SCP-7000

登録日:2023/01/23 Mon 22:30:32
更新日:2024/04/26 Fri 17:56:57
所要時間:約34分で読めます




はじめに

2022年7月から8月にかけ、記念すべき7つ目のシリーズファーストナンバーを決定するために行われた、SCP-7000コンテスト。
今回のテーマは「」。最終的にシリーズⅧ最初の報告書と言う名誉をつかみ取ったのがHarryBlank氏の執筆したこの報告書である。

この作品はカノンハブ「オンガード43*1及び「ノー・リターン*2に属する作品だが、シリーズファーストナンバーがカノンハブ内の作品となるのは初めてのこと
とはいえ、本編単体でも十分に楽しめるようになっているため、「他の作品を読んでいないと楽しめない」という心配はない。






緊急時脅威戦術対応機構

最優先通達

全世界的なLK-クラス “運命の悪戯” 確率破綻シナリオが現在進行中です。この緊急事態の間、ETTRA職員から発せられる一切の要請は、監督司令部の権威を伴う強制指令となります。

未申告の異常体質を有するSCP財団職員が、この期間中にETTRA代表者に申し出た場合は、収容、記憶処理、終了処分のいずれからも免除されます。当組織の存続のためには、あらゆる内部確率ベクトルを特定し、対応策を適宜開発することが不可欠です。当組織の存続は、人類の存続にとって不可欠です。

我々は超常性を支配し、我々の法則はマーフィーの法則に取って代わる。

— ETTRA管理官、ダン・███████博士



SCP-7000は、怪奇創作サイト「SCP Foundation」に登場するオブジェクト
オブジェクトクラスKeter
攪乱クラスは「Amida」、リスククラスは「Critical」とどちらも最大であり、非常に危険なオブジェクトであることが分かる。

特別収容プロトコル


SCP-7000に関連する全ての収容試行は緊急時脅威戦術対応機構 (ETTRA) の管轄下に置かれ、ETTRA以外の職員は、当シナリオに直接関連する収容活動を控える必要がある。

全ての財団職員は、日常業務を行う前にETTRAマニュアルLK-4 (“賭けるなかれ: 業務の確率変動強度の評価”) を参照しなければならない。
また、監督司令部、ETTRA、またはセキュリティクリアランスレベル4以上の監督職員から直接指示がない限り、確率指数4.9以上の作業の実施は認められない。
既知のSCP-7000の影響の完全版報告はSCiPnetで毎日公開される予定で、通知があるまではあらゆる種類の実験や任務の実施に先んじて閲覧しなければならないことになっている。

また、SCP-7000-1は重要度が低く、収容を必要としない。

説明

SCP-7000とは、地球上において進行中、あるいは地球外に及んでいる可能性がある、確率要因の無作為化と異常な偶然性のこと。

…どういうこっちゃ?と思うかもしれないが、要は「地球上の確率に異常が発生したせいで滅茶苦茶になっている」ということである。
包括的でなく断片的な効果であり、程度、期間、地理的影響範囲によって無作為化されているが、いずれにしても予測可能だった行動に対して非常識で注目を引きやすい結果が累積されることで、財団による秘匿・収容を脅かしている。
仮に完全な因果関係の破綻が発生すれば、正常性、財団、ひいては人類の喪失を招きかねないだろう。
加えて、因果破綻の原因はまだ明らかになっていない。
なお、この確率異常によって発生した珍しい事象は分析部門によって具体的に分析され、リスト化されて報告書内でところどころ挿入されている。

一方のSCP-7000-1は、サイト-43の再現研究部門セクションの副議長を務めている54歳の白人男性、ウィリアム・ウォレス・ウェトル博士。
彼がこの確率異常とどのような関係があるのか?と疑問に思うかもしれないが、それはレベル4機密事項。緊急時脅威戦術対応機構、またはO5評議会の許可なく閲覧することは不可能だ。

…と言っても、アニヲタ支部の諸兄にとってクリアランスは意味のないもの。物語を進めていこう。


異常の始まり

補遺 7000-1、現象概要

2022年7月7日、オンライン数字生成サービスの異常な挙動が報告されたことが、確率異常の始まりとなった。
RANDOM.ORGというこのサービスは、自然界の大気中に含まれる無線雑音を利用することによって真の無作為性を実現しており、ウェブクローラによって毎日乱数のリクエストを行うことで、確率異常の早期警戒のために利用されている。

調査の結果、あらゆる大気中雑音が識別可能な一定の法則にしたがった非乱数を生成することが判明。強制リダイレクトによってRANDOM.ORGは異常性収束まで一般利用者に向けて疑似乱数を生成するように切り替わる。
この事案は緊急時脅威戦術対応機構と解析部門に通達され、解析部門は広範囲の現実改変の証拠となる、統計学的にありえない事象のリストを迅速に作成した。

解析部門報告

項目:確率論的予測装置に従って行動していたカオス・インサージェンシーに所属するスパイが、移動中に突然の激しい嵐に見舞われ、巨大な雹に撃たれて意識を失っているのが発見される。
対処:スパイは拘留、尋問中。

項目:既存の全ての暗号通貨市場の唐突かつ全面的な破綻。
対処:なし。長期的な予測モデルとは一致する現象である。

項目:SCP-179*3が明らかに困惑する様子を見せ、コンパスの主要方位点に対応する8方向の脅威を指差している。
対処:彼女との交信に使う太陽探査装置の喪失を防ぐため、確率性の安定まで、彼女との交信は行われない予定。

