ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko2757 境界線 前編
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ankoss
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『境界線 前編』 38KB
制裁 自業自得 駆除 群れ ゲス ドスまりさ 希少種 独自設定 ナナシ作
*注意
・この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、国家とは一切関係ありません。
・独自設定の希少種が出ます。
・人間が犯罪行為を犯す場面が出てきます。
・いつも通り過去作品の登場人物や世界観が出ますが読んでなくても大丈夫です。
最近の過去作品は
とってもゆっくりできるはずの群れ
ぱちゅりー銀行
長の資質
野生の掟
金バッジの価値
私の名前は
とかです。
「だせぇ!さっさとここからだすんだぜぇ!」
一匹のゆっくりまりさが、なにやら大声で周囲に喚き散らしている。
そんなまりさの周囲には数人の人間がおり、この暴言は彼らの対してものであるようだ。
だが、出せ!という主張が物語るように、今このまりさはいわゆる透明な箱という狭い空間に拘束されていた。
「おいじじい!きこえてるのかぜ!まりささまをこんなところに、ふとうにこうそくしていいとおもってるのかぜ!
これはあきらかな、きょうってい、いはんなのぜ!むれのみんなが!いや、どすがだまってないのぜ!
わかったらさっさとまりささまを、かいほうするのぜえええええええええ!」
口汚く周囲にいる人間を罵りながら自身がおかれた境遇の不当性を訴えるまりさ。
それに伴い興奮気味に狭い透明な箱の中でガタガタと暴れるものの、当然そんなことでは箱はびくともしない。
「ええっと、コイツが例のまりさですか?」
透明な箱の周りにいる人間の中の内、一人の男が隣にいる老人に話しかける。
「そうです。このまりさが事前にお話ししていたまりさです」
隣にいた老人が男のセリフを肯定する。
「ふむ。まあこういっちゃなんですけど、ただのバカゲスですねこりゃ。
特に捕まえる必要はなかったと思いますよ。その場で潰してしまっても何の問題もなかった」
男はまりさにチラリと目線だけ向けながら言う。
「確かにその通りかもしれません。しかし場所が山のギリギリの所だったということもありましてね。
何か協定に問題や誤解がある可能性も考慮しまして、こうしてわざわざ捕まえた上、貴方に御足労願ったわけです。
ことが異種間の問題なので、私どもも慎重なのに越したことはないと思いましてな」
老人はやや恐縮しながら男へ言う。
「は、はあ。まあそうですね。慎重なのに越したことはないですね。
とにかくこのまりさだけがゲスなのか、ゆっくりの群れ全体がゲスなのかを調べる必要はありますね。
聞いた話が本当だとすると、群れ全体がゲス化傾向にある可能性もあると思われますので。
その場合はやはり、人間に対して大々的に不利益な行動を起こす前に一斉駆除するのが妥当だと思います」
そう言う男に対してに老人は、
「………そうですか。今まで特に問題がなかっただけに残念です」
と呟いた。
さて、ここはとある村の古い倉庫の中。
今、箱に閉じこめられているまりさを前にして話していた男は、ゆっくりを専門とする国営機関の人間であり、
彼と会話していた老人はこの村の村長である。
いったいこのまりさはどんなバカをやらかして閉じこめられているのか?話は随分前にまでさかのぼることになる。
この村では例によって近くの山に住んでいるゆっくりたちの群れと協定を結んでいた。
その主な内容とは決められた数以上ゆっくりの数を増やさないことや、山から村へ降りてきて人間に迷惑をかけないことなどである。
山のゆっくりたちの群れは結構以前から存在しており、したがって当然協定を結んでから結構な時間がたっていたのだが、
今までは群れのゆっくりたちも協定を守り、特にこれといったトラブルもなく住み分けができていた。
だがしかし、ふとしたきっかけからその平穏が脅かされることとなる。
そのきっかけとは、村人が山付近の場所にまで畑を拡張した事であった。
ある日のことである、いつものように畑の持ち主が山の入り口付近にある自分の畑に向かうと、
何と、ゆっくりたちが遠巻きに畑の様子を窺っていたのである。
畑の持ち主は驚いた。なぜなら、こんなところまでゆっくりたちが降りてきたのを見るのははじめてだったからである。
普段のゆっくりたちはもっと山の奥のほうに陣取っていて、こんな下の方まで降りてくるのは珍しい。
だが、まあここは山のすぐ目と鼻の先だし、たまにはそういうこともあるのだろう。
別に村に侵入したわけではないし、畑が荒らされた様子もない。そういうわけで畑の持ち主はたいして気にしなかった。
そして、ゆっくりたちもそのときは、ただ様子を見ているだけですぐにいなくなったため、何も問題は起こらなかった。
しかし、である。
畑の様子を遠巻きに観察するゆっくりたちは、日々その数を増やしていったのだ。
別に畑で作業をしている畑の持ち主にちょっかいをしかけるというわけではないのだが、じっと見られているとさすがに落ち着かない。
それにゆっくりたちは、ひそひそと何かをささやきあっていたのだ。気にならないほうがおかしい。
まあ、だが畑を耕している男とてバカではない。このゆっくりたちの目的が、自分の育てている野菜にあるということぐらいわかっている。
あわよくば何とかして野菜を手に入れようとしているということなのだろう。
しかし、人間の持ち物に手を出すことは重大な協定違反である。
もしそんなことをすれば実行犯は勿論のこと、群れそのものが駆除という可能性すらある。
流石にそこまではいかなくても、何かしらの重いペナルティを負うことは間違いないだろう。
だからこのゆっくりたちはお野菜を目の前にして、見ているだけしかできないというわけだ。
だがこの協定は男の方にも厄介な問題を起こしていた。
ゆっくりたちがただ見ているだけだという以上、たとえウザったくても男の方から手を出すことが出来ないのだ。
さらにこの畑からすぐ先は山の領域なので、ゆっくりたちにその場所にいるなと大っぴらに言う事もできない。
ここに両者共に相手のことを快く思っていないのにもかかわらず、手が出せないという硬直状態が生まれてしまったわけだ。
こういう緊張状態というのは双方にとってよくないものだ。
なまじ相手が目の前にいるのに何もできないと言う状況が一番ストレスがたまる。すぐ目の前にあるお野菜に手が出せないゆっくり。
自分の畑のすぐ近くにたむろしているゆっくりを排除できない畑の持ち主。
双方の関係は一度も言葉を交わすことなく、しかし日々険悪になっていた。
そして先に我慢ができなくなったのは、ゆっくりの方であった。
ある日のこと、畑の持ち主がいつものように自分の畑に着くと目の前の光景に驚愕した。
なんと複数のゆっくりが畑内に侵入しているではないか!
ついにこの日がやってきてしまったということか。
彼はいつかは来るのではないかと半ば予想していた目の前の光景に溜息をつき、ゆっくりたちに向かって初めて声をかけた。
「おい、お前らそんなところに陣取っていったい何のつもりだ?見てわかる通り、ここはオレの耕している畑だ。
そこに無断で侵入するのがどういうことなのかわかってるんだろうな?
さっさと山に帰って、もうここには二度と来ないと誓うのなら見逃してやるからさっさと失せな」
男は畑に侵入しているゆっくりたちに向かって吐き捨てるように言う。
幸い見たところ、畑内にある野菜には荒らされた様子がない。
どうやらこのゆっくりたちは、畑に侵入したもののまったく野菜には手をつけていないようなのだ。
普通の野菜泥棒ゆっくりならば、畑に入った瞬間におうち宣言をかまし、そのまま一目散に野菜にかぶりつくのが一般的だ。
そして人間に見つかった場合、バカな個体ならここは自分のゆっくりプレイスだと主張し潰され、少し賢い個体ならば一目散に逃げ出しやはり潰される。
ちなみに本当に賢い個体ならば、そもそも野菜泥棒などしない。
だが、不思議なことに今男の目の前にいるゆっくりたちは、そのどれにも該当しない行動をとっている。
畑の中心に堂々と我が物顔で居座り、まるで男がくるのを待っていたかのような様子さえ見受けられるのだ。
その表情はゆっくり特有のふてぶてしさが現れており、何だかよくわからない根拠の余裕すら感じられる。
そしてそのゆっくりたちは、男の物言いに対して信じられない返答を返したのであった。
「ゆゆ?にんげんさんはいったいなにをいっているのかぜ?
まりささまたちは、きょうていによってきめられた、ゆっくりのむれこゆうのりょうどで、ただゆっくりしているだけなのぜ!
むしろでていくのは、にんげんさんのほうなのぜ!」
「そうだよ!れいむたちわるくないよ!ただきめられたるーるにしたがってゆっくりしてるだけだよ!」
「はじめにきょうていをもちかけたのは、にんげんさんのほうなのに、みずからそのやくそくをやぶるきかしら?
いなかものねえ!」
「…………あ?」
口々に訳のわからないことを主張するゆっくりたちに、ただ絶句することしかできない畑の持ち主。意味不明ここに極まれである。
一体何を言っているのだこいつらは?これがおうち宣言というやつなのだろうか?
いいや、しかしどうもそれとは毛色が少しばかり違うようだ。
何故なら通常おうち宣言とは、誰もいないところを見計らって、ゆっくりが今からここを自分たちの縄張りにすると一方的に主張する行為のことを言う。
そのシステム自体は、いちいち議論するまでもなく矛盾と破綻が内在した、いわゆる声のでかい者がはじめにいったもん勝ちという、
取るに足らないものなのだが、ゆっくりたちにとっては重要な儀式らしく、自分の領地を主張する際には必ずおうち宣言をしたとのたまうはずなのである。
だが今この場にいるゆっくりたちは、協定によりおうち宣言するまでも無く、はじめからこの場所が自分たち固有の領土だったと主張しているのだ。
「おい!いったいなに訳のわからないことを言ってるんだ!
ここは村の人間の領地で、オレの畑なんだ!ゆっくりの群れの陣地はもっと山の中のはずだろうが!」
ゆっくりたちの態度に声を荒げる畑の持ち主。当然である。
自分の土地にある日突然やってきて、ここは自分たち固有の領土ですと言われて納得できるはずもない。
まだおうち宣言したから、ここは自分の領地だと主張されたほうが、同じ無茶なりにも筋が通っているというものだ。
「なにいってるんだぜ!このおやさいがかってにはえてくるゆっくりぷれいすは、まりささまたちのむれこゆうのりょうどだと、さっきからいってるのぜ!
きょうていでも、ゆっくりはやまのなかなら、じゆうにゆっくりていいってきまってるのぜ!
