天弓 千亦

登録日:2023/11/15 Wed 15:15:26
更新日:2024/01/26 Fri 18:18:45
所要時間:約 11 分で読めます





市場は開かれた!すべて(かみ)に返そう!


天弓(てんきゅう) 千亦(ちまた)東方Projectの登場キャラクター。


【概要】

登場作品:東方虹龍洞(6面ボス)・『バレットフィリア達の闇市場』(End of Market)
種族:神様
二つ名:無主物の神
能力:所有権を失わせる程度の能力
テーマ曲:あの賑やかな市場は今どこに ~ Immemorial Marketeers


【人物】

東方Project第18弾『東方虹龍洞』にて初登場した市場の神。同作のラスボス(6面ボス)。

『虹龍洞』にて語られる“龍珠異変”の黒幕ではあるものの、異変その物の発端では無いという立ち位置。
……尤も、異変の途中からは自身の目的の為に歯止めも効かせずに確りと自分の意思で動いているので、その辺はちゃんとラスボスしている。

元々は“信仰してくれる者が居ないと神の類は容赦なく力を失う”というルールがダイレクトに反映されてしまう幻想郷に於いて、誰にも顧みられないままに忘れ去られていた市場の神。(からは“商売の神”とも。)

“所有権を失わせる程度の能力”というのがイマイチ解らん……と言われることもあるのだが、人間は一度でも物を所有すれば物に執着や愛着を持ち、更には思い出まで付いてくるので、それは譲渡や贈答という形でも残る。
たとえ、捨てたとしても今度は捨てたという記憶が残るので、完全に所有権を失うということはやっぱり難しい……が、市場で売ってしまえばスッパリと忘れされる!それを司ってる神様なの!!……ということらしい。個人差もありそうだがそう言われればそう…かなぁ?


【物語での活躍】

信仰の基盤も無くし、すっかりと零落して誰にも知られぬ存在となってしまっていたが、友人の百々世が掘り出した“龍珠”の力に目を付けて、それを利用して“一儲け”を企んだ妖怪の山の大天狗・飯綱丸に「信仰を取り戻せる」として誘われ、
自身の能力によって掘り出された“龍珠”を“アビリティカード”に変換していた。

こうして、市場に流通出来る形となった“龍珠”…もとい“アビリティカード”は飯綱丸の狙い通りに多くの人々の目に晒され、興味を持った人々が手に取り、思惑通りに売買されるようになったことで幻想郷の住人達の間に急速に膾炙していくと共に市場はかつてない賑わいを見せた。
尚、アビリティカードの“他者の能力が込められている”という効果自体が天弓の能力により付加、他者にも条件付きで使用可能になっていた理由らしく、市場は月に架かった虹の下で天弓、飯綱丸、典、百々世の四人でアビリティカードを交換し合うことから始められ、徐々に妖怪の山まで市場が拡がっていったものだったらしい。
ゲーム内で語られている”購入は一度に1枚”や“暴力では奪えない”等のルールを決めた“偉い人”とは天弓のこと。(メタ的にZUNや運営のことじゃなかった。)

これによって、目論見通りに大儲けを出した飯綱丸であったが、市場の神である天弓にとっては、一連の自分のルールに従って市場が活性化することその物が自身へと捧げられた祭事と言っても過言ではなく、
適当にWIN-WINの関係を築けて楽にビジネス出来ていると高を括っていた飯綱丸の思惑をも越えて、急速に力を取り戻した天弓が市場その物のコントロール(もっと大きな利益)を欲したことが両者の関係の破綻と、
そこにタイミングよく(悪く?)興味本位でやって来た自機組の介入による“龍珠異変”の発覚(と崩壊)へと繋がったのであった。

因みに、零落していたとはいえ神様らしく傲慢でもあり、飯綱丸のことは“天狗風情が私を利用しようと調子に乗っているようだが、いいだろう乗ってはやるが利用されるのは反対にお前だ”……位に思っていたようなので、
結局の所は元から都合よく使うつもりだった上に“コントロール出来ないのならばいっその事で自機組に天弓を始末させよう”……と目論んだ飯綱丸とは、どっこいどっこいの腹黒さの持ち主であったと言えるので、どっちが悪いとも言い難かったり。

更に、公式でのテキストによれば、今回の異変に対する自機組の介入については“暴力で物を解決し、市場(のルール)を破壊する『賊』である。”とか記されている。えぇ…
天弓視点のテキストなので、そういう書かれ方になっているかもだが、何か色々とヒドくない?

尚、ゲーム中にて天弓自身のアビリティカードも入手可能で、それを装備して天弓と相対する所まで進むと「所有権を操作する唯一のカード」と自慢気に語っている姿が見られる。
……が、肝心の『賊』である自機組からの評価は散々で……「最っ高に使えないカード」(霊夢)「ハズレを掴まされた」(魔理沙)「使えなさすぎるから捨てようと思った」(咲夜)「買い間違えた」(早苗)……とのこと。人の心とか無いんか?

