ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko0193 ぱらまりさ02
最終更新:
ankoss
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(ゆっくりが死んだり潰れたりしますが、虐待作品ではありませんので、虐待好きの人は読まないでね)
ぱらまりさを作ろう 後編 作:YT
「みんな、ゆっくりしていってね!!!」
「「「ゆっくちしちぇいっちぇね!!!」」」
ぱらまりさの呼びかけに応えたのは、昨日生まれたばかりの三匹の赤まりさたち。
返事は大きく目もぱっちりして、どれもなかなかの美ゆっくりだ。
ただ、俺が期待したように生まれたときから飛べる形状はしていないようだった。
まあ獲得形質が遺伝せんのは仕方ない。
まりさが一生懸命教えてるから、そのうち覚えるだろう。
「おちびちゃんたち、ゆっくり見ててね! おとーさんはお空をファーできるんだよ。
それっ!」
ふわぁあああ……。
「ゆーっ、ちゅごいよちゅごいよ!」
「ゆうっ! おそらをとんでるみちゃーい!」
「まりちゃも! まりちゃもとぶー! ゆうー! ゆうー!」
頭上を浮遊する父を見上げて、口をぽかんと開けながら、小さな体でいっしょうけんめいポヨンポヨン飛ぶ子まりさたち。
これを見る母れいむもニコニコしている。
ふーわふーわと浮遊すると、ぽてんと地面に降りて、まりさは得意げに講義しはじめた。
「ゆっゆっ、いい? おちびちゃん。ファーは練習するとできるんだよ!」
「ゆっゆっ! でもまりちゃはおぼうしちゃんがくっついてないよ?」
「ゆゆっ? そうだね、でも心配しないでね! 寝ている間にかってになるよ!」
なるかよ。
まあしょうがない、俺がやるか――と思ったら。
「だいじょうぶだよ、ならなかったらおかあさんがやってあげるよ!」
「ゆゆっ? おかーしゃんがやってくれるの?」
「ゆっくち!」「ゆっくちありがちょう!」
ぽんぽん飛び跳ねる赤ゆたちを微笑んで見守ると、母れいむは言った。
「ゆゆぅ、れいむも練習したらゆっくりとべるかな?」
「ゆっ?」
れいむを上から下までまじまじと見たまりさが、自信たっぷりに言い放った。
「れいむのおりぼんさんは、ちょうちょさんみたいだね! だからきっとファーができるよ!」
「ゆぅぅ、ありがとう、まりさ!」
「ゆふんゆふん」
偉そうに顎を見せてふんぞり返るまりさ。うぜぇ。
すると今度は、赤ゆたちが、ゆーゆーと父まりさの足元に群がって、おねだりしはじめた。
「おとーしゃん、まりちゃたちもゆっくち高いところがみちゃいよ」
「みちゃいよ! ゆっくち! ゆっくち!」
「ゆぅ?」
まりさは本棚を見上げる。その前面には、一段ずつ左右互い違いに板が突き出されていて、階段状になっており、てっぺんまで登れる仕組みだ。
それを見上げたまりさが、はっと気づいて頬を膨らませた。
「だめだよ、おちびちゃん! ぷくうぅぅぅ!!!」
「ゆにゃあああ! なんでぇ?」「ゆっくち のぼりちゃいい!!」
「これはおとな用の台だよ! ちいちゃい子が入るとドアさんが閉まって、降りられなくなるよ! すごくゆっくりできなくなるからね!」
「ゆぅーん」「ゆっくりできにゃいならしかたにゃいね……」
赤ゆたちがあきらめるのを見て、まりさとれいむはほっとして顔を見合わせていた。
そのときは、まさか俺もあんなことになるとは思わなかった。
「「「ゆっくちしちぇいっちぇね!!!」」」
ぱらまりさの呼びかけに応えたのは、昨日生まれたばかりの三匹の赤まりさたち。
返事は大きく目もぱっちりして、どれもなかなかの美ゆっくりだ。
ただ、俺が期待したように生まれたときから飛べる形状はしていないようだった。
まあ獲得形質が遺伝せんのは仕方ない。
まりさが一生懸命教えてるから、そのうち覚えるだろう。
「おちびちゃんたち、ゆっくり見ててね! おとーさんはお空をファーできるんだよ。
それっ!」
ふわぁあああ……。
「ゆーっ、ちゅごいよちゅごいよ!」
「ゆうっ! おそらをとんでるみちゃーい!」
「まりちゃも! まりちゃもとぶー! ゆうー! ゆうー!」
頭上を浮遊する父を見上げて、口をぽかんと開けながら、小さな体でいっしょうけんめいポヨンポヨン飛ぶ子まりさたち。
これを見る母れいむもニコニコしている。
ふーわふーわと浮遊すると、ぽてんと地面に降りて、まりさは得意げに講義しはじめた。
「ゆっゆっ、いい? おちびちゃん。ファーは練習するとできるんだよ!」
「ゆっゆっ! でもまりちゃはおぼうしちゃんがくっついてないよ?」
「ゆゆっ? そうだね、でも心配しないでね! 寝ている間にかってになるよ!」
なるかよ。
まあしょうがない、俺がやるか――と思ったら。
「だいじょうぶだよ、ならなかったらおかあさんがやってあげるよ!」
「ゆゆっ? おかーしゃんがやってくれるの?」
「ゆっくち!」「ゆっくちありがちょう!」
ぽんぽん飛び跳ねる赤ゆたちを微笑んで見守ると、母れいむは言った。
「ゆゆぅ、れいむも練習したらゆっくりとべるかな?」
「ゆっ?」
れいむを上から下までまじまじと見たまりさが、自信たっぷりに言い放った。
「れいむのおりぼんさんは、ちょうちょさんみたいだね! だからきっとファーができるよ!」
「ゆぅぅ、ありがとう、まりさ!」
「ゆふんゆふん」
