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anko2444 ワンス・アポンナ・タイム・イン・ニジウラシティ(中編)
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『ワンス・アポンナ・タイム・イン・ニジウラシティ(中編) 』 30KB
観察 戦闘 野良ゆ 都会 D.O コンポストまりさ秘話
『ワンス・アポンナ・タイム・イン・ニジウラシティ(中編)』
D.O
さらに数カ月が経った。
あの3匹は、まりさの想いが天に通じたのか、全員無事に立派なおとなに成長していた。
「おとーさん!そのおちびちゃんはあとでもだいじょうぶよ!このちぇんのほうが、じゅうしょうだわ!」
「わ、わかったのぜ!ちぇん、傷口を見せるのぜ!」
「わ、わぎゃらないよぉぉ・・・」
「今お薬を塗ってやるのぜ。しみるけど我慢なのぜ。」
ビルとビルの間の細い隙間に並べられた数個の木箱、あのまりさファミリーのおうちの周囲には、
今日も野良ゆっくりの行列ができていた。
そのゆっくり達の用がある先は、まりさ・・・ではなく、
まりさ達のおうちに併設された、『えーりんしんりょうじょ』である。
えーりんが常駐する『しんりょうじょ』には、
今日も怪我したり、病気にかかったゆっくり達が次々に押し寄せていた。
「ゆっぴゃぁああん!ありしゅのぺにぺにしゃんがぁぁああ!」
「ゆぅぇ。完全にちぎれちゃってるのぜぇ・・・」
「ふむふむ。まだだいじょうぶよ。えーりんにまかせて。」
「えーりんせんしぇー、ゆっくちありがちょー。」
大きく成長したえーりんは、今やまりさファミリーの枠を越え、
このあたりに住む野良ゆっくり達にとって、いなくてはならない存在になっていた。
それは、えーりん種が生まれつき備えている特殊技能、医療技術のためである。
「えーりんせんしぇー!」
「えーりんせんせー!」
「えーりん!えーりん!」
少ない謝礼で多くのゆっくりの命を救うえーりん。
その存在感は、少なくとも表社会においてはまりさより遥かに大きい。
この『しんりょうじょ』の中においては、まりさもえーりん先生の助手にすぎないのであった。
「ふぇぇ。今日も大忙しなのぜぇ。」
「うふふ。おとーさん、おつかれさま。」
「それにしてもこのお薬、大したモンなのぜ。」
「ふふ。のみたいときは、いつでもいってね。できたてのをよういするから。」
「ゆへぇ。効くのはわかってるけど、あんまりお世話になりたくはないのぜ。」
『えーりんの薬』
その主成分はアロエペーストである。
それは、ゆっくりに対してほぼ万能の薬でもあった。
ゆっくりの病気と言えば人間に比べて種類は少なく、下痢や便秘、風邪、カビ、あとは飢餓くらいだ。
食糧不足が原因の飢餓ばかりは、えーりんにもどうしようもない。
しかし、あとのほとんどに、えーりんのアロエ薬は効果がある。
飲み薬として服用すれば、風邪やお通じの病気はすぐ治るし、
塗り薬として使えば、アロエはカビにも効果を発揮する。
ゆっくり最悪の伝染病であるゆかび病(要するにカビ)は、
体の表面どころか体内の餡子にまでカビが広がり死に至る、致死率100%の恐ろしい病だが、
えーりんの薬は、ゆっくり世界において唯一、このゆかび病まで完治させることが出来る薬なのである。
もちろん、抗菌・抗炎症効果もあるので、ちょっとした外傷ならば、
えーりんの餡子を塗って葉っぱなどで包帯をしておけば治ってしまう。
『えーりんしんりょうじょ』が、繁盛するのも当然であった。
・・・ちなみにこの薬、えーりんのうんうんである。
正確には、えーりんの体内にある餡子、それ全てが薬なのだが、
そんなことはまりさ他、野良ゆっくり達の知るところではない。
えーりん自身が『うんうん=薬』という以上、それは真実なのであった。
ただ、自分のうんうんが怪我ゆっくり達に塗られるたびに、
病気ゆっくり達が、自分のうんうんをむしゃむしゃと食べるたびに、
頬を紅潮させて満足そうな表情をするえーりんに、まりさは多少不安をおぼえていたのだったが・・・
「まあ、まりさのおちびちゃんだし、まりさそっくりのいい子だから問題ないのぜ!・・・たぶん。」
「うふふ。うふふふふ・・・」
「(ま、まりさは、そっち方面は苦手なのぜ・・・)」
えーりんは、姉妹の中ではまりさに一番似ていた。性的趣向以外。
それにしても、えーりん診療所は実際問題として、利用価値の高い存在であった。
なにせ『まりさファミリー』は文字通りの家族経営なわけで、現在のところ10匹にも満たない。
少数精鋭と言えば聞こえはいいものの、周囲のファミリーと正面衝突など、リスクが高すぎた。
しかしえーりん診療所のような日のあたる商売をしていれば、ゲス達も容易に近づけはしないわけである。
なんだかんだ言っても、街野良の大多数はゲスとは無縁な一般ゆっくりなので、
ゲス達としても、事を荒立てて面白いことは何もない。
こうして、このえーりん診療所の影響範囲自体がそのまま、
『まりさファミリー』のナワバリになるのであった。
で、そのナワバリをうまく利用して商売をしているのが、えーりんと同じくまりさに育てられた、
あのぱちゅりーである。
「むきゅん!みんな、ぱちぇの『かじの』でむっきゅりたのしんでいってね!」
「ゆぅぅぅうう!きょうこそは、いままでのまけを、とりもどすわぁああ!」
「うっさっさぁ。きょうはてゐに、どんなごはんをくれるうさ?」
「とかいはなありすが、まけっぱなしなはずないでしょぉおお!てゐ!かくごしなさい!」
えーりん診療所からさらにビルの隙間を奥に入ったところにある、小さな広場。
そこに積み上げられた木箱やベニヤ板の下に広がる空間では、数十匹の野良ゆっくり達が、
所狭しと集まって賭博に熱中していた。
『ぱちゅりーカジノ』は今日も満員御礼のようである。
まあ、賭博といっても野良ゆっくりのやることである。
そんなに難しいルールのものは扱えない。
ここで行われているゲームは、ぱちゅりーが自分で考案した変則チンチロであった。
2匹のゆっくりが、地面に埋められたお茶碗や汁椀を挟んで座り、
そのお椀に向かって一匹づつ交互にサイコロを放り込むのである。
サイコロは動物の骨などを削って作ったぱちゅりーのお手製。
その6面には1~3の数字が2面づつ描かれており、
せいぜい3までしか数えられないゆっくりでも大小の判別は可能なように作られていた。
あとは一回づつ振って、数字の大きい方が勝ち、というわかりやすいゲームである。
参加条件は、場所代としてぱちゅりーに食料を少々。
賭けるのもまた、貴重な食料が中心であった。
「さいころさん!とかいはな3をだしてね!むほぉっ!」
カランカランッ・・・
「2・・・2ね。あまりとかいはじゃないわ・・・」
「じゃあ、つぎはてゐがいくうさ~。」
カランカランッ・・・
「3うさぁ。」
「うびゃぁぁぁああああ!!ありす、ま、また、まげぢゃっだぁぁあああああ!!」
「じゃあ、このおべんとうさんはいただきうさね~。」
「ゆひぃ、ゆぁぁぁ・・・おぢびぢゃん、ごべんなざいぃぃぃ・・・」
客層の中心は、狩りの成果である貴重な食料を賭けごとに使えるような、中流ゆっくり以上・・・
ではなく、その日の食いぶちにすら困る下流ゆっくり達だったりする。
そういうゆっくりに限って一発逆転を狙い、プロのギャンブラー達のカモにされるのであった。
弱者は、最後の一滴まで搾り尽くされる運命にあるのだ。
・・・だが、この時はぱちゅりーが動いた。
「むきゅぅ。てゐ、ちょっといいかしら。」
「う、うさ?」
「むきゅ。ちょっとそのさいころさん、みせてもらえる?」
「うさ!?」
うろたえるてゐを横目に、ぱちゅりーは先ほどてゐが放ったサイコロを舌でつまみあげ、
ジロジロと突き刺すような視線でサイコロの6面を確認し、はっきりと言った。
「てゐ。さいころさんを、すりかえたわね。」
「う、うさぁあ?」
その言葉に一番激しい反応を示したのは、先ほど廃棄弁当を奪い取られた駄ありすだった。
「い、いい、いなかものぉぉおおお!!てゐ!どういうことぉぉおおお!?」
「し、しらないうさぁぁああ!」
「むきゅぅ。ありすも、このさいころさんをみなさい。」
ぱちゅりーは今にも暴れ始めそうなありすを制し、サイコロをありすの目の前に差し出した。
「・・・・・・?なにかしら?」
「むきゅぅ。ありすにはわからない?このさいころさん、ぜんぶのめんが『3』なのよ。」
「むほっ!?」
それが、てゐがぱちゅりーサイコロに似せて作ったイカサマサイコロの正体だった。
6面全てが3のサイコロなら、このチンチロのルールにおいて敗北は絶対に無い。
あとは、自分の番が来るたびにそのサイコロと、ぱちゅりーサイコロをすり替えればいいのである。
サイコロの仕組みを完璧に理解する、ぱちゅりーだからこそ気づけた巧妙なイカサマであった。
「う、うさ・・・し、しらないうさぁっ!」
「むきゅー。ぱちぇの『かじの』でいかさまをするなんて、ゆるすわけにはいかないわね。」
「うさぁぁああ!てゐは、にげきってみせるうさぁぁああ!!」
ぴょんぴょんぴょんぴょんっ!!
