ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1620 合わせ鏡のカルマ
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『合わせ鏡のカルマ』
「ゆっくりしていってね!!!」
私の目の前に現れたのは一匹の成体れいむと、二匹の赤れいむ。見るからに生意気そうな表情の三匹に、決して関わり合いに
はなるまいと鼻歌を歌いながら、それらの横を通過しようとした。その時、私の左足に小さな衝撃が。眉をひくつかせて目線を
下に向けると、私以上に眉をひくつかせた親れいむが頬に空気を溜めながら私の事を睨みあげている。
「ぷくぅぅぅぅ!!!」
威嚇を続ける親れいむ。その左右の揉み上げに隠れながら、二匹の赤れいむも「ぷきゅぅ」などと言って私を威嚇している。
私は自らを振り返ってみた。会ったばかりのゆっくり親子に威嚇をされる理由はなんだろう。挨拶を返さなかったことが癇に障
ったのだろうか。先日立ち読みした『月刊ゆっくり』のコラムに“野良ゆに挨拶を返すと付け上げるので無視するのが得策”と
書いてあったので、それの通りに行動したつもりだったのだが。まぁ、しかし……挨拶をされても返さないというのは淑女とし
てはどうだろう。例え、相手がゆっくりとは言え礼を失するようなことにはならないだろうか。溜め息をつきながら、れいむ親
子に目を向ける。
「ゆっくりして――――」
「れいむのかわいいちびちゃんをみてゆっくりできたでしょっ!? だから、おれいにあまあまさんをちょーだいねっ!!!」
「ちょうだいにぇっ!!!」
笑顔のまま凍りつく私。いや、実際に鏡を見て自分の表情を確認したわけではないのでわからないが、きっとその形容は間違
っていないように思う。今このゆっくりたちはなんと言ってきたか。幻聴だろう。そうに違いない。そうに決まっている。それ
でなければこれはきっと“ゆっくり語”か何かだ。そうでなければ説明がつかない。
「え?」
「おねーさん!! かわいいかわいいれいむのちびちゃんをみたのに、あまあまさんをわたさないとか、ばかなの? しぬの?
ゆっくりできたんでしょ? だったら、れいむたちにおれいをするべきじゃないの? これだからゆっくりできないおねーさん
はだめだよ……。 もっと、ゆっくりしてね? れいむはゲスがだいっきらいっ!なんだよ」
いやはや見事な手際だ。私も二十半ばとなり落ち着いてきたと自分自身に言い聞かせてきたが、久しぶりに拳を握り締めてし
まった。分かってはいる。相手はたかがゆっくりだ。殴れば死ぬし、蹴っても死ぬし、踏んでも死ぬ程度の存在でしかない。で
も、私の気持ちがわかるだろうか。そんな奴に“馬鹿”と言われ、“駄目”と言われ、“ゲス”呼ばわりまでされた私の気持ち
が。私を真っ直ぐに見つめる親れいむの自信に満ちた表情のなんと清々しいことだろう。まるで「この世は私の為にある」とで
も言わんばかりの面持ちではないか。ある意味、羨ましい。
「さっきからなにをだまってるのぉぉぉ?! はやくあまあまさんをちょうだい、っていってるでしょおおぉぉぉ?! ゆっく
りできない“ばばあ”だねっ!!! れいむ、いいかげんにしないとおこるよっ?! ぷんぷんっ!!!!」
親れいむ。てめぇは私を怒らせた。
ババア。それは私にとって……いや、世の女性にとって禁句だ。本当のババアにでさえ、ババアなどと軽々しく言ってはなら
ない。私はれいむ親子の前にしゃがみ込んだ。
「ゆふん! やっとれいむのいうことをきくきになったんだね?」
「ごめんね? 私、あなたたちの大好きな“あまあま”を持っていないの」
「ゆっきぃぃぃぃ!!!! どういうことなのぉぉぉ?! ただみなの?! しんじられないゲスだねっ!!!! にんげんさ
んとしてはずかしくないの?! こんなにかわいいかわいいれいむ゛ぎゅぶる゛ぶぶぶ……!!!!!」
「お、おきゃあしゃああああん!!!!」
「ゆんやああああああ!!!!」
いけない。いつの間にか親れいむを踵で踏みつけてしまっていた。危うく潰してしまうところだった。よほど苦しかったのか、
涙と涎をぼたぼた零しながら何やら「ゆーゆー」私に文句を言ってくる。小刻みに動く揉み上げが本当に胸糞悪い。
「どぼじでごんな゛ごどずるの゛お゛ぉ゛ぉ゛?!! いだいでじょおぉ゛ぉ゛?! もう、あまあまだけじゃなくて、ばいし
ょうきんも、せいっきゅうっ!するよ!!!!」
賠償金とか請求とかそんな言葉をどこで覚えてくるのかと感心している私に、泣きながら赤れいむたちがぽこぽこと体当たり
をしてくる。人通りの少ない夜道で良かった。白昼の大通りでこんな姿を見られたら恥ずかしくてたまらない。私はそれでも一
応、と周囲をキョロキョロ見渡して人の気配がないことを確認した後、親れいむを両手で持ち上げた。
「ゆゆっ! おそらをとんでるみたーい!!!」
嬉しそうにはしゃぐ親れいむを電柱に向かって叩きつける。激突の際に舌を噛んだのか「ゆ゛べっ」という呻くような悲鳴が
一瞬だけ聞こえた。べしゃりとアスファルトに突っ伏し痙攣を起こす親れいむ。それを見た赤れいむが泣きながら親れいむの元
に飛び跳ねて来る。白目を剥きびくびくと全身を震わせる哀れな姿の親れいむに赤れいむたちが舌を這わせた。
「ぺーりょ、ぺーりょ……」
私は二匹の赤れいむのリボンを摘み、それらを鞄の中に放り込んだ。鞄の中には赤れいむたちをうっかり殺してしまうような
物は入っていない。財布とか化粧ポーチとか、そんな物ばかりだ。この中で赤れいむたちがつい死んでしまうようなことはない
だろう。鞄の中から赤れいむたちの泣き声が聞こえてくるが気にしない。私は親れいむの髪の毛を掴んで持ち上げると、自分の
家へと足を向けた。映し出される私のシルエットに「敵将討ちとったり!」という吹き出しを入れれば本当にそれっぽく見えた
かも知れない。
「ゆゆっ! ゆっくりしていってね!!!」
「「ゆっくちしちぇいっちぇにぇっ!!!」」
泣き疲れていた二匹の赤れいむを目覚めさせるは、今の今まで気絶していた親れいむの一声。ピンポン玉が飛び起きた時の顔
には筆舌に尽くし難い心臓の高鳴りを覚える。
「ゆゆっ?! ここはせまくてゆっくりできないよっ!! “ばばあ”ははやくれいむをここからだしてねっ! ぐずぐずしな
いでねっ! すぐでいいよっ!!!」
親れいむは水槽に閉じ込めてやった。二匹の赤れいむは金魚鉢の中だ。よくもまぁ、そんな危機的状況でかつ自分を気絶させ
た私に向かってそれほど生意気な口が聞けるものだと思う。ちなみに私は五年前にゆ虐を卒業した元・虐待お姉さんだ。久しぶ
りに目の当たりにした典型的なゲスゆっくりを相手に上手く虐待できるかちょっと自信がない。それでも、女にはやらねばなら
ない時がある。私は口元を緩ませて親れいむを水槽から出してやった。望み通り、すぐに水槽から出してもらえた親れいむはキ
リッとした表情でウザ眉毛をピンと伸ばし、「ゆふん!」とわざとらしく私に向けて荒々しく息を吐いてみせた。しばらくその
様子を眺める。親れいむは「しょうがない“ばばあ”だね……」などと呟きながら部屋をキョロキョロと見回し始めた。その途
中で赤れいむたちが金魚鉢の中に閉じ込められていることにようやく気付く。
「おきゃあしゃああん!!! たしゅけちぇぇぇぇ!!!」
「ち……ちびちゃああぁぁぁぁぁぁぁんッ?!!」
取り乱し過ぎだ。たかだか赤れいむ二匹でそれほどの叫びを部屋で上げないでもらいたい。潰されて原形を留めていないわけ
でもないだろうに。
「れいむ」
「くそばばあっ!!! はやくちびちゃんをここからだしてあげてねっ!!!」
「はい。 れいむの大好きなあまあまさんを持って来てあげたわ」
そう言って私は備蓄してあったチョコレートやクッキーを床にばら撒いてみせた。揉み上げをぴこぴこと動かしながら飛び跳
ねて寄ってくる親れいむ。赤れいむたちが「どおしちぇッ?!」と叫んだが気づいていないようである。あんまり母性は無さそ
うだ。すぐに親れいむは床のお菓子を食い散らかし始めた。
「うっめ! これめっちゃうっめ!! ぱねぇ!!!」
口の中にお菓子を入れたまま叫ぶものだから、親れいむの唾液混じりの菓子クズが床にべちゃべちゃと落ちて行く。金魚鉢の
中で赤れいむたちが騒ぎ立てるのでクッキーを二、三個投げ入れてやった。「むーちゃ! むーちゃ!」などと叫びながら咀嚼
する様子は確実に親れいむの餡を受け継いでいるであろうことを予測させる。
「ばばぁっ! なにをぼーっとしてるの? さっきちびちゃんをだしてあげて、っていったでしょぉ?! どうしてかわいいか
わいいれいむがあまあまさんをむーしゃむーしゃしてるすがたにみとれちゃうのっ?! かわいくってごめんねっ!!! でも
それはそれ、これはこれでしょぉぉぉぉぉぉ?! もうしょうがないから、ここをれいむたちのおうちにするよっ!!! ばば
あはれいむたちのどれいとして、ずっと……ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ??!!!! い゛だいっ!! いだい゛!
い゛だい゛よ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!!!」
親れいむの叫び声にハッと我に帰る私。危なかった。いつの間にか手にしていたポッキーを親れいむの目に突き刺してグリグ
リと掻き回し始めていた。目玉を傷つけずにそれを無意識でやってのけた私にはまだ現役の頃のテクニックが残っているのかも
知れない。このテクニックで今まで何匹のゆっくりを逝かせてやったことか。
「どぼじでごんな゛ごどずる゛の゛ぉぉぉ?!! れいむはしんぐるまざーなんだよっ? かわいそうなんだよっ?! やさし
くするのはあたりまえでしょぉぉぉぉ?! ばかなの? しぬのぉぉぉぉ?!」
左右の揉み上げを回転させながら私を罵倒するれいむを見ていると、ゆっくりは意外と器用な生き物なのではないかと思わさ
れる。見ていて不快になったので金魚鉢に目を移すと、赤れいむたちも口を揃えて私に「ちね、ちね」と繰り返す。よくもまあ
生まれたばかりのピンポン玉風情がそんな言葉ばかり短時間で覚えたものだ。よほど親れいむがその言葉を多用してきたのだろ
う。
「おきゃあしゃんはちゅよいんだよっ! あやまりゅなりゃ、いみゃのうちだよっ!!」
「ぷっきゅぅぅぅ!!!」
騒ぎ立てる赤れいむたちに感化されたのか、親れいむも床の上でじたばたと暴れ出した。デパートでオモチャを買ってもらえ
なくて喚く子供のようだ。それをゆっくりにやられると胃がキリキリと締め付けられてくる。私はれいむの頭をリボンの上から
踏んづけてその動きを無理矢理止めた。床で口を閉じられているせいか、揉み上げを上下に動かしながら「ゆぶぶぶぶ」と苦し
そうに呻いている。昔の私ならここから世紀の虐殺ショーを展開するところだが、ぐっとこらえる。
「ゆんやあぁぁ!! おきゃーしゃんをはにゃしちぇにぇっ!! ばきゃあぁぁ!!!」
金魚鉢の中から声を上げる赤れいむたちは唯一にして絶対の母である親れいむの無様な姿を見せつけられて発狂寸前だ。この
程度でここまで取り乱すとは恐れ入る。この親れいむを踏み抜いて潰したらどんな反応を見せてくれるだろうか。興味深いが私
はもう、そういう一瞬の快楽には酔わない。
苦しみもがく親れいむの体力が無くなってきたのか、揉み上げが力を失いだらりと垂れる。赤れいむたちは泣きながら怒りを
露わにし、その場でたむたむと跳ね続けている。目の前で親が死にそうになっているのに、できること言えばジャンプだけとは
あまりの脆弱っぷりに思わずうっとりとしてしまう。
「……そうだ」
まるで映画のクライマックスシーンの如く絶叫する赤れいむたちをよそに私は極めて冷静に呟いた。面白いかどうかは私自身
で判断することはできないが、たまには違う事をしてみるのも悪くない。私は親れいむの頭から足をどけた。途端に起き上がり、
私に体当たりを仕掛けてくる親れいむを見ていると先ほどまでは死んだフリでもしていたのかと思わされる。そんな高尚な知恵
は持ち合わせていないと思うが。とりあえず私は親れいむを水槽の中に戻して部屋を出る。後ろからやれ「ばか」だの「しね」
だの「ばばあ」だのと言ってくるがとりあえずは無視。
物置状態になっているクローゼットの奥に手を伸ばすと段ボール箱に指の先が触れた。それを引きずり出す。この中には私が
かつて「ヒャッハー」していた時に使っていた様々な道具が入っている。私は段ボール箱の中から小型監視カメラと周辺機器を
取り出し、パソコンに接続を開始した。大学に通っていた頃、私は金に糸目をつけず虐待用の道具を買い漁った。バイトで稼い
だ金のほとんどをそれにつぎ込んだのだ。この段ボール箱に入っている虐待道具は私の青春の結晶である。
私が再びれいむ親子を閉じこめていた部屋に戻ってみると、喚き疲れたのかサイズの違う同じ顔が三匹で寝息を立てていた。
こんな場所に拉致監禁されてよく暢気な顔で眠れるものだと感心する。私は手にした小型監視カメラを部屋のあらゆる場所にセ
ットした。他者の気配を感じることができないのか、作業をしている間れいむ親子が目覚めることはただ一度としてなかった。
再び部屋を後にし、パソコンの画面上に小型監視カメラの映像が映されているかを確認する。決して大きくはないパソコンの
画面に三匹の寝顔が様々な角度で映し出された。それぞれのカメラの角度調整やズームはパソコン上で行うことができる。試し
に赤れいむを映しているカメラのズームを最大値まで引き上げた。閉じられた口の隙間から垂れる涎の光沢まではっきりと映し
出されている。小型監視カメラの性能に劣化の様子は見られない。
「楽しくなってきたわ」
私は背筋を伸ばしながら独り言を呟いた。
翌朝。一晩中つけっぱなしにしていたパソコンに映し出されたれいむ親子の様子を観察する。もぞもぞと動き出す赤れいむの
一匹が眠っている姉妹と母親を見回して叫んだ。
「ゆっくちしちぇいっちぇにぇっ!!!」
脊髄反射の如く飛び起きて挨拶を返す二匹のゆっくり。目覚めた瞬間から苛つかせてくれるとは大したものだ。ゆっくりの一
挙一動は見ようによっては愛らしく感じる時もあるが、やはりいちいち嗜虐心を煽られてしまう。狙ってやっているとしたら見
事としか言いようない。
「ゆゆっ?! じゃまなかべさんだねっ!! いじわるしないでそこをどいてねっ!! れいむのかわいいかわいいちびちゃん
と、あさのすーりすーりができないよっ!!!」
「おきゃーしゃん!! しゅーりしゅーりしちぇにぇっ!!」
ガラスに顔を押しつけて互いに頬を寄せようとするができない。困惑する親れいむ。赤れいむはすーりすーりができないとい
う理由だけでぴーぴー泣き始めた。モニターを見ながら右手の紙コップを無意識に握りつぶす私。コーヒーがぽたぽたと床の上
に垂れた。
「どおしちぇ、しゅーりしゅーりしちぇくれにゃいのぉぉぉ?!」
他力本願ここに極まる赤れいむたちが金魚鉢の中でころころと転がりながら親れいむに文句を言い始めた。親れいむは必死の
形相で水槽のガラス壁を睨みつけながら威嚇を始めた。すると、自分たちが威嚇をされていると勘違いした赤れいむたちがしー
しーを漏らしながら「ゆんやああああ」と騒ぎ出す。朝っぱらから元気なことである。私はモニターを見ながら左手に持ってい
たサンドイッチを無意識で握り潰してしまっていたようだ。
「ゆひぃ……ゆひぃ……」