偉そうに顎を見せてふんぞり返るまりさ。うぜぇ。
すると今度は、赤ゆたちが、ゆーゆーと父まりさの足元に群がって、おねだりしはじめた。
「おとーしゃん、まりちゃたちもゆっくち高いところがみちゃいよ」
「みちゃいよ! ゆっくち! ゆっくち!」
「ゆぅ?」
まりさは本棚を見上げる。その前面には、一段ずつ左右互い違いに板が突き出されていて、階段状になっており、てっぺんまで登れる仕組みだ。
それを見上げたまりさが、はっと気づいて頬を膨らませた。
「だめだよ、おちびちゃん! ぷくうぅぅぅ!!!」
「ゆにゃあああ! なんでぇ?」「ゆっくち のぼりちゃいい!!」
「これはおとな用の台だよ! ちいちゃい子が入るとドアさんが閉まって、降りられなくなるよ! すごくゆっくりできなくなるからね!」
「ゆぅーん」「ゆっくりできにゃいならしかたにゃいね……」
赤ゆたちがあきらめるのを見て、まりさとれいむはほっとして顔を見合わせていた。
そのときは、まさか俺もあんなことになるとは思わなかった。
三日ほどたった夜のことだ。俺はベッドで寝ていた。
めしゃっ、という音がした。
そのままうつらうつらしていると、突然凄まじい悲鳴が響いた。
「ゆぎゃあああああああああ!!! れいぶうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!?」
「火事くふぁ!?」
俺は泡食って飛び起き、うろうろ辺りを見回してから電気をつけた。
すると――。
咲いていた。
れいむが本棚の前で。
あんこをめっしょりと撒き散らして。それはもう盛大に。
「なんだこりゃあ……」
俺はそこへ呆然と近づいて、側で号泣しているまりさの帽子をきょくんと引っ張った。
「やい」
「ま゛り゛っ!?」
「何してんだおまえ。嫁さん潰してどうする」
「どぼじでまりざのぜいになるの゛ぉぉぉ!? だいずぎなおよべざんだよぉぉぉ!?」
あれ、違うのか。ゆっくりのことだから、てっきり何かアホみたいな理由でケンカして殺しちゃったのかと思った。
「ゆにゅ……」「どうちたの?」「ゆゆ、おかーしゃんは?」
壁際の段ボール箱から、ぽろぽろと赤ゆたちが這い出してきたので、俺とまりさははっと顔を見合わせた。
「やばい、寝かせろ、まりさ」
「ゆ、ゆっ! ゆっくりりかいしたよ! おちびちゃんたち、ゆっくりねんねしようね!」
まりさが子供を寝かしつけている隙に、俺はちりとりでれいむをすくいあげ、流しへ持っていった。
負傷の具合を調べていると、まりさは本棚にてんてんてんっと駆け上って、ふわぁとキッチンまで飛んできた。
ぼむっ、と着地して流しを覗き込む。
「れいむは? れいむはゆっくりなおるの?」
「どうなんだ、これは……言いたくないが、目玉も舌も全部破裂しちゃってるぞ。
一応手当てはしてやるが」
俺は花びら型にまんべんなく裂けたれいむの皮を寄せ集め、わざわざマンションの一階まで降りて、自販機でファンタオレンジを購入、四階の自室へ戻ってかけてやった。
しゅわしゅわしゅわ……と泡が餡子に染みていく。
だが、いつまでたってもれいむが動き出す様子はなかった。
一時間ほど眺めても回復の様子がなかったので、俺は厳粛に宣言した。
「だめだ、まりさ。れいむは死んでしまった」
「……ゆがーん!!!」
まあファンタだったからなあ。ポンジュースだったらなんとかなったかもしれんが……。
「ゆあああああ、れいぶぅうう……」
滂沱の涙を流しながら、まりさはれいむの死骸に寄り添い、何度もすりすりを繰り返していた。
俺はその側で尋ねた。
「で、こいつなんであんなところで潰れてたんだよ」
「ゆぐっ、ゆぐっ……分かんないよ、まりさはゆっくり寝てたよ。れいむは自分で上にのぼったんだよ……」
「自分で? 何しにいったんだ? れいむは飛べやしないのに」
「まりちゃ、ちってるよ!」
その声に振り向くと、居間との敷居にピンポン玉大の影が一つ。
「まりさ……」
一番下の赤まりさだった。
「ゆっくちみせちぇね! おかーしゃんをみせちぇね!」
そう言ってぴょんぴょんはねるので、仕方なく流しへ連れてきてやると、「ゆぶっ……!」と泣き出しそうになったが、真っ赤な顔をしてこらえた。
「……まりちゃ、さっき目がちゃめたんだよ。
そしたら、おかーしゃんが出ていくちょこだったよ。
どこいくにょ? ってまりちゃはゆっくりきいたよ。
そちたらおかーしゃんは、『れんしゅうしてちょーちょさんになるよ!』って言ってたよ」
「ああ……」
「ゆああ……」
俺とまりさは同時に声を上げた。
「あそこから練習しようとしたのか……」
言われてた。確かにそんなことまりさに言われてたわ。こいつ。
れいむのリボンはちょーちょさんみたいだって。
上に登れるのは大人だけだって。
「盛大に勘違いしたようだな、れいむ……」
「ゆああああ、まりさがあんなこと言ったばっかりにいぃぃ……」
えぐえぐと泣きじゃくる親まりさの横で、幼い子まりさが母の死骸にすりすりして、決然と言った。
「ゆぐっ、ゆぐっ、しゃよならおかーしゃん。まりちゃはきっとおかーさんの代わりにファーをちゅるよ」
そういう赤まりさの金髪は、ちゃんと左右三つ編みになって、帽子のつばに爪楊枝でクリップされている。
どうやったのか知らんが、ほっといたら母れいむがやってのけたのだ。
「おかーしゃん、ゆん国でゆっくちみていてねっ☆!」
おっ?