ぱちゅりーから逃げきろうと全力で走るてゐ。
だが、ぱちゅりーは大して慌てた様子も無く、先ほどのイカサマサイコロを口にふくむ。
そして、
ごふっ!!
しゅんっ・・・めりっ!
「うさぁぁああああ!!」
どさっ。
咳と同時にぱちゅりーの口から飛び出したサイコロは、数メートル先のてゐのあにゃるを、正確に貫いた。
「むきゅう。いかさまは、ぺなるてぃーをしはらってもらうわね。」
「うさ・・・ごべんうさぁ・・・」
「むきゅきゅ。あやまらなくていいわ。きっちりとりたてるだけだから。」
「うさぁぁぁ・・・」
ぱちゅりーは、このカジノ(というか賭場と呼ぶ方がしっくりくるが)
を運営するために必要な、2つの力を手に入れていた。
まりさ、には及ばないまでも、野良としては良く働く知力と、
そしてイカサマゆっくりを制裁出来るだけの暴力である。
『狙撃』・・・それは、体力に劣るぱちゅりー種としてのハンデを補うために習得した苦肉の策であった。
それを可能にしたのはたゆまぬ鍛錬と、幼い頃に重い喘息を患ったことで、呼吸の扱いに十分慣れていたため。
ただ、この特技を使いすぎたため、将来さらに喘息を悪化させてしまうのだが、それは先の話である。
「うさぁ・・・たすけてうさ。」
「むきゅん。とりあえず、てゐがもってきたごはんは、ぜんぶぼっしゅうね。」
「うさ・・・」
「むきゅぅーん、でもぜんぜんたりないし・・・おちびちゃんはいるかしら?」
「う、うさ?」
「てゐのおうちと、ほぞんしょくと、おちびちゃんと・・・
あと、ていのあんこさんもいただくわね。はんぶんくらい。」
「う、うう、うさぁぁあああああ!?」
「むきゅきゅきゅきゅ・・・。」
賭場を運営するということは、場所代だけでなく、負け分やイカサマのペナルティー等を、
支払い能力の劣るゆっくり達からも確実にとりたてる能力が必要なのであった。
さて。
実のところぱちゅりーを含め、まりさファミリーの中で生ゴミを主食にするような者はいない。
セレブ(笑)なまりさ達は、新鮮でみずみずしいご飯しか受け付けないのだ。
なので賭場にやってくるようなゆっくりが支払う食料というのは、まりさ達の口に入る事は無い。
では、先ほどてゐから取り立てたような生ゴミ・保存食の雑草等・赤ゆや餡子はどうなるかだが・・・
「さあ、きょうもまりさ市場の時間なのぜ!
こまちもてんこも、れみりゃもゆゆこも、みんなたっくさん取引してくれなのぜ!」
ここでついに、まりさとふらんの出番となる。
『まりさ市場』・・・まりさファミリーが様々な取引で集めた品物を、
まりさ達が欲しい品物と物々交換するための取引所であった。
「うあー!おはなさんもってきたー!あまあま3こちょうだーい!」
「れみりゃのお花さんは、いつも美味しそうなのぜ!じゃあ、このてゐのおちびちゃん達を持っていくのぜ!」
「「「ゆっぴゃぁぁああん!れみりゃはゆっくちできにゃいうさぁぁああ!!」」」
「うー!」
取引相手は、まりさの用意する品々の内容から、捕食種も多い。
そもそもまりさが欲しいものは、新鮮な草花や虫、おうち用の建材等なので、
空が飛べたりして行動半径の広い捕食種達こそが上客なのである。
一方、れみりゃ達からしても、自分達の姿が見えるや隠れてしまうゆっくりより、
河川敷や公園に生えてる野草の方が集めやすいに決まっていた。
「こー、こぼねー。」
「ゆわー、角砂糖さんなのぜー!今さっき取れたばかりの、てゐの餡子と交換でいいのぜ?」
「こぼねー!」
「ゆゆこも、これからもよろしくなのぜ!」
仲介はふらん。まりさが襲われたり、脅される心配は無い。
こうして対等の関係で話してみると、捕食種達は案外性格が単純で付き合いやすい。
向こうも、まりさだけは特別な相手だという認識になってきたようで、
最近では街中で出会っても、笑顔で挨拶してくれるようになっていた。
そして、捕食種達では無い、もう一つの主要な客層もいた。
「ま、まりさぁ・・・」
「ゆぇ?何なのぜ。汚いれいむなのぜ。」
「た、たんぽぽさん・・・ごはんとこうかんしてくだざい・・・たくさんでいいよぉ。」
「ゆっくち・・・むーちゃむーちゃ、しちゃいよ・・・」
それが、わずかな草花等を持って現れる、極貧ゆっくり達(つまり平均的な野良)である。
「ゆぅー、ちょっと枯れちゃってるけど・・・ほら、これと交換なのぜ。」
「ゆ、ゆわぁぁ!こんなにたくさんでいいの!」
「別にいいのぜ。気が変わらないうちに持っていくのぜ。」
「おちびちゃぁぁあん!きょうはごちそうだよぉおお!」
「ゆわーい!まりしゃおねーしゃん、ありがちょー!」
で、少量の草花や虫等を、多量の生ゴミと交換するのだ。
生ゴミは生ゴミで、欲しがるゆっくりはたくさんいるのである。
まりさ達のように、贅沢を言っている野良などほとんどいないのだから。
ちなみに、
「わかるよー。おちびちゃんとごはんを、こうかんしてねー。」
「「「わきゃらにゃいよぉぉぉ!?おきゃーしゃん、すてにゃいでぇぇ!」」」
「えーと、2、3、4・・・じゃあ、これだけ持っていっていいのぜ。」
「わかるよー!」
「「「ゆんやぁぁぁああ!!」」」
自分のおちびちゃんを生ゴミと交換しに来るゆっくりも割と多かった。
もちろん大っぴらにやれる事ではなかったが。
こうしてまりさは、えーりんの親としての名声を隠れ蓑に、
裏の商売を通じて自分の存在感を伸ばし、『まりさファミリー』無しでは、
周辺地域のゆっくりの生活が成り立たないように、環境を少しづつ整備していったのである。
やってることの悪質さを考えれば意外かもしれないが、
まりさはゲス善良・捕食種希少種問わず、野良ゆっくり達全体から敬意を集め始めていた。
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「みょほほほほ。やってるみょんねぇ。」
だが、そんなまりさファミリーとて、何でも好き勝手やれるわけでは無かった。
ナワバリの外は他のファミリーがいるので当然だが、たとえナワバリの内側であったとしてもである。
「だ、団長さんなのぜ!?こ、こんな所まで来るなんて、何かあったのぜ?」
「みょほほ・・・みょんが来たら、迷惑みょん?」
「そ、そんなことありませんのぜぇぇ!」
その障壁の代表となるのが、この団長みょんを筆頭とする『みょん自警団』、通称みょん警であった。
団長みょんは、数匹の手下みょん達を引き連れ、まりさファミリーのおうちの奥へと、
我が家かのようにズカズカ侵入していった。
まりさは、それを止める事も出来ない。
「みょふ~ん・・・ふむふむ、まりさは悪い事してないみょんかねぇ?」
「め、めっそうも無いですのぜ!」
「みょふふふ。」
団長みょんは、見た目だけならばダブダブに肥えた3段腹の上に、
ニタニタと気色の悪い笑顔を貼りつけた、目を疑いたくなるような不愉快極まるみょんである。
まりさと団長みょん、どちらを群れの長にしたいかと聞かれれば、満場一致でまりさだろう。
だが、団長みょんはその風貌からすれば意外な事だが、文武両道のチートスペックゆっくりなのである。
さすがに捕食種のふらんを圧倒した、『あのれいむ』ほどではないのだが、
まりさ程度のゆっくりなら武器を持って3匹掛かりで襲いかかっても、まず相手にならない。
そして、それ以上に重要なのは、団長みょんが『みょん警』の団長であるという事実であった。
『みょん警』ことみょん自警団は、
町内ゆっくり達の提案によって組織された、野良社会に置ける警察組織だ。
訓練されたみょん達によって構成され、主にゲスやレイパーの取り締まりと排除を目的としている。
野良社会にも存在する『おきて』に従って社会の秩序を守る存在であり、
一般野良にとっては頼れる存在であった。
ある意味では『みょん警』と『ゲスマフィア』は近い役割を持っていると言っていい。
ただ、みょん種が一般的に融通が利かない性格なのと、彼女達は彼女達で生活があること、
それに、所詮ゆっくりである以上、捜査などは苦手で現行犯逮捕が中心になるため、
どうしても『みょん警』の活動には限界があった。
そこら辺の融通がききやすいのは、なんと言っても『ゲスマフィア』の方なのだが、
こちらはこちらで、動いてもらうと法外な謝礼を要求されるし、その制裁方法がまた尋常な残酷さではない。
取り締まってほしい相手をミンチ饅頭にしたいのでなければ、余りお近づきにはなりたくない相手である。
結果どちらも一長一短というわけで、上手く社会を動かしていくには両方必要というわけであった。
「みょほほほほ。こっちの檻にいるおちびちゃん達は、一体何みょんかねぇ。」
「「「みょんおにぇーしゃん!たしゅけちぇぇぇえええ!!」」」
「ゆ、ゆへぇ!?」
そして団長みょんは、『まりさ市場』の裏に隠してある、販売用赤ゆっくりの檻を見つけ、
まりさに向かってより一層気色悪い笑顔を向ける。
一応まりさも隠しているはずなのだが、この辺はさすが団長であった。
「ゆへぇ!そ、そんなものより団長!このあまあまをどうぞなのぜ!」
「みょほぉ。ふむぅ。・・・なるほど、このおちびちゃん達は、まりさが世話してあげてるみょんね。」
「そ、そう言うことですのぜ!!」
「ちがうよぉぉおお!れいみゅたち、れみりゃにたべられちゃうよぉぉぉおお!」
「ゆふふ、このおちびちゃんは、誤解してるだけなのぜぇ。」
「みょほぉ。そう言うことにしといてやるみょん。じゃあ、また来るみょん。」
「で、ではまたお会いしましょうなのぜ~(二度と来るななのぜぇ。)」
まあ、当然ながら、まりさのやっている事は『おきて』云々以前の酷い内容なので、
団長みょんをはじめとする『みょん警』の幹部達にワイロを贈って、お目こぼししてもらっていたのであった。
叩けばホコリが出まくるまりさの、つらいところである。
先ほど『みょん警』と『ゲスマフィア』の役割は似ていると言ったが、
その立場は『みょん警』の方がはるかに上であるのが実態なのである。
なんと言っても『みょん警』は、野良公式の、正義の味方なのだ。
みょん警の敵に認定されれば、野良社会全体が敵になると言っていい。
野良全体からみれば、ゲスなどほんの一部に過ぎない。
みょん警の圧倒的な権力の背景には、
必要に応じて一般の野良ゆっくり達(捕食種は除く)全体からサポートが得られるという事実があった。
それに、まりさの商売も客商売である。
安全な場所、公正な賭けの取り締まり、納得できる取引内容だからこそ、客が集まる。
みょん警の敵になどなってしまったら、商売あがったりだった。
まりさとしては、みょん警はぜひとも味方にしておきたい存在であった。
と、その時、帰りかけていた団長みょんが立ち止まり、
後ろで舌を出してあっかんべーしていたまりさの方を振り向くと、
そのしぐさを気にした様子も無く話しかけた。
「ああ、そうそう、まりさ。」
「は、ひ、ひゃい、なのぜ!?」
「ウチで預かってるまりさのおちびちゃんのことだけど・・・」
「ゆ?」
「あれじゃ、入団は難しいみょん。ま、あんまり期待しない方がいいみょんね。みょほほほほ・・・」
「そ、そうなのぜ・・・まあ、よろしくお願いしますのぜぇ。」
その言葉を聞き、まりさの表情は一層曇ったのだった。
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まりさに育てられ大きく成長した、あの唇を削り取られたみょんは、
今『みょん警』に仮所属している。
みょんは現在見習い団員として、みょん警に数十存在する支部の内の一つで訓練に参加しているが、
その様子はあまり上手くいっている風では無かった。
「みょっ!みょっ!」
ひゅん!ひゅん!