このばしょも、やまのなかにふくまれているからまりささまたちのものなのぜ!」
「さっきからへんないいがかりはやめてね!れいむぷくーするよ!」
「まったく!きめられた、さいていげんのるーるすらまもれないなんて、とんだいなかものね!」
口々に憤慨してみせるゆっくりたち。
「ちっ、こいつら………」
だが畑の持ち主は、そんなゆっくりたちの様子から、このクソ袋の狙いが薄々わかってきていた。
つまりはこういうことである。
野生のゆっくりは基本的に、お野菜はそこらの草や、木のように勝手に生えてくるものだと思っている。
要するにゆっくりにとって野菜は特定の場所にしか生えることのない地下資源的な認識なのだ。
それ故にお野菜が勝手に生えてくる場所(実際は人間が耕している畑)はゆっくりにとっては極上のゆっくりプレイスとなるのだ。
そしてこのまりさたちからすれば、ある日突然ゆっりの群れの領域内ギリギリの土地に、お野菜が勝手に生えてくるゆっくりプレイスが出現したように見えたのだろう。
今まで特に気にもしてなかった場所に突如豊富な地下資源が眠っていることが明らかになったというわけだ。
人間の村の領域内にある畑ならば諦めもつくが、こんな山のすぐ近くにあるこのゆっくりプレイスをやすやすと諦められないまりさたちは、
この場所がはじめから自分たちのものであったと主張する作戦に出たのだ。
人間の領地にあるお野菜を奪うのはNGだが、自分たちの領域内で勝手に生えてくる野菜を食す分には協定のルール上何の問題もないという理屈だ。
ゆっくりたちにとっては幸いにもこの場所は山の境界線のすぐ近く。
ここも山の一部だと主張されれば、なるほどそうだと言えなくもない微妙な場所であった。
ゆえにまりさたちは、男の畑に堂々と入り込み、ここは自分たちの領土であるという主張や振る舞いをすることで、
いわば既成事実のようなものを作り出そうとしているのだ。
「ようやくりかいしたのかぜ!ここはまりささまたちのゆっくりぷれいすだってことを!
わかったらさっさとでていくのぜ!いまならみのがしてやるのぜ!」
黙っている畑の持ち主を見て、勝利を確信したのか高圧的な態度で言うまりさ。
「ああ、わかったぜ。お前らが話しに聞いていた以上のクソどもだってことがな」
それだけ言うと、畑の持ち主は、ゆらりと殺気を纏いながらまりさたちに近づいていく。
勿論潰すためにである。
ゆっくりどもが何と主張しようとここは村の領土であり、畑は男の土地なのだ。
つまり協定違反はゆっくりたちのほうであり、つまりこれは必然的かつ常識的な行動であるといえる。
だが、
「ゆゆ!じじいがおこったのぜ!にげるのぜ!」
「おおこわい!こわい!」
「まったくいなかものはこれだからこまるわ!」
意外なことに、敏感に自らの危機を察したゆっくりたちはすたこらと、あっさり退散してしまった。
まあ、所詮はゆっくりの逃走速度なので、追いかければ潰す事もできたのだが、畑の持ち主はそこまではしなかった。
何故ならゆっくりたちは、畑に居座っていただけで被害はなかったし、
それになんだかこう、あんなくだらない連中を必死に追いかけては潰す自分の姿を想像してバカバカしくなったのだ。
「クソ、なんだってんだよ」
どっと疲れた畑の持ち主は深く溜息をついたのであった。
だがこれで事態が収束に向かったかと言えばそんなことはなかった。
むしろこの出来事をきっかけとして、男の畑には度々ゆっくりが現れるようになってしまったのだ。
さらにそれらのゆっくりたちの行動はいやらしいまでに一貫していた。
男が畑にやってくると、ゆっくりたちが畑の中心に堂々と鎮座しておりここは自分たちのものだと主張するようにゆっくりしている。
そして男の姿を見つけると、ここはゆっくりの群れ固有の領土だと捨て台詞を吐いて一目散に退散する。
毎日これをくり返しているのだ。
幸い、野菜にはまったく手がつけられていないため(もし食べられていたら、追っかけてでも潰していた)実質的に被害はないのだが、
毎日こんなことをやられる畑の持ち主はたまったもんじゃなかった。
そして僅かだがここは自分たちの土地であるという既成事実を作るという、ゆっくりたちの思惑通りの効果もあった。
毎日のように畑にいるゆっくりたちを見て、いつの間にか畑の持ち主は、ゆっくりがそこにいることにそれ程違和感を持たなくなってきていたのだ。
とはいえ、効果のほどは所詮そこまでだった。
仮に畑の持ち主がゆっくりがそこにいることを普通に思ったとしても、この場所をゆっくりのものだと彼が認めることは絶対になからだ。
せいぜいただ何かウザイ連中がいるなぁ程度の認識でしかない。それだけのことだ。
だから一連のゆっくりたちの行為は完全に無駄なのだ。
さて、ここで多くの人はこう思うのだろう。
何でこんなムカつくクソ饅頭どもを追っかけてでも潰してしまわないのかと?
それには理由が二ほどある。
一つ目は、畑に被害がないこと。
これは度々述べているが、ゆっくりたちは畑に侵入はするものの作物には一切手を出さないのだ。
恐らく手を出せば絶対に命がないということを理解しているのだろう。
二つ目は、畑の持ち主の村での立場を考えた上のでのことである。
別に彼が村で嫌われているとかそいうわけではない。特に何の問題も無い普通の村の一員である。
しかし特別な立場でない普通の村人であるがゆえに彼は考えるのだ。
もし自分がこのゆっくりたちを潰してしまったことによって、今まで何の問題も無かったゆっくり連中と厄介ごとが起こり、
村に面倒ををかけることとなったら?
無論今回のケースは、たとえ畑に来ているゆっくりたちを全て潰してしまってもまったく人間側は悪くない。
むしろゆっくりがその責を問われるケースではある。
だがやはりそれでも、自分の行動が発端で村全体に面倒ごとを持ち込んでしまうことには変わりないのだ。
そんなもの気にしすぎだ、畑の持ち主は何も悪い事はしていないのだから気に病む事ではない、と思うかもしれないが、
狭い村社会ではそういった全体のことを気にかけずに生きていくことは難しいのだ。特にこの国では。
例えば正しく認められた行為だからといって、会社で有給を全て使って旅行に行って帰ってきてみれば、社内から自分の机がなくなっていた!
なーんてことが平然と起こりえる様に、いくら正しいとはいえ自らの行為によって共同体全体に迷惑をかけることはなるべくならば避けたほうがいい、
いや避けなければならないというのがこの国の全体的な風習である。
この畑の持ち主も、例のごとくうかつに厄介ごとを引き起こすぐらいならば、被害もないしこのままでも構わないと結論したのだった。
だがそれもある意味で事の均衡が何事もなく保たれていたからだ。
このラチが明かない事態に対して先に均衡を破ったのは、やはりまたゆっくりのほうだったのである。
ある日のこと。いつものように畑に行くとゆっくりの集団がいた。もはや見慣れた光景である。
だがしかし今日はいつもとは様子が違った。
「おいじじい!いったい、いつになったらりかいするのかぜ!
ここはまりささまたちのりょうどなのぜ!さっさとでていくのぜ!」
いつもは畑の持ち主が現れるや一目散に退散するはずのゆっくりたちだが、何故か今日は一匹のまりさが男に向かって挑むように話しかけてくる。
そんな様子のまりさに男は軽く溜息をつきながら言う。
「ハァ、何度も言うよだが、ここは村の領地で、オレが耕している畑なの。
お前らこそいい加減諦めて山に帰るんだな。
たとえ天地がひっくり返ったとしても、この場所がお前らの領地になることはねえよ」
「ゆぎいいいいいい!いいかげんに………いいかげんにするのぜええええええええええ!」
その時、信じられないことが起こった。
なんと畑の持ち主と話していたまりさが、突然怒りの体当たりを仕掛けてきたのだ。
「なっ!」
ボスッ!
そんな軽いマヌケな音を立てて畑の持ち主の足にぶつかるまりさ。
畑の持ち主はまさかゆっくりがこんな暴挙に出るとはさすがに予想できず、まりさの体当たりをまともにくらってしまう。
「はあ、はあ、おもいしったのかぜ!これにこりたらさっさとこのりょうちからでていって、にどとあらわれるんじゃないんだぜ!
ここはゆっくりのむれこゆうのりょうどなのぜえええええええええええ!」
勝ち誇った顔で男を見上げるまりさ。
しかし、次の瞬間その顔面には男のケリがめり込んだ。
グチャ!
まりさが体当たりしたときとはまったく違う鈍く思い音があたりに響く。
「ゆっびゅおびいいいいいいいい!」
ケリのダメージを全身でもろに受けたまりさはその勢いのまま吹っ飛ばされる。
「おい!テメェお前自分がいったいなにしたかわかってるのか!」
吹っ飛ばされたまりさに畑の持ち主の怒声が上がる。
ついにこのまりさは超えてはならない一線を越えてしまったのだ。
ちなみに言うまでもないことだが、畑の持ち主はまりさの体当たりによってまったくダメージを受けていない。
彼が怒っているのは、まりさの行動の結果ではなく、行動そのものが原因なのである。
本来ならばゆっくりが人間の畑に入ってくること事態が協定違反なのだ。
その上さらに人間の領地に入ってきたゆっくりが、人間に攻撃を仕掛けるなんてことはあってはならないのだ。
いくら村全体の問題を気にして見逃してきたとはいえ、このまりさの行為を捨て置くわけには行かない。
いや、逆にもしこの行為を黙認したとしたら、かえって村に対して悪影響がでる。
そう判断した畑の持ち主は迷いなくまりさを蹴飛ばしたのだった。
だがしかし、
「ゆああああああああああ!くそにんげんが、ゆっくりのりょうどでらんぼうしてるよおおおおおおお!」
「きょうってい、いはんだああああああああああああああああ!」
「とんでもないいなかもののしょぎょうね!これはゆるされることじゃないわ!」
「ゆゆ!にげるよ!にげてこのことを、どすにほうこくするよ!」
まりさが吹っ飛ばされたのを見て、反省するどころか、
勝手な事をほざきながら、ちりじりになって逃げていくゆっくりたち。
「あ、おい!まちやがれ!」
追いかけようとする男。だがしかしすぐにそれは無駄だと悟る。
無論今から追いかければ、何匹かを捕まえることはできるだろう。だが全てを捕まえることは無理だろう。
どの道このことはゆっくりの群れには知られてしまうのだ。
それにもうことは自分だけの問題でもなくなっている。
村全体の判断を仰ぐ必要があった。
「ふう、まったくついてないよほんと」
それだけ言うと畑の持ち主は、端のほうでピクピクと痙攣しているまりさを乱暴に持ち上げると、村の中央へと事の顛末を報告しに向かったのであった。
そして今現在。
このような経緯をたどってまりさは捕まり、透明の箱に押し込まれていた。
「こっからだすのぜえ!こんなことしてただですむとおもってるのかぜえええええええ!
どすがせいっさいしにくるのぜえええええええ!」
今後のことについて話をしている男や村長に向かって、透明な箱の中からなおも暴言を吐き続けるまりさ。
まりさにしてみれば、自分たちのゆっくりプレイスにいつまでの居座る人間を制裁しようとしただけで、
自身が悪い事をしたという自覚は皆無であるのだろう。
よって反省や謝罪のといった態度はまったくない。
まあ、もし仮にまりさがごめんなさいしたところで、簡単に許されるような状態を事態はとっくに過ぎてはいるのだが。
「ああっと、そうだまりさ」
「ゆあ?やっとあやまちをみとめて、まりささまをだすきになったのかぜ!」
村長との話しが一通り終わった男が、箱の中にいるまりさに話しかける。
「いや、そんなことどうでもいいんだよ。お前に何を話したところで自分がやったことは理解できないだろうしな。
オレが聞きたいのはお前がさっきから言っているドスうんぬんの話だ。
たしかお前の群れにはドスはいなかったはずだ。どこかから流れてきたドスが新しく長にでもなったのか?」
そう問いかける男。
男の言うとおり、今までこの付近にあるゆっくりの群れにドスはいなかったはずなのだ。
少なくとも前回視察に来たときにはその姿を確認することはできなかった。
それなのに、このまりさはドスが制裁にやってくる、ドスが黙ってはいないなどと口々に訴えている。
また村長から聞いた回想の話でも、一部のゆっくりがドスに言いつける等の発言をしている。
これはつまり、どこからかのドスがやってきて新たに群れの長になったということなのだろうか?
