マクガフィン

登録日:2023/05/24 Wed 22:30:40
更新日:2024/04/22 Mon 20:54:11
所要時間:約 7 分で読めます




「泥棒を追いかける物語の冒頭で、泥棒が宝石や美術品を盗むだろ? そういうのをマクガフィンって言うのさ」

「マクガフィン……何だそれ」

【概要】

マクガフィンとは、フィクション作品の用語。
映画監督のアルフレッド・ヒッチコックによって普及した。
単語としてはMacGuffin, McGuffinと書くが、由来はイギリス系にある名字の一種らしい。

登場人物の動機付けや話を進めるための物品、出来事であり、プロットを作る為の装置の一種。
「スパイ物の映画でスパイが盗み出す重要機密書類」や「怪盗が狙う宝石や美術品」などが該当する。
起承転結の起を作るための出来事、アイテムといっても良いか。

マクガフィンの役割はストーリーを進めることにあり、話の流れが成立するなら他の物でも代替可能である。
怪盗が狙う宝石がダイヤモンドかエメラルドかで話の流れが変わらないなら代替可能と言える。
逆にいうと特殊な力がある物品など、他の物で代替できないものは該当しない。
指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)』の「一つの指輪」は凄まじい力を秘めた指輪で敵味方双方が自分の目的のために狙うのだが
最初から最後まで物語の根幹に関わり、ほんのわずかでも設定をいじるとストーリーに矛盾が生じるためマクガフィンとは呼ばれない。

話の登場人物にとっては重要なものでも、話が成立するのなら視聴者や読者にとってはあまり重要ではない。
アルフレッド・ヒッチコックは、「マクガフィン自体は重要ではなく、騒動に着目させるため、観客の注意を引きすぎないものがいい」という考えを示している。
ジョージ・ルーカスは「マクガフィンもヒーローや悪役同様の存在感を持たすべき」と逆の主張をしており
スター・ウォーズに登場するR2-D2や「カイバー・クリスタル」はマクガフィンと主張している。
これらは前述の「一つの指輪」ほどではないが物語における重要性は高く、R2-D2は人気のあるキャラクターである。


マクガフィンに近い概念としては、RPGにおけるイベントアイテムが挙げられる。
例えば、「盗賊によって『イベントアイテムA』が盗まれたので、王様の依頼で取り返す」話があったとする。

ストーリーで重要なのは「盗賊が盗んだものを取り返すことで王様の依頼をこなす」ことである。
『イベントアイテムA』は「盗賊からとりもどす」「王様に返す」役割の物でしかないものとする。
『イベントアイテムA』が『金の王冠』でも『黄金の腕輪』でも『春風のフルート』でも『とてもいえないもの』でもその結果は変わらないのである。

ただ、『イベントアイテムA』のストーリー上の役割が「盗賊からとりもどす」「王様に返す」以外にあれば「マクガフィン」ではなくなる。
盗賊に奪われたものが『城の姫』で、「助けたことで姫が後々主人公と良い雰囲気になる」といった話に派生する場合、物品では代替不可能になる。
とはいえこれはあくまでも「それ自体が役割を持って物語自体に介入する」のでマクガフィンと呼ばれなくなる、という事であり、逆に「冒険の成果物(=トロフィー)として主人公に贈呈される」以上の役割を持たない場合はたとえお姫様であろうがそれはマクガフィンであると言える。


創作物では、冒険ゲームブック(ドラえもん)における、『最後のページに入れておく大切なもの』が該当する。
この道具はRPGを擬似体験するものであり、『最後のページに入れておく大切なもの』は体験するゲームの最終目的の『秘宝』に相当する。
しかし、このゲームブックの趣旨は「RPGの冒険を疑似体験すること」にあり、『秘宝』としては何を入れても成立するのである。
ドラえもんの場合は『どらやき』、のび太出来杉の場合は『しずかちゃん』を入れており、
動機付けのための物品だが代替可能なものであり、まさしく上記の定義通りのマクガフィンである。


【マクガフィンを使った物語の例】

上述したスパイ物から例を挙げるとすれば、映画『007 ロシアより愛を込めて』に登場する暗号解読機「レクター」が分かりやすい。
レクター奪取の任務を与えられた007ことジェームズ・ボンドは国際諜報戦の最前線であるイスタンブールへと派遣。
現地で敵との銃撃戦や美女とのロマンスを繰り広げつつ、ソ連の領事館からレクターを奪取。
オリエント急行車内で自らの抹殺とレクター奪還を目論む暗殺者との対決に挑む。