「ちがうみょぉおおん!そんなけんのふりかたじゃ、おちびちゃんもたおせやしないみょん!」
「みょぅぅ・・・」
剣術の訓練中、先輩みょんからの罵声を浴びるみょん。
だが、それで上達するものならば、この数週間の間にもう少し身についてよいはずだった。
みょんは、まりさに恥をかかすまいと、訓練に誰より熱心に取り組んでいるのだから。
「みょっ!みょっ!」
ひゅん!ひゅん!
「ちがうみょん!こうだみょん!」
ぶんっ!ぶんっ!
「みょぅ・・・」
「・・・やっぱり、そのおくちじゃけんはもてないみょん。あきらめるみょん。」
「・・・・・・。」
みょんがぶつかっている大きな壁は、皮肉にもまりさに拾われた時に削り落された、
唇と前歯によるハンデだった。
みょん種の特技といってよい『剣術』。
それは、口に木の枝などの細い棒をくわえ、敵を殴り、叩き潰し、突き刺すものだ。
だから、棒を素早くくわえなおせるほど、精妙な剣技を扱えることになるし、
棒をしっかりと歯と唇と舌で固定できるほど、威力のある攻撃になる。
当然体格なども重要な要素ではあるのだが、一番重要なのはなんと言っても口である。
みょんは唇を失い、前歯も先端を3割方削り落されている。
だから今は棒に舌を巻きつけて固定しているのだが、
これだと鞭のように振りまわすのには便利でも、威力はまるで期待できなかった。
相手を引っ叩くのがやっとでは、屈強なゲスに返り討ちにされてしまうだろう。
そして剣術は、みょん警に所属するための基本技術だった。
みょんは結局、、入団試験に引っかかることすらできず、まりさの元へ帰されてしまったのであった。
「ごめんみょん・・・」
「ゆぅ?まあ、ムリなもんはしょうがないのぜ。その傷はみょんのせいじゃないのぜ。」
「うー。おとーさんのせい?」
「ふ、ふらん!?違うのぜ!人間さんのせいなのぜぇ!
・・・とにかく、また他の事で役に立ってくれればいいのぜ。」
みょんにとってせめてもの救いは、まりさが全くみょんの失態を気にしていなかったことであったか。
それはそれで傷つく者もいるだろうが、まりさの言葉を字面通りとれば、
次のチャンスをやるから、挽回してみろ、とも取れなくは無い。
みょんは、自分に一体何が出来るか、もう一度考え直すことにしたのであった。
「・・・みょーん。」
そして、うなだれるみょんを見ているまりさの方はと言えば、
「(まあ、いざって時に盾にでもなってくれれば十分なのぜ・・・)」
などと、今でも大変失礼な事を考えていた。
だいたい、拾った時点でもそれほど多くの期待をしていたわけではないのだ。
ぱちゅりーもえーりんも、まりさの期待を大きく越えて才能を示してくれたわけだが、
拾った当初の目的と言えば、まりさがれいむと戦った時のように、
危険にさらされた時にまりさを置いて、さっさと逃げたりしないような仲間を集める事だったのである。
子供たちの方が、まりさから送信された愛情を過剰に受信し、
勝手に努力をしてくれているのだから、わざわざ止める理由もなかったが。
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そしてその頃、みょんがみょん警に入れなかった事とは関係なく、
まりさファミリーが飛躍するための、最後のピースは揃おうとしていた。
「ま、まりしゃをはなしちぇにぇ!まりしゃをおこらしぇると、こうかいしゅるよ!」
「こいつなのぜ?まりさ達のおうちに勝手に入り込んだおちびちゃん、ってのは。」
「ま、まりしゃがどこにいても、まりしゃのかってだよ!はなしちぇにぇ!」
そのうち一匹は、この生意気な子まりさである。
ふらんがおうちの掃除をしていた時に、たまたま食料貯蔵庫の中で発見したおちびちゃんであった。
「勝手も何も、ここはまりさ達のおうちなのぜぇ。怪しいヤツなのぜ。・・・殺すのぜ?」
「ゆ、ゆぴぃぃいいい!ま、まりしゃをころしたりしちゃら、こうかいしゅるよぉぉおお!?」
「「「ゆぅ?」」」
騒ぎの様子を聞きつけたのか、ふらんやえーりんもまりさの尋問部屋に入ってきた。
「お前、一体何者なのぜ?」
「ゆっふっふ、きいておどろいてにぇ!」
「いいからさっさと話すのぜ。」
子まりさは、多くのゆっくり達に注目されている事に満足したらしく、
胸をぐいっと張って、おうち宣言でもするかのように大声でこう言った。
「まりしゃは、てんっさいなんだよ!いまはおやだっていないこどもでも、
いつか、だれにもまけにゃい『びっぐな』むれをつくりゅんだよ!