「ゆっへっへっへ!そうなのぜ!まりささまのむれにはどすがいるのぜ!それもそのへんからやってきたよそもののどすとはわけがちがうのぜ!
まりささまのむれのゆっくりが、どすになったのぜ!つまりまりささまのむれのゆっくりは、えらばれたとくべつなゆっくりというわけなのぜ!
いずれまりささまだって、どすになるにきまってるのぜ!そうなったらおまえらなんか、どすすぱーくでいちころなのぜ!」
そう胸を張って答えるまりさ。
「ああ、つまり群れのゆっくりが突然ドス化したってわけね。はぁ、最悪」
「どうやらそうらしいですな。村の者たちもここ最近それらしいドスの姿を見たと報告しております」
溜息をつく男に村長が補足した。
ゆっくりについては未だに解明されていない謎が幾つも存在する。
ゆっくりまりさによる突然のドス化もその謎の一つだ。
ある者は何らかの環境的要素が原因でドス化すると主張し、またある者は何らかの遺伝的要素が原因でドス化すると主張している。
今のところ後者の遺伝的要素説がやや優勢のようだが、そのわりにドスの因子となるゆっくりを人工的に作り出す研究は失敗続きらしく、
飼いゆっくりがドス化したという報告もない。
それに対して相変わらず野生や野良のゆっくりのみが定期的にドス化しており、やはり遺伝だけでなく他に何か条件があるのではないかと議論されている。
まあ、ドス化の原因が何であるかはこの際どうでもいい。
問題は今回のケースのように、突然群れのゆっくりがドス化することにより、今まで何事も無く均衡状態だった人間とゆっくりの関係に
変化が訪れてしまうことがある事だ。
ドスがこの件に関わっているかどうかは今のところ不明だが、このまりさの強気の発言の根拠の一部はドスが背後にいるというものからきていることは間違いないだろう。
「まあ、ドスがいるってんなら少し慎重にやるとしますよ。とにかく明日にでも群れに話をしに行ってみます」
「はい。どうかよろしくお願いします」
聞きたいことはもう聞き終えたとばかりに話を切り上げる男と村長。
「まつのぜえええええ!だからまりささまをさっさとここからだすのぜええええええ!」
なおも叫ぶまりさを倉庫に残し、一同はその場を後にしたのだった。
「あ゛ー、ただいまー」
「むきゅ!お帰りなさい人間さん」
疲れた様子で村の宿屋の一室に入ってくる男。
それを出迎えたのは一匹のゆっくりぱちゅりーだった。
このぱちゅりーは男の連れているゆっくりである。
以前とある群れで出会い、その時の事件がきっかけで行動を共にするようになったゆっくりである。
「あれ、お前だけ?あいつは?」
男が部屋を見回しながら言う。
ぱちゅりーのほかにいるもう一匹のゆっくりの姿が見当たらないようだ。
「こんな所でじっとしてるのは退屈だから散歩してくるって言って、窓から飛んでちゃったわよ。
まったく勝手なんだから!」
ぱちゅりーが開けっ放しになっている窓に視線を向けながら言う。
「ありゃそう。じっとしてられないやつだからな。
まあガキじゃないしほっとけばいいさ。適当に腹でも減ったら帰ってくるだろ」
そう男は特に気にした風もないく言う。
「むきゅ、そんなことより、今回の群れの様子はどうなのかしら?
上手くまとめられそうなの?」
「さーどうかな。話を聞いた限りでは問題を起こしたまりさが単独でバカやっただけなのか、
群れ全体の意思の元動いていたのかわからんからねえ」
「むきゅ!そうなの?捕まったまりさは、ドスがどうとかいろいろ騒いでると聞いたけど?」
「悪事を働いたゆっくりが、バックにドスがいるから自分に手を出すなみたいに虎の威を借る的な発言をするのはよくあることさ。
それだけドスが関わっているかどうかは断定はできないよ。
でもなー、一連の事件の流れを聞いてると、群れ全体での謀の可能性が高いんだよなー。
最悪あのまりさは、やられることが前提の捨て駒って可能性すらある」
男はやれやれといった感じで呟く。
「どういうことなの?」
「簡単に言うと、群れの連中がゆっくりは何も悪いことしてないのに一方的に被害を受けましたって難癖つけてくるってこともありえるってこと」
「人間さんの畑でまりさがいきなり体当たりしてきたんでしょ?それでどうして、ゆっくり側が一方的に被害を受けたことになるわけ?」
最もな疑問を口にするぱちゅりー。
「向こうから仕掛けてきたっていう証拠はないさ、野菜が荒されていない以上ゆっくりたちが畑に入ってきたっていう証拠もない。
まあ、足跡ぐらいはあるかもしれんがね。
つまり確実に確かなのは、人間にまりさが捕まっているという事実だけなわけだ」
「ちょっと!村の人間さんが嘘をついているいいたいの!」
驚いた風に言うぱちゅりー。
「いいや、全然。だって人間がそんな嘘つく必要なんて全然ないじゃん。状況から考えてもまりさのほうから仕掛けたのはほぼ間違いないだろう。
ただ状況からしてそういう解釈も可能だということだ。そしてゆっくりたちは自分たちの都合のいい解釈でこちら側が悪いと主張してくるかもしれないってわけさ」
「ああ、わかったわ。それで人間さんはまりさが捨て駒っていったわけね。
つまりゆっくりたちが因縁をつけるためのきっかけとしての意味で。
それでこちらに非があるとして何か無茶な要求を通そうとしている?」
「そういうこと。まあ、奴らがそこまで考えて行動してるかわからんけどね。
あくまでそういう意図のもとに行動していると考えることもできるってだけで。
そんなことよりもバカなまりさが、野菜ほしさに群れの掟を破ってやらかしただけって、可能性のほうが全然高いわけだし。
とにかく全ては明日にでも群れに様子を見に行ってみないことには判断できんわけだ」
と、男は話を結論付ける。
「むきゅ。それもそうね。願わくばまりさの単独犯であってほしいところだけれど、でも何だか今回はそう単純にはいかなそうな気がするわ」
そう不安を口にするぱちゅりーであった。
一方その頃山の奥にあるゆっくりの群れでは今回の件に対して怒りや憤りを感じているゆっくりたちによる集会が開かれていた。
「おうっぼうな、にんげんのぼうきょをゆるすなああああ!」
「「「「ゆおおおおおおおおおおお!」」」」
「あのおやさいがはえてくるぷれいすは、ゆっくりのむれこゆうのりょうどである!」
「「「「ゆおおおおおおおおおおお!」」」」
「くそにんげんは、ふとうにこうそくされているまりさを、そっこくしゃくほうすべきである!」
「「「「ゆおおおおおおおおおおおお!」」」」
先頭を仕切っているぱちゅりーの掛け声に応じて雄叫びを上げるゆっくりたち。
どのゆっくりもみな今回の件について、怒り沸騰の様子である。
それも当然であろう。何しろ人間の側からお願いしますと持ちかけてきた協定を、人間の側から破ったのだ。
こんな無茶苦茶が許されていいのだろうか?いやよいはずがない!
「ゆゆ!どすだ!どすがきてくれたよ!」
突然一匹のゆっくりが叫ぶ。
するとその言葉通りに、集会が開かれている広場にゆっくりとドスが現れたのであった。
「どす!くそにんげんたちをせいっさいしてよ!」
「むれのなかまが、つかまってるんだよ!はやくとりかえしにいってね!」
「ゆゆ!どす!れいむとすーりすーりしようね!」
思い思いの事を口走りながら、集会所に現れたドスの周りに集結しだすゆっくりたち。
それに対してドスはやや複雑な表情を浮かべている。
「みんなちょっとれいせいになってね!みんなのきもちはよくわかるよ!
でもだからって、いきなりにんげんさんをせいっさいするのはよくないよ!
こっちもなにか、しらないうちにわるいことをしているかもしれないんだし……」
そう興奮するゆっくり一同をいさめる発言をするドス。
その様子は何となくオドオドとした頼りないものに見えた。
このドスはドスになってからまだ日が浅かった。
そもそもまりさは、ドス化する前までは長でも何でもないごく普通の群れの一員であったのだ。
それがある日突然ドス化してしまい、群れの長として祭り上げられてしまってまったのだ。
それゆえどことなく弱気というか、リーダーとして群れを引っ張っていく貫禄が足りないところがあった。
いきりたつゆっくりたちを前にしての、この弱気ともいえる発言もそういった理由からだ。
最も今回はその選択が正解なのだが。
「むぎゅ!どす!まだそんなあまいことをいっているの!」
そんなドスの様子を見かねたのか、今まで集会を先頭で仕切ってきたぱちゅりーがドスを叱責する。
このぱちゅりーは、まりさがドス化する前までこの群れで長をしていたゆっくりだった。
現在は長の地位をドスに譲り、自分は参謀としてドスの右腕を自称している。
というか、実はドスになったばかりで右も左もわからないまりさに変わってほとんどの仕事をぱちゅりーが行っていた。
つまり、建前上長の地位こそドスに譲ったが、いまだ群れの実権を握っているのはこのぱちゅりーということになる。
「ゆゆ、ぱちゅりー!でもそんなこといったって……」
「いい!どす!こんかいのけんは、あきらかにくそにんげんのほうにひがあるわ!
どすも、かえってきたれいむたちのはなしをきいたでしょう!」
「ゆむむむむ!」
唸るドス。
確かにれいむたちの言っていることが本当ならば、明らかに悪いのは人間のほうだとドスも思っているようだ。
「ゆゆ!もういちどかくにんするけどれいむ、にんげんさんのほうからさきにこうげきをしかけてきたんだよね?」
ドスが畑から帰還したれいむたちに質問する。
「そうだよ!れいむたちはただゆっくりしていただけだよ!それなのにあのくそにんげんが、いきなりこうげきをしかけてきたんだ!」
「まさか、ゆっくりのりょうどで、にんげんがあんな、ぼうきょにでるなんておもいもしなかったわ!」
「わかるよー!もしふいうちさえされなければ、あんなにんげんなんかにちぇんたちがおくれをとるわけがないんだねー!」
口々に訴えるゆっくりたち。
あの畑にいたゆっくりたちの主張は、人間のほうからいきなり攻撃を仕掛けてきたということで一致している。
それは実際に起こった事実とはちょっと違うよな気がしないでもないが、そのことを指摘するものはだれもいない。
「ゆふう!わかったよ。どすとしてはなるべくにんげんさんとは、もめごとをおこしたくなかったけど、しかたないね。
ちかいうちに、ふもとのむらにまでおりて、にんげんさんとはなしをしてみるよ!」
渋々といった様子のドス。
だがしかし、幹部ぱちゅりーはそんなドスをさらに叱責する。
「どす!はなしをするなんて、なにをよわきになっているの!これはあきらかな、きょうってい、いはんなのよ!
そもそもくそにんげんと、ゆっくりのどっちがさきにこうげきしかけたなんてかんけいないの!
ゆっくりのむれのりょうどで、ゆっくりしていたまりさが、くそにんげんにより、いわれのないぼうりょくをふるわれ、
いまだふとうにこうそくされている!