ボンドが暗号解読機入手のために命を懸けるのはスパイとしての任務だからに過ぎず、彼が実際に暗号を解読する場面は無い。
レクターが宝石や金塊、あるいは秘密兵器の設計図などであってもストーリーにはなんら影響はないと考えられる。

一方、ソ連側には「レクターと美女を餌にボンドを誘き寄せ、彼を辱めて殺す」という真の目的があったのだが、
ボンドに対する餌が暗号解読機である必然性は無く、やはり他のものでも代替できたはずである。
つまりレクターはストーリー上においても登場人物にとっても「重要ではあるが他のもので代替しても構わない」二重のマクガフィンと言える。


【正体不明の物をマクガフィンにする場合】

マクガフィンはストーリーを進行させる機能があるのなら、正体が不明なままでも良い。

一例としては、古の大海賊が隠した宝や、重要人物の鍵の掛かったトランクなどを探す話がある。
『大海賊が隠した宝』や『重要人物のトランク』がマクガフィンとなり、宝やトランクの中身が不明であっても話が進む。
宝の場所を示す地図やトランクの鍵など、中身を知るための手がかりもそれを狙う他の勢力がいれば合わせてマクガフィンになる。

ただし、内容がストーリーの結末に関わる場合、内容が置き換えできず、マクガフィンでなくなる場合がある。
大海賊の宝の場合、「莫大な金銀財宝を皆で分けてそれぞれ旅立つ」「莫大な力を持った『何か』」というオチにする場合は置換できる「マクガフィン」になる。
「主人公たちにとって価値があるとは言い難いが、人類全体にとって価値のある宝」にするなら遺跡や古代の遺物、手つかずの自然などで置換可能。
しかし、「宝はなにもなく、裏切られた船長のミイラだけ」「ここまでの冒険が何よりの宝物だ!」といったパターンでは、宝が何もないこと前提なので、置換できるものがない。

漫画ONE PIECEにおける「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」が丁度このパターン。
この宝がストーリーの展開にどう関わるのか分からない以上、「話を成立させる前提条件」が終盤になるまで不明であり、置き換えできるかが分からない。
物語の開始当初は金銀財宝あたりでも良さそうな「マクガフィン」に見えるが、正体に言及される様になると世界の成り立ちそのものに関わることも匂わされており、特異な機能がある可能性も出てきた。

なお、主人公のルフィはこの宝を手に入れて海賊王になった後の夢の果てがあることが判明。
ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」の正体次第ではその夢の果ての実現のために使う可能性もある。


【結局正体不明というオチ】

上からの派生。読者、視聴者には最後まで正体を明かさず、「結局なんだったんだ」と興味を引かせて終わるパターン。
正体は結局設定されてないパターンであれば終了後も延々と議論の種にできる。

この例としてはゲーム『Bloodborne』の「青ざめた血」が分かりやすい。
狩人(プレイヤー)は「青ざめた血」と呼ばれるものを探してヤーナムの地を訪れたのだが、記憶を失っておりそれが何なのかが思い出せない。
現地住民の助言を基に聖堂街に向かうも手掛かりはなく、以降はひたすら立ちはだかる獣や怪異を狩りながら進んでゆくことになる。
作中の文献からは、狩人が最後に狩った異形の存在こそが青ざめた血であると解釈する事も出来るが、
怪奇現象によって異様な色に染まった「空」こそが青ざめた血であるという文献もあり、狩人が何故それらを求めていたのかも分からない。
公式側はその正体に関する明言を避けており、フロム脳をこじらせたプレイヤーたちは未だこの謎に挑んでいる。

ただ、このパターンには「ストーリーが投げっぱなしに見える」という大きな問題がある。
『Bloodborne』のようにアクションRPGとしての高い完成度、練り込まれた世界観などの長所があればプレイヤーもあまり気にしないだろうが、
「マクガフィンの正体」ばかりがプレイヤー・観客の注意を集めてしまうと、結局その正体が明かされないことが大きな不満を呼ぶ可能性も高いのだ。