「ゆっくち……しちゃいよぉ……。 ゆっくち……させちぇぇぇ……」
仰向けに寝そべりぷるぷると全身を震わせながら誰へともなく訴える二匹の赤れいむ。このピンポン玉共には自分で何かをや
ろうとする意思はないのだろうか。私もこれまでペットショップの虐待用ゆっくりを買ってきたり、野良を適当に捕まえてきた
りして様々なゆっくりを見てきたがこのれいむ親子ほどの逸材がかつていただろうか。野良でしんぐるまざーのクセに何故ここ
まで増長することができたのだろうか。保健所仕事しろ。
「ゆっくりできないかべさんはしねぇぇぇぇぇ!!!!」
叫んで体当たりを繰り返していた親れいむも次第に空腹で疲れてきたのかその場にぺしゃりと横たわった。それも一瞬で、ま
たすぐに起き上がると突然叫び声を上げた。
「ばばああぁぁぁぁぁっ!!! いるんでしょぉぉぉ?! かわいいかわいいれいむたちが、おめざめしたんだよっ!! ちび
ちゃんたちとすーりすーりをさせて、ごはんさんをもってきくれないとだめでしょぉぉぉ?! どうしてそんなこともわからな
いのぉぉぉぉ?!!」
自分の顔に青筋が浮かぶのがはっきりとわかる。思わずモニターを殴りたい衝動に駆られてしまったが、私は一人で不気味な
笑みを浮かべながらそれを抑えた。閉じ込められてるのがわかっていないのだろう。そして、自分たちは飼いゆっくりにでもし
てもらえたと思い込んでいるのだろうか。
「この……くそどれいっ!! はやくれいむたちをゆっくりさせてねっ!!! すぐでいいよっ!!!」
もっとタチが悪かった。れいむ親子は私の事を奴隷だと思っているらしい。
最初は飼いゆっくりとして扱ってやり、十分に増長したところで徹底的に痛めつけて叩き潰すか、舌を肥えさせて一生コンポ
ストにしてやろうかと思っていたが虐待としてはありきたりだ。大学の時に入っていた“ゆ虐サークル”でその手の事は仲間と
一緒に腐るほどやってきた。今回、私がやろうと思っている事も長い(ゆ虐の)歴史の中で既に誰かがやっているかも知れない。
「おきゃあしゃああああん!! ゆっくちできにゃいぃぃぃ!!!!」
「ゆぴぃぃぃぃぃ!!!!」
「ち……ちびちゃんっ! まっててねっ! はやくあのくそどれいにれいむたちをゆっくりをさせるように、めいっれいっ!す
るからねっ!!! どこにいるのぉぉぉぉぉッ??!!! くそどれいははやくでてきてねぇぇぇぇッ!!???」
私は何の罪もないゆっくりを苛め殺すのが好きだ。そういう意味では今回のれいむ親子は私があまり関わったことがないタイ
プの連中と言える。私は何度も深呼吸をして心を落ち着かせてから、菓子箱を持ってれいむ親子を閉じ込めた部屋へと向かった。
私が入ってくるや否や、親れいむは狂ったように何かを喚き散らしていた。表情には明確な殺意が込められている。水槽の中
から何故そんな強気な態度が取れるのか理解できない。私は金魚鉢と水槽を引っくり返してれいむ親子を解放した。床に叩きつ
けられた赤れいむ二匹はその場でごろごろと転がりながら「いちゃいよぉぉ」などと喚いている。親れいむも私に体当たりをし
ながら罵声を浴びせ続けることに余念がなかった。
「あまあまを持って来たわよ」
「ゆゆっ?!」
「「あまあましゃんっ!!!」」
のた打ち回っていた赤れいむ共の揉み上げがピンと伸びて起き上がる。さっきまでの痛がりっぷりが嘘のようだ。演技でもし
ているのだろうか。クッキーを床に落とすとれいむ親子が大小それぞれの汚い尻をぷりんぷりんと振りながら、それを食べ散ら
かし始めた。
「し……ししし、しあわせ~~~♪」
「おいちぃよぅ!! おいちぃいよう!!!」
二日連続でお菓子を与えられたこの親子はもう二度と雑草などを食べることはできないだろう。これを一週間くらい続けて外
に放り出すだけでもなかなかいい虐待になる。しかし今回は私をババァ呼ばわりしてボロクソにけなしてくれた親れいむを標的
に家族崩壊の様子でも観察しよう。
私が赤れいむたちの頬にそっと指を当てると、「ゆゆぅん……」などと言いながら頬をすり寄せてくる。ゆっくりは基本的に
ゆっくりできることを優先して行動する。たとえ、私を敵として認識していたとしても、私にゆっくりさせてもらえると判断す
ればすぐにゆっくりし始める。特にすーりすーりは効果が高い。気持ちよさそうにすーりすーりをする赤れいむを見て、もう一
匹も私の指にもそもそと寄ってくる。何、この小動物気どりの饅頭。潰したい。不思議!
「むーしゃ、むー……ゆゆっ?!」
口の周りを食べカスだらけにしながらようやく親れいむが私たちのやり取りに反応を示してくれた。というか、食べることに
夢中で自分の子供の動きはまったく把握していなかったようだ。これで、赤れいむを潰されたら途端に悲劇のヒロインぶって泣
き喚くのだから恐ろしい。親れいむはしばらく呆然としながら私の事を見つめていた。嬉しそうな赤れいむの表情とを交互に眺
めている。
「ち……ちびちゃん……?」
親れいむが呼びかけるも赤れいむたちは反応しない。私の動かす指の動きに夢中だ。時々「ゆっくち! ゆふふ」などと言っ
てはしゃいでいる。私は二匹の赤れいむの頭をリボン越しに人差し指の先でそっと撫でると、その場を絶ちあがった。赤れいむ
たちが「ゆっくち~♪」と言い合って互いにすーりすーりを始める。どうやらゆっくりしてもらえたようだ。親れいむがずりず
りとあんよを這わせて赤れいむたちの元に這い寄る。
「ゆっ! ちびちゃん、おかあさんといっしょにすーりすーりしようね!!」
「ゆゆぅ……? れーみゅたちはもう、たくしゃん、しゅーりしゅーりしちゃよっ!!!」
「おきゃあしゃんは、れーみゅたちがしゅーりしゅーりしたくなっちゃら、しゅーりしゅーりしちぇにぇっ?」
「ど……どおしてそんなこというのぉぉぉぉ?! れいむはちびちゃんたちいっしょにすーりすーりしたいよっ!!! ゆゆ~
んっ!! すーりすーりすーりすーりすーり……」
「ゆぅぅぅぅ。 れーみゅ、おにゃかいっぱいでたくしゃん、しゅーりしゅーりもしちぇ、もうねむちゃいのにぃ……」
「おきゃあしゃん……れーみゅたちをゆっくちさせちぇよぅ……?」
「ゆ……? ゆゆゆゆゆゆゆゆ……?」
赤れいむの言葉に親れいむの表情が引きつっていく。。赤れいむたちは自分とすーりすーりすることが何よりも幸せなはずだ。
先ほどまではあんなに自分とのすーりすーりを望んでいたはずなのに、なぜ?親れいむの気持ちを代弁すればこんなところだろ
う。赤れいむたちは親れいむを鬱陶しそうな目で見た後、「ゆぴー、ゆぴー」と眠りについてしまった。親れいむが口を開けた
ままその場に立ち尽くす。
「ゆ……ゆっくり……?」
親れいむは赤れいむの寝顔を見ながら混乱状態に陥っている。私はクスクスと笑いながら親れいむに話しかけた。
「れいむのちびちゃんたち。 とっても気持ち良さそうに眠っているわね。 ゆっくりできるでしょ?」
私の問いかけに親れいむは答えない。当然だ。ゆっくりは相手とのゆっくりを共有して初めて“ゆっくりできた”と認識する。
赤れいむたちは“私と”ゆっくりを共有したから、“ゆっくりできた”と思いそのまま眠ってしまったのだ。つまり、親れいむ
はゆっくりできていない。ゆっくりが家族単位、あるいは群れ単位で行動する理由の一つがここにある。ゆっくりは、良く言え
ば寂しがり屋な生き物で、一匹だけでゆっくりすることは絶対にできない。れいむ親子はいつも一緒にいたはずだ。そして、常
に互いのゆっくりを共有して今日まで生きてきた。保護者であるはずの親れいむの頭の中にある感情は恐らくこうだ。
“大好きなちびちゃんたちに、仲間外れにされてしまった”
「ゆ……ゆぅ……」
寂しそうにしょぼくれる親れいむを見て私が声をかける。
「どうしたの?」
「……くそばばあっ! かわいいかわいいれいむとすーりすーりをさせてあげるよっ!! こうえいにおもってねっ!!!」
「嫌よ」
「ゆゆゆッ?! どれいのぶんざいでれいむのすーりすーりをことわるとかばかなのッ?! しぬのッ?! いいからだまって
れいむとすーりすーりをしろおぉぉぉぉぉぉッ!!!!」
「うるちゃいよっ!!!」
「だまっちぇにぇっ!!!」
命令口調で怒鳴り続ける親れいむに対して、その声に反応して目が覚めてしまった赤れいむたちが親れいむに怒鳴りつける。
親れいむは歯ぎしりをしながら赤れいむたちを睨みつけていたが、すぐに私の方に向き直り、
「どれいが、れいむのいうことをきかないから、ちびちゃんたちがおきちゃったよっ! このせきにんはぜったいにとってもら
うよ!?」
「この部屋、使わせてあげるから。 じゃあね」
「ま……まってねっ! まってねっ!!」
素早く部屋から出た後にドアを閉める。急いでパソコンの前まで行き、カメラに写された親れいむの姿を確認した。ドアの前
でおろおろしていた親れいむはその場で頬に空気を溜めてみたり、ドアに対してぺーろぺーろをしてみたりと不審な行動を取っ
ていた。ドアが何の反応も示さないことに諦めたのか、親れいむは赤れいむたちの傍まで移動した。別アングルのカメラに切り
替えると、赤れいむたちの寝顔を見て少しゆっくりできたのか口元を緩めている親れいむの姿が映し出された。もそもそと二匹
の傍に移動して目を閉じる。程なくして親れいむも眠りについたようだ。
私の虐待歴は自慢じゃないが長い。それは逆に言えば多くのゆっくりと関わってきた証でもある。全部潰してしまったけど。
おかげで私はゆっくりが嫌がる全てに近い行動を頭の中に叩きこんでいる。裏を返せばどんなことをすればゆっくりがゆっくり
できるかも熟知しているのだ。これから私は赤れいむをゆっくりさせる。そして増長させる。自分の立場がなくなった親れいむ
は激昂するだろう。あの性格だ。二匹の赤れいむを潰しかねない。親れいむの“母性とゆっくりする事”を天秤にかけさせる。
今のところ、感情が高ぶってしまえば赤れいむの事など目に入らなくなるということは分かっている。それほどの母性は持っ
ていない。それでも本能がそうさせるのか、赤れいむたちをゆっくりさせようとは考えているようだ。そんな曖昧かつ半端な感
情など所詮、饅頭による“親子ごっこ”の範疇でしかないことを親れいむの餡子脳に刻み込んでやろうという計画。
私は親れいむから“母親”という役柄を根こそぎ奪い去ってみせる。赤れいむが“実の母親”と“ゆっくりさせてくれる母親”
のどちらを選ぶかなど明白だ。親れいむはショックを受けるだろう。受けるはずだ。受けるかな。少し心配になってきた。まぁ、
とにかく女は度胸。何でもやってみるものさ。
「おきゃあしゃん……れーみゅ……おにゃかすいちゃよ……」
「ゆっくちごはんしゃん……むーちゃむーちゃしちゃいよぉ……」
「ゆ、ゆぅ……」
体の大きな親れいむと比べて赤れいむたちは空腹のサイクルが早い。ずりずりとあんよを這わせては床に散らばるクッキーの
カスを舌で舐め取り「それなりー……」などとうなだれる。私はその様子をモニターで監察していた。空腹の限界を迎えれば、
親子喧嘩が始まるだろう。これまでの私の虐待データからしても、ここから親子喧嘩への発展は九割三分七厘。ましてや我の強
い個体ばかりが集まったこの親子であれば、もはや喧嘩が始まらないわけがない。そんなことを考えていると、ほら。
「どうしちぇ、ごはんしゃん、むーちゃむーちゃさせちぇくれにゃいのぉぉぉッ?!」
「ゆっくちしちゃいよぉぉ!!! ゆっくちさせちぇぇぇぇ!!!!」
「ごめんねっ! ごめんねっ!!! くそどれいぃぃぃ!!! はやくでてきてねっ!!! かわいいかわいいちびちゃんたち
がおなかをすかせて……」
「たべちゃい! たべちゃい! たべちゃい! たべちゃい! たべちゃい!!」
「おきゃあしゃん!! いますぐきゃわいいきゃわいいれーみゅたちにごはんしゃんをちょうだいにぇっ!! しゅぐでいいよ
っ!!!!」
オロオロとするばかりの親れいむ。当たり前だ。れいむ親子がいる場所は人間の家の中。集めようと思って食料を集められる
わけなどない。ぴこぴこと揉み上げを動かして我儘を言い続ける赤れいむに対して親れいむが青ざめた表情を浮かべ、歯をギリ
ギリと鳴らし始めた。愛する我が子に対してなんと沸点の低いことか。親れいむは揉み上げを使って二匹の赤れいむを軽く叩い
た。突然の出来事に無防備だった赤れいむは床の上をころころと転がり、置いてあった水槽にぶつかって止まる。慌ててカメラ
をズームさせる。泣くぞ。すぐ泣くぞ。絶対泣くぞ。ほら泣くぞ。
「ゆああぁぁぁぁぁん!!! いちゃいよぉぉぉぉぉぉ!!! おきゃあしゃんのばきゃぁぁぁ!!!」
「どおしちぇこんにゃこちょすりゅにょぉぉぉぉぉ??!!!」
全身を振るわせ大口を開き目から滝のように涙を流す赤れいむたち。親れいむは「ゆふー、ゆふー」などと言っている。まさ
かもう潰してしまう気だろうか。これはマズイと作っておいた昼食を持って慌てて部屋に駆け込む私。私が部屋に入るなり、親
れいむは「おそいでしょぉぉぉぉぉ?!」と叫び私に体当たりを仕掛けてきたが、私がそれをかわしたため壁に顔面をぶつける
ことになってしまった。南無三。
「はい。 ご飯を持ってきたわよ。 焦らないでゆっくり食べてね?」
声色を変えて聖女のような振舞いを演じる私の言葉に、泣きながら赤れいむたちがずりずりと這ってくる。紙皿の上に乗せた
ご飯――――私の作ったガトーショコラを食べた赤れいむたちの瞳に戦慄走る。突然、一匹の赤れいむがもう一匹の赤れいむの
頭上に飛び乗り、美しいシンメトリーを描く涙の軌跡と揉み上げの上下運動を展開させて、
「「ち……ちちち、ちあわちぇえぇぇぇえぇぇえぇぇえええ!!!!!」」
二重音声のように歓声を上げる。直後、余りの嬉しさに感極まったのか、二匹同時にしーしーを漏らし始めた。まるで小便小
僧を二体積み重ねたかのような光景に思わず目を背ける私。その後は、ガトーショコラに無心でかぶりついて幸せな表情を浮か
べる赤れいむの精神衛生上よろしくない絵が続くので、壁にぶつかって気絶している親れいむの方へと足を向けた。汚いお尻を
ぐったりと伸ばしながら目を回す親れいむの頬を二度ほど打つ。
「ゆぶっ! ……ゆっ! むしさん! ゆっくりれいむにたべられてねっ! すぐでいいよっ!!」
即物性のゆっくりを求めるのがゆっくりという生き物の特徴とは言え、このれいむ親子は特にそれが強いようだ。先ほどの赤
れいむたちもそうだが、「すぐでいいよ」が口癖のようにインプットされている。親れいむは、涎を垂らしながらきょろきょろ
と周辺を見渡した。追いかけていた“虫さん”を探しているのだろう。その間、赤れいむの姿は視界に入っていない。案外、寝
ている間に赤れいむを潰してゴミに出しても気づかないかも知れないな、こいつは。
「どうして、ちびちゃんたちにご飯を食べさせてあげないの?」
「ゆゆゆっ?!」
「れいむは、“お母さん”なんでしょ? ちびちゃんたちが可哀想だとは思わないの? どうして自分で何もしないの? あ、
できないの? できないんでしょ? 何も。 本当にれいむは役に立たないゆっくりね。 満足に自分のちびちゃんも育てられ
ないのかしら?」
何もない部屋に拉致監禁しておいて言える台詞ではないが、できるだけ親れいむを怒らせなければならない。赤れいむに何か
を与えるときのストレスを全部親れいむにぶつけるような気持ちで罵倒してやった。当然、親れいむは私に対して威嚇を行い声
を荒げる。
「くそどれいのぶんざいでぇぇぇ!!! まえにもいったでしょおおぉぉぉ?! れいむはしんぐるまざーなんだよっ??!!