今なんか……確かに飛んだな。
そうか、こいつには遺伝したんだ。
めしゃっ、という音がした。
そのままうつらうつらしていると、突然凄まじい悲鳴が響いた。
「ゆぎゃあああああああああ!!! れいぶうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!?」
「火事くふぁ!?」
俺は泡食って飛び起き、うろうろ辺りを見回してから電気をつけた。
すると――。
咲いていた。
れいむが本棚の前で。
あんこをめっしょりと撒き散らして。それはもう盛大に。
「なんだこりゃあ……」
俺はそこへ呆然と近づいて、側で号泣しているまりさの帽子をきょくんと引っ張った。
「やい」
「ま゛り゛っ!?」
「何してんだおまえ。嫁さん潰してどうする」
「どぼじでまりざのぜいになるの゛ぉぉぉ!? だいずぎなおよべざんだよぉぉぉ!?」
あれ、違うのか。ゆっくりのことだから、てっきり何かアホみたいな理由でケンカして殺しちゃったのかと思った。
「ゆにゅ……」「どうちたの?」「ゆゆ、おかーしゃんは?」
壁際の段ボール箱から、ぽろぽろと赤ゆたちが這い出してきたので、俺とまりさははっと顔を見合わせた。
「やばい、寝かせろ、まりさ」
「ゆ、ゆっ! ゆっくりりかいしたよ! おちびちゃんたち、ゆっくりねんねしようね!」
まりさが子供を寝かしつけている隙に、俺はちりとりでれいむをすくいあげ、流しへ持っていった。
負傷の具合を調べていると、まりさは本棚にてんてんてんっと駆け上って、ふわぁとキッチンまで飛んできた。
ぼむっ、と着地して流しを覗き込む。
「れいむは? れいむはゆっくりなおるの?」
「どうなんだ、これは……言いたくないが、目玉も舌も全部破裂しちゃってるぞ。
一応手当てはしてやるが」
俺は花びら型にまんべんなく裂けたれいむの皮を寄せ集め、わざわざマンションの一階まで降りて、自販機でファンタオレンジを購入、四階の自室へ戻ってかけてやった。
しゅわしゅわしゅわ……と泡が餡子に染みていく。
だが、いつまでたってもれいむが動き出す様子はなかった。
一時間ほど眺めても回復の様子がなかったので、俺は厳粛に宣言した。
「だめだ、まりさ。れいむは死んでしまった」
「……ゆがーん!!!」
まあファンタだったからなあ。ポンジュースだったらなんとかなったかもしれんが……。
「ゆあああああ、れいぶぅうう……」
滂沱の涙を流しながら、まりさはれいむの死骸に寄り添い、何度もすりすりを繰り返していた。
俺はその側で尋ねた。
「で、こいつなんであんなところで潰れてたんだよ」
「ゆぐっ、ゆぐっ……分かんないよ、まりさはゆっくり寝てたよ。れいむは自分で上にのぼったんだよ……」
「自分で? 何しにいったんだ? れいむは飛べやしないのに」
「まりちゃ、ちってるよ!」
その声に振り向くと、居間との敷居にピンポン玉大の影が一つ。
「まりさ……」
一番下の赤まりさだった。
「ゆっくちみせちぇね! おかーしゃんをみせちぇね!」
そう言ってぴょんぴょんはねるので、仕方なく流しへ連れてきてやると、「ゆぶっ……!」と泣き出しそうになったが、真っ赤な顔をしてこらえた。
「……まりちゃ、さっき目がちゃめたんだよ。
そしたら、おかーしゃんが出ていくちょこだったよ。
どこいくにょ? ってまりちゃはゆっくりきいたよ。
そちたらおかーしゃんは、『れんしゅうしてちょーちょさんになるよ!』って言ってたよ」
「ああ……」
「ゆああ……」
俺とまりさは同時に声を上げた。
「あそこから練習しようとしたのか……」
言われてた。確かにそんなことまりさに言われてたわ。こいつ。
れいむのリボンはちょーちょさんみたいだって。
上に登れるのは大人だけだって。
「盛大に勘違いしたようだな、れいむ……」
「ゆああああ、まりさがあんなこと言ったばっかりにいぃぃ……」
えぐえぐと泣きじゃくる親まりさの横で、幼い子まりさが母の死骸にすりすりして、決然と言った。
「ゆぐっ、ゆぐっ、しゃよならおかーしゃん。まりちゃはきっとおかーさんの代わりにファーをちゅるよ」
そういう赤まりさの金髪は、ちゃんと左右三つ編みになって、帽子のつばに爪楊枝でクリップされている。
どうやったのか知らんが、ほっといたら母れいむがやってのけたのだ。
「おかーしゃん、ゆん国でゆっくちみていてねっ☆!」
おっ?
今なんか……確かに飛んだな。
そうか、こいつには遺伝したんだ。
それから赤まりさたちは、俺がひそかに作ってやったティッシュ箱階段を用いて、日夜ファーの練習をするようになった。
「ゆっくりしていってね!!!」ぴょんっ
「ゆっくりしていってね!!!」ぴょんっ
昼間はジャンプと飛行練習。夜は父まりさの講義だ。
「ゆんゆん、ゆっくり聞いてね! ぱらまりさは、おぼうしさんでお空をファーできる、すごくゆっくりしたゆっくりだよ! おおいなる、しんのぱらまりさになったものは……」
俺はその講義を聞き流しながら床に就くのが日課になった。
母れいむが亡くなったばっかりなのに、頑張りすぎじゃないか、と思うこともあった。
しかし――
「みんな、ゆっくりファーをしようね!
