幕末時そば伝

登録日:2024/03/15 Fri 23:53:33
更新日:2024/03/31 Sun 17:17:06
所要時間:約 3 分で読めます




『幕末時そば伝』は鯨統一郎の小説である。
ちなみにこれは文庫版のタイトルであり、単行本版は最初に読み切りとして掲載された「異譚・千早振る」がそのまま表題作となっていた。

概要


落語の住民達の日々と、それに振り回される者達を書いた連作短編集。
ジャンルは一応「時代ミステリー」とされているが、基本的には「落語のサゲが、偶然にも陰の組織の符牒だった」程度の物が殆どで、謎解き要素は殆どない。
一方の落語パートは地の文が追加されているなどのアレンジも加わっているが、基本的な内容は原典の流れを忠実になぞっている。
そのため、どちらかと言うと「落語を小説風にアレンジした時代劇コメディ」といった感じの内容に仕上がっている。
とはいえ作者の軽妙な筆致で繰り広げられる落語のやり取りはなかなか腹筋に悪い。


主な登場人物


  • 八五郎
一応主人公。通称「八」。
粗忽長屋の住人で妻帯者。
落語ではお馴染みの粗忽者。


ある日突然粗忽長屋に転がり込んできた記憶喪失の男。
八五郎に負けず劣らずの粗忽者であり、色々と世話をしてくれた八五郎を「兄貴」と呼んで慕っている。


  • 高田甚六
粗忽長屋の家主。
世代単位で家賃が滞っている住人達にも快く住居を提供し続けている懐の深い人物。


収録作品

  • 異譚・粗忽長屋
武蔵の国某藩の熊川家では嫡男・吉右衛門一派と側室の子・虎右衛門を担ぐ一派による跡目争いが起きていた。
そんなある日、吉右衛門はお忍びで町に繰り出す事になるが…。

原典において、最後まで正体不明で終わった“ある人物”を掘り下げたエピソード。


とある村の豆腐屋の倅・辰三はひょんな事から相撲取りを志し、家出同然の形で村を離れる。
都に出た辰三はたまたま知り合った大工の棟梁の伝手で相撲を取り仕切る役人に紹介される事となるが…。

前述の最初に書かれたエピソードで、単行本版の表題作でもある。
そのため本作の収録作品では唯一他のエピソードと関連しない独立した話となっている。
原典では流された一つの“偶然”に理屈を付ける事で、良く知られた物語がまったく違う姿を見せるのはまさに作者の本領発揮と言ったところ。


  • 異譚・湯屋番
武蔵の国某藩の熊川家では吉右衛門派の家老が虎右衛門一派への抵抗を続けていた。
そんな中、虎右衛門一派は事態を打開する手掛かりが吉右衛門の私物に隠されている事を突き止める。

「異譚・粗忽長屋」の後日談にあたるエピソード。
原典のサゲの起点になった“ある犯罪”に焦点が当てられている。


  • 異譚・長屋の花見
安政五年、江戸幕府は次期将軍を巡って南紀派と一橋派が争っていた。
帝の影の組織は鍵を握る次期大老候補・井伊直弼の身辺調査を命じられる。

文庫版のタイトルにもある「幕末」要素の起点となるエピソード。


  • 異譚・まんじゅう怖い
平安時代、平貞盛は藤原秀郷と共に乱を起こした平将門の討伐に乗り出す。
将門を追い詰めた貞盛だったが、将門は死に際に一つの呪詛を遺す。

幕末シリーズ第二弾にして、文庫版解説の有栖川有栖先生最推しエピソード。
とにかく平安時代パートラストの破壊力は必見の価値あり。


  • 異譚・道具屋
安政の大獄で粛清の嵐が吹き荒れる中、日本各地で反幕府の気運が高まりつつあった。
そんな中、渦中の井伊直弼は盟友・長野主膳に公武合体を推し進める一つのアイディアを告げられる。

幕末シリーズ第三弾。
地味に八五郎も熊も登場しない唯一のエピソード
一般によく知られたバージョンではなく、ややマイナーなサゲが採用されている。


慶応三年、討幕派の大物で奇兵隊の指導者である高杉晋作が謎の死を遂げた。
晋作の妻・雅子は晋作の死が暗殺ではないかと疑いを抱く。

幕末シリーズ第四弾。


  • 異譚・時そば
時代の流れが討幕に傾く中、十五代将軍・徳川慶喜に大政奉還の建白書が提出された。
慶喜は苦悩の末、配下の陰の組織に江戸幕府の行く末を委ねる事を決意する。

幕末シリーズのラストを飾るエピソード。
ある意味において原典の後半パートの中核を為す“ある店”にスポットライトを当てた一作。
ちなみにこのエピソードではメインとなる「時そば」に加え、冒頭にもう一つ別の演目が組み込まれている。


余談

作者の別作品「鬼姫人情事件帖」の主人公・りんは熊の姉とされている。
ちなみにそちらは本作とは真逆のシリアス寄りのミステリーになっている。
姉弟で随分と扱いが違うもんである。



「まさか、こんな記事に追記・修正する者など、いるはずがないからな…」


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最終更新:2024年03月31日 17:17