ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko0961 こいするれいむとゆめのくすり
最終更新:
ankoss
-
view
ゆっくりが死にません
ぬるいじめとコメディです
駄文注意
/***************************************************************/
幻想郷にゆっくりが現れてどれだけ経っただろうか。
既に野生と野良の区別はつかなくなり、ゆっくりを飼う習慣が広まっていた。
ある者は愛で、新しい家族として幸せに暮らした。
ある者は苛め、日々の疲れを癒していた。
そして多くの者は食べ、手軽に食せる甘味として楽しんでいた。
とても便利で汎用性のあるお饅頭。
人間の里を中心に利用は今も尚、拡大の一途を辿っている。
ある日、里に住むお兄さんは悩んでいた。
理由は簡単、飼いゆのれいむの調子が良く無いからだ。
目の下にはクマができて顔色が悪い。
肌は黒ずんでいて自慢のおりぼんも萎れている。
どこから見ても一目で以上だと分かった。
「なあれいむ?大丈夫・・・じゃないよな?何があったんだ?」
お兄さんは心配で聞いてみた。
しかしれいむは答えない。
何かブツブツ呟いていて聞こえていないようだった。
「れぇぇぇぇいぃぃぃぃぃぃむぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
「ゆわぁ!!なんなのおにいさん・・・ゆっくりおどかさないでね?」
「聞いてないオマエが悪い。で、調子悪いみたいだけどどうしたんだ?」
「それは・・・ゆぅゆぅ・・・」
れいむは言い澱んだ。
心なしか頬を赤く染めているようにも見える。
「まさか・・・好きな奴でもできたか?」
「ゆえっ!どぼじでわかったのぉぉぉぉぉぉぉ!?」
やはりそのようだった。
ゆっくりにも恋煩いというものがあったようだ。
その瞬間、お兄さんは不思議と腹立たしさを感じた。
まるでケンカをする前の様なあの感覚だった。
しかしそれは直ぐに収まり、興味はれいむの恋煩いへと戻っていった。
「誰が好きなんだ?お兄さんに教えてくれよ~♪」
「ゆぅ~いえないよ!はずかしいよ!」
聞いてみるが恥ずかしがって教えてくれない。
それどころか部屋の隅に逃げてしまい、あにゃるをこちらに向けてふりふりしている。
ビキィ
また感じた。
今まで無かったことだけに気になる感覚。
でも今優先すべきことはれいむの健康。
そう思いれいむに提案を持ちかけた。
「れいむ、恥ずかしいんなら言わなくてもいい。だけどな、まず体調を良くしないと。」
「・・・・・・ゆゆ?」
ようやく振り向いてくれた。
「いいか?そんな体調の悪いままじゃ何をするにも良い結果を得られるわけがない。だからまずは体調を万全にすることを考えろ。」
「でも・・・まりさのおかおをおもいだすだけでゆっくりすーやすーやできないんだよぉぉぉぉぉ!!」
相手はまりさのようだ。
お兄さんは地主の飼いまりさだろうと思った。
最近では畑に来たイタズラ妖精を追い払ったという素晴らしいまりさだ。
れいむとも面識はあるし他に思いつかないこともそう思わせた一因である。
「それで眠れてないのか・・・」
「ちがうよ・・・すーやすーやしてるよ?」
「はぁ!?」
「すーやすーやはなんとかできるよ?でもゆめさんにまりさがきちゃうからはずかしくておっきしちゃうんだよ!」
「なるほど・・・つまりだ、まりさの夢さえ見なけりゃそれなりに眠れるってことか?」
「ゆ~ん!ゆっくりりかいしてね!」
偉そうな態度が気に食わなかったがそれはいつものこと。
お兄さんはしばらく悩んだ。
夢を変える方法なんてそうあるとは思えない。
博麗の巫女や妖怪たちのように特殊な能力があるなら話は別なのだが。
「あっ・・・」
「ゆ?」
お兄さんは妙案を思いついた。
特別な能力を持つ者の作った薬なら効果があるのではないか、と。
「永遠亭の薬ならもしかしたら・・・」
「おくすりさん!?いやだよ!にがにがさんはゆっくりできないよ!」
しかしお兄さんにはれいむの声が届かない。
既にお兄さんの声はれいむに向けられておらず、独り言になっていた。
「確か里の外れにいたあいつもゆっくりの夢で悩んでたな・・・れいむ!少し待ってろ、直ぐに戻る!」
「ゆゆ!?おにいさん!ゆっくりまってね!」
お兄さんは一方的にそう告げると家を飛び出して行ってしまった。
里の外れと言ってもそう大きくはない里なのですぐに着いた。
ドンドン!ドンドン!