項目:イエローストーン国立公園の間欠泉 “オールド・フェイスフル・ガイザー” が、少なくとも1870年以来続いていた約65分または91分間隔の2パターンから逸脱し、30分おきに繰り返し噴出している。
対処:周辺地域からの退避を呼びかけたうえで、科学的調査を装って封鎖。

項目:異常な保険会社 “ゴールドベイカー=ラインツ・インシュアランス・グループ Ltd.” による複数の低利回り投資の、相互に相関性のないイールドカーブ変動。修正簿価は現在、数億米ドル規模に達している。
対処:特に対応策なし。なお、翌日に投資は暴落した。

7月8日、このような事態から緊急時脅威戦術対応機構は非常事態を発令。
現実改変または奇跡論によって当該事象を引き起こしている要因が解明されない場合、シナリオ抑制の努力が複雑化するという仮説を受け、異常体質を申請していない職員への特赦をETTRAに付与、異常性の自己申告を促した。

翌週、サイト-43の複数の職員がこれに名乗り出る。その中にはウェトル博士も含まれていた。

インタビューログ

異常性を訪ねるソコルスキー博士に、ウェトル博士はこう回答した。
運が悪いんだ」と。

当然ソコルスキー博士は取り合わないが、ウェトル博士はその運の悪さを実演してみせた。
ポケットに入っていた画鋲で指を刺してしまいながら取り出したコインでコイントスを行うと、コインは天井になぜか張り付いていたガムにくっついてしまう。
続いてソコルスキー博士に1から10の数字を思い浮かべてもらい、ウェトル博士はそれを当てようとする。すると1から10までのすべての数字を言い終わるまで当たることが無かった。その直後に先のコインが彼の頭上に落下し、ガムと一緒に髪にこびりついてしまう。
ため息をつきながら、彼は過去20年のコイントスは一度たりとも当たっていないと語った。

これまでの人生もこのような事態ばかりだったというウェトル。うまくいかない可能性のあることは全てうまくいかない。奇妙なアノマリーにいつも曝露するせいで隔離措置すら取られなくなり、誘拐された回数はもはや覚えていないという。主導権もなければ制御もできない。この不運が伝播するのを防ぐため、同僚たちは定期的に運をリセットする活動をさせているらしい。
「なぜ今更伝えてきたのか」という質問に対し、ウェトルは「もしこの確率異常が悪化すれば、何も予測できなくなり、命の危険すらありえる」からだと答えた。

何かに思い至ったソコルスキーはウェトルに、「先週から何か変化はあったか?」と尋ねる。
ウェトルの回答は「予測は全て外れた。一つ残らず」。
<録音上に沈黙。>

ソコルスキー博士:記録されている確率関係のアノマリーは136件ある。お前はたった今137件目になった。

ウェトル博士:イェーイ。それがどうした?

ソコルスキー博士:ウィリー、そのしょぼくれた人生で初めて、お前は特別な人間になれるぞ。

ソコルスキー博士は、確率破綻の中でも、ウェトル博士の「確率を外す確率」が変化していないという事実に気づく。
疑惑を裏付けるため、彼はサイト-43の職員らにインタビューを実施した。

インタビューログ

  • ハロルド・ブランク博士(記録保存・改定議長)
ブランク博士はウェトル博士の友人であり、ウェトルがブランクに頭痛の種を与え、ブランクがウェトルを小ばかにする一種のギブアンドテイク的な関係が成立していると語った。
一方で失礼ながら彼とウェトル博士とは大して変わらないような人間であるにも関わらず、明らかにウェトルの方が不幸であるという事実にソコルスキーは着目した。
彼のアノマリーじみた不手際について尋ねるソコルスキーに対し、ブランクはウェトルのかつての妻であるマルゲリータ・ヴィラ―を訪ねることを提案する。

  • マルゲリータ・ヴィラー (民間人)
ソコルスキーは「人事採用の参考」という名目でインタビューを実施した。
ヴィラーはウェトルのことを、「自分勝手でどうしようもないダメ人間」だと語る。
結婚生活の中でも彼は不幸かつ不手際が多かったらしい。苛立ちを感じつつ平静を装いながら結婚生活を続けていた彼女だったが、ある日彼女は交通事故を起こしてしまう。すると、ウェトルはただ去ってしまったのだという。怪我を他人のせいにする責任感の無さに対して彼女は不満を明らかにし、「あの人がいない方がしっかりやっていけると思いますよ」と語った。

  • ガブリエル・オコナー (サイト-43、再現研究、研究助手)
彼女はウェトル博士に対し、彼がコーヒーを飲み終わった後に「自分が作ると豆中毒になる」と、次の人の分を作っていかないことに批判的であった。また、因果応報とは思いつつも、ウェトルが不運であることには同意した。

  • バスティアン・ルブラン (サイト-43、再現研究、研究助手)
不運のアノマリーについて、ウェトルは自供に対し相当おびえていたのではないだろうか、とルブランは推測していた。自分が悪運を引き寄せ、他人に伝播させることもウェトルは恐れているのだという。
ルブランはウェトルに対し好意的であり、「時にはろくでもない奴になったりするが、残酷ではない」「悪いパターンから常に脱却しようとしている」と語る。
また、彼自身サイト-43に転勤してから割と運が良い、と感じているようだった。

インタビュー結果をもとに、ソコルスキーはSCP-7000とウェトル博士を絡めた実験案を構想。ETTRA管理官のダン・███████博士に連絡を取る。
なお、この間にも確率破綻は拡大し、特に超常コミュニティで顕著になりつつあった。