やさしくしないといけない、っておしえてあげないとわからないのぉぉぉ?!! おしえてもらってばっかりじゃ、なんにもで
きないでしょぉぉぉ?! ばかはばかなりに、かんがえることもできないのっ?! いたいめにあわないとわからないのおぉぉ
ぉぉぉぉッ??!!!」
予定を変更して一世一代のブラッディカーニバルを開催してやろうかとも思ったが、ゆっくり如きの言葉で精神を揺さぶられ
てはいけない。落ちつけ、私は人間だ。潰しちゃ駄目だ。潰しちゃ駄目だ。潰しちゃ駄目だ。――――ドオシテイケナイノ?
拳を振り上げる私。それでも親れいむは私に向かって生意気にも程がある視線をぶつけてきていた。
「ゆゆっ! いっぱいたべちゃら、おにゃかがいちゃくなってきちゃよっ!!」
「きゃわいいきゃわいいれいみゅたちが、いっちょうけんめい、うんうんしゅりゅよっ! きゃわいくってごめんにぇっ!!」
癇に障る台詞が後方から聞こえてきたので思わずそちらに目を向ける。瞬間、振り上げた拳に気がつく。危ない。また潰して
しまうところだった。紙皿の上のガトーショコラは綺麗さっぱりなくなっている。なんというか物量の法則を無視した食べっぷ
りに逆に落ち着いてきてしまった。ピンポン玉が移動して何故か横に整列する。そして、なぜか私と親れいむに見せつけるよう
に寝転び、底部を上げて恥ずかしそうに力をかけ始める。見せたいのか、恥ずかしいのかハッキリしろ、このピンポン玉共が。
「「うんうんすりゅにぇっ!!! ちゅっきり~~~~♪」」
あにゃるからBB弾くらいのうんうんがぷりぷりと排出される。あにゃるからうんうんが出て行くときの感触が気持ちいいの
か知らないが、うっとりした表情で頬を染めるのを心底やめていただきたい。気持ちが悪い。呆けていた私の右足に親れいむが
体当たりをしかけてきた。そちらに目を向けると、ニヤニヤと笑いながら親れいむが私を見上げている。
「かわいいかわいいちびちゃんたちが、うんうんするところをみて、かわいさのあまりにみとれてしまうのはゆっくりりかいで
きるけど、それでゆっくりできたなら、おれいをするのが“すじ”じゃないの? ましてや、どれいでしょ? あまあまだけじ
ゃいけないんだよ?」
エクトプラズムを吐き出しながらブツブツと呪文のような何かを呟く。ここまで腹の立つゆっくりが今までいただろうか。い
や、いない。理由は簡単だ。捕まえてきた傍から痛めつけて上下関係を徹底的に武力で理解させた挙句、泣いても謝っても苛め
抜いて潰してきたからに他ならない。それに気付いた私は正気を取り戻し、吐き出しかけたエクトプラズムを一気に吸い上げる。
「むし、するなあぁぁぁぁぁ!!!」
騒ぎ立てる親れいむとは裏腹に赤れいむの表情が少しずつ暗くなっていく。思わず口元が緩む。自分たちの出したうんうんが
臭くてゆっくりできなくなってきたのだ。もう、この浅はかなピンポン玉共が次に何を言うか予想が立ってしまう。これほどま
でに底の浅い生き物はなかなか地球上には存在しまい。
「ゆびゃあああ!!! くちゃいよぉぉぉぉ!!!」
「うんうんしゃん、かたづけちぇぇぇぇぇ!!!」
泣きながら叫び声を上げる赤れいむに気付いた親れいむが、私に向かって舌打ちをする。
「なにをぼーっとしてるの? どれいのでばんでしょ? どうしてすぐにうごかないの? ばかなの? しぬの?」
私は親れいむに一発だけ蹴りを入れて部屋を出て行った。後ろから「どぼじでごんな――――」という台詞が聞こえてきたが、
ドアを強めに閉めて遮ってやる。精神を落ち着けるために紅茶を口に含みながら再びパソコンの前に腰を下ろす。モニターには
親れいむと赤れいむの姿が映し出されていた。
じたばたと暴れる赤れいむのすぐ傍で親れいむがオロオロとしている。例え音声が拾えていなくても何が起きているかは想像
に難くない。誰がうんうんを片付けるかで揉めているのだろう。ご丁寧に部屋のど真ん中でそんな事をするからこういう事態に
陥るのだ。
「おきゃあしゃん!! きゃわいいきゃわいいれーみゅたちのうんうんしゃんをかたづけちぇにぇっ!!!」
「どぼじでぞんな゛ごどい゛うの゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛?!!」
「れーみゅたちのおきゃあしゃんでしょっ?! れーみゅたちがゆっくちできにゃいなら、ゆっくちできりゅようにしちぇあげ
りゅのが、おやのちゅとめでしょぉぉぉ?! ばきゃなにょ? しにゅの?」
――――始まった。ここまでは私の描いたシナリオ通りだ。赤れいむたちが揃って揉み上げを上下させながら威嚇をしている。
さすがに成体ゆっくりである親れいむにピンポン玉が威嚇を試みても意味はなさそうだ。むしろ、親れいむをイライラさせる引
き金にしかなっていないように感じる。
「ゆ゛ぎぃ゛ぃ゛ぃ゛!! ちびちゃん!!! おかあさんは、しんぐるまざーなんだよっ?! ちびちゃんたちをそだてるの
にすっごくくろうしているんだよっ! だから、おかあさんにあまえてばっかりじゃだめでしょおぉぉぉ??!!!」
この饅頭、さっき私になんて言ってたか。
「ぷんぷん! そんにゃこちょしらにゃいよっ! おきゃあしゃんはれーみゅたちをゆっくちさせちぇくれりぇばそれでいいん
だよっ!! りきゃいできりゅ?」
「できるわけないでしょぉぉぉぉぉ??!!! どおしてそんなにわがままばっかりいうのぉぉぉ??!!! ちっともゆっく
りしてないよっ!!!!」
「ゆゆっ?! れーみゅたちはゆっくちしてりゅよっ!!! おきゃあしゃんこしょ、さっきれーみゅたちに“いちゃいいちゃ
い”をして、ゆっくちできにゃくさせちゃくしぇにっ!!! おきゃあしゃんのほうがゆっくちしちぇにゃいよっ!!!!」
揉み上げによる往復ビンタ。自分の子供に論破されそうになったら手を上げる。駄目な親の見本のような存在だ。
「まちゃ、ぶっちゃあぁぁぁ!!! もうやじゃ!! おうちかえりゅぅぅぅぅ!!!!」
「なにばかなこといってるのぉぉぉぉ?!! ここがれいむたちのおうちでしょおぉぉぉぉ?!!」
私の家です。
そのとき。
「ゆ?」
親れいむに赤れいむが体当たりをした。親れいむの弾力のある皮に跳ね返されて床の上を転がる。起き上がった赤れいむはす
ぐに威嚇を再開した。親れいむがわななきながら赤れいむを見下ろす。額から変な汗を垂らしながら、次第に呼吸が早くなって
いく。モニター越しでも理解できる。親れいむのイライラが絶頂に達しようとしているのだ。そろそろ助け船を入れてやるとし
よう。
「……ね……」
「ゆぇっ……?」
「ゆっくりできないちびちゃんは……しねえぇえぇぇぇっ!!!!!」
「ゆんやあああああああ!!!」
「何をやっているの?!」
わざとらしく声を上げて部屋に侵入してきた私に、二匹の赤れいむはぴょんぴょんと足下に跳ねてきた。私の足の後ろに隠れ
ながら、
「おにぇーしゃんっ!! たしゅけちぇにぇっ!! きゃわいいきゃわいいれーみゅたちが、ゆっくちできにゃくさせられちゃ
うよっ!!!」
「そんな……っ!! 一体、誰がそんな事を……ッ?!」
「「おきゃあしゃんだよっ!!!!」」
「ち……ちびちゃん……」
親れいむが呟き全身を震わせ始める。泣くのだろうか。もし泣いたら散々罵倒してやろうと思っていたが、もちろんそんなヤ
ワなゆっくりではない。顔を真っ赤にしながら私に対して威嚇を行ってきた。私からすればギャグ以外の何物でもないその顔も
赤れいむたちには恐ろしいほどの恐怖が伝わっているのだろう。私の踵に頬をすり寄せてぶるぶる震えている。あん、ちょっと
くすぐったい……。
「どうして……んっ、こんなことになったの?」
途中で笑いそうになるので二匹の赤れいむを掌に乗せて事情聴取を行う。ま、ずっとモニターで見ていたから知っているのだ
けれども。
「おきゃあしゃんが……れーみゅたちの、うんうん……かたじゅけちぇくれにゃいにょ……」
「おきゃあしゃんが……もみあげしゃんで、れーみゅたちを“いちゃいいちゃい”すりゅにょ……」
「そう……。 怖かったわね……。 でも、もう大丈夫よ。 うんうんなら私が片付けてあげるし、お母さんもちゃんと怒って
あげるから。 心配しなくていいのよ?」
「「ゆっくち……ありがちょう……っ!!」」
それにしても癇に障るピンポン玉共である。自分の行いは棚に上げてひたすら親れいむを責める態度が許せない。それどころ
か親れいむを悪に仕立て上げ、私を懐柔しようとしてくるこの腐れ切った根性。さすがは親子。似なくてもいい所までそっくり
だ。
私は二匹をそっと床に降ろすと、あらかじめ用意していたキッチンペーパーを使ってうんうんを片付けてやった。悪臭の元が
無くなったことに、二匹は頬をすり寄せ合って「ゆっくち~」と叫び喜びを露わにする。私と一緒に笑顔を咲かせる赤れいむを
見て親れいむが歯をガチガチと鳴らしてこちらを睨みつけている。これは今夜あたり、殺ゆ事件が起きるかも知れない。私はさ
らに親れいむの神経を逆撫でする発言をくりかえした。
「ちびちゃんたちは可愛いね。 こんなに可愛いちびちゃんたちに意地悪するなんて、酷いお母さんだね」
「……ッ!!!」
「ゆぅん……おきゃあしゃんは、ちっともゆっくちしちぇにゃいよっ……」
「~~~~っ!!!!」
「ふふ。 じゃあ、私が新しいお母さんになってあげようか? きっと“たくさん”ゆっくりできるわよ?」
「――――ッ?!」
「ゆっくち~~~♪」
歓声を上げる二匹の赤れいむたちは私の言葉にまんざらでもない様子だ。どちらかというとそれを望んでいるようにも感じら
れた。親れいむは目を血走らせ片方の揉み上げをブチブチと噛みながら私を睨みつけている。
――――いや、正確には二匹の赤れいむを。
「ふざけるな……」
親れいむが呻くように呟く。赤れいむたちが表情を凍りつかせたまま親れいむを振り返った。途端にしーしーを漏らし始める。
親れいむの本気の殺意を感じ取ったのだろう。さすがの私もあんな表情のゆっくりは見たことない。なまじ、人間と同じような
表情を作ることができるから、少しだけ怖いとさえ感じた。思わず生唾を飲み込んでしまう。
「ぶざげる゛な゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!! おばえらを……ッ!!! ゆっぐりざぜるだめに……れいむが、どれだげ
がんばっでる゛どおも゛っでる゛んだああぁぁぁぁ!!!!!」
「頑張ってる? 何を? あなた、ここに来てから何にもしてないじゃない」
わざと挑発するような言葉をかける。親れいむは私のことを睨みつけながらずりずりとあんよを這わせて近寄ってきた。あ、
どうしよう。ちょっと本当に怖い。
「ここには、ゆっぐりがひどりもいな゛い゛でしょぉぉぉ??!!! ごはんざんがあづめられる゛わげないだろうがああああ
ぁぁぁ!!!」
目を丸くする私に親れいむが続ける。
「までぃざも!! あ゛りずもっ!! ばぢゅり゛ーもいな゛いのに゛ぃッ!!!」
「どういう事?」
「おきゃあしゃんは、ほきゃのゆっくりをやっちゅけてごはんしゃんをあつめちぇたんだよっ!!」
「……へぇ。 そうなんだ。 最低のゲスゆっくりね」
「しんぐるまざーのれいむたちがこまってるのに、ごはんさんをわけてくれない、ゆっくりできないゆっくりをせいっさいっ!
しただけでしょぉぉぉぉ?!! わるいゆっくりをやっつければ、ごはんさんとおうちがてにはいって、ゆっくりできるのに、
どうしてそれが“ゲス”なんていうのおぉぉぉッ??!!!!」
完全に強盗殺ゆ犯だ。ある意味、こんなアグレッシブ(?)に生きるゆっくりも都会の片隅にいたのかと感心させられる。ゆ
っくりの事は別にどうでもいいが、この親れいむが他のゆっくりを殺して今日まで生きてきたことを正しいと思っていることの
ほうがなんとなく癇に障った。とはいえ、私とてゆっくり虐待者だ。道徳を語るなどうすら寒い。私は私の為すべきことを続け
ようではないか。
「もっと生きていたかったでしょうね」
「……ゆ?」
「あなたに殺された、たくさんのゆっくりたち。 最後にこう言ってなかったかしら?」
「……?」
「“もっとゆっくりしたかった”って」
「だまれ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!! れいむはかわいそうなしんぐるまざーだから、なにをやってもゆるされるんだよおぉぉっ!!