戸を叩く音が響く。
加減はしているものの壊れてしまうかもしれない程だった。
「おい!いるんだろ!?用があるんだ!」
「うっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
家主が飛び出してくる。
その顔は正に鬼の形相と言えるものだった。
しかしお兄さんは怯むこと無く続けた。
「お前!ゆっくりの夢に効く薬もってたよな!?」
「ええ?・・・まぁ持ってるけど?」
家主のお姉さんはお兄さんの勢いに圧倒され先程までの怒りを消されてしまった。
そしてお兄さんの勢いはまだ続いた。
「それ!くれ!」
「はぁ?」
「金は後で払うから!」
「・・・どれくらい必要なの?」
「一つあればいい!」
「でも・・・いいの?あれは・・・」
「必要だから言ってるんだよ!頼む・・・この通りだ!」
お兄さんはその場に正座し、地面に頭を擦り付けて懇願した。
「ちょ!?・・・やめてよ!外れとは言え人に見られたら恥ずかしいでしょ!・・・わかったわよ!ちょっと待ってなさい。」
お姉さんはため息混じりに家の中に戻ると少し経ってから紙包みを持って戻ってきた。
とても疲れたような顔をして。
「はい、これよ。でもあんた飼ってるのって・・・」
「すまない!ありがとな!代金と礼は今度必ずするから!じゃあな!」
「あ・・・ちょっと!」
お姉さんの話が耳に入らないのだろう。
聞く耳を持たないお兄さんは一方的に礼を言って再び走り出していた。
戸の前で立つお姉さんはさっきより深いため息をついて呆然とするしかなかった。
「なんなのよいったい・・・」
お兄さんは全力で走っていた。
何がここまでさせるのかはお兄さんにも分からなかった。
ただ一つ分かるのは一刻も早くれいむにこの薬を飲ませたいということだけ。
そんなことを考えながらお兄さんは走り続けた。
「ただいま!れいむ!」
「ゆゆ?ゆっくりおかえりなさい!」
ハァハァと荒い息をしながらお兄さんは紙包みをれいむに手渡す。
れいむはもみあげでそれを掴むと小首を傾げる様な仕草で聞いた。
「おにいさん・・・なんなのこれ?」
「さっき言っただろ・・・くすりだ・・・よ・・・くすり。いい夢見れる奴・・・」
「どんなゆめさんがみれるの?」
「えーっとちょっと待て・・・確か、蝶になってふわふわ飛んでる夢・・・だったかな?」
「ちょーちょさん!?おそらをとべるの!?ゆわぁぁ・・・ゆっくりできるねぇ・・・」
れいむは夢の想像をしてるようだった。
だらしなく開けられた口からは涎が垂れている。
両目も上方を向いていてヘブン状態一歩手前といった所だった。
今のれいむなら薬を飲まなくてもまりさの夢を見ないかもしれない。
そう思わせるほど幸せそうな様子だった。
夜になって薬を飲む時がやってきた。
お兄さんが紙包みから丸薬を出す。
「ほら、飲め。」
「ゆっくりがんばるよ!」
れいむは恐る恐る丸薬を口に含むとピタリと動きを止めた。
微動だにしない、とはこの事だろう。
まるで時間を止められたように、瞬き一つ、もみあげの一本に至るまで動きはしなかった。
「れ・・・れいむ?どうした?」
「・・・に・・・に」
「に?」
「・・・にがいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!これどくはいってるぅぅぅぅ!!」
先程までとはうって変わって叫びながらびったんびったん飛び跳ねたりゴロゴロと転がり始めた。
壁にぶつかっては向きを変え、ちゃぶ台にぶつかっては勢いを増した。