こんなことを、むれとしてみとめるわけにはいかないの!どすはぜんりょくでこのけんにたいして、こうぎをすべきなのよ!」
「そうだ!そうだ!」
「どす!おそれることはないよ!わるいのはくそにんげんのほうだよ!」
「ありすたちは、るーるにしたがったとうっぜんのけんりをしゅちょうしているだけよ!」
ぱちゅりーの発言のに対してその場にいた多くのゆっくりが呼応する。
「ゆゆ!わかったよ!どすがまちがってたね!こんどふもとのむらにいくときは、どうどうとにんげんさんに、
まりさをかえすように、つよきでようっきゅうすることにするよ!」
それらの勢いに励まされたのか、ドスはキリッとした表情になり強気の行動を群れのゆっくりに約束する。
ちょっと周りから煽られただけですぐに自分の意見を変えてしまうところなどは、やはり稚拙なリーダーといったところか。
「ゆおおおおおおおおおおお!」
「さっすがどすだね!」
「どすー!すーりすーりしてー!」
ドスの発言によって興奮の渦に包まれる広場。
そんな最中にあって幹部ぱちゅりーは、
(むっきょきょきょきょきょ!うまくいったわ!すべてぱちぇのけいっさんどうおり!)
と、内心ほくそ笑んでいた。
そう、今のこの状況は、全てこの幹部ぱちゅりーの思い描いた通りの展開であったのだ。
まりさがドス化する前、つまり幹部ぱちゅりーが長をしていたとき、ぱちゅりーは表向き人間に対して従順な態度をとっていたが、
内心では鬱積が堪りにたまっていた。
なぜ自分たちがこんな僅かな山の領土に押し込められなければならないのか!
なぜ豊富なお野菜資源があるゆっくりプレイスを人間が独り占めしているのか!
さらにその挙句、ゆっくりの反乱を怖れてかスッキリ制限までする始末!
こんな屈辱は森のけんじゃであるぱちゅりーには到底受け入れられるものではなかったが、しかし渋々と従わないわけにもいかなかった。
森のけんじゃぱちゅりーによる高度なけいっさんでは、人間の戦力とゆっくりの戦力はちょうど五分五分で拮抗しているのだ。
けんじゃのぱちゅーによるてんっさい的な作戦を駆使すれば、たとえ同じ戦力でもゆっくりたちの勝利は間違いないのだが、
しかし流石のぱちゅりーでも、こちら側にも相応の被害がでることは避けられないだろう。
仮に強引に戦争を起こして、お野菜のゆっくりプレイスを手に入れられたとしても、群れの大半が崩壊してしまっては意味がないのだ。
それに争いの結果によって強奪した土地は、その後常に奪還される危険性を内包している。
常時土地を守るために警戒していたのではゆっくりできないだろう。
ぱちゅりーは何とか無傷でかつ恒久的にお野菜のゆっくりプレイスを手に入れることができないかと、日々思考をめぐらしていた。
そんなある日のことである、思いもよらない幸運が群れに訪れる。
なんと群れ内のまりさが、突然ドス化したのだ!
これには群れの皆も大いに喜んだ。ドスは通常種ゆっくりの希望の象徴、いやこの場合はゆっくりの象徴か。
とにかくドスがいればゆっくりできるというのは、野生のゆっくりの間では常識と言っていいほどの共通認識なのである。
突然のドス化に戸惑う当のまりさをよそに、これでゆっくりできると有頂天になる群れのゆっくりたち。
無論その喜びはぱ長ぱちゅりーとて同様だった。
ぱちゅりーのけいっさんでは、ドスという新たな要素が加わることで今まで拮抗していたゆっくりと人間の戦力比は、
一気に6:4いや、7:3にまで激変することになる。
これによりドスという交渉のカードをちらつかせながら、武力による圧力を掛けることで、人間から土地を奪うという作戦が可能となるのだ。
そしてさらに幸運は続く。
何と、山を下ったすぐ側の地点に、お野菜の勝手に生えてくるゆっくりプレイスが存在してることが調査(偶然見つけただけ)の結果わかったのだ。
あの場所は山の一部なのか、麓の村の一部なのかパッと見判断がし辛い場所である。
群れの物にする立地条件的には申し分ない場所と言える。
だがそこは強欲な人間のこと、すでにその場所には村のクソ人間が毎日のように巡回しているようなのである。
早々に人間があの場所をうろつくことにより、ここは人間の土地だという既成事実をつくるつもりなのだろう。
まったく既にあれだけのお野菜のプレイスを所持していながら、まだ欲しがるとはクソ人間の強欲さには呆れるばかりだ。
だがいくら温厚なぱちゅりーでも、今回ばかりは譲ってやるつもりなど毛頭なかった。
何せ今回はドスという強力な外交カードがある、さらに立地条件も最高だ、これで引く理由などまったくない。
ぱちゅりーは作戦の第一段階として、群れにいる血気盛んな若いまりさをにある指示を与えた。
その内容は、ゆっくり固有の領土であるお野菜のプレイスを人間が横取りしようとしている、
まりさは仲間を率いて、ここは自分たちの領土だと人間に主張してきて欲しいというものだ。
その際、お野菜や人間には手を出してはダメだと注意することも忘れない。
まりさは不満がったが、それは後々の問題の単純化(ゆっくりは一方的に被害者の立場ということにしたい)を謀る為には必要なことだったので、
ぱちゅりーはお野菜は人間が完全にいなくなったあと、みんなでむしゃむしゃするためだとまりさを渋々納得させた。
そして若く正義の理想に燃えるまりさは意気揚々と山を降りていったのであった。
そこから先の展開は前記の通りである。
強欲な人間はお野菜のプレイスは全て自分のものだと思っている。
よって、ぱちゅりーの予想では毎日のように現れて、ここはゆっくりのものだと主張するまりさに、人間は次第にストレスを蓄積していくことだろう。
きっといつか必ず我慢できなくなって、まりさたちを攻撃するに違いない。
低俗なクソ人間というのは高貴なゆっくりたちと違って、野蛮で我慢が全く出来ない生き物なのである。
必ずまりさたちを攻撃するはずだ。そして、そうなればしめたものである。
この事件を口実に人間の不正や不当性を指摘し、一気に領土をゆっくりのものにするのだ!
え?攻撃されたまりさはどうなるのかって?
まあ、それはあれだ、群れの領土拡大のための尊い犠牲というやつだ。
あんな頭の悪いまりさの一匹や二匹の死で群れが拡大し、豊かな領土が手に入るというのなら安いものだろう。
きっとまりさだってみんなのゆっくりのために本望に違いないのだ。
そして今現在、全てはぱちゅりーの計算どおりにことが進んでいる。
まあ、唯一の計算違いはまりさが潰されたのではなく、人間によって拘束されてしまったということだ。
ぱちゅりーとしては、まりさには盛大かつ無残に人間によって潰されてもらうのが理想的な展開だった。
不当に殺害されたのと、不当に拘束されたのではやはり重みが違ってくるからだ。
だがまあしかし、それも今となっては些細な問題だ。
最悪の場合として、まりさが人間を倒してしまう展開も有り得たことに比べれば、全然許容範囲内の出来事だろう。
拘束されたというのなら、それはそれでいくらでもやりようはある。
まず、今回の件は大変遺憾だということで、ドスによる直接圧力でクソ人間どもに捕まったまりさの返還を迫る。
そうなればドスの武力に怯え、慌てたクソ人間どもは即刻まりさを釈放することだろう。
当然だ。まりさを返還するという簡単な条件で、ドスの怒りが静められるのならばこれをやらない手はない。
だがしかし、その浅はかな選択が命取りだということに、愚かな人間はきっと気づかないだろう。
どういう経緯があったにしろ、捕まっていたまりさを返還するといことは、人間の側の対応に非があったということを認めるということだ。
つまりそれはイコールで、あのお野菜が勝手に生えてくるゆっくりプレイスは、ゆっくりの領土であるということの強力な既成事実を作り出すことになる。
このかんっぺきな理論の前には、流石のずる賢いクソ人間でも、グウの音も出まい。
まあ、それも当然だろう。なにせこれは森のけんっじゃであるこのぱちゅりーさまが考えた作戦なのだ。
野蛮で低俗な人間などに看破されるはずもあるまい。
「むっきょきょきょきょきょ!あのぷれいすがてにはいるひもちかいわね!むっきょきょきょきょきょ!」
皆がドスと共に沸きあがる広場で、ついに抑えきれずに笑い出す幹部ぱちゅりー。
そんな森の光景の一部始終を、
「……………ふん、どいつもこいつもヘラヘラ笑って馬鹿みたな連中だ」
広場の上空にある木々の間から、一匹の正体不明のゆっくりが目撃していたことには、群れの誰もが気づいていなかった。
所変わって人間の村内の某所。
「ゆぐううう、せまいのぜ!くらいのぜ!おなかすたのぜ!どうしてまりささまがこんなめに………」
疲れた様子で一匹のまりさが箱の中で呟く。
例の畑の持ち主に攻撃を仕掛て返り討ちに合い、捕まっているまりさだった。
まりさが箱に入れてられて閉じこめられている場所は、普段使わず埃を被っている村の道具などが押し込められている古びた倉庫だ。
当然締め切ってしまえば明かりなどはなく真っ暗である。
ゆっくりはどういうわけか、自分や他のゆっくりのおうち内なら暗くても平気らしいが(思い込みで見えている?)、
この倉庫のように他の生物のテリトリー内で真っ暗になるのはダメらしい。
さらに悪いことにまりさは捕まってからはほとんど食料を貰っておらず、また身動きの取れない透明な箱にずっと押し込まれているのだ。
捕まった当初は自らの正義と人間の横暴さからくる怒りで元気一杯だったまりさだが、流石にここにきて弱気になってきていようである。
「ゆううう、おうちにかえりたいのぜ!それでおもいっきりむしゃむしゃして、それからすーやすーやしたいのぜぇ!」
心が折れそうにになっているのか、弱音を吐くまりさ。
ぱちゅりーに頼まれ、正義のために仲間を率いて今までやってきたのだが、もはやそんなちっぽけな矜持は
今のこの圧倒的にゆっくりできない環境の前ではどうでも良くなってきていた。
「だいたいぱちゅりーもぱちゅりーなのぜ!まりささまがこんなめにあってるというのに、どうしてむれのそうででたすけにこないんだぜ!」
とりあえずゆっくの基本的な性質として、ゆっくりできない原因を外部に求めはじめたまりさ。
人間に対してのそれは散々罵倒して飽きてきたのか、次の不満のターゲットは自分がこんな目にあっているのにたすけにこない群れのゆっくりというわけだ。
「いっしょにいた、れいむや、ありすもそうなのぜ!だいたい……」
一匹でぐちぐちと文句を垂れ流しているまりさ。
実に不毛な行為だが、実際に今のまりさにはこれぐらいしかやることがない。
この苛酷な環境の中、少しでもゆっくりするためには、群れのみなの悪口を言い続けるほかないのだ。
すると突然、ガラガラと音を立て、倉庫の扉が開け放たれた。
急に光が差し込み、その眩しさに目を細めるまりさ。よくは見えないがその影の大きさと形から入ってきたのは人間だということはわかった。
「ゆううう!くそにんげんがこんどはいったいなにをしにきたのぜ!