れいむにやさしくしない、ほかのゆっくりがわるいにきまってるでしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ??!!!!」
「救いようがないわね」
それだけ言って私は赤れいむたちを金魚鉢の中に入れた。親れいむは水槽の中に。再び閉じ込められた赤れいむたちが泣き声
を上げる。私は「だしちぇにぇ、だしちぇにぇ」という赤れいむたちの訴えを無視して部屋を出た。なぜ、れいむ親子を再び水
槽と金魚鉢に閉じ込めたか。まだ、親れいむに赤れいむを殺させるわけにはいかないからだ。私は冷たい笑みを浮かべてパソコ
ンに向き直った。
深夜。早寝早起きが基本のゆっくりたちは三匹とも眠りについていなかった。れいむ親子があれからずっと喧嘩をしているの
だ。
「おきゃあしゃんのばきゃあぁぁぁ!!! れーみゅたちをぜんぜん、ゆっくちさせちぇくれにゃいくせにっ!! どーしちぇ、
ひじょいこちょばっきゃりするにょおぉぉぉぉ??!!」
「ちびちゃんたちがゆっくりできてないからにきまってるでしょおぉぉぉぉぉ??!!!」
「れーみゅたちはゆっくちしちぇるよっ!! ゆっくちしちぇにゃいのは、おきゃあしゃんのほうじゃよっ!!! ぷんぷん!!」
「ぷくううううううう!!!!」
「ゆっぴゃああああ!!! おきゃあしゃんが、また、ぷきゅうぅぅぅしちゃああああ!! ゆっくちできにゃいぃぃぃx!!」
「もうやじゃぁっ!! おきゃあしゃん、いやぁぁぁ!!! れーみゅ、おにぇーしゃんのほうがいいよぉぉぉぉぉぉ!!!!」
その一言を引き金に部屋の中が静寂に包まれた。熱いコーヒーを飲みながらパソコンの前で次の展開を見守る私。あの親れい
むの様子では間違いなく衝動で赤れいむを潰してしまっていただろう。隔離はやはり正解だった。口論はなおも続く。赤れいむ
たちはぼろぼろ泣きながら必死に親れいむに対して文句を言っていた。必死になれることが文句を言うことだけとは憐みを通り
越してもっと違う別の感情が押し寄せてくる。
「れーみゅたちは、きゃわいいちびちゃんにゃんだよっ?! やさしくしにゃいといけにゃいんだよっ?!!」
「ゆぎぃぃぃ!!! おまえたちみたいなちびちゃんなんて、ちっともかわいくないよっ!!! どおしてそんなゆっくりでき
ないちびちゃんになっちゃったのぉぉぉぉ?!」
お前の躾のせいだろ。
「ゆんやあああ!!! おにぇーしゃんは、きゃわいい、っちぇいっちぇくれちゃにょにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
ごめん、可愛くないよ。
くだらない激論は深夜三時まで及んだ。それからようやく文句を言うのに疲れたのかそれぞれが苦しそうな表情で寝息を立て
始めた。モニターでそれを確認した私はそっとれいむ親子が眠る部屋に入った。金魚鉢を持ち出す。よほど疲れているのか中の
赤れいむに二匹が目覚める気配はない。
私はテーブルの上にカメラを設置した。そして、私と一緒に金魚鉢の中の赤れいむを映すように調整をする。セットが終わっ
た後はモニターで画面の可視範囲を確認し、再びテーブルへと戻ってきた。金魚鉢の縁に口を近づけて一言。
「ゆっくりしていってね!!!」
「「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!!」」
モニターの中の親れいむが水槽の中でうろうろしていた。金魚鉢がなくなっていることに気付いているのだろう。
「ちびちゃん?! かくれんぼなの?! だったらはやくでてきてね!! すぐでいいよっ!!!」
誰もいない部屋の中で声を上げる親れいむ。私は飲みかけのコーヒーをパソコンの前に置き、親れいむのいる部屋へと向かっ
た。ドアを開ける。その音に反応して親れいむは私に向かって叫び声を上げた。
「くそばばあぁぁっ!!! れいむのかわいいかわいいちびちゃんをどこにやったあぁぁぁぁ?!」
「昨日の夜、お腹が空いたから食べちゃった」
その一言に親れいむが凍りつく。私はというと、なるだけ冷ややかな視線を親れいむに向けて送っていた。澄ました顔で親れ
いむの入った水槽の前に腰を下ろす。親れいむは私のことを睨みつけたまま動かない。そして、
「れいむをびっくりさせようとしてもそうはいかないよっ!! ばばあは、どれいだからうそをつくのがへただね!!! これ
だから、むのうな――――」
手にしていた物を水槽の中に落とす。親れいむはそれを見つめたまま動かなくなった。黒い髪のの束と赤いリボンがそれぞれ
二つずつ。
「ゆぎぃ?!」
そこから死臭が漂っているのだろう。醜悪な表情を浮かべ水槽に顔を押し付ける親れいむ。
「美味しかったわよ」
「……ほんとうに……?」
「ええ、そうよ」
「うそをつくなあぁぁぁぁぁっ!!!!」
「そこまで言うならしょうがないわね……。 証拠を見せてあげるわ」
立ち上がり、水槽を持ち上げ部屋を出る。私はテレビの前に親れいむを置いた。親れいむは初めて来る場所で落ち着かないの
かそわそわしている。あるいは、赤れいむを探しているのかも知れない。
私はパソコンのケーブルをテレビに接続した。小型監視カメラで録画した映像をなるだけ大きな画面で親れいむに見せてやる
ためだ。私は一つ目のフォルダをクリックしてから、親れいむの隣に座った。テレビ画面にこの部屋が映し出される。
「ちびちゃん……っ!!!」
親れいむが声を上げた。映し出されているのは金魚鉢の中で寝息を立ている二匹の赤れいむ。そこへ“私”が近寄ってくる。
「ゆっくりしていってね!!!」
「「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!!」」
「ゆ、ゆっくりしていってね!!!」
画面の中で私に挨拶を返す赤れいむの声を聞いて、画面に向けて挨拶をする親れいむ。満足そうな表情を浮かべていた。
「おにぇーしゃん? どうしちゃの? れーみゅたちはまだしゅーやしゅーやしちゃいよ……?」
「ちびちゃん!! こんなよるおそくにちびちゃんをおこすなんて、ばばあはとんだゲスだねっ!!!」
私に向けて罵声を浴びせる親れいむをよそに録画された映像は進んで行く。その中の“私”が口を開く。
「私ね。 お腹が空いたの」
「ゆっ! それじゃあ、ごはんしゃんをたべにゃいといけにゃいにぇ! れーみゅたちはしゅーやしゅーやすりゅよ」
「あのね。 私、ご飯さんを持ってないんだ……」
「そうにゃの?」
「うん。 どうすればいいかしら……?」
「ゆぅ……ごはんしゃんをあちゅめて、しょれから……」
「そうだ! あなたたちのお母さんと同じことを私もしようかな」
「……ゆ?」
水槽の中の親れいむが映し出される映像を食い入るように凝視する。時折、傍らの髪の毛と赤いリボンをチラチラと見ては、
顔を震わせた。
映像の中の“私”が金魚鉢の中に手を入れて一匹の赤れいむを取り出す。
「おしょらをとんでるみちゃいっ!!!」
リボンを摘んで持ち上げたため、赤れいむがぷらぷらと揺れて安定しない。しばらくすると、あんよが地から離れたことに怯
え始めたのかぽろぽろと涙を流し始めた。“私”はそれを見つめたまま動かない。赤れいむは泣きながら「おろしちぇ」と訴え
てきた。金魚鉢の中のもう一匹もその場でぴょんぴょん跳ねて「やめちぇあげちぇにぇ」と叫んでいる。
“私”は余っていた左手の指で赤れいむの顔をつまんで固定した。
「ゆぶぶぶぶぶ……」
両側から押さえられ、上手く喋ることのできない赤れいむが呻くように低い言葉のようなものを発する。“私”はつまんでい
た赤いリボンと髪の毛にじわりじわりと負荷をかけ始めた。やがて、赤れいむの頭の皮から髪の毛がブチブチという音と共に離
れて行く。
「ゆ゛ぎゃああ゛あ゛!!! い゛ぢゃい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!」
「やめちぇにぇっ!! れーみゅのいもうちょがいちゃがっちぇりゅよっ!!!!」
「リボンと髪の毛は食べたくないから千切るわね」
“私”がわざと説明口調でそんなことを喋る。
この説明は親れいむに宛てたものだ。親れいむもそれを理解しているのか、左頬に汗が一筋垂れた。一拍置いてチラリと私の
方を見る。私は冷笑を浮かべてそれに応えた。親れいむがすぐに私から目を逸らし、映し出される映像を見つめる。
“私”は一気に赤れいむのリボンと髪の毛を引き千切った。甘美な絶叫が部屋中に響く。金魚鉢の中の赤れいむは恐怖のあま
りにしーしーを絶え間なく噴出させていた。髪の毛を一本一本千切るのは面倒なので、赤れいむの頭の皮ごと千切っている。そ
のせいで赤れいむの頭頂部は噴火口のようになっており、中身の餡子が生々しい光沢を放っていた。私は人差し指で中身の餡子
にそっと触れた。
「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
「ゆんやあぁぁ!!! れーみゅのいもうちょがちんじゃうよぉぉ!!! やめちぇにぇっ!!! やめちぇにぇっ!!!!」
中身に触れられるのは想像を絶する苦痛なのだろう。その気持ちはわからなくもない。“私”は赤れいむの皮に深く歯を立て
た。柔らかい皮を突き破って歯の先端が中身にまで到達する。
「ゆ゛び……っ!! ゆ゛びぇ……っ!!!」
「やめちぇよぉぉ!!! れーみゅのいもうちょを、たべにゃいでぇぇぇぇ!!!!」
噛みちぎる。咀嚼する。飲み込む。繰り返す。
「もっちょ……ゆっくちしちゃかっちゃ……」
映像の中の赤れいむの言葉を聞いて親れいむがビクンと体を大きく震わせた。私は横目でその様子を確認する。親れいむは水
槽の中でガチガチと歯を鳴らして怯えていた。恐らく、親れいむは今の台詞を何度も聞いたことがあるはずだ。自分たちの食料
を確保するために、同族を殺していたのならこの言葉を聞いたことがないはずがない。
「おきゃあしゃあああああん!!! たしゅけちぇぇぇぇぇ!!!!」
ステレオから聞こえる金魚鉢の中の赤れいむの絶叫に親れいむが反応する。
「ち……ちびちゃんっ!! ちびちゃんっ!!!」
画面の中の“私”が金魚鉢に手を伸ばす。その中を赤れいむが縦横無尽に跳ねまわった。“私”の手から逃れようと必死なの
だろう。努力の甲斐もなく捕えられた赤れいむは泣きながら“私”に向かって小さな声で呟いた。
「どぉしちぇ……こんにゃこちょ、すりゅの……?」
「あなたのお母さんもやったんでしょう? “こんな事”を。 それなら、私がやってもいいじゃない」
「れ……れーみゅを……いじめちゃ、いけにゃいんだよ……?」
「でも、苛めたんでしょ? あなたのお母さんは。 そうやってご飯を集めたんでしょう?」
「れーみゅたちは……きゃわいそうだかりゃ……しかたがなきゃったんだよ……りきゃいできりゅ?」
「できないわ。 だって私には関係ないもの」
「どぉしちぇ……そんにゃこちょいうにょ……?」
「自分たちがゆっくりできればそれで良くて、関係ないから他のゆっくりを殺したんでしょう? だったら、私に何をされても、
食べられちゃっても文句は言えないわよね? だって、何も悪いことをしてないゆっくりが、あなたたちに突然殺されるほうが、
どう考えても……“可愛そう”だもの」
「ご……ごめんにゃしゃい……」
「誰に謝ってるの?」
「おにぇーしゃんでしゅ……」
「どうして……?」
「たしゅけちぇ……」
「謝らなくていいのよ。 私の方こそあなたに謝らなくっちゃ。 食べちゃうけど、ごめんね?」
「ゆ……ゆあぁぁぁあぁ!!!!」
そこからまるでループ再生のように同じシーンが繰り返される。引き千切られた皮。“私”によって食べられる赤れいむ。そ
こから“私”の姿が画面外に消えたところで、テレビは何も表示しなくなった。
テレビの電源を消す。真っ黒なブラウン管に私と親れいむの顔が映し出された。
「ちび……ちゃん…………たべた……の?」
「うん。 お腹が空いていたから。 可哀想でしょ? 私」
「ゆあああああ!!!! ひどいよぉぉぉ!!! どぼじでごんなごどずる゛の゛おぉぉぉぉ!!!!!!」
水槽から飛び出そうと何度も頭を天井にぶつける親れいむ。
「れいむはしんぐるまざーなんだよっ?! かわいそうでしょっ?! それなのにだれもやさしくしてくれないから……」
「それはもう聞いたわ」
「ゆ゛っぐぅ……」
私は刺すような視線を親れいむに向けた。親れいむは怯えながら私に向かって叫び声を上げた。
「れいむはなんにもわるいことなんてしてないよっ!! れいむはまちがってないよっ!!! ぷくぅぅぅぅぅ!!!!」
錯乱しているのかも知れない。ここでの威嚇は何の意味も成していなかった。無言でもう一つの映像フォルダをクリックして
テレビの電源を入れる。親れいむにとってトラウマになりつつあるテレビの映像が再び映し出される。映し出されていたのは、
親れいむと二匹の赤れいむ。そして私だ。
「本当にあなたは悪いことをしてないの?」
「してないよっ!!!」
「ふ~ん……」
「もう、そんなことはどうでもいいから、れいむをはやくゆっくりさせろぉぉぉぉぉ!!!!!」
親れいむの叫びをよそに、映像が動きだす。私が編集しているため少し途切れ途切れになっている部分があるが、そこまで違
和感はないだろう。と言うよりも親れいむが気付くはずがない。
親れいむはそれ以上何も言わなかった。画面に映し出されたのは、れいむ親子がこの部屋に来てからの一部始終だった。すな
わち、私に対して傍若無人な振舞いを続け、口汚い言葉で延々と要求を繰り返す親れいむ。それから、同じように親れいむに対
して自儘な主張と、罵声を浴びせ続ける赤れいむ。そして、それに対する親れいむの反応。
――――「この……くそどれいっ!! はやくれいむたちをゆっくりさせてねっ!!! すぐでいいよっ!!!」
「おきゃあしゃん!! いますぐきゃわいいきゃわいいれーみゅたちにごはんしゃんをちょうだいにぇっ!! しゅぐでいいよ
っ!!!!」
「おきゃあしゃん!! きゃわいいきゃわいいれーみゅたちのうんうんしゃんをかたづけちぇにぇっ!!!」
――――「どぼじでぞんな゛ごどい゛うの゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛?!!」
「れーみゅたちのおきゃあしゃんでしょっ?! れーみゅたちがゆっくちできにゃいなら、ゆっくちできりゅようにしちぇあげ
りゅのが、おやのちゅとめでしょぉぉぉ?! ばきゃなにょ? しにゅの?」
「ぷんぷん! そんにゃこちょしらにゃいよっ! おきゃあしゃんはれーみゅたちをゆっくちさせちぇくれりぇばそれでいいん
だよっ!! りきゃいできりゅ?」
――――「できるわけないでしょぉぉぉぉぉ??!!! どおしてそんなにわがままばっかりいうのぉぉぉ??!!! ちっと
もゆっくりしてないよっ!!!!」
――――「ゆっくりできないちびちゃんは……しねえぇえぇぇぇっ!!!!!」
親れいむは自ら証明したのだ。自分が本来どんな目に遭わされるべき存在なのかを。私は親れいむの顔を水槽越しに覗きこん
だ。親れいむが震えだす。私は質問をした。
「あなたは、ゆっくりできているゆっくりかしら?」
「……できていないよ……」
「ゆっくりできてない、ゆっくりなのよね?」
「……そうだよ……」
「じゃあ、ゆっくりできないゆっくりは……死なないといけないわよね?」
「ゆ……ぐっ、ごめんなさいっ!!! ごめんなさいっ!!! れいむは、すこしもゆっくりしてませんでした!!! ゆっく
りりかいできました!!! わがままばっかりいってごめんなさいっ!!!!」
最初は家族崩壊の様子を見てキャッキャウフフしようとしていただけのはずだったが、思いがけずゆっくりに説教じみた事を
してしまった。まぁ、そのおかげで増長した親れいむに謝らせることができたことだし、良しとしよう。終わり良ければ全て良
しなのだ。うん、きっとそうだ。
いつまで経っても泣き止まない親れいむを見ながら、私は満足そうに目を細めた。
あの親れいむは、本当はそこまで馬鹿なゆっくりではなかったように思う。少なくとも、あの私が編集した映像だけで“答え”
にたどり着くことができたのだから。親れいむは、自分を強く信じていたのだろう。悲劇のヒロインたる自分は周りのゆっくり
に優しくされて然るべき。何が親れいむにそんな盲信を抱かせたのかは理解できなし、興味もない。
私は親れいむを殺さずに保健所に引き取ってもらった。反省をした相手に対し、それ以上何かを追及するのは好きではないし、
母親としては失格であると考えているからだ。
「お母さん!! ただいま~!!」
「お帰りなさい。 早く手を洗っておいで。 そしたらおやつにしましょう? 今日はガトーショコラを作ったのよ?」
「わかった!!! すぐに洗ってくるから待ってて!!!」
バタバタと家の中を駆けまわる小さな男の子。今年で五つになる私の息子だ。少し遅れて実家の両親が私の家に上がってきた。
「ごめんね。 夏休みの間にお父さんたちの家に泊まりに行く、って聞かなくて……」
「いいんだ。 久しぶりに賑やかで楽しかったよ。 お前もたまには帰って来い」
「ごめんごめん。 仕事が忙しくってね、なかなか……」
「本当に一人で育てるのか? うちに帰ってきてもいいんだぞ?」
「んー……。 なんとかしてみせるわよ。 私、こう見えても結構頑丈だし」
「そうか」
「そうよ。 それにシングルマザーで頑張っているお母さんは私以外にもたくさんいるわ。 負けてられないもの」
「お母さん!! 手、洗ってきたよ!!!」
「テーブルの上に置いてあるから食べてもいいよ」
「うん!!!」
両親もテーブルについて息子を交えて談笑をしている。
私は畳の部屋に足を踏み入れ、真新しい仏壇とその中心で笑顔を浮かべている夫の遺影に手を合わせて、ぺろりと舌を出した。
「ごめんね、あなた? 久しぶりに……ゆ虐しちゃった☆」
おわり
「ゆっくりしていってね!!!」
私の目の前に現れたのは一匹の成体れいむと、二匹の赤れいむ。見るからに生意気そうな表情の三匹に、決して関わり合いに
はなるまいと鼻歌を歌いながら、それらの横を通過しようとした。その時、私の左足に小さな衝撃が。眉をひくつかせて目線を
下に向けると、私以上に眉をひくつかせた親れいむが頬に空気を溜めながら私の事を睨みあげている。
「ぷくぅぅぅぅ!!!」
威嚇を続ける親れいむ。その左右の揉み上げに隠れながら、二匹の赤れいむも「ぷきゅぅ」などと言って私を威嚇している。
私は自らを振り返ってみた。会ったばかりのゆっくり親子に威嚇をされる理由はなんだろう。挨拶を返さなかったことが癇に障
ったのだろうか。先日立ち読みした『月刊ゆっくり』のコラムに“野良ゆに挨拶を返すと付け上げるので無視するのが得策”と
書いてあったので、それの通りに行動したつもりだったのだが。まぁ、しかし……挨拶をされても返さないというのは淑女とし
てはどうだろう。例え、相手がゆっくりとは言え礼を失するようなことにはならないだろうか。溜め息をつきながら、れいむ親
子に目を向ける。
「ゆっくりして――――」
「れいむのかわいいちびちゃんをみてゆっくりできたでしょっ!? だから、おれいにあまあまさんをちょーだいねっ!!!」
「ちょうだいにぇっ!!!」
笑顔のまま凍りつく私。いや、実際に鏡を見て自分の表情を確認したわけではないのでわからないが、きっとその形容は間違
っていないように思う。今このゆっくりたちはなんと言ってきたか。幻聴だろう。そうに違いない。そうに決まっている。それ
でなければこれはきっと“ゆっくり語”か何かだ。そうでなければ説明がつかない。
「え?」
「おねーさん!! かわいいかわいいれいむのちびちゃんをみたのに、あまあまさんをわたさないとか、ばかなの? しぬの?
