各地の『宝物殿』を回り、世界最強の英雄として富と栄光を手に入れよう。この六人ならきっとなれる、と。
優れた才能の持ち主だった彼らは訓練によってめきめきと実力をつけ、ハンターとなった後も華々しい活躍をしていた。ただ一人、リーダーのクライ・アンドリヒを除いては――。

誓いを立ててから5年。帝都ゼブルディアに身を落ち着けたクライは、クラン《始まりの足跡(ファースト・ステップ)》を立ち上げてそのマスターに就任していた。
自分の限界を知った彼が冒険に行かない理由づくりとしてのクラン設立だったのだが、本人の思いとは裏腹に始まりの足跡には優秀なハンター達が集まって非常に名の売れたクランとなり、そのマスターであるクライは望まぬ名声を得てしまうのだった。


用語

マナ・マテリアル

作中世界の根幹をなす物質であり、目には見えないが世界中どこにでも存在している。

地脈などの影響でこの物質が一箇所に集中すると、過去に存在した遺跡や希少な自然現象など森羅万象の情報を基に極めて限定的な異世界『宝物殿』を構築する。
この宝物殿には同様の理屈で生まれる生きた幻『幻影(ファントム)』や、マナ・マテリアルの濃い場所を好む魔物、無数の罠や危険な地形が存在するため非常に危険。

人間が多量のマナ・マテリアルを取り込むと自分の望む形に肉体を強化することが可能であり、故に宝物殿に潜り続けているハンターは人間離れした身体能力を有している。その分だけ一般人相手に問題を起こした時の社会的責任も重い。
しかし長期間潜らない状態が続くとマナ・マテリアルが体から抜けて一般人とそう変わらない身体能力に戻ってしまう。

またマナ・マテリアルの吸収能力には個人差があり、基本的には短時間で多く吸収できるほど才能があるとされる。
しかし吸収能力の高い人間がマナ・マテリアルの濃度が高すぎる場所に滞在すると過剰に吸収して体調を崩してしまうというデメリットもある。
この現象を『マナ・マテリアル酔い』と呼ぶ。

トレジャーハンター

宝物殿に潜り、不思議な能力を持つ宝具を持ち帰る職業。基本的にはハンターと呼ばれる。
リスクは高いが素晴らしい宝具を入手できれば一攫千金や名声も夢ではなく、トレジャーハンターは太古の昔から存在する職業である。
優れた者に探索者協会から与えられる二つ名はハンターの誉れとされている。

宝具

宝物殿が構築された際に同時に生まれる希少なアイテム。過去に滅んだ数々の文明のアイテムがマナ・マテリアルによって再現されたもの。
「尽きることなく水が湧き続ける水筒」「炎を刃の部分に纏える剣」といった有用なものから、「身に纏うと高速で空を飛べるがブレーキがない外套」「人間の顔面から皮を剝いだような不気味な仮面」のような変なもの、果ては科学文明の記憶から生まれたスマートフォンやカメラまで種類は様々。

宝物殿から宝具を得たハンターは自分の戦力として使うか、専門店に売却して換金することになる。
説明書があるわけではないので使い方は自分で見つけるか鑑定士に鑑定してもらうしかなく、使いこなせたとしても定期的に魔力をチャージしないと力を発揮できなくなってしまう。

また外見と能力が再現されているだけで内部構造まで再現されているわけではないので、宝具を研究しても現代の人間が同じものを作るのは難しい。

パーティとクラン

数人のハンターが協力し合うために組むのがパーティ。そのパーティが複数集まって結成されるのがクラン。
必ずしも固定のパーティを組む必要はなく、ソロで活動するハンターや必要に応じてパーティを組むハンターもいる。

レベル認定

ハンターを一括管理する探索者協会により、ハンターと宝物殿に与えられる評価。
現状存在する最大レベルは10で、ハンターの約七割はレベル3止まりという統計がある。
レベルが違う宝物殿に潜ることが禁止されているわけではないものの、基本的には自分と同レベルの宝物殿に潜ることが推奨されている。

単純な実力だけでなく人格や実績なども考慮した総合的な評価で判定されるが、明確な基準があるわけではないので同じレベルでも認定された地域によって微妙に実力差が生じていたりする。
また、大きな不祥事を起こせばペナルティとしてレベルダウンの処分が下ることもあり、これはハンターにとって最大の不名誉とされている。