さっさとまりささまを、こんなところからだすのぜええええええ!」
もう何度目くり返したかも定かではない主張を大声で飽きもせずに、入って来た人影に発するするまりさ。
それらのバカげた主張は当然のごとく無視されると思いきや、
「ええ、もちろんですとも。私はあなたを群れに返すためにきたんですからね」
入ってきた人間はそんな意外なことをまりさに向かって言い放ったのであった。
つづく
制裁 自業自得 駆除 群れ ゲス ドスまりさ 希少種 独自設定 ナナシ作
*注意
・この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、国家とは一切関係ありません。
・独自設定の希少種が出ます。
・人間が犯罪行為を犯す場面が出てきます。
・いつも通り過去作品の登場人物や世界観が出ますが読んでなくても大丈夫です。
最近の過去作品は
とってもゆっくりできるはずの群れ
ぱちゅりー銀行
長の資質
野生の掟
金バッジの価値
私の名前は
とかです。
「だせぇ!さっさとここからだすんだぜぇ!」
一匹のゆっくりまりさが、なにやら大声で周囲に喚き散らしている。
そんなまりさの周囲には数人の人間がおり、この暴言は彼らの対してものであるようだ。
だが、出せ!という主張が物語るように、今このまりさはいわゆる透明な箱という狭い空間に拘束されていた。
「おいじじい!きこえてるのかぜ!まりささまをこんなところに、ふとうにこうそくしていいとおもってるのかぜ!
これはあきらかな、きょうってい、いはんなのぜ!むれのみんなが!いや、どすがだまってないのぜ!
わかったらさっさとまりささまを、かいほうするのぜえええええええええ!」
口汚く周囲にいる人間を罵りながら自身がおかれた境遇の不当性を訴えるまりさ。
それに伴い興奮気味に狭い透明な箱の中でガタガタと暴れるものの、当然そんなことでは箱はびくともしない。
「ええっと、コイツが例のまりさですか?」
透明な箱の周りにいる人間の中の内、一人の男が隣にいる老人に話しかける。
「そうです。このまりさが事前にお話ししていたまりさです」
隣にいた老人が男のセリフを肯定する。
「ふむ。まあこういっちゃなんですけど、ただのバカゲスですねこりゃ。
特に捕まえる必要はなかったと思いますよ。その場で潰してしまっても何の問題もなかった」
男はまりさにチラリと目線だけ向けながら言う。
「確かにその通りかもしれません。しかし場所が山のギリギリの所だったということもありましてね。
何か協定に問題や誤解がある可能性も考慮しまして、こうしてわざわざ捕まえた上、貴方に御足労願ったわけです。
ことが異種間の問題なので、私どもも慎重なのに越したことはないと思いましてな」
老人はやや恐縮しながら男へ言う。
「は、はあ。まあそうですね。慎重なのに越したことはないですね。
とにかくこのまりさだけがゲスなのか、ゆっくりの群れ全体がゲスなのかを調べる必要はありますね。
聞いた話が本当だとすると、群れ全体がゲス化傾向にある可能性もあると思われますので。
その場合はやはり、人間に対して大々的に不利益な行動を起こす前に一斉駆除するのが妥当だと思います」
そう言う男に対してに老人は、
「………そうですか。今まで特に問題がなかっただけに残念です」
と呟いた。
さて、ここはとある村の古い倉庫の中。
今、箱に閉じこめられているまりさを前にして話していた男は、ゆっくりを専門とする国営機関の人間であり、
彼と会話していた老人はこの村の村長である。
いったいこのまりさはどんなバカをやらかして閉じこめられているのか?話は随分前にまでさかのぼることになる。
この村では例によって近くの山に住んでいるゆっくりたちの群れと協定を結んでいた。
その主な内容とは決められた数以上ゆっくりの数を増やさないことや、山から村へ降りてきて人間に迷惑をかけないことなどである。
山のゆっくりたちの群れは結構以前から存在しており、したがって当然協定を結んでから結構な時間がたっていたのだが、
今までは群れのゆっくりたちも協定を守り、特にこれといったトラブルもなく住み分けができていた。
だがしかし、ふとしたきっかけからその平穏が脅かされることとなる。
そのきっかけとは、村人が山付近の場所にまで畑を拡張した事であった。
ある日のことである、いつものように畑の持ち主が山の入り口付近にある自分の畑に向かうと、
何と、ゆっくりたちが遠巻きに畑の様子を窺っていたのである。
畑の持ち主は驚いた。なぜなら、こんなところまでゆっくりたちが降りてきたのを見るのははじめてだったからである。
普段のゆっくりたちはもっと山の奥のほうに陣取っていて、こんな下の方まで降りてくるのは珍しい。
だが、まあここは山のすぐ目と鼻の先だし、たまにはそういうこともあるのだろう。
別に村に侵入したわけではないし、畑が荒らされた様子もない。そういうわけで畑の持ち主はたいして気にしなかった。
そして、ゆっくりたちもそのときは、ただ様子を見ているだけですぐにいなくなったため、何も問題は起こらなかった。
しかし、である。
畑の様子を遠巻きに観察するゆっくりたちは、日々その数を増やしていったのだ。
別に畑で作業をしている畑の持ち主にちょっかいをしかけるというわけではないのだが、じっと見られているとさすがに落ち着かない。
それにゆっくりたちは、ひそひそと何かをささやきあっていたのだ。気にならないほうがおかしい。
まあ、だが畑を耕している男とてバカではない。このゆっくりたちの目的が、自分の育てている野菜にあるということぐらいわかっている。
あわよくば何とかして野菜を手に入れようとしているということなのだろう。
しかし、人間の持ち物に手を出すことは重大な協定違反である。
もしそんなことをすれば実行犯は勿論のこと、群れそのものが駆除という可能性すらある。
流石にそこまではいかなくても、何かしらの重いペナルティを負うことは間違いないだろう。
だからこのゆっくりたちはお野菜を目の前にして、見ているだけしかできないというわけだ。
だがこの協定は男の方にも厄介な問題を起こしていた。
ゆっくりたちがただ見ているだけだという以上、たとえウザったくても男の方から手を出すことが出来ないのだ。
さらにこの畑からすぐ先は山の領域なので、ゆっくりたちにその場所にいるなと大っぴらに言う事もできない。
ここに両者共に相手のことを快く思っていないのにもかかわらず、手が出せないという硬直状態が生まれてしまったわけだ。
こういう緊張状態というのは双方にとってよくないものだ。
なまじ相手が目の前にいるのに何もできないと言う状況が一番ストレスがたまる。すぐ目の前にあるお野菜に手が出せないゆっくり。
自分の畑のすぐ近くにたむろしているゆっくりを排除できない畑の持ち主。
双方の関係は一度も言葉を交わすことなく、しかし日々険悪になっていた。
そして先に我慢ができなくなったのは、ゆっくりの方であった。
ある日のこと、畑の持ち主がいつものように自分の畑に着くと目の前の光景に驚愕した。
なんと複数のゆっくりが畑内に侵入しているではないか!
ついにこの日がやってきてしまったということか。
彼はいつかは来るのではないかと半ば予想していた目の前の光景に溜息をつき、ゆっくりたちに向かって初めて声をかけた。
「おい、お前らそんなところに陣取っていったい何のつもりだ?見てわかる通り、ここはオレの耕している畑だ。
そこに無断で侵入するのがどういうことなのかわかってるんだろうな?
さっさと山に帰って、もうここには二度と来ないと誓うのなら見逃してやるからさっさと失せな」
男は畑に侵入しているゆっくりたちに向かって吐き捨てるように言う。
幸い見たところ、畑内にある野菜には荒らされた様子がない。
どうやらこのゆっくりたちは、畑に侵入したもののまったく野菜には手をつけていないようなのだ。
普通の野菜泥棒ゆっくりならば、畑に入った瞬間におうち宣言をかまし、そのまま一目散に野菜にかぶりつくのが一般的だ。
そして人間に見つかった場合、バカな個体ならここは自分のゆっくりプレイスだと主張し潰され、少し賢い個体ならば一目散に逃げ出しやはり潰される。
ちなみに本当に賢い個体ならば、そもそも野菜泥棒などしない。
だが、不思議なことに今男の目の前にいるゆっくりたちは、そのどれにも該当しない行動をとっている。
畑の中心に堂々と我が物顔で居座り、まるで男がくるのを待っていたかのような様子さえ見受けられるのだ。
その表情はゆっくり特有のふてぶてしさが現れており、何だかよくわからない根拠の余裕すら感じられる。
そしてそのゆっくりたちは、男の物言いに対して信じられない返答を返したのであった。
「ゆゆ?にんげんさんはいったいなにをいっているのかぜ?
まりささまたちは、きょうていによってきめられた、ゆっくりのむれこゆうのりょうどで、ただゆっくりしているだけなのぜ!
むしろでていくのは、にんげんさんのほうなのぜ!」
「そうだよ!れいむたちわるくないよ!ただきめられたるーるにしたがってゆっくりしてるだけだよ!」
「はじめにきょうていをもちかけたのは、にんげんさんのほうなのに、みずからそのやくそくをやぶるきかしら?
いなかものねえ!」
「…………あ?」
口々に訳のわからないことを主張するゆっくりたちに、ただ絶句することしかできない畑の持ち主。意味不明ここに極まれである。
一体何を言っているのだこいつらは?これがおうち宣言というやつなのだろうか?
いいや、しかしどうもそれとは毛色が少しばかり違うようだ。
何故なら通常おうち宣言とは、誰もいないところを見計らって、ゆっくりが今からここを自分たちの縄張りにすると一方的に主張する行為のことを言う。
そのシステム自体は、いちいち議論するまでもなく矛盾と破綻が内在した、いわゆる声のでかい者がはじめにいったもん勝ちという、
取るに足らないものなのだが、ゆっくりたちにとっては重要な儀式らしく、自分の領地を主張する際には必ずおうち宣言をしたとのたまうはずなのである。
だが今この場にいるゆっくりたちは、協定によりおうち宣言するまでも無く、はじめからこの場所が自分たち固有の領土だったと主張しているのだ。
「おい!いったいなに訳のわからないことを言ってるんだ!
ここは村の人間の領地で、オレの畑なんだ!ゆっくりの群れの陣地はもっと山の中のはずだろうが!」
ゆっくりたちの態度に声を荒げる畑の持ち主。当然である。
自分の土地にある日突然やってきて、ここは自分たち固有の領土ですと言われて納得できるはずもない。
まだおうち宣言したから、ここは自分の領地だと主張されたほうが、同じ無茶なりにも筋が通っているというものだ。
「なにいってるんだぜ!このおやさいがかってにはえてくるゆっくりぷれいすは、まりささまたちのむれこゆうのりょうどだと、さっきからいってるのぜ!
きょうていでも、ゆっくりはやまのなかなら、じゆうにゆっくりていいってきまってるのぜ!