ゆっくりできたんでしょ? だったら、れいむたちにおれいをするべきじゃないの? これだからゆっくりできないおねーさん
はだめだよ……。 もっと、ゆっくりしてね? れいむはゲスがだいっきらいっ!なんだよ」
いやはや見事な手際だ。私も二十半ばとなり落ち着いてきたと自分自身に言い聞かせてきたが、久しぶりに拳を握り締めてし
まった。分かってはいる。相手はたかがゆっくりだ。殴れば死ぬし、蹴っても死ぬし、踏んでも死ぬ程度の存在でしかない。で
も、私の気持ちがわかるだろうか。そんな奴に“馬鹿”と言われ、“駄目”と言われ、“ゲス”呼ばわりまでされた私の気持ち
が。私を真っ直ぐに見つめる親れいむの自信に満ちた表情のなんと清々しいことだろう。まるで「この世は私の為にある」とで
も言わんばかりの面持ちではないか。ある意味、羨ましい。
「さっきからなにをだまってるのぉぉぉ?! はやくあまあまさんをちょうだい、っていってるでしょおおぉぉぉ?! ゆっく
りできない“ばばあ”だねっ!!! れいむ、いいかげんにしないとおこるよっ?! ぷんぷんっ!!!!」
親れいむ。てめぇは私を怒らせた。
ババア。それは私にとって……いや、世の女性にとって禁句だ。本当のババアにでさえ、ババアなどと軽々しく言ってはなら
ない。私はれいむ親子の前にしゃがみ込んだ。
「ゆふん! やっとれいむのいうことをきくきになったんだね?」
「ごめんね? 私、あなたたちの大好きな“あまあま”を持っていないの」
「ゆっきぃぃぃぃ!!!! どういうことなのぉぉぉ?! ただみなの?! しんじられないゲスだねっ!!!! にんげんさ
んとしてはずかしくないの?! こんなにかわいいかわいいれいむ゛ぎゅぶる゛ぶぶぶ……!!!!!」
「お、おきゃあしゃああああん!!!!」
「ゆんやああああああ!!!!」
いけない。いつの間にか親れいむを踵で踏みつけてしまっていた。危うく潰してしまうところだった。よほど苦しかったのか、
涙と涎をぼたぼた零しながら何やら「ゆーゆー」私に文句を言ってくる。小刻みに動く揉み上げが本当に胸糞悪い。
「どぼじでごんな゛ごどずるの゛お゛ぉ゛ぉ゛?!! いだいでじょおぉ゛ぉ゛?! もう、あまあまだけじゃなくて、ばいし
ょうきんも、せいっきゅうっ!するよ!!!!」
賠償金とか請求とかそんな言葉をどこで覚えてくるのかと感心している私に、泣きながら赤れいむたちがぽこぽこと体当たり
をしてくる。人通りの少ない夜道で良かった。白昼の大通りでこんな姿を見られたら恥ずかしくてたまらない。私はそれでも一
応、と周囲をキョロキョロ見渡して人の気配がないことを確認した後、親れいむを両手で持ち上げた。
「ゆゆっ! おそらをとんでるみたーい!!!」
嬉しそうにはしゃぐ親れいむを電柱に向かって叩きつける。激突の際に舌を噛んだのか「ゆ゛べっ」という呻くような悲鳴が
一瞬だけ聞こえた。べしゃりとアスファルトに突っ伏し痙攣を起こす親れいむ。それを見た赤れいむが泣きながら親れいむの元
に飛び跳ねて来る。白目を剥きびくびくと全身を震わせる哀れな姿の親れいむに赤れいむたちが舌を這わせた。
「ぺーりょ、ぺーりょ……」
私は二匹の赤れいむのリボンを摘み、それらを鞄の中に放り込んだ。鞄の中には赤れいむたちをうっかり殺してしまうような
物は入っていない。財布とか化粧ポーチとか、そんな物ばかりだ。この中で赤れいむたちがつい死んでしまうようなことはない
だろう。鞄の中から赤れいむたちの泣き声が聞こえてくるが気にしない。私は親れいむの髪の毛を掴んで持ち上げると、自分の
家へと足を向けた。映し出される私のシルエットに「敵将討ちとったり!」という吹き出しを入れれば本当にそれっぽく見えた
かも知れない。
「ゆゆっ! ゆっくりしていってね!!!」
「「ゆっくちしちぇいっちぇにぇっ!!!」」
泣き疲れていた二匹の赤れいむを目覚めさせるは、今の今まで気絶していた親れいむの一声。ピンポン玉が飛び起きた時の顔
には筆舌に尽くし難い心臓の高鳴りを覚える。
「ゆゆっ?! ここはせまくてゆっくりできないよっ!! “ばばあ”ははやくれいむをここからだしてねっ! ぐずぐずしな
いでねっ! すぐでいいよっ!!!」
親れいむは水槽に閉じ込めてやった。二匹の赤れいむは金魚鉢の中だ。よくもまぁ、そんな危機的状況でかつ自分を気絶させ
た私に向かってそれほど生意気な口が聞けるものだと思う。ちなみに私は五年前にゆ虐を卒業した元・虐待お姉さんだ。久しぶ
りに目の当たりにした典型的なゲスゆっくりを相手に上手く虐待できるかちょっと自信がない。それでも、女にはやらねばなら
ない時がある。私は口元を緩ませて親れいむを水槽から出してやった。望み通り、すぐに水槽から出してもらえた親れいむはキ
リッとした表情でウザ眉毛をピンと伸ばし、「ゆふん!」とわざとらしく私に向けて荒々しく息を吐いてみせた。しばらくその
様子を眺める。親れいむは「しょうがない“ばばあ”だね……」などと呟きながら部屋をキョロキョロと見回し始めた。その途
中で赤れいむたちが金魚鉢の中に閉じ込められていることにようやく気付く。
「おきゃあしゃああん!!! たしゅけちぇぇぇぇ!!!」
「ち……ちびちゃああぁぁぁぁぁぁぁんッ?!!」
取り乱し過ぎだ。たかだか赤れいむ二匹でそれほどの叫びを部屋で上げないでもらいたい。潰されて原形を留めていないわけ
でもないだろうに。
「れいむ」
「くそばばあっ!!! はやくちびちゃんをここからだしてあげてねっ!!!」
「はい。 れいむの大好きなあまあまさんを持って来てあげたわ」
そう言って私は備蓄してあったチョコレートやクッキーを床にばら撒いてみせた。揉み上げをぴこぴこと動かしながら飛び跳
ねて寄ってくる親れいむ。赤れいむたちが「どおしちぇッ?!」と叫んだが気づいていないようである。あんまり母性は無さそ
うだ。すぐに親れいむは床のお菓子を食い散らかし始めた。
「うっめ! これめっちゃうっめ!! ぱねぇ!!!」
口の中にお菓子を入れたまま叫ぶものだから、親れいむの唾液混じりの菓子クズが床にべちゃべちゃと落ちて行く。金魚鉢の
中で赤れいむたちが騒ぎ立てるのでクッキーを二、三個投げ入れてやった。「むーちゃ! むーちゃ!」などと叫びながら咀嚼
する様子は確実に親れいむの餡を受け継いでいるであろうことを予測させる。
「ばばぁっ! なにをぼーっとしてるの? さっきちびちゃんをだしてあげて、っていったでしょぉ?! どうしてかわいいか
わいいれいむがあまあまさんをむーしゃむーしゃしてるすがたにみとれちゃうのっ?! かわいくってごめんねっ!!! でも
それはそれ、これはこれでしょぉぉぉぉぉぉ?! もうしょうがないから、ここをれいむたちのおうちにするよっ!!! ばば
あはれいむたちのどれいとして、ずっと……ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ??!!!! い゛だいっ!! いだい゛!
い゛だい゛よ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!!!」
親れいむの叫び声にハッと我に帰る私。危なかった。いつの間にか手にしていたポッキーを親れいむの目に突き刺してグリグ
リと掻き回し始めていた。目玉を傷つけずにそれを無意識でやってのけた私にはまだ現役の頃のテクニックが残っているのかも
知れない。このテクニックで今まで何匹のゆっくりを逝かせてやったことか。
「どぼじでごんな゛ごどずる゛の゛ぉぉぉ?!! れいむはしんぐるまざーなんだよっ? かわいそうなんだよっ?! やさし
くするのはあたりまえでしょぉぉぉぉ?! ばかなの? しぬのぉぉぉぉ?!」
左右の揉み上げを回転させながら私を罵倒するれいむを見ていると、ゆっくりは意外と器用な生き物なのではないかと思わさ
れる。見ていて不快になったので金魚鉢に目を移すと、赤れいむたちも口を揃えて私に「ちね、ちね」と繰り返す。よくもまあ
生まれたばかりのピンポン玉風情がそんな言葉ばかり短時間で覚えたものだ。よほど親れいむがその言葉を多用してきたのだろ
う。
「おきゃあしゃんはちゅよいんだよっ! あやまりゅなりゃ、いみゃのうちだよっ!!」
「ぷっきゅぅぅぅ!!!」
騒ぎ立てる赤れいむたちに感化されたのか、親れいむも床の上でじたばたと暴れ出した。デパートでオモチャを買ってもらえ
なくて喚く子供のようだ。それをゆっくりにやられると胃がキリキリと締め付けられてくる。私はれいむの頭をリボンの上から
踏んづけてその動きを無理矢理止めた。床で口を閉じられているせいか、揉み上げを上下に動かしながら「ゆぶぶぶぶ」と苦し
そうに呻いている。昔の私ならここから世紀の虐殺ショーを展開するところだが、ぐっとこらえる。
「ゆんやあぁぁ!! おきゃーしゃんをはにゃしちぇにぇっ!! ばきゃあぁぁ!!!」
金魚鉢の中から声を上げる赤れいむたちは唯一にして絶対の母である親れいむの無様な姿を見せつけられて発狂寸前だ。この
程度でここまで取り乱すとは恐れ入る。この親れいむを踏み抜いて潰したらどんな反応を見せてくれるだろうか。興味深いが私
はもう、そういう一瞬の快楽には酔わない。
苦しみもがく親れいむの体力が無くなってきたのか、揉み上げが力を失いだらりと垂れる。赤れいむたちは泣きながら怒りを
露わにし、その場でたむたむと跳ね続けている。目の前で親が死にそうになっているのに、できること言えばジャンプだけとは
あまりの脆弱っぷりに思わずうっとりとしてしまう。
「……そうだ」
まるで映画のクライマックスシーンの如く絶叫する赤れいむたちをよそに私は極めて冷静に呟いた。面白いかどうかは私自身
で判断することはできないが、たまには違う事をしてみるのも悪くない。私は親れいむの頭から足をどけた。途端に起き上がり、
私に体当たりを仕掛けてくる親れいむを見ていると先ほどまでは死んだフリでもしていたのかと思わされる。そんな高尚な知恵
は持ち合わせていないと思うが。とりあえず私は親れいむを水槽の中に戻して部屋を出る。後ろからやれ「ばか」だの「しね」
だの「ばばあ」だのと言ってくるがとりあえずは無視。
物置状態になっているクローゼットの奥に手を伸ばすと段ボール箱に指の先が触れた。それを引きずり出す。この中には私が
かつて「ヒャッハー」していた時に使っていた様々な道具が入っている。私は段ボール箱の中から小型監視カメラと周辺機器を
取り出し、パソコンに接続を開始した。大学に通っていた頃、私は金に糸目をつけず虐待用の道具を買い漁った。バイトで稼い
だ金のほとんどをそれにつぎ込んだのだ。この段ボール箱に入っている虐待道具は私の青春の結晶である。
私が再びれいむ親子を閉じこめていた部屋に戻ってみると、喚き疲れたのかサイズの違う同じ顔が三匹で寝息を立てていた。
こんな場所に拉致監禁されてよく暢気な顔で眠れるものだと感心する。私は手にした小型監視カメラを部屋のあらゆる場所にセ
ットした。他者の気配を感じることができないのか、作業をしている間れいむ親子が目覚めることはただ一度としてなかった。
再び部屋を後にし、パソコンの画面上に小型監視カメラの映像が映されているかを確認する。決して大きくはないパソコンの
画面に三匹の寝顔が様々な角度で映し出された。それぞれのカメラの角度調整やズームはパソコン上で行うことができる。試し
に赤れいむを映しているカメラのズームを最大値まで引き上げた。閉じられた口の隙間から垂れる涎の光沢まではっきりと映し
出されている。小型監視カメラの性能に劣化の様子は見られない。
「楽しくなってきたわ」
私は背筋を伸ばしながら独り言を呟いた。
翌朝。一晩中つけっぱなしにしていたパソコンに映し出されたれいむ親子の様子を観察する。もぞもぞと動き出す赤れいむの
一匹が眠っている姉妹と母親を見回して叫んだ。
「ゆっくちしちぇいっちぇにぇっ!!!」
脊髄反射の如く飛び起きて挨拶を返す二匹のゆっくり。目覚めた瞬間から苛つかせてくれるとは大したものだ。ゆっくりの一
挙一動は見ようによっては愛らしく感じる時もあるが、やはりいちいち嗜虐心を煽られてしまう。狙ってやっているとしたら見
事としか言いようない。
「ゆゆっ?! じゃまなかべさんだねっ!! いじわるしないでそこをどいてねっ!! れいむのかわいいかわいいちびちゃん
と、あさのすーりすーりができないよっ!!!」
「おきゃーしゃん!! しゅーりしゅーりしちぇにぇっ!!」
ガラスに顔を押しつけて互いに頬を寄せようとするができない。困惑する親れいむ。赤れいむはすーりすーりができないとい
う理由だけでぴーぴー泣き始めた。モニターを見ながら右手の紙コップを無意識に握りつぶす私。コーヒーがぽたぽたと床の上
に垂れた。
「どおしちぇ、しゅーりしゅーりしちぇくれにゃいのぉぉぉ?!」
他力本願ここに極まる赤れいむたちが金魚鉢の中でころころと転がりながら親れいむに文句を言い始めた。親れいむは必死の
形相で水槽のガラス壁を睨みつけながら威嚇を始めた。すると、自分たちが威嚇をされていると勘違いした赤れいむたちがしー
しーを漏らしながら「ゆんやああああ」と騒ぎ出す。朝っぱらから元気なことである。私はモニターを見ながら左手に持ってい
たサンドイッチを無意識で握り潰してしまっていたようだ。
「ゆひぃ……ゆひぃ……」
「ゆっくち……しちゃいよぉ……。 ゆっくち……させちぇぇぇ……」
仰向けに寝そべりぷるぷると全身を震わせながら誰へともなく訴える二匹の赤れいむ。このピンポン玉共には自分で何かをや
ろうとする意思はないのだろうか。私もこれまでペットショップの虐待用ゆっくりを買ってきたり、野良を適当に捕まえてきた
りして様々なゆっくりを見てきたがこのれいむ親子ほどの逸材がかつていただろうか。野良でしんぐるまざーのクセに何故ここ
まで増長することができたのだろうか。保健所仕事しろ。
「ゆっくりできないかべさんはしねぇぇぇぇぇ!!!!」
叫んで体当たりを繰り返していた親れいむも次第に空腹で疲れてきたのかその場にぺしゃりと横たわった。それも一瞬で、ま
たすぐに起き上がると突然叫び声を上げた。
「ばばああぁぁぁぁぁっ!!! いるんでしょぉぉぉ?! かわいいかわいいれいむたちが、おめざめしたんだよっ!! ちび
ちゃんたちとすーりすーりをさせて、ごはんさんをもってきくれないとだめでしょぉぉぉ?! どうしてそんなこともわからな
いのぉぉぉぉ?!!」
自分の顔に青筋が浮かぶのがはっきりとわかる。思わずモニターを殴りたい衝動に駆られてしまったが、私は一人で不気味な
笑みを浮かべながらそれを抑えた。閉じ込められてるのがわかっていないのだろう。そして、自分たちは飼いゆっくりにでもし
てもらえたと思い込んでいるのだろうか。
「この……くそどれいっ!! はやくれいむたちをゆっくりさせてねっ!!! すぐでいいよっ!!!」
もっとタチが悪かった。れいむ親子は私の事を奴隷だと思っているらしい。
最初は飼いゆっくりとして扱ってやり、十分に増長したところで徹底的に痛めつけて叩き潰すか、舌を肥えさせて一生コンポ
ストにしてやろうかと思っていたが虐待としてはありきたりだ。大学の時に入っていた“ゆ虐サークル”でその手の事は仲間と
一緒に腐るほどやってきた。今回、私がやろうと思っている事も長い(ゆ虐の)歴史の中で既に誰かがやっているかも知れない。
「おきゃあしゃああああん!! ゆっくちできにゃいぃぃぃ!!!!」
「ゆぴぃぃぃぃぃ!!!!」
「ち……ちびちゃんっ! まっててねっ! はやくあのくそどれいにれいむたちをゆっくりをさせるように、めいっれいっ!す
るからねっ!!! どこにいるのぉぉぉぉぉッ??!!! くそどれいははやくでてきてねぇぇぇぇッ!!???」
私は何の罪もないゆっくりを苛め殺すのが好きだ。そういう意味では今回のれいむ親子は私があまり関わったことがないタイ
プの連中と言える。私は何度も深呼吸をして心を落ち着かせてから、菓子箱を持ってれいむ親子を閉じ込めた部屋へと向かった。
私が入ってくるや否や、親れいむは狂ったように何かを喚き散らしていた。表情には明確な殺意が込められている。水槽の中
から何故そんな強気な態度が取れるのか理解できない。私は金魚鉢と水槽を引っくり返してれいむ親子を解放した。床に叩きつ
けられた赤れいむ二匹はその場でごろごろと転がりながら「いちゃいよぉぉ」などと喚いている。親れいむも私に体当たりをし
ながら罵声を浴びせ続けることに余念がなかった。
「あまあまを持って来たわよ」
「ゆゆっ?!」
「「あまあましゃんっ!!!」」
のた打ち回っていた赤れいむ共の揉み上げがピンと伸びて起き上がる。さっきまでの痛がりっぷりが嘘のようだ。演技でもし
ているのだろうか。クッキーを床に落とすとれいむ親子が大小それぞれの汚い尻をぷりんぷりんと振りながら、それを食べ散ら
かし始めた。
「し……ししし、しあわせ~~~♪」
「おいちぃよぅ!! おいちぃいよう!!!」
二日連続でお菓子を与えられたこの親子はもう二度と雑草などを食べることはできないだろう。これを一週間くらい続けて外
に放り出すだけでもなかなかいい虐待になる。しかし今回は私をババァ呼ばわりしてボロクソにけなしてくれた親れいむを標的
に家族崩壊の様子でも観察しよう。
私が赤れいむたちの頬にそっと指を当てると、「ゆゆぅん……」などと言いながら頬をすり寄せてくる。ゆっくりは基本的に
ゆっくりできることを優先して行動する。たとえ、私を敵として認識していたとしても、私にゆっくりさせてもらえると判断す
ればすぐにゆっくりし始める。特にすーりすーりは効果が高い。気持ちよさそうにすーりすーりをする赤れいむを見て、もう一
匹も私の指にもそもそと寄ってくる。何、この小動物気どりの饅頭。潰したい。不思議!