探索者協会

ハンターを支援する団体。ハンターと同じくらい長い歴史を持っており、宝具・魔物素材の売買、アイテムの補充、情報提供、パーティメンバーの斡旋、レベル認定等々ハンターに必要なものを一通り取り仕切る。ハンターになるためには協会に申請して認めてもらわなければならない。所属ハンターは稼ぎに応じた会費を払う義務があり、時には協会からの依頼も受けねばならない。

ハンターは必ず所属しなければならないというわけではなく、規模が大きくなって協会のサポートを必要としなくなったからと退会して独自に動いているクランも少なくない。

精霊人(ノウブル)

人間よりも長命で高い魔術的資質と知性を併せ持つ種族。さらにその多くが美しい外見をしている。
一方でマナ・マテリアルの吸収力と繁殖力は人類より劣っており、故に地上を支配するには至っていない。

人類との歴史上の関係は複雑で、神のように崇められていた時期もあれば互いに殺しあった時期もある。
現在では比較的良好な関係になってはいるものの、基本的に人間を見下しているため人間社会に姿を見せる精霊人は少ない。

精霊人が人間を認めることは滅多にないが、認めると一気にデレてしまうという側面もある。
作中ではクライのことを疎んじていた精霊人が彼を認めたとたんにいきなり敬語になり、魔術の良質な触媒になる自分の髪の毛*1を差し出すなど態度が激変。
そういう面があると噂には聞いていたクライをもドン引きさせた。

千の試練

クライが有能な人材を鍛えるために課す様々な試練のこと。
一歩間違えれば死んでしまうような過酷さと挑戦者が己のできることを見定めて適切に対応すればギリギリで突破できる匙加減の絶妙さが特徴。
クランメンバーたちはこの試練に恐怖を抱いているが、その実態は……。


登場人物

嘆きの亡霊(ストレンジ・グリーフ)

田舎町の幼馴染6人組で結成されたパーティ。その後クライのスカウトで新しく1人加入した。
リーダーのクライを除く全員が各分野における驚異的な才能の持ち主で、各々が受けた訓練によりそれが開花。結果、恐るべき強さを誇るパーティと化している。
クライが作った笑う骸骨の仮面がトレードマーク*2

帝都進出後もその成長は進み続けており、現在では名実ともに帝都最強クラスのパーティにまで上り詰めた。
それでも満足はしておらず、パーティ全員がハンターの最高位であるレベル10になることを目指して日々努力中(クライを除く)。

メンバー全員のクライに対する気持ちは重く、彼がハンターを引退するのであればレベル10の夢を捨ててでも一緒に引退すると宣言するほど*3
これがクライがハンターを辞められない理由の一つでもある。

パーティ名である『嘆きの亡霊』とトレードマークの笑う骸骨の仮面はクライが決めたのだが、クライ本人はセンスの悪いものをつけてこれを理由にトレジャーハンターをやめようとした。実際最初は全員から不評だったが、クライがこれでないとやる気がでないのでトレジャーハンターをやめると言ったら、すぐさま全員がこれ以外考えられないと180度意見を変えたのが成り立ちである。

●《千変万化》クライ・アンドリヒ
主人公。嘆きの亡霊のリーダーであり、クラン『始まりの足跡』のマスターを務めるハンター。レベル8。

幼馴染とともに英雄を目指して幼少のころから頑張っていたが、宝物殿に潜る中で自分一人だけ才能がないということに気付いてしまった青年。
幼馴染の足を引っ張ることを嫌い、一晩悩みぬいた末にパーティからの脱退を宣言したところ、なぜかその場でリーダーに認定されてしまったという過去を持つ。
現在では幼馴染たちの実力がどのくらいなのか把握すらできない程の実力差が開いてしまっているが、変わらずリーダーを続けている。

『始まりの足跡』を立ち上げたのは運営に忙しいという体裁で宝物殿から逃げるためだったのだが、有望なパーティが多数加入したことで《始まりの足跡》は勢いのあるクランとなり、必然的にマスターであるクライの評価も上がってしまった。
本人の実力に見合わないレベルの高さも、パーティリーダーやクランマスターはメンバーの実績の一部が評価に加えられるという評価方式によるものであり、クライ自身は何もしていない。
クラン立ち上げ当初こそ真面目にクランマスターをやっていたものの、自分の実力に見合わない地位の高さに辟易して現在ではすっかりやる気を失っている。

