ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1830 とくべつ~後篇~
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ankoss
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とくべつ~後編~
それからしばらくして、落ち着きを取り戻した母れいむ、父まりさ、
子れいむとまりさはすっかり仲良しになっていました。
「”どうつきさん”なんてはじめてみたんだぜ」
「まりさは”とくべつなゆっくり”なんだよ!」
まりさは再び、えへんっ!と胸をはりました。
「きせきさんをおこせるなんて、”どうつきさん”はとってもゆっくりしてるね!」
母れいむはもみあげさんをピコピコさせながら、嬉しそうにいいました。
「おねーちゃんの”あかいおめめさん”は、とってもきれいだね!」
「ありがとう!」
まりさは子れいむのその言葉にお礼をいいます。
大好きなケンくんから貰った綺麗なおめめは、すでにまりさのお気に入りでした。
でもこのときまりさは自分のおめめが赤いということは知りませんでした。
それを話すと、父まりさが
「それなら、ゆっくりついてくるんだぜ!」
といい、ゆっくりとどこかに向って跳ねていきました。
まりさがそれについていくと、公園の隅っこに小さな水たまりができていました。
「ゆっくりみてみるといいんだぜ、きれいなおめめさんなんだぜ」
そういわれて、まりさは水たまりを覗きこみました。
「うわぁ…」
まりさは驚きの声をあげます。
そこに映っていたのは、まりさの知っている”胴つきまりさ”とは少しちがった”まりさ”でした。
自分の姿は、ブリーダーのお姉さんと生活していたころ、よく鏡さんで見せてもらっていました。
しかし今、まりさの目に映った”まりさ”は、右目に痛々しい傷痕と、そして”綺麗で真赤なおめめ”がついていました。
(これがケンくんがくれたみぎめさん!)
まりさは改めて心の中でケンくんに感謝しました。
それと同時に、どうしようもなくケンくんに会いたくなってしまいました。
会って、直接ケンくんにもう一度お礼を言いたい。
そう思うと、いてもたってもいられなくなってしまいます。
「ごめんねみんな、まりさ、もどらなきゃ…」
そう言って元きた道を戻ろうとしたとき、誰かがまりさに声をかけました。
「まって」
「ゆ?」
まりさは声のした方を向きます。
すると木の影から、ゆっくりと”あるゆっくり”が顔を出しました。
「ぱちゅりー!だめだよ、ゆっくりやすんでないと!」
「むきゅ、いいのよ…」
母れいむの静止を振り切って、”ゆっくりぱちゅりー”がゆっくりとまりさの前にやってきます。
「みさせてもらったわ…」
「なにを?」
突然呼び止められ、まりさは困惑してしまいます。
「まさにあれは”きせきさん”よ、ぱちゅはかんっどうっしたわ…」
ぱちゅりーはそう言うと、ゲホゲホと咳き込みます。
「”まちのけんじゃ”のぱちゅはしってるのよ、”どうつきさん”はなんでもできるのよ…」
「ゆっ!?そうなんだぜ?やっぱり”どうつきさん”はすごいんだぜ!」
父まりさが自分が褒められたかのように嬉しそうに、ぽよぽよと跳ねました。
「”あかめのまりさ”さんにおねがいがあるのよ…」
「なあに?」
まりさは聞き返します。
(まりさにできることなら、してあげたいよ!)
まりさはそう思いました。
しかしぱちゅりーの口から出た言葉は、まりさの予想をはるかに上回るものでした。
「ぱちゅたち”のら”の、”おさ”になってもらいたいのよ…」
「おさ…?」
まりさは、ぱちゅりーが何を言っているのかわかりませんでした。
まりさは元々飼いゆっくりとして生まれ、育てられたので”野生のゆっくり本来の生態”を知らなかったのです。
戸惑うまりさにぱちゅりーが説明します。
「きれいなかっこうをみればわかるわ、さいきんまで”かいゆっくり”だったのね…
ぱちゅもむかしはそうだったもの…
ようは、ぱちゅたちの”かぞく”になって、その”リーダーさん”になってほしいのよ…」
まりさは、ぱちゅりーの言った”家族”という言葉に惹かれました。
「でも…ケンくんが…」
しかしまりさはケンくんのことを忘れることができませんでした。
野良ゆっくりと”家族”になること、それはもう”ケンくんの家のペット”になることはできないということです。
「おねがいよ、みてのとおり、ぱちゅたちはじゅうぶんゆっくりできているとはいえないわ…」
ぱちゅが父まりさや母れいむを見やり、そして自分の体をゆすって言いました。
たしかに父まりさや母れいむはお飾りもボロボロ、体も薄汚れています。
ぱちゅりーは髪の毛のつやがなくなり、体のいたる所に傷がついていました。
「それにさっきたすけてもらったおちびちゃんも、あなたがいてくれなかったらきっと…」
「おねーちゃん…」
子れいむは深刻な話をしているぱちゅりーとまりさを、不安そうに見ています。
「あなたにしかできないことなのよ…」
「…」
まりさは黙ってしまいます。
しばらく俯いて葛藤したあと、まりさはついに決意しました。
(そうだよ、まりさはとくべつな”ゆっくり”なんだよ!
おねえさんにいわれた、”つよくてやさしいりっぱなまりさ”になるんだ!)
