鳥人間コンテスト選手権大会

登録日:2022/08/30 Tue 20:00:12
更新日:2024/04/04 Thu 18:56:53
所要時間:約 10 分で読めます




鳥人間コンテスト選手権大会とは、読売テレビが主催する人力飛行機の滑空選手権である。
通称は「鳥コン」「鳥人間」。公式の略称は前者だが、一般には後者のほうがよく使われている。
なお、2011年大会については当該項目を参照。どういうわけか本項よりもはるか先に立っていた。

概要

元々は1977年に同局で放送されていた視聴者参加型番組『びっくり日本新記録』の一企画として放送され、第2回以降は独立番組として放送されるようになった。

鳥の仮装でサセックスの海へダイブする イギリスのイベント「バードマンコンテスト」を日本へ持ってきたもの。
だが、第一回から趣旨が理解されず、結果が伴うかは別としても大半がハングライダーで真面目に飛ぼうとしていたうえ 旧日本軍の飛行機も設計していた元プロの 本庄季郎氏(当時御年76歳!)が出場、ダントツの優勝を飾った。
語弊を怖れず言ってしまえば、場の空気も読めないくせに人間の根源的な欲求とも言えるであろう「大空を飛ぶ」ことにガチになってしまったのである(注:最大級の褒め言葉)*1
そしてこの第一回がその後の方向性を明確に決定づけ、日本の鳥人間コンテスト、そして人力飛行機技術は独自の進化を遂げていくこととなる。

番組では飛距離の記録のほか、注目チームについては設計者インタビューやテスト飛行といった裏側を追ったドキュメントパートも挿入される。後述する中止年はそのドキュメントをまとめたものが放送されている。

大会は毎年7月下旬~8月上旬に開催。その様子は8月末~9月頭の水または木曜日に特別番組として放送されており、同時期に放送される『24時間テレビ』『高校生クイズ』と並んで、日テレ系夏の風物詩として親しまれている。

開催地は滋賀県の琵琶湖。当初は宮ヶ浜水泳場、1980年以降は松原水泳場で実施されている。

参加チームは当初は『びっくり~』同様アマチュアが多かったが、年を追う毎に飛行機の設計が高度化したこともあり、大学のクラブ・サークル単位による参加が主流になっている。
近年では学生時代に参加した選手がOBとして舞い戻る例や、日本テレビ系番組の企画として芸能人の参加、日本国外からの参加チームも少数ながら見られる。
無論彼らは敵対しているわけではない挑戦者たちであるため、チーム間では情報交換が盛んで、年に一度交流会が開かれる。
チームによっては飛行機の図面や番組に提出した書類をまるごとホームページで公開しているところもあるので、興味が湧いたら覗いてみるのもいいだろう。

司会は吉本興業のタレントが主に担当。この他女性司会者やプラットフォームでインタビューを担当するレポーターが多数出演する。
実況は2011年以降羽鳥慎一氏が担当しているが、1999年までは『びっくり~』で実況を担当していた志生野温夫氏も担当していた。


中止事例

40年以上の歴史の中で、過去に開催が中止となったのは1997年・2009年・2020年の3回のみ。
大会開催時期は関西における梅雨明け直後ということもあり、天候不順での中止は1997年の台風直撃が唯一。
2009年は、リーマンショックおよび地デジ対応の設備投資に伴う読売テレビの財政状況の大幅な悪化が原因。
これに対して抗議や応援の声が読売テレビに寄せられたほか、参加予定だったチームがライバルの垣根を越えて連絡を取りあう、更に大会が開催される彦根市では特別イベントが開催されるなどの対応が行われた。
主催者側の都合で大会中止という唯一の事例で、下手をしたら今後の開催自体も危ぶまれる状況だったが、後述するスポンサーの名乗り出もあって翌年からの復活が決定した。
2020年は新型コロナウイルスの流行で準備製作期間が取れなかったのが理由。

その一方、湖上で強風の吹きやすい環境であることから開催途中で競技が不成立になった事例も数多い。


大会ルール

琵琶湖の湖上に水面から10メートル、助走路は10メートルで傾斜角は3.5度という扇形のプラットフォームが設けられる(2019年以降)。
競技用飛行機はこのプラットフォームに沿った設計が行われ、書類審査によって出場機が決定する。
飛行機は当初ハンググライダーを改造したもの*2が多かったが、現在は左右のウィングを大きく伸ばし、密閉式の流線型コクピットを装備したデザインのものが大半を占めている。また、回を追う毎に飛行記録が伸びていることから、レギュレーション改定も頻繁に実施されている。