本人は自分の実力の無さを隠しておらず、むしろ積極的にアピールしているのだが、自分の弱さをアピールするハンターなど普通はいないという常識に阻まれて信じてもらえない。
おまけに最強クラスのパーティメンバー達から全幅の信頼を置かれているリーダーということもあって彼の言動は深読みされやすく、
その深読みが事実であるかのように見える偶然が頻繁に起こることから、クランメンバーをはじめとする周囲の人々には「自分の実力を巧妙に隠しつつ、全てを計算しつくしたうえで行動している恐ろしい男」だと認識されている。
彼の実力を疑っている人間もそれなりにはいるものの、そういう人間はなぜか評価を改めるような事件に巻き込まれることになる。

実際には事がすべて終わるまでは何が起こっているのかすら理解できていないことが大半であり、それ故の周囲との嚙み合わなさが余裕の表れとみなされてさらに評価が上がる悪循環を招いてしまっている。


クランハウスの自室にある隠し部屋に借金を重ねてまで五百以上もの宝具を飾っている宝具マニア。
本人の実力が不足しているクライにとって宝具は自分を守る生命線であり、普段から自衛のためにいくつかを装着しているほか、必要に応じてさらに追加で身に着けることになる。
しかしあまりの多さゆえに魔力のチャージも一苦労なため、肝心な時に魔力切れで使えないことも多い。


実力不足も含め生来運が悪いのだが(ただし、人間運と恋愛運はすごい)、真面目にハンターをやっていたころから現在に至るまで数々の危険な目に遭遇しまくった結果、物事の危険度に対する認識が世間一般とは大きくずれている
その上で前述のように「自分は最弱である」という前提が常に頭にある(=他の人間は自分よりうまくやるだろうという過信)せいで、
一般的基準で難しい依頼があっても簡単な依頼だと誤認した上で適当な理由をつけてクランメンバーに投げてしまうことが度々あり、いつしかその行為は「千の試練」と呼ばれて恐れられることになった。


●《絶影》リィズ・スマート
探索を担当する盗賊(シーフ)の女性。レベル6。

非常に好戦的な性格な上に沸点も低く、ご機嫌だった状態から一瞬で激怒して戦闘に突入することもしばしば。
1人称は「私」だがガチギレすると「リィズちゃん」に変化する。

マナ・マテリアルによる成長をスピードに特化させているために弾丸を素手で受け止められるほどの速度で動くことが可能であり、並のハンターでは戦闘中の彼女をまともに視認することすら難しい。
さらにスタミナも凄まじく、馬車で何日も行く距離を自分の足で走って行き来することが可能。
《絶影》という二つ名はこのスピードを「影すらもついていけない」と評したもので、彼女が師事していた先代《絶影》から受け継いだものでもある。
スピード特化だとはいってもパワーがないわけではなく、並の鎧なら素手で紙切れのように破壊できる。

クライのことが大好きで、彼と一緒にいるときには抱き着いたり、ベッドの中に潜り込んで一緒に寝たり、クライが入っている風呂に突入したりとアプローチしているのだが、長年そうしてきた結果クライの方が慣れてしまっていまいち効果がない。

現在ではパーティとして宝物殿に潜る傍らでクランメンバーのティノ・シェイドの師匠も務めており、彼女の不甲斐ない姿に激怒することが多い。
客観的にはティノが情けないのではなくリィズの与える課題がきつすぎるのだが、リィズは全く同じ試練を自らこなして現在の実力を身に着けたという自負があるので、自分と同等以上の才能があるティノにそれができないということが許せないのである。


●《最低最悪(ディープ・ブラック)》シトリー・スマート
リィズの妹の錬金術師(アルケミスト)。レベル2。

少女時代にパーティのために貢献したいと思っていたところをクライのアドバイスによって錬金術師の道に進んだという過去を持つ。
現在では非常に優秀な錬金術師に成長し、彼女の発明品は様々な形で嘆きの亡霊を支えている。
また姉とは違い落ち着いた性格なので、パーティの指揮や周囲との交渉などを担当することも多い。