解析部門報告

項目:ウィスコンシン州の異常空間であるNx-18*4の仕組みが物語倫理に基づかなくなり、平凡な街に変化。
対処:7000の無力化を期待し、封鎖措置は続行。

項目:マーシャル・カーター&ダーク株式会社のシニアアソシエイトが、折り畳みソファの事故で死亡。
対処:特に対応なし。なお、折り畳みソファの事故はごく稀にではあるが発生しうる。

項目:地球上でもっとも地震が少ない大陸である南極大陸で地震が発生。震央を調査したところ、カオス・インサージェンシーの戦闘基地が埋没、基地の人員は全滅しているのが確認された。
対処:将来の利用に向けて発掘した。

オペレーション・ブラックスワン


O-5評議会議事録

ダン博士はこれまでに発生している500種類もの確率破綻を報告する。
ネットオークションに「イエス・キリストの顔が焼き付いたトースト」が多数出品される、ガレージセールを見回るエージェントが毎回のようにアノマリーを持って帰る、世界中の半分の猫が多指症の状態で生まれる、etc…
だが、多指症やキリストのトーストはあくまで偶然性の話であり、確率には関係のない話。
一方、サイコロが昨日は最大値ばかり出したかと思えば今日は1ばかり出るようになったり、ゲーム内で色違いのポケモンばかり捕まるようになってオンラインサービスやファンサイトを閉鎖する羽目になったり…と、確率に関する異常が起きていることも確かである。
つまるところ、SCP-7000は確率的かつ迷信的な運の影響が複雑に絡み合った事象を引き起こしているのだと、ダン博士は説明した。

彼はここで、自他ともに認める負け犬にして異常性を保つ唯一の確率アノマリー……ウェトル博士について提示した。原因は分からないが、彼は地球上で唯一の信頼できる確率因子である、と説明する。

彼はウェトル博士とソコルスキー博士の仮説についても解説した。
ウェトル博士は自分に降りかかる悪運が「過負荷」を起こした時、他人にも混乱を引き起こしうると推測している。
一方ソコルスキー博士は各種のデータを調べた結果、不可避の災害を除けば、サイト-43が地球上でもっとも幸運な場所であると結論付けたという。つまり、ウェトルは他人の悪運を吸い寄せているのではないか、と推測したのだ。

彼はこの仮説を利用して、任務中に発生しうる確率破綻による予測不可能の悪運の中でも、ウェトル博士を任務に連れて行けば安定剤として作用するという見解を表明した。
「6人の熟練した超兵士と1人の歩く時限爆弾」の部隊の運用、「オペレーション・ブラックスワン」を彼は提案したのである。
O5-7: 世界が周囲で崩れ去ろうとしている時に、何やかんやと命名する余裕があったらしくて何よりだ。

ダン博士:命名しなければ不運を呼び込みますよ、サー。それに、私はある時点で幸運が再び我々に微笑みかけるという前提で動いています。それについても仮説はあるのですが、現時点で記録に残したくはありません — ほら、事情が事情ですからね、縁起担ぎというやつです。

O5-1:編集を認めよう。その理論とは何だ?

ダン博士: [編集済]

O5-3:冗談でしょう。

O5-1:[溜め息] 冗談に決まってるとも。さっきからずっと指差してるスライドを見れば分かる。

O5-10:私はてっきり何かのカオス理論かと思っていましたよ… ヒートマップ投影図だろうなと。

O5-4:俺はいずれ説明してくれるだろうなと思ってた。

ダン博士:説明していませんでしたか? 失礼しました、これは私の朝食です。今、我が家の全ての卵には黄身が2つ入っています。

<録音上に沈黙。>

ダン博士:重要なのは、この現象が遠からず、我々の生活のあらゆる面に影響を及ぼすだろうという点です。だからこそ、私は今までの人生でやってきたのと同じように真剣に解決策を練っているのですよ。

O5-1:もう十分判断材料は得られたと思う。君のブラックスワンを投票に付すとしよう、私は承認したいと思う。賛成の者は?

投票の結果、賛成9、反対2、棄権2により、動議は可決された。

解析部門報告

項目:一生歯性の歯が生えた状態で孵化するニワトリの雛の数が着実に増加。
対処:陰謀論ウェブサイトに「雌鶏の歯のように希少」ということわざは不可能性ではなく遺伝的な変異を指し示しており、遺伝子組み換え生物の増加がその現象を再び引き起こしているとする内容のスレッドが立てられた。

項目:カオス・インサージェンシーのスパイがサイト-91への侵入を行った際、彼らは警備員の巡回ルートを把握していたが、警備員たちが靴の中の小石を取り除いていたため巡回に遅れが生じ、結果的に発見されて交戦。
対処:これを機にすべての収容施設内で巡回を強化した結果、11人のスパイを捕らえることに成功した。

項目:SCP-4040*5が底なし穴から深さ可変の穴に変化。
対処:穴のかつての特性を知る民間人は全員ネクサスの住民であるため、積極的監視に留める。

…インサージェンシー、何か毎回被害受けてない?

