ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1798 ~都会のゆっくりとその顛末~「捨てありす親子」
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「都会のゆっくりとその顛末~捨てありす親子~」
羽付きあき
・善良なゆっくりがひどい目に会いますご注意を
・幾つかの独自設定を織り交ぜております
・ストレスマッハ人間が登場しますご注意ください
X月X日 AM 4:25 明け方にて
・・・ブラウン管越しに、賑やかな音楽とともに色鮮やかな画面効果が流れ込んでいる。
ブラウン管の向こう側に映っていたのは「ゆっくり」だった。
「・・・近年ゆっくり愛好家たちの中で流行している"ゆっくりありす"!それまではまりさとれいむに一歩負けている状態でありましたが年々評価が上がってきています!」
ブラウン管の箱の向こうでは、金バッジを付けた綺麗なありすが跳ねたり、「おうた」を歌ったりしている映像が映し出される。
「なんといってもありす種のメリットはその洗練された上品さ!"とかいは"と言う独自の概念を持つありす種は・・・」
何度も何度も流れるこのゆっくりブームは、今やどこもかしこも巻き込んで、ありす種は品薄状態だそうだ。
「ありす種は"とかいは"と言うゆっくりするという概念とは似て非なる考えを持ち、洗練された上品さを持って飼いゆっくりとしては理想の気質を備えている・・・か」
ありす種は品薄状態、次回入荷は・・・
そんな札をかけられた街の片隅では、一歩裏路地に入ればありす種はゴロゴロとそこらに存在している。
それらは元々いた野良の「街ありす」ではない。
そう、それらは街ゆっくりにも飼いゆっくりにもなれない「捨てありす」達である・・・
AM 9:30 街の外れ
私は街の通りへと足を延ばしていた。
と言っても端の小さな商店街であるが・・・
機能移転の影響か、ここだけシャッターが多く締まっており荒涼としている。
人もかなり少なく、通っているのはこの時間帯でも私だけであった。
・・・私以外の何かがいるとすれば、ゆっくりぐらいであろう。
街ゆっくりの住む場所にも良い、悪いが存在する。
通常、ゆっくりと言うのは自身が営巣した場所を中心として行動する習性をもつため、豊かな餌場が出来る限り近くにあった方がよい場所と呼ばれる。
反対に餌場が遠い場所に営巣しているのは悪い住処と考えられている。
多少疑問はあるが、街ゆっくりにも通じる事で、ゴミ捨て場などの餌場に近い所に「おうち」を作る傾向が強い。
無論それは常に危険と隣り合わせであるが、跳ねると言う行動を積極的にしない街ゆっくり達にとっては、デメリットを補ってなおもメリットがあるのだ。
・・・つまり今、私がいるここはゆっくりにとっては辺鄙な場所になるというわけだ。
餌場も遠く、水場もある程度遠くへ行かなければ無い。しかも裏通りを伝って水場に行くことができないため、どうしても危険を冒してメインストリートを横断する必要があると言う立地条件。
あるのは雨風をしのげる場所だけと言うゆっくりにとってしてみれば「空白地帯」の様な物であった。
だが今、ここにはたくさんのゆっくりが住み着いている。
以前は飾りを紛失して追い出されたりした街ゆっくりが散在しているだけであったが、それらの姿はここ最近では大きく変貌していた。
ここには「捨てありす」しかいない。
厳密にいえば「捨てありす」が生きられる場所はここしか、無い。
音にすらも置いてけぼりにされた様な静寂の中で、私はシャッターの下りた建物と建物の間へと身を乗り出した。
ここで私は、街ありすにとって「とかいは」など、糞以下の価値もないという事をまざまざと見せつけられる事になる。
AM 9:38 歌声
建物と建物の隙間に入れば、ゆっくりはすぐに見つかった。
エアコンの室外機と雑多に積まれたビールケース等の間に黄ばんだボロボロのタオルを敷いただけの最早「おうち」とは言えないレベルのその場所に、捨てありすは鎮座していた。
バスケットボール程のありすが一体、その横に小麦粉の皮をくっつけてすーりすーりを繰り返しているテニスボールほどの子ありすが一体。
私には気づいていない様で、しきりに小麦粉の皮をすり合わせてはニコニコと笑い合っている。
・・・風貌は街ゆっくりそのものである。
小汚い小麦粉の皮に、枝毛だらけで妙にテカテカの砂糖細工の髪、飾りは解れた糸が何本も出て、おまけと言わんばかりに所々オレンジとも茶色とも似つかないシミがこびり付いていた。
子ありすの方はソフトボール大・・・と言ってもその形はまるでコンビーフ缶の様な台形をしていた。
そんな物体が小麦粉の皮をグネグネと変形させながらすーりすーりを繰り返しているのだ。
不気味を通り越して気持ち悪くなる光景だろう。
それにそのありす達からは何かしらの腐ったにおいが漂っている。・・・これは生ゴミの臭いだ。
ゆっくりが気付かない2m程の距離から眺めているだけでこの臭い、それはそのありす達から発せられる物か周りの臭いかわからないほど私の嗅覚を狂わせていた。
「ゆゆ!みゃみゃ!しゅーりしゅーり!」
「おちびちゃん!すーりすーり!」
「ゆ・・・みゃみゃ・・・ありしゅなんぢゃかおうちゃしゃんがききちゃくなっちぇきちゃわ!」
「ゆっくりわかったわ!ありすがおうたさんをきかせてあげるわね」
ありすが目を閉じて体をクーネクーネとリズムをとりながら声を出し始める。