しかしその実態は、自分や嘆きの亡霊の利益になるのであれば一切手段を選ばない壊れた倫理観の持ち主。
帝国の法に違反する研究をするのは当たり前、必要ならば人体実験すらも平然と行い、他の錬金術師を自分の研究のために利用した挙句に相手の研究を奪うことまでもやってのける。
その二つ名と低いレベルは大監獄に収監されている罪を犯したハンター達を何者かが脱獄させた事件の容疑者となったことで改名と降格がされた結果なのだが、本人は自分に嫌疑がかかる程度の状況証拠を残してしまったことを反省しているだけで、脱獄させたことや囚人たちをキメラの材料にしたことはまったく気にしていない。
降格前はクライの次にレベルが高かった模様。

リィズ同様にクライのことが好きで、リィズと一緒にいるとお互いのアプローチを妨害しあって喧嘩になることが多い。
実際リィズと殺し合いに近い姉妹喧嘩をしたことがある。

自分に錬金術師としての多額の稼ぎがあることを利用してクライが宝具を購入するためにした借金を肩代わりし、自分への借金へと一本化したうえで自分と結婚するのであれば借金をチャラにすると持ち掛けたが、鈍いうえに借金返済の意思があるクライには真意が通じず、かわされてしまうのだった。


●《千剣》ルーク・サイコル
非常に優れた腕を持つ剣士(ソードマン)。レベル6。

性格は一言で言って剣術馬鹿。
常に自分の剣を高める方法を求めており、強い剣士の話を聞けばそれがハンターだろうと幻影だろうと魔物だろうと関係なく戦いに行ってその技を習得してしまう。
一方で剣士ではない相手と戦うことになったときには相手がどんなに強くてもやる気を失い、手抜きはしないがつまらなそうに戦う。
長年そうして修業してきた結果、現在では木刀で人間を目にもとまらぬ速さで斬れるほどの実力を身につけたが、本人は自分がいまだ未熟だと考えて修行を続けている。

限界を感じて脱退しようとしたクライをリーダーに任命した張本人。
クライがハンターを辞めたがるのは自分達が不甲斐ないからだと思い込み、他のメンバーともども修行に明け暮れるようになった。
自分のせいでそんなことになってしまったことに苦悩したクライは、でっちあげの魔導書や剣術書を自作して仲間たちに渡した上で「習得できなかったときには一時脱退する」と宣言することにしようと思い立ち、実行に移した。
しかしフィクションも交えた荒唐無稽な代物だったはずのそれをルーク達は見事に習得してしまったうえに、その実績からそれまで以上の信頼を得ることになってしまったのだった。


●《万象自在》ルシア・ロジェ
クライの義妹の魔術師(マギ)。レベル6。

現実にはあり得ないはずの御伽噺に出てくるような魔法を使いこなす魔術師。
クライの持つ多数の宝具に魔力をチャージするのは彼女の役目。

その原点は幼い日のクライが修業を始めたころのルシアに自作して贈った「僕の考えた最強の魔法一覧」にある。
それは魔法の限界を知らずに好き勝手書いた代物だったのだが、なんと彼女は既存の魔法を組み合わせて全く新しい魔法として実現してみせたのだった。
ルシアは現在でも魔法一覧を大切に持ち歩き、未だ実現できていない魔法の研究を続けている。*5
氷系の魔法が得意だがその理由は初めて魔法を見せた時クライがかなり褒めた為。

リィズとシトリーがクライにアプローチするのを妨害したり、クライが町の占い師に「お前は女性にモテる」と言われたら不機嫌になったりとクライに妹として以上の感情を持っている素振りがあるが、それはそれとしてクライの言動にはストレスを感じているらしく、ストレスが溜まると巨大なクライ君ぬいぐるみを殴って発散している。
昔はクライの後ろをついていくおとなしい子供だっだが、ハンターになりルークやリィズ、シトリーの行動に感化されて敵には一切容赦しないなど攻撃的になっている。(それでも3人に比べたらかなりマシ)
普段はクライのことを「リーダー」と呼んでいるが、焦っている時や感情が高ぶっている時は「兄さん」と昔の呼び方に戻ってしまう。
昔はルシア・アンドリヒとクライと同じ姓だったが故郷からでる時にはすでに旧姓のロジェに戻していた模様。その理由は不明。