ゆっくちりかいしたりゃ、みんなまりしゃにひれふしちぇにぇ!」
・・・・・・。
「・・・殺すのぜ?」
「ゆぴぃぃいいいい!?やめちぇにぇ!ゆっくちさせちぇにぇ!」
子まりさは、正真正銘の、単なる孤児ゆっくりだった・・・。
まりさは子まりさに嫌われてしまったので、えーりんが代わりに尋問する。
「それで、わたしたちのおうちで、いったいなにをしてたの?」
「ま、まりしゃはびっぐなむれをつくりゅんだよ!」
「ええ、それはきいたけど。」
「ま、まりしゃがみたなかでは、このふぁみりーがいちばんいいかんじだかりゃ」
「ふむふむ。」
「まりしゃのやぼうのために、『こつ』をぬすもうとおもっちぇ・・・」
「ほうほう。」
「ゆ、ゆぇぇ、たすけちぇぇ。」
「で、おちびちゃんのおかあさんたちは?」
「え、えいえんに、ゆっくちしちゃよ・・・まりしゃがちいしゃいときに・・・。」
要するに、自分も将来大きな群れを作って長になりたい、
そこでまりさファミリーが仲良くまとまってる姿を見つけたので、
秘訣を探りに来た、と言うことらしい。
今より幼い頃に親を失ってから、今まで生き延びている事といい、子ゆっくりにしては大したものであった。
「偉いのぜ!!」
「ゆぴっ!?」
その話を聞いていて、突然まりさが大声を出した。
「偉いのぜ!おちびちゃん!!」
「ゆ、ゆぇ?」
「まりさの偉大さを理解できるなんて、
おちびちゃんは、まりさと同じく、選ばれたゆっくりに違いないのぜぇっ!!」
「しょ、しょうだよ!まりしゃはえらばれたゆっくちにゃんだよ!」
「まりさのところに置いてあげるのぜ!ふらんが世話をしてやるのぜ!」
「うー?・・・いいの?」
「まりさに二言は無いのぜ!!」
こうして、他のゆっくり達が(子まりさも含め)良くわからないうちに、
子まりさはまりさファミリーで初の、そしてこの後を含めて唯一の、
『子ゆっくり以上に成長してから加入した』メンバーとなったのであった。
あまりにも軽々しい行動であったが、まりさは嬉しかったのである。
これまでのまりさのゆん生で、まりさの行動を面と向かって、肯定的に評価してくれたのは、
家族を除けば、この子まりさが唯一だったのであったから。
「ゆ、ゆっひぇっひぇ・・・こんなことしちぇ、
まりしゃにこのふぁみりーの、おさのざをうばわれちぇも、しらにゃいよ!」
「・・・調子に乗るななのぜぇ。」
「ゆんやぁぁあ!?ごめんにゃしゃいぃぃ!」
多少生意気で口が回り過ぎるところはあったが、これまでひとりで生きてきたくらいだから、
そこそこ能力の方も期待できた。
だが、その能力に対する期待をよそに、この後子まりさが大いに役立ったのは、
この生意気で、口が良く回る欠点の方だったのである。
そして、まりさファミリー飛躍のもう一つのピースは、毎夜えーりん診療所を訪問するゆっくりだった。
「みょぉぉおん!え、えーりんのうんうん、とってもおいしいみょぉぉおおん!しあわせぇぇええ!」
「ほーら、おくちをおっきくあけなさい。できたてほやほやよ。」
「みょふぅ、みょふぅううう!か、かおにもかけてみょん!ぶっかけてみょぉぉおおん!」
「ほらほら。がつがつしないで。うふふ。」
この、『えーりんの薬』をえーりんのあにゃるから直にむさぼり食って恍惚の表情を浮かべているのは、
みょん警に数十ある支部の一つを指揮する、支部長みょん。
しかもまだまりさと同年代の、若きエリートである。
まりさファミリーの『あの』みょんの真逆を行く、みょん警の大物だった。
「ほぉら。あにゃるもきれいにしてちょうだい。」
「ぺーろぺーろ・・・ゆぷぅ、え、えーりんのあにゃる、おいしいみょぉん。」
「うふふ。つかれてるから、おくすりがひつようなのよ。」
「そ、そうだみょぉん。みょんは、えーりんのおくすりをのんで、あしたもがんばるみょぉぉん・・・」
えーりんの薬の正体を知るゆっくりは少ない。
支部長みょんがその正体を知ったのは、たまたまおうちの中を覗いてしまっただけ、単なる偶然だった。
そしてそれ以来、支部長みょんはえーりんの元に通い詰めている。
支部長みょん自身は、疲労を含めて万病に効く『えーりんの薬』が、
激務に就く自分には必要である、と言っている。
だが、常識的に考えて、正体がうんうんだとわかっている代物を、嬉々として食べているのは普通では無い。
それに、支部長みょんが薬の実態を知った時覗いた場所も、まりさファミリーのおうちの一番奥にあるおトイレ。
しかも普通のゆっくりならば出歩かないはずの、真夜中にこっそりとである。
はっきり言うと支部長みょんは、色々と変態的な性的趣向の持ち主なのであった。
ただし、有能で周囲の信頼も厚く、さらにえーりんに対しては、
変態的な趣味を除いても、好意を持っているゆっくりでもあった。
「みょーん。えーりん、みょんのおよめさんに・・・」
「うふふ、かんがえておくわね。」
「みょふぅ・・・。しんじてるみょん・・・。」
そして、それを知り、利用しようと考えているゆっくりが一匹。
「ゆふふ。あれは色々役に立ちそうなのぜぇ。」
もちろん、まりさであった。
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まりさファミリーが着々と成長を続けている中、みょんは悩んでいた。
みょん種として生まれていながら、まともに剣を扱えないと言うだけでも、
アイデンティティの半分は失われている。
おまけに姉妹達は揃って優秀で、しかも自分が演じるべきだった場所には、
えーりんにぞっこんの変態エリート・支部長みょんがいる(当然表沙汰にはなっていないが)。
自分には、何が出来るのか・・・
みょんがその日、街中にある、とある寂しい空き地に向かったのは、必然だったのかもしれない。
ひゅんっ!しゅっ!ひゅんっ!
「みょん!?」
そこには、一匹のれいむがいた。
周囲には人間どころか、一匹のゆっくりもいない、廃材がいくらか転がっている、
それ以外には木が一本生えているだけの、小さな空き地に、ただ一匹で。
れいむは、一匹で黙々と、左右のもみあげで掴んだナイフを振り続けている。
そして、そのナイフが一閃するたびに、周囲に生えた草や舞い落ちる葉っぱが真っ二つに切断されていった。
「(す・・・すげぇみょん・・・)」
れいむのような剣術は、みょん警の先輩の誰も使っていなかった。
鋭さでも、しなやかさでも。そして何より、宙を舞う落ち葉を両断するような技は。
そう、このれいむは、かつてまりさに死を覚悟させた、あのれいむであった。
そして、みょんの視線はれいむの姿に釘づけになっていき、
しゅかんっ!!
「(みょ・・・!?)」
そしてれいむが、みょん警が剣として使っているような、細い木の棒を、
何気ない一振りで両断した光景を見た瞬間、みょんは、れいむの技の本当の恐ろしさに気づき、
雷に打たれたかのような衝撃を受けたのだった。
みょんは、いや、みょんだからこそ気づいたのだ。
まりさを含め、れいむと戦った多くのゆっくり達が、全く気付かなかった、れいむの強さの秘密を。
「あのれいむ・・・すごいみょん・・・」
そもそも、本来ありえない話なのだ。
れいむ種のもみあげ、まりさ種のお下げなどは、人間の腕のように動かせる事は知られているが、
それは『動かせる』というだけで、決して大きな力が出せるわけではない。
れいむ種がもみあげで棒を操ったとしても、本来は威力不足で、
敵のゆっくりを殺傷させる事はできないはずだ。
だから、普通のゆっくりは、『剣』と称する棒を口に咥えて操ろうとする。
唇と歯と舌で、棒をしっかり固定して、
そのまま全体重をかけて敵を叩き潰し、体当たりのように突きを放つために。
だが、れいむはあえて、もみあげで『剣』を操る。
それは、ゆっくりの剣術に本来存在しない技・・・『斬る』という技術を発見したからこそだった。
相手を切断できるなら、口で剣をガッチリ固定する必要は無い。
撫でるような一撃が、そのまま必殺の攻撃なのだから。
2本の剣を使える分もみあげの方が有利だし、力任せの大振りに頼る必要も無いから速度も上がる。
それに、口で咥えているよりもしなやかに、自由自在に技を繰り出せるだろう。
一対一でも圧倒的に強く、それに、多数の敵をひとりで相手することもできるに違いない。
そして、この技術こそが、自身にとって最も必要なものだと、
みょんは気づいたのであった。
みょんはこの日以来、雨の日以外は毎日空き地に向かった。
そして、れいむも同じく、毎日そこで技を磨いていた。
「ゆっ!ゆっ!」
ひゅんっ!ひゅんっ!
「みょっ!みょっ!」
びゅんっ!びゅんっ!
みょんは近所のゴミ捨て場から拾ってきた金属の棒に舌を巻きつけ、
れいむの訓練する姿を物陰からこっそり眺めつつ、必死で技を盗もうとした。
敵を鮮やかに切り裂く、その技を盗むために。
れいむの剣にと似た輝きを持つ棒を使い、
れいむと同じ角度や速度で剣を振ろうと、
舌を鞭のように伸ばして振りまわし、必死に真似し続けた。
そして数週間後。
「どうして、きれないみょん・・・。」
やはり、みょんの剣技は、木の棒を両断するには至らなかった。
みょんの舌の動きは、日に日にれいむのもみあげに近づき、
今日こそはあの日のれいむのように、棒を切断することが出来るに違いないと思ったが、
みょんの目の前には、ポキリと折れた細い木の枝と、
同じくポキリと折れた金属の棒。
「どうしてみょん・・・もう、みょんにはこれしかないのにみょん・・・」
みょんは、くやしくて、諦めきれなくて、いつの間にか涙を流していた。
これまで、弱さを見せたくなくて、まりさの前でも流した事のない涙を。
「それじゃあ、切れないよ。」
「みょっ!?」
そのみょんの背後に、れいむが立っていた。
これまで数週間の間、みょんはれいむに見つからないように、遠くからこっそり眺めていたというのに。
もしょもしょ・・・
「みょ!?・・・みょおん?」
れいむは、何気ないしぐさでみょんの涙に汚れた顔を、
普段はナイフを掴んでいるそのもみあげで拭ってくれた。
「『ゲボォッ』・・・これを使ってみるといいよ。」
そして、みょんの目の前で、喉の奥から長大な剣を吐き出した。
それは、刃渡り30cmほどにもなる、ステンレス製のケーキナイフだった。
みょんの舌にそのケーキナイフが握られた瞬間、みょんの体に、熱いモノが込み上げてきた。
それは、薄く、鋭く、確かな重みを持った、ホンモノの『剣』だった。
「剣が木の枝さんに触れたら、自分の手元に引っ張るようにするといいよ。」
「わ、わかったみょん!」
しゅっ!!すかんっ!