作戦θ-7000

機動部隊シータ-7000『フォーチュネイト・サンズ』において早速訓練を開始したウェトル博士だったが、やはり持ち前の不運が発揮されてしまうのか、成績はよろしくない。本人も隊長のアダムズも懸念を示したが、結局部隊はカオス・インサージェンシーの施設への襲撃作戦に投入されることになった。

脚を捻ったり、閃光手榴弾が命中したり、天井の崩落に巻き込まれたり……と相も変わらず不運に見舞われ続けるウェトル博士。
が、作戦そのものは彼の貴重な犠牲のおかげで幸運に見舞われつつ順調に進み、骨折したウェトル博士以外には死傷者を出さずに施設の制圧に成功。
この際の作戦記録の分析から、戦闘時に確率異常は発生せず、ウェトル博士がSCP-7000の影響を吸収していたことが示唆されたため、本人の希望を無視し、シータ-7000はさらなる任務を行うことになる。

解析部門報告


項目:サイト-120に爆発物を設置していたカオス・インサージェンシーのスパイ7名が捕獲されたさい、1名がライターから火が出なかったためにステップ・コンピレーションの破棄に失敗。
対処:改修したコンピレーションに筆圧による筆跡があったことから、別な紙を上に重ねてメモを取っていたものだと判明。解読の結果ポーランドにあるインサージェンシーのセーフハウスを特定し、無力化に成功。

項目:SCP-3856-1*6、つまりベースライン現実の個体であるロイド研究員がハムサンドを喉に詰まらせて死亡。
対処:ロイド研究員の死による地球上の滅亡の危機に備え、財団は監視を強化中。

項目:メカニトの上位聖職者3名が壁面収納ベッドの事故で死亡。
対処:三頭政治協定*7に従って、監督司令部は哀悼の意を表し、葬儀費用の一部を負担した。

以下は正式に就役したシータ-7000による代表的な作戦である。

作戦θ-7000

任務内容:蛇の手のエージェントによる前哨基地への襲撃の撃退。
結果:作戦は成功し、困難なシステムの修復も完了。ウェトル博士は様々な軽傷を負った。彼の反抗的な態度に対し、作戦後に同僚のルブラン研究員が事後報告要因として追加された。

任務内容:即席魔術核爆弾の解除。
結果:解除に成功。爆弾に組み込まれていた3種類の解除防止機構がいずれも作動していなかったことが判明した。ウェトル博士は作戦中3匹のハエを飲み込んだ。

任務内容:O5評議会をアジア亜大陸の機密指定された場所へ護送する。
結果:作戦は成功。O5評議会のメンバーはアノマリーであるウェトル博士と可能な限り遠ざけられていたが、O5-1は3回にわたって「不名誉な状況」にいる最中のウェトル博士と遭遇した。

任務内容:収容違反して町に向かうSCP-682の捕獲。
結果:会場から100m以内の地点で682の鎮圧に成功。民間人の注目が野生のカンガルーと格闘するウェトル博士に集まっていたため、気づかれることはなかった。なお、この際のウェトル博士の動画がネットで話題になった。
なお、作戦終了後にウェトルはルブランと口論となり、結果としてウェトル博士の指示によってルブランは解任されてしまう。


任務に動員されてその都度ひどい目に遭い、不満タラタラのウェトル博士は様々な仮説を提示して逃れようとするが、全て無視される。
なお、シータ-7000の活動はSCP-7000の無力化や明白な悪化を引き起こしてはおらず、その最も深刻な影響を差し当たり相殺するに留まっていた。

解析部門報告

項目:経済学が一時的に現実の経済活動に反映。
対処:対応なし。市場活動は自然に補正されると見込む。

項目:カオス・インサージェンシーのスパイ2名がサイト-79への侵入を試みるも、警備主任が「虫の知らせ」によってパスワードを変更していたため失敗、逃走。
対処:後に傍受された緊急医療援助要請を元に、夢芸夢*8郊外の集合住宅にて新型コロナウイルスに感染して重篤な状態にあるインサージェンシー12名を発見。スパイと遭遇したエージェントは彼らの逃亡後に陽性反応を示していた。
なお、住宅内で発見されたステップ・コンピレーションには日本国内における活動の概要が示されていたが、いずれも現地で発生した予期せぬ事象のため不可能となることが判明した。

項目:科学的・超常科学的に一切の根拠が無い理論 “引き寄せの法則” が、不可解にも効力を発揮し始める。
対処:対応なし。SCP-7000以前と同様に、その有効性に対する個々人の信念には何ら影響を及ぼしていない。


ターニングポイント


カオス・インサージェンシーからの通信

8月24日、カオス・インサージェンシーから発信された暗号通信を、サイト-01の監督司令部が受信。
ここまでの解析を見ていれば分かると思われるが、この時インサージェンシーは確率異常によって多大なダメージを受けており、影響力が著しく低下していたため、この通信の重要性は低いと判断される。
しかし、その後の会話でSCP-7000の原因について1つの可能性が浮上した。

O5に対し通信を行うインサージェンシーのエンジニア。「先日送った最後通牒に対する答え」を要求する彼だが、財団は回答せず…と言うか、回答しようがなかった。何故なら、そもそもそんなもの受け取っていなかったからである
O5側で原因を分析したところ、インサージェンシー側は確かに先日無作為に選んだIPアドレスを使って「最後通牒」を送っていたのだが、不運にも全く別件のサイバーテロで使われたアドレスと一致していたため、未読のまま削除されてしまっていたためだった。

エンジニアも流石に驚くが、気を取り直して「最後通牒」を再送。O5メンバーは動画の視聴を開始する。
無駄に仰々しい演説をガン無視しつつ動画を進めると、やがて巨大な機械の画像が画面上に現れた。