その結果はひどいものだった。
壁には亀裂が生じ、棚は一部壊れ、戸は外れその拍子で紙が破れた。
更にはうるさいとの苦情が近所から次々と飛んできた。
当のれいむも無事では無かった。
全身黒い痣と擦り傷だらけ。
しかし疲れたおかげですーやすーやと口にしながら鼻ちょうちんを作って夢の国へ旅立っていた。
強く握った拳をゆっくりと降ろし、お兄さんは怒りを鎮めながら戸の修理に取り掛かった。
「ふぅ・・・」
戸の修理が終わった。
作業に集中していたら怒りは綺麗さっぱり消えていた。
「あ、そういえばれいむは・・・」
忘れていた。
さぞや良い夢を見ていることだろうと笑顔でれいむの寝顔を見る。
「・・・え!?」
目の前にいたのはピクピクと痙攣し餡子を吐き出しているれいむ。
急いで吐いた餡子を取り除き介抱する。
「おい!れいむ!しっかりしろ!」
「ゆぎぎぎぎぎぎぎ・・・・・・」
とてもじゃないがゆっくりしていない。
痙攣している以外に体の形まで変わっている。
まるで顔面に強風を受けているかのように後部へわずかに伸びていた。
「どうしたんだよ!?おい!」
「ひゃ・・・ひゃやすぎだよぉぉぉぉ・・・ゆっくりしてぇぇぇぇぇ・・・」
速すぎとれいむは呟いているようだ。
しかし薬はふわふわ飛ぶ蝶の夢のはず。
ゆっくりであるれいむにとっても速すぎるわけは無いのだ。
「おい!起きろ!起きろよ!起きれば楽になるぞ!」
お兄さんはそう考えた。
夢を操る薬なのだから起きれば何とかなると。
だからお兄さんは必死でれいむを揺らした。
「起きろよぉぉぉぉぉ!!」
「ゆぎぎぎぎぎぎぎ・・・すっきりー!」
「おお!?」
「はやいよぉぉぉぉぉぉ・・・ゆっぐりぃぃぃぃぃ・・・ゆぎぎぎぎ・・・」
「すっきりしてんじゃねぇ!!」
一瞬満足気な表情をしてぺにぺにを立てるもすぐに萎れ、表情はまた苦痛を感じさせるものへと変わっていった。
「仕方ない・・・れいむ、少し荒っぽいが許せよ?」
お兄さんはれいむをちゃぶ台の上に置くと立ち上がり、呼吸を整えた。
そして右足を少し後ろへ移し拳を握る。
目を瞑り頭の中で何度も最高のタイミングを想像する。
・・・そして数分後、お兄さんの目がカッと見開いた。
「ヒャッハァァァァァァァァァァァァ!!!」
一日が終わろうという最中、絶叫が響き渡った。
それと共に見事な拳が繰り出されていた。
繰り出された拳は腰の捻りを受けて威力を最大限に高める。
その最高の拳はぺにぺにの辺りに直撃し、れいむを宙へと誘った。
「ゆぎぎぎぎ・・・もっとおそらを・・・」
ベシャァ!
れいむが何かを言い切る前に壁に叩け付けられた。
壁にしばらくくっついたれいむは次第に落ち始め、吐餡すると共に床に着いた。
不思議な高揚感に満たされたお兄さんはアッパーを放った余韻に浸っていた。
しばらくヘブン状態を堪能していたがふと、れいむのことを思い出す。
「あ・・・れいむ!大丈夫か!ごめんやりすぎた!」
「ゆっゆっゆっゆっゆっゆっゆっゆっゆっゆっ・・・」
瀕死状態の痙攣へと状態を移していた。
「うわぁぁぁ!!オレンジジュースはどこだぁ!?」
慌ててオレンジジュースをかける。
すると、さっきの擦り傷等を含めてみるみる治っていった。
「あまあま~・・・ゆあ!?どぼじでれいむはここですーやすーやしてるの!?おふとんさんは!?」
「れいむ?大丈夫か?」
「ゆゆ!おにいさん!ゆっくりおはよう!」
れいむはやけにツヤツヤとした肌で元気な姿を見せた。
「ゆげぇ!?どぼじであんこさんがこんなにおちてるのぉぉぉぉ!?
どぼじでおうちがぼーろぼーろになってるのぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
その様子から完全に覚えていない事を確認した。
お兄さんは脱力のあまりその場に崩れるしかなかった。
そして意識が遠くなる。
傍でれいむの声が聴こえるがもうどうでもよかった。
「ばっかじゃないの!?」
翌日、お兄さんの家にはお姉さんの怒号が響いていた。
心配になったお姉さんが朝になって様子を見に来たところ、倒れているお兄さんと泣いているれいむを発見したそうだ。
それから慌てて介抱して先程ようやく目が覚めたのである。
「あれは胡蝶夢丸ナイトメアなの!退屈に殺される妖怪のために作られた悪夢を見るための薬よ!?」
「・・・なんでお前がそんなの持ってんだよ・・・人間なのに。」
「それは家のてんこが夢が退屈すぎるって言うからよ!」
「てんこ?」
「そうよ、この前から飼い始めたの・・・薬のおかげで寝ている間はあの子、常時ヘブン状態よ。」
「それじゃあオレが必要だったのは・・・」
「胡蝶夢丸!ナイトメアじゃない方!」
原因は話を聞かないお兄さんにあった。
つまりはそういうことだった。
「そんな・・・」
ドサッ
ショックが大きかったのだろう。
自業自得とは言え重なる心労に再び倒れてしまう。
「ちょっと・・・大丈夫?・・・って熱があるじゃない!?」
再び倒れるお兄さんに布団をかけるとお姉さんは慌ててドタバタと薬を探し回る。
れいむはその様子をしばらく眺め、満面の笑顔でお兄さんに告げた。
「おにいさん!ゆっくりしなきゃだめだよ?ゆっくりしていってね!」
ビッキィ!!
お兄さんはフラフラと起き上がると弱々しく拳を握った。
「お前が・・・言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
弱々しく握られた割には見事な一撃が放たれた。
再び宙を舞うれいむ。
そしてれいむが地面に落ちるのと同時に三度倒れこむお兄さん。
平和な里の中にはお姉さんの悲鳴だけが響いていた。
/***************************************************************/
あとがき
本作品を読んで頂きありがとうございます。
前回「まりさのわらいごえ」を書いた者です。
感想くれた方ありがとうございました。
今回は続きではなく違う分野のものを書いてみました。
前回の感想からなるべく気をつけて書き上げたつもりです。
しかしまだまだお見苦しい点があると思います。
よかったら感想で教えてください。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
ぬるいじめとコメディです
駄文注意
/***************************************************************/
幻想郷にゆっくりが現れてどれだけ経っただろうか。
既に野生と野良の区別はつかなくなり、ゆっくりを飼う習慣が広まっていた。
ある者は愛で、新しい家族として幸せに暮らした。
ある者は苛め、日々の疲れを癒していた。
そして多くの者は食べ、手軽に食せる甘味として楽しんでいた。
とても便利で汎用性のあるお饅頭。
人間の里を中心に利用は今も尚、拡大の一途を辿っている。
ある日、里に住むお兄さんは悩んでいた。
理由は簡単、飼いゆのれいむの調子が良く無いからだ。
目の下にはクマができて顔色が悪い。
肌は黒ずんでいて自慢のおりぼんも萎れている。
どこから見ても一目で以上だと分かった。
「なあれいむ?大丈夫・・・じゃないよな?何があったんだ?」
お兄さんは心配で聞いてみた。
しかしれいむは答えない。
何かブツブツ呟いていて聞こえていないようだった。
「れぇぇぇぇいぃぃぃぃぃぃむぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
「ゆわぁ!!なんなのおにいさん・・・ゆっくりおどかさないでね?」
「聞いてないオマエが悪い。で、調子悪いみたいだけどどうしたんだ?」
「それは・・・ゆぅゆぅ・・・」
れいむは言い澱んだ。
心なしか頬を赤く染めているようにも見える。
「まさか・・・好きな奴でもできたか?」
「ゆえっ!どぼじでわかったのぉぉぉぉぉぉぉ!?」