みょんの放った一撃は、簡単に細い木の枝を両断した。
この時、みょんは初めて理解した。
自分が間違っていたのは、技術では無く、武器の選び方だけだったという事を。
れいむは、無表情のまま、みょんに語りかけ続ける。
「この剣は、ゆっくりを切るためのものだから、あまり固いものは切らない方がいいよ。」
「わ、わかりましたみょん!」
「それと、手入れの仕方も教えてあげるから、こっちに来てね。」
「みょ・・・みょ・・?!」
「聞かないの?」
「みょ、みょん!お、おねがいしますみょぉおん!!」
れいむが何を考え、急にみょんに色々教えてくれたのかはわからない。
ただ、れいむはこの時も一切無駄な話はせず、みょんに刃物の使い方と、剣の振り方をいくらか教え、
別れのあいさつもせずに去っていった。
そして、翌日以降れいむが、この空き地に来る事は無かった。
みょんは、ついに最強の武器を手にしたのであった。
観察 戦闘 野良ゆ 都会 D.O コンポストまりさ秘話
『ワンス・アポンナ・タイム・イン・ニジウラシティ(中編)』
D.O
さらに数カ月が経った。
あの3匹は、まりさの想いが天に通じたのか、全員無事に立派なおとなに成長していた。
「おとーさん!そのおちびちゃんはあとでもだいじょうぶよ!このちぇんのほうが、じゅうしょうだわ!」
「わ、わかったのぜ!ちぇん、傷口を見せるのぜ!」
「わ、わぎゃらないよぉぉ・・・」
「今お薬を塗ってやるのぜ。しみるけど我慢なのぜ。」
ビルとビルの間の細い隙間に並べられた数個の木箱、あのまりさファミリーのおうちの周囲には、
今日も野良ゆっくりの行列ができていた。
そのゆっくり達の用がある先は、まりさ・・・ではなく、
まりさ達のおうちに併設された、『えーりんしんりょうじょ』である。
えーりんが常駐する『しんりょうじょ』には、
今日も怪我したり、病気にかかったゆっくり達が次々に押し寄せていた。
「ゆっぴゃぁああん!ありしゅのぺにぺにしゃんがぁぁああ!」
「ゆぅぇ。完全にちぎれちゃってるのぜぇ・・・」
「ふむふむ。まだだいじょうぶよ。えーりんにまかせて。」
「えーりんせんしぇー、ゆっくちありがちょー。」
大きく成長したえーりんは、今やまりさファミリーの枠を越え、
このあたりに住む野良ゆっくり達にとって、いなくてはならない存在になっていた。
それは、えーりん種が生まれつき備えている特殊技能、医療技術のためである。
「えーりんせんしぇー!」
「えーりんせんせー!」
「えーりん!えーりん!」
少ない謝礼で多くのゆっくりの命を救うえーりん。
その存在感は、少なくとも表社会においてはまりさより遥かに大きい。
この『しんりょうじょ』の中においては、まりさもえーりん先生の助手にすぎないのであった。
「ふぇぇ。今日も大忙しなのぜぇ。」
「うふふ。おとーさん、おつかれさま。」
「それにしてもこのお薬、大したモンなのぜ。」
「ふふ。のみたいときは、いつでもいってね。できたてのをよういするから。」
「ゆへぇ。効くのはわかってるけど、あんまりお世話になりたくはないのぜ。」
『えーりんの薬』
その主成分はアロエペーストである。
それは、ゆっくりに対してほぼ万能の薬でもあった。
ゆっくりの病気と言えば人間に比べて種類は少なく、下痢や便秘、風邪、カビ、あとは飢餓くらいだ。
食糧不足が原因の飢餓ばかりは、えーりんにもどうしようもない。
しかし、あとのほとんどに、えーりんのアロエ薬は効果がある。
飲み薬として服用すれば、風邪やお通じの病気はすぐ治るし、
塗り薬として使えば、アロエはカビにも効果を発揮する。
ゆっくり最悪の伝染病であるゆかび病(要するにカビ)は、
体の表面どころか体内の餡子にまでカビが広がり死に至る、致死率100%の恐ろしい病だが、
えーりんの薬は、ゆっくり世界において唯一、このゆかび病まで完治させることが出来る薬なのである。
もちろん、抗菌・抗炎症効果もあるので、ちょっとした外傷ならば、
えーりんの餡子を塗って葉っぱなどで包帯をしておけば治ってしまう。
『えーりんしんりょうじょ』が、繁盛するのも当然であった。
・・・ちなみにこの薬、えーりんのうんうんである。
正確には、えーりんの体内にある餡子、それ全てが薬なのだが、
そんなことはまりさ他、野良ゆっくり達の知るところではない。
えーりん自身が『うんうん=薬』という以上、それは真実なのであった。
ただ、自分のうんうんが怪我ゆっくり達に塗られるたびに、
病気ゆっくり達が、自分のうんうんをむしゃむしゃと食べるたびに、
頬を紅潮させて満足そうな表情をするえーりんに、まりさは多少不安をおぼえていたのだったが・・・
「まあ、まりさのおちびちゃんだし、まりさそっくりのいい子だから問題ないのぜ!・・・たぶん。」
「うふふ。うふふふふ・・・」
「(ま、まりさは、そっち方面は苦手なのぜ・・・)」
えーりんは、姉妹の中ではまりさに一番似ていた。性的趣向以外。
それにしても、えーりん診療所は実際問題として、利用価値の高い存在であった。
なにせ『まりさファミリー』は文字通りの家族経営なわけで、現在のところ10匹にも満たない。
少数精鋭と言えば聞こえはいいものの、周囲のファミリーと正面衝突など、リスクが高すぎた。
しかしえーりん診療所のような日のあたる商売をしていれば、ゲス達も容易に近づけはしないわけである。
なんだかんだ言っても、街野良の大多数はゲスとは無縁な一般ゆっくりなので、
ゲス達としても、事を荒立てて面白いことは何もない。
こうして、このえーりん診療所の影響範囲自体がそのまま、
『まりさファミリー』のナワバリになるのであった。
で、そのナワバリをうまく利用して商売をしているのが、えーりんと同じくまりさに育てられた、
あのぱちゅりーである。
「むきゅん!みんな、ぱちぇの『かじの』でむっきゅりたのしんでいってね!」
「ゆぅぅぅうう!きょうこそは、いままでのまけを、とりもどすわぁああ!」
「うっさっさぁ。きょうはてゐに、どんなごはんをくれるうさ?」
「とかいはなありすが、まけっぱなしなはずないでしょぉおお!てゐ!かくごしなさい!」
えーりん診療所からさらにビルの隙間を奥に入ったところにある、小さな広場。
そこに積み上げられた木箱やベニヤ板の下に広がる空間では、数十匹の野良ゆっくり達が、
所狭しと集まって賭博に熱中していた。
『ぱちゅりーカジノ』は今日も満員御礼のようである。
まあ、賭博といっても野良ゆっくりのやることである。
そんなに難しいルールのものは扱えない。
ここで行われているゲームは、ぱちゅりーが自分で考案した変則チンチロであった。
2匹のゆっくりが、地面に埋められたお茶碗や汁椀を挟んで座り、
そのお椀に向かって一匹づつ交互にサイコロを放り込むのである。
サイコロは動物の骨などを削って作ったぱちゅりーのお手製。
その6面には1~3の数字が2面づつ描かれており、
せいぜい3までしか数えられないゆっくりでも大小の判別は可能なように作られていた。
あとは一回づつ振って、数字の大きい方が勝ち、というわかりやすいゲームである。
参加条件は、場所代としてぱちゅりーに食料を少々。
賭けるのもまた、貴重な食料が中心であった。
「さいころさん!とかいはな3をだしてね!むほぉっ!」
カランカランッ・・・
「2・・・2ね。あまりとかいはじゃないわ・・・」
「じゃあ、つぎはてゐがいくうさ~。」
カランカランッ・・・
「3うさぁ。」
「うびゃぁぁぁああああ!!ありす、ま、また、まげぢゃっだぁぁあああああ!!」
「じゃあ、このおべんとうさんはいただきうさね~。」
「ゆひぃ、ゆぁぁぁ・・・おぢびぢゃん、ごべんなざいぃぃぃ・・・」
客層の中心は、狩りの成果である貴重な食料を賭けごとに使えるような、中流ゆっくり以上・・・
ではなく、その日の食いぶちにすら困る下流ゆっくり達だったりする。
そういうゆっくりに限って一発逆転を狙い、プロのギャンブラー達のカモにされるのであった。
弱者は、最後の一滴まで搾り尽くされる運命にあるのだ。
・・・だが、この時はぱちゅりーが動いた。
「むきゅぅ。てゐ、ちょっといいかしら。」
「う、うさ?」
「むきゅ。ちょっとそのさいころさん、みせてもらえる?」
「うさ!?」
うろたえるてゐを横目に、ぱちゅりーは先ほどてゐが放ったサイコロを舌でつまみあげ、
ジロジロと突き刺すような視線でサイコロの6面を確認し、はっきりと言った。
「てゐ。さいころさんを、すりかえたわね。」
「う、うさぁあ?」
その言葉に一番激しい反応を示したのは、先ほど廃棄弁当を奪い取られた駄ありすだった。
「い、いい、いなかものぉぉおおお!!てゐ!どういうことぉぉおおお!?」
「し、しらないうさぁぁああ!」
「むきゅぅ。ありすも、このさいころさんをみなさい。」
ぱちゅりーは今にも暴れ始めそうなありすを制し、サイコロをありすの目の前に差し出した。
「・・・・・・?なにかしら?」
「むきゅぅ。ありすにはわからない?このさいころさん、ぜんぶのめんが『3』なのよ。」
「むほっ!?」
それが、てゐがぱちゅりーサイコロに似せて作ったイカサマサイコロの正体だった。
6面全てが3のサイコロなら、このチンチロのルールにおいて敗北は絶対に無い。
あとは、自分の番が来るたびにそのサイコロと、ぱちゅりーサイコロをすり替えればいいのである。
サイコロの仕組みを完璧に理解する、ぱちゅりーだからこそ気づけた巧妙なイカサマであった。
「う、うさ・・・し、しらないうさぁっ!」
「むきゅー。ぱちぇの『かじの』でいかさまをするなんて、ゆるすわけにはいかないわね。」
「うさぁぁああ!てゐは、にげきってみせるうさぁぁああ!!」
ぴょんぴょんぴょんぴょんっ!!