「わかった、まりさ、がんばるよ!」
まりさのその言葉にぱちゅりーはにっこりとほほ笑みました。
「むきゅ!ありがとう、よくけっしんしてくれたわ…」
まりさの意味をゆっくり理解して、遅れて父まりさと母れいむが喜びの声をあげます。
「ゆゆっ!”どうつきさん”が”おさ”なんだぜ!?うれしーんだぜ!」
「ゆゆ~♪”どうつきさん”はとってもゆっくりできるね!」
皆が嬉しそうにすると、子れいむもうれしそうにぴょんぴょん跳ねました。
「ゆっくり!ゆっくり!」
「よろしくね!ゆっくりしていってね!」
ごめんねケンくん。
まりさはとくべつな”ゆっくり”なんだよ。
だから、こまってる”のらゆっくりさんたち”をほっとけないよ。
でも、いつかケンくんと…
まりさはぶんぶんと頭を振って迷いを振り切ろうとしました。
それでもまりさはケンくんのことだけはどうしても忘れることができそうもありませんでした。
これ以上不安が大きくならないように、まりさは段ボールさんのところに戻るのをやめました。
ケンくん…ごめんね……
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それから瞬く間に時間は流れ、まりさは立派な”野良ゆっくり”として成長していました。
ちょっぴり背も伸びました、だけど髪の毛はくしゃくしゃ、大切なおぼうしもボロボロ。
それでもまりさはとっても日々を”ゆっくり”と過ごしていました。
なぜなら今のまりさには”守るべき家族”がいるのです。
それも最初の4匹だけではなく、いつの間にか”まりさの群れ”は何十匹ものゆっくりを抱える大きなものになっていました。
今日もまりさの群れの噂を聞きつけた野良ゆっくりが訪れます。
しかし時にそれは招かれざる客であることもありました。
まりさたちがある商店街の路地裏でゴミ箱をあさっている時のことです。
「ゆふふふ、とってもおいしそうなにおいがするよ!」
突然まりさの前にぼよんぼよんと体を揺らしてまるまると太った”れいむ”が現れます。
「だれ!?」
まりさが手に持ったまりさの背丈と同じくらいの木の棒を構えて威嚇します。
「かわいいかわいいれいむがきてあげたよ!ゆっくりしてないでごはんをちょうだいね!」
れいむは自分に食べ物が貢がれるのが、さも当然のように言い放ちました。
「ここはまりさのむれのかりばだよ!ゆっくりできてないゆっくりはほかをあたってね!」
そんなれいむをまりさはきっぱりと跳ねのけます。
「ゆぎいぃいいいーーー!!!でいぶのめいれいがきけないのぉーー!?」
自らを”でいぶ”といったソレは、全身をブルブルと震わせてまりさに迫りました。
「うるさいよ!ゆっくりしないであっちにいってね!」
しかしまりさは臆することなく木の棒を振ってでいぶを追い払います。
「くそぉおお!そんなのふりまわしたらあぶないでしょぉおおおおーー!」
そういいながらもでいぶは大きな体をゆらしながら、ゆっくりと逃げていきました。
そして群れからは歓声があがります。
「やっぱりおさはすごいんだぜ!」
「すっごくゆっくりしてるよぉおおーーー!!」
「さすがなんだねー、わかるよー」
「んほぉおおーーー!!とってもとかいはだわぁ!」
「むきゅん、やっぱりぱちゅのめにくるいはなかったわ…」
群のゆっくりたちは次々とまりさに称賛の声を浴びせます。
その声にまりさは笑顔でこたえます。
「みんなゆっくりおなかいっぱいになった?それじゃあにんげんさんにみつかるまえにゆっくりおうちにかえるよ!」
『はーい!』
そして群れはぞろぞろと行進し、自然公園や高架下などでゆっくりとした時間をすごします。
まりさは野良ゆっくりになってもとても優秀でした。
胴つきのまりさは、ほかのゆっくりにできないことがなんでもできました。
背が高いのでみんなが気付かない場所にあるものをいち早くみつけることができます。
腕があるので、ポリバケツさんをすぐに引き倒して漁ることができます、そしてお片づけもできました。
これで人間さんに対策ととられる心配がぐっとへりました。
二つの足さんは、ほかのどのゆっくりよりも速く移動することができます。
まりさが走りまわり、安全を確かめてから群を誘導するのです。
そしてまりさのかしこいおつむは、街の賢者のぱちゅりーをも凌ぐものでした。
”借り場”や”おうち”も定期的に移動します、これもまりさの考えたことでした。
それによって、人間さんに見つかって罠を張られたり、駆除されたりする危険が減りました。
そして群れのゆっくりたちから最も信頼を受けている理由。
それが、まりさの”治療能力”でした。
まりさがけがをしたゆっくりのところにいき、傷を塞ぎ、「絶対大丈夫!」と一声かければ、
たちまちそのゆっくりは元気になってしまいました。
まりさの群は、群以外の野良からも噂される、とても”ゆっくりできる”群でした。
しかしそれはしょせん”ゆっくり”での話。
”人間さん”はそう甘くはなかったのです。
日に日に野良ゆっくりを巻き込み、大きくなっていく”まりさの群”は、
次第にいやがおうにも目立つ存在になっていきました。
そしてついにその日は訪れます。
ある日、まりさの群がいつものように”狩り”をしていた時。
群にゆっくりと数人の人間さんが近づいてきました。
「ゆっくりしていってね~っと」
『ゆっくりしていってね!』
群のゆっくりたちは反射的に挨拶を返します。
「ゆっ!人間さん!まりさたちになんのよう!?」
まりさは群を守ろうと必死に棒を構えます。
しかしこのときまりさは内心穏やかではありませんでした。
(どうしよう、にんげんさんにみつかっちゃったよ…)
群れの中で一番強いまりさは、だからこそ一番”ゆっくりの無力さ”を知っていました。
出来る限り人間さんとは関わらないようにしてきましたが、ついに見つかってしまったのです。
「この群のリーダーはお前か」
人間さん達の中の一人が、まりさを見てそう言います。
「そ、そうだよ!」
「ふぅん、ってことはお前が…」
人間さんはふむふむと小さく頷いてまりさに言いました。
「ここいらの野良から聞いたんだ、”不思議な力のゆっくりした胴つきさん”のいる群があるってな」
「ゆっ!まりさは”とくべつなゆっくり”なんだよ!」
まりさはそう言いながら棒を構え、ゆっくりと後退します。
他のゆっくり達は、ただただ人間さんとまりさのやり取りを怯えながら見守っています。
(なんとか逃げなくちゃ…)
しかしまりさの考えを読んだかのように、人間さんはいいました。
「おっと、ちなみにお前らは俺達から逃げられない、すっかり囲んでしまったからな、
もちろん、囲んでなかったところでゆっくりごとき逃がさないけどな」
群に衝撃が走りました。
強いゆっくり達は”ぷくー”をしたり、人間さんを睨みつけます。
弱いゆっくり達は、ただただ涙を流しながら、どうしてどうしてとうろたえます。
それを無視して人間さんは続けました。
「だけどまぁ、お前たちは運がいい、頭のいいやつはわかったかもしれないけど、
俺達は加工所の人間だ。でも”駆除班”じゃない」
人間さんはゆっくり達にもわかるように、やさしくゆっくりと説明をしました。