【マクガフィンでも何でも良いという訳ではない】

上記の様なものがマクガフィンの説明で、代替可能と説明したのだが、マクガフィンに相当するものでも何にでも置き換えられる訳ではない。
置き換えるものによってはプロットが破綻してしまう。
マクガフィンの『他の物でも代替可能』という性質は、"話を成立させる条件を満たす"範囲内の物に限られるのである。
逆にギャグシナリオでは明らかにおかしなものにすることで笑いどころにする手法もある。

動機が成立しないパターン

上記の盗賊やスパイ、泥棒によって盗まれたものが『縫い針一本』だった場合。

「盗賊がそんなもの盗むわけがないだろ!」「新しいのを買えばいいだろ!」という突っ込みどころ満載の話になる。
『特殊な力を持つ縫い針』で、その特殊な力が物語に関わってこないならマクガフィンにはなるが、それはそれで「話に関わってこないのになんでそんな力を設定したのか?」という別の突っ込みどころが発生してしまう*1
"話を成立させる前提条件"として「盗賊といった敵が盗む」「主人公が労力を掛けて回収する」動機が成立する必要がある。

怪盗が狙う宝石や美術品に関しても、「金銭的価値がある」「芸術的価値がある」ので盗もうとするし、警察が守ろうとする。
ルパン三世がトイレットペーパーを盗んだ」と警察に言ったとしても、警察にはいたずらの通報としか思わないだろう。
神風怪盗ジャンヌでは怪盗が子どもの描いた絵を盗むと予告状を出し警察が困惑するという話もある*2

世界観に沿わないパターン

マクガフィンでもその物体が世界観に沿わない場合、なんで存在するのか疑問を抱かれてしまう。
あるいは、「管理が厳重なハズの物体を簡単に盗み出せてしまうのはオカシイ」という突っ込み所が生じる。
一例としてソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインでは、あるゲームイベントの目的として「敵に盗まれた核弾頭を奪い返す」というものが存在する。
が、ゲーム自体の世界観と噛み合わない*3のでフカ次郎からマクガフィンだと突っ込まれている。


キャラの好みに沿わないパターン

ヒロインへのプレゼントがマクガフィンに相当し、プレゼントで好感度が上がる場合。
そのマクガフィンは話の成立条件として「一般的に女性に送ることに適しているもの」「ヒロインの好みに合う」という要素が必要になる。
普通に考えると、はにわをプレゼントしても好感度が下がる
逆に弥勒菩薩をプレゼントして好感度が上がるならその女性の好みが独特であることを示すことになる。
女怪盗の場合、見栄えの良い美術品や宝石を好んで盗むという形でキャラ付けがされやすく、この場合現金は盗みのターゲットになりにくい。

上記の盗賊から取り戻すアイテムが『とてもいえないもの』の場合、必然的に王様がムッツリであることがプレイヤーに印象づけられる。

このように単純なマクガフィンであってもキャラ付けに関係しているのである。

スポンサー、プロデューサーの意向

おそらくは一番大事かも知れない。
アルフレッド・ヒッチコックも映画「汚名」の作成の際に、プロデューサーがウラン鉱石に難色を示したので、代わりにダイヤモンドを提示したという話がある。*4

また、メディアミックスする場合にその物品を商品化するケースとかも考えた場合、スポンサーが何を売りたいかというのも重要になる。
特にキーアイテムの場合、ファンの注目を浴びることは容易に想像できる。
またメディアミックス展開や、シリーズ化を考えた場合、その話では単なるマクガフィンだったものが、後の話でキーアイテム化するパターンが存在する。



追記・修正はマクガフィンを手に入れてからお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • マクガフィン
  • 創作
  • プロット
  • 創作用語
  • プロット・デバイス
  • アルフレッド・ヒッチコック

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年04月22日 20:54

*1 所謂「チェーホフの銃」というもの

*2 主人公の怪盗ジャンヌは絵画に取り憑いた悪魔を絵画ごと封印することを目的としている。封印された絵画は消えるため、世間では盗んだと解釈される

*3 世界観自体は荒廃した地球を舞台にプレイヤーが銃で戦うという内容なので、使えたらバランス崩壊どころの話ではない。

*4 ただし映画では結局ウラン鉱石が採用された