ゆん国のおかあさんの分までがんばろうね!」
「ゆっくち!」「ゆっくりー!」
……連中にとって、これが悲しみを忘れるための行いなのだと気づき、好きにさせてやることにした。
赤まりさは子まりさになり、少しずつ上達した。
ティッシュ箱三個分、四個分、五個分――椅子一個分、椅子とティッシュ一個分、それから机の高さ。
子まりさは若まりさになり、いったん重くなった。
しかし父まりさの変形を見よう見まねで学び、滑空するようになった。
父まりさが通ったのと同じ道だった。
三体の若まりさはどいつもかなり飛行がうまかったが、中でも末っ子は一歩長じているようだった。同じような饅頭なのに、不思議なこともあるもんだ。
時が流れ、日々が過ぎた。やがて、若まりさたちはいつは父まりさが結婚した時と同じほど大きくなった。
大人になったのだ。
だから俺は、三体が一緒にやってきて改まった口調で言った時、すでに内容を予想していた。
「おとーさん、あのね、あのね……」
若まりさたちにとっては、俺も「おとーさん」だ。
三匹揃って赤くなってうつむいてもじもじしてウザかったので、一発ずつパチパチパチンとでこぴんしてやると、ようやく決心したみたいにまりさズは叫んだ。
「「「まりさ、ゆっくりおそとへ行ってみたいよ!!!」」」
「ゆっくり!?」
いや、びっくり。
俺のほうが驚いた。
そう来たか……。
「いやちょっと待て、おまえら外がどんなところか知ってるのか?」
「ゆん! おそとはいろんな生き物がいる、ひろいひろい世界だよ! まどさんから見えてるよ!」
確かに見えている。マンションの裏は工場跡の広い空き地で、その向こうは森だ。
しかし……。
「そのとおりだが、敵もいっぱいいるぞ。食べ物も手に入るとは限らん。ここにいればおまえら四人ぐらいは養ってやるが」
だってパン屋でもらってくるパンの耳だもん。食費タダだ。
三体の若まりさズは顔を真っ赤にして叫んだ。
「それでもまりさはお外へ出たいよ!」
「ひろいおそらをゆっくりとんでみたいよ!」
「おかーさんのかわりにファーをしたいよ!」
「おいぱらまりさ、おまえはどうするんだ。こいつら行かせるのか」
水を向けると、父まりさは少し影の薄い感じで微笑んだ。
「ゆん、行きたいって言うんだから行かせてあげたいよ。まりさはここが気に入ってるけど……」
「だそうだ。親父はこないが、それでも行くのか」
「ゆっくりおそとへいくよ!」
三体はうなずいた。そこまで決心が強いのなら仕方ない。
「ようし……それならまず、特訓をせねばならんな」
「とっくん!? それはゆっくりできるもの?」
「特訓の成果が出ればゆっくりできる」
「ゆっくり! ゆっくり! ゆっくり!」
「騒ぐな。しかしだな、成果が出なければおまえらは死ぬ」
「ゆぐうううぅぅぅ!?」
「当たり前だろう、敵のいる下界で生きていく術なんだぞ。身につけなければ死ぬしかない」
「ゆ……ゆゆっ。まりさたち、がんばるよ!」
「そうか。それではレッスンワン――」
少し考えてみたものの、どう見ても問題になりそうなのはこれだった。
実に面倒だったが、俺はため息を付いて立ち上がった。
「待ってろ。バッタを獲って来てやる」
「ゆっくりしていってね!!!」ぴょんっ
「ゆっくりしていってね!!!」ぴょんっ
昼間はジャンプと飛行練習。夜は父まりさの講義だ。
「ゆんゆん、ゆっくり聞いてね! ぱらまりさは、おぼうしさんでお空をファーできる、すごくゆっくりしたゆっくりだよ! おおいなる、しんのぱらまりさになったものは……」
俺はその講義を聞き流しながら床に就くのが日課になった。
母れいむが亡くなったばっかりなのに、頑張りすぎじゃないか、と思うこともあった。
しかし――
「みんな、ゆっくりファーをしようね!
ゆん国のおかあさんの分までがんばろうね!」
「ゆっくち!」「ゆっくりー!」
……連中にとって、これが悲しみを忘れるための行いなのだと気づき、好きにさせてやることにした。
赤まりさは子まりさになり、少しずつ上達した。
ティッシュ箱三個分、四個分、五個分――椅子一個分、椅子とティッシュ一個分、それから机の高さ。
子まりさは若まりさになり、いったん重くなった。
しかし父まりさの変形を見よう見まねで学び、滑空するようになった。
父まりさが通ったのと同じ道だった。
三体の若まりさはどいつもかなり飛行がうまかったが、中でも末っ子は一歩長じているようだった。同じような饅頭なのに、不思議なこともあるもんだ。
時が流れ、日々が過ぎた。やがて、若まりさたちはいつは父まりさが結婚した時と同じほど大きくなった。
大人になったのだ。
だから俺は、三体が一緒にやってきて改まった口調で言った時、すでに内容を予想していた。
「おとーさん、あのね、あのね……」
若まりさたちにとっては、俺も「おとーさん」だ。
三匹揃って赤くなってうつむいてもじもじしてウザかったので、一発ずつパチパチパチンとでこぴんしてやると、ようやく決心したみたいにまりさズは叫んだ。
「「「まりさ、ゆっくりおそとへ行ってみたいよ!!!」」」
「ゆっくり!?」
いや、びっくり。
俺のほうが驚いた。
そう来たか……。
「いやちょっと待て、おまえら外がどんなところか知ってるのか?」
「ゆん! おそとはいろんな生き物がいる、ひろいひろい世界だよ! まどさんから見えてるよ!」
確かに見えている。マンションの裏は工場跡の広い空き地で、その向こうは森だ。
しかし……。
「そのとおりだが、敵もいっぱいいるぞ。食べ物も手に入るとは限らん。ここにいればおまえら四人ぐらいは養ってやるが」
だってパン屋でもらってくるパンの耳だもん。食費タダだ。
三体の若まりさズは顔を真っ赤にして叫んだ。
「それでもまりさはお外へ出たいよ!」
「ひろいおそらをゆっくりとんでみたいよ!」
「おかーさんのかわりにファーをしたいよ!」
「おいぱらまりさ、おまえはどうするんだ。こいつら行かせるのか」
水を向けると、父まりさは少し影の薄い感じで微笑んだ。
「ゆん、行きたいって言うんだから行かせてあげたいよ。まりさはここが気に入ってるけど……」
「だそうだ。親父はこないが、それでも行くのか」
「ゆっくりおそとへいくよ!」
三体はうなずいた。そこまで決心が強いのなら仕方ない。
「ようし……それならまず、特訓をせねばならんな」
「とっくん!? それはゆっくりできるもの?」
「特訓の成果が出ればゆっくりできる」
「ゆっくり! ゆっくり! ゆっくり!」
「騒ぐな。しかしだな、成果が出なければおまえらは死ぬ」
「ゆぐうううぅぅぅ!?」
「当たり前だろう、敵のいる下界で生きていく術なんだぞ。身につけなければ死ぬしかない」
「ゆ……ゆゆっ。まりさたち、がんばるよ!」
「そうか。それではレッスンワン――」
少し考えてみたものの、どう見ても問題になりそうなのはこれだった。
実に面倒だったが、俺はため息を付いて立ち上がった。
「待ってろ。バッタを獲って来てやる」
俺は若まりさたちにバッタを食わせ、花を食わせ、草を食わせて外の食物に慣らした。
若まりさたちは苦いの固いのと文句を言い、けっこうてこずった。
「むーしゃ、むーしゃ……あんまりー」
パンの耳しかやっていなかったのに、意外と口が奢るもんだ。
まあ、パンの耳はあれでけっこううまいからな……。
しかしそれを言うなら、虫だってそう捨てたもんじゃない。それを食っている人間だっている。
一週間ほど根気よく仕込み続けたら、だんだんと喜ぶようになってきた。
「むーしゃ、むーしゃ、なかなかー☆」
これは単純っつうより、普通に舌が慣れたんだろうな。
まあ、虫と一緒に風呂場に放り込んで、食うまで出さないという苦行もしてやったが。
とにかくまりさたちは自信をつけ、いよいよ巣立ちの日を迎えた。
その日、ベランダの手すりに一列に並んだ三体のまりさは、きらきらと目を輝かせて言った。
「それじゃあおとーさん、おとーさん、ゆっくりいってくるね!!!」
「ゆっ、ゆっくりしていってね!」
親まりさが嬉しそうに、少し寂しそうに言う。
挨拶が済むと、若まりさたちは外を向いて、いっせいに飛び立った!