「ゆ~♪ゆ~♪とかいは~♪」
・・・私はそれを聞いて耳を疑った。
ゆっくりのそれとは思えないほどの澄んだ・・・いや、「綺麗な」歌声だからだ。
街ゆっくりや捨てゆっくりが食料をもらうために頼んでもいないのに勝手に歌い始める騒音一歩手前の「おうた」とは違う。
静かにして優しく、そして流麗な歌声であった。
・・・このありすは間違いなく「金バッジ」かそれと同等の類のゆっくりだったのだろう。私はそう確信した。
子ありすが目を閉じて同じように体をクーネクーネさせてリズムをとりながら聞き入っている。
ありすの場違いな歌声は、寒々とした商店街を包み込むように聞こえていた・・・
「ゆゆー!みゃみゃはちょっちぇもおうちゃがじょうずぢゃは!ちょかいはにぇ!」
「おちびちゃんもすぐうたえるようになるわ。ままがおしえてあげるわね」
「ゆ・・・でみょどうしちぇおうちゃさんをにんげんしゃんにきかせちぇあげにゃいの?」
「・・・ゆ?」
「ほきゃのいなきゃもにょなれいみゅがうちぇっちぇるおうちゃちょはぜんぜんちぎゃうにょに・・・」
「・・・おちびちゃん、おうたはね"きかせてあげる"ものじゃなくて"うたう"ものよ」
「"うちゃう"?」
「そう、うたうものなの・・・ありすはとかいはだから・・・どんなことがあってもおうただけはきかせてあげるようにしたくないわ・・・」
「ゆぅ~・・・ありしゅなんぢゃかよきゅわきゃんにゃいわ・・・」
「おちびちゃんにもそのうちわかるわ・・・だってありすのとかいはなおちびちゃんだもの!」
「ゆゆ!ちょかいは!ちょかいは!」
・・・このありすはちゃんとした「とかいは」と言う概念を持っている。
なぜこのようなありすが捨てられなければならないのだろうか?私はそれを疑問に思う。
AM 10:15 激痛
「ずーりずーり・・・ちゅかれるわ・・・」
「おちびちゃんもりしないでいいわ!ゆっくりでいいからありすについてくるのよ」
ずーりずーりで移動しながら餌場へ向かうと思われるおりす親子
子ありすの様子が変だ。まだ動いて5分とも立っていないのに「バテている」
街ゆっくりは、ずーりずーりで移動するため、よほどの事がない限り疲れる様な事はない。体力を消耗するようなペースで動く事は、食料事情が不規則な街ではかなり危険だからである。
あの子ありすは、通常の子ゆっくりより遥かに遅いスピードで移動しているというのに疲れてきている。
これは一体どういう事か?
「ずーりずーり・・・ゆっくりありゅきゅわ!」
「ゆふふ!おちびちゃんむりしちゃだめよ?」
「ゆゆ!ありしゅきにょうみちゃいなちょかいはなごはんしゃんがちゃべちゃいわ・・・」
「きょうもきっとあるわ!むりしないでゆっくりあるくのよ!」
・・・子ありすの底部の動きがまるで油の切れた機械のように不自然だ。
何か固まっていっているような・・・
私がそう考えていると、ありす達は気がつけばどこかの裏路地に入ってしまったようだ。
私の見立てでは、恐らくあの子ありすはある病気にかかっているだろう。
街ゆっくりで病気と言えば、カビ、ゆ除クッキーを食べたことによる出餡症状、下痢そして「便秘」
一番最後は最も厄介である。
街の中心部では、ゆっくりが満足するほどの水場は殆ど存在しない。
雨が降った後の水たまり等がせいぜいだろう。
あの子ありすの体型は間違いなく水分不足でうんうんが出なくなってしまい、餡子が固まって底部を圧迫しているのだ。
ありすも同様だろう。成体ゆっくりのサイズの為、症状が出るのに大幅なタイムラグがあるだけであるが。
その末路は恐らく中枢餡までもを圧迫して慢性的な激痛に襲われ、底部の餡子までもが完全に固まってしまいそのまま動かぬ饅頭となり果てる事であろうか。
せめて水分の多い食糧をありす親子が見つけているという事を祈ろう。
・・・私のすぐ近くで「おいしそうなぴーなっつさんだわ」と言う声が聞こえた。
・・・・・・
・・・
「おうち」に戻ったありす親子は、4粒程のピーナッツを半分に分けてポリポリと食べている。
「ぽーりぽーり・・・ちあわちぇー!」
「ぽーりぽーり・・・とってもとかいはね!」
ポリポリと小さなピーナッツを食べるありす親子
ここまではありす親子にとっても普通の光景だろう。
既にくーねくーねをするにも支障が出てしまいそうなほどパンパンに台形に膨れた子ありすは、すでに限界に達していてもおかしくはないはずであるが・・・
ピーナッツを食べ終えて暫く立った後、子ありすの小麦粉の皮がプルプルと震えて苦しそうな声を上げ始める。
「ゆ”・・・!ゅ”ぐっ・・・ゆ”ぎぎ・・・っ!」
「おぢびぢゃん!どぼじだのっ!?」
「みゃみゃ・・・ありじゅ・・・ぽんぽん・・・がっ・・・いぢゃいっ・・・いぢゃいわぁぁ・・・!!」
プルプルと震えて目を見開いて苦しむ子ありす。
水分は殆どないのだろう。わずかな砂糖水の涎と涙が出ているだけだ。もっとも、なけなしの水分を流していることに違いはないが。
「いぢゃっ・・・いぢゃいぃぃ・・・!みゃみゃ・・・いぢゃいわぁぁ・・・!くりゅしいわぁぁ・・・!!」
「おちびちゃんゆっくりよくなるのよっ!ぺーろぺーろ!」
ありすがぺーろぺーろをするがはっきりいって効果はない。
中枢餡の圧迫が始まったという事はすでの底部の硬化が同時進行で始まっているだろう。その証拠に、プルプルと震えているだけでぐーねぐーねすらできなくなっている。
それでも懸命にぺーろぺーろを続けるありす。無駄な事とは薄々感じているのではないだろうか?