「むーしゃ、むー……ゆゆっ?!」
口の周りを食べカスだらけにしながらようやく親れいむが私たちのやり取りに反応を示してくれた。というか、食べることに
夢中で自分の子供の動きはまったく把握していなかったようだ。これで、赤れいむを潰されたら途端に悲劇のヒロインぶって泣
き喚くのだから恐ろしい。親れいむはしばらく呆然としながら私の事を見つめていた。嬉しそうな赤れいむの表情とを交互に眺
めている。
「ち……ちびちゃん……?」
親れいむが呼びかけるも赤れいむたちは反応しない。私の動かす指の動きに夢中だ。時々「ゆっくち! ゆふふ」などと言っ
てはしゃいでいる。私は二匹の赤れいむの頭をリボン越しに人差し指の先でそっと撫でると、その場を絶ちあがった。赤れいむ
たちが「ゆっくち~♪」と言い合って互いにすーりすーりを始める。どうやらゆっくりしてもらえたようだ。親れいむがずりず
りとあんよを這わせて赤れいむたちの元に這い寄る。
「ゆっ! ちびちゃん、おかあさんといっしょにすーりすーりしようね!!」
「ゆゆぅ……? れーみゅたちはもう、たくしゃん、しゅーりしゅーりしちゃよっ!!!」
「おきゃあしゃんは、れーみゅたちがしゅーりしゅーりしたくなっちゃら、しゅーりしゅーりしちぇにぇっ?」
「ど……どおしてそんなこというのぉぉぉぉ?! れいむはちびちゃんたちいっしょにすーりすーりしたいよっ!!! ゆゆ~
んっ!! すーりすーりすーりすーりすーり……」
「ゆぅぅぅぅ。 れーみゅ、おにゃかいっぱいでたくしゃん、しゅーりしゅーりもしちぇ、もうねむちゃいのにぃ……」
「おきゃあしゃん……れーみゅたちをゆっくちさせちぇよぅ……?」
「ゆ……? ゆゆゆゆゆゆゆゆ……?」
赤れいむの言葉に親れいむの表情が引きつっていく。。赤れいむたちは自分とすーりすーりすることが何よりも幸せなはずだ。
先ほどまではあんなに自分とのすーりすーりを望んでいたはずなのに、なぜ?親れいむの気持ちを代弁すればこんなところだろ
う。赤れいむたちは親れいむを鬱陶しそうな目で見た後、「ゆぴー、ゆぴー」と眠りについてしまった。親れいむが口を開けた
ままその場に立ち尽くす。
「ゆ……ゆっくり……?」
親れいむは赤れいむの寝顔を見ながら混乱状態に陥っている。私はクスクスと笑いながら親れいむに話しかけた。
「れいむのちびちゃんたち。 とっても気持ち良さそうに眠っているわね。 ゆっくりできるでしょ?」
私の問いかけに親れいむは答えない。当然だ。ゆっくりは相手とのゆっくりを共有して初めて“ゆっくりできた”と認識する。
赤れいむたちは“私と”ゆっくりを共有したから、“ゆっくりできた”と思いそのまま眠ってしまったのだ。つまり、親れいむ
はゆっくりできていない。ゆっくりが家族単位、あるいは群れ単位で行動する理由の一つがここにある。ゆっくりは、良く言え
ば寂しがり屋な生き物で、一匹だけでゆっくりすることは絶対にできない。れいむ親子はいつも一緒にいたはずだ。そして、常
に互いのゆっくりを共有して今日まで生きてきた。保護者であるはずの親れいむの頭の中にある感情は恐らくこうだ。
“大好きなちびちゃんたちに、仲間外れにされてしまった”
「ゆ……ゆぅ……」
寂しそうにしょぼくれる親れいむを見て私が声をかける。
「どうしたの?」
「……くそばばあっ! かわいいかわいいれいむとすーりすーりをさせてあげるよっ!! こうえいにおもってねっ!!!」
「嫌よ」
「ゆゆゆッ?! どれいのぶんざいでれいむのすーりすーりをことわるとかばかなのッ?! しぬのッ?! いいからだまって
れいむとすーりすーりをしろおぉぉぉぉぉぉッ!!!!」
「うるちゃいよっ!!!」
「だまっちぇにぇっ!!!」
命令口調で怒鳴り続ける親れいむに対して、その声に反応して目が覚めてしまった赤れいむたちが親れいむに怒鳴りつける。
親れいむは歯ぎしりをしながら赤れいむたちを睨みつけていたが、すぐに私の方に向き直り、
「どれいが、れいむのいうことをきかないから、ちびちゃんたちがおきちゃったよっ! このせきにんはぜったいにとってもら
うよ!?」
「この部屋、使わせてあげるから。 じゃあね」
「ま……まってねっ! まってねっ!!」
素早く部屋から出た後にドアを閉める。急いでパソコンの前まで行き、カメラに写された親れいむの姿を確認した。ドアの前
でおろおろしていた親れいむはその場で頬に空気を溜めてみたり、ドアに対してぺーろぺーろをしてみたりと不審な行動を取っ
ていた。ドアが何の反応も示さないことに諦めたのか、親れいむは赤れいむたちの傍まで移動した。別アングルのカメラに切り
替えると、赤れいむたちの寝顔を見て少しゆっくりできたのか口元を緩めている親れいむの姿が映し出された。もそもそと二匹
の傍に移動して目を閉じる。程なくして親れいむも眠りについたようだ。
私の虐待歴は自慢じゃないが長い。それは逆に言えば多くのゆっくりと関わってきた証でもある。全部潰してしまったけど。
おかげで私はゆっくりが嫌がる全てに近い行動を頭の中に叩きこんでいる。裏を返せばどんなことをすればゆっくりがゆっくり
できるかも熟知しているのだ。これから私は赤れいむをゆっくりさせる。そして増長させる。自分の立場がなくなった親れいむ
は激昂するだろう。あの性格だ。二匹の赤れいむを潰しかねない。親れいむの“母性とゆっくりする事”を天秤にかけさせる。
今のところ、感情が高ぶってしまえば赤れいむの事など目に入らなくなるということは分かっている。それほどの母性は持っ
ていない。それでも本能がそうさせるのか、赤れいむたちをゆっくりさせようとは考えているようだ。そんな曖昧かつ半端な感
情など所詮、饅頭による“親子ごっこ”の範疇でしかないことを親れいむの餡子脳に刻み込んでやろうという計画。
私は親れいむから“母親”という役柄を根こそぎ奪い去ってみせる。赤れいむが“実の母親”と“ゆっくりさせてくれる母親”
のどちらを選ぶかなど明白だ。親れいむはショックを受けるだろう。受けるはずだ。受けるかな。少し心配になってきた。まぁ、
とにかく女は度胸。何でもやってみるものさ。
「おきゃあしゃん……れーみゅ……おにゃかすいちゃよ……」
「ゆっくちごはんしゃん……むーちゃむーちゃしちゃいよぉ……」
「ゆ、ゆぅ……」
体の大きな親れいむと比べて赤れいむたちは空腹のサイクルが早い。ずりずりとあんよを這わせては床に散らばるクッキーの
カスを舌で舐め取り「それなりー……」などとうなだれる。私はその様子をモニターで監察していた。空腹の限界を迎えれば、
親子喧嘩が始まるだろう。これまでの私の虐待データからしても、ここから親子喧嘩への発展は九割三分七厘。ましてや我の強
い個体ばかりが集まったこの親子であれば、もはや喧嘩が始まらないわけがない。そんなことを考えていると、ほら。
「どうしちぇ、ごはんしゃん、むーちゃむーちゃさせちぇくれにゃいのぉぉぉッ?!」
「ゆっくちしちゃいよぉぉ!!! ゆっくちさせちぇぇぇぇ!!!!」
「ごめんねっ! ごめんねっ!!! くそどれいぃぃぃ!!! はやくでてきてねっ!!! かわいいかわいいちびちゃんたち
がおなかをすかせて……」
「たべちゃい! たべちゃい! たべちゃい! たべちゃい! たべちゃい!!」
「おきゃあしゃん!! いますぐきゃわいいきゃわいいれーみゅたちにごはんしゃんをちょうだいにぇっ!! しゅぐでいいよ
っ!!!!」
オロオロとするばかりの親れいむ。当たり前だ。れいむ親子がいる場所は人間の家の中。集めようと思って食料を集められる
わけなどない。ぴこぴこと揉み上げを動かして我儘を言い続ける赤れいむに対して親れいむが青ざめた表情を浮かべ、歯をギリ
ギリと鳴らし始めた。愛する我が子に対してなんと沸点の低いことか。親れいむは揉み上げを使って二匹の赤れいむを軽く叩い
た。突然の出来事に無防備だった赤れいむは床の上をころころと転がり、置いてあった水槽にぶつかって止まる。慌ててカメラ
をズームさせる。泣くぞ。すぐ泣くぞ。絶対泣くぞ。ほら泣くぞ。
「ゆああぁぁぁぁぁん!!! いちゃいよぉぉぉぉぉぉ!!! おきゃあしゃんのばきゃぁぁぁ!!!」
「どおしちぇこんにゃこちょすりゅにょぉぉぉぉぉ??!!!」
全身を振るわせ大口を開き目から滝のように涙を流す赤れいむたち。親れいむは「ゆふー、ゆふー」などと言っている。まさ
かもう潰してしまう気だろうか。これはマズイと作っておいた昼食を持って慌てて部屋に駆け込む私。私が部屋に入るなり、親
れいむは「おそいでしょぉぉぉぉぉ?!」と叫び私に体当たりを仕掛けてきたが、私がそれをかわしたため壁に顔面をぶつける
ことになってしまった。南無三。
「はい。 ご飯を持ってきたわよ。 焦らないでゆっくり食べてね?」
声色を変えて聖女のような振舞いを演じる私の言葉に、泣きながら赤れいむたちがずりずりと這ってくる。紙皿の上に乗せた
ご飯――――私の作ったガトーショコラを食べた赤れいむたちの瞳に戦慄走る。突然、一匹の赤れいむがもう一匹の赤れいむの
頭上に飛び乗り、美しいシンメトリーを描く涙の軌跡と揉み上げの上下運動を展開させて、
「「ち……ちちち、ちあわちぇえぇぇぇえぇぇえぇぇえええ!!!!!」」
二重音声のように歓声を上げる。直後、余りの嬉しさに感極まったのか、二匹同時にしーしーを漏らし始めた。まるで小便小
僧を二体積み重ねたかのような光景に思わず目を背ける私。その後は、ガトーショコラに無心でかぶりついて幸せな表情を浮か
べる赤れいむの精神衛生上よろしくない絵が続くので、壁にぶつかって気絶している親れいむの方へと足を向けた。汚いお尻を
ぐったりと伸ばしながら目を回す親れいむの頬を二度ほど打つ。
「ゆぶっ! ……ゆっ! むしさん! ゆっくりれいむにたべられてねっ! すぐでいいよっ!!」
即物性のゆっくりを求めるのがゆっくりという生き物の特徴とは言え、このれいむ親子は特にそれが強いようだ。先ほどの赤
れいむたちもそうだが、「すぐでいいよ」が口癖のようにインプットされている。親れいむは、涎を垂らしながらきょろきょろ
と周辺を見渡した。追いかけていた“虫さん”を探しているのだろう。その間、赤れいむの姿は視界に入っていない。案外、寝
ている間に赤れいむを潰してゴミに出しても気づかないかも知れないな、こいつは。
「どうして、ちびちゃんたちにご飯を食べさせてあげないの?」
「ゆゆゆっ?!」
「れいむは、“お母さん”なんでしょ? ちびちゃんたちが可哀想だとは思わないの? どうして自分で何もしないの? あ、
できないの? できないんでしょ? 何も。 本当にれいむは役に立たないゆっくりね。 満足に自分のちびちゃんも育てられ
ないのかしら?」
何もない部屋に拉致監禁しておいて言える台詞ではないが、できるだけ親れいむを怒らせなければならない。赤れいむに何か
を与えるときのストレスを全部親れいむにぶつけるような気持ちで罵倒してやった。当然、親れいむは私に対して威嚇を行い声
を荒げる。
「くそどれいのぶんざいでぇぇぇ!!! まえにもいったでしょおおぉぉぉ?! れいむはしんぐるまざーなんだよっ??!!