やはりそのようだった。
ゆっくりにも恋煩いというものがあったようだ。
その瞬間、お兄さんは不思議と腹立たしさを感じた。
まるでケンカをする前の様なあの感覚だった。
しかしそれは直ぐに収まり、興味はれいむの恋煩いへと戻っていった。
「誰が好きなんだ?お兄さんに教えてくれよ~♪」
「ゆぅ~いえないよ!はずかしいよ!」
聞いてみるが恥ずかしがって教えてくれない。
それどころか部屋の隅に逃げてしまい、あにゃるをこちらに向けてふりふりしている。
ビキィ
また感じた。
今まで無かったことだけに気になる感覚。
でも今優先すべきことはれいむの健康。
そう思いれいむに提案を持ちかけた。
「れいむ、恥ずかしいんなら言わなくてもいい。だけどな、まず体調を良くしないと。」
「・・・・・・ゆゆ?」
ようやく振り向いてくれた。
「いいか?そんな体調の悪いままじゃ何をするにも良い結果を得られるわけがない。だからまずは体調を万全にすることを考えろ。」
「でも・・・まりさのおかおをおもいだすだけでゆっくりすーやすーやできないんだよぉぉぉぉぉ!!」
相手はまりさのようだ。
お兄さんは地主の飼いまりさだろうと思った。
最近では畑に来たイタズラ妖精を追い払ったという素晴らしいまりさだ。
れいむとも面識はあるし他に思いつかないこともそう思わせた一因である。
「それで眠れてないのか・・・」
「ちがうよ・・・すーやすーやしてるよ?」
「はぁ!?」
「すーやすーやはなんとかできるよ?でもゆめさんにまりさがきちゃうからはずかしくておっきしちゃうんだよ!」
「なるほど・・・つまりだ、まりさの夢さえ見なけりゃそれなりに眠れるってことか?」
「ゆ~ん!ゆっくりりかいしてね!」
偉そうな態度が気に食わなかったがそれはいつものこと。
お兄さんはしばらく悩んだ。
夢を変える方法なんてそうあるとは思えない。
博麗の巫女や妖怪たちのように特殊な能力があるなら話は別なのだが。
「あっ・・・」
「ゆ?」
お兄さんは妙案を思いついた。
特別な能力を持つ者の作った薬なら効果があるのではないか、と。
「永遠亭の薬ならもしかしたら・・・」
「おくすりさん!?いやだよ!にがにがさんはゆっくりできないよ!」
しかしお兄さんにはれいむの声が届かない。
既にお兄さんの声はれいむに向けられておらず、独り言になっていた。
「確か里の外れにいたあいつもゆっくりの夢で悩んでたな・・・れいむ!少し待ってろ、直ぐに戻る!」
「ゆゆ!?おにいさん!ゆっくりまってね!」
お兄さんは一方的にそう告げると家を飛び出して行ってしまった。
里の外れと言ってもそう大きくはない里なのですぐに着いた。
ドンドン!ドンドン!
戸を叩く音が響く。
加減はしているものの壊れてしまうかもしれない程だった。
「おい!いるんだろ!?用があるんだ!」
「うっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
家主が飛び出してくる。
その顔は正に鬼の形相と言えるものだった。
しかしお兄さんは怯むこと無く続けた。
「お前!ゆっくりの夢に効く薬もってたよな!?」
「ええ?・・・まぁ持ってるけど?」
家主のお姉さんはお兄さんの勢いに圧倒され先程までの怒りを消されてしまった。
そしてお兄さんの勢いはまだ続いた。
「それ!くれ!」
「はぁ?」
「金は後で払うから!」
「・・・どれくらい必要なの?」
「一つあればいい!」
「でも・・・いいの?あれは・・・」
「必要だから言ってるんだよ!頼む・・・この通りだ!」
お兄さんはその場に正座し、地面に頭を擦り付けて懇願した。
「ちょ!?・・・やめてよ!外れとは言え人に見られたら恥ずかしいでしょ!・・・わかったわよ!ちょっと待ってなさい。」
お姉さんはため息混じりに家の中に戻ると少し経ってから紙包みを持って戻ってきた。
とても疲れたような顔をして。
「はい、これよ。でもあんた飼ってるのって・・・」
「すまない!ありがとな!代金と礼は今度必ずするから!じゃあな!」
「あ・・・ちょっと!」
お姉さんの話が耳に入らないのだろう。
聞く耳を持たないお兄さんは一方的に礼を言って再び走り出していた。
戸の前で立つお姉さんはさっきより深いため息をついて呆然とするしかなかった。
「なんなのよいったい・・・」
お兄さんは全力で走っていた。
何がここまでさせるのかはお兄さんにも分からなかった。