ぱちゅりーから逃げきろうと全力で走るてゐ。
だが、ぱちゅりーは大して慌てた様子も無く、先ほどのイカサマサイコロを口にふくむ。
そして、
ごふっ!!
しゅんっ・・・めりっ!
「うさぁぁああああ!!」
どさっ。
咳と同時にぱちゅりーの口から飛び出したサイコロは、数メートル先のてゐのあにゃるを、正確に貫いた。
「むきゅう。いかさまは、ぺなるてぃーをしはらってもらうわね。」
「うさ・・・ごべんうさぁ・・・」
「むきゅきゅ。あやまらなくていいわ。きっちりとりたてるだけだから。」
「うさぁぁぁ・・・」
ぱちゅりーは、このカジノ(というか賭場と呼ぶ方がしっくりくるが)
を運営するために必要な、2つの力を手に入れていた。
まりさ、には及ばないまでも、野良としては良く働く知力と、
そしてイカサマゆっくりを制裁出来るだけの暴力である。
『狙撃』・・・それは、体力に劣るぱちゅりー種としてのハンデを補うために習得した苦肉の策であった。
それを可能にしたのはたゆまぬ鍛錬と、幼い頃に重い喘息を患ったことで、呼吸の扱いに十分慣れていたため。
ただ、この特技を使いすぎたため、将来さらに喘息を悪化させてしまうのだが、それは先の話である。
「うさぁ・・・たすけてうさ。」
「むきゅん。とりあえず、てゐがもってきたごはんは、ぜんぶぼっしゅうね。」
「うさ・・・」
「むきゅぅーん、でもぜんぜんたりないし・・・おちびちゃんはいるかしら?」
「う、うさ?」
「てゐのおうちと、ほぞんしょくと、おちびちゃんと・・・
あと、ていのあんこさんもいただくわね。はんぶんくらい。」
「う、うう、うさぁぁあああああ!?」
「むきゅきゅきゅきゅ・・・。」
賭場を運営するということは、場所代だけでなく、負け分やイカサマのペナルティー等を、
支払い能力の劣るゆっくり達からも確実にとりたてる能力が必要なのであった。
さて。
実のところぱちゅりーを含め、まりさファミリーの中で生ゴミを主食にするような者はいない。
セレブ(笑)なまりさ達は、新鮮でみずみずしいご飯しか受け付けないのだ。
なので賭場にやってくるようなゆっくりが支払う食料というのは、まりさ達の口に入る事は無い。
では、先ほどてゐから取り立てたような生ゴミ・保存食の雑草等・赤ゆや餡子はどうなるかだが・・・
「さあ、きょうもまりさ市場の時間なのぜ!
こまちもてんこも、れみりゃもゆゆこも、みんなたっくさん取引してくれなのぜ!」
ここでついに、まりさとふらんの出番となる。
『まりさ市場』・・・まりさファミリーが様々な取引で集めた品物を、
まりさ達が欲しい品物と物々交換するための取引所であった。
「うあー!おはなさんもってきたー!あまあま3こちょうだーい!」
「れみりゃのお花さんは、いつも美味しそうなのぜ!じゃあ、このてゐのおちびちゃん達を持っていくのぜ!」
「「「ゆっぴゃぁぁああん!れみりゃはゆっくちできにゃいうさぁぁああ!!」」」
「うー!」
取引相手は、まりさの用意する品々の内容から、捕食種も多い。
そもそもまりさが欲しいものは、新鮮な草花や虫、おうち用の建材等なので、
空が飛べたりして行動半径の広い捕食種達こそが上客なのである。
一方、れみりゃ達からしても、自分達の姿が見えるや隠れてしまうゆっくりより、
河川敷や公園に生えてる野草の方が集めやすいに決まっていた。
「こー、こぼねー。」
「ゆわー、角砂糖さんなのぜー!今さっき取れたばかりの、てゐの餡子と交換でいいのぜ?」
「こぼねー!」
「ゆゆこも、これからもよろしくなのぜ!」
仲介はふらん。まりさが襲われたり、脅される心配は無い。
こうして対等の関係で話してみると、捕食種達は案外性格が単純で付き合いやすい。
向こうも、まりさだけは特別な相手だという認識になってきたようで、
最近では街中で出会っても、笑顔で挨拶してくれるようになっていた。
そして、捕食種達では無い、もう一つの主要な客層もいた。
「ま、まりさぁ・・・」
「ゆぇ?何なのぜ。汚いれいむなのぜ。」
「た、たんぽぽさん・・・ごはんとこうかんしてくだざい・・・たくさんでいいよぉ。」
「ゆっくち・・・むーちゃむーちゃ、しちゃいよ・・・」
それが、わずかな草花等を持って現れる、極貧ゆっくり達(つまり平均的な野良)である。
「ゆぅー、ちょっと枯れちゃってるけど・・・ほら、これと交換なのぜ。」
「ゆ、ゆわぁぁ!こんなにたくさんでいいの!」
「別にいいのぜ。気が変わらないうちに持っていくのぜ。」
「おちびちゃぁぁあん!きょうはごちそうだよぉおお!」
「ゆわーい!まりしゃおねーしゃん、ありがちょー!」
で、少量の草花や虫等を、多量の生ゴミと交換するのだ。
生ゴミは生ゴミで、欲しがるゆっくりはたくさんいるのである。
まりさ達のように、贅沢を言っている野良などほとんどいないのだから。
ちなみに、
「わかるよー。おちびちゃんとごはんを、こうかんしてねー。」
「「「わきゃらにゃいよぉぉぉ!?おきゃーしゃん、すてにゃいでぇぇ!」」」
「えーと、2、3、4・・・じゃあ、これだけ持っていっていいのぜ。」
「わかるよー!」
「「「ゆんやぁぁぁああ!!」」」
自分のおちびちゃんを生ゴミと交換しに来るゆっくりも割と多かった。
もちろん大っぴらにやれる事ではなかったが。
こうしてまりさは、えーりんの親としての名声を隠れ蓑に、
裏の商売を通じて自分の存在感を伸ばし、『まりさファミリー』無しでは、
周辺地域のゆっくりの生活が成り立たないように、環境を少しづつ整備していったのである。
やってることの悪質さを考えれば意外かもしれないが、
まりさはゲス善良・捕食種希少種問わず、野良ゆっくり達全体から敬意を集め始めていた。
----------------------------------------------
「みょほほほほ。やってるみょんねぇ。」
だが、そんなまりさファミリーとて、何でも好き勝手やれるわけでは無かった。
ナワバリの外は他のファミリーがいるので当然だが、たとえナワバリの内側であったとしてもである。
「だ、団長さんなのぜ!?こ、こんな所まで来るなんて、何かあったのぜ?」
「みょほほ・・・みょんが来たら、迷惑みょん?」
「そ、そんなことありませんのぜぇぇ!」
その障壁の代表となるのが、この団長みょんを筆頭とする『みょん自警団』、通称みょん警であった。
団長みょんは、数匹の手下みょん達を引き連れ、まりさファミリーのおうちの奥へと、
我が家かのようにズカズカ侵入していった。
まりさは、それを止める事も出来ない。
「みょふ~ん・・・ふむふむ、まりさは悪い事してないみょんかねぇ?」
「め、めっそうも無いですのぜ!」
「みょふふふ。」
団長みょんは、見た目だけならばダブダブに肥えた3段腹の上に、
ニタニタと気色の悪い笑顔を貼りつけた、目を疑いたくなるような不愉快極まるみょんである。
まりさと団長みょん、どちらを群れの長にしたいかと聞かれれば、満場一致でまりさだろう。
だが、団長みょんはその風貌からすれば意外な事だが、文武両道のチートスペックゆっくりなのである。
さすがに捕食種のふらんを圧倒した、『あのれいむ』ほどではないのだが、
まりさ程度のゆっくりなら武器を持って3匹掛かりで襲いかかっても、まず相手にならない。
そして、それ以上に重要なのは、団長みょんが『みょん警』の団長であるという事実であった。
『みょん警』ことみょん自警団は、
町内ゆっくり達の提案によって組織された、野良社会に置ける警察組織だ。
訓練されたみょん達によって構成され、主にゲスやレイパーの取り締まりと排除を目的としている。
野良社会にも存在する『おきて』に従って社会の秩序を守る存在であり、
一般野良にとっては頼れる存在であった。
ある意味では『みょん警』と『ゲスマフィア』は近い役割を持っていると言っていい。
ただ、みょん種が一般的に融通が利かない性格なのと、彼女達は彼女達で生活があること、
それに、所詮ゆっくりである以上、捜査などは苦手で現行犯逮捕が中心になるため、
どうしても『みょん警』の活動には限界があった。
そこら辺の融通がききやすいのは、なんと言っても『ゲスマフィア』の方なのだが、
こちらはこちらで、動いてもらうと法外な謝礼を要求されるし、その制裁方法がまた尋常な残酷さではない。
取り締まってほしい相手をミンチ饅頭にしたいのでなければ、余りお近づきにはなりたくない相手である。
結果どちらも一長一短というわけで、上手く社会を動かしていくには両方必要というわけであった。
「みょほほほほ。こっちの檻にいるおちびちゃん達は、一体何みょんかねぇ。」
「「「みょんおにぇーしゃん!たしゅけちぇぇぇえええ!!」」」
「ゆ、ゆへぇ!?」
そして団長みょんは、『まりさ市場』の裏に隠してある、販売用赤ゆっくりの檻を見つけ、
まりさに向かってより一層気色悪い笑顔を向ける。
一応まりさも隠しているはずなのだが、この辺はさすが団長であった。
「ゆへぇ!そ、そんなものより団長!このあまあまをどうぞなのぜ!」
「みょほぉ。ふむぅ。・・・なるほど、このおちびちゃん達は、まりさが世話してあげてるみょんね。」
「そ、そう言うことですのぜ!!」
「ちがうよぉぉおお!れいみゅたち、れみりゃにたべられちゃうよぉぉぉおお!」
「ゆふふ、このおちびちゃんは、誤解してるだけなのぜぇ。」
「みょほぉ。そう言うことにしといてやるみょん。じゃあ、また来るみょん。」
「で、ではまたお会いしましょうなのぜ~(二度と来るななのぜぇ。)」
まあ、当然ながら、まりさのやっている事は『おきて』云々以前の酷い内容なので、
団長みょんをはじめとする『みょん警』の幹部達にワイロを贈って、お目こぼししてもらっていたのであった。
叩けばホコリが出まくるまりさの、つらいところである。
先ほど『みょん警』と『ゲスマフィア』の役割は似ていると言ったが、
その立場は『みょん警』の方がはるかに上であるのが実態なのである。
なんと言っても『みょん警』は、野良公式の、正義の味方なのだ。
みょん警の敵に認定されれば、野良社会全体が敵になると言っていい。
野良全体からみれば、ゲスなどほんの一部に過ぎない。
みょん警の圧倒的な権力の背景には、
必要に応じて一般の野良ゆっくり達(捕食種は除く)全体からサポートが得られるという事実があった。
それに、まりさの商売も客商売である。
安全な場所、公正な賭けの取り締まり、納得できる取引内容だからこそ、客が集まる。
みょん警の敵になどなってしまったら、商売あがったりだった。
まりさとしては、みょん警はぜひとも味方にしておきたい存在であった。
と、その時、帰りかけていた団長みょんが立ち止まり、
後ろで舌を出してあっかんべーしていたまりさの方を振り向くと、
そのしぐさを気にした様子も無く話しかけた。
「ああ、そうそう、まりさ。」
「は、ひ、ひゃい、なのぜ!?」
「ウチで預かってるまりさのおちびちゃんのことだけど・・・」
「ゆ?」
「あれじゃ、入団は難しいみょん。ま、あんまり期待しない方がいいみょんね。みょほほほほ・・・」
「そ、そうなのぜ・・・まあ、よろしくお願いしますのぜぇ。」
その言葉を聞き、まりさの表情は一層曇ったのだった。
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まりさに育てられ大きく成長した、あの唇を削り取られたみょんは、
今『みょん警』に仮所属している。
みょんは現在見習い団員として、みょん警に数十存在する支部の内の一つで訓練に参加しているが、
その様子はあまり上手くいっている風では無かった。
「みょっ!みょっ!」
ひゅん!ひゅん!