「いぢゃいっ!いぢゃいぃぃ・・・!あんよしゃんがうぎょきゃないわぁぁ・・・ゆ・・・!?きゅ、きゅらい!?みゃみゃ!?どきょにいりゅにょ!?きゅらいわぁぁぁ・・・!!きょわいわぁぁ・・・!!」
「おぢびぢゃんっ!!ぺーろぺーろ!まっててね!きっとよくなるからねっ!ぺーろぺーろっ!おちびちゃんは・・・!おちびちゃんはありすがまもるわっ!ぺーろぺーろ!」
とうとう中枢餡の一部の機能が消失を始めたようだ。見えなくなったという事は恐らく次は「聞こえなくなる」だろう
そして最後は・・・
一度激痛が始まればもはや助かる手立てはない。水を飲ませた所で逆に餡子が膨張を始めて結果が同じになるからだ。
約30分間は激痛に苛まれて行くだろう。
「・・・?みゃみゃ?みゃみゃー!?どきょにいりゅのおおおおおおおおおおおおおおおお!?あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”にゃにもききょえにゃいよおおおおおおおおおお!!ありしゅをおいちぇかにゃいぢぇえええええええええええええ!!」
「・・・おちびぢゃん!?なにいってるの!?ありすはここよ!?おちびちゃんっ!?ゆっくり!ゆっくりするのよおおおおおおお!」
「みゃみゃ!ぢょがいばっ!ありぢゅぢょがいばにゃゆっきゅりになりましゅきゃらおいちぇかにゃいぢぇくだしゃいっ!いいごになりまずっ!ごばんざんもずぎぎらいいいばぜんっ!だがらっ!だがらああああああああ!!」
「おちびちゃんっ!どがいばっ!どがいばっ!どがいばあああああああ!!」
最早激痛とパニックで訳が分からなくなった子ありすが残った力全てを振り絞ってありすを呼ぶ。
すぐ目の前に居ると言うのに。
すーりすーりをしているありすにすら気がつかないという事は、恐らく感覚すらも無くなっているのだろう。
「どがいばっ!おぢびぢゃんっ!どがいばっ!ずーりずーりっ!ずーりずーりいいいいいいい!!どがいばっ!どがいばあああああああああ!!」
・・・「とかいは」とは「ゆっくり」と言う事だろうか?定かではないがありすの方も半乱狂になって叫び続けている。
暫くの間、ありす親子の絶叫が続いた・・・
PM 13:55 最後の歌
既に子ありすの異変から一時間半近くが経過した。
辺りに響いているのはありす親子の叫び声ではなく、ありすの声だけである。
「おぢびぢゃん!どがいばっ!ずーりずーりっ!なおるわっ!ぎっどなおるわっ!だがらべんじじでっ!げんぎになっでええええええええ!!」
「ゅ”・・・っぎび・・・ぢょ・・・がい・・・ば・・・みゃ・・・みゃ・・・ど・・・ごに・・・いる・・・の・・・?」
「ごのにいるわ!おぢびぢゃん!ありずはずっどおぢびぢゃんのどごろにいるわっ!だがらっ!だがらゆっぐりなおっでえええええええ!!」
「ゅ”・・・いぢゃ・・・いぃぃ・・わぁ・・・ぐりゅじい・・・わぁ・・・みゃみゃ・・・みゃ・・・みゃ・・・どぼじぢぇ・・・どぼじぢぇ・・・ありじゅを・・・おいぢぇいっぢゃの・・・?いいきょにしちぇた・・・にょ・・・に・・・」
「おぢびぢゃん!ありずはごごにいるわ!ぼら!おぢびぢゃんのずぎなおうだよ!?ゆ”~!ゆ”ゆ”ー!どがいばーっ!」
しゃがれた声で歌らしきものを歌うありす。
先ほど聞いた歌声とは程遠い、そこらのゆっくりの「おうた」と何ら変わりない。
騒音の様な「おうた」だ。
そんな歌が10分ほど続いたある時、ふとありすの声が止まった。
「お・・・ぢび・・・ぢゃん・・・?」
「・・・」
「どうしたの・・・?ねちゃったの・・・?」
「・・・」
「ゆ、ゆふっ!ゆひっ!ゆふふ・・・しかたないこね・・・ほら・・・たおるさんをかぶらないとかぜをひくわよ・・・?」
「・・・」
「そうだ・・・!あしたはありすがおうたさんをおしえてあげるわ!とかいはなゆっくりになるにはおうたさんはひつようだものねっ!」
「・・・」
「おちびちゃん・・・!あしたもとかいはないちにちを・・・あした・・・も・・・」
「・・・」
「・・・ゆぐっ・・・ゆぐっ・・・ゆ”わ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!どぼじでっ!どぼじでえええええええええ!!なんでえええええええええ!!なんでどがいばなおぢびぢゃんがあああああああ!!なにもじでないのにびどいごどにあうのおおおおおおおお!!」
・・・既に動かぬ饅頭となった子ありすを目の前に慟哭するありす。
街ゆっくりそのものの風貌と相まって私には感動ではなく何か空恐ろしい物に映った。
「ゆぐっ!ぐひっ・・・!ごんな・・・ごんなごどなら・・・おうだを・・・おうだをにんげんざんに"ぎがぜだら"よがっだわ・・・ぞうずれば・・・ぞうずれば・・・!ゆぐっ!どがいばなんで・・・どがいばなんて・・・!」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
一週間後 PM 15:27 とある「街ありす」の記録
あれから一週間がたった。
その後、あのありすがどうなったかは私は知らない。
だが一つ言える事は、あのありすも長くはないという事だ。
水場が近くにない、行くにしてもかなり困難と言う条件が、あのありす親子の全てを破壊した。
ゆっくりは、陽射しなどで急激な乾燥がない以上水を飲まなくてもさしあたって問題はない・・・と思っている
・・・これはあくまで「飼いゆっくり」に限る話だ。水の重要性を理解できないそれらは、単にむ~しゃむ~しゃした後に口をさっぱりさせたり、し好品のような感覚で水を飲む。
少し前までそんな考えをする飼いゆっくりはいなかった。自身にかかわる重要な事はすべてゆっくりブリーダーに叩きこまれるからだ。
しかしこれは、ありす種が人気になったため促成でバッジ付きに育て上げる風潮が生んだ一つの悲劇の現れであろう。
おうたやくーねくーね、のーびのーびやこーでぃねいと・・・などかわいらしいしぐさや習性だけに磨きをかけて他の重要な事はすっぽりと抜け落ちてしまっているそのありす達は本当に「バッジ付き」と呼べるのだろうか?