「ゆっくりしていってね! ぴょーん!」
「ゆっくりしていってね! ぴょーん!」
「ゆっくりしていってね! ぴょーん!」
ぱっ、と膨らんだ帽子を、マンションに当たったビル風が巻き上げる。
あっというまにまりさたちは宙を滑るようにして、空き地のほうへ降りていった。
ちょっとしたピザぐらいある黒帽子が三つ、だんだん小さくなっていき、やがてぱふんと草むらに消えた。
「ゆっくりしていってね……!」
子供たちの門出を見送る親まりさの顔には、晴れ晴れとした誇りとともに、うらやましげな色もあるような気がした。
「おまえも行きたくなったか?」
「ゆっ? そ、そうだね、どうしようかな……」
急にそわそわし出したまりさを、俺は笑って見つめた。
もしこいつが旅に出たがるようなら、仕方ない、それがぱらまりさの性分なのだろう。
若まりさたちは苦いの固いのと文句を言い、けっこうてこずった。
「むーしゃ、むーしゃ……あんまりー」
パンの耳しかやっていなかったのに、意外と口が奢るもんだ。
まあ、パンの耳はあれでけっこううまいからな……。
しかしそれを言うなら、虫だってそう捨てたもんじゃない。それを食っている人間だっている。
一週間ほど根気よく仕込み続けたら、だんだんと喜ぶようになってきた。
「むーしゃ、むーしゃ、なかなかー☆」
これは単純っつうより、普通に舌が慣れたんだろうな。
まあ、虫と一緒に風呂場に放り込んで、食うまで出さないという苦行もしてやったが。
とにかくまりさたちは自信をつけ、いよいよ巣立ちの日を迎えた。
その日、ベランダの手すりに一列に並んだ三体のまりさは、きらきらと目を輝かせて言った。
「それじゃあおとーさん、おとーさん、ゆっくりいってくるね!!!」
「ゆっ、ゆっくりしていってね!」
親まりさが嬉しそうに、少し寂しそうに言う。
挨拶が済むと、若まりさたちは外を向いて、いっせいに飛び立った!
「ゆっくりしていってね! ぴょーん!」
「ゆっくりしていってね! ぴょーん!」
「ゆっくりしていってね! ぴょーん!」
ぱっ、と膨らんだ帽子を、マンションに当たったビル風が巻き上げる。
あっというまにまりさたちは宙を滑るようにして、空き地のほうへ降りていった。
ちょっとしたピザぐらいある黒帽子が三つ、だんだん小さくなっていき、やがてぱふんと草むらに消えた。
「ゆっくりしていってね……!」
子供たちの門出を見送る親まりさの顔には、晴れ晴れとした誇りとともに、うらやましげな色もあるような気がした。
「おまえも行きたくなったか?」
「ゆっ? そ、そうだね、どうしようかな……」
急にそわそわし出したまりさを、俺は笑って見つめた。
もしこいつが旅に出たがるようなら、仕方ない、それがぱらまりさの性分なのだろう。
期待は五日でぶち壊れた。
雨の日、どんどんと玄関が叩かれた。ドアを開けると、泥まみれになった黒帽子が一着、べちゃりと入ってきた。
あ。
見た途端に気づいた。
雨対策のこと、まったく教えてなかったわ。
いやあしまったなーわははははは。
って笑ってる場合じゃねえ。俺は若まりさを手のひらですくって、目を合わせようとした。うむ、これは長女まりさだ。
「おい、大丈夫か?」
「ゆ゛っ……ゆ゛っ……ゆ゛っ……」
ギャワー、これはダメなのじゃよ。
不気味に開ききった目の中の瞳孔が変に崩れ、ほっぺがぬるぬるに溶けて、あご下がずる剥けになってしまっとる。
濡れたアスファルトを這いずって、非常階段を登ってきたようだ。
「ゆっくりどうしたの!? ――ゆぎゃあああああ!!」
見に来た父まりさは一発で気絶した。俺は若まりさに質問を試みる。
「よく戻って来られたな。他のふたりは?」
「来 ら れ な が っ だ よ゛……」
クランケをICUに運び気道に挿管、人工呼吸を行いつつ除細動を試みた――というのは嘘で小麦粉はたいて乾かしてやっただけだが、とにかくそれなりの手当てをした。
が、若まりさの傷は深く、長くは持たないようだった。
「おい、一体何があったんだ。雨だけじゃここまでやられまい。遺言にそれだけでも話せ」
「ま゛っ、まりざばゆっぐりがんばっだんだよ。だけど……」
死の床で長女まりさが語ったことは、こうだった。
森に入った三頭は、最初はゆっくりした生活を送れそうだった。
帽子の大きな飼いまりさという、完璧に近い美ゆっくりを見て、森の野生ゆっくりたちがこぞって集まってきたからだ。
彼女らの好意で群れに入れてもらい、暮らし始めた。
しかしすぐに難局にぶち当たった。
まず、まりさは獲ったエサを、他のまりさのように帽子に入れて運べなかった。
帽子を脱げないのだから当たり前だ。
水の上も渡れなかったし、「おぼうし取替えっこ」の遊びも出来なかった。
野生のゆっくりに比べて著しく能力が劣る、ということが明らかになって、みんなに幻滅されてしまった。
それでも、まりさたちは必死に自分の能力をわかってもらおうとした。
ファーができるんだよ。とべるんだよ!
