クレージーモンキー 笑拳

登録日:2023/08/11 Fri 00:25:00
更新日:2023/08/24 Thu 08:02:43
所要時間:約 8 分で読めます




史上ボウ然!?世界一の珍V拳!

笑い殺されぬようご用心!!

『クレイジーモンキー 笑拳 (原題:笑拳怪招、英題:The Fearless Hyena)』とは香港のアクション(カンフー)映画。
主演はジャッキー・チェン

概要

スネーキーモンキー 蛇拳』と『ドランクモンキー 酔拳』でブレイクしたジャッキー・チェン。
その二作を撮った「思遠影業」から帰還後の最初の作品。
特筆すべきは主演・監督・脚本・武術指導を全てジャッキーが担当したことであろう。(このあたりの経緯は後述)
しかもジャッキーは当時まだ24歳!

蛇拳、酔拳から続くモンキーシリーズ第3弾…というのは日本の配給会社の勝手な言い分である。
実際にはジャッキー主演と一部のキャストくらいしか共通点はない。

脚本的にはやや間延びしておりテンポの悪い面もある*1のだが、初監督作品とは思えないほど完成度が高い。
話の大筋としては当時の香港映画のお約束である復讐物語なのだが、コメディ要素がうまく融合しており、軽くも重くもなりすぎない絶妙なバランスを保っている。
特に蛇拳と酔拳を経て洗練されたカンフーに関しては非常に評価が高く、家で瓶や杖を使って修行、鉄の爪の部下との武器を使った殺陣など見どころは多い。
カンフーに関してはジャッキー映画最高傑作と評するファンも少なくない。

女装シーンやピンクパンサーや子連れ狼のパロディなど後のジャッキー映画に通じる面も多いが、漫画的な表現や肉体美を見せつけるカットやヒロイン不在など異色要素も多い。

香港では1979年、日本では1980年公開。
香港でも日本でもまた大ヒットすることになりジャッキーは更なるアクションスター街道をひた走ることとなる。

日本公開版の主題歌「クレイジー・モンキー」、挿入歌「モンキー・マン」も人気がある曲。
これらの作曲家はキース・モリソン。「聖母(マドンナ)たちのララバイ」や、「サンセット・メモリー」などのヒット曲や『ダーティペア』や『銀牙 -流れ星 銀-』などのアニメ主題歌を手掛けた木森敏之の別名義である。

また、日本語公開版にはモンキー・パンチ先生のデザインのショートアニメOPが追加されている。
そのせいかこのアニメの主人公の顔はルパンっぽい。というか次元っぽい人もいるし、パリっぽい街並みを歩いたりするし、女性のパンツスッたりするしマジでルパンじゃね?

あらすじ

時は清朝末期の中国。
殺し屋「鉄の爪」は部下を率いて朝廷の意向にそぐわないシンイー一門(行意門)の者たちをその拳で次々に暗殺していった。
約10年後、山奥に暮らす青年シンロンは今日も武術の達人の祖父にシンイー一門の後継ぎとして鍛えられながらも祖父のために金を稼ぐ日々を送っていた。
偽道場の用心棒として道場破りを倒し金をせしめるシンロンだったが、そこには鉄の爪の魔の手が迫っていた…。

登場人物


  • シンロン
演:ジャッキー・チェン
声:石丸博也
主人公。山奥の隠れ家で祖父に功夫を習う青年。
そこら辺の武芸者程度なら面白半分で叩きのめすほど強いが、なぜか功夫を使う事は祖父に禁止されている。
軽口を好み、自分より弱いやつには強気になるが師匠である祖父に修行中泣き言をいうなど調子の良い性格。
博打で大金をせしめるなど金にがめついが、根は祖父思い。
過剰に金を稼ぐのも愛する祖父に楽をさせてやりたい一心からである。
大金のためにインチキ道場の師範代となるが、有名になって祖父に正体がばれないように帽子のオトボケやチャイナドレスなどに変装して現れる。
さらに強そうな名前が欲しいということで道場に祖父の流派「行意門」と名付けるが…

  • チェン
演:ジェームス・ティエン
声:宮内幸平
シンロンの祖父。時々咳き込むなど病を患っている様子。
山奥にシンロンと二人で住んでおり、飴細工で生計を立てている。
シンイー一門という武門の師範であり、シンロンを跡継ぎにすべく優しくも厳しく鍛えている。

  • 鉄の爪(字幕では本名:ヤム)
演:ヤム・サイクン
声:千葉耕市
赤いマントを羽織った白髪の男。すごいV字額。
その正体は朝廷直属の殺し屋であり、邪拳の使い手。
爪を相手の体に食い込ませ苦しめ、最終的には喉などの急所を狙い惨殺する。
吹き替え版では全く本名を呼ばれない。
標的以外は積極的には殺さない等殺し屋としてのプライドを感じさせる面もある。