自分達は”研究班”でゆっくりの生体の研究をしている。
近頃は厳しい環境で育ったゆっくりに特異な進化をする者がいる。
急成長した群のリーダーの”まりさの能力”の噂を聞き、まりさの群を捜していた。
そう人間さんは説明したあと、まりさに言いました。
「お前が俺達についてくるなら、お前の群は見逃してやろう」
「ゆっ!?」
まりさは棒を構えたまま固まってしまいます。
「別に俺達は”お前”一匹に興味があるだけだ、ほかの野良なんてどうでもいいんだよ」
しかしまりさには分かっていました、人間さんの言うとおりにする以外に方法はないのです。
たとえここでまりさがそれを拒んだとしても、
人間さんは群のゆっくりを殺しつくしてでもまりさを連れて帰ったでしょう。
「わ…わかったよ…」
まりさは観念して、人間さんにいいました。
「むきゅ!だめよ!」
街の賢者のぱちゅりーが声をあげます。
「あなたがいなければ、このむれはおしまいだわ」
人間さんは足元にいるぱちゅりーをぎろりと睨みつけます。
「うるさいぞ、俺はお前なんかにきいちゃいないんだ、それともそんなに”ゆっくり”したいのか?」
直接的な言葉ではありませんでしたが、ぱちゅりーを含めたゆっくり達は、
人間さんが言ったことがどういう意味かを理解しました。
群のゆっくり達は皆一様に目を伏せ、口をつぐんでしまいます。
まりさはゆっくりと群の皆の方を向いていいました。
「みんなごめんね、でもこれはみんなをまもるためなんだよ」
その言葉を聞いて、何匹かのゆっくりがぼろぼろと涙を流し始めます。
まりさは最初に出会った”父まりさ”を抱きかかえ、みんなのほうに向かせて続けます。
「まりさは”おとーさんまりさ”にいろんなことをおしえてもらったんだよ。
これからはまりさを”まりさ”だとおもって、みんなこれからもげんきにゆっくりしてね!」
「まりさ…」
父まりさは体をぶるぶると震わせながら必死に涙をこらえていました。
群の中にいた母れいむと子れいむも、ぼろぼろと涙を流しながらまりさをみつめます。
ぱちゅりーはただただ申し訳なさそうに目を伏せていました。
「はいはい、感動感動」
人間さんはめんどくさそうに頭をボリボリとかくと、まりさの脇を抱えてひょいと持ち上げました。
「ゆべっ!」
反動でまりさの手から転げ落ちた父まりさは、地面に顔面から落ちてしまいます。
まりさは人間さんを睨みつけながら言いました。
「にんげんさん!やくそくだよ!まりさのむれにはぜったいにてをださないでね!」
「はいはい、”俺は”約束を守りますよっと」
そう言ってまりさを抱えた人間さんは、他の人間さんを伴ってゆっくりと歩き出しました。
取り残されたゆっくり達は、人間さんたちが見えなくなるまで、
ただただ茫然とその様子を見つめ続けることしかできませんでした。
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まりさが加工所に連れてこられて、数日がたちました。
まりさはここに連れてこられた初日から、小さな個室が与えられ、さまざまな検査を受けました。
そして加工所の職員の手で、まりさは体を綺麗にしてもらいました。
そのおかげで、髪の毛は以前飼いゆっくりだったころのつやつやな輝きを取り戻し、
可愛いお洋服も着せてもらいました。
まりさは加工所でおいしい食べ物も与えられ、何不自由なく暮らすことができました。
しかしまりさの心はちっとも満たされませんでした。
加工所の職員の対応にはちっとも愛はありませんでした。
まりさはあくまで研究対象だったのです。
まりさは孤独でした。
そして毎日、別れた野良ゆっくり達の無事を案じていました。
寂しくなると、ケンくんの笑顔が頭をよぎったりもしました。
そのたびにまりさは、なんだか泣きそうな気持になってしまいます。
加工所に来てからというもの、まりさは一度も笑顔になることはできませんでした。
「おはようまりさ」
真白な部屋の真白な扉を開けて、”職員さん”がまりさに挨拶をします。
この職員さんは、まりさの世話をする担当になったお姉さんで、
加工所職員の中で唯一まりさに優しくしてくれる存在でした。
「さぁご飯だよ、ゆっくりおたべ」
まりさは差し出されたご飯を黙って食べます。
おいしいはずのご飯さんも、”家族”と一緒に漁ったゴミ箱の中身に比べれば、味気ないものに感じてしまいます。
「惜しいなぁ、まりさは笑えばかわいいとおもうんだけどなぁ」
お姉さんはまりさの綺麗な髪の毛をなでながら、ニコニコして言います。
まりさにはお姉さんがどうしてニコニコしているのかわかりませんでした。
まりさはただただ口を真一文字に結んで、ゆっくりできない日々を、部屋の中で過ごしていました。
そしてお姉さんはまりさが食べ終わるのを待ち、少しだけお話をしながら食器を片づけ、部屋を出て行きます。
「じゃあねまりさ、また」
お姉さんが扉の向こうに吸い込まれていきます。
ガチャリ
まりさはこの音が嫌いでした。
お姉さんがまりさが脱走するのを防ぐために部屋に鍵をかけていきます、
たとえまりさにその気がなかったとしても、それが決まりでした。
でもまりさはそのことで、所詮自分はここに囚われているのだと、強く思いました。
日々がたつにつれ、まりさは徐々に”生きる希望”を無くしていきました。
清潔な暮らし、おいしいごはん、優しいお姉さん。
たしかにはたから見ればゆっくりした生活にみえることでしょう。
しかしまりさの”心”は決して満たされませんでした。
以前捨てられたばかりのころのまりさであれば、このまま幸せに暮らしたいと願ったかもしれません。
しかし野良の生活を経て、守るべき大切なものを手に入れ、そして奪われたまりさは、抜けがらでした。
それはおとずれたであろうケンくんとの生活さえもふいにして手に入れた、まりさの宝物だったのです。
ある日それは、突然起こりました。
まりさが眠りから覚めると、”右目”がジクジクと痛み始めたのです。
「まりさのみぎめさん…ゆっくりしてね…」
まりさが右目をさすっていると、今日も職員のお姉さんが食べ物を運んできてくれました。
部屋の中に入ったお姉さんは、すぐにまりさの異変に気付きます。
「どうしたのまりさ、何かあった?」
まりさはしばらく黙っていましたが、どんどん増していく右目の痛みに耐えきれず、ついに口を開きました。
「みぎめさんが…」
しかしまりさの声は、突然なった携帯電話の呼び出し音にかき消されます。
「ごめんね、ちょっとまってね」
お姉さんはまりさの頭を優しくなでると、胸ポケットに入っていた携帯を取り出し、通話ボタンを押します。
「もしもし?」
まりさの左目が見つめるお姉さんの顔は、電話を取った瞬間からどんどん険しいものに変化していきました。
「ええ、そう…わかりました、すぐに行きます」
お姉さんは携帯のボタンを押して、通話をやめ、まりさに言いました。
「まりさ、ごめんなさい、急な仕事が入ってしまって、人手が足りなくて応援に行かなくちゃいけないの
できるだけ早く戻ってくるようにするから、いい子で待っててね」
お姉さんはそう言って急いで部屋を後にします。
まって、という言葉をまりさは言えませんでした、きっと言ってもお姉さんを困らせるだけだとおもったのです。