しかもそれらもいつかは空きがくる。華やかな舞台の裏には、いつも悲劇と絶望がコインの表と裏の様にくっついて離れない様に、捨てられるありすの数も増加している。
分母が大きくなれば分子も大きくなるのだ。促成で育てられた飼いありす達は、仕草には定評があるがそれ以外の事は壊滅的に何もできない。学習すると言う事がすっぽりと抜け落ちている。
新たに何かを覚えて、それをさせると言う事がゲスゆっくりを更生させるほどに難しい。
様々な理由で捨てゆっくりとなったありす達は、街でも生き残れない。
食料の取り方もわからなければ、水がどれだけ重要かも、ゲスゆっくりの恐ろしさも知らない。
捨てゆっくりの生存率は限りなく低く、半年後には全体の10%しか残っていないと言われている。
あのありす親子もそうだったのだろう。多少なりとも順応した面もあったが、肝心な所で抜けていた。
どうなったのかはわからない。だがあのありすもいつかは子ありすの様に底部が固まって、中枢餡を押しつぶして物言わぬ饅頭となり果てるだろう。
それが明日か、数ヵ月後かは分からないが私はそう考えている。
繁華街を抜けたあたりで、道の端で何か大声を上げているゆっくりがいる様だ。
興味を持った私が近付いて行ってみると、そこには一体のありすらしきゆっくりがそこに居た。
「ゆ~・・・ゆゆ~・・・とかいは~・・・とかいは~」
どこで拾ったかもわからぬ空の缶詰を前において、壁にもたれかかるようにしながら「おうた」を歌うそのありすは、張り付いた様にそこから動かなかった。
そう、まるで底部が地面とくっついたかのように微動だにせず、上半分だけでくーねくーねとリズムをとりながら歌を歌っている。
「にんげんざん・・・!ありずになにかたべものをくだざい・・・!おれいにおうたをうたいまずがら・・・!」
二人組の若い男に声をかけるそのありすのその風貌は、汚いを通り越していた。
何かに引き抜かれたかのように所々ハゲができており、小麦粉の皮が露出していた。
髪飾りもなく、砂糖細工の歯も所々抜け落ちている。
立ち止まった二人組の男に近づく際には、ヒョウタンの様な形になって、上半分だけでずーりずーりと移動している。底部はまるで固まったかのように微動だにしていない。
「ぞごのにんげんざん・・・おでがいでず・・・"おうだをぎがぜであげまずがら"なにがだべものをぐだざい・・・ずごじでもいいんでず・・・」
そう涙ながらに訴えるありすを見て二人組はヘラヘラと笑いながらありすを見下ろしていた。
「だってよ。どうする?」
「お前見て―なキタねーゆっくりにやるモンなんてねーよ!ギャハハ!」
「そうだよなー」
「それに見てみろよこいつの頭!まるでカッパだぜ!ヒャハハハハ!」
「おい、ちょっと歌ってみろよ。それから決めてやるよ!」
片割れの男がゲラゲラと笑いながらありすにそう言った。
ありすは体をくーねくーねとさせながら懸命に歌を歌い始める。
「ゆ~・・・ゆ~・・・!とかいは~・・・!とかいは~・・・!」
必死に綺麗な声を出そうとするが掻き消える様なか細い声しか出ない。それを見て男は腹を抱えて笑いだした。
「「ギャハハハハハハハハ!!」」
「とかいは~・・・とかいは~・・・」
「もういいっつーの!全然聞こえねーしよ!」
「おい、"街ありす"の物真似しろよ!」
「まちありす・・・?」
「なんだこいつ街ありすの癖にそんな事も知らねえのかよ!ウッヒヒヒ!腹痛てぇ!」
「そこの電柱に体をヘコヘコ擦りつけてよー"んほおおおおおお!すっきりすっきりー!"とか何とか言ってみろよ!そうすりゃなんかやるかもな!」
男達の嘲笑の混じった冗談を、ありすは真に受けて、電柱に身を乗り出してヘコヘコと体をこすりつけ始めた。
「ん、んほおおお・・・!すっきりすっきりー・・・!」
「全然臨場感がねーよ!もっとまじめにやれよ!」
「別に俺たちゃこのままどっかいってもいーんだぜ?」
「わ、わがりばじだぁぁ・・・じばずぅぅ・・・!」
男達のヤジを受けて本物さながらに小麦粉の体を電柱にヘコヘコとこすりつけ叫ぶありす。
「んほおおおおおおおおおお!!ありすのとかいはなてくにっくでめろめろにしてあげるわああああああ!!でんちゅうさんまぐろなのねえええええええ!!それでもかわいいわあああああ!!すっきりすっきりいいいいいいいい!!」
なけなしの砂糖水の涙を流しながら、ヘコヘコとこすりつけるありす。
それを見て二人組はたじろいだ。
「うわ・・・キモ・・・」
「本当にやりやがったよ・・・気持ち悪っ・・・」
「帰ろうぜ・・・なんか気分悪くなってきた」
「ああ・・・」
身勝手な男達は電柱に体をこすりつけるありすをしり目にすごすごと引き返していく。
それに気付かずにひたすら「街ありす」のものまねを続けるありす。
人混みの中でそこだけまるで空白地帯のごとくありすを避けて人々は歩いて行く。
必死なのか、それとも既に硬化しつつある餡子が中枢餡に影響を与え始めているのかそれは定かではない。どちらにしろもう長くはないだろう。
私はありすの砂糖細工の髪から何かがひらりと落ちてきているのを見つけた。
目を凝らして見るとそれはありす種の飾りであった。それも子ありす程の大きさの飾りだ。
なぜこのありすが子ありすの飾りを後生大事に持っているのか、なぜこのようになってしまったのか今の私に知る由はない。
・・・本来ゆっくりの識別など大まかな種類によってでしか判別できないのだから。