エンジニア:KISMETデバイスは今、地球上の運命の流れを完全に制御している。あらゆる偶然と不確実性の働きは決定的に破綻するだろう。敵が張り渡した息をも詰まらせるヴェールは剥がれ落ち、真相が明らかとなるのだ。

O5-1:毎度毎度やたらと前置きが長い。

エンジニア: しかし、もう一つの選択肢がある。諸君が全人類に投げかけた長き夜を存続させる手段だ。諸君の座を赤き右手に明け渡せ。諸君の忠実な兵士たちを囲いに戻せ。本来あるべき姿となり、大いなる使命を思い起こし、カオス・インサージェンシーの正当なる勝利を認めるがいい。

動画が終了した後、『KISMETデバイス』の画像は加速器のミューロン検出器のそれと同じと言う事実があっさりバレる。
O5評議会はこのことを審議し、確率異常によって大きな損害を受けたインサージェンシーの苦し紛れの脅迫でしかないと結論付け、最後通牒は無視される。
その結果はと言うと…まあお察しの通り、特に変化はなかった

解析部門報告

項目:フランスの7歳女性ステファニー・ベランジェが、22/07/07に初めてチェスをプレイし始めたにも拘らず、チェスの世界チャンピオンになる。
対処:ステファニーはこの事象を認知していた[データ削除済]の孫娘であり、彼が世界大会への出場を誘導していたことが調査で判明。[データ削除済]が高齢なため追求せず。

項目:気象予測が成り立たなくなった。
対処:対応なし。この変化は民間社会から気づかれていない。

項目:サイト-41がカオス・インサージェンシーに占拠された際、反ミーム部門に関する周期的かつ予測不可能な忘却効果がサイト占拠中のインサージェントを直撃。混乱したインサージェントたちはサイトを退出。即座に拘留された。
対処:財団研究員たちによってこのアノマリーの兵器化が試みられているが、その都度同じ症状に見舞われている。


ルブラン博士によるインタビュー

その頃、ウェトル博士によって解任されてしまったルブラン研究員は独自にLK-クラスシナリオの研究を開始。
インサージェンシーからの通信があった日と同じ8月24日に、彼は財団運営の退職者コミュニティを訪れ、ウェトル博士の両親である父のサイモンと母のミンディにインタビューを行った。

幼少期のウェトルは、「他の人に災難が訪れないためにはどうすればいいのか」と悩んでいた時期があったのだという。
ミンディによると、その原点となったのは彼が12歳の時、ミンディが肺癌になったことが理由だったようだ。
しかし、すでに高齢のミンディは当時のことをなかなか思い出せない。ルブランが記憶補強薬の使用を提案すると、夫婦はその存在を知っているそぶりを見せる。何でも職場、つまり財団で何かの事故が起きた後、ウェトル博士についての調査が行われた際も彼女らはそれを使用したのだとという。
立場上多くのことは話せないルブランだが、それでもこの調査が人々を救うために必要であることは告げる。

ミンディ・ウェトル:私になら訊けると言うのね。分かったわ。ウィリアムの為ならそうしましょう。でも、その前に1つ約束してちょうだい。

ルブラン研究員: 私にできる事なら。

ミンディ・ウェトル:できますとも。あの子に、たまには自分のことを考えるように伝えると約束して。

<録音上に沈黙。>

サイモン・ウェトル: どうだい?

ルブラン研究員: ええ。はい。お伝えできると思います。

この会話の後、何か手がかりをつかんだのか、ルブラン研究員はウェトル博士への接触を試みる。しかし尽く拒否された上に、ルブランが任務のため不在気味だったこともあり、これは成功しなかった。


8月26日、シータ-7000の68回目の任務終了後、遂にウェトルの堪忍袋の緒が切れ、彼は職務放棄……したは良かったが、追跡装置も電源もオフにできなかったためにあっさり確保される。
この間、ウェトル博士はメッセージの録画を行っていた。携帯や眼鏡を落としたりしつつ、彼は財団職員としての仕事の愚痴を零し、ここ最近のシータ-7000の業務を「ドタバタ喜劇を続ける苦行」と嘆いた。一方で、「この手で全てを終わらせる」という何やら意味深な発言も。

ウェトルの拘留後、ダン博士が彼に対しインタビューを実施した。

事後報告ログ

財団任務管制室にて会話する2人。
ダン博士はウェトル博士に対し、SCP-179の姿を見せる。本来179は宇宙からの脅威を地球に対して伝える性質があるのだが、この際の確率異常の影響が及んだのか、腕が8本に増え、それぞれ別の方向を指し示すという状態に変化している。
ダン博士は、この状態が179の混乱ではなく、タロットカードの「運命の輪」の身振りによる何らかの示唆では?という仮説をウェトルに提示した。
御しがたく非個人的な、しかしウェトルにとっては個人的に思える、そんな運命の輪。

ダン博士がかつてクレフやコンドラキらとともに勤務していた時代から「虚仮威し」のために「マヌケな」苗字を黒塗りにしている、聞き出したければ出し抜いてみると良い…といった閑話を少し挟みながら、ウェトル博士とダン博士の会話は続く。
これ以上現実は悪くなりようがないと考えていたというウェトル、結局シータ-7000のメンバーとして行動せざるを得ない現実を突きつけるダン。

その時、SCP-179の周辺で太陽フレアが発生したため、管制室に映像を送る探査機が後退する。ダンの勧めで「別れの挨拶」としてウェトルが画面に向かって手を振ると、画面内の179も手を振り返した。あたかも、ウェトル博士が特別な存在であると示唆するかのようである。

ダンはウェトルに対し、彼の特別性を語った。難局を乗り越えようとする最も重要な存在、全ての人々にポジティブな影響を与える、人々からの共感を呼ぶ人物…と、不幸を嘆きつつも確率異常に対して確かな対抗手段となっているウェトルに好意的な言葉を贈る。
ウェトル博士: この状況を楽しむべきだと考えてるんだな。

ダン博士: 最悪の場合でも何が起きると言うんだ? こんな事を言ったって許されるだろう、今や全人類は運命を誘い寄せる力を失った。君以外の誰もがね。

ウェトル博士:…私はこの狂ったナンセンスを受け入れるべきだと。本気でそう思うんだな。

ダン博士:こう考えてほしい。今まで惨めな気分ではなかった時はあるか?

