奏(騒)楽都市OSAKA(ライトノベル)

登録日:2011/09/08 (木) 19:22:28
更新日:2023/11/01 Wed 08:10:38
所要時間:約 6 分で読めます





奏(騒)楽都市OSAKAとは、川上稔の長編ライトノベル、都市シリーズの一つ。発行順に言えば今作は四作目にあたるが、都市シリーズは一部の例外を除き、世界観を共有しているだけで物語上の繋がりはないので、今作からでも読めない事はない。
また、項目名は奏(騒)楽都市OSAKAとなっているが、この「奏」の部分は本来「騒」の冠に「奏」を乗せた造語があてられている。


「奏 
 騒」

こんな感じ

上下巻構成で、得に下巻は(その時代にしては)厚く、電撃文庫の最厚記録を更新した。

なお本作後にあたる『矛盾都市TOKYO』では、諸事情により本作で起きた事件に関する情報が隠匿されていることが明かされている。




□ストーリー
ここはちょっと東西分裂しちゃった日本。奈良に住む全方位型魔法少女の夕樹ちゃんは、花も恥じらうお年頃。ちょっとシュートで冷血なところもあるけれど、悪くて汚い連中は骨の髄まで凍結粉砕です。そんな夕樹ちゃん、皆は“殺活者”なんて呼んで親しんでいますが、実は普通の女の子に戻りたい願望ありまくり。
そこにやってきたのは夕樹ちゃんの元恋人で現ヘタレの勝意君。二人はなんと幼なじみ。昔、勝意君はキレると怖いのがチャームポイントのスポーツ少年で、夕樹ちゃんは当時から眼鏡で巫女で彼一途。二人はエロス界――ってか今の法律だと犯罪!?まぁぶっちゃけ細かいことは気にせず先に行くと、照れ屋の夕樹ちゃんは勝意君との再会はおろかまともに話すことすら出来ません。彼のタコミスを必死にフォローしようとしても、
「失せろ」
とか本音が出ちゃってもう大変。そんないつものセメント状態の夕樹ちゃんですが、関東からやってきたTOKYOの番長集団を相手にしないといけなくなっちゃいました。大変ですけど夕樹ちゃんには可愛い使い魔が放つ衛星軌道からの砲撃と、魔法のステッキの大破壊があります。でも夕樹ちゃんが頑張ってるのに、勝意君ったら他の女とイチャイチャしちゃってヘタレ全開。一度後ろからブチ込んでやろうかというチャンスもありましたけど、けなげな夕樹ちゃんはとにかく待ちます。そう、なんと夕樹ちゃんは待ちキャラだったのです。かくして最強神器を手に入れたTOKYO陣営と、夕樹ちゃんを含むOSAKA陣営は大阪城でクリスマスパーティーを開きますが、そこに勝意君はやってくるのでしょうか!?

(創雅都市S.F.内[各巻のあらすじ]より抜粋)


□登場人物

○陽坂・勝意
字名:己の詞を持たない少年
役職:なし
戦種:近接格闘師
神器:なし
舞闘:南大門無手派

主人公。自分そのものと言える遺伝詞に刻まれた詞を持たないため、〈己の詞を持たない少年〉と言われる。
己の詞を持たないが故、あらゆる神器(後述)を操る事が出来るが、己の詞を持たないが故、その威力は他の神器使いよりも低い。
自身の迷い等から本編中では初っ端に重い傷を負う等中々勝てず、やっと再会した夕樹にも拒絶される等翻弄されていたが、高田からはその迷いが可能性だと期待され、
終盤では「ある過去」の真実への気づきと死闘から、中村と対を為し、かつて中村の姉と対した関西の青年「久木・右大」が抱いていた〈騒音の領主〉(ラウディスト)の素質と神器を無効化する重神器「荒神」の行使に到達することになる。

なお『矛盾都市TOKYO』では彼らしき青年が同作の主人公と露天風呂前で遭遇したが、共に覗きバカとして吹っ飛ばされていた。

○結城・夕樹
字名:殺活者
役職:古都圏総長・古都圏守護役
戦種:全方位魔法s(ry……遠隔神術師
神器:水神・凍神
舞闘:南大門神術派

ヒロイン。勝意の幼なじみで元恋人。(現在は総長だが)総長でもないのに人を殺したため〈殺活者〉の字名が付けられている。
京都弁眼鏡っ娘でクールでシュート。巨大な杖型神形具「鳳星」を媒介に神器の力を射出する術師タイブだが、義眼とリンクするWW2時の軍事人工衛星を使った砲撃という切り札を持つ。