それからすぐに、部屋の外からバタバタと人間さんの忙しそうな足音が多く聞こえてきました。
まりさはなんとか眠って右目の痛みをやり過ごそうとしましたが、
痛みは時間がたつほど、どんどん大きくなっていきました。
「ゆっくり…できないよ…」
まりさの額にはじっとりと汗が浮かび、もういてもたってもいられませんでした。
まりさはゆっくりと立ち上がり、扉の前に立ちます。
「お姉さん…助けて…」
それはまりさがケンくんと別れてから、初めて人間さんを頼ろうとした瞬間でした。
しかし無情にもその小さな声に反応してくれる人間さんは誰もいませんでした。
まりさが耳を澄ませると、すでに扉の向こうは静かになっていました。
まりさは誰かに気付いてほしくて、背伸びをしてドアノブをつかみます。
するとなぜか扉はゆっくりと開き、まりさは部屋の外に出ることができました。
急いでいたお姉さんは、部屋を出るときに鍵をかけ忘れてしまったのです。
まりさはあてもなくふらふらと部屋の外をさまよいました。
というのも、まりさはまりさの部屋にどうやって連れてこられたのか、あまり覚えていなかったのです。
だからどうすればどこにいけるかもわかりません、
今はただ、誰でもいいから人間さんに会って、右目さんをなんとかしてもらいたかったのです。
しかしまりさはすぐに部屋を出たことを後悔しました。
まりさが部屋を出てしばらく歩いた後、突如目の前に広がったのは
地獄でした。
まりさははじめ目の前で何が起こっているのかわかりませんでした。
まりさの目に映ったのは、まりさがいる場所から透明なガラスで仕切られた向こうにいる、
たくさんのたくさんのゆっくり達。
まりさの方からはゆっくりの後ろ側しか見えませんでしたが、
ゆっくりたちは微動だにせず、”動く床”に乗せられて、ゆっくりと右から左に移動していきます。
そしてまりさの視界の端にある”四角い大きな箱”の中にどんどんとゆっくり達が消えていきます。
ゆっくりが箱の中に入っても動く床は止まることはなく、そして箱のゆっくりが入った方とは逆の方向からは、
なにやら”黒っぽい塊”や”白っぽい塊”が次から次へと動く床に乗って運ばれて、視界の外に消えていきます。
「うわあぁああああああああーーーーーー!!!!!!」
そしてまりさはゆっくりと理解してしまいました。
そう、それはゆっくり達にとっての死の行進、加工ラインだったのです。
ゆっくりたちは動かないのではありません、動けなくされて動く床、つまりベルトコンベアに乗せられていたのです。
そして大きな箱は、ゆっくり達をひきつぶす殺ゆマシーン、反対側から出てきたのは、
無残にも引きつぶされ”あんこの塊”になったゆっくりでした。
そしてまりさは気づいてしまいます、気づかなければまだ幸せだったのに、”気づいてしまった”のです。
「うそ…だ…」
機械の中に吸い込まれていくはるか向こうのコンベアの上にいたのは、まりさの見知ったゆっくりでした。
「お…おとーさん、おかーさん、れいむにぱちゅ…」
そう、野良生活をしていた時の群の、父まりさに母れいむ、子れいむ、街の賢者のぱちゅりーでした。
それにほかの群のゆっくりたちも、一匹残さずベルトコンベアに乗せられていました。
後姿でお顔は見えませんでしたけど、一緒に暮らしたまりさにはわかったのです、わかってしまったのです。
「や、やめてぇぇーーー!!とめて!とめて!!」
まりさは必死にガラスをバンバンと叩きます。
しかし非力なまりさでは、叫んでも、ガラスを叩いてもその残酷な流れを止めることは出来ません。
そうこうする間にも、ベルトコンベアはゆっくりと、ゆっくりと殺戮機械にまりさの”大切な家族”たちを近づけていきます。
「おねがい…おねがいします…だれか…だれか!」
そして
バクンッ!
まりさの耳には、”箱が家族を飲み込む音”が確かに聞こえました。
バクンッ!バクンッ!
「あ…あぁ…」
それはまりさの目の前で、静かに、無慈悲に、ただただ作業的に、ゆっくりとつづけられました。
バクンッ!バクンッ!バクンッ…
「うっ……うぅううううう!!!!」
まりさは声にならない呻きを上げ続けます。
歯をくいしばって、どんなに機械を睨み続けても、ガラスをたたく手が擦り切れても、機械が止まることはありませんでした。
そしてゆっくりと、最後の”家族だったもの”が機械から吐き出されました。
まりさはそれを追ってベルトコンベアの流れと同じ方向にゆっくりと歩き出しました。
「だいじょうぶだよ…きっとだいじょうぶだよ…まりさはとくべつなんだよ、だからだいじょうぶ…」
まりさは涙でくしゃくしゃの顔を無理やり笑顔にして、”魔法の言葉”を唱え続けました。
しかし二度と奇跡が起こることはありませんでした。
ゆっくりとベルトコンベアが、ガラスのある範囲を越えて、まりさの目の届かないところにいってしまいます。
それがまりさと家族の最後の別れでした。
「どうして…どうして…まりさたちなんにもわるいことしてないのに…どうして…」
まりさの”両目”からぼろぼろと大粒の涙がこぼれ落ちます。
まりさの右胸のあたりに、ほほからこぼれたしずくが、ゆっくりと”赤い染み”を広げていきました。
まりさは右目の痛みを忘れてただただ泣き続けました。
いまは右目なんかよりも、心がバラバラになりそうなほど痛かったのです。
ごめんね、みんなごめんね、ゆっくりさせてあげられなくて、ごめんね…
どうしてまりさはいきてるんだろう、まりさだけいきてるんだろう…
こんなおもいをするくらいなら、まりさは”とくべつ”なんかじゃなくてよかったよ…
ごめんね…ごめんね…
それからしばらくして、一人で床に座り込み、茫然自失としているまりさを
加工所職員が発見し、まりさは部屋に連れ戻されました。
まりさが部屋の片隅でひざを抱えていると、白い扉が開き、お姉さんが現れました。
まりさはぼんやりとお姉さんの方を向きました。
まりさの目に映ったお姉さんは、なんだか右側がぼんやりとかすんで見えました。
まりさの右目はいまだ痛み、その痛みはどんどん大きくなっていきます。
「まりさ、その目、どうしたの!?」
お姉さんはまりさの異変にすぐに気がつきました。
このときまりさの右目からは、どろどろとした真赤な涙があふれていたのです。
この涙は、まりさの右目さんそのものでした。
生きる希望を無くしたまりさの右目さんは、今ゆっくりと”右目さん”から”いちごキャンディーさん”に戻ろうとしていたのです。
そしてそれは異物として排除されるかのよに、ゆっくりとまりさに痛みとしてあらわれていました。
けれどまりさはそんなことは忘れ、お姉さんに向って小さな声で訴えかけます。
「どうして…やくそくしてくれたのに…どうして…」
お姉さんは一瞬まりさが何をいっているのかわかりませんでした。
しかしすぐにはっとした顔になって、そしてすぐに目を伏せ、うつむいてしまいます。
「もしかしてまりさ、みてしまったのね…」
まりさはただただぼろぼろと左目からは透明な、右目からは真赤な涙を流し続けます。
「どうして!?やくそくしてくれたのに!まりさのかぞくにはてをださないっていってくれたのに!