このばしょも、やまのなかにふくまれているからまりささまたちのものなのぜ!」
「さっきからへんないいがかりはやめてね!れいむぷくーするよ!」
「まったく!きめられた、さいていげんのるーるすらまもれないなんて、とんだいなかものね!」
口々に憤慨してみせるゆっくりたち。
「ちっ、こいつら………」
だが畑の持ち主は、そんなゆっくりたちの様子から、このクソ袋の狙いが薄々わかってきていた。
つまりはこういうことである。
野生のゆっくりは基本的に、お野菜はそこらの草や、木のように勝手に生えてくるものだと思っている。
要するにゆっくりにとって野菜は特定の場所にしか生えることのない地下資源的な認識なのだ。
それ故にお野菜が勝手に生えてくる場所(実際は人間が耕している畑)はゆっくりにとっては極上のゆっくりプレイスとなるのだ。
そしてこのまりさたちからすれば、ある日突然ゆっりの群れの領域内ギリギリの土地に、お野菜が勝手に生えてくるゆっくりプレイスが出現したように見えたのだろう。
今まで特に気にもしてなかった場所に突如豊富な地下資源が眠っていることが明らかになったというわけだ。
人間の村の領域内にある畑ならば諦めもつくが、こんな山のすぐ近くにあるこのゆっくりプレイスをやすやすと諦められないまりさたちは、
この場所がはじめから自分たちのものであったと主張する作戦に出たのだ。
人間の領地にあるお野菜を奪うのはNGだが、自分たちの領域内で勝手に生えてくる野菜を食す分には協定のルール上何の問題もないという理屈だ。
ゆっくりたちにとっては幸いにもこの場所は山の境界線のすぐ近く。
ここも山の一部だと主張されれば、なるほどそうだと言えなくもない微妙な場所であった。
ゆえにまりさたちは、男の畑に堂々と入り込み、ここは自分たちの領土であるという主張や振る舞いをすることで、
いわば既成事実のようなものを作り出そうとしているのだ。
「ようやくりかいしたのかぜ!ここはまりささまたちのゆっくりぷれいすだってことを!
わかったらさっさとでていくのぜ!いまならみのがしてやるのぜ!」
黙っている畑の持ち主を見て、勝利を確信したのか高圧的な態度で言うまりさ。
「ああ、わかったぜ。お前らが話しに聞いていた以上のクソどもだってことがな」
それだけ言うと、畑の持ち主は、ゆらりと殺気を纏いながらまりさたちに近づいていく。
勿論潰すためにである。
ゆっくりどもが何と主張しようとここは村の領土であり、畑は男の土地なのだ。
つまり協定違反はゆっくりたちのほうであり、つまりこれは必然的かつ常識的な行動であるといえる。
だが、
「ゆゆ!じじいがおこったのぜ!にげるのぜ!」
「おおこわい!こわい!」
「まったくいなかものはこれだからこまるわ!」
意外なことに、敏感に自らの危機を察したゆっくりたちはすたこらと、あっさり退散してしまった。
まあ、所詮はゆっくりの逃走速度なので、追いかければ潰す事もできたのだが、畑の持ち主はそこまではしなかった。
何故ならゆっくりたちは、畑に居座っていただけで被害はなかったし、
それになんだかこう、あんなくだらない連中を必死に追いかけては潰す自分の姿を想像してバカバカしくなったのだ。
「クソ、なんだってんだよ」
どっと疲れた畑の持ち主は深く溜息をついたのであった。
だがこれで事態が収束に向かったかと言えばそんなことはなかった。
むしろこの出来事をきっかけとして、男の畑には度々ゆっくりが現れるようになってしまったのだ。
さらにそれらのゆっくりたちの行動はいやらしいまでに一貫していた。
男が畑にやってくると、ゆっくりたちが畑の中心に堂々と鎮座しておりここは自分たちのものだと主張するようにゆっくりしている。
そして男の姿を見つけると、ここはゆっくりの群れ固有の領土だと捨て台詞を吐いて一目散に退散する。
毎日これをくり返しているのだ。
幸い、野菜にはまったく手がつけられていないため(もし食べられていたら、追っかけてでも潰していた)実質的に被害はないのだが、
毎日こんなことをやられる畑の持ち主はたまったもんじゃなかった。
そして僅かだがここは自分たちの土地であるという既成事実を作るという、ゆっくりたちの思惑通りの効果もあった。
毎日のように畑にいるゆっくりたちを見て、いつの間にか畑の持ち主は、ゆっくりがそこにいることにそれ程違和感を持たなくなってきていたのだ。
とはいえ、効果のほどは所詮そこまでだった。
仮に畑の持ち主がゆっくりがそこにいることを普通に思ったとしても、この場所をゆっくりのものだと彼が認めることは絶対になからだ。
せいぜいただ何かウザイ連中がいるなぁ程度の認識でしかない。それだけのことだ。
だから一連のゆっくりたちの行為は完全に無駄なのだ。
さて、ここで多くの人はこう思うのだろう。
何でこんなムカつくクソ饅頭どもを追っかけてでも潰してしまわないのかと?
それには理由が二ほどある。
一つ目は、畑に被害がないこと。
これは度々述べているが、ゆっくりたちは畑に侵入はするものの作物には一切手を出さないのだ。
恐らく手を出せば絶対に命がないということを理解しているのだろう。
二つ目は、畑の持ち主の村での立場を考えた上のでのことである。
別に彼が村で嫌われているとかそいうわけではない。特に何の問題も無い普通の村の一員である。
しかし特別な立場でない普通の村人であるがゆえに彼は考えるのだ。
もし自分がこのゆっくりたちを潰してしまったことによって、今まで何の問題も無かったゆっくり連中と厄介ごとが起こり、
村に面倒ををかけることとなったら?
無論今回のケースは、たとえ畑に来ているゆっくりたちを全て潰してしまってもまったく人間側は悪くない。
むしろゆっくりがその責を問われるケースではある。
だがやはりそれでも、自分の行動が発端で村全体に面倒ごとを持ち込んでしまうことには変わりないのだ。
そんなもの気にしすぎだ、畑の持ち主は何も悪い事はしていないのだから気に病む事ではない、と思うかもしれないが、
狭い村社会ではそういった全体のことを気にかけずに生きていくことは難しいのだ。特にこの国では。
例えば正しく認められた行為だからといって、会社で有給を全て使って旅行に行って帰ってきてみれば、社内から自分の机がなくなっていた!
なーんてことが平然と起こりえる様に、いくら正しいとはいえ自らの行為によって共同体全体に迷惑をかけることはなるべくならば避けたほうがいい、
いや避けなければならないというのがこの国の全体的な風習である。
この畑の持ち主も、例のごとくうかつに厄介ごとを引き起こすぐらいならば、被害もないしこのままでも構わないと結論したのだった。
だがそれもある意味で事の均衡が何事もなく保たれていたからだ。
このラチが明かない事態に対して先に均衡を破ったのは、やはりまたゆっくりのほうだったのである。
ある日のこと。いつものように畑に行くとゆっくりの集団がいた。もはや見慣れた光景である。
だがしかし今日はいつもとは様子が違った。
「おいじじい!いったい、いつになったらりかいするのかぜ!
ここはまりささまたちのりょうどなのぜ!さっさとでていくのぜ!」
いつもは畑の持ち主が現れるや一目散に退散するはずのゆっくりたちだが、何故か今日は一匹のまりさが男に向かって挑むように話しかけてくる。
そんな様子のまりさに男は軽く溜息をつきながら言う。
「ハァ、何度も言うよだが、ここは村の領地で、オレが耕している畑なの。
お前らこそいい加減諦めて山に帰るんだな。
たとえ天地がひっくり返ったとしても、この場所がお前らの領地になることはねえよ」
「ゆぎいいいいいい!いいかげんに………いいかげんにするのぜええええええええええ!」
その時、信じられないことが起こった。
なんと畑の持ち主と話していたまりさが、突然怒りの体当たりを仕掛けてきたのだ。
「なっ!」
ボスッ!
そんな軽いマヌケな音を立てて畑の持ち主の足にぶつかるまりさ。
畑の持ち主はまさかゆっくりがこんな暴挙に出るとはさすがに予想できず、まりさの体当たりをまともにくらってしまう。
「はあ、はあ、おもいしったのかぜ!これにこりたらさっさとこのりょうちからでていって、にどとあらわれるんじゃないんだぜ!
ここはゆっくりのむれこゆうのりょうどなのぜえええええええええええ!」
勝ち誇った顔で男を見上げるまりさ。
しかし、次の瞬間その顔面には男のケリがめり込んだ。
グチャ!
まりさが体当たりしたときとはまったく違う鈍く思い音があたりに響く。
「ゆっびゅおびいいいいいいいい!」
ケリのダメージを全身でもろに受けたまりさはその勢いのまま吹っ飛ばされる。
「おい!テメェお前自分がいったいなにしたかわかってるのか!」
吹っ飛ばされたまりさに畑の持ち主の怒声が上がる。
ついにこのまりさは超えてはならない一線を越えてしまったのだ。
ちなみに言うまでもないことだが、畑の持ち主はまりさの体当たりによってまったくダメージを受けていない。
彼が怒っているのは、まりさの行動の結果ではなく、行動そのものが原因なのである。
本来ならばゆっくりが人間の畑に入ってくること事態が協定違反なのだ。
その上さらに人間の領地に入ってきたゆっくりが、人間に攻撃を仕掛けるなんてことはあってはならないのだ。
いくら村全体の問題を気にして見逃してきたとはいえ、このまりさの行為を捨て置くわけには行かない。
いや、逆にもしこの行為を黙認したとしたら、かえって村に対して悪影響がでる。
そう判断した畑の持ち主は迷いなくまりさを蹴飛ばしたのだった。
だがしかし、
「ゆああああああああああ!くそにんげんが、ゆっくりのりょうどでらんぼうしてるよおおおおおおお!」
「きょうってい、いはんだああああああああああああああああ!」
「とんでもないいなかもののしょぎょうね!これはゆるされることじゃないわ!」
「ゆゆ!にげるよ!にげてこのことを、どすにほうこくするよ!」
まりさが吹っ飛ばされたのを見て、反省するどころか、
勝手な事をほざきながら、ちりじりになって逃げていくゆっくりたち。
「あ、おい!まちやがれ!」
追いかけようとする男。だがしかしすぐにそれは無駄だと悟る。
無論今から追いかければ、何匹かを捕まえることはできるだろう。だが全てを捕まえることは無理だろう。
どの道このことはゆっくりの群れには知られてしまうのだ。
それにもうことは自分だけの問題でもなくなっている。
村全体の判断を仰ぐ必要があった。
「ふう、まったくついてないよほんと」
それだけ言うと畑の持ち主は、端のほうでピクピクと痙攣しているまりさを乱暴に持ち上げると、村の中央へと事の顛末を報告しに向かったのであった。
そして今現在。
このような経緯をたどってまりさは捕まり、透明の箱に押し込まれていた。
「こっからだすのぜえ!こんなことしてただですむとおもってるのかぜえええええええ!
どすがせいっさいしにくるのぜえええええええ!」
今後のことについて話をしている男や村長に向かって、透明な箱の中からなおも暴言を吐き続けるまりさ。
まりさにしてみれば、自分たちのゆっくりプレイスにいつまでの居座る人間を制裁しようとしただけで、
自身が悪い事をしたという自覚は皆無であるのだろう。
よって反省や謝罪のといった態度はまったくない。
まあ、もし仮にまりさがごめんなさいしたところで、簡単に許されるような状態を事態はとっくに過ぎてはいるのだが。
「ああっと、そうだまりさ」
「ゆあ?やっとあやまちをみとめて、まりささまをだすきになったのかぜ!」
村長との話しが一通り終わった男が、箱の中にいるまりさに話しかける。
「いや、そんなことどうでもいいんだよ。お前に何を話したところで自分がやったことは理解できないだろうしな。
オレが聞きたいのはお前がさっきから言っているドスうんぬんの話だ。
たしかお前の群れにはドスはいなかったはずだ。どこかから流れてきたドスが新しく長にでもなったのか?」
そう問いかける男。
男の言うとおり、今までこの付近にあるゆっくりの群れにドスはいなかったはずなのだ。
少なくとも前回視察に来たときにはその姿を確認することはできなかった。
それなのに、このまりさはドスが制裁にやってくる、ドスが黙ってはいないなどと口々に訴えている。
また村長から聞いた回想の話でも、一部のゆっくりがドスに言いつける等の発言をしている。
これはつまり、どこからかのドスがやってきて新たに群れの長になったということなのだろうか?
