SCP-858

登録日:2023/01/24 (火曜日) 14:30:00
更新日:2024/01/30 Tue 17:33:26
所要時間:約 5 分で読めます






SCP-858はシェアード・ワールド『SCP Foundation』に登場するオブジェクトの一つである。
項目名はGravity's Rainbow ()
オブジェクトクラスはKeter。



説明

さて、項目名からしていかにも「虹」のオブジェクトか何かに思えるが、こいつの本体は高度80kmに存在する移動性の夜光雲。
つまり「雲」のオブジェクトである。

夜光雲が何かという話を少しすると、大気層の中間圏 (高度50km~80km) において発生する特殊な雲で、夏の高緯度地域で多く発生する。
普通の雲が主に対流圏(高度0km~11km)で発生するのに対して、この雲は成層圏(高度11km~50km)を挟んだ更に高い高度に位置している。
日の出前や日没後に太陽光によって青白く輝いて見えるのが特徴。
まあ要するに「地球上で一番高い場所にできる雲」と思っていただければいい。



で、こいつの異常性が何かというと、自分の下に位置している巻雲 (すじ雲) に影響を及ぼす。
影響を受けた雲は雨が降らせられる高度まで強制的に降下していく。
ちなみにこいつ自身は位置している高度もあって観測が難しいが、影響を受けた雲は屈折によって虹色に輝くので存在を把握すること自体は容易。
項目名が示しているのもこの部分だろう。

そしてお察しの通り、こいつの危険性は影響を受けた雲から落ちてくる「」にある。
このは空気や水などの液体には反応しないが、接触した固体物質を瞬時にかつ永久的に変質させる。
この変質は分子結合によって伝搬しているため、例えば人間なら指先が触れただけでも体全体が変質する。

そして変質した物体は、重力に引き寄せられるのではなく反発するようになり、結果として



空へと「落下」していく。



……これが本当の「飛び上がり自殺」というやつだろうか、とか言ってる場合じゃない。
に濡れるのは基本的に屋外であるため、当然そのまま放っておけば大気圏を突き抜けて宇宙まで落ちていく羽目になる。
人間が生身で触ろうもんならほぼ「死」と同義である。

加えて接触した物体が布やゴムなど、いわゆる多孔質材料だった場合は更に厄介。
それらの物質はが染み込むことでそれ自体が二次感染を引き起こす感染源と化す。
つまり人間の場合、実質的には指先どころか髪の毛の先っぽが触れただけでもアウトの可能性がある。

だが一応、この効果の例外となる物質も存在するらしい。
後述する遭遇記録の詳細から考えるに「地面」と定義される部分だけは重力に反発しない可能性が高い。
ただし二次感染源になること自体は変わらないため、もし土がむき出しだったりした場合はが染み込むことで地面全体が死の領域に変貌する。

結果としてこいつの影響によるが降り注いだ地域は、地面にしっかりと固定していた建物などを除く全ての物体が空へと落下する。
最終的には更地だけが残されることになるのだ。
おまけに位置や性質の関係でこいつ自身を収容できない上に移動するときている。そりゃ納得のKeterだ。

ちなみに影響を受けた時点でほぼ死んだようなものだが、上に落ちていった物体が上空にいるこいつ本体と接触すると消滅する。



初期遭遇

こいつが一体いつから空に浮かんでいたのかは定かではない。
発見する最初のきっかけとなったのは、とある気象観測機 (要するに気象調査用の飛行機) が被害に遭ったためである。
どうやらこの飛行機はこいつの影響を受けている雲に飛び込んでしまったらしく、機体にかかる重力が飛行中に突然逆になってしまった。

ところがこの飛行機の機長をしていたフィンチさんという方がかなりのやり手であり、とっさに機体を上下反転させることで飛行を維持。
彼は機体が着陸不能であることをすぐに理解すると、他の乗員を脱出させた上で燃料切れになるまで飛行機を飛ばし続けた。
そして数時間経った後に自らも機体を放棄して脱出し、高高度からの落下に伴う凍傷や低体温症にはなったものの見事生還
特に後遺症なども残らなかったようだ。

どっかのメーデー民がスタンディングオベーションしそうな名機長である。お疲れ様でした。



そんなわけで財団は生還したフィンチさんから「重力を逆にするやばい雲」についての話を聞いた。
そして早速、その雲の下に位置すると予想された地域に調査チームを向かわせた。
結果、該当地域にあった小さな農村がこいつから降ったによって完全に壊滅していることを確認。
更なる調査により、基礎が頑丈だった地下シェルターを除くあらゆる建物がなくなっていることが判明した。
当然ながらシェルターに入れなかった住民の末路はお察しである。

おまけに調査チームが到着した時点ではまだ地面にの影響が残っていた。
まずチームが乗っていた車のタイヤが、に濡れた路面と接触したため感染源と化し車輪ごと変質。
更にタイヤから飛び散ったが車体下部にかかったことで車全体も影響を受けてしまった。
結果として6台の車が全て上空に吸い込まれて失われることになった。
とっさに脱出した隊員も路面と接触したが、幸いにも気密性の高いHAZMATスーツを着ていたおかげで多少体が軽くなる程度の影響で済んだ。

そんな感じでトラブルに見舞われつつも、チームは何とかシェルターに閉じこもっていた生存者を発見。
しかし事情を知っている彼らは当然ながら外に出ようとしない。
一応、逆にチームが平気なのを見て安心したのか迎えに出てきてくれた住民もいた……
が、に濡れた芝生を歩いたせいで靴が感染源と化したことで村と同じ末路を迎えてしまった。
あまりにも感染性が凶悪すぎる。

その後、チームは残った生存者から事のあらましを聞いたことで異常性を理解。
が完全に蒸発した後に彼らを救出して記憶処理を施し、近親者に解放してこの事態は収束した。



……想像すると凄まじいシュールさと恐ろしさを同時に感じる奇妙な光景である。



補遺

さて、こんなやばいオブジェクトを放置しておくわけにもいかないが、相手が雲ときてはまず調査しなければ収容もできない。
とはいえ高度80kmの上空にある雲を普通に調べようとするのも難しい。

そんなわけで財団は「スラスター配置を改造した人工衛星をこいつに意図的に曝露させる」という調査方法を現在計画中である。
こいつの出現が予測できた際にフロント企業を通して打ち上げる予定なんだそうな。



果たしてこの災害を収容できる日は訪れるのか。
がんばれ財団、空と人類の安全は君たちにかかっている。



追記・修正は重力に逆らいながらお願いします。

CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-858 - Gravity's Rainbow
by Lowell
http://www.scp-wiki.net/scp-858
http://ja.scp-wiki.net/scp-858

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最終更新:2024年01月30日 17:33