だが、空を飛ぶためには段差が必要で、そのための適当な段差が森の中にはなかなかなかった。
あったとしても登れなかった。森の中にはティッシュの箱や階段などない。
そして登れる場所があったとしても、本当に飛ばなければならないとき、たとえば敵に追われたときには、都合よくそこへいけるとは限らなかった。
そうではなくてエサ運びに飛ぼうと思っても、自然界では、都合よく高台にばかりエサがあるわけがなかった。
近所でエサを取ってそこまで登るのは、それ自体が重労働だった。
要するにまりさの飛行能力は、厳しいフィールドでは物の役に立たないことが判明してしまったのだ。
「ゆっくりきいてね! ゆっくりきいてね!」
まりさは懸命に飛行の素晴らしさを訴えたが、耳を貸してくれる仲間はほとんどいなかった。
そんなこんなで打ちのめされているうちに、野良猫に襲われた。
必死になって逃げているうちに、三体ばらばらになってしまい、天性の勘に恵まれた長女だけが、帰ってこられたのだ。
「……ほぉー、そいつは苦労したなあ」
他人事のように返しつつ、実は俺もがっかりしていた。
手塩にかけて育てたまりさだ。自然界でもそれなりのサバイバビリティを発揮してくれるだろうと思っていた。
それが、こんな無残な失敗に終わるとは……。
こりゃあ、売り物にしなくて正解だったかもしれん。
「それで、残りふたりも絶望的なんだな?」
「ゆ゛っ……ゆ゛っ……ひとりは、潰されちゃったよ……っ」
もう一人も、この雨では絶望的だろう。
「ゆ゛っ……おどーざん、おどーざんっ……」
今わの際に、俺が三つ編みをハサミで切り離してやると、まりさは崩れた目をぎょろりと動かして、言い遺した。
「もっとゆっぐり、したかっ……」
どろ、とまりさは崩れた。
足に何かが当たった。振り返ると、親まりさだった。
ぽふ、ぽふ、と繰り返し顔を当ててくる。泣いているらしい。
「ゆぐうう、ゆぐうううう」
「気の毒したな」
「どぼじでこんなごどにいぃぃ……」
「おまえが飛行を伝授したばっかりになあ」
「ゆぐっ! まりざ、みんながゆっぐりしだぱらまりさになるとおもっだんだよぉ……」
ぱらまりさはそれからいつまでも、ゆぐっゆぐっとしゃくりあげていた。
あ。
見た途端に気づいた。
雨対策のこと、まったく教えてなかったわ。
いやあしまったなーわははははは。
って笑ってる場合じゃねえ。俺は若まりさを手のひらですくって、目を合わせようとした。うむ、これは長女まりさだ。
「おい、大丈夫か?」
「ゆ゛っ……ゆ゛っ……ゆ゛っ……」
ギャワー、これはダメなのじゃよ。
不気味に開ききった目の中の瞳孔が変に崩れ、ほっぺがぬるぬるに溶けて、あご下がずる剥けになってしまっとる。
濡れたアスファルトを這いずって、非常階段を登ってきたようだ。
「ゆっくりどうしたの!? ――ゆぎゃあああああ!!」
見に来た父まりさは一発で気絶した。俺は若まりさに質問を試みる。
「よく戻って来られたな。他のふたりは?」
「来 ら れ な が っ だ よ゛……」
クランケをICUに運び気道に挿管、人工呼吸を行いつつ除細動を試みた――というのは嘘で小麦粉はたいて乾かしてやっただけだが、とにかくそれなりの手当てをした。
が、若まりさの傷は深く、長くは持たないようだった。
「おい、一体何があったんだ。雨だけじゃここまでやられまい。遺言にそれだけでも話せ」
「ま゛っ、まりざばゆっぐりがんばっだんだよ。だけど……」
死の床で長女まりさが語ったことは、こうだった。
森に入った三頭は、最初はゆっくりした生活を送れそうだった。
帽子の大きな飼いまりさという、完璧に近い美ゆっくりを見て、森の野生ゆっくりたちがこぞって集まってきたからだ。
彼女らの好意で群れに入れてもらい、暮らし始めた。
しかしすぐに難局にぶち当たった。
まず、まりさは獲ったエサを、他のまりさのように帽子に入れて運べなかった。
帽子を脱げないのだから当たり前だ。
水の上も渡れなかったし、「おぼうし取替えっこ」の遊びも出来なかった。
野生のゆっくりに比べて著しく能力が劣る、ということが明らかになって、みんなに幻滅されてしまった。
それでも、まりさたちは必死に自分の能力をわかってもらおうとした。
ファーができるんだよ。とべるんだよ!
だが、空を飛ぶためには段差が必要で、そのための適当な段差が森の中にはなかなかなかった。
あったとしても登れなかった。森の中にはティッシュの箱や階段などない。
そして登れる場所があったとしても、本当に飛ばなければならないとき、たとえば敵に追われたときには、都合よくそこへいけるとは限らなかった。
そうではなくてエサ運びに飛ぼうと思っても、自然界では、都合よく高台にばかりエサがあるわけがなかった。
近所でエサを取ってそこまで登るのは、それ自体が重労働だった。
要するにまりさの飛行能力は、厳しいフィールドでは物の役に立たないことが判明してしまったのだ。
「ゆっくりきいてね! ゆっくりきいてね!」
まりさは懸命に飛行の素晴らしさを訴えたが、耳を貸してくれる仲間はほとんどいなかった。
そんなこんなで打ちのめされているうちに、野良猫に襲われた。
必死になって逃げているうちに、三体ばらばらになってしまい、天性の勘に恵まれた長女だけが、帰ってこられたのだ。
「……ほぉー、そいつは苦労したなあ」
他人事のように返しつつ、実は俺もがっかりしていた。
手塩にかけて育てたまりさだ。自然界でもそれなりのサバイバビリティを発揮してくれるだろうと思っていた。
それが、こんな無残な失敗に終わるとは……。
こりゃあ、売り物にしなくて正解だったかもしれん。
「それで、残りふたりも絶望的なんだな?」
「ゆ゛っ……ゆ゛っ……ひとりは、潰されちゃったよ……っ」