うそつき!やっぱりにんげんさんはうそつきなんだ!しんじゃえ!みんなしんじゃえぇぇ!!!!」
まりさは感情を爆発させて、近くにあったものをつかんでは、お姉さんに投げつけました。
しかしそれはクッションのようなものばかりで、お姉さんにはちっとも痛みを与えることはできませんでした。
だけどまりさの悲痛な叫びは、確実にお姉さんの”優しい心”をえぐりました。
「ごめんなさい…」
お姉さんは言います、お姉さんには謝る以外の償いは思いつきませんでした。
「ごめんなさい…」
お姉さんはまりさを優しく抱きしめ、ただただ謝り続けます。
「うぅうぅぅぅ!!!」
手足をじたばたとさせながら泣き叫ぶまりさを強く抱きしめ、
お姉さんはごめんなさい、ごめんなさいと何度も何度も繰り返しました。
まりさの涙が枯れ果てたころ、お姉さんが言いました。
「私たち”研究班”は約束通りまりさの群は触れないことにしていたわ、でも”駆除班”とは管轄が違うのよ」
まりさにとってそれは何の慰めにもなりませんでした。
しかしお姉さんも、まりさと約束をしたあの職員さんも所詮一人の加工所職員にすぎません。
確かに約束をしてくれた人間さんは約束を守ってくれていました。
しかし職場の他部署、ましてや”害獣としての野良ゆっくり”を
定期的に駆除する行政的な流れを止めることなどできなかったのです。
そしてそれは、”野良”であるということだけで駆除、処理される街のゆっくりたちの”残酷な運命”でした。
まりさはそれ以上お姉さんと口を聞こうとはしませんでした。
もうまりさは人間さんなど信用できなくなってしまっていました。
きっとつぎにかおをあわせたときにはおねえさんもまりさにひどいことをするんだ。
まりさは与えられた食事にも手をつけず、毎日そんなことばかり考えていました。
そして”残酷な運命”がついにまりさのもとにも訪れる時がやってきました。
いつものように、お姉さんが部屋の中にはいってきます。
しかしお姉さんはいつもと違い、暗い表情を浮かべ、手には真っ黒な袋を持っていました。
そしてお姉さんは、まりさに近付き、静かに言い放ちました。
「まりさ、検査の結果、あなたは”ただの胴つき”ゆっくりだということがわかったわ
ゆっくりの傷を治す”不思議な力”も、加工所研究班は”所詮思い込みの力”だった、という結論に至ったわ」
まりさは何も言いません、ただ黙って力無くお姉さんを見つめるだけでした。
ここ数日で、まりさの右目の痛みは、すっかりとなくなりました、しかし右目さんが見えなくなってしまったのです。
なのでまりさは右目をぎゅっととじ、左目だけを開けていました。
そうしないと、まりさの大切な右目さんがいなくなってしまうような気がしたのです。
まりさにとって右目さんは、まりさに最後に残された、”ケンくん”との想い出でした。
お姉さんはゆっくりとつづけます。
「そして加工所は明日からまりさを置いておく部屋は無いと判断したわ、
残念だけどまりさはこれから”廃棄物”として処理されます」
そう言ってお姉さんはまりさの頭の上で、持っていた黒い袋を広げます。
まりさの頬に温かい水が落ちてきました。
まりさが見上げると、なぜかお姉さんの目がキラキラと光っていました。
そしてお姉さんはゆっくりとまりさに黒い袋を覆いかぶせ、その上からぎゅっとまりさを抱きしめました。
「ごめんね…ごめんねまりさ」
お姉さんは震える声で何度も何度も謝りました。
優しいお姉さんは、すっかりまりさに情をうつしてしまっていたのです。
そしてまりさは真っ暗な視界の中、急に重力を感じなくなりました。
持ち上げられて運ばれていくのです。
まりさは眼をとじ、ゆっくりと考えました。
まりさは”とくべつ”じゃなかったんだ…
じゃあブリーダーのおねえさんも、ほかのにんげんさんとおんなじでうそつきだったのかな…
もうわかんないや…
このまま、まりさはころされちゃうのかな…
しんだら、”みんな”のところにいけるかな…
でも、しんじゃうまえに、あいたかったよ…
ケンくん…
ドサリッ!
まりさの体が急に硬いものに叩きつけられました。
まりさは袋に入ったまま投げ捨てられたのです。
しかしそのとき、まりさは、足元にある袋の口からわずかに光が漏れていることに気がつきました。
まりさが足で袋の口を押すと、すんなりと袋は大きく口を開けて、まりさは外に出ることができました。
お姉さんがわざと袋の口をとても緩く締めていたのです。
それはお姉さんがまりさに出来る最大の償いでした。
まりさは重たい体をゆっくりとおこし、左目で辺りを確認します。
外はわずかに雨が降っていました。
まりさが這い出たものと同じ黒い袋が、そこかしこに転がっていました。
まりさが途方にくれていると、遠くから人間さんの声がしました。
まりさは反射的に声とは違う方向の、近くの茂みに身を隠しました。
「ったくめんどくせぇなぁ、雨の日はお休みがいいよなぁ」
「まぁまぁ、そういうなって、ゴミってやつは毎日出るもんだ」
まりさが身を隠した直後、車輪のついた大きなかごをもって二人の人間さんがやってきて、
黒い袋をつかみ、次々とかごの中に放り込んでいきました。
「これで全部か?」
一人が最後の袋を放り込んで、もう一人に確認します。
「ん~、なんでか知らないけど空の袋が一枚あったけど、それで全部じゃないかなぁ」
(たいへん、きづかれちゃうよ…)
まりさは人間さんに音をたてて気付かれないように慎重に茂みの奥へ奥へとはいっていきます。
幸いなことに、雨音がまりさの気配を消してくれました。
二人の人間さんは、まりさに気づくことなくもと来た道を戻って行きました。
しかしまりさは歩みを止めません。
まりさは自分が今どこにいるかもわかりませんでした。
なのでとりあえずただ闇雲にまっすぐ歩くことにしたのです。
歩いても歩いても、茂みは続いていました。
そして気が遠くなるほど歩きつづけていると突然まりさの足元にあった草がなくなり、コンクリートに変わりました。
道路に出ることができたのです。
しかしそれでもまりさはここがどこかわかりませんでした。
お姉さんが出してくれていたご飯を拒み続けていたおかげで、まりさの体力は既に底をついていました。
それ以上歩くことが出来ず、まりさはゆっくりと座り込んでしまします。
まりさは疲れ切り、もうなにもかもがどうでもよくなってしまいました。
袋から出た時人間さんが来て、反射的に身を隠してしまったけれど、
あの時すんなりと見つかって殺された方が楽だったかもしれません。
まりさは、ぼんやりと、最初に飼ってくれたお兄さんに捨てられた日のことを思い出していました。
あの日も丁度こんなふうに雨が降っていました。
まりさは思いました。
あめさん、こんどこそまりさをとかしてね…
しとしとと、雨が振り続けます。
透明なしずくが、まりさの髪の毛濡らし頬を伝いお洋服をぐしょぐしょにしていきます。
閉じた右目の回りに赤みがかったしずくが流れだします。
しかしそれもすぐに雨で薄まり、わからなくなってしまいます。
そしてまりさはゆっくりと目をとじ、ごろりと横になりました。
もう二度と目覚めないことを祈って。
-------------------------------------
「ゆ…ゆぅ…」
まりさが気がつくと、そこは暖かで光があふれる、とてもゆっくりできるお花畑でした。
まりさが目をこすりながらあたりを見回すと、そこにはあの時別れたはずの”家族”の姿がありました。
「ぱちゅ!?おとーさんまりさに、おかーさんれいむに、れいむも!?」
まりさは皆の元に駆け寄り、家族たちを抱きしめます。
「よかった、生きてたんだ、やっぱりきせきさんはおこったんだね!」
喜ぶまりさをいさめるように、ぱちゅりーが静かに口を開きました。
「むきゅ…ちがうのよまりさ、ここはてんごくさんなのよ…」
まりさはぱちゅりーの声に耳を疑います。
「えっ、じゃ、じゃあやっぱり…」
まりさは今まで天に昇っていた気持ちがしゅんと萎え、涙目になってしまいます。
「う…ごめんなさい、まりさはどうすることもできなかったよ、ごめんなさい…」
「あやまることはないわ…もともとぱちゅたちは、いずれこうなる”うんめい”だったのよ…
のらのせかいでそうながくいきていけないことは、みんなしっていたわ…」
今度はぱちゅりーの横にいた父まりさが元気に跳ねながら答えます。
「だけどまりさたちは、まりさのおかげでとってもゆっくりできたよ!だからだれもまりさをせめたりしないよ!」
父まりさがそういうと、みんなが、そうだそうだと声をあげます。
「あ、ありがとう!でも、ここがてんごくさんなら、まりさもしんじゃったんだよね、
これからはここでみんなでゆっくりしようね!」
「だめだよ!」
母れいむがまりさに厳しく言いました。
その語調にまりさはビクリと身を震わせます。
「ど…どうして…?」
「れいむたちにはわかるよ、まだまりさは”えいえんにゆっくり”してないよ!