「ゆっへっへっへ!そうなのぜ!まりささまのむれにはどすがいるのぜ!それもそのへんからやってきたよそもののどすとはわけがちがうのぜ!
まりささまのむれのゆっくりが、どすになったのぜ!つまりまりささまのむれのゆっくりは、えらばれたとくべつなゆっくりというわけなのぜ!
いずれまりささまだって、どすになるにきまってるのぜ!そうなったらおまえらなんか、どすすぱーくでいちころなのぜ!」
そう胸を張って答えるまりさ。
「ああ、つまり群れのゆっくりが突然ドス化したってわけね。はぁ、最悪」
「どうやらそうらしいですな。村の者たちもここ最近それらしいドスの姿を見たと報告しております」
溜息をつく男に村長が補足した。
ゆっくりについては未だに解明されていない謎が幾つも存在する。
ゆっくりまりさによる突然のドス化もその謎の一つだ。
ある者は何らかの環境的要素が原因でドス化すると主張し、またある者は何らかの遺伝的要素が原因でドス化すると主張している。
今のところ後者の遺伝的要素説がやや優勢のようだが、そのわりにドスの因子となるゆっくりを人工的に作り出す研究は失敗続きらしく、
飼いゆっくりがドス化したという報告もない。
それに対して相変わらず野生や野良のゆっくりのみが定期的にドス化しており、やはり遺伝だけでなく他に何か条件があるのではないかと議論されている。
まあ、ドス化の原因が何であるかはこの際どうでもいい。
問題は今回のケースのように、突然群れのゆっくりがドス化することにより、今まで何事も無く均衡状態だった人間とゆっくりの関係に
変化が訪れてしまうことがある事だ。
ドスがこの件に関わっているかどうかは今のところ不明だが、このまりさの強気の発言の根拠の一部はドスが背後にいるというものからきていることは間違いないだろう。
「まあ、ドスがいるってんなら少し慎重にやるとしますよ。とにかく明日にでも群れに話をしに行ってみます」
「はい。どうかよろしくお願いします」
聞きたいことはもう聞き終えたとばかりに話を切り上げる男と村長。
「まつのぜえええええ!だからまりささまをさっさとここからだすのぜええええええ!」
なおも叫ぶまりさを倉庫に残し、一同はその場を後にしたのだった。
「あ゛ー、ただいまー」
「むきゅ!お帰りなさい人間さん」
疲れた様子で村の宿屋の一室に入ってくる男。
それを出迎えたのは一匹のゆっくりぱちゅりーだった。
このぱちゅりーは男の連れているゆっくりである。
以前とある群れで出会い、その時の事件がきっかけで行動を共にするようになったゆっくりである。
「あれ、お前だけ?あいつは?」
男が部屋を見回しながら言う。
ぱちゅりーのほかにいるもう一匹のゆっくりの姿が見当たらないようだ。
「こんな所でじっとしてるのは退屈だから散歩してくるって言って、窓から飛んでちゃったわよ。
まったく勝手なんだから!」
ぱちゅりーが開けっ放しになっている窓に視線を向けながら言う。
「ありゃそう。じっとしてられないやつだからな。
まあガキじゃないしほっとけばいいさ。適当に腹でも減ったら帰ってくるだろ」
そう男は特に気にした風もないく言う。
「むきゅ、そんなことより、今回の群れの様子はどうなのかしら?
上手くまとめられそうなの?」
「さーどうかな。話を聞いた限りでは問題を起こしたまりさが単独でバカやっただけなのか、
群れ全体の意思の元動いていたのかわからんからねえ」
「むきゅ!そうなの?捕まったまりさは、ドスがどうとかいろいろ騒いでると聞いたけど?」
「悪事を働いたゆっくりが、バックにドスがいるから自分に手を出すなみたいに虎の威を借る的な発言をするのはよくあることさ。
それだけドスが関わっているかどうかは断定はできないよ。
でもなー、一連の事件の流れを聞いてると、群れ全体での謀の可能性が高いんだよなー。
最悪あのまりさは、やられることが前提の捨て駒って可能性すらある」
男はやれやれといった感じで呟く。
「どういうことなの?」
「簡単に言うと、群れの連中がゆっくりは何も悪いことしてないのに一方的に被害を受けましたって難癖つけてくるってこともありえるってこと」
「人間さんの畑でまりさがいきなり体当たりしてきたんでしょ?それでどうして、ゆっくり側が一方的に被害を受けたことになるわけ?」
最もな疑問を口にするぱちゅりー。
「向こうから仕掛けてきたっていう証拠はないさ、野菜が荒されていない以上ゆっくりたちが畑に入ってきたっていう証拠もない。
まあ、足跡ぐらいはあるかもしれんがね。
つまり確実に確かなのは、人間にまりさが捕まっているという事実だけなわけだ」
「ちょっと!村の人間さんが嘘をついているいいたいの!」
驚いた風に言うぱちゅりー。
「いいや、全然。だって人間がそんな嘘つく必要なんて全然ないじゃん。状況から考えてもまりさのほうから仕掛けたのはほぼ間違いないだろう。
ただ状況からしてそういう解釈も可能だということだ。そしてゆっくりたちは自分たちの都合のいい解釈でこちら側が悪いと主張してくるかもしれないってわけさ」
「ああ、わかったわ。それで人間さんはまりさが捨て駒っていったわけね。
つまりゆっくりたちが因縁をつけるためのきっかけとしての意味で。
それでこちらに非があるとして何か無茶な要求を通そうとしている?」
「そういうこと。まあ、奴らがそこまで考えて行動してるかわからんけどね。
あくまでそういう意図のもとに行動していると考えることもできるってだけで。
そんなことよりもバカなまりさが、野菜ほしさに群れの掟を破ってやらかしただけって、可能性のほうが全然高いわけだし。
とにかく全ては明日にでも群れに様子を見に行ってみないことには判断できんわけだ」
と、男は話を結論付ける。
「むきゅ。それもそうね。願わくばまりさの単独犯であってほしいところだけれど、でも何だか今回はそう単純にはいかなそうな気がするわ」
そう不安を口にするぱちゅりーであった。
一方その頃山の奥にあるゆっくりの群れでは今回の件に対して怒りや憤りを感じているゆっくりたちによる集会が開かれていた。
「おうっぼうな、にんげんのぼうきょをゆるすなああああ!」
「「「「ゆおおおおおおおおおおお!」」」」
「あのおやさいがはえてくるぷれいすは、ゆっくりのむれこゆうのりょうどである!」
「「「「ゆおおおおおおおおおおお!」」」」
「くそにんげんは、ふとうにこうそくされているまりさを、そっこくしゃくほうすべきである!」
「「「「ゆおおおおおおおおおおおお!」」」」
先頭を仕切っているぱちゅりーの掛け声に応じて雄叫びを上げるゆっくりたち。
どのゆっくりもみな今回の件について、怒り沸騰の様子である。
それも当然であろう。何しろ人間の側からお願いしますと持ちかけてきた協定を、人間の側から破ったのだ。
こんな無茶苦茶が許されていいのだろうか?いやよいはずがない!
「ゆゆ!どすだ!どすがきてくれたよ!」
突然一匹のゆっくりが叫ぶ。
するとその言葉通りに、集会が開かれている広場にゆっくりとドスが現れたのであった。
「どす!くそにんげんたちをせいっさいしてよ!」
「むれのなかまが、つかまってるんだよ!はやくとりかえしにいってね!」
「ゆゆ!どす!れいむとすーりすーりしようね!」
思い思いの事を口走りながら、集会所に現れたドスの周りに集結しだすゆっくりたち。
それに対してドスはやや複雑な表情を浮かべている。
「みんなちょっとれいせいになってね!みんなのきもちはよくわかるよ!
でもだからって、いきなりにんげんさんをせいっさいするのはよくないよ!
こっちもなにか、しらないうちにわるいことをしているかもしれないんだし……」
そう興奮するゆっくり一同をいさめる発言をするドス。
その様子は何となくオドオドとした頼りないものに見えた。
このドスはドスになってからまだ日が浅かった。
そもそもまりさは、ドス化する前までは長でも何でもないごく普通の群れの一員であったのだ。
それがある日突然ドス化してしまい、群れの長として祭り上げられてしまってまったのだ。
それゆえどことなく弱気というか、リーダーとして群れを引っ張っていく貫禄が足りないところがあった。
いきりたつゆっくりたちを前にしての、この弱気ともいえる発言もそういった理由からだ。
最も今回はその選択が正解なのだが。
「むぎゅ!どす!まだそんなあまいことをいっているの!」
そんなドスの様子を見かねたのか、今まで集会を先頭で仕切ってきたぱちゅりーがドスを叱責する。
このぱちゅりーは、まりさがドス化する前までこの群れで長をしていたゆっくりだった。
現在は長の地位をドスに譲り、自分は参謀としてドスの右腕を自称している。
というか、実はドスになったばかりで右も左もわからないまりさに変わってほとんどの仕事をぱちゅりーが行っていた。
つまり、建前上長の地位こそドスに譲ったが、いまだ群れの実権を握っているのはこのぱちゅりーということになる。
「ゆゆ、ぱちゅりー!でもそんなこといったって……」
「いい!どす!こんかいのけんは、あきらかにくそにんげんのほうにひがあるわ!
どすも、かえってきたれいむたちのはなしをきいたでしょう!」
「ゆむむむむ!」
唸るドス。
確かにれいむたちの言っていることが本当ならば、明らかに悪いのは人間のほうだとドスも思っているようだ。
「ゆゆ!もういちどかくにんするけどれいむ、にんげんさんのほうからさきにこうげきをしかけてきたんだよね?」
ドスが畑から帰還したれいむたちに質問する。
「そうだよ!れいむたちはただゆっくりしていただけだよ!それなのにあのくそにんげんが、いきなりこうげきをしかけてきたんだ!」
「まさか、ゆっくりのりょうどで、にんげんがあんな、ぼうきょにでるなんておもいもしなかったわ!」
「わかるよー!もしふいうちさえされなければ、あんなにんげんなんかにちぇんたちがおくれをとるわけがないんだねー!」
口々に訴えるゆっくりたち。
あの畑にいたゆっくりたちの主張は、人間のほうからいきなり攻撃を仕掛けてきたということで一致している。
それは実際に起こった事実とはちょっと違うよな気がしないでもないが、そのことを指摘するものはだれもいない。
「ゆふう!わかったよ。どすとしてはなるべくにんげんさんとは、もめごとをおこしたくなかったけど、しかたないね。
ちかいうちに、ふもとのむらにまでおりて、にんげんさんとはなしをしてみるよ!」
渋々といった様子のドス。
だがしかし、幹部ぱちゅりーはそんなドスをさらに叱責する。
「どす!はなしをするなんて、なにをよわきになっているの!これはあきらかな、きょうってい、いはんなのよ!
そもそもくそにんげんと、ゆっくりのどっちがさきにこうげきしかけたなんてかんけいないの!
ゆっくりのむれのりょうどで、ゆっくりしていたまりさが、くそにんげんにより、いわれのないぼうりょくをふるわれ、
いまだふとうにこうそくされている!