「んほおおおおおおおお!!んほおおおおおおおお!!すっきりいいいいいい・・・!」
振り返って人混みの中に溶け込んだ私の背に、ありすの慟哭の様な叫びが微かに聞こえている・・・
羽付きあき
・善良なゆっくりがひどい目に会いますご注意を
・幾つかの独自設定を織り交ぜております
・ストレスマッハ人間が登場しますご注意ください
X月X日 AM 4:25 明け方にて
・・・ブラウン管越しに、賑やかな音楽とともに色鮮やかな画面効果が流れ込んでいる。
ブラウン管の向こう側に映っていたのは「ゆっくり」だった。
「・・・近年ゆっくり愛好家たちの中で流行している"ゆっくりありす"!それまではまりさとれいむに一歩負けている状態でありましたが年々評価が上がってきています!」
ブラウン管の箱の向こうでは、金バッジを付けた綺麗なありすが跳ねたり、「おうた」を歌ったりしている映像が映し出される。
「なんといってもありす種のメリットはその洗練された上品さ!"とかいは"と言う独自の概念を持つありす種は・・・」
何度も何度も流れるこのゆっくりブームは、今やどこもかしこも巻き込んで、ありす種は品薄状態だそうだ。
「ありす種は"とかいは"と言うゆっくりするという概念とは似て非なる考えを持ち、洗練された上品さを持って飼いゆっくりとしては理想の気質を備えている・・・か」
ありす種は品薄状態、次回入荷は・・・
そんな札をかけられた街の片隅では、一歩裏路地に入ればありす種はゴロゴロとそこらに存在している。
それらは元々いた野良の「街ありす」ではない。
そう、それらは街ゆっくりにも飼いゆっくりにもなれない「捨てありす」達である・・・
AM 9:30 街の外れ
私は街の通りへと足を延ばしていた。
と言っても端の小さな商店街であるが・・・
機能移転の影響か、ここだけシャッターが多く締まっており荒涼としている。
人もかなり少なく、通っているのはこの時間帯でも私だけであった。
・・・私以外の何かがいるとすれば、ゆっくりぐらいであろう。
街ゆっくりの住む場所にも良い、悪いが存在する。
通常、ゆっくりと言うのは自身が営巣した場所を中心として行動する習性をもつため、豊かな餌場が出来る限り近くにあった方がよい場所と呼ばれる。
反対に餌場が遠い場所に営巣しているのは悪い住処と考えられている。
多少疑問はあるが、街ゆっくりにも通じる事で、ゴミ捨て場などの餌場に近い所に「おうち」を作る傾向が強い。
無論それは常に危険と隣り合わせであるが、跳ねると言う行動を積極的にしない街ゆっくり達にとっては、デメリットを補ってなおもメリットがあるのだ。
・・・つまり今、私がいるここはゆっくりにとっては辺鄙な場所になるというわけだ。
餌場も遠く、水場もある程度遠くへ行かなければ無い。しかも裏通りを伝って水場に行くことができないため、どうしても危険を冒してメインストリートを横断する必要があると言う立地条件。
あるのは雨風をしのげる場所だけと言うゆっくりにとってしてみれば「空白地帯」の様な物であった。
だが今、ここにはたくさんのゆっくりが住み着いている。
以前は飾りを紛失して追い出されたりした街ゆっくりが散在しているだけであったが、それらの姿はここ最近では大きく変貌していた。
ここには「捨てありす」しかいない。
厳密にいえば「捨てありす」が生きられる場所はここしか、無い。
音にすらも置いてけぼりにされた様な静寂の中で、私はシャッターの下りた建物と建物の間へと身を乗り出した。
ここで私は、街ありすにとって「とかいは」など、糞以下の価値もないという事をまざまざと見せつけられる事になる。
AM 9:38 歌声
建物と建物の隙間に入れば、ゆっくりはすぐに見つかった。
エアコンの室外機と雑多に積まれたビールケース等の間に黄ばんだボロボロのタオルを敷いただけの最早「おうち」とは言えないレベルのその場所に、捨てありすは鎮座していた。
バスケットボール程のありすが一体、その横に小麦粉の皮をくっつけてすーりすーりを繰り返しているテニスボールほどの子ありすが一体。
私には気づいていない様で、しきりに小麦粉の皮をすり合わせてはニコニコと笑い合っている。
・・・風貌は街ゆっくりそのものである。
小汚い小麦粉の皮に、枝毛だらけで妙にテカテカの砂糖細工の髪、飾りは解れた糸が何本も出て、おまけと言わんばかりに所々オレンジとも茶色とも似つかないシミがこびり付いていた。
子ありすの方はソフトボール大・・・と言ってもその形はまるでコンビーフ缶の様な台形をしていた。
そんな物体が小麦粉の皮をグネグネと変形させながらすーりすーりを繰り返しているのだ。
不気味を通り越して気持ち悪くなる光景だろう。
それにそのありす達からは何かしらの腐ったにおいが漂っている。・・・これは生ゴミの臭いだ。
ゆっくりが気付かない2m程の距離から眺めているだけでこの臭い、それはそのありす達から発せられる物か周りの臭いかわからないほど私の嗅覚を狂わせていた。
「ゆゆ!みゃみゃ!しゅーりしゅーり!」
「おちびちゃん!すーりすーり!」
「ゆ・・・みゃみゃ・・・ありしゅなんぢゃかおうちゃしゃんがききちゃくなっちぇきちゃわ!」
「ゆっくりわかったわ!ありすがおうたさんをきかせてあげるわね」
ありすが目を閉じて体をクーネクーネとリズムをとりながら声を出し始める。
「ゆ~♪ゆ~♪とかいは~♪」
・・・私はそれを聞いて耳を疑った。