○難波・総一郎
字名:鬼沈め
役職:大阪圏総長
戦種:近接武術師
神器:草薙
舞闘:紫電流改

大阪圏総長。左神器と剣の使い手で、隻眼と両手足の義体化が特徴。字名の〈鬼沈め〉はその名の通り、かつて鬼を沈めたために付けられた。
尚、ここで言う鬼は種族としての鬼ではなく、遺伝詞の乱れ(鬼の場合は神器「炎神」製造時の余波)から起きた災害に近い。


○山下・妙子
字名:竜后
役職:名古屋圏総長
戦種:全方位義体師
神器:雷神
舞闘:我流

戦闘用の義腕「第八竜帝」を使う、皆の姐御。
第八竜帝には竜の目が埋め込まれており、その出力は、全部で九つのリミッタにより封印されている。
勝意とは御山で争った同期であり、その一方で兄の仇である夕樹を追い東京側に加勢するが…。


○中村・久秀
字名:奏音の領主(ハルモニスト)
役職:東京圏総長
戦種:近接格闘師
神器:なし
舞闘:伊庭式

いろいろと勝意の対照となるライバルポジ。得意技は蹴り。
通常の神器や技能を使えない(ノレない)「古代人」並みの珍しい体質だが、それを持ち味として生かすことで修得した〈奏音の領主〉は技能と神器の発動を先読みし実行前に即対応出来る、結構どうしようもない能力。
後半では亡き姉「中村・緑」がかつて使い、その死と共に封印されるも大阪側が再製造した、〈奏音の領主〉しか使えない最凶の重神器「炎神」を手にするが…。
高田清犠にいろいろとぞっこん。

ちなみに後の『矛盾都市TOKYO』では、本作で中村達が執った行動は次代の東京圏総長連合内では最大機密とされ、副長クラスでも中村の代で何があったのか知らされていないとされている。


○高田・清犠
字名:速読歴
役職:なし
戦種:狗神使い
神器:なし
舞闘:なし

中村・久秀にとってのヒロイン。
非戦闘要員だが、速読歴という予言力を持ち、関東勢は彼女が中村に詠った「予言」を念頭に置いて動いている。
その力から偶然出会い一時行動を共にした勝意にも「予言」を詠い、迷わず未来へと進む中村に寄り添うと共に勝意の迷いにも期待するが…。
また池丸がかつて生み出した太郎丸という狗神が憑いている。ちなみにこの太郎丸は近くにいる人の心の声を代弁する力を持っていたり。
+ 以下、下巻後半のネタバレに付き注意!
名古屋行きの新幹線内で中村と夕樹が戦闘になった際、中村を倒すため夕樹が勝意の存在を振り切って彼を銃座代わりにした時、それで終わりでもいいかと一瞬諦観した勝意にこの戦いを止める事を願うが、
そのはずみで中村の攻撃軌道に入ってしまい、〈奏音の領主〉の副作用で攻撃キャンセルが出来ない彼の全てを焼き尽くす炎神を纏った蹴りを受け、胴で真っ二つになり中村の腕の中で灰になって焼死
彼女の死は自分の后となるはずだった女性を不運とはいえ欠片残さず燃やしてしまった中村、そして「炎神への無意識の恐怖」から何も出来ず独り放置されるも、奇跡的に燃えなかった彼女の形見を手にした勝意双方に影響を与え、物語をある決着の舞台へと導くことになる。

○池丸・孝弘
字名:闘うビジネスマン(本人談)
役職:東京圏第一特務隊長
戦種:言霊師
神器:なし
舞闘:帝式真呼流

TOKYO勢。言霊師という、珍しい戦種。
作中では葵と行動を共にし、高田の予言の実施や葵が追う過去に関する物事の探索等を行っている。
その一方でかつて高田に太郎丸を与えたことに、「そのせいで彼女の(速読歴になる以外の)未来を閉ざしたのではないか」という負い目を独り負っている。
ちなみに『電詞都市DT』・『創雅都市S.F』内の解説コラムで政府の特殊部隊『GASAS』のトップとして「池丸・孝一」なる人物が登場しており、親族である事が暗示されている。