ただ一つ分かるのは一刻も早くれいむにこの薬を飲ませたいということだけ。
そんなことを考えながらお兄さんは走り続けた。
「ただいま!れいむ!」
「ゆゆ?ゆっくりおかえりなさい!」
ハァハァと荒い息をしながらお兄さんは紙包みをれいむに手渡す。
れいむはもみあげでそれを掴むと小首を傾げる様な仕草で聞いた。
「おにいさん・・・なんなのこれ?」
「さっき言っただろ・・・くすりだ・・・よ・・・くすり。いい夢見れる奴・・・」
「どんなゆめさんがみれるの?」
「えーっとちょっと待て・・・確か、蝶になってふわふわ飛んでる夢・・・だったかな?」
「ちょーちょさん!?おそらをとべるの!?ゆわぁぁ・・・ゆっくりできるねぇ・・・」
れいむは夢の想像をしてるようだった。
だらしなく開けられた口からは涎が垂れている。
両目も上方を向いていてヘブン状態一歩手前といった所だった。
今のれいむなら薬を飲まなくてもまりさの夢を見ないかもしれない。
そう思わせるほど幸せそうな様子だった。
夜になって薬を飲む時がやってきた。
お兄さんが紙包みから丸薬を出す。
「ほら、飲め。」
「ゆっくりがんばるよ!」
れいむは恐る恐る丸薬を口に含むとピタリと動きを止めた。
微動だにしない、とはこの事だろう。
まるで時間を止められたように、瞬き一つ、もみあげの一本に至るまで動きはしなかった。
「れ・・・れいむ?どうした?」
「・・・に・・・に」
「に?」
「・・・にがいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!これどくはいってるぅぅぅぅ!!」
先程までとはうって変わって叫びながらびったんびったん飛び跳ねたりゴロゴロと転がり始めた。
壁にぶつかっては向きを変え、ちゃぶ台にぶつかっては勢いを増した。
その結果はひどいものだった。
壁には亀裂が生じ、棚は一部壊れ、戸は外れその拍子で紙が破れた。
更にはうるさいとの苦情が近所から次々と飛んできた。
当のれいむも無事では無かった。
全身黒い痣と擦り傷だらけ。
しかし疲れたおかげですーやすーやと口にしながら鼻ちょうちんを作って夢の国へ旅立っていた。
強く握った拳をゆっくりと降ろし、お兄さんは怒りを鎮めながら戸の修理に取り掛かった。
「ふぅ・・・」
戸の修理が終わった。
作業に集中していたら怒りは綺麗さっぱり消えていた。
「あ、そういえばれいむは・・・」
忘れていた。
さぞや良い夢を見ていることだろうと笑顔でれいむの寝顔を見る。
「・・・え!?」
目の前にいたのはピクピクと痙攣し餡子を吐き出しているれいむ。
急いで吐いた餡子を取り除き介抱する。
「おい!れいむ!しっかりしろ!」
「ゆぎぎぎぎぎぎぎ・・・・・・」
とてもじゃないがゆっくりしていない。
痙攣している以外に体の形まで変わっている。
まるで顔面に強風を受けているかのように後部へわずかに伸びていた。
「どうしたんだよ!?おい!」
「ひゃ・・・ひゃやすぎだよぉぉぉぉ・・・ゆっくりしてぇぇぇぇぇ・・・」
速すぎとれいむは呟いているようだ。
しかし薬はふわふわ飛ぶ蝶の夢のはず。
ゆっくりであるれいむにとっても速すぎるわけは無いのだ。
「おい!起きろ!起きろよ!起きれば楽になるぞ!」
お兄さんはそう考えた。
夢を操る薬なのだから起きれば何とかなると。
だからお兄さんは必死でれいむを揺らした。
「起きろよぉぉぉぉぉ!!」
「ゆぎぎぎぎぎぎぎ・・・すっきりー!」
「おお!?」
「はやいよぉぉぉぉぉぉ・・・ゆっぐりぃぃぃぃぃ・・・ゆぎぎぎぎ・・・」
「すっきりしてんじゃねぇ!!」
一瞬満足気な表情をしてぺにぺにを立てるもすぐに萎れ、表情はまた苦痛を感じさせるものへと変わっていった。
「仕方ない・・・れいむ、少し荒っぽいが許せよ?」
お兄さんはれいむをちゃぶ台の上に置くと立ち上がり、呼吸を整えた。
そして右足を少し後ろへ移し拳を握る。
目を瞑り頭の中で何度も最高のタイミングを想像する。
・・・そして数分後、お兄さんの目がカッと見開いた。
「ヒャッハァァァァァァァァァァァァ!!!」
一日が終わろうという最中、絶叫が響き渡った。
それと共に見事な拳が繰り出されていた。
繰り出された拳は腰の捻りを受けて威力を最大限に高める。
その最高の拳はぺにぺにの辺りに直撃し、れいむを宙へと誘った。
「ゆぎぎぎぎ・・・もっとおそらを・・・」
ベシャァ!