  • 鉄の爪の部下
名前は不明。鉄の爪の三人の部下。
全員偃月刀の使い手。
三人でシンロンに襲い掛かるも攻撃をすべて捌かれてしまい、逆に自分たちの偃月刀で斬られてしまった。
一人生き残るも鉄の爪に役立たずと判断され殺された。

  • 八本足(字幕版では八本足の麒麟)
演:チェン・ウェイロー
声:松村彦次郎
足が不自由な杖をついた老人。
その正体はチェンの同門。
シンロンの新たな師匠として彼に武術の稽古をつける。

  • 棺桶屋
演:ディーン・セキ
シンロンが働き口を探しに来た棺桶屋のおっちゃん。
棺桶を使いまわしていたり、自分用の高級棺桶に入ってうっとりしていたりとかなりの変人。
吹き替え版では存在がカットされてしまった。
ディーン・セキは当時の香港では有名な喜劇役者で、『蛇拳』や『酔拳』のイジワルな師範代役でもおなじみ。

  • シーフー(字幕版ではシ・ショウ)
演:リー・クン
声:雨森雅司
金儲けのためだけに「五門道場」という道場を経営しているおもいっきりカツラの胡散臭いオッサン。
チンピラ3人衆の元締めであり、シンロンの強さを見込み彼を師範代として雇う。
月給銀貨100枚、門弟からの贈り物は折半、道場破り撃破でその都度ボーナスとかなりはずんでいる。
しかも、シンロンが道場破りの度に値段を釣り上げるため、想定以上に金を払う羽目に。

  • チンピラ3人衆
チビの「小さい玉子」(CV:田中亮一)、ハゲで長身の「鉄の頭」(CV:屋良有作)、太った巨漢の「大熊 」(CV:水鳥鐵夫)の三人からなるチンピラ。
イカサマ博打により儲けていたがシンロンにイカサマを見抜かれてしまい、金を奪い返そうとするも返り討ちに合う。
その後、彼の腕に目をつけてシーフーの道場を紹介する。
シーフー共々後半は全く出てこなくなる。

余談

上記のように本作の主演・監督・脚本・武術指導はすべてジャッキーが担当しているのだが、実はこれには深い理由がある。
「思遠影業」から帰還後、元々所属していたロー・ウェイのプロダクションに戻ってきたジャッキー。
復帰作第一弾はロー・ウェイが監督・脚本を務める『鬼手十八翻』という作品になる予定だった。
しかし、自分に合わないブルース・リーの後釜を狙わせたり、若手スタッフと作った『カンニング・モンキー 天中拳』を勝手にお蔵入りされるなど、ジャッキーはこのロー・ウェイという人物と元々ウマが合わなかった。
それでも自分を見出してくれた恩義から付き合っていたジャッキーだったが、変わらない自分へのロー・ウェイの態度や脚本への不満、さらにロー・ウェイが配給トラブルを起こしたことで彼への不信感が爆発。
ジャッキーは撮影をボイコットしてしまった。
この場はロー・ウェイが折れるもその代わりに監督・脚本をジャッキーがやるということになったのである。そんなに文句があるならお前がやれと言う事だろう。
正確には脚本もロー・ウェイの原案をジャッキーが手直ししたものである。
この後もロー・ウェイとの確執はどんどん深まっていき、伝説のジャッキー・ジャック事件*2につながるのである…。

上記のように初監督とは思えないほど完成度の高い作品ではあるが、ジャッキー本人は「従来のカンフー映画でやりたいことは本作でやり切った」と感じたらしく『ヤング・マスター』や『ドラゴンロード』などの従来の作品とは異なる作品での試行錯誤を重ねていくこととなる。
本作がファンに愛されるのも「ジャッキーが演じた最後の古典的カンフー映画」という面も大きい。

追記・修正は子連れ狼のマネをしてからお願いします。

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最終更新:2023年08月24日 08:02

*1 この辺はジャッキー本人も自伝で認めている。

*2 ローの手法に対してこのまま彼の下に居ても鳴かず飛ばずで終わるだけだと不満を募らせたジャッキーが会社を去ることを申し出るが、それに対しローは契約書を改竄したり黒社会との繋がりをチラつかせ脅迫。しかしその改竄を担当した社員がジャッキー側に寝返り逆に改竄の証人となってしまい、これを機に醒拳の撮影を中断。その社員共々ゴールデン・ハーベストに移籍して『ヤングマスター 師弟出馬』の撮影を始めてしまい、激怒したローはその黒社会とのコネを使って徹底的に追い込もうとするが、最終的には当時の香港映画界のドンであり黒社会と深い繋がりのあったジミー・ウォングが見かねて間に入り仲裁、何とか事なきを得た。