飛行機は3月ごろに書類による選考が行われ、設計図面、PR書類などを提出することが求められる。
しかし、その結果が返ってくるのは5月とかなりギリギリであるため、結果を待ちながら製作を続ける方針をとることとなり、不合格だったら当然全部無駄になるわけである。
リーマンショック以降は出場枠も狭められ、実績が無かったりダイジェストで流されたりするようなチームの約半数は、その時点で蹴られるものだと思った方がいい。

書類審査合格のシールと他に、現地で提出された図面と実物の機体に相違がないか審査が行われ、最後の安全確認と避難方法の確認*3と併せて合計3種類の審査合格のステッカーを機体に貼り付ける。
2015年以降はフライト中のパイロットの表情や声を放送に反映させる目的で、全機にオンボードカメラが設置されることとなった*4
これ以外にも飛行に直接関与しなければハイテクデバイス類も任意で設置可能。
なお、スポンサーは禁止されているため広告のシールなどは貼ることができない。
図らずも材料に企業ロゴなどが写ってしまう場合でも、その場で修正されるよう求められる。

機体の発進はプラットフォーム上の審判員が「ゲート、オープン!」と言って白旗を上げれば可能となり、そこからと希望と熱い想いを乗せた飛行機が琵琶湖へと飛び立って行く。

……だが。この発進までが厳しい。
琵琶湖の湖上という風の強い場所ゆえ、発進後に風にあおられバランスを崩し即座に転落するチームも少なくない。そのため、チームによっては風向を読んでプラットフォームから斜めに出発する組もある。
また、発進時に誤ってチームメンバーが湖に転落した場合は、飛行に成功しても即座に失格扱いとなるほか、前述のステッカーの貼り付けを忘れる、プラットフォーム搭載時にアクシデントで機体が損傷するなど、ミスでフライト前に失格となってをのんだチームも結構見られる。

フライト後は湖上で並走するモーターボートから無線指示の下でルートの微妙な調整を行い、着水までを競う。

尚、プラットフォームの高さと発進にチームメンバーの補助を借りる点が抵触してこの大会の記録はギネスワールドレコーズ/ギネス世界記録としては認められない。
元々ウケ狙いイベントのフォーマットなので仕方ない。


主な部門

  • 滑空機部門
大会当初から設定されている部門。
動力装置なしでどこまで飛べるかを競うもので、中にはウケ狙いのような機体も多い。
そういう機体は100%ダイジェスト送りになるが
2004年以降は機体制限値を設けた「フォーミュラ」と、それが無い「オープン」の部門に分割されている。

なお、本家イギリスの大会の流れを汲んだウケ狙いについては「コミックエントリー」という専用部門が設けられていたが、1986年の第10回を最後に廃止されている。

  • 人力プロペラ機部門
元々は滑空機部門の一部だったが、1985年の大会で優勝を果たしたことから翌1986年から独立。
回を追う毎に飛距離が増加し2003年の大会で末端となる琵琶湖大橋付近の34キロまで到達。
そのため、途中の18キロ時点での折り返しが認められるようになった。
……が、それ以降も飛距離がどんどん伸びてしまったことから現在は折り返しポイントを多数設けたうえで最長70キロまで到達可能となっている。