ウェトル博士:無い。

ダン博士:そこから脱却しようと努力したことは?

<録音上に沈黙。>

ウェトル博士はシータ-7000の任務への復帰に同意、落ち着いた様子で職務に専念しているとアダムズ隊長は報告した。
ダン博士はO5評議会に対し、SCP-7000の無力化計画が実行段階に入ったと報告する。

解析部門報告

項目:SCP-6263*9が元イギリス首相ボリス・ジョンソン氏が正確に3日間投獄されるのに必要な期間だけ活動を再開。
対処:なし。ジョンソン、ドンマイ。

項目:マーサズ・ヴィニヤード島で3匹のはぐれサメが発見された。
対処:アメリカ海岸警備隊を装った財団の船舶が捕獲、放流。架空の映画「ジョーズ5」の撮影に関するカバーストーリーを流布した。

項目:ニュージーランドのオークランド諸島にて戦術核の爆発が確認。財団職員が現地に急行すると、カオス・インサージェンシーの強化起動アレイの残骸を発見。調査を行い、サイト-01に発射予定だった核兵器が発射区画ドアの故障が原因で爆発したものと推定。
対処:インサージェンシーの活動レベルをレベル5から2に引き下げ。要注意団体に指定されて初めて蛇の手や壊れた神の教会を下回る。

…インサージェンシー、もうダメそうである。

接触、そして

ウェトル博士との接触を図っていたルブラン研究員だったが、非協力的な彼に業を煮やし、彼の部屋のロックを適当な数字を入力することで解除。ついに対面することができた。
ウェトルの両親との接触もとにヒントを得たらしきルブランは、監視カメラの視覚外のエリアにてウェトルに対し何かの情報を伝える。

ウェトルが再び監視カメラに映ったとき、彼は取り乱し、興奮しているように見えた。
自室に戻って暫く歩き回ったのち、ベッドに横たわり、独り言をつぶやき始める。
ウェトル博士:そんなに単純なはずがない。

<録音上に沈黙。>

ウェトル博士:まさかな… そんなに単純なはずがない。あり得ない…

<録音上に沈黙。>

ウェトル博士:“SCP-7000-1は重要度が低く、収容を必要としません”。その通り。まさにその通り。それが全てだ。あいつは大ボラ吹きだ。

<録音上に沈黙。>

ウェトル博士:やっぱりあいつが正しいんじゃないか。

数十分、彼は沈黙して天井を眺めつづけた。

ウェトル博士:さて、私に何を言わせたいのかね? 教訓を学びましたとか? それとも、人情の温かみにすっかり満たされましたとでも? くたばれバカ野郎。永久にくたばれ。

<録音上に沈黙。>

ウェトル博士: [聞き取れない声]

<録音上に沈黙。>

ウェトル博士: [聞き取れない声]

<録音上に沈黙。>

ウェトル博士:聞こえただろうな?!

<照明器具が天井から外れて落下し、ベッドフレームに当たって火花を散らしながら砕け散る。>

ウェトル博士:そうか、聞こえたんだな。

<ベッドシーツに火が付く。>

翌日、ウェトル博士はいつものように任務に就いた。
アダムズ隊長はこの時の彼の様子を『清々しい雰囲気で、それでいて悲しげで、しかし何よりもまず少しドヤ顔だったが、理由は良く分からなかった』と報告している。

ルブランが伝えた「情報」とは、そしてウェトルの独り言、そしてその後の誰かに話すような台詞の意味は?





O5評議会資格情報を確認

以下のSCP-7000ファイルへの保留中の変更案は監督者のみの機密情報とする。




異常の収束

ダン博士の予測通り、エリア-08-Cで行われたウェトル博士との報告セッションに続いて、SCP-7000現象の深刻度は次第に低下し始める。

解析部門報告

項目:検出例なし。
対処:なし。

確率性アノマリーの活動再開や、死亡したと考えられていたSCP-3856-1がベースライン出身個体でなかったことが分かったことなどにより、当面の危機の収束が確認。シータ-7000は無期限の活動休止となり、オペレーション・ブラックスワンは8月30日に終了することが決定された。
財団はこのLK-クラスシナリオの途上で38人の犠牲者を出したが、内36人はカオス・インサージェンシーのスパイと判明。他の2名も調査中らしい。
確率異常によって世界経済の大変動、構造的・物質的被害、そして計り知れないほどの対人関係の破局が発生したが、それに起因する全ての民間人の死は、個々人の道徳心の欠如、もしくは著しく稚拙な意思決定によるものだという。
なお、各種の隠蔽工作は当面続く予定のようだ。