いきてるんだから、もっともっといきて、れいむたちのぶんもゆっくりしていってね!」
「むきゅ、そうよ、いつまでもここにいてはいけないわ、もどるのよ」
「でも…でも…」
まりさはどうしたらいいかわかりませんでした。
失ったはずの家族にせっかく出会えたのです、もうこれ以上つらい思いをせずに、ここでゆっくりできたら幸せでした。
まりさの足元で、まだ小さな子れいむがぴょんぴょんと跳ねながらいいました。
「おねーちゃん!なかないでね!れいむはおねーちゃんのとってもゆっくりできるえがおがだーいすきだよ!」
「れいむ…」
まりさはあふれる涙をなんとかこらえながら、無理やり笑顔を作ろうとしました。
だけどやっぱりできませんでした、まりさの目からは次々と涙があふれてしまいます。
「やだよ…まりさ、みんなともっとずっとゆっくりしていたいよ…もうつかれちゃったよ…」
子れいむが言います。
「だめだよ!なきむしでゆっくりできないおねーちゃんなんか、おねーちゃんじゃないよ!
ゆっくりあっちにいってね!」
子れいむは小さな体をぽすぽすとまりさの体にぶつけてきます。
「ゆっくりできるえがおさんになるまで、ぜったいぜったいここにきちゃだめだよ!れいむとのやくそくだよ!」
子れいむの声に合わせて、群の皆が一斉にまりさの体に体当たりをします。
けれどそれは、とても優しい、ぬくもりのある衝撃でした。
あっちにいけ!もどってくるな!と、みんなは笑顔でまりさに”エール”を送ります。
けれどまりさは踏みとどまってしまいます。
「うるさいよ!まりさは”とくべつなゆっくり”なんだよ!みんながたばになったって、まりさにはかてないよ!」
まりさがぷくー!と頬をふくらませて皆を受け止めます。
そのまま踏ん張ろうとしたとき、まりさの耳に、突然声が飛び込んできました。
『まりさ!死ぬな!戻って来い!』
まりさはその力強い声に、聞き覚えがありました。
「ケン…くん?」
まりさの踏ん張ろうとしていた足から、急に力が抜けます。
そのまままりさは、たくさんのゆっくり達に囲まれ、押しつぶされてしまいます。
「むきゅ…やっぱりあなたはここにいるべきじゃないわ、たいせつなひとが、いたのね…」
「みんなのぶんもゆっくりしなきゃ、ゆるさないんだぜ!」
「れいむはまだまだなきむしでおちびちゃんなまりさのこと、
いつでもみまもってるからね!れいむはおかーさんなんだよ!」
「おねーちゃん!ゆっくりまたね!」
『ゆっくりしていってね!』
温かな声の波と、柔らかな光に、まりさの意識が溶けていきます。
みんな…ありがとう…
まりさは意識が途切れる最後の瞬間まで、ありがとう、と繰り返し続けました。
-------------------------------------
「…!…!」
まりさの耳に、誰かが力強い声をかけ続けていました。
「ゆ…」
小さくうめき声をあげ、まりさがゆっくりと目を開けます。
しかしそれはすぐに真っ暗な世界に変わってしまいました。
「よかった!生きてた!心配したんだぞ!」
まりさは目覚めた瞬間、お顔を強く強く抱きしめられたのです。
しかしまりさには、それが誰か声でわかりました。
「ケン…くん?」
「そうだよ、僕だよ、また会えたね、ずっと会いたかった」
ケンくんはまりさを抱きしめる腕を放し、顔をまりさにみせてくれました。
まりさの左目には、たしかにケンくんの笑顔が写っていました。
「ケンくん…まりさも…ずっとずっとあいたかったよぉぉ」
二人が再開の喜びを分かち合っていると、ケンくんの背後から、男の人が現れました。
「おぉ!気がついたのか、よかったよかった!」
「ゆっ?」
ケンくんとの再会の喜び以外、状況が飲み込めていないまりさに男の人、
ケンくんのお父さんがゆっくりと事情を説明してくれました。
まりさがあの日、道路の端で倒れているところを、近隣住民が
”女の子が倒れている”と通報し、まりさは病院に運ばれたのです。
しかし病院の検査で、まりさが人間ではないことが発覚し、”ゆっくりの病院”に搬送されたのでした。
それが”ケンくんのお父さんの病院”だったのです。
そして、運ばれてきたまりさが、”あのまりさ”だと気付いたケンくんが、
目が覚めるまでつきっきりで看病してくれていたのです。
事情を説明し終わった後、ケンくんのお父さんが笑いながら言いました。
「しかしまぁ、ずいぶんかわいいゆっくりちゃんだなぁ、これはケンが惚れるわけだ」
お父さんがそう言うと、ケンくんは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまいます。
「そんなんじゃないよ!でもまりさ、本当によかった、もう二度と会えないと思ってたよ」
ケンくんがまりさの手を握って、言いました。
「もう絶対にどっかにいったりするなよ、まりさはもう”うちの子”なんだからな!」
「ゆゆっ!?ほんとう?ほんとうにいいの?」
まりさは嬉しさのあまり困ってしまいます、それはまりさがとうにあきらめたはずの、幸せなもう一つの未来でした。
「もちろんさ!」
ケンくんが笑顔でいいました。
「うちにも、キミみたいなかわいいマスコットがいれば、お客さんがいっぱいきてくれるかもしれないね、
そうじゃなくても、大歓迎さ、いいだろう?母さん」
ケンくんのお父さんが、後ろの扉に向って声をかけます。
するとケンくんのお母さんが、ひょっこりと顔をだして、まりさの元にやってきました。
「いやぁ、私は最初は反対だったんだけど、まさかこんな可愛い子だったなんて…
私、こんな可愛い娘もほしかったのよね、ケンなんかよりかわいがっちゃうもんね~」
ケンくんのお母さんは、デレデレとしただらしない顔になって、まりさの頭をなでまわしました。
「ゆ…ゆゆっ!」
三人の笑顔に囲まれて、まりさはゆっくりとほほ笑みました。
それはまりさが家族と別れてから見せる、久し振りの本当の笑顔でした。