「ちがうみょぉおおん!そんなけんのふりかたじゃ、おちびちゃんもたおせやしないみょん!」
「みょぅぅ・・・」
剣術の訓練中、先輩みょんからの罵声を浴びるみょん。
だが、それで上達するものならば、この数週間の間にもう少し身についてよいはずだった。
みょんは、まりさに恥をかかすまいと、訓練に誰より熱心に取り組んでいるのだから。
「みょっ!みょっ!」
ひゅん!ひゅん!
「ちがうみょん!こうだみょん!」
ぶんっ!ぶんっ!
「みょぅ・・・」
「・・・やっぱり、そのおくちじゃけんはもてないみょん。あきらめるみょん。」
「・・・・・・。」
みょんがぶつかっている大きな壁は、皮肉にもまりさに拾われた時に削り落された、
唇と前歯によるハンデだった。
みょん種の特技といってよい『剣術』。
それは、口に木の枝などの細い棒をくわえ、敵を殴り、叩き潰し、突き刺すものだ。
だから、棒を素早くくわえなおせるほど、精妙な剣技を扱えることになるし、
棒をしっかりと歯と唇と舌で固定できるほど、威力のある攻撃になる。
当然体格なども重要な要素ではあるのだが、一番重要なのはなんと言っても口である。
みょんは唇を失い、前歯も先端を3割方削り落されている。
だから今は棒に舌を巻きつけて固定しているのだが、
これだと鞭のように振りまわすのには便利でも、威力はまるで期待できなかった。
相手を引っ叩くのがやっとでは、屈強なゲスに返り討ちにされてしまうだろう。
そして剣術は、みょん警に所属するための基本技術だった。
みょんは結局、、入団試験に引っかかることすらできず、まりさの元へ帰されてしまったのであった。
「ごめんみょん・・・」
「ゆぅ?まあ、ムリなもんはしょうがないのぜ。その傷はみょんのせいじゃないのぜ。」
「うー。おとーさんのせい?」
「ふ、ふらん!?違うのぜ!人間さんのせいなのぜぇ!
・・・とにかく、また他の事で役に立ってくれればいいのぜ。」
みょんにとってせめてもの救いは、まりさが全くみょんの失態を気にしていなかったことであったか。
それはそれで傷つく者もいるだろうが、まりさの言葉を字面通りとれば、
次のチャンスをやるから、挽回してみろ、とも取れなくは無い。
みょんは、自分に一体何が出来るか、もう一度考え直すことにしたのであった。
「・・・みょーん。」
そして、うなだれるみょんを見ているまりさの方はと言えば、
「(まあ、いざって時に盾にでもなってくれれば十分なのぜ・・・)」
などと、今でも大変失礼な事を考えていた。
だいたい、拾った時点でもそれほど多くの期待をしていたわけではないのだ。
ぱちゅりーもえーりんも、まりさの期待を大きく越えて才能を示してくれたわけだが、
拾った当初の目的と言えば、まりさがれいむと戦った時のように、
危険にさらされた時にまりさを置いて、さっさと逃げたりしないような仲間を集める事だったのである。
子供たちの方が、まりさから送信された愛情を過剰に受信し、
勝手に努力をしてくれているのだから、わざわざ止める理由もなかったが。
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そしてその頃、みょんがみょん警に入れなかった事とは関係なく、
まりさファミリーが飛躍するための、最後のピースは揃おうとしていた。
「ま、まりしゃをはなしちぇにぇ!まりしゃをおこらしぇると、こうかいしゅるよ!」
「こいつなのぜ?まりさ達のおうちに勝手に入り込んだおちびちゃん、ってのは。」
「ま、まりしゃがどこにいても、まりしゃのかってだよ!はなしちぇにぇ!」
そのうち一匹は、この生意気な子まりさである。
ふらんがおうちの掃除をしていた時に、たまたま食料貯蔵庫の中で発見したおちびちゃんであった。
「勝手も何も、ここはまりさ達のおうちなのぜぇ。怪しいヤツなのぜ。・・・殺すのぜ?」
「ゆ、ゆぴぃぃいいい!ま、まりしゃをころしたりしちゃら、こうかいしゅるよぉぉおお!?」
「「「ゆぅ?」」」
騒ぎの様子を聞きつけたのか、ふらんやえーりんもまりさの尋問部屋に入ってきた。
「お前、一体何者なのぜ?」
「ゆっふっふ、きいておどろいてにぇ!」
「いいからさっさと話すのぜ。」
子まりさは、多くのゆっくり達に注目されている事に満足したらしく、
胸をぐいっと張って、おうち宣言でもするかのように大声でこう言った。
「まりしゃは、てんっさいなんだよ!いまはおやだっていないこどもでも、
いつか、だれにもまけにゃい『びっぐな』むれをつくりゅんだよ!