れいむが何かを言い切る前に壁に叩け付けられた。
壁にしばらくくっついたれいむは次第に落ち始め、吐餡すると共に床に着いた。
不思議な高揚感に満たされたお兄さんはアッパーを放った余韻に浸っていた。
しばらくヘブン状態を堪能していたがふと、れいむのことを思い出す。
「あ・・・れいむ!大丈夫か!ごめんやりすぎた!」
「ゆっゆっゆっゆっゆっゆっゆっゆっゆっゆっ・・・」
瀕死状態の痙攣へと状態を移していた。
「うわぁぁぁ!!オレンジジュースはどこだぁ!?」
慌ててオレンジジュースをかける。
すると、さっきの擦り傷等を含めてみるみる治っていった。
「あまあま~・・・ゆあ!?どぼじでれいむはここですーやすーやしてるの!?おふとんさんは!?」
「れいむ?大丈夫か?」
「ゆゆ!おにいさん!ゆっくりおはよう!」
れいむはやけにツヤツヤとした肌で元気な姿を見せた。
「ゆげぇ!?どぼじであんこさんがこんなにおちてるのぉぉぉぉ!?
どぼじでおうちがぼーろぼーろになってるのぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
その様子から完全に覚えていない事を確認した。
お兄さんは脱力のあまりその場に崩れるしかなかった。
そして意識が遠くなる。
傍でれいむの声が聴こえるがもうどうでもよかった。
「ばっかじゃないの!?」
翌日、お兄さんの家にはお姉さんの怒号が響いていた。
心配になったお姉さんが朝になって様子を見に来たところ、倒れているお兄さんと泣いているれいむを発見したそうだ。
それから慌てて介抱して先程ようやく目が覚めたのである。
「あれは胡蝶夢丸ナイトメアなの!退屈に殺される妖怪のために作られた悪夢を見るための薬よ!?」
「・・・なんでお前がそんなの持ってんだよ・・・人間なのに。」
「それは家のてんこが夢が退屈すぎるって言うからよ!」
「てんこ?」
「そうよ、この前から飼い始めたの・・・薬のおかげで寝ている間はあの子、常時ヘブン状態よ。」
「それじゃあオレが必要だったのは・・・」
「胡蝶夢丸!ナイトメアじゃない方!」
原因は話を聞かないお兄さんにあった。
つまりはそういうことだった。
「そんな・・・」
ドサッ
ショックが大きかったのだろう。
自業自得とは言え重なる心労に再び倒れてしまう。
「ちょっと・・・大丈夫?・・・って熱があるじゃない!?」
再び倒れるお兄さんに布団をかけるとお姉さんは慌ててドタバタと薬を探し回る。
れいむはその様子をしばらく眺め、満面の笑顔でお兄さんに告げた。
「おにいさん!ゆっくりしなきゃだめだよ?ゆっくりしていってね!」
ビッキィ!!
お兄さんはフラフラと起き上がると弱々しく拳を握った。
「お前が・・・言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
弱々しく握られた割には見事な一撃が放たれた。
再び宙を舞うれいむ。
そしてれいむが地面に落ちるのと同時に三度倒れこむお兄さん。
平和な里の中にはお姉さんの悲鳴だけが響いていた。
/***************************************************************/
あとがき
本作品を読んで頂きありがとうございます。
前回「まりさのわらいごえ」を書いた者です。
感想くれた方ありがとうございました。
今回は続きではなく違う分野のものを書いてみました。
前回の感想からなるべく気をつけて書き上げたつもりです。
しかしまだまだお見苦しい点があると思います。
よかったら感想で教えてください。
ここまで読んで頂きありがとうございました。