2001年の第25回から人力ヘリコプター部門が設けられていたが、プラットフォーム上から発進する形式と相性が悪く、2003年の第27回を最後に廃止されている。


余談

  • 2010年の大会再開後はプロパンガス・水素エネルギーメーカーの岩谷産業が特別協賛しており、また同社社員は滑空機部門にチームとしても出場している。
    そのため、番組タイトルも「Iwataniスペシャル 鳥人間コンテスト」となっている。
  • 本作を題材とした小説として、中村航氏の『トリガール!』がある。
    作者の母校かつ常連出場校でもある芝浦工業大学のチームをモデルにした作品で、2017年には土屋太鳳主演で映画化*5。映画には本家の実況担当である羽鳥慎一や『びっくり~』の常連だった轟二郎氏も出演している。
  • 2022年下半期より放送されていた連続テレビ小説『舞いあがれ!』では「イカロスコンテスト」の名称で鳥人間コンテストへの出場が取り上げられている。
  • 人力プロペラ部門の機体の重量は、チームにもよるがだいたい40kgから60kgほど。
    これは骨格にカーボンパイプを、翼その他各所にスタイロフォーム*6を利用し、その他各所の涙ぐましい軽量化の結果でもある。
    そのため、機体よりもパイロットの体重の方が重たいというチームが多数で、パイロットは過酷な軽量化もといダイエットを求められる
    そんな中で芝浦工業大学は二人乗り飛行機という狂気に挑戦しているため、出場するだけで何かしらの賞を受賞している。
    無論、パイロットの重量が設計値に収まらなかった時のために、翼の取り付け位置を余分に作るなどしてある程度制御のきく設計をしているところが大半である。
  • 冒頭に記した通り大会の開催は7月の下旬。この時期は大学によっては期末試験の直前、あるいは直後。ついでに書類審査のための書類の締め日も後期の期末試験とダダ被り。学生の本分は勉学である以上、日々日頃から勉強会などを開くサークルも多数ある模様。
  • 機体設計にスケジュール管理、そして現場での製作などものつくりの工程を一通り経験するため、学生にとって就活において非常に強いアピールポイントとなりうる。
    ただ、就活のため「だけ」に鳥人間のサークルに入ることはあまりお勧めしない。そして幽霊部員は事細かにアピールすることが出来ず、面接官から白い目で見られるのがお約束となっている。
  • 現状、人力飛行機というジャンルにおいては、怪我人こそ出ているものの死人は出ていない
    万が一人力飛行機の挑戦において死人が出たら世界中の人力飛行機の開発に影響を与えてしまうため、本番組は安全面には凄まじく力を入れている。
  • 日テレのお笑い番組『有吉の壁』では、タイムマシーン3号と三四郎の4人で「鳥人間コンテスト」というネタを不定期に実施している。2022年の大会は同枠で放送されたことから、番組公式のYouTubeでこのネタだけを(と言っても5本だけだが)ループで2時間同時配信する『鳥人間コンテスト耐久動画選手権』なるもはや病気以外の何物でもない企画を実施した。
  • ゼルダの伝説 風のタクト』には、このコンテストをオマージュしたと思われる「バードマンコンテスト」というミニゲームがある。海上に建ったやぐらから飛び立ち、着水するまでにどれだけ遠くまで行けるかという、まさに鳥人間コンテストそのもののルールの競技。
    ……しかし、同作の世界にはリト族という翼が生えていて空を飛べる鳥人間そのものの種族が存在しており、そもそもその競技の参加者も主催者であるリト族一人。おまけに、工夫次第でリト族ではなくただの人間である主人公リンクがその最高記録を更新できるという、根本的に世界観に噛み合っていない不思議な競技になってしまっている(実際、作中に登場する他のリト族にも突っ込まれており、相手にされていない模様)。




追記・修正は琵琶湖で折り返しの新記録を叩きだしてからお願いいたします。


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最終更新:2024年04月04日 18:56

*1 尤も、イギリスの本家大会でも仮装して飛び込む「カワセミ部門」の他に、ハンググライダーを飛ばす「コンドル部門」、自作の飛行機を飛ばす「レオナルド・ダ・ヴィンチ部門」はガチで飛んでいるが。(ちなみに100mを達成したら30,000 ポンドの賞金が手に入る。)イギリスの人力飛行機ガチ勢においては個々の団体が単独で記録や賞に挑戦することが多いのも一因か。イギリスでも2012年からは日本語で検索するとパラグライダーの同名大会があって紛らわしい滑走路にてガチ勢向け大会イカロスカップも開かれている

*2 大会のロゴもハンググライダーに乗る人を模したデザインが採用されている。

*3 10秒以内に機体から降りれないとアウト

*4 前年から試験的に一部チームで採用していたが、好評につき全機搭載へと拡大している。

*5 土屋はこの年の大会にもスペシャルゲストとして登場している。

*6 きめ細かい発泡スチロールのようなもの。建築物の断熱材として利用される。