こんなことを、むれとしてみとめるわけにはいかないの!どすはぜんりょくでこのけんにたいして、こうぎをすべきなのよ!」
「そうだ!そうだ!」
「どす!おそれることはないよ!わるいのはくそにんげんのほうだよ!」
「ありすたちは、るーるにしたがったとうっぜんのけんりをしゅちょうしているだけよ!」
ぱちゅりーの発言のに対してその場にいた多くのゆっくりが呼応する。
「ゆゆ!わかったよ!どすがまちがってたね!こんどふもとのむらにいくときは、どうどうとにんげんさんに、
まりさをかえすように、つよきでようっきゅうすることにするよ!」
それらの勢いに励まされたのか、ドスはキリッとした表情になり強気の行動を群れのゆっくりに約束する。
ちょっと周りから煽られただけですぐに自分の意見を変えてしまうところなどは、やはり稚拙なリーダーといったところか。
「ゆおおおおおおおおおおお!」
「さっすがどすだね!」
「どすー!すーりすーりしてー!」
ドスの発言によって興奮の渦に包まれる広場。
そんな最中にあって幹部ぱちゅりーは、
(むっきょきょきょきょきょ!うまくいったわ!すべてぱちぇのけいっさんどうおり!)
と、内心ほくそ笑んでいた。
そう、今のこの状況は、全てこの幹部ぱちゅりーの思い描いた通りの展開であったのだ。
まりさがドス化する前、つまり幹部ぱちゅりーが長をしていたとき、ぱちゅりーは表向き人間に対して従順な態度をとっていたが、
内心では鬱積が堪りにたまっていた。
なぜ自分たちがこんな僅かな山の領土に押し込められなければならないのか!
なぜ豊富なお野菜資源があるゆっくりプレイスを人間が独り占めしているのか!
さらにその挙句、ゆっくりの反乱を怖れてかスッキリ制限までする始末!
こんな屈辱は森のけんじゃであるぱちゅりーには到底受け入れられるものではなかったが、しかし渋々と従わないわけにもいかなかった。
森のけんじゃぱちゅりーによる高度なけいっさんでは、人間の戦力とゆっくりの戦力はちょうど五分五分で拮抗しているのだ。
けんじゃのぱちゅーによるてんっさい的な作戦を駆使すれば、たとえ同じ戦力でもゆっくりたちの勝利は間違いないのだが、
しかし流石のぱちゅりーでも、こちら側にも相応の被害がでることは避けられないだろう。
仮に強引に戦争を起こして、お野菜のゆっくりプレイスを手に入れられたとしても、群れの大半が崩壊してしまっては意味がないのだ。
それに争いの結果によって強奪した土地は、その後常に奪還される危険性を内包している。
常時土地を守るために警戒していたのではゆっくりできないだろう。
ぱちゅりーは何とか無傷でかつ恒久的にお野菜のゆっくりプレイスを手に入れることができないかと、日々思考をめぐらしていた。
そんなある日のことである、思いもよらない幸運が群れに訪れる。
なんと群れ内のまりさが、突然ドス化したのだ!
これには群れの皆も大いに喜んだ。ドスは通常種ゆっくりの希望の象徴、いやこの場合はゆっくりの象徴か。
とにかくドスがいればゆっくりできるというのは、野生のゆっくりの間では常識と言っていいほどの共通認識なのである。
突然のドス化に戸惑う当のまりさをよそに、これでゆっくりできると有頂天になる群れのゆっくりたち。
無論その喜びはぱ長ぱちゅりーとて同様だった。
ぱちゅりーのけいっさんでは、ドスという新たな要素が加わることで今まで拮抗していたゆっくりと人間の戦力比は、
一気に6:4いや、7:3にまで激変することになる。
これによりドスという交渉のカードをちらつかせながら、武力による圧力を掛けることで、人間から土地を奪うという作戦が可能となるのだ。
そしてさらに幸運は続く。
何と、山を下ったすぐ側の地点に、お野菜の勝手に生えてくるゆっくりプレイスが存在してることが調査(偶然見つけただけ)の結果わかったのだ。
あの場所は山の一部なのか、麓の村の一部なのかパッと見判断がし辛い場所である。
群れの物にする立地条件的には申し分ない場所と言える。
だがそこは強欲な人間のこと、すでにその場所には村のクソ人間が毎日のように巡回しているようなのである。
早々に人間があの場所をうろつくことにより、ここは人間の土地だという既成事実をつくるつもりなのだろう。
まったく既にあれだけのお野菜のプレイスを所持していながら、まだ欲しがるとはクソ人間の強欲さには呆れるばかりだ。
だがいくら温厚なぱちゅりーでも、今回ばかりは譲ってやるつもりなど毛頭なかった。
何せ今回はドスという強力な外交カードがある、さらに立地条件も最高だ、これで引く理由などまったくない。
ぱちゅりーは作戦の第一段階として、群れにいる血気盛んな若いまりさをにある指示を与えた。
その内容は、ゆっくり固有の領土であるお野菜のプレイスを人間が横取りしようとしている、
まりさは仲間を率いて、ここは自分たちの領土だと人間に主張してきて欲しいというものだ。
その際、お野菜や人間には手を出してはダメだと注意することも忘れない。
まりさは不満がったが、それは後々の問題の単純化(ゆっくりは一方的に被害者の立場ということにしたい)を謀る為には必要なことだったので、
ぱちゅりーはお野菜は人間が完全にいなくなったあと、みんなでむしゃむしゃするためだとまりさを渋々納得させた。
そして若く正義の理想に燃えるまりさは意気揚々と山を降りていったのであった。
そこから先の展開は前記の通りである。
強欲な人間はお野菜のプレイスは全て自分のものだと思っている。
よって、ぱちゅりーの予想では毎日のように現れて、ここはゆっくりのものだと主張するまりさに、人間は次第にストレスを蓄積していくことだろう。
きっといつか必ず我慢できなくなって、まりさたちを攻撃するに違いない。
低俗なクソ人間というのは高貴なゆっくりたちと違って、野蛮で我慢が全く出来ない生き物なのである。
必ずまりさたちを攻撃するはずだ。そして、そうなればしめたものである。
この事件を口実に人間の不正や不当性を指摘し、一気に領土をゆっくりのものにするのだ!
え?攻撃されたまりさはどうなるのかって?
まあ、それはあれだ、群れの領土拡大のための尊い犠牲というやつだ。
あんな頭の悪いまりさの一匹や二匹の死で群れが拡大し、豊かな領土が手に入るというのなら安いものだろう。
きっとまりさだってみんなのゆっくりのために本望に違いないのだ。
そして今現在、全てはぱちゅりーの計算どおりにことが進んでいる。
まあ、唯一の計算違いはまりさが潰されたのではなく、人間によって拘束されてしまったということだ。
ぱちゅりーとしては、まりさには盛大かつ無残に人間によって潰されてもらうのが理想的な展開だった。
不当に殺害されたのと、不当に拘束されたのではやはり重みが違ってくるからだ。
だがまあしかし、それも今となっては些細な問題だ。
最悪の場合として、まりさが人間を倒してしまう展開も有り得たことに比べれば、全然許容範囲内の出来事だろう。
拘束されたというのなら、それはそれでいくらでもやりようはある。
まず、今回の件は大変遺憾だということで、ドスによる直接圧力でクソ人間どもに捕まったまりさの返還を迫る。
そうなればドスの武力に怯え、慌てたクソ人間どもは即刻まりさを釈放することだろう。
当然だ。まりさを返還するという簡単な条件で、ドスの怒りが静められるのならばこれをやらない手はない。
だがしかし、その浅はかな選択が命取りだということに、愚かな人間はきっと気づかないだろう。
どういう経緯があったにしろ、捕まっていたまりさを返還するといことは、人間の側の対応に非があったということを認めるということだ。
つまりそれはイコールで、あのお野菜が勝手に生えてくるゆっくりプレイスは、ゆっくりの領土であるということの強力な既成事実を作り出すことになる。
このかんっぺきな理論の前には、流石のずる賢いクソ人間でも、グウの音も出まい。
まあ、それも当然だろう。なにせこれは森のけんっじゃであるこのぱちゅりーさまが考えた作戦なのだ。
野蛮で低俗な人間などに看破されるはずもあるまい。
「むっきょきょきょきょきょ!あのぷれいすがてにはいるひもちかいわね!むっきょきょきょきょきょ!」
皆がドスと共に沸きあがる広場で、ついに抑えきれずに笑い出す幹部ぱちゅりー。
そんな森の光景の一部始終を、
「……………ふん、どいつもこいつもヘラヘラ笑って馬鹿みたな連中だ」
広場の上空にある木々の間から、一匹の正体不明のゆっくりが目撃していたことには、群れの誰もが気づいていなかった。
所変わって人間の村内の某所。
「ゆぐううう、せまいのぜ!くらいのぜ!おなかすたのぜ!どうしてまりささまがこんなめに………」
疲れた様子で一匹のまりさが箱の中で呟く。
例の畑の持ち主に攻撃を仕掛て返り討ちに合い、捕まっているまりさだった。
まりさが箱に入れてられて閉じこめられている場所は、普段使わず埃を被っている村の道具などが押し込められている古びた倉庫だ。
当然締め切ってしまえば明かりなどはなく真っ暗である。
ゆっくりはどういうわけか、自分や他のゆっくりのおうち内なら暗くても平気らしいが(思い込みで見えている?)、
この倉庫のように他の生物のテリトリー内で真っ暗になるのはダメらしい。
さらに悪いことにまりさは捕まってからはほとんど食料を貰っておらず、また身動きの取れない透明な箱にずっと押し込まれているのだ。
捕まった当初は自らの正義と人間の横暴さからくる怒りで元気一杯だったまりさだが、流石にここにきて弱気になってきていようである。
「ゆううう、おうちにかえりたいのぜ!それでおもいっきりむしゃむしゃして、それからすーやすーやしたいのぜぇ!」
心が折れそうにになっているのか、弱音を吐くまりさ。
ぱちゅりーに頼まれ、正義のために仲間を率いて今までやってきたのだが、もはやそんなちっぽけな矜持は
今のこの圧倒的にゆっくりできない環境の前ではどうでも良くなってきていた。
「だいたいぱちゅりーもぱちゅりーなのぜ!まりささまがこんなめにあってるというのに、どうしてむれのそうででたすけにこないんだぜ!」
とりあえずゆっくの基本的な性質として、ゆっくりできない原因を外部に求めはじめたまりさ。
人間に対してのそれは散々罵倒して飽きてきたのか、次の不満のターゲットは自分がこんな目にあっているのにたすけにこない群れのゆっくりというわけだ。
「いっしょにいた、れいむや、ありすもそうなのぜ!だいたい……」
一匹でぐちぐちと文句を垂れ流しているまりさ。
実に不毛な行為だが、実際に今のまりさにはこれぐらいしかやることがない。
この苛酷な環境の中、少しでもゆっくりするためには、群れのみなの悪口を言い続けるほかないのだ。
すると突然、ガラガラと音を立て、倉庫の扉が開け放たれた。
急に光が差し込み、その眩しさに目を細めるまりさ。よくは見えないがその影の大きさと形から入ってきたのは人間だということはわかった。
「ゆううう!くそにんげんがこんどはいったいなにをしにきたのぜ!
さっさとまりささまを、こんなところからだすのぜええええええ!」
もう何度目くり返したかも定かではない主張を大声で飽きもせずに、入って来た人影に発するするまりさ。
それらのバカげた主張は当然のごとく無視されると思いきや、
「ええ、もちろんですとも。私はあなたを群れに返すためにきたんですからね」
入ってきた人間はそんな意外なことをまりさに向かって言い放ったのであった。
つづく