●《不動不変》アンセム・スマート
リィズとシトリーの兄。レベル7。

身長4メートル越えの寡黙な大男で幼馴染の仲では年長者。世間からはパーティの中で一番の良識者と認識されている。
今でこそ大男であるがパーティ結成時は男幼馴染の中では一番小さかった。

パーティの守りの要であると同時に非常に能力の高い回復役でもある。
彼の回復魔法は欠損した四肢を再生させることすら可能なレベルで国のお偉方が依頼に来るほどなのだが、回復魔法には術者本人には効き目が悪いという特性があるため彼自身の体には無数の古傷がついている。パーティの中で唯一の彼女持ち。

そんな完璧な男だが妹であるリィズとシトリーに甘いのが弱点であり、リィズとシトリーが一度だけ起こした殺し合いに近い姉妹喧嘩はアンセムのトラウマになっている。

所有者の年齢、性別、体格に関係なく最適なサイズに変化する全身鎧型の宝具『変幻自在の砦(フォーリナー・メイル)』を常に身につけている。
この宝具には隠された能力として鎧の大きさを調整すると中身の方もダメージなくサイズ調整できるというものがあり、これを利用して自分の体を縮めることで目立たず潜入することができる。
ただし体重までは変わらないため、小さくなりすぎると床を抜いてしまうこともある。


●《放浪(ロスト)》エリザ・ベック
砂漠精霊人(デザートノウブル)盗賊(シーフ)の女性。レベル6。

雪のように白い髪に褐色の肌が特徴の砂漠精霊人。
精霊人にしては珍しく人間を見下していない。クライとは仲が良く他の幼馴染メンバーともうまくやっている。
クライのスカウトでパーティに入った唯一の外部加入者でクライのことをクーと呼んでいる。

旅人気質の砂漠精霊人の中でも彼女は特にその傾向が強く、常にあちこちを放浪しては宝物殿に潜る生粋のハンター。
しかし物欲が薄いためせっかく手に入れた宝具にも興味を示さず、ほとんど放置していた。
それを知ったクライは「エリザが放浪先の宝物殿で見つけた宝具を持ち帰り、クライはそれを売った利益を支払う。ただしクライ本人が欲しい宝具だった場合は貰うことができる」という協定を結んで仲間に引き入れたのだった。

異様に間が悪いタイプであり、クライとはお互いに会いたがっているにもかかわらず何故か偶然が重なって中々会うことができない。
宝具の譲渡も直接渡すことができないので、ギルドに渡すかクライの隠し部屋に忍び込んで置いていくことで成立させている。


始まりの足跡(ファースト・ステップ)

自分が宝物殿に潜らない理由付けのためにクライが設立したクラン。
他のクランと決定的に違うのは事務などを専門的にこなすハンターではない一般人を雇用していること。
嘆きの亡霊をはじめとする有望なパーティやハンターが多数在籍しているため、年に一度開かれるメンバー募集にはこのクランに入って名を揚げたいハンター達が多数訪れることになる。
同じクランとはいっても常に一緒に行動しているわけではなく、基本的には各パーティやハンターは各々の自由に行動している。

●ティノ・シェイド
リィズに弟子入りしている少女。事実上の嘆きの亡霊見習い。レベル4。

クライを「ますたぁ」と呼んで、マスターとしても異性としても慕っている。
修業をつけたリィズに洗脳教育されたことで「ますたぁは神」だと思い込んでおり、彼のやることなすことを全て肯定的にとらえて尊敬を深めている。
漫画版1巻おまけ短編では、千の試練を普通に寄越す面に悪い意味での凄さをも感じていたが。
彼女がそれを吹聴して回っていることがクライの異常に高い社会的評価の一因。

クライの指示で無茶苦茶な依頼を受けさせられたり、リィズの過酷すぎる修業でズタボロにされたり、シトリーに恋敵の排除を兼ねた人体実験をされそうになったり、ルシアの広範囲魔法に巻き込まれて蛙にされてしまったりと不憫な目にあいまくっているが、それでもなお嘆きの亡霊に入ることを諦めずに日々努力に励む健気な努力家。
嘆きの亡霊のメンバー達からも少々歪んではいるが妹のように可愛がられている。