やさしくしないといけない、っておしえてあげないとわからないのぉぉぉ?!! おしえてもらってばっかりじゃ、なんにもで
きないでしょぉぉぉ?! ばかはばかなりに、かんがえることもできないのっ?! いたいめにあわないとわからないのおぉぉ
ぉぉぉぉッ??!!!」
予定を変更して一世一代のブラッディカーニバルを開催してやろうかとも思ったが、ゆっくり如きの言葉で精神を揺さぶられ
てはいけない。落ちつけ、私は人間だ。潰しちゃ駄目だ。潰しちゃ駄目だ。潰しちゃ駄目だ。――――ドオシテイケナイノ?
拳を振り上げる私。それでも親れいむは私に向かって生意気にも程がある視線をぶつけてきていた。
「ゆゆっ! いっぱいたべちゃら、おにゃかがいちゃくなってきちゃよっ!!」
「きゃわいいきゃわいいれいみゅたちが、いっちょうけんめい、うんうんしゅりゅよっ! きゃわいくってごめんにぇっ!!」
癇に障る台詞が後方から聞こえてきたので思わずそちらに目を向ける。瞬間、振り上げた拳に気がつく。危ない。また潰して
しまうところだった。紙皿の上のガトーショコラは綺麗さっぱりなくなっている。なんというか物量の法則を無視した食べっぷ
りに逆に落ち着いてきてしまった。ピンポン玉が移動して何故か横に整列する。そして、なぜか私と親れいむに見せつけるよう
に寝転び、底部を上げて恥ずかしそうに力をかけ始める。見せたいのか、恥ずかしいのかハッキリしろ、このピンポン玉共が。
「「うんうんすりゅにぇっ!!! ちゅっきり~~~~♪」」
あにゃるからBB弾くらいのうんうんがぷりぷりと排出される。あにゃるからうんうんが出て行くときの感触が気持ちいいの
か知らないが、うっとりした表情で頬を染めるのを心底やめていただきたい。気持ちが悪い。呆けていた私の右足に親れいむが
体当たりをしかけてきた。そちらに目を向けると、ニヤニヤと笑いながら親れいむが私を見上げている。
「かわいいかわいいちびちゃんたちが、うんうんするところをみて、かわいさのあまりにみとれてしまうのはゆっくりりかいで
きるけど、それでゆっくりできたなら、おれいをするのが“すじ”じゃないの? ましてや、どれいでしょ? あまあまだけじ
ゃいけないんだよ?」
エクトプラズムを吐き出しながらブツブツと呪文のような何かを呟く。ここまで腹の立つゆっくりが今までいただろうか。い
や、いない。理由は簡単だ。捕まえてきた傍から痛めつけて上下関係を徹底的に武力で理解させた挙句、泣いても謝っても苛め
抜いて潰してきたからに他ならない。それに気付いた私は正気を取り戻し、吐き出しかけたエクトプラズムを一気に吸い上げる。
「むし、するなあぁぁぁぁぁ!!!」
騒ぎ立てる親れいむとは裏腹に赤れいむの表情が少しずつ暗くなっていく。思わず口元が緩む。自分たちの出したうんうんが
臭くてゆっくりできなくなってきたのだ。もう、この浅はかなピンポン玉共が次に何を言うか予想が立ってしまう。これほどま
でに底の浅い生き物はなかなか地球上には存在しまい。
「ゆびゃあああ!!! くちゃいよぉぉぉぉ!!!」
「うんうんしゃん、かたづけちぇぇぇぇぇ!!!」
泣きながら叫び声を上げる赤れいむに気付いた親れいむが、私に向かって舌打ちをする。
「なにをぼーっとしてるの? どれいのでばんでしょ? どうしてすぐにうごかないの? ばかなの? しぬの?」
私は親れいむに一発だけ蹴りを入れて部屋を出て行った。後ろから「どぼじでごんな――――」という台詞が聞こえてきたが、
ドアを強めに閉めて遮ってやる。精神を落ち着けるために紅茶を口に含みながら再びパソコンの前に腰を下ろす。モニターには
親れいむと赤れいむの姿が映し出されていた。
じたばたと暴れる赤れいむのすぐ傍で親れいむがオロオロとしている。例え音声が拾えていなくても何が起きているかは想像
に難くない。誰がうんうんを片付けるかで揉めているのだろう。ご丁寧に部屋のど真ん中でそんな事をするからこういう事態に
陥るのだ。
「おきゃあしゃん!! きゃわいいきゃわいいれーみゅたちのうんうんしゃんをかたづけちぇにぇっ!!!」
「どぼじでぞんな゛ごどい゛うの゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛?!!」
「れーみゅたちのおきゃあしゃんでしょっ?! れーみゅたちがゆっくちできにゃいなら、ゆっくちできりゅようにしちぇあげ
りゅのが、おやのちゅとめでしょぉぉぉ?! ばきゃなにょ? しにゅの?」
――――始まった。ここまでは私の描いたシナリオ通りだ。赤れいむたちが揃って揉み上げを上下させながら威嚇をしている。
さすがに成体ゆっくりである親れいむにピンポン玉が威嚇を試みても意味はなさそうだ。むしろ、親れいむをイライラさせる引
き金にしかなっていないように感じる。
「ゆ゛ぎぃ゛ぃ゛ぃ゛!! ちびちゃん!!! おかあさんは、しんぐるまざーなんだよっ?! ちびちゃんたちをそだてるの
にすっごくくろうしているんだよっ! だから、おかあさんにあまえてばっかりじゃだめでしょおぉぉぉ??!!!」
この饅頭、さっき私になんて言ってたか。
「ぷんぷん! そんにゃこちょしらにゃいよっ! おきゃあしゃんはれーみゅたちをゆっくちさせちぇくれりぇばそれでいいん
だよっ!! りきゃいできりゅ?」
「できるわけないでしょぉぉぉぉぉ??!!! どおしてそんなにわがままばっかりいうのぉぉぉ??!!! ちっともゆっく
りしてないよっ!!!!」
「ゆゆっ?! れーみゅたちはゆっくちしてりゅよっ!!! おきゃあしゃんこしょ、さっきれーみゅたちに“いちゃいいちゃ
い”をして、ゆっくちできにゃくさせちゃくしぇにっ!!! おきゃあしゃんのほうがゆっくちしちぇにゃいよっ!!!!」
揉み上げによる往復ビンタ。自分の子供に論破されそうになったら手を上げる。駄目な親の見本のような存在だ。
「まちゃ、ぶっちゃあぁぁぁ!!! もうやじゃ!! おうちかえりゅぅぅぅぅ!!!!」
「なにばかなこといってるのぉぉぉぉ?!! ここがれいむたちのおうちでしょおぉぉぉぉ?!!」
私の家です。
そのとき。
「ゆ?」
親れいむに赤れいむが体当たりをした。親れいむの弾力のある皮に跳ね返されて床の上を転がる。起き上がった赤れいむはす
ぐに威嚇を再開した。親れいむがわななきながら赤れいむを見下ろす。額から変な汗を垂らしながら、次第に呼吸が早くなって
いく。モニター越しでも理解できる。親れいむのイライラが絶頂に達しようとしているのだ。そろそろ助け船を入れてやるとし
よう。
「……ね……」
「ゆぇっ……?」
「ゆっくりできないちびちゃんは……しねえぇえぇぇぇっ!!!!!」
「ゆんやあああああああ!!!」
「何をやっているの?!」
わざとらしく声を上げて部屋に侵入してきた私に、二匹の赤れいむはぴょんぴょんと足下に跳ねてきた。私の足の後ろに隠れ
ながら、
「おにぇーしゃんっ!! たしゅけちぇにぇっ!! きゃわいいきゃわいいれーみゅたちが、ゆっくちできにゃくさせられちゃ
うよっ!!!」
「そんな……っ!! 一体、誰がそんな事を……ッ?!」
「「おきゃあしゃんだよっ!!!!」」
「ち……ちびちゃん……」
親れいむが呟き全身を震わせ始める。泣くのだろうか。もし泣いたら散々罵倒してやろうと思っていたが、もちろんそんなヤ
ワなゆっくりではない。顔を真っ赤にしながら私に対して威嚇を行ってきた。私からすればギャグ以外の何物でもないその顔も
赤れいむたちには恐ろしいほどの恐怖が伝わっているのだろう。私の踵に頬をすり寄せてぶるぶる震えている。あん、ちょっと
くすぐったい……。
「どうして……んっ、こんなことになったの?」
途中で笑いそうになるので二匹の赤れいむを掌に乗せて事情聴取を行う。ま、ずっとモニターで見ていたから知っているのだ
けれども。
「おきゃあしゃんが……れーみゅたちの、うんうん……かたじゅけちぇくれにゃいにょ……」
「おきゃあしゃんが……もみあげしゃんで、れーみゅたちを“いちゃいいちゃい”すりゅにょ……」
「そう……。 怖かったわね……。 でも、もう大丈夫よ。 うんうんなら私が片付けてあげるし、お母さんもちゃんと怒って
あげるから。 心配しなくていいのよ?」
「「ゆっくち……ありがちょう……っ!!」」
それにしても癇に障るピンポン玉共である。自分の行いは棚に上げてひたすら親れいむを責める態度が許せない。それどころ
か親れいむを悪に仕立て上げ、私を懐柔しようとしてくるこの腐れ切った根性。さすがは親子。似なくてもいい所までそっくり
だ。
私は二匹をそっと床に降ろすと、あらかじめ用意していたキッチンペーパーを使ってうんうんを片付けてやった。悪臭の元が
無くなったことに、二匹は頬をすり寄せ合って「ゆっくち~」と叫び喜びを露わにする。私と一緒に笑顔を咲かせる赤れいむを
見て親れいむが歯をガチガチと鳴らしてこちらを睨みつけている。これは今夜あたり、殺ゆ事件が起きるかも知れない。私はさ
らに親れいむの神経を逆撫でする発言をくりかえした。
「ちびちゃんたちは可愛いね。 こんなに可愛いちびちゃんたちに意地悪するなんて、酷いお母さんだね」
「……ッ!!!」
「ゆぅん……おきゃあしゃんは、ちっともゆっくちしちぇにゃいよっ……」
「~~~~っ!!!!」
「ふふ。 じゃあ、私が新しいお母さんになってあげようか? きっと“たくさん”ゆっくりできるわよ?」
「――――ッ?!」
「ゆっくち~~~♪」
歓声を上げる二匹の赤れいむたちは私の言葉にまんざらでもない様子だ。どちらかというとそれを望んでいるようにも感じら
れた。親れいむは目を血走らせ片方の揉み上げをブチブチと噛みながら私を睨みつけている。
――――いや、正確には二匹の赤れいむを。
「ふざけるな……」
親れいむが呻くように呟く。赤れいむたちが表情を凍りつかせたまま親れいむを振り返った。途端にしーしーを漏らし始める。
親れいむの本気の殺意を感じ取ったのだろう。さすがの私もあんな表情のゆっくりは見たことない。なまじ、人間と同じような
表情を作ることができるから、少しだけ怖いとさえ感じた。思わず生唾を飲み込んでしまう。
「ぶざげる゛な゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!! おばえらを……ッ!!! ゆっぐりざぜるだめに……れいむが、どれだげ
がんばっでる゛どおも゛っでる゛んだああぁぁぁぁ!!!!!」
「頑張ってる? 何を? あなた、ここに来てから何にもしてないじゃない」
わざと挑発するような言葉をかける。親れいむは私のことを睨みつけながらずりずりとあんよを這わせて近寄ってきた。あ、
どうしよう。ちょっと本当に怖い。
「ここには、ゆっぐりがひどりもいな゛い゛でしょぉぉぉ??!!! ごはんざんがあづめられる゛わげないだろうがああああ
ぁぁぁ!!!」
目を丸くする私に親れいむが続ける。
「までぃざも!! あ゛りずもっ!! ばぢゅり゛ーもいな゛いのに゛ぃッ!!!」
「どういう事?」
「おきゃあしゃんは、ほきゃのゆっくりをやっちゅけてごはんしゃんをあつめちぇたんだよっ!!」
「……へぇ。 そうなんだ。 最低のゲスゆっくりね」
「しんぐるまざーのれいむたちがこまってるのに、ごはんさんをわけてくれない、ゆっくりできないゆっくりをせいっさいっ!
しただけでしょぉぉぉぉ?!! わるいゆっくりをやっつければ、ごはんさんとおうちがてにはいって、ゆっくりできるのに、
どうしてそれが“ゲス”なんていうのおぉぉぉッ??!!!!」
完全に強盗殺ゆ犯だ。ある意味、こんなアグレッシブ(?)に生きるゆっくりも都会の片隅にいたのかと感心させられる。ゆ
っくりの事は別にどうでもいいが、この親れいむが他のゆっくりを殺して今日まで生きてきたことを正しいと思っていることの
ほうがなんとなく癇に障った。とはいえ、私とてゆっくり虐待者だ。道徳を語るなどうすら寒い。私は私の為すべきことを続け
ようではないか。
「もっと生きていたかったでしょうね」
「……ゆ?」
「あなたに殺された、たくさんのゆっくりたち。 最後にこう言ってなかったかしら?」
「……?」
「“もっとゆっくりしたかった”って」
「だまれ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!! れいむはかわいそうなしんぐるまざーだから、なにをやってもゆるされるんだよおぉぉっ!!