さて、天弓により生み出されたアビリティカードだが、天弓自身は自機組との戦いの後で余りにも拡散し過ぎていたことと、自身でももうコントロールしなくなるという意味も込めたのか「そのうち陳腐化し、効力を失うだろう」……との予測を口にしていた訳なのだが、その利便性がすっかりと認知されたのか、続く『バレットフィリア達の闇市場』どころか、
更に続く『東方獣王園』にまで登場している。メタ的にゲームとして面白く好評なシステムだったってことかも知れないが何とかしろよダサ神様。


【元ネタ】

明確なものは無し。
実際、旧作シリーズならともかく東方としては珍しい。
……一応、名前と属性から日本神話に登場してくる市場に関係する神として、名前の元になっているであろう道俣神(ちまたのかみ)や、その物ズバリで市場の女神としての信仰がある神大市比売(かむおおいちひめ)が存在しているので、それらがモチーフかとは考えられる。
天弓は虹のことで、実はこれも市場に関係している要素の一つ。
そういった意味ではちゃんと元ネタはあるにはあるのだが、他のキャラのように一つ、乃至は象徴とする程には定めきれなかった、というのが正確なのかもしれない。

尚、考察していくと道俣神と神大市比売から始まり、市場に纏わる様々な事柄をミックスしてデザインされたか、
或いは、反対に我が国に於ける市場という物の概念を探る中で道俣神や神大市比亮にも行き着いたか……といった所であると思われる。
以下に、天弓の元ネタとなっていると思われる各要素の解説と考察をば。


■道俣神

古事記にて黄泉の国から逃げ帰ってきたイザナギが脱ぎ捨てた衣服の内の袴から誕生した神。
一方、日本書紀の方では同じ部位の衣服として褌から生まれた開囓神(あきぐいのかみ)とされており、
この名は古事記の方にて冠から生まれた飽咋之宇斯能神(あきぐいのうしのかみ)と共通しているのでこの二体は同体なのでは?との考察もされている。この話も“道俣神”と“開囓神”を同体と見なす説と、いやいや“道俣神”とは別で同体なのは“開囓神”と“飽咋之宇斯能神”だから、とする説があってややこしい。
属性としては名前の通り“道”の“俣(又)”の神であることから、即ち、分かれ道と辻󠄀を司る=境界の神。
二つの足に分かれていく股に当たる袴(褌)から生れたのもその証明。
黄泉の穢れを断ち切り、イザナギを現実世界へと帰還させた力の象徴でもあるのかも?
境界とは違う文化や価値観を持ったものが交流する場所であり、それ故に辻󠄀は“市場”が開かれる場でもあったらしい。
また、道俣神は境界を守る神ということから、後には地蔵やその他の神や仏の姿を仮託して祀られた、村境等に置かれた道祖神の原型の一つであるとも考えられている。


■神大市比売

異名を大歳御祖神(おおとしのみおやのかみ)といい、何と日本の国土を形作る神々の祖とも呼ぶべき、全ての山々の神=大山津見神(おおやまつみのかみ)の娘にして、かの素戔嗚尊(スサノヲノミコト)の二番目の妻という日本神話の中でも実は結構な大物と位置付け出来る女神だったり。……なので、実際には零落したり最弱扱いされるような女神様では無い筈なのだが。
特別に神話として語られている訳ではないのだが、素戔嗚尊の妻と云えば、八岐大蛇の生贄から救い出した櫛名田比売(くしなだひめ)が有名。
しかし、実は櫛名田比売の次に妻となり、大歳(年)神(おおとしがみ)宇迦之御魂(うかのみたま)という、これまたかなりの大物として扱われる穀物を司る神様の母神となったのが神大市比売なのだという。
素戔嗚尊は神話的には天照大御神の弟=天孫系(天津神)かと思われがちだが、ルーツ的には出雲系(国津神)の神々の祖とも考えられているので、
その彼に神話・信仰上で櫛名田比売に続いて国土を象徴する大山津見神の娘が嫁ぐというのは納得の行く構図である。ただ、櫛名田比売も系譜では大山津見神の孫に当たるので、より出雲系との血縁関係が強調されている構図となっている。
神大市比売に話を戻すと、字面の通りで市場の神であり、元より山神が陸でも海でも物々交換の場=市を取り仕切っていたとする信仰・慣わしがあったことから、父神よりその属性を引き継いでいたと考えられる。
彼女を主宰神として祀る神社は夫や子供達に比べると片手で数えられる程に少ないものの、当該神社では新月と満月のみに作られる護符を売っている等、月の下の虹で市場を開いていた天弓を連想させる信仰があるとのこと。
また、子の宇迦之御魂神は後の“お稲荷さま”のことなので*1、その点に於いても日本に入ってきた後に宇迦之御魂神と習合して此方も“お稲荷さま”の正体とされた荼枳尼天(野狐を眷属とするインドの鬼神が転じた女神)を信仰の中に取り込んでいる飯綱権現=飯綱丸の元ネタとの関連があったりする。