●エヴァ・レンフィード
クライに次ぐ副クランマスターの女性。ハンターではなくクラン運営のために雇われた人材である。

ゼブルディアで一、二を争う大商会ヴェルズ商会の下っ端だったところをクライに引き抜かれて副マスターの地位につけられた。*6
クランの運営に関しては丸投げされていて、自分の人脈や情報網を駆使してクランを纏め上げている。
クライはいつでもクランを彼女に譲っても構わないと思っているのだが、エヴァ自身にその気はない*7

クライがいくつもの事件や天災を言い当ててきた実績*8を根拠に彼を得体の知れない先見の持ち主だと認識しており、彼が意味深な発言をした時には情報網の総力を挙げて調査をすることが習慣になっている。


●《銀星万雷》アーク・ロダン
パーティ《聖霊の御子(アーク・ブレイブ)》のリーダー。レベル7。

かつて帝都近辺に存在したレベル10の宝物殿に挑み、異星の神を討伐した《勇者》ソリス・ロダンを源流とするハンターの名門ロダン家の出身。
代々一族の人間が持つ高い才覚に加え、幼少の時から一流ハンターになるための教育を受けてきたことで非常に高い能力を持ち、帝国最強のハンターの候補として名を挙げられることすらある。
その血筋と実力を目当てにすり寄ってくる貴族も多く、「ロダンは貴族に仕えない」という家訓に従って遠ざけてはいるが完全に関係を断つこともできないでいる。

自分より高いレベルを持ちながら実力を感じさせず、それでいて強すぎるパーティメンバーのリーダーをやっているクライのことを面白い男だと思っており、彼のことを知りたいという好奇心から始まりの足跡に参加した。
周囲からはライバル同士として扱われることも多いものの、アーク自身は自分とクライの関係は友人だと認識している。

一方のクライの方もアークを友人だと思っていて、何かというと頼ろうとする傾向にある。
しかしアークはその実力や地位ゆえにクランハウスを留守にしていることが多く、「クライが何かを頼みたいときにアークが不在で、代わりに受けたキャラクターが酷い目に合う」というのは本作のお約束になっている。


●《嵐撃》スヴェン・アンガー
魔物や害獣の撃退を専門とするパーティ《黒金十字》のリーダー。レベル6。

遠距離攻撃は魔法というのが常識なハンターにあって、非常に珍しい弓術の使い手。
彼の使う金属製の強弓は常人では引くことすらできない特別製で、矢も冗談のように太く長く重い。
一度放たれれば幻影や魔物の頭部を吹き飛ばす威力で矢が飛んでいく。

かつてクライの発案でクランメンバーと花見に行った際、地震で地脈がわずかにずれて彼らの目の前に宝物殿が生まれるという事件が発生。
偶然にもその宝物殿が危険な花を有する植物系のものだったことから、クライがそれを予知していたと信じ込んでしまった。
クライ本人には否定されているものの自分の目で見たものしか信じない性格のスヴェンは未だに信じており、クライが意味深なことを言った時には全力で備えることにしている。


●クリュス・アルゲン
世にも珍しい精霊人のみで構成されたパーティ《星の聖雷(スターライト)》のメンバー。

本来なら人間のクランに入るなど考えられないのだが、腕のいい魔術師だけは認める傾向にある精霊人としてルシアを認めたことでクラン入りした。
故にマスターであるクライのことは認めておらず、ルシアの引き抜きを画策中。
特にクリュスはクライのことを「ヨワニンゲン」と呼んでことあるごとに罵倒している。

クリュス自身も自覚していなかったがクライへの態度は実はツンデレ。
とある事情でクライと臨時パーティを組んだ時は何かというと絡みに行き、宝具のチャージにも協力。相手の深層心理まで見通せる敵にクライを大事に思っていることを言い当てられた時には赤面した。
その一件で自分の気持ちを自覚したからか、体調を崩した自分の見舞いに来なかったことに文句を言ったり、仲間がクライに髪の毛を渡したのを見て自分のも欲しいか尋ねたりと徐々に態度が露骨になってきている。
パーティリーダーのラピスには以前から見抜かれていた様子。


探索者協会

●ガーク・ヴェルター
探索者協会帝都ゼブルディア支部の支部長。身長2メートルオーバーの筋骨隆々な巨漢で顔には大きな古傷と入れ墨が入っている。かつては《戦鬼》の二つ名を持つハンターであり、引退して久しい現在でも並のハンターよりは強い。一度リィズに焚きつけられて現場復帰したこともある。

