現役ドラフト(プロ野球)

登録日:2024/01/20 (日) 18:30:00
更新日:2024/04/22 Mon 08:59:00
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概要

現役(げんえき)ドラフトとは、プロ野球において出場機会に恵まれない中堅選手の移籍活性化や俗に言う『飼い殺し』の防止を目的とした、2022年オフから導入された移籍制度のこと。


解説


MLBの『ルール・ファイブ・ドラフト*1』を参考に、選手会が出場機会に恵まれない中堅選手の移籍活性化を目的とし、導入を希望したことで、2018年中旬から選手会とNPBが議論を重ね、2019年3月に正式に選手会がこの制度の導入を提案した。

その後も、選手会、NPB、プロ野球実行委員会が議論を重ね、2020年初旬からプロ野球実行委員会が取りまとめた案が正式に提示され、12球団の方針も大筋合意に達したため、選手会の意見を聞き、選手会が導入を了承すれば、2020年から導入される予定であった。

しかし、当時の2020年は新型コロナの流行によりシーズン開幕が延期されるなど、球界にも大きな影響が出たため、2020年からの導入は実質不可能になり、2020年中の導入は見送られることとなった。

その後も議論を重ね2022年9月に指名方式が判明し、2022年10月に選手会とNPBは2022年オフからの導入に合意し、2022年12月に第1回が開催されることが正式に決まった。


現役ドラフトのルール


現役ドラフトではNPB12球団が提出した選手が指名対象となる。
しかし、以下の7例に該当する選手は指名することが出来ない。


1、育成選手
2、シーズン終了後に育成選手から支配下選手に昇格した選手
3、前年の日本シリーズ終了時の日から翌日以降にトレードやFA(人的補償)など、選手契約の譲渡により獲得した選手
4、外国人選手
5、FA権を保有している、もしくは過去に行使した経験がある選手
6、複数年契約を結んでいる選手
7、翌季の年俸が5000万円以上の選手*2


2023年オフからは、NPB12球団は最低2人以上は年俸5000万未満の選手を指名対象として提出することが義務づけられるようになった。


指名方式


まず12球団が基本年俸5000万未満の対象選手を最低2名をリストアップし、各球団が指名したい選手1名に投票を行い、最も多くの票を集めた選手を出した球団から、指名を開始することができ、最多得票数の球団が複数となった場合は、同年のドラフト会議におけるウエーバー順で指名権を獲得する。

つまり簡単に言えば、まずどの球団も選手を2名以上提出し、他の11球団から『この選手欲しい!』』と言われる程、(自チームでは持て余しているが)他球団からの評価が高い選手を出したチームから、他の11球団の選手を自由に選べる権利の優先順が高いという訳。

2巡目以降も存在するのだが、現時点では2回しか行われておらず、いずれ1巡目のみの指名である為、省略する。


歴代現役ドラフト移籍者リスト


  • 第1回目(2022年オフ)

年度 現役ドラフト移籍選手 守備位置 移籍先球団 前所属球団 備考
2022 大竹耕太郎 投手 阪神 ソフトバンク 先発ローテに定着の上12勝2敗と大ブレークし日本一に貢献
2022 戸根千明 投手 広島 巨人 中継ぎとして24試合登板、防御率4.64
2022 笠原祥太郎 投手 横浜 中日 一軍登板2試合で2023年オフに戦力外通告、CPBL台鋼ホークスへ移籍
2022 オコエ瑠偉 外野手 巨人 楽天 41試合出場で打率.235、2本塁打
2022 成田翔 投手 ヤクルト ロッテ 一軍登板3試合で2023オフに戦力外通告を受けプロから退きクラブチームへ移籍
2022 細川成也 外野手 中日 横浜 規定打席到達で打率.253、24本、78打点と貧打に悩むチームの救世主に
2022 渡邊大樹 外野手 オリックス ヤクルト 一軍出場1試合で2023年オフに戦力外通告を受け引退し、スコアラーへ転身
2022 大下誠一郎 内野手 ロッテ オリックス 一軍出場23試合で打率.227、1本塁打
2022 古川侑利 投手 ソフトバンク 日本ハム 一軍登板9試合で防御率4.50で戦力外通告を受け育成選手へと降格。
2022 正隨優弥 外野手 楽天 広島 一軍出場1試合で2023年オフに戦力外通告。
2022 陽川尚将 内野手 西武 阪神 一軍出場9試合で打率.167、1本塁打
2022 松岡洸希 投手 日本ハム 西武 一軍登板なしで2023年オフに戦力外通告を受け育成選手へと降格。


  • 第2回目(2023年オフ)