真相

8月29日の夜、ダン博士は財団運営のパブでビールを呷るウェトル博士に遭遇した。
ウェトルは「友達」、つまりルブラン研究員の考察によって「確率異常の原因は自分にある」ということを理解した、と語った。それはダン博士の考察通りであり、彼は解説を始める。

不運の伝染を恐れるために妻や家族とうまくいかず、現状維持すらロクにできない。ついにウェトルは諦め、人生を虚無のままに生き、そこで満足しようと考えたのだ。
その結果、不運の元となる彼の異常性…すなわち「彼が満足することとは反対の方向にあらゆる物事が進む」が最悪の形で作用。大騒動が発生し、ウェトルは意思に反して注目の的、重要人物となったのだ。

これに対しダン博士が解決策として打ち出したのは、「ウェトルにこの状況を甘受させる」と言うものだった。ダンはウェトルに呼び掛け、彼にある種の充足感を与えさせようとしたのである。
すると異常性の作用により「ウェトルがこの状況に満足する」→「異常性によって物事が正反対に進むため、満足の前提となる確率異常が収束する」という流れとなり、全てが元通りとなる。それがダンの理論だった。

ダン博士:結構気に入っている説だよ。

ウェトル博士:君はたった一人で私を騙し、K-クラスシナリオを終わらせた。

ダン博士:それが私の仕事だからね。

ウェトル博士:生憎だがそうじゃない。

<録音上に環境音のみが聞こえる。>

ウェトル博士:君の説は間違っているからな

<録音上に環境音のみが聞こえる。>

ダン博士:何だって?


ダンの理論を、ウェトルはあっさりと否定する。
ウェトル博士: ずっと昔、私はこの世界と契約を交わした。最低の、しかし最低過ぎない人生を送るという約束を結んだ。そして忘れ、約束を破った。これは復讐だったのさ。

ここで、先日行われたルブランによるウェトルの両親へのインタビューが再び抜粋される。

ミンディ・ウェトル:今、目の前で起きているように覚えてる。ピオリアのストックウェル・ローにあった古い家でのこと。私は寝ようとしていた — ガレージでタバコを吸ってて、サイモンはもう寝てた。ウィリアムももう寝たと思ったのに、部屋の前を通りかかったら、小声で独り言を言ってるのが聞こえたのよ。

ルブラン研究員:彼が何と言ったか覚えていますか?

ミンディ・ウェトル:今まさに聞こえる。こう言ってるわ、“何でも好きなものを持ってっていい。僕のものは全部取り上げていい。友達がみんないなくなってもいい。チャンスだって全部あげるよ、良いものは何もかも持ってって仕舞い込んでいいよ… だから…”

<録音上に沈黙。>

ミンディ・ウェトル:“…母さんを連れていかないで。”

<サイモン・ウェトルが妻の肩に手を乗せる。>

ミンディ・ウェトル:“僕の父さん母さんを傷付けないで。代わりに好きなだけ長く僕を痛めつけていい。僕は耐えられるから。約束する。お願い。”

ルブラン研究員:そんな。

サイモン・ウェトル:ほんの小さな男の子だった。そこまで思い詰める必要はなかったんだ。

ミンディ・ウェトル:二度と喫煙しなかったわ。

<抜粋終了>

幼少期のウェトルは母親の肺癌が治ることを願い、その際大きな力を持った「何か」と接触。その際に「自分がこの先不幸になる代わりに、母親の病気が治る」と言う契約を行ったのだ。
この「翌日まで持ち越すことはない、深夜の気の迷い」(ウェトル談)の結果が、あの尋常ではない不幸体質。彼の不運は生まれついての異常性ではなく、契約による制約だったのである。

しかし、幼少期の出来事だったこともあり、ウェトルは長年そのことを忘れていた、あるいは認識していなかった。
自分の行った契約だと気づかない度重なる不運の中でも彼は耐えてきたが、ついにある夜、酔った勢いで「何か」との再接触に成功。「自分以外の人々に起きているように、自分の人生を変えてほしい」と願ったのである。
結果、これを契約違反とみなした「何か」の力によって異常が発生し、ウェトル博士は最悪の形で重要人物となってしまったのだ。さらに、この夜のこともウェトルは忘れてしまっていたため、その自覚は存在していなかった。

インタビューやウェトルの自室の監視カメラ映像から、ルブランはウェトルがこの事件を引き起こし、同時に彼にはそれを止める力があるのだと推測し、そのことをウェトルに伝えたのである。

勿論、話を聞いた当初は大いに動揺したが、やがて現実を受け入れるに至る。
彼は自分自身を思い返す。不幸を嘆いては来たが、ダン博士の言った通り、彼はそれに反発して行動をとってきた覚えも無かった。
ならば、行動するまで。確かに災難を引き寄せる冴えない男だが、この状況に関しては無力ではない。

ウェトルは「何か」と3度目の接触に成功し、全ての異常性を終わらせるように要請する。


理由は単純だ。
他人に迷惑をかけてまで、重要人物にはなりたくない」。


彼は善良だった。他人に危害を加えて自分の人生を変化させるという選択肢など、到底受け入れられるはずもなかったのである。

ウェトル博士:これは全て私の身に起きている事なんだろう? 立ち往生しているとばかり思っていたが、最初から私が全ての中心にいたんだ! 私の人生はメチャクチャかもしれないが、それでも私の人生だ。私が制御している。私が条件を設定する。ただ、今までそれを知らなかっただけだ。

ダン博士:ウェトル、君は自分の意志で全てを正常に戻したと言いたいのか? もう一度悪魔と取引したのか? 天井に話しかけたら、天井が答えたのか?