もう一人も、この雨では絶望的だろう。
「ゆ゛っ……おどーざん、おどーざんっ……」
今わの際に、俺が三つ編みをハサミで切り離してやると、まりさは崩れた目をぎょろりと動かして、言い遺した。
「もっとゆっぐり、したかっ……」
どろ、とまりさは崩れた。
足に何かが当たった。振り返ると、親まりさだった。
ぽふ、ぽふ、と繰り返し顔を当ててくる。泣いているらしい。
「ゆぐうう、ゆぐうううう」
「気の毒したな」
「どぼじでこんなごどにいぃぃ……」
「おまえが飛行を伝授したばっかりになあ」
「ゆぐっ! まりざ、みんながゆっぐりしだぱらまりさになるとおもっだんだよぉ……」
ぱらまりさはそれからいつまでも、ゆぐっゆぐっとしゃくりあげていた。
それきり、ぱらまりさは飛ばなくなった。
飛行のせいで妻を失い、子を失ったぱらまりさは、やけになったように餌を食い漁った。
その結果ぼてぼてと太ってしまい、もはや飛ぶことはかなわなくなった。
飛ばなくなったまりさの帽子は、徐々に縮んで、やがて顔の幅の倍程度にまでなった。
てっぺんの穴も、いつの間にかふさがってしまった。
飛ぶのを止めたぱらまりさは、ただのゆっくりになってしまったのだ。
それに気づいた俺はまりさの三つ編みを切り、帽子を外せるようにしてやった。
それからのまりさは、ごく普通の太ったゆっくりとして、日がな一日ベランダでごろごろして暮らすようになった。
そしてまた、一年が過ぎた。
飛行のせいで妻を失い、子を失ったぱらまりさは、やけになったように餌を食い漁った。
その結果ぼてぼてと太ってしまい、もはや飛ぶことはかなわなくなった。
飛ばなくなったまりさの帽子は、徐々に縮んで、やがて顔の幅の倍程度にまでなった。
てっぺんの穴も、いつの間にかふさがってしまった。
飛ぶのを止めたぱらまりさは、ただのゆっくりになってしまったのだ。
それに気づいた俺はまりさの三つ編みを切り、帽子を外せるようにしてやった。
それからのまりさは、ごく普通の太ったゆっくりとして、日がな一日ベランダでごろごろして暮らすようになった。
そしてまた、一年が過ぎた。
「ゆ゛っ……ゆ゛っ……ゆ゛っ……」
俺のぱらまりさ、いや、元ぱらまりさである普通まりさが、ひび割れるほど乾燥しきり、ベランダでぷるぷると痙攣している。
怪我や病気ではない。寿命だ。
ゆっくりは思い込みと気力で生きる。
生き甲斐をすべてなくしてから一年、よく生きたほうだろう。
「ゆ゛っ……おどー……ざんっ……」
「おう、なんだ」
「ゆっくり……じでいっでね……」
「もちろんだ。人間はおまえらよりずっと長くゆっくりするのだ」
「まりざは……ね……」
「おう」
「ほんとは……とびだがっだ……よ……」
てっきり枯れ果てたと思っていたまりさの目に、不意にぶわっと涙が浮いた。
「おぢびぢゃんだちど……れいぶたちど……おそらをゆっくりとびたがったよ……。
とべなくで、ほんどにざんねんだったよ……」
「そうか」
「もっど……ゆっぐり……とびたかっ……」
すっ、と。
まりさの涙が涸れた。
死んだのだった。生命力を使い果たして。そこには一個の、うすらでかい大福が残った。
「ふー……」
俺は手すりにもたれ、空を見上げた。
思えば気の毒なことをした。たかが饅頭に、分を超えた夢を与えてしまった。
何も教えなければ、愚かなままに幸せに生きられただろうに。
「……ま、どうせ饅頭だしな」
俺は短い物思いから覚め、死骸を捨てようとまりさに目を落とした。
そして、見た。
俺のぱらまりさ、いや、元ぱらまりさである普通まりさが、ひび割れるほど乾燥しきり、ベランダでぷるぷると痙攣している。
怪我や病気ではない。寿命だ。
ゆっくりは思い込みと気力で生きる。
生き甲斐をすべてなくしてから一年、よく生きたほうだろう。
「ゆ゛っ……おどー……ざんっ……」
「おう、なんだ」
「ゆっくり……じでいっでね……」
「もちろんだ。人間はおまえらよりずっと長くゆっくりするのだ」
「まりざは……ね……」
「おう」
「ほんとは……とびだがっだ……よ……」
てっきり枯れ果てたと思っていたまりさの目に、不意にぶわっと涙が浮いた。
「おぢびぢゃんだちど……れいぶたちど……おそらをゆっくりとびたがったよ……。
とべなくで、ほんどにざんねんだったよ……」
「そうか」
「もっど……ゆっぐり……とびたかっ……」
すっ、と。
まりさの涙が涸れた。
死んだのだった。生命力を使い果たして。そこには一個の、うすらでかい大福が残った。
「ふー……」
俺は手すりにもたれ、空を見上げた。
思えば気の毒なことをした。たかが饅頭に、分を超えた夢を与えてしまった。
何も教えなければ、愚かなままに幸せに生きられただろうに。
「……ま、どうせ饅頭だしな」
俺は短い物思いから覚め、死骸を捨てようとまりさに目を落とした。
そして、見た。
「ゆっくりしていってね!!!」
乾いて崩れた饅頭の上に、小さくみずみずしい、新しいまりさが乗っているのを。
「……お?」
「ゆっくり! ゆっくりしていってね!!!」
「どっから来た、おまえ」
しきりに叫ぶまりさを、俺はつまみあげた。
まりさは臆せず、扁平な体をぷるんぷるん振って訴える。
「ゆっくりしていってね! ゆっくりまっていてね! おとーさん!」
「おおお?」
薄くて広く、揚力形状になった帽子。
その帽子に青々とした松葉で固定された三つ編み。
そしていかにも風に乗りやすそうな扁平な胴体。
「ぱらまりさ……」
「ゆっくり! まりさは、ぱらまりさだよ☆☆!」
ぱあっと飛び散る小さなその星。
もう明らかだった。それは、あの若まりさの末っ子の子孫に違いなかった。
「おまえ……とーちゃん、生きてたのか」
「ゆっ? おとーさんはとってもゆっくりしているよ!