嘆きの亡霊とは彼らがハンターになったころからの付き合いでその成長をずっと見守ってきた。ハンターとしての栄光の道を歩みながらも態度を変えず、退会する意思も見せず、それでいて定期的にヤバい依頼を(簡単な依頼だと誤認して)持っていって処理してくれるクライのことをありがたく思っていて、態度には出さないが絶大な信頼を置いている。一方で嘆きの亡霊が度々引き起こす騒動に頭を抱えてもいる。


●クロエ・ヴェルター
探索者協会の受付嬢。ガークの姪っ子だがスタイルが良く顔も良いためクライからは「ガークさんの遺伝子が仕事していない」と評されている。

元々は叔父に憧れてハンターを目指し努力を重ねていたが、始まりの足跡の入団試験で試験官のルークに成す術もなく負けた上にクライに「才能はあるがギリギリ不合格」と評されたことでハンターの道を諦め、協会職員になった過去を持つ*9。受付の仕事自体には天職だと思っているほどのやりがいを感じているが、この経験はしこりとして胸の内に残り続けていた。後にクライ本人に直接問い詰め、彼が(誤魔化して)言った言葉を自分の中で解釈して心の整理をつけることになる。


その他

●《轟雷破閃》アーノルド・ヘイル
霧深い小国ネブラヌベス出身のハンター。パーティ《霧の雷竜(フォーリン・ミスト)》のリーダー。レベル7*10

故郷では雷竜を討伐し国の上層部からも一目置かれるほどの実力者だったが、小国ゆえに宝物殿の数が足りずハンターとしての成長に限界があるネブラヌベスでは高みを目指すことはできないとゼブルディアに乗り込んできた。

しかしついて早々にリィズに酒場で不意打ちされて昏倒させられ、相手の情報を得ようと探索者協会に行ったらクライからの煽るような伝言を伝えられ*11、クライと直接対峙したら宝具で動きを封じられると散々な目にあわされてしまう。

その後もクライの意図していないところで被害を被り続けており、嘆きの亡霊を完全に敵視するに至った。


●クラヒ・アンドリッヒ
クライのそっくりさん。武人気質で相応の力もあり、ソロで活動していた実力者。

異常なまでの世間知らずであり、有名人であるクライや嘆きの亡霊のことを全く知らない。その世間知らずを小悪党たちに利用されて嘆きの亡霊を模したパーティを結成させられてしまっているのだが本人はその結成意図に全く気付いておらず、クライと出会った時もクライの方が自分の真似をしているのだと思い込んで「自分の名がそれだけ売れたのだ」と喜んでいる。

クライもクライで自分のそっくりさんが自分の理想とする力を持っていることに歓喜してしまい、「彼は自分の本物だ」などと言い出したために事態はややこしい方向へ進んでいくのだった。





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最終更新:2024年04月10日 22:33

*1 最初は宝物の指輪を差し出そうとしたのだが断られたため、即座に自分の髪の毛を切断。「もう切ってしまったので受け取るしかない」という状況にして無理やり渡した。

*2 クライは目の部分に穴をあけ忘れたのだが、パーティメンバー達は前が見えないことくらいものともしないためそのままになっている。

*3 作中で明確に宣言をしたのはリィズだけだが、他のメンバーも同意見である模様。

*4 宝具によるものだが気付かれなかった。

*5 クライ自身はまだ幼かったとはいえ自分が義妹に無茶ぶりをしていたことを申し訳なく思っている。

*6 引き抜かれる際はエヴァを指さし「あの受付の人でもいいのでください」と土下座した模様。

*7 実際問題としてクライが抜ければ嘆きの亡霊も引退し、付随して精霊の御子や星の聖雷も抜ける可能性が高いので、譲られたら運営が立ち行かなくなると思われる。

*8 ※偶然です。

*9 実際のところ試験を受けた中でルークに勝てた者は誰一人おらず、クライの言葉も単に当時の彼女の年齢が幼すぎたというだけの意味だったため、事情を知ったクライは申し訳なく思っている。

*10 小国でレベル認定されているため、ゼブルディアで認定されたレベル7ハンターよりは若干劣っている。

*11 勿論クライにそんな意図はなく、クライ→エヴァ→ガークの間で伝言ゲームになった上にガークがあえて煽るような言い方をしただけである。