だけどケンくんは、まりさの顔を見て、いいました。
「あ、だめじゃないかまりさ」
ケンくんはまりさの右目を指さして言います。
「右目、見えるはずだろう?もう一度僕に見せてくれよ、あの綺麗な”赤い目”」
「ゆ…でも…」
まりさは困ってしまいます。
あの右目が見えなくなってしまった日のことを、まだケンくんにはいっていませんでした。
その様子をみて、ケンくんはゆっくりとほほ笑みます。
そして言いました。
「大丈夫だって、言っただろう、さぁまりさ、僕を信じて…」
ケンくんが魔法の言葉を唱えます。
それだけでまりさは、心の底から勇気が湧いてくる思いでした。
そしてケンくんがまりさの右瞼を優しく指でなでます。
ゆっくりと、ゆっくりとまりさが右瞼をあけます。
まりさの”真っ赤な右目さん”には確かに、とっても明るい、幸せな未来が映っていました。
おわり
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---おまけ…まりさのひみつにっき---
○がつ○にち、はれ
きょうはまりさのしんっじんっなーすさんのでびゅーのひだったよ!
おとーさんのびょういんさんには、まいにち、おけがをしたり、
びょーきさんのゆっくりがいっぱいくるよ!
でもまりさは”とくべつなゆっくり”だから、しょにちさんからだいかつやく!
けんくんじきでんの、まほーのことばで、みんなあっというまにえがおさんになりました!
おしごとがおわったら、けんくんといっしょにおかいものにいきました。
しばらくあわないうちに、まりさはけんくんよりほんのちょっとせがのびていました。
まりさのほうがおねーさんみたいだよ!
でも、きっとけんくんはすぐにまりさよりおっきくなるとおもいます!
かたさんをならべておさんぽできるのは、いつまでかなぁ。
けんくんはいっつもてれておててをつないでくれないけど、
いつかおっきくなったけんくんにおひめさまだっこしてもらいたいな!
けんくんは、”とくべつなゆっくり”のまりさの”とくべつなそんざい”だよ!
おしまい。
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スペシャルサンクス:ぷにあきさん
あとがき
いかがでしたでしょうか。
このSSを書くきっかけとなったぷにあきさんのイラストは
ふたば系ゆっくりR-18ろだ
ttp://loda.jp/otaku_13854/?gal=1
の 1.jpg と 2.jpg の二つです。
うまく文の中に表現できていたでしょうか。
幼いまりさを取り巻く環境をえがくために、あえて文全体を『ですます調』にしてみました。
読みにくく感じてしまったら、申し訳ありません。
かなり妄想駄文を書きなぐってしまったので
ぷにあきさんがイメージしていたものと大分違うかと思いますが、どうかご容赦ください。
胴つきまりさへの愛がこういった結果を招いてしまったのです(笑
ご意見、ご感想などあれば
ふたば系ゆっくりSS感想用掲示板(単独作品用)
に、
ばや汁あき(仮 とくべつ anko1829 anko1830 というスレをたててみましたので、出来ればそちらにお願いいたします。
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13856/1276714275/
以下蛇足
*本編に出てきた登場人物とは一切関係ありません。
~おませなまりさとお兄さんの日常~
「ふぅ~、すっきりすっきり」
トイレから出て、部屋に戻ろうとするお兄さんに、
物陰から二つのまんまるなおめめがジットリとした視線をぶつけていました。
「お…おにいさんったら…まりさというものがありながら”ひとりすっきり”だなんて!」
まりさは部屋に入ったお兄さんを追いかけます。
お兄さんがゆっくりと部屋でくつろいでいると、
小さなほっぺをぷくーっとふくらませたまりさがすぐに部屋に入ってきました。
「まりさ、どうした?」
まりさはまゆげさんをキッと吊り上げて、お兄さんを睨みつけます。
「おにいさん、ちょっとそこにすわってね!」
と、いってもお兄さんはすでに床に座ってくつろいでいるところでした。
「ん?なにかあったのかな?」
お兄さんはまりさにやさしく微笑みかけます。
「おにいさんが、まりさというものがありながらあんなことするからだよ!
これはおしっおきっだよ!」
そういうとまりさは、おにいさんの元に駆け寄り、お兄さんのほっぺたに自分のほっぺをくっつけます。
「まりさのみりょっくっさんにもういちどきづかせてあげるよ!」
そしてまりさは合わせたほほをゆっくりと左右にこすりつけました。
「すーりすーり!」
まりさのぷにぷにのほっぺたの感触に、お兄さんはたまらず声をあげます。
「あはは、どうしたんだよまりさ」
「どう!?きもちいーでしょ?」
「たしかに、きもちいいな、まりさのぷにぷにのほっぺ」
単なるスキンシップと勘違いしたお兄さんは、まりさを軽く抱きしめ、
まりさのすーりすーりに合わせてほほをすりよせました。
「ゆゆっ!?おにいさんだいったんっだよ!だめだよ!まりさ、このままじゃ!」
「そーれ、すりすり~」
お兄さんは無邪気にまりさに頬をすりつけ続けます。
「す…す…すっきりー!!」
まりさはぶるぶるっと体を震わせると、体から力を抜いて、お兄さんの腕の中にくたりと身を預けてしまいました。
「も、もう…おにいさん…えっちすぎるよ…」
お兄さんはまりさが何をいっているのかよくわかりませんでした。
「ん~…なんだかよくわからないけど、よしよし」
お兄さんはやさしくまりさの頭をなでなでします。
その手の感触に、まりさがビクリっと体を震わせます。
「だめだよおにいさん、まりさいっちゃったばっかりなんだからね、でりけぇとさんなんだよ!」
(ゆふふ、これでおにーさんはまりさのみりょっくっさんにめーろめーろだね!)