ゆっくりのそれとは思えないほどの澄んだ・・・いや、「綺麗な」歌声だからだ。
街ゆっくりや捨てゆっくりが食料をもらうために頼んでもいないのに勝手に歌い始める騒音一歩手前の「おうた」とは違う。
静かにして優しく、そして流麗な歌声であった。
・・・このありすは間違いなく「金バッジ」かそれと同等の類のゆっくりだったのだろう。私はそう確信した。
子ありすが目を閉じて同じように体をクーネクーネさせてリズムをとりながら聞き入っている。
ありすの場違いな歌声は、寒々とした商店街を包み込むように聞こえていた・・・
「ゆゆー!みゃみゃはちょっちぇもおうちゃがじょうずぢゃは!ちょかいはにぇ!」
「おちびちゃんもすぐうたえるようになるわ。ままがおしえてあげるわね」
「ゆ・・・でみょどうしちぇおうちゃさんをにんげんしゃんにきかせちぇあげにゃいの?」
「・・・ゆ?」
「ほきゃのいなきゃもにょなれいみゅがうちぇっちぇるおうちゃちょはぜんぜんちぎゃうにょに・・・」
「・・・おちびちゃん、おうたはね"きかせてあげる"ものじゃなくて"うたう"ものよ」
「"うちゃう"?」
「そう、うたうものなの・・・ありすはとかいはだから・・・どんなことがあってもおうただけはきかせてあげるようにしたくないわ・・・」
「ゆぅ~・・・ありしゅなんぢゃかよきゅわきゃんにゃいわ・・・」
「おちびちゃんにもそのうちわかるわ・・・だってありすのとかいはなおちびちゃんだもの!」
「ゆゆ!ちょかいは!ちょかいは!」
・・・このありすはちゃんとした「とかいは」と言う概念を持っている。
なぜこのようなありすが捨てられなければならないのだろうか?私はそれを疑問に思う。
AM 10:15 激痛
「ずーりずーり・・・ちゅかれるわ・・・」
「おちびちゃんもりしないでいいわ!ゆっくりでいいからありすについてくるのよ」
ずーりずーりで移動しながら餌場へ向かうと思われるおりす親子
子ありすの様子が変だ。まだ動いて5分とも立っていないのに「バテている」
街ゆっくりは、ずーりずーりで移動するため、よほどの事がない限り疲れる様な事はない。体力を消耗するようなペースで動く事は、食料事情が不規則な街ではかなり危険だからである。
あの子ありすは、通常の子ゆっくりより遥かに遅いスピードで移動しているというのに疲れてきている。
これは一体どういう事か?
「ずーりずーり・・・ゆっくりありゅきゅわ!」
「ゆふふ!おちびちゃんむりしちゃだめよ?」
「ゆゆ!ありしゅきにょうみちゃいなちょかいはなごはんしゃんがちゃべちゃいわ・・・」
「きょうもきっとあるわ!むりしないでゆっくりあるくのよ!」
・・・子ありすの底部の動きがまるで油の切れた機械のように不自然だ。
何か固まっていっているような・・・
私がそう考えていると、ありす達は気がつけばどこかの裏路地に入ってしまったようだ。
私の見立てでは、恐らくあの子ありすはある病気にかかっているだろう。
街ゆっくりで病気と言えば、カビ、ゆ除クッキーを食べたことによる出餡症状、下痢そして「便秘」
一番最後は最も厄介である。
街の中心部では、ゆっくりが満足するほどの水場は殆ど存在しない。
雨が降った後の水たまり等がせいぜいだろう。
あの子ありすの体型は間違いなく水分不足でうんうんが出なくなってしまい、餡子が固まって底部を圧迫しているのだ。
ありすも同様だろう。成体ゆっくりのサイズの為、症状が出るのに大幅なタイムラグがあるだけであるが。
その末路は恐らく中枢餡までもを圧迫して慢性的な激痛に襲われ、底部の餡子までもが完全に固まってしまいそのまま動かぬ饅頭となり果てる事であろうか。
せめて水分の多い食糧をありす親子が見つけているという事を祈ろう。
・・・私のすぐ近くで「おいしそうなぴーなっつさんだわ」と言う声が聞こえた。
・・・・・・
・・・
「おうち」に戻ったありす親子は、4粒程のピーナッツを半分に分けてポリポリと食べている。
「ぽーりぽーり・・・ちあわちぇー!」
「ぽーりぽーり・・・とってもとかいはね!」
ポリポリと小さなピーナッツを食べるありす親子
ここまではありす親子にとっても普通の光景だろう。
既にくーねくーねをするにも支障が出てしまいそうなほどパンパンに台形に膨れた子ありすは、すでに限界に達していてもおかしくはないはずであるが・・・
ピーナッツを食べ終えて暫く立った後、子ありすの小麦粉の皮がプルプルと震えて苦しそうな声を上げ始める。
「ゆ”・・・!ゅ”ぐっ・・・ゆ”ぎぎ・・・っ!」
「おぢびぢゃん!どぼじだのっ!?」
「みゃみゃ・・・ありじゅ・・・ぽんぽん・・・がっ・・・いぢゃいっ・・・いぢゃいわぁぁ・・・!!」
プルプルと震えて目を見開いて苦しむ子ありす。
水分は殆どないのだろう。わずかな砂糖水の涎と涙が出ているだけだ。もっとも、なけなしの水分を流していることに違いはないが。
「いぢゃっ・・・いぢゃいぃぃ・・・!みゃみゃ・・・いぢゃいわぁぁ・・・!くりゅしいわぁぁ・・・!!」
「おちびちゃんゆっくりよくなるのよっ!ぺーろぺーろ!」
ありすがぺーろぺーろをするがはっきりいって効果はない。
中枢餡の圧迫が始まったという事はすでの底部の硬化が同時進行で始まっているだろう。その証拠に、プルプルと震えているだけでぐーねぐーねすらできなくなっている。
それでも懸命にぺーろぺーろを続けるありす。無駄な事とは薄々感じているのではないだろうか?