ウェトル博士:そんなところだ。

流石に驚くダンだが、結果としてカオス・インサージェンシーを巻き添えで壊滅させる、と言う大戦果を挙げたことをウェトルに改めて伝える。ウェトルも思わず「ピエロにも輝かしい日が訪れるもんだ」と笑いを浮かべたのだった。

そしてウェトルもダンに伝える。自分は結果的にダンを出し抜いた、黒塗りにしてある苗字を教えてほしい、と。
自分で言った手前引き下がれなかったのか、あるいは彼の善良さに敬意を表してか、ダンは渋々、その苗字「ダニエルズ」、つまり本名…「ダニエル・ダニエルズ」を教える。ウェトルも改めて自分の本名「ウィリアム・ウェトル」を伝え、友人として握手を交わすのであった。
話題が7000の再分類の話に移ったところで、ブランク博士とルブラン研究員もパブに登場。ウェトルは「コイントスで」奢りを決めることを提案する。

負け犬2人を伴い、ささやかな酒宴は続くのであった。


O5評議会議事録

事態の完全な収束のため、ダン博士はO5に対し、ウェトル博士に対して干渉していた「何か」の嗜虐衝動を満足させるための方策をO5に対し提案する。
それは、SCP-7000をSCP-7000-Dとして再分類し、今回の一件におけるウェトル博士の功績を完全に失わせること。そして新しい7000ファイルを設定し、ウェトル博士をそこに分類することである。
これによりウェトル博士の名声を失わせることにより、彼への少数の好意と相殺させることで「何か」を満足させ、新たな異常の発生を防止することが狙いである。

O5-13:でもよ、何故そもそもファイルを作る必要があるんだ? 奴は大して重要じゃなかったし、今後もそうはならんだろう。

<録音上に沈黙。>

ダン博士:我々は彼に借りがあると思いませんか? 彼の負けっぷりの良さにね。

<録音上に沈黙。>

O5-1:改めて、私は全面的に受け入れたい。意見を述べてくれ。

賛成11、棄権2によりこの動議は可決。
ウェトル自身が満足するかというO5-1の問いに対し、7000ファイルの新しい写真を見れば、ウェトルもこの案に関与していることが分かるとダンは告げた。


要請に従って、SCP-7000は2つの新しいデータベースエントリに分割される予定。現在、以下の素案が提示されている。

SCP-7000-D

オブジェクトクラスはDecommissioned。
KISMETデバイス(SCP-7000-D-1)という現実改変固有兵器によって2022年7月から8月にかけて引き起こされた確率崩壊。
財団の核兵器によってKISMETデバイスが破壊されたことにより収束。SCP-7000-D-1の残骸は調査中である。

…という設定。
先のインサージェンシーの脅迫を元に作成された模様。ある意味死体蹴りである。


SCP-7000

オブジェクトクラスはEuclid。
サイト-43再現研究セクションの副議長、ウィリアム・ウォレス・ウェトル博士に周囲の不運を集約させる確率シンク。
特別収容プロトコルには、SCP-7000が自身の収容責任を負うこと、実験に際しては緊急時脅威戦術対応機構、またはSCP-7000自身の明示的な同意が必要であることが記述されている。



こうして騒動は終わり、ウェトル博士には日常が戻ってきた。
これからも彼は、ドジで間抜け、その上不運な一人の職員でしかない。あれだけの経験をしつつも、最終的に彼は元の位置に戻ってきたのだ。

その点でみれば、今回もやはり彼は敗北者だったし、これからもそうあり続けるのだろう。


SCP-7000


負け犬(The Loser)




だが、ウェトルが望んだ通り、変化はあった。
彼はダン博士という新しい友人、そして多少の自信を得て、そうそう不運だけでもない日常に戻ってこれたのだから。


ファイル内に添付された、ウェトルのセルフタイマー撮影による助手たちとのピンボケ写真。


そこに写る彼は、確かに笑顔だ。




追記・修正は不運を背負える優しさを持った人がお願いします。



CC BY-SA 3.0に基づく表示
SCP-7000
The Loser
by HarryBlank 日本語訳 C-Dives
https://scp-wiki.wikidot.com/scp-7000
http://scp-jp.wikidot.com/scp-7000

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最終更新:2024年04月26日 17:56

*1 HarryBlank氏のシリーズを元にするカノンハブ。サイト-43を中心とした物語群

*2 大作SCPであるSCP-6500のその後の世界を描く。オンガード43の内部でもSCP-6500に関わる事象が発生したため、重複部分が存在する

*3 「太陽の姉妹サウエルスエソル」。太陽近辺に存在する人型実体であり、宇宙空間から地球に脅威が迫っている際にそれを指で指し示すThaumielオブジェクト

*4 ネクサス・ハブより、特定の異次元空間のナンバーを示す。

*5 深さが不明の陥没穴。一定の深さに入ると外部からの通信が途絶される。

*6 既知宇宙内のあらゆるサミュエル・ロイド研究員に関連する確率異常。ロイド研究員が死亡すると、彼のいた宇宙は何らかの原因で滅亡してしまう

*7 これが存在しているあたり、この世界はサーキックとの決戦を乗り越えることに成功したのだろう

*8 Nx-58。日本の徳島県付近に位置するネクサス

*9 「誤字・文法ミスを指摘しようとする試みに誤字・文法ミスが起きる」という現象。オンガード43ハブの作品で、ウェトル博士も登場している