○葵・聖
字名:いいオンナ(本人談)
役職:東京圏副長・神陰流葵系葵派総帥
戦種:全方位武術師
神器:なし
舞闘:神陰流葵系葵派

TOKYO勢。ある目的のために、中村・久秀について来た。
いつもはオレっ娘だが、池丸の前でだけは普通の女性口調を使っており、彼の高田に対して抱く後悔を諫める等結構いい仲でもある。
相手が使用する神器を鏡移しにコピーし使う武術と棒術の使い手で、流派同士の関係性から来た親の代のある出来事から難波・総一郎と浅からぬ因縁を持ち、クライマックスで雌雄を決する事となる。
『境界線上のホライゾン』の「葵家」とは(一応武芸関連の家という共通点はあるが)関係無い。多分。


○伊庭・優明
関東勢、特に中村の指導者である男性。
かつての近畿動乱時、中村・緑と久木・右大の決着の場に立ち会っており、その時のやり切れない想いゆえか、事態の推移を関東組のお目付け役として間近で見守るが…。

○結城・繊雅
夕樹の祖母であり、親のいない彼女や孤児の勝意の保護者でもあった老女。過去の出来事から様々に内に抱えるようになってしまった孫を、それでも黙って高い技師力で支え、それとともに勝意が「成長する」事を望んている。
また昔教え子達にそれぞれ個性的な特性持ちのみ扱える強大な「重神器」とその使い方を授け、しかし諸事情や巡り合せの不運さから彼らが近畿動乱で潰し合うようにしてしまった因果を持ち、
それゆえに後半で事態が混迷を深める中、ある男が持ってきた「提案」と「ある場所でのクリスマスイブのパーティー計画」を機に、裏で策を動かす事に。

+ 以下、ネタバレにつき注意!
繊雅の決断、それは関東勢の若者達と関西勢の若者達の最終決戦を機に、東西分裂を終結させるというもの。
解決の大手柄自体は他の勢力に譲りつつ、それと引き換えに「今回の事件に関わったものの罪を一切帳消しにする」なんて裏取引をも行い始め、後にウェブコラム『川上稔のフリースタイルで何かやってます』「『奏(騒)楽都市 OSAKA』日本というものの捉え方」「『都市シリーズ全体』何故分厚くなった?」で語られた裏設定話では総一郎の許嫁な法善寺家の女性が密かに密書を抱え関東に飛ぶ等、
「クリスマスパーティー」と言う名目で関西勢が誘う場所へと決着に向かう(細かい裏事情や決着の先にお膳立てされた図面を知る事無く)関東勢の少年少女や勝意の知らない所で進む舞台裏の工作によって、本作のエピローグでは東西和解が実現している。

○藤原
神器:水帝
プロローグとエピローグに登場する関東の中学三年生女子。
中村らしき少年が時折山にある滝つぼに「白い花」を捧げる様子や(彼が来なくなった後自腹で花を捧げるように)、高田らしき少女と会話する姿をこっそり見ており、
彼の行動や彼が来なくなった後潜水してみた水中に見た「二つの遺体」等、様々な「不明な謎」を抱え、詞もそれを反映したものだったが、エピローグである光景を見て…。
またエピローグでは本編の事件後に起きた「東西和解」を機に大阪に留学することを決めており、電撃hp掲載のみの「矛盾都市TOKYO」設定解説ではその後大阪で副長クラスに出世したとされる。

□用語
○神器(リズム)
遺伝詞のこもった歌詞の無い音楽。これを聞きながら己の詞を紡ぐ事により、こもった遺伝詞の種類と同じ系統の術を使う事が出来る。
また、扱う詞階により上から「神」「帝」「王」の三種に分けられ、一般的に術の種類の後に詞階による分類三種のどれかを付けて呼ばれる。(例:「水」属性の「神」級ならば「水神」)
音楽を扱う媒体は一般的にMDだが、特殊な「左神器」持ちや〈己の詞を持たない少年〉など、MDを使わずに起動するものもいる。

○技能(テック)
学校などで取得する肉体・精神的な専門技術。人体組織学の発達により、ゲームのコマンドの様に発動可能だが、無論、己の技術が追いつかないと失敗する。


□備考
本作のコンセプトは「格ゲー」である。それはカラーページや各章の名前を見れば解るし、〈技能〉や〈神器〉等も、格ゲーの必殺技、特殊技に近い。
巴里やD.T.(いずれも都市シリーズ)の様に文章にもクセが少なく、都市シリーズ初心者ならこの作品から読んでみるのもいいかも知れない。



――wiki篭り・修正技能・発動・追記、修正・超成功。











この星で、初めて全世界に己の言葉を響かせるのは誰だ?







…OSAKAを巡る物語はゲーム版、本作の2年後を舞台にした『BABEL』争奪戦へと続く。



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最終更新:2023年11月01日 08:10