「いぢゃいっ!いぢゃいぃぃ・・・!あんよしゃんがうぎょきゃないわぁぁ・・・ゆ・・・!?きゅ、きゅらい!?みゃみゃ!?どきょにいりゅにょ!?きゅらいわぁぁぁ・・・!!きょわいわぁぁ・・・!!」
「おぢびぢゃんっ!!ぺーろぺーろ!まっててね!きっとよくなるからねっ!ぺーろぺーろっ!おちびちゃんは・・・!おちびちゃんはありすがまもるわっ!ぺーろぺーろ!」
とうとう中枢餡の一部の機能が消失を始めたようだ。見えなくなったという事は恐らく次は「聞こえなくなる」だろう
そして最後は・・・
一度激痛が始まればもはや助かる手立てはない。水を飲ませた所で逆に餡子が膨張を始めて結果が同じになるからだ。
約30分間は激痛に苛まれて行くだろう。
「・・・?みゃみゃ?みゃみゃー!?どきょにいりゅのおおおおおおおおおおおおおおおお!?あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”にゃにもききょえにゃいよおおおおおおおおおお!!ありしゅをおいちぇかにゃいぢぇえええええええええええええ!!」
「・・・おちびぢゃん!?なにいってるの!?ありすはここよ!?おちびちゃんっ!?ゆっくり!ゆっくりするのよおおおおおおお!」
「みゃみゃ!ぢょがいばっ!ありぢゅぢょがいばにゃゆっきゅりになりましゅきゃらおいちぇかにゃいぢぇくだしゃいっ!いいごになりまずっ!ごばんざんもずぎぎらいいいばぜんっ!だがらっ!だがらああああああああ!!」
「おちびちゃんっ!どがいばっ!どがいばっ!どがいばあああああああ!!」
最早激痛とパニックで訳が分からなくなった子ありすが残った力全てを振り絞ってありすを呼ぶ。
すぐ目の前に居ると言うのに。
すーりすーりをしているありすにすら気がつかないという事は、恐らく感覚すらも無くなっているのだろう。
「どがいばっ!おぢびぢゃんっ!どがいばっ!ずーりずーりっ!ずーりずーりいいいいいいい!!どがいばっ!どがいばあああああああああ!!」
・・・「とかいは」とは「ゆっくり」と言う事だろうか?定かではないがありすの方も半乱狂になって叫び続けている。
暫くの間、ありす親子の絶叫が続いた・・・
PM 13:55 最後の歌
既に子ありすの異変から一時間半近くが経過した。
辺りに響いているのはありす親子の叫び声ではなく、ありすの声だけである。
「おぢびぢゃん!どがいばっ!ずーりずーりっ!なおるわっ!ぎっどなおるわっ!だがらべんじじでっ!げんぎになっでええええええええ!!」
「ゅ”・・・っぎび・・・ぢょ・・・がい・・・ば・・・みゃ・・・みゃ・・・ど・・・ごに・・・いる・・・の・・・?」
「ごのにいるわ!おぢびぢゃん!ありずはずっどおぢびぢゃんのどごろにいるわっ!だがらっ!だがらゆっぐりなおっでえええええええ!!」
「ゅ”・・・いぢゃ・・・いぃぃ・・わぁ・・・ぐりゅじい・・・わぁ・・・みゃみゃ・・・みゃ・・・みゃ・・・どぼじぢぇ・・・どぼじぢぇ・・・ありじゅを・・・おいぢぇいっぢゃの・・・?いいきょにしちぇた・・・にょ・・・に・・・」
「おぢびぢゃん!ありずはごごにいるわ!ぼら!おぢびぢゃんのずぎなおうだよ!?ゆ”~!ゆ”ゆ”ー!どがいばーっ!」
しゃがれた声で歌らしきものを歌うありす。
先ほど聞いた歌声とは程遠い、そこらのゆっくりの「おうた」と何ら変わりない。
騒音の様な「おうた」だ。
そんな歌が10分ほど続いたある時、ふとありすの声が止まった。
「お・・・ぢび・・・ぢゃん・・・?」
「・・・」
「どうしたの・・・?ねちゃったの・・・?」
「・・・」
「ゆ、ゆふっ!ゆひっ!ゆふふ・・・しかたないこね・・・ほら・・・たおるさんをかぶらないとかぜをひくわよ・・・?」
「・・・」
「そうだ・・・!あしたはありすがおうたさんをおしえてあげるわ!とかいはなゆっくりになるにはおうたさんはひつようだものねっ!」
「・・・」
「おちびちゃん・・・!あしたもとかいはないちにちを・・・あした・・・も・・・」
「・・・」
「・・・ゆぐっ・・・ゆぐっ・・・ゆ”わ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!どぼじでっ!どぼじでえええええええええ!!なんでえええええええええ!!なんでどがいばなおぢびぢゃんがあああああああ!!なにもじでないのにびどいごどにあうのおおおおおおおお!!」
・・・既に動かぬ饅頭となった子ありすを目の前に慟哭するありす。
街ゆっくりそのものの風貌と相まって私には感動ではなく何か空恐ろしい物に映った。
「ゆぐっ!ぐひっ・・・!ごんな・・・ごんなごどなら・・・おうだを・・・おうだをにんげんざんに"ぎがぜだら"よがっだわ・・・ぞうずれば・・・ぞうずれば・・・!ゆぐっ!どがいばなんで・・・どがいばなんて・・・!」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
一週間後 PM 15:27 とある「街ありす」の記録
あれから一週間がたった。
その後、あのありすがどうなったかは私は知らない。
だが一つ言える事は、あのありすも長くはないという事だ。
水場が近くにない、行くにしてもかなり困難と言う条件が、あのありす親子の全てを破壊した。
ゆっくりは、陽射しなどで急激な乾燥がない以上水を飲まなくてもさしあたって問題はない・・・と思っている
・・・これはあくまで「飼いゆっくり」に限る話だ。水の重要性を理解できないそれらは、単にむ~しゃむ~しゃした後に口をさっぱりさせたり、し好品のような感覚で水を飲む。
少し前までそんな考えをする飼いゆっくりはいなかった。自身にかかわる重要な事はすべてゆっくりブリーダーに叩きこまれるからだ。
しかしこれは、ありす種が人気になったため促成でバッジ付きに育て上げる風潮が生んだ一つの悲劇の現れであろう。
おうたやくーねくーね、のーびのーびやこーでぃねいと・・・などかわいらしいしぐさや習性だけに磨きをかけて他の重要な事はすっぽりと抜け落ちてしまっているそのありす達は本当に「バッジ付き」と呼べるのだろうか?