■虹

道俣神の項にて触れたが、中世に於いては境界である道の辻が市場を開く場として選ばれていた訳だが、それと同じく虹のかかる(見える)場所で市場を開くという信慣わしも中世の頃まで存在していた。
これは、虹も分かれ道と同じく境界の象徴であり、更に言えば物理的に……というよりは幽世と現世の境界と捉えられていた為だという。
幽世と現世の境界……というのは前述の道俣神の話とも共通する要素である。
ゲーム中にて天弓達が空との境界線を象徴していたのか、満月に架かる虹の下で市場を開いていたのも、確りと諸々の要素を反映した設定だったのかも知れない。(太陽ではなく月の下の虹というのも昼と夜の境界を現している?)


【容姿】

歴代の東方キャラの中でも東方最強の某地獄の大女神と並び称される程にハイブロウなデザインをしているとして語り種となっており、二次創作でも(最強と最弱)の二人*2のみが各々のファッションセンスを称え合っていたり理解者になっていたり……というネタが多く描かれている。

まず、髪型は紺色(蒼系統)のショートボブ……そこまでは普通なのだが、そこに虹色のカチューシャ、虹のグラデーションを表現したのであろう、様々な色の布をパッチワークでごちゃ混ぜにしたようなド派手でセンスの無い長袖のワンピースに、裏地に青空が描かれた白いマントを羽織っている。
ブーツの色は紫だが、これはワンピースからの続きで虹のグラデーションを表現しており、立ち絵での謎ポーズでの腕(赤)~足(紫)までで虹のグラデーションを体現し、更にマントの裏地を併せて空に架かる虹を表現している……ということなのだろうなぁ、多分。
ワンピースのパッチワークは縫い目ではなくジッパーで繋がれている。……これも、前述の元ネタと思われる要素の内の“境界”の隠喩なのだろうか?
更にアクセントとしてワンピースには黄色(金色?)による飾りがあしらわれているが、これは空と考えれば星を現しているようにも見えるが、ジッパーを境界と見立てれば、その真ん中に位置しているので布と布を別の地域、世界と見立ててそれを越える=交易の隠喩なのではないか?との説も。
また、マントの方には赤い糸で飾りがあしらわれているが、此方は単にアクセント?

……以上の様に色々と盛り込まれているのは解るが常人にはハイセンス過ぎる服装に加えて、よりインパクトを高めているのが右手の人差し指を天に、左手の方人差し指を地に向けた謎ポーズである。(表情も何とも言えないニヤケ面)
このポーズも、単純ながら余りにも破壊力が高かった。
謎ポーズの元ネタに関してはお金の象徴ということで“$”マークを形作ってるという説が出されている。(このポーズでオカルト関連だとお釈迦様が誕生した際に唱えた“天上天下唯我独尊”…位なものだが、関連が考察出来ない。)


【スペルカード】

『東方虹龍洞』

※()内は使用してくる難易度。

  • 「無主への供物」(E.N.H.L.)
  • 「弾幕狂蒐家の妄執」(E.N.H.L.)
  • 「バレットマーケット」(E.N.)
  • 「密度の高いバレットマーケット」(H.)
  • 「弾幕自由市場」(L.)
  • 「虹人環」(E.N.H.L.)
  • 「バレットドミニオン」(E.N.)
  • 「暴虐のバレットドミニオン」(H.)
  • 「無道のバレットドミニオン」(L.)
  • 「弾幕のアジール」(E.N.H.L.)

『バレットフィリア達の闇市場』


  • 『正当なバレットマーケット』
  • 『闇市場のミシガンロール』

【余談】

『東方虹龍洞』の発売時期が新型コロナの世界的流行による自粛期間の真っ只中であった為に、テーマ曲名等から通常のシリーズのお披露目の場となってきたコミックマーケット等のイベントが開催されないことを強く意識されたと実しやかに言われている。

実際、イベントにて頒布されてきた過去シリーズとは違い『東方虹龍洞』の販売はSteamによるDL販売からが初となった。



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最終更新:2024年01月26日 18:18

*1 狐は?と思われるかも知れないが、狐はあくまでもお稲荷さまの“使い”である。

*2 二次創作では“零落していた”の一点から東方最弱神様やダ女神として扱われることもあるちまたんだが、一応というか原作では決して“ダサ神”かも知れないが“ダメ神”ではない。