れいむにやさしくしない、ほかのゆっくりがわるいにきまってるでしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ??!!!!」
「救いようがないわね」
それだけ言って私は赤れいむたちを金魚鉢の中に入れた。親れいむは水槽の中に。再び閉じ込められた赤れいむたちが泣き声
を上げる。私は「だしちぇにぇ、だしちぇにぇ」という赤れいむたちの訴えを無視して部屋を出た。なぜ、れいむ親子を再び水
槽と金魚鉢に閉じ込めたか。まだ、親れいむに赤れいむを殺させるわけにはいかないからだ。私は冷たい笑みを浮かべてパソコ
ンに向き直った。
深夜。早寝早起きが基本のゆっくりたちは三匹とも眠りについていなかった。れいむ親子があれからずっと喧嘩をしているの
だ。
「おきゃあしゃんのばきゃあぁぁぁ!!! れーみゅたちをぜんぜん、ゆっくちさせちぇくれにゃいくせにっ!! どーしちぇ、
ひじょいこちょばっきゃりするにょおぉぉぉぉ??!!」
「ちびちゃんたちがゆっくりできてないからにきまってるでしょおぉぉぉぉぉ??!!!」
「れーみゅたちはゆっくちしちぇるよっ!! ゆっくちしちぇにゃいのは、おきゃあしゃんのほうじゃよっ!!! ぷんぷん!!」
「ぷくううううううう!!!!」
「ゆっぴゃああああ!!! おきゃあしゃんが、また、ぷきゅうぅぅぅしちゃああああ!! ゆっくちできにゃいぃぃぃx!!」
「もうやじゃぁっ!! おきゃあしゃん、いやぁぁぁ!!! れーみゅ、おにぇーしゃんのほうがいいよぉぉぉぉぉぉ!!!!」
その一言を引き金に部屋の中が静寂に包まれた。熱いコーヒーを飲みながらパソコンの前で次の展開を見守る私。あの親れい
むの様子では間違いなく衝動で赤れいむを潰してしまっていただろう。隔離はやはり正解だった。口論はなおも続く。赤れいむ
たちはぼろぼろ泣きながら必死に親れいむに対して文句を言っていた。必死になれることが文句を言うことだけとは憐みを通り
越してもっと違う別の感情が押し寄せてくる。
「れーみゅたちは、きゃわいいちびちゃんにゃんだよっ?! やさしくしにゃいといけにゃいんだよっ?!!」
「ゆぎぃぃぃ!!! おまえたちみたいなちびちゃんなんて、ちっともかわいくないよっ!!! どおしてそんなゆっくりでき
ないちびちゃんになっちゃったのぉぉぉぉ?!」
お前の躾のせいだろ。
「ゆんやあああ!!! おにぇーしゃんは、きゃわいい、っちぇいっちぇくれちゃにょにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
ごめん、可愛くないよ。
くだらない激論は深夜三時まで及んだ。それからようやく文句を言うのに疲れたのかそれぞれが苦しそうな表情で寝息を立て
始めた。モニターでそれを確認した私はそっとれいむ親子が眠る部屋に入った。金魚鉢を持ち出す。よほど疲れているのか中の
赤れいむに二匹が目覚める気配はない。
私はテーブルの上にカメラを設置した。そして、私と一緒に金魚鉢の中の赤れいむを映すように調整をする。セットが終わっ
た後はモニターで画面の可視範囲を確認し、再びテーブルへと戻ってきた。金魚鉢の縁に口を近づけて一言。
「ゆっくりしていってね!!!」
「「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!!」」
モニターの中の親れいむが水槽の中でうろうろしていた。金魚鉢がなくなっていることに気付いているのだろう。
「ちびちゃん?! かくれんぼなの?! だったらはやくでてきてね!! すぐでいいよっ!!!」
誰もいない部屋の中で声を上げる親れいむ。私は飲みかけのコーヒーをパソコンの前に置き、親れいむのいる部屋へと向かっ
た。ドアを開ける。その音に反応して親れいむは私に向かって叫び声を上げた。
「くそばばあぁぁっ!!! れいむのかわいいかわいいちびちゃんをどこにやったあぁぁぁぁ?!」
「昨日の夜、お腹が空いたから食べちゃった」
その一言に親れいむが凍りつく。私はというと、なるだけ冷ややかな視線を親れいむに向けて送っていた。澄ました顔で親れ
いむの入った水槽の前に腰を下ろす。親れいむは私のことを睨みつけたまま動かない。そして、
「れいむをびっくりさせようとしてもそうはいかないよっ!! ばばあは、どれいだからうそをつくのがへただね!!! これ
だから、むのうな――――」
手にしていた物を水槽の中に落とす。親れいむはそれを見つめたまま動かなくなった。黒い髪のの束と赤いリボンがそれぞれ
二つずつ。
「ゆぎぃ?!」
そこから死臭が漂っているのだろう。醜悪な表情を浮かべ水槽に顔を押し付ける親れいむ。
「美味しかったわよ」
「……ほんとうに……?」
「ええ、そうよ」
「うそをつくなあぁぁぁぁぁっ!!!!」
「そこまで言うならしょうがないわね……。 証拠を見せてあげるわ」
立ち上がり、水槽を持ち上げ部屋を出る。私はテレビの前に親れいむを置いた。親れいむは初めて来る場所で落ち着かないの
かそわそわしている。あるいは、赤れいむを探しているのかも知れない。
私はパソコンのケーブルをテレビに接続した。小型監視カメラで録画した映像をなるだけ大きな画面で親れいむに見せてやる
ためだ。私は一つ目のフォルダをクリックしてから、親れいむの隣に座った。テレビ画面にこの部屋が映し出される。
「ちびちゃん……っ!!!」
親れいむが声を上げた。映し出されているのは金魚鉢の中で寝息を立ている二匹の赤れいむ。そこへ“私”が近寄ってくる。
「ゆっくりしていってね!!!」
「「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!!」」
「ゆ、ゆっくりしていってね!!!」
画面の中で私に挨拶を返す赤れいむの声を聞いて、画面に向けて挨拶をする親れいむ。満足そうな表情を浮かべていた。
「おにぇーしゃん? どうしちゃの? れーみゅたちはまだしゅーやしゅーやしちゃいよ……?」
「ちびちゃん!! こんなよるおそくにちびちゃんをおこすなんて、ばばあはとんだゲスだねっ!!!」
私に向けて罵声を浴びせる親れいむをよそに録画された映像は進んで行く。その中の“私”が口を開く。
「私ね。 お腹が空いたの」
「ゆっ! それじゃあ、ごはんしゃんをたべにゃいといけにゃいにぇ! れーみゅたちはしゅーやしゅーやすりゅよ」
「あのね。 私、ご飯さんを持ってないんだ……」
「そうにゃの?」
「うん。 どうすればいいかしら……?」
「ゆぅ……ごはんしゃんをあちゅめて、しょれから……」
「そうだ! あなたたちのお母さんと同じことを私もしようかな」
「……ゆ?」
水槽の中の親れいむが映し出される映像を食い入るように凝視する。時折、傍らの髪の毛と赤いリボンをチラチラと見ては、
顔を震わせた。
映像の中の“私”が金魚鉢の中に手を入れて一匹の赤れいむを取り出す。
「おしょらをとんでるみちゃいっ!!!」
リボンを摘んで持ち上げたため、赤れいむがぷらぷらと揺れて安定しない。しばらくすると、あんよが地から離れたことに怯
え始めたのかぽろぽろと涙を流し始めた。“私”はそれを見つめたまま動かない。赤れいむは泣きながら「おろしちぇ」と訴え
てきた。金魚鉢の中のもう一匹もその場でぴょんぴょん跳ねて「やめちぇあげちぇにぇ」と叫んでいる。
“私”は余っていた左手の指で赤れいむの顔をつまんで固定した。
「ゆぶぶぶぶぶ……」
両側から押さえられ、上手く喋ることのできない赤れいむが呻くように低い言葉のようなものを発する。“私”はつまんでい
た赤いリボンと髪の毛にじわりじわりと負荷をかけ始めた。やがて、赤れいむの頭の皮から髪の毛がブチブチという音と共に離
れて行く。
「ゆ゛ぎゃああ゛あ゛!!! い゛ぢゃい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!」
「やめちぇにぇっ!! れーみゅのいもうちょがいちゃがっちぇりゅよっ!!!!」
「リボンと髪の毛は食べたくないから千切るわね」
“私”がわざと説明口調でそんなことを喋る。
この説明は親れいむに宛てたものだ。親れいむもそれを理解しているのか、左頬に汗が一筋垂れた。一拍置いてチラリと私の
方を見る。私は冷笑を浮かべてそれに応えた。親れいむがすぐに私から目を逸らし、映し出される映像を見つめる。
“私”は一気に赤れいむのリボンと髪の毛を引き千切った。甘美な絶叫が部屋中に響く。金魚鉢の中の赤れいむは恐怖のあま
りにしーしーを絶え間なく噴出させていた。髪の毛を一本一本千切るのは面倒なので、赤れいむの頭の皮ごと千切っている。そ
のせいで赤れいむの頭頂部は噴火口のようになっており、中身の餡子が生々しい光沢を放っていた。私は人差し指で中身の餡子
にそっと触れた。
「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
「ゆんやあぁぁ!!! れーみゅのいもうちょがちんじゃうよぉぉ!!! やめちぇにぇっ!!! やめちぇにぇっ!!!!」
中身に触れられるのは想像を絶する苦痛なのだろう。その気持ちはわからなくもない。“私”は赤れいむの皮に深く歯を立て
た。柔らかい皮を突き破って歯の先端が中身にまで到達する。
「ゆ゛び……っ!! ゆ゛びぇ……っ!!!」
「やめちぇよぉぉ!!! れーみゅのいもうちょを、たべにゃいでぇぇぇぇ!!!!」
噛みちぎる。咀嚼する。飲み込む。繰り返す。
「もっちょ……ゆっくちしちゃかっちゃ……」
映像の中の赤れいむの言葉を聞いて親れいむがビクンと体を大きく震わせた。私は横目でその様子を確認する。親れいむは水
槽の中でガチガチと歯を鳴らして怯えていた。恐らく、親れいむは今の台詞を何度も聞いたことがあるはずだ。自分たちの食料
を確保するために、同族を殺していたのならこの言葉を聞いたことがないはずがない。
「おきゃあしゃあああああん!!! たしゅけちぇぇぇぇぇ!!!!」
ステレオから聞こえる金魚鉢の中の赤れいむの絶叫に親れいむが反応する。
「ち……ちびちゃんっ!! ちびちゃんっ!!!」
画面の中の“私”が金魚鉢に手を伸ばす。その中を赤れいむが縦横無尽に跳ねまわった。“私”の手から逃れようと必死なの
だろう。努力の甲斐もなく捕えられた赤れいむは泣きながら“私”に向かって小さな声で呟いた。
「どぉしちぇ……こんにゃこちょ、すりゅの……?」
「あなたのお母さんもやったんでしょう? “こんな事”を。 それなら、私がやってもいいじゃない」
「れ……れーみゅを……いじめちゃ、いけにゃいんだよ……?」
「でも、苛めたんでしょ? あなたのお母さんは。 そうやってご飯を集めたんでしょう?」
「れーみゅたちは……きゃわいそうだかりゃ……しかたがなきゃったんだよ……りきゃいできりゅ?」
「できないわ。 だって私には関係ないもの」
「どぉしちぇ……そんにゃこちょいうにょ……?」
「自分たちがゆっくりできればそれで良くて、関係ないから他のゆっくりを殺したんでしょう? だったら、私に何をされても、
食べられちゃっても文句は言えないわよね? だって、何も悪いことをしてないゆっくりが、あなたたちに突然殺されるほうが、
どう考えても……“可愛そう”だもの」
「ご……ごめんにゃしゃい……」
「誰に謝ってるの?」
「おにぇーしゃんでしゅ……」
「どうして……?」
「たしゅけちぇ……」
「謝らなくていいのよ。 私の方こそあなたに謝らなくっちゃ。 食べちゃうけど、ごめんね?」
「ゆ……ゆあぁぁぁあぁ!!!!」
そこからまるでループ再生のように同じシーンが繰り返される。引き千切られた皮。“私”によって食べられる赤れいむ。そ
こから“私”の姿が画面外に消えたところで、テレビは何も表示しなくなった。
テレビの電源を消す。真っ黒なブラウン管に私と親れいむの顔が映し出された。
「ちび……ちゃん…………たべた……の?」
「うん。 お腹が空いていたから。 可哀想でしょ? 私」
「ゆあああああ!!!! ひどいよぉぉぉ!!! どぼじでごんなごどずる゛の゛おぉぉぉぉ!!!!!!」
水槽から飛び出そうと何度も頭を天井にぶつける親れいむ。
「れいむはしんぐるまざーなんだよっ?! かわいそうでしょっ?! それなのにだれもやさしくしてくれないから……」
「それはもう聞いたわ」
「ゆ゛っぐぅ……」
私は刺すような視線を親れいむに向けた。親れいむは怯えながら私に向かって叫び声を上げた。
「れいむはなんにもわるいことなんてしてないよっ!! れいむはまちがってないよっ!!! ぷくぅぅぅぅぅ!!!!」
錯乱しているのかも知れない。ここでの威嚇は何の意味も成していなかった。無言でもう一つの映像フォルダをクリックして
テレビの電源を入れる。親れいむにとってトラウマになりつつあるテレビの映像が再び映し出される。映し出されていたのは、
親れいむと二匹の赤れいむ。そして私だ。
「本当にあなたは悪いことをしてないの?」
「してないよっ!!!」
「ふ~ん……」
「もう、そんなことはどうでもいいから、れいむをはやくゆっくりさせろぉぉぉぉぉ!!!!!」
親れいむの叫びをよそに、映像が動きだす。私が編集しているため少し途切れ途切れになっている部分があるが、そこまで違
和感はないだろう。と言うよりも親れいむが気付くはずがない。
親れいむはそれ以上何も言わなかった。画面に映し出されたのは、れいむ親子がこの部屋に来てからの一部始終だった。すな
わち、私に対して傍若無人な振舞いを続け、口汚い言葉で延々と要求を繰り返す親れいむ。それから、同じように親れいむに対
して自儘な主張と、罵声を浴びせ続ける赤れいむ。そして、それに対する親れいむの反応。
――――「この……くそどれいっ!! はやくれいむたちをゆっくりさせてねっ!!! すぐでいいよっ!!!」
「おきゃあしゃん!! いますぐきゃわいいきゃわいいれーみゅたちにごはんしゃんをちょうだいにぇっ!! しゅぐでいいよ
っ!!!!」
「おきゃあしゃん!! きゃわいいきゃわいいれーみゅたちのうんうんしゃんをかたづけちぇにぇっ!!!」
――――「どぼじでぞんな゛ごどい゛うの゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛?!!」
「れーみゅたちのおきゃあしゃんでしょっ?! れーみゅたちがゆっくちできにゃいなら、ゆっくちできりゅようにしちぇあげ
りゅのが、おやのちゅとめでしょぉぉぉ?! ばきゃなにょ? しにゅの?」
「ぷんぷん! そんにゃこちょしらにゃいよっ! おきゃあしゃんはれーみゅたちをゆっくちさせちぇくれりぇばそれでいいん
だよっ!! りきゃいできりゅ?」
――――「できるわけないでしょぉぉぉぉぉ??!!! どおしてそんなにわがままばっかりいうのぉぉぉ??!!! ちっと
もゆっくりしてないよっ!!!!」
――――「ゆっくりできないちびちゃんは……しねえぇえぇぇぇっ!!!!!」
親れいむは自ら証明したのだ。自分が本来どんな目に遭わされるべき存在なのかを。私は親れいむの顔を水槽越しに覗きこん
だ。親れいむが震えだす。私は質問をした。
「あなたは、ゆっくりできているゆっくりかしら?」
「……できていないよ……」
「ゆっくりできてない、ゆっくりなのよね?」
「……そうだよ……」
「じゃあ、ゆっくりできないゆっくりは……死なないといけないわよね?」
「ゆ……ぐっ、ごめんなさいっ!!! ごめんなさいっ!!! れいむは、すこしもゆっくりしてませんでした!!! ゆっく
りりかいできました!!! わがままばっかりいってごめんなさいっ!!!!」
最初は家族崩壊の様子を見てキャッキャウフフしようとしていただけのはずだったが、思いがけずゆっくりに説教じみた事を
してしまった。まぁ、そのおかげで増長した親れいむに謝らせることができたことだし、良しとしよう。終わり良ければ全て良
しなのだ。うん、きっとそうだ。
いつまで経っても泣き止まない親れいむを見ながら、私は満足そうに目を細めた。
あの親れいむは、本当はそこまで馬鹿なゆっくりではなかったように思う。少なくとも、あの私が編集した映像だけで“答え”
にたどり着くことができたのだから。親れいむは、自分を強く信じていたのだろう。悲劇のヒロインたる自分は周りのゆっくり
に優しくされて然るべき。何が親れいむにそんな盲信を抱かせたのかは理解できなし、興味もない。
私は親れいむを殺さずに保健所に引き取ってもらった。反省をした相手に対し、それ以上何かを追及するのは好きではないし、
母親としては失格であると考えているからだ。
「お母さん!! ただいま~!!」
「お帰りなさい。 早く手を洗っておいで。 そしたらおやつにしましょう? 今日はガトーショコラを作ったのよ?」
「わかった!!! すぐに洗ってくるから待ってて!!!」
バタバタと家の中を駆けまわる小さな男の子。今年で五つになる私の息子だ。少し遅れて実家の両親が私の家に上がってきた。
「ごめんね。 夏休みの間にお父さんたちの家に泊まりに行く、って聞かなくて……」
「いいんだ。 久しぶりに賑やかで楽しかったよ。 お前もたまには帰って来い」
「ごめんごめん。 仕事が忙しくってね、なかなか……」
「本当に一人で育てるのか? うちに帰ってきてもいいんだぞ?」
「んー……。 なんとかしてみせるわよ。 私、こう見えても結構頑丈だし」
「そうか」
「そうよ。 それにシングルマザーで頑張っているお母さんは私以外にもたくさんいるわ。 負けてられないもの」
「お母さん!! 手、洗ってきたよ!!!」
「テーブルの上に置いてあるから食べてもいいよ」
「うん!!!」
両親もテーブルについて息子を交えて談笑をしている。
私は畳の部屋に足を踏み入れ、真新しい仏壇とその中心で笑顔を浮かべている夫の遺影に手を合わせて、ぺろりと舌を出した。
「ごめんね、あなた? 久しぶりに……ゆ虐しちゃった☆」
おわり