しかもそれらもいつかは空きがくる。華やかな舞台の裏には、いつも悲劇と絶望がコインの表と裏の様にくっついて離れない様に、捨てられるありすの数も増加している。
分母が大きくなれば分子も大きくなるのだ。促成で育てられた飼いありす達は、仕草には定評があるがそれ以外の事は壊滅的に何もできない。学習すると言う事がすっぽりと抜け落ちている。
新たに何かを覚えて、それをさせると言う事がゲスゆっくりを更生させるほどに難しい。
様々な理由で捨てゆっくりとなったありす達は、街でも生き残れない。
食料の取り方もわからなければ、水がどれだけ重要かも、ゲスゆっくりの恐ろしさも知らない。
捨てゆっくりの生存率は限りなく低く、半年後には全体の10%しか残っていないと言われている。
あのありす親子もそうだったのだろう。多少なりとも順応した面もあったが、肝心な所で抜けていた。
どうなったのかはわからない。だがあのありすもいつかは子ありすの様に底部が固まって、中枢餡を押しつぶして物言わぬ饅頭となり果てるだろう。
それが明日か、数ヵ月後かは分からないが私はそう考えている。
繁華街を抜けたあたりで、道の端で何か大声を上げているゆっくりがいる様だ。
興味を持った私が近付いて行ってみると、そこには一体のありすらしきゆっくりがそこに居た。
「ゆ~・・・ゆゆ~・・・とかいは~・・・とかいは~」
どこで拾ったかもわからぬ空の缶詰を前において、壁にもたれかかるようにしながら「おうた」を歌うそのありすは、張り付いた様にそこから動かなかった。
そう、まるで底部が地面とくっついたかのように微動だにせず、上半分だけでくーねくーねとリズムをとりながら歌を歌っている。
「にんげんざん・・・!ありずになにかたべものをくだざい・・・!おれいにおうたをうたいまずがら・・・!」
二人組の若い男に声をかけるそのありすのその風貌は、汚いを通り越していた。
何かに引き抜かれたかのように所々ハゲができており、小麦粉の皮が露出していた。
髪飾りもなく、砂糖細工の歯も所々抜け落ちている。
立ち止まった二人組の男に近づく際には、ヒョウタンの様な形になって、上半分だけでずーりずーりと移動している。底部はまるで固まったかのように微動だにしていない。
「ぞごのにんげんざん・・・おでがいでず・・・"おうだをぎがぜであげまずがら"なにがだべものをぐだざい・・・ずごじでもいいんでず・・・」
そう涙ながらに訴えるありすを見て二人組はヘラヘラと笑いながらありすを見下ろしていた。
「だってよ。どうする?」
「お前見て―なキタねーゆっくりにやるモンなんてねーよ!ギャハハ!」
「そうだよなー」
「それに見てみろよこいつの頭!まるでカッパだぜ!ヒャハハハハ!」
「おい、ちょっと歌ってみろよ。それから決めてやるよ!」
片割れの男がゲラゲラと笑いながらありすにそう言った。
ありすは体をくーねくーねとさせながら懸命に歌を歌い始める。
「ゆ~・・・ゆ~・・・!とかいは~・・・!とかいは~・・・!」
必死に綺麗な声を出そうとするが掻き消える様なか細い声しか出ない。それを見て男は腹を抱えて笑いだした。
「「ギャハハハハハハハハ!!」」
「とかいは~・・・とかいは~・・・」
「もういいっつーの!全然聞こえねーしよ!」
「おい、"街ありす"の物真似しろよ!」
「まちありす・・・?」
「なんだこいつ街ありすの癖にそんな事も知らねえのかよ!ウッヒヒヒ!腹痛てぇ!」
「そこの電柱に体をヘコヘコ擦りつけてよー"んほおおおおおお!すっきりすっきりー!"とか何とか言ってみろよ!そうすりゃなんかやるかもな!」
男達の嘲笑の混じった冗談を、ありすは真に受けて、電柱に身を乗り出してヘコヘコと体をこすりつけ始めた。
「ん、んほおおお・・・!すっきりすっきりー・・・!」
「全然臨場感がねーよ!もっとまじめにやれよ!」
「別に俺たちゃこのままどっかいってもいーんだぜ?」
「わ、わがりばじだぁぁ・・・じばずぅぅ・・・!」
男達のヤジを受けて本物さながらに小麦粉の体を電柱にヘコヘコとこすりつけ叫ぶありす。
「んほおおおおおおおおおお!!ありすのとかいはなてくにっくでめろめろにしてあげるわああああああ!!でんちゅうさんまぐろなのねえええええええ!!それでもかわいいわあああああ!!すっきりすっきりいいいいいいいい!!」
なけなしの砂糖水の涙を流しながら、ヘコヘコとこすりつけるありす。
それを見て二人組はたじろいだ。
「うわ・・・キモ・・・」
「本当にやりやがったよ・・・気持ち悪っ・・・」
「帰ろうぜ・・・なんか気分悪くなってきた」
「ああ・・・」
身勝手な男達は電柱に体をこすりつけるありすをしり目にすごすごと引き返していく。
それに気付かずにひたすら「街ありす」のものまねを続けるありす。
人混みの中でそこだけまるで空白地帯のごとくありすを避けて人々は歩いて行く。
必死なのか、それとも既に硬化しつつある餡子が中枢餡に影響を与え始めているのかそれは定かではない。どちらにしろもう長くはないだろう。
私はありすの砂糖細工の髪から何かがひらりと落ちてきているのを見つけた。
目を凝らして見るとそれはありす種の飾りであった。それも子ありす程の大きさの飾りだ。
なぜこのありすが子ありすの飾りを後生大事に持っているのか、なぜこのようになってしまったのか今の私に知る由はない。
・・・本来ゆっくりの識別など大まかな種類によってでしか判別できないのだから。
「んほおおおおおおおお!!んほおおおおおおおお!!すっきりいいいいいい・・・!」
振り返って人混みの中に溶け込んだ私の背に、ありすの慟哭の様な叫びが微かに聞こえている・・・