ゆっくちりかいしたりゃ、みんなまりしゃにひれふしちぇにぇ!」
・・・・・・。
「・・・殺すのぜ?」
「ゆぴぃぃいいいい!?やめちぇにぇ!ゆっくちさせちぇにぇ!」
子まりさは、正真正銘の、単なる孤児ゆっくりだった・・・。
まりさは子まりさに嫌われてしまったので、えーりんが代わりに尋問する。
「それで、わたしたちのおうちで、いったいなにをしてたの?」
「ま、まりしゃはびっぐなむれをつくりゅんだよ!」
「ええ、それはきいたけど。」
「ま、まりしゃがみたなかでは、このふぁみりーがいちばんいいかんじだかりゃ」
「ふむふむ。」
「まりしゃのやぼうのために、『こつ』をぬすもうとおもっちぇ・・・」
「ほうほう。」
「ゆ、ゆぇぇ、たすけちぇぇ。」
「で、おちびちゃんのおかあさんたちは?」
「え、えいえんに、ゆっくちしちゃよ・・・まりしゃがちいしゃいときに・・・。」
要するに、自分も将来大きな群れを作って長になりたい、
そこでまりさファミリーが仲良くまとまってる姿を見つけたので、
秘訣を探りに来た、と言うことらしい。
今より幼い頃に親を失ってから、今まで生き延びている事といい、子ゆっくりにしては大したものであった。
「偉いのぜ!!」
「ゆぴっ!?」
その話を聞いていて、突然まりさが大声を出した。
「偉いのぜ!おちびちゃん!!」
「ゆ、ゆぇ?」
「まりさの偉大さを理解できるなんて、
おちびちゃんは、まりさと同じく、選ばれたゆっくりに違いないのぜぇっ!!」
「しょ、しょうだよ!まりしゃはえらばれたゆっくちにゃんだよ!」
「まりさのところに置いてあげるのぜ!ふらんが世話をしてやるのぜ!」
「うー?・・・いいの?」
「まりさに二言は無いのぜ!!」
こうして、他のゆっくり達が(子まりさも含め)良くわからないうちに、
子まりさはまりさファミリーで初の、そしてこの後を含めて唯一の、
『子ゆっくり以上に成長してから加入した』メンバーとなったのであった。
あまりにも軽々しい行動であったが、まりさは嬉しかったのである。
これまでのまりさのゆん生で、まりさの行動を面と向かって、肯定的に評価してくれたのは、
家族を除けば、この子まりさが唯一だったのであったから。
「ゆ、ゆっひぇっひぇ・・・こんなことしちぇ、
まりしゃにこのふぁみりーの、おさのざをうばわれちぇも、しらにゃいよ!」
「・・・調子に乗るななのぜぇ。」
「ゆんやぁぁあ!?ごめんにゃしゃいぃぃ!」
多少生意気で口が回り過ぎるところはあったが、これまでひとりで生きてきたくらいだから、
そこそこ能力の方も期待できた。
だが、その能力に対する期待をよそに、この後子まりさが大いに役立ったのは、
この生意気で、口が良く回る欠点の方だったのである。
そして、まりさファミリー飛躍のもう一つのピースは、毎夜えーりん診療所を訪問するゆっくりだった。
「みょぉぉおん!え、えーりんのうんうん、とってもおいしいみょぉぉおおん!しあわせぇぇええ!」
「ほーら、おくちをおっきくあけなさい。できたてほやほやよ。」
「みょふぅ、みょふぅううう!か、かおにもかけてみょん!ぶっかけてみょぉぉおおん!」
「ほらほら。がつがつしないで。うふふ。」
この、『えーりんの薬』をえーりんのあにゃるから直にむさぼり食って恍惚の表情を浮かべているのは、
みょん警に数十ある支部の一つを指揮する、支部長みょん。
しかもまだまりさと同年代の、若きエリートである。
まりさファミリーの『あの』みょんの真逆を行く、みょん警の大物だった。
「ほぉら。あにゃるもきれいにしてちょうだい。」
「ぺーろぺーろ・・・ゆぷぅ、え、えーりんのあにゃる、おいしいみょぉん。」
「うふふ。つかれてるから、おくすりがひつようなのよ。」
「そ、そうだみょぉん。みょんは、えーりんのおくすりをのんで、あしたもがんばるみょぉぉん・・・」
えーりんの薬の正体を知るゆっくりは少ない。
支部長みょんがその正体を知ったのは、たまたまおうちの中を覗いてしまっただけ、単なる偶然だった。
そしてそれ以来、支部長みょんはえーりんの元に通い詰めている。
支部長みょん自身は、疲労を含めて万病に効く『えーりんの薬』が、
激務に就く自分には必要である、と言っている。
だが、常識的に考えて、正体がうんうんだとわかっている代物を、嬉々として食べているのは普通では無い。
それに、支部長みょんが薬の実態を知った時覗いた場所も、まりさファミリーのおうちの一番奥にあるおトイレ。
しかも普通のゆっくりならば出歩かないはずの、真夜中にこっそりとである。
はっきり言うと支部長みょんは、色々と変態的な性的趣向の持ち主なのであった。
ただし、有能で周囲の信頼も厚く、さらにえーりんに対しては、
変態的な趣味を除いても、好意を持っているゆっくりでもあった。
「みょーん。えーりん、みょんのおよめさんに・・・」
「うふふ、かんがえておくわね。」
「みょふぅ・・・。しんじてるみょん・・・。」
そして、それを知り、利用しようと考えているゆっくりが一匹。
「ゆふふ。あれは色々役に立ちそうなのぜぇ。」
もちろん、まりさであった。
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まりさファミリーが着々と成長を続けている中、みょんは悩んでいた。
みょん種として生まれていながら、まともに剣を扱えないと言うだけでも、
アイデンティティの半分は失われている。
おまけに姉妹達は揃って優秀で、しかも自分が演じるべきだった場所には、
えーりんにぞっこんの変態エリート・支部長みょんがいる(当然表沙汰にはなっていないが)。
自分には、何が出来るのか・・・
みょんがその日、街中にある、とある寂しい空き地に向かったのは、必然だったのかもしれない。
ひゅんっ!しゅっ!ひゅんっ!
「みょん!?」
そこには、一匹のれいむがいた。
周囲には人間どころか、一匹のゆっくりもいない、廃材がいくらか転がっている、
それ以外には木が一本生えているだけの、小さな空き地に、ただ一匹で。
れいむは、一匹で黙々と、左右のもみあげで掴んだナイフを振り続けている。
そして、そのナイフが一閃するたびに、周囲に生えた草や舞い落ちる葉っぱが真っ二つに切断されていった。
「(す・・・すげぇみょん・・・)」
れいむのような剣術は、みょん警の先輩の誰も使っていなかった。
鋭さでも、しなやかさでも。そして何より、宙を舞う落ち葉を両断するような技は。
そう、このれいむは、かつてまりさに死を覚悟させた、あのれいむであった。
そして、みょんの視線はれいむの姿に釘づけになっていき、
しゅかんっ!!
「(みょ・・・!?)」
そしてれいむが、みょん警が剣として使っているような、細い木の棒を、
何気ない一振りで両断した光景を見た瞬間、みょんは、れいむの技の本当の恐ろしさに気づき、
雷に打たれたかのような衝撃を受けたのだった。
みょんは、いや、みょんだからこそ気づいたのだ。
まりさを含め、れいむと戦った多くのゆっくり達が、全く気付かなかった、れいむの強さの秘密を。
「あのれいむ・・・すごいみょん・・・」
そもそも、本来ありえない話なのだ。
れいむ種のもみあげ、まりさ種のお下げなどは、人間の腕のように動かせる事は知られているが、
それは『動かせる』というだけで、決して大きな力が出せるわけではない。
れいむ種がもみあげで棒を操ったとしても、本来は威力不足で、
敵のゆっくりを殺傷させる事はできないはずだ。
だから、普通のゆっくりは、『剣』と称する棒を口に咥えて操ろうとする。
唇と歯と舌で、棒をしっかり固定して、
そのまま全体重をかけて敵を叩き潰し、体当たりのように突きを放つために。
だが、れいむはあえて、もみあげで『剣』を操る。
それは、ゆっくりの剣術に本来存在しない技・・・『斬る』という技術を発見したからこそだった。
相手を切断できるなら、口で剣をガッチリ固定する必要は無い。
撫でるような一撃が、そのまま必殺の攻撃なのだから。
2本の剣を使える分もみあげの方が有利だし、力任せの大振りに頼る必要も無いから速度も上がる。
それに、口で咥えているよりもしなやかに、自由自在に技を繰り出せるだろう。
一対一でも圧倒的に強く、それに、多数の敵をひとりで相手することもできるに違いない。
そして、この技術こそが、自身にとって最も必要なものだと、
みょんは気づいたのであった。
みょんはこの日以来、雨の日以外は毎日空き地に向かった。
そして、れいむも同じく、毎日そこで技を磨いていた。
「ゆっ!ゆっ!」
ひゅんっ!ひゅんっ!
「みょっ!みょっ!」
びゅんっ!びゅんっ!
みょんは近所のゴミ捨て場から拾ってきた金属の棒に舌を巻きつけ、
れいむの訓練する姿を物陰からこっそり眺めつつ、必死で技を盗もうとした。
敵を鮮やかに切り裂く、その技を盗むために。
れいむの剣にと似た輝きを持つ棒を使い、
れいむと同じ角度や速度で剣を振ろうと、
舌を鞭のように伸ばして振りまわし、必死に真似し続けた。
そして数週間後。
「どうして、きれないみょん・・・。」
やはり、みょんの剣技は、木の棒を両断するには至らなかった。
みょんの舌の動きは、日に日にれいむのもみあげに近づき、
今日こそはあの日のれいむのように、棒を切断することが出来るに違いないと思ったが、
みょんの目の前には、ポキリと折れた細い木の枝と、
同じくポキリと折れた金属の棒。
「どうしてみょん・・・もう、みょんにはこれしかないのにみょん・・・」
みょんは、くやしくて、諦めきれなくて、いつの間にか涙を流していた。
これまで、弱さを見せたくなくて、まりさの前でも流した事のない涙を。
「それじゃあ、切れないよ。」
「みょっ!?」
そのみょんの背後に、れいむが立っていた。
これまで数週間の間、みょんはれいむに見つからないように、遠くからこっそり眺めていたというのに。
もしょもしょ・・・
「みょ!?・・・みょおん?」
れいむは、何気ないしぐさでみょんの涙に汚れた顔を、
普段はナイフを掴んでいるそのもみあげで拭ってくれた。
「『ゲボォッ』・・・これを使ってみるといいよ。」
そして、みょんの目の前で、喉の奥から長大な剣を吐き出した。
それは、刃渡り30cmほどにもなる、ステンレス製のケーキナイフだった。
みょんの舌にそのケーキナイフが握られた瞬間、みょんの体に、熱いモノが込み上げてきた。
それは、薄く、鋭く、確かな重みを持った、ホンモノの『剣』だった。
「剣が木の枝さんに触れたら、自分の手元に引っ張るようにするといいよ。」
「わ、わかったみょん!」
しゅっ!!すかんっ!
みょんの放った一撃は、簡単に細い木の枝を両断した。
この時、みょんは初めて理解した。
自分が間違っていたのは、技術では無く、武器の選び方だけだったという事を。
れいむは、無表情のまま、みょんに語りかけ続ける。
「この剣は、ゆっくりを切るためのものだから、あまり固いものは切らない方がいいよ。」
「わ、わかりましたみょん!」
「それと、手入れの仕方も教えてあげるから、こっちに来てね。」
「みょ・・・みょ・・?!」
「聞かないの?」
「みょ、みょん!お、おねがいしますみょぉおん!!」
れいむが何を考え、急にみょんに色々教えてくれたのかはわからない。
ただ、れいむはこの時も一切無駄な話はせず、みょんに刃物の使い方と、剣の振り方をいくらか教え、
別れのあいさつもせずに去っていった。
そして、翌日以降れいむが、この空き地に来る事は無かった。
みょんは、ついに最強の武器を手にしたのであった。