愛ぬすびと

登録日:2023/08/08 (火) 18:52:55
更新日:2023/08/10 Thu 05:10:20
所要時間:約 5 分で読めます






あたしのたったひとつしかない 愛を返して……




『愛ぬすびと』とは藤子不二雄Aによる漫画作品。

【概要】

『女性セブン』で1973年に連載されていた。

藤子Aにとっては初の女性誌での連載作品であり、作者の歴代作品でも屈指の異色作とされている。
作画も藤子Aの他作品と比較すると劇画寄りを意識したタッチとなっており、濡れ場を暗示するシーンも少なくない。
作者にとっては初のジャンルでの挑戦になりながらも意外にも読者からの評判は良かったようだが、作画の負担の問題から長期連載は断念された。

藤子Aが後に同誌で連載した作品である『愛たずねびと』と合わせて二部作の「愛シリーズ」としてカウントされることも多い。
ところが両作品の世界観や設定的な関係は特に示されていないので、続編や外伝的な関係性ではない。
『愛たずねびと』の方は前作よりも人気がなかったともされており、どちらかと言えば『愛ぬすびと』の方が知名度は高い。

作品の内容はやむを得ずに結婚詐欺師を行う既婚者の男性と彼に騙された女性の悲哀を描く物語。
作中では時折結婚詐欺師のテクニックについての引用文が持ち出されることがある。
藤子A作品では犯罪行為を行う主人公は珍しくないが、本作に関しては完全なしっぺ返しを受けることからラストの悲壮感も凄いことになっている。

連載終了後の単行本は、小学館と中公漫画叢書(中央公論社)、復刊ドットコムなどから出版されている。
各社の単行本によって収録エピソード数やラストシーンの演出が微妙に異なっている。

『週刊コロコロコミック』でも期間限定で全巻の無料公開が行われた。
一応本誌よりは対象年齢は上とは言ってもコロコロコミックの兄弟誌で本作が公開されたことにツッコむ声もあった。

【あらすじ】

30歳を過ぎても独身の女性「北山昌子」が職場の同僚の結婚式に出席していた際に、「愛誠」という男性が親し気に話しかけてくる。
誠のアドバイスを受けて前向きになり始めた昌子は、人柄に惹かれ初めて彼と肉体関係を持つことになる。
後日金に困る様子の誠に金を貸す昌子だったが、借金の使い道として彼から紹介された現実は誠の妻の医療費ということだった。

ショックを受けて立ち去る昌子に悪びれる様子もなく、自分は悪くないと言わんばかりの軽口をたたく誠。
誠は難病の妻の医療費を稼ぐために言葉巧みに女性を誘惑して金を奪っていく所謂「結婚詐欺師」であり、昌子との一件以降も様々な女性の心を弄んでいくが…。

【主な登場人物】

  • 愛誠
演:柴田侊彦
本作の主人公の26歳の青年。交通費手取り別20万8000円の旅行会社に勤務するサラリーマン。
病に苦しむ愛する妻の入院費と手術代が通常の手取りでは足りないため、目に入った女性を狙って次々と結婚詐欺を仕掛けて金を奪っていく悪行を続ける。
整ったルックス(ただし、本人曰くありふれた顔)とどこか子供らしさを残した人懐っこい性格を活かし、巧みに女性の心を掴んでいく。
ところが妻のために生きることを自負しているため、他の女性を傷付けることに一切罪悪感を覚えていない(耐え切れなくなった回もあるが)冷酷さを秘めている。
結婚詐欺師としての才能に優れている反面、あくまでも妻のために始めた結婚詐欺と言うこともあってなのかよく見ると行動に隙もあり、作品後期になると計画が破綻するパターンも増えていき…。

  • 愛優子
演:梶三和子
誠の妻の女性。元々病弱な人物で、若くして僧帽弁狭窄症やリューマチを併発したことで長期入院している。
かなりの美女(病院の看護婦も愛誠の熱の入れっぷりに納得するほど)で心も優しく、自分をいじめる同室の入院患者にすら思いやりを見せるほど。
両親がいないために叔父の家で兄の朽葉純一と共に育てられたが、兄が就職して独立した際に一緒に連れられて行って
誠とは飼い犬が事故に合った際に救われたことで知り合い、その後に兄が自分の治療費のために会社の金を溶かしたことで蒸発した際に誠が託される形で結ばれた。
危うい場面もあったとは言えども誠の犯罪者としての裏の顔は知らない…はずだったのだが……。

  • 先生
優子が入院する「仁愛総合病院」の院長。名前設定は不明。
優子の症状について誠に説明しており、心臓手術の名医の予約を申し込みながら内科治療を当院で行うという治療プランを提案した。
誠の献身に同情した看護婦の支持も受けて手術の予約で埋まっているベッドを何とか確保できるように動くなど善良な医者として描かれている。

演:武藤章生
誠の上司の中年男性。眼鏡をかけた典型的な中年男性の容姿をしている。
既婚者でありながらも結婚生活の負の面に疲れて外では独身と偽って周囲の女性も皆独身扱いしているという、(一応)妻一筋な誠とは対照的な人物。
誠のことは純情と評して妻への献身も知っているなどかなり良好な上下関係だが、誠の詐欺対象となった椎名綾子には行動から性根を見抜かれて「変な男」「くだらないことでこせついている男」と散々な評価を下された。

  • 生田薫
26歳の女性。年齢以上に大人びたクールな雰囲気の女性で、京都に向かう新幹線で誠と知り合う。
実は不倫関係にある既婚者の男性と旅行する予定だったが、結局来ることはなく捨てられる形になっていた。
誠に頼んで夢だった花嫁衣装を着るために結婚写真を撮影するが、不倫関係や詐欺の関係になることはなく、数万円と置き手紙を誠の元に置いて悲しくも爽やかな形で別れる。
ところが誠が名前を忘れかけそうになっていた時期に結婚写真を胸に自殺した*1ことが新聞に掲載され、これが誠も予期せぬ形で優子との関係に致命傷を与えることになる。

【ドラマ版】

連載終了後の翌年の1974年に東海テレビ制作のフジテレビ系列で放送された。昼ドラ枠で展開された。
漫画作品の実写化が珍しい時代のテレビドラマ化となっており、実は放送時には原作の単行本もまだ刊行されていなかった
現在は映像が残っていないともされており、視聴は極めて困難な作品と化している。

シナリオは原作をベースにしているが、登場人物の描写などに改変が見られる。

【余談】

  • 藤子Aが好むゴルフネタは本作も健在であり、ゴルフを好む津田巴を騙す回では珍しく金銭ではなく高価なゴルフセットを買わせるオチとなっている。






追記・修正は愛する人のために詐欺師をしたら最後に天罰が下ったことのある人にお願いします。

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最終更新:2023年08月10日 05:10

*1 実は不倫相手との旅行は本来は心中旅行の予定であり、絶望の中で誠を代役として己の愛の純粋さを実証するために自殺したと誠は推測している