ファーが好きなおかーさんととんでいるんだよ!」
「結婚できたのか……」
俺はそのまりさから話を聞いた。
末っ子ぱらまりさは、野良猫に食われもせずに生き延びて、別のまりさに助けられた。
そして、風を捕まえて飛ぶという大発明をして、暮らしの中にうまくファーを取り入れたのだ。
ファーの改良を進めるかたわら、助けてくれたまりさとまりさ同士で結婚して、子供も大勢作った。
今では子供たちにファーを教え、さらに近隣の家族にまで広めているという。
「のふぇー……」
俺は間抜けな声を漏らした。いやあ、意外なことってあるもんだ。
しかし本当に意外なのはこの後だった。
「それでおまえ、俺のところへ帰って来たわけか。偉大なるファー発明者のおとーさんに」
「ゆゆん、ちがうよ! まりさはあいさつによっただけだよ! これから旅にでるんだよ!」
こほん、と気取った咳をすると、まりさは得意げに言ってのけた。
「おおいなるしんのぱらまりさになったものは、誰よりもゆっくりできる、でんせつのらくへんへ飛ぶことができるんだよ!」
「おまえ、それ……」
「ゆっへん! まりさのおとーさんがゆっくりおしえてくれたんだよ! だからまりさたちは、ゆっくりゆっくりらくえんをめざすよ!」
そう言うと、まりさは俺の手のひらから、ぴょんと手すりに飛び移った。
呆然とする俺に向かって、ひらひらと帽子のつばを振る。
「それじゃあまりさは、らくえんをめざすね! おとーさんはゆっくりまっていてね!」
「お、おい、おまえ――」
「ゆっくりしていってね!!!」
ぴょんと飛んだまりさは、ぶわっと帽子を開き、強風に乗って上昇する。
その勢いは素晴らしいものだった。一年前に見た三体とはまるで別の生き物だ。
体の重さが存在しないかのように、ぐんぐん高く上っていく。
「おーーーい…… げっ」
高く高く上がるまりさを目で追っていた俺は、口をぽかんと開けた。
「「「ゆっくりしていってねーーー!!!」」」
青空に点々と、無数の白黒の姿が浮かんで、風に吹かれて東へ東へと向かっているのだった。
「……お?」
「ゆっくり! ゆっくりしていってね!!!」
「どっから来た、おまえ」
しきりに叫ぶまりさを、俺はつまみあげた。
まりさは臆せず、扁平な体をぷるんぷるん振って訴える。
「ゆっくりしていってね! ゆっくりまっていてね! おとーさん!」
「おおお?」
薄くて広く、揚力形状になった帽子。
その帽子に青々とした松葉で固定された三つ編み。
そしていかにも風に乗りやすそうな扁平な胴体。
「ぱらまりさ……」
「ゆっくり! まりさは、ぱらまりさだよ☆☆!」
ぱあっと飛び散る小さなその星。
もう明らかだった。それは、あの若まりさの末っ子の子孫に違いなかった。
「おまえ……とーちゃん、生きてたのか」
「ゆっ? おとーさんはとってもゆっくりしているよ!
ファーが好きなおかーさんととんでいるんだよ!」
「結婚できたのか……」
俺はそのまりさから話を聞いた。
末っ子ぱらまりさは、野良猫に食われもせずに生き延びて、別のまりさに助けられた。
そして、風を捕まえて飛ぶという大発明をして、暮らしの中にうまくファーを取り入れたのだ。
ファーの改良を進めるかたわら、助けてくれたまりさとまりさ同士で結婚して、子供も大勢作った。
今では子供たちにファーを教え、さらに近隣の家族にまで広めているという。
「のふぇー……」
俺は間抜けな声を漏らした。いやあ、意外なことってあるもんだ。
しかし本当に意外なのはこの後だった。
「それでおまえ、俺のところへ帰って来たわけか。偉大なるファー発明者のおとーさんに」
「ゆゆん、ちがうよ! まりさはあいさつによっただけだよ! これから旅にでるんだよ!」
こほん、と気取った咳をすると、まりさは得意げに言ってのけた。
「おおいなるしんのぱらまりさになったものは、誰よりもゆっくりできる、でんせつのらくへんへ飛ぶことができるんだよ!」
「おまえ、それ……」
「ゆっへん! まりさのおとーさんがゆっくりおしえてくれたんだよ! だからまりさたちは、ゆっくりゆっくりらくえんをめざすよ!」
そう言うと、まりさは俺の手のひらから、ぴょんと手すりに飛び移った。
呆然とする俺に向かって、ひらひらと帽子のつばを振る。
「それじゃあまりさは、らくえんをめざすね! おとーさんはゆっくりまっていてね!」
「お、おい、おまえ――」
「ゆっくりしていってね!!!」
ぴょんと飛んだまりさは、ぶわっと帽子を開き、強風に乗って上昇する。
その勢いは素晴らしいものだった。一年前に見た三体とはまるで別の生き物だ。
体の重さが存在しないかのように、ぐんぐん高く上っていく。
「おーーーい…… げっ」
高く高く上がるまりさを目で追っていた俺は、口をぽかんと開けた。
「「「ゆっくりしていってねーーー!!!」」」
青空に点々と、無数の白黒の姿が浮かんで、風に吹かれて東へ東へと向かっているのだった。
これがぱらまりさ誕生の経緯だ。
今では東回り航空路の名物になっているほどのぱらまりさたちも、最初はほんとに、こんなアホみたいな理由で生まれたのだ。
あれ以来、毎年この季節になると、日本全土で成長したぱらまりさたちが、伝説の楽園を目指して空へ舞い上がり、東へ東へと向かっているのはご存知の通りだ。
迷惑かもしれん。というかすごい迷惑だろうな。すまん。ごめん。許せ。事故だ。
でも俺は、思うのだ。
今はまだ、まりさたちは、黒潮流域を餡子で真っ黒に染めるだけで終わっている。
しかしいつの日か、父と母の夢をかなえ――
海の向こうの見知らぬ土地へたどり着く日が、必ず来るだろう、と。
今では東回り航空路の名物になっているほどのぱらまりさたちも、最初はほんとに、こんなアホみたいな理由で生まれたのだ。
あれ以来、毎年この季節になると、日本全土で成長したぱらまりさたちが、伝説の楽園を目指して空へ舞い上がり、東へ東へと向かっているのはご存知の通りだ。
迷惑かもしれん。というかすごい迷惑だろうな。すまん。ごめん。許せ。事故だ。
でも俺は、思うのだ。
今はまだ、まりさたちは、黒潮流域を餡子で真っ黒に染めるだけで終わっている。
しかしいつの日か、父と母の夢をかなえ――
海の向こうの見知らぬ土地へたどり着く日が、必ず来るだろう、と。
そこが楽園かどうかまでは知らんがね。
(おしまい)
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挿絵:儚いあき
挿絵:セールスあき