年度 現役ドラフト移籍選手 守備位置 移籍先球団 前所属球団 備考
2023 漆原大晟 投手 阪神 オリックス 2021年は一軍34登板で、防御率3.03
2023 内間拓馬 投手 広島 楽天 2021年は一軍11登板で、防御率5、91
2023 佐々木千隼 投手 横浜 ロッテ 2016年ドラ1、2021年は一軍54登板で、防御率1.26
2023 馬場皐輔 投手 巨人 阪神 2017年ドラ1、2021年は一軍44登板で、防御率3.80
2023 北村拓己 内野手 ヤクルト 巨人 2021年は一軍打率.250、4本塁打、2023年は一軍公式戦で投手としても登板。
2023 梅野雄吾 投手 中日 ヤクルト 2019年は一軍68登板で、防御率3.72
2023 鈴木博志 投手 オリックス 中日 2018年は一軍53登板で、防御率4.41
2023 愛斗 外野手 ロッテ 西武 2022年は一軍121試合出場で、打率.243、9本塁打、28打点、9盗塁、本名は武田愛斗
2023 長谷川威展 投手 ソフトバンク 日本ハム 2023年は一軍9登板で、防御率1.08
2023 櫻井周斗 投手 楽天 横浜 2021年は一軍30登板で、防御率3.07
2023 中村祐太 投手 西武 広島 2017年は一軍15登板で先発で5勝、防御率3.74
2023 水谷瞬 外野手 日本ハム ソフトバンク 2023年までに一軍出場なし、ナイジェリア人と日本人のハーフ

現役ドラフト選手の移籍後の活躍について


「現役ドラフトでの移籍が選手・チームにとって有益となりうるのか?」という点について結論を導くのは、まだ制度導入から1年しか経過しておらず時期尚早ではあるが、それでも前所属球団で燻っていた姿が嘘のように覚醒し、いまやチームに欠かせない存在となった...という事例も第1回から既に存在する。
その筆頭がソフトバンクから阪神に移籍した大竹耕太郎と横浜から中日に移籍した細川成也であろう。

大竹はソフトバンク時代「好投しても無援護で中々勝てない投手」としてネタにされ、移籍前の2シーズンに至っては通算防御率9.82と成績までボロボロになってしまっていた。*3
22年シーズン後半からはコーチの助言を受け入れ落ち込んでいた球速の回復に努め、140km/h前後まで戻し首脳陣から復活の期待も高まっていた中で現役ドラフトへかけられることとなり、名の知れた有望株がリストアップされたことはホークスファン以外からも驚きを持って受け止められた。*4
移籍後は精密なコントロールを武器に21登板・12勝2敗・防御率2.26で10の貯金を作り、5月には月間MVPを受賞。先発ローテーションの一角として阪神の38年ぶりの日本一(アレ)に貢献した*5。年俸も推定2,000万円から推定6,700万円と3倍以上の増額を果たした。

細川は横浜時代はルーキーイヤーにてプロ初打席を本塁打で飾る*6など期待を集めたものの伸び悩み結局プロ通算6本塁打に留まっていた。
それに対し、移籍後はダメ新外国人アキーノの大不振もありシーズン序盤から大奮闘を見せ大竹同様5月には月間MVPを獲得、早々に前年までの通算本数を軽く超える本塁打を放ちあっという間に打線の中心に。シーズン終盤こそやや数字を落としたが、最終的に規定打席打率に到達し、打率253、24本、78打点、OPS.780でチームの本塁打王&打点王と大ブレークし、貧打で悩む打席の救世主となり、チームが2年連続最下位に沈む中気を吐いた。
ここ数年はとにかく攻撃面の至らなさ、特に長打力不足が槍玉に上がり続ける中日において、「細川がいなかったら打線は完全に崩壊していた」と言っても過言ではない活躍ぶりだった。年俸も推定990万円から推定4,500万円と約4.5倍のアップ。昇給率だけで言えば大竹より上だった。

ただし大竹や細川のような光もあれば当然闇もあり、戸根・オコエ・大下・陽川の4人は翌シーズンでの支配下選手契約こそ守り抜いたが、2024年以降の立場が決して安泰と言える状況ではないのも事実。他の6選手に至っては、1シーズンで戦力外通告あるいは支配下から育成への降格といった辛酸を舐める事になった。
これはこの制度が良く言えば『出場機会に恵まれない中堅支配下選手の移籍活性化』、悪く言えば『チーム構想によっては戦力外でもおかしくない支配下中堅選手にラストチャンスを与える』という目的によるものである事を如実に表していると言える。

第2回は大竹・細川の覚醒が各球団に大きなインパクトを与えた事が影響したか、第1回より一軍実績のある選手が多く対象になった傾向がある。実際、過去2~4年以内に一軍主力としてバリバリ働いていた選手も少なくない。果たしてどんな結果になるのだろうか。

上記のような成功例が生まれたこともあり、本制度は改善の余地がありながらも、導入を自ら希望した現役のプロ野球選手は当然として、プロ野球ファン、OB、解説者からも肯定的に扱われることが多い。

少なくとも大竹と細川の活躍を目の当たりにした阪神ファンや中日ファンでこの制度に否定的な者はいないと言って良いだろう。


追記・修正は、現役ドラフト選手の奮闘を願っている方にお願いします。

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  • 賛否両論?
  • ホークスの目利き
  • 光もあれば闇もある

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最終更新:2024年04月22日 08:59

*1 名前の由来はMLB規約の第五条に規定されていることから。

*2 ただし、1名に限り年俸5000万以上1億未満の選手を対象にすることが可能。

*3 球速が130km/h弱まで落ちてしまいストレートが通用しない状態であった。

*4 上向きな状態にもかかわらず大竹が放出されたことに関してはホークスフロントと現場の意思疎通に問題があることを指摘する意見も出た。

*5 23年度だけでソフトバンク時代以上の勝ち星を挙げた

*6 ちなみにこの際の相手投手がこの現役ドラフトで中日→横浜に移籍した笠原祥太郎である。