「おにーさん、もう”ひとりすっきり”なんてしちゃだめだからね!」
一人でよくわからないことを訴えるまりさの頭を、お兄さんはとりあえず優しくなで続けました。
「はいはい、ゆっくりゆっくり」
おしっまいっだよ!
-------------------------------------
ぷにあきさんのおませなまりさを見るとどうしてもこんな妄想が止まりません、なんとかしてください。
これでほんとにおわりです、長々とお付き合いありがとうございました~
今までの作品
anko1748 かみさま
ばや汁あき(仮)でした。
それからしばらくして、落ち着きを取り戻した母れいむ、父まりさ、
子れいむとまりさはすっかり仲良しになっていました。
「”どうつきさん”なんてはじめてみたんだぜ」
「まりさは”とくべつなゆっくり”なんだよ!」
まりさは再び、えへんっ!と胸をはりました。
「きせきさんをおこせるなんて、”どうつきさん”はとってもゆっくりしてるね!」
母れいむはもみあげさんをピコピコさせながら、嬉しそうにいいました。
「おねーちゃんの”あかいおめめさん”は、とってもきれいだね!」
「ありがとう!」
まりさは子れいむのその言葉にお礼をいいます。
大好きなケンくんから貰った綺麗なおめめは、すでにまりさのお気に入りでした。
でもこのときまりさは自分のおめめが赤いということは知りませんでした。
それを話すと、父まりさが
「それなら、ゆっくりついてくるんだぜ!」
といい、ゆっくりとどこかに向って跳ねていきました。
まりさがそれについていくと、公園の隅っこに小さな水たまりができていました。
「ゆっくりみてみるといいんだぜ、きれいなおめめさんなんだぜ」
そういわれて、まりさは水たまりを覗きこみました。
「うわぁ…」
まりさは驚きの声をあげます。
そこに映っていたのは、まりさの知っている”胴つきまりさ”とは少しちがった”まりさ”でした。
自分の姿は、ブリーダーのお姉さんと生活していたころ、よく鏡さんで見せてもらっていました。
しかし今、まりさの目に映った”まりさ”は、右目に痛々しい傷痕と、そして”綺麗で真赤なおめめ”がついていました。
(これがケンくんがくれたみぎめさん!)
まりさは改めて心の中でケンくんに感謝しました。
それと同時に、どうしようもなくケンくんに会いたくなってしまいました。
会って、直接ケンくんにもう一度お礼を言いたい。
そう思うと、いてもたってもいられなくなってしまいます。
「ごめんねみんな、まりさ、もどらなきゃ…」
そう言って元きた道を戻ろうとしたとき、誰かがまりさに声をかけました。
「まって」
「ゆ?」
まりさは声のした方を向きます。
すると木の影から、ゆっくりと”あるゆっくり”が顔を出しました。
「ぱちゅりー!だめだよ、ゆっくりやすんでないと!」
「むきゅ、いいのよ…」
母れいむの静止を振り切って、”ゆっくりぱちゅりー”がゆっくりとまりさの前にやってきます。
「みさせてもらったわ…」
「なにを?」
突然呼び止められ、まりさは困惑してしまいます。
「まさにあれは”きせきさん”よ、ぱちゅはかんっどうっしたわ…」
ぱちゅりーはそう言うと、ゲホゲホと咳き込みます。
「”まちのけんじゃ”のぱちゅはしってるのよ、”どうつきさん”はなんでもできるのよ…」
「ゆっ!?そうなんだぜ?やっぱり”どうつきさん”はすごいんだぜ!」
父まりさが自分が褒められたかのように嬉しそうに、ぽよぽよと跳ねました。
「”あかめのまりさ”さんにおねがいがあるのよ…」
「なあに?」
まりさは聞き返します。
(まりさにできることなら、してあげたいよ!)
まりさはそう思いました。
しかしぱちゅりーの口から出た言葉は、まりさの予想をはるかに上回るものでした。
「ぱちゅたち”のら”の、”おさ”になってもらいたいのよ…」
「おさ…?」
まりさは、ぱちゅりーが何を言っているのかわかりませんでした。
まりさは元々飼いゆっくりとして生まれ、育てられたので”野生のゆっくり本来の生態”を知らなかったのです。
戸惑うまりさにぱちゅりーが説明します。
「きれいなかっこうをみればわかるわ、さいきんまで”かいゆっくり”だったのね…
ぱちゅもむかしはそうだったもの…
ようは、ぱちゅたちの”かぞく”になって、その”リーダーさん”になってほしいのよ…」
まりさは、ぱちゅりーの言った”家族”という言葉に惹かれました。
「でも…ケンくんが…」
しかしまりさはケンくんのことを忘れることができませんでした。
野良ゆっくりと”家族”になること、それはもう”ケンくんの家のペット”になることはできないということです。
「おねがいよ、みてのとおり、ぱちゅたちはじゅうぶんゆっくりできているとはいえないわ…」
ぱちゅが父まりさや母れいむを見やり、そして自分の体をゆすって言いました。
たしかに父まりさや母れいむはお飾りもボロボロ、体も薄汚れています。
ぱちゅりーは髪の毛のつやがなくなり、体のいたる所に傷がついていました。
「それにさっきたすけてもらったおちびちゃんも、あなたがいてくれなかったらきっと…」
「おねーちゃん…」
子れいむは深刻な話をしているぱちゅりーとまりさを、不安そうに見ています。
「あなたにしかできないことなのよ…」
「…」
まりさは黙ってしまいます。
しばらく俯いて葛藤したあと、まりさはついに決意しました。
(そうだよ、まりさはとくべつな”ゆっくり”なんだよ!
おねえさんにいわれた、”つよくてやさしいりっぱなまりさ”になるんだ!)
「わかった、まりさ、がんばるよ!」
まりさのその言葉にぱちゅりーはにっこりとほほ笑みました。
「むきゅ!ありがとう、よくけっしんしてくれたわ…」
まりさの意味をゆっくり理解して、遅れて父まりさと母れいむが喜びの声をあげます。
「ゆゆっ!”どうつきさん”が”おさ”なんだぜ!?うれしーんだぜ!」
「ゆゆ~♪”どうつきさん”はとってもゆっくりできるね!」
皆が嬉しそうにすると、子れいむもうれしそうにぴょんぴょん跳ねました。
「ゆっくり!ゆっくり!」
「よろしくね!ゆっくりしていってね!」
ごめんねケンくん。
まりさはとくべつな”ゆっくり”なんだよ。
だから、こまってる”のらゆっくりさんたち”をほっとけないよ。
でも、いつかケンくんと…
まりさはぶんぶんと頭を振って迷いを振り切ろうとしました。
それでもまりさはケンくんのことだけはどうしても忘れることができそうもありませんでした。
これ以上不安が大きくならないように、まりさは段ボールさんのところに戻るのをやめました。
ケンくん…ごめんね……
-------------------------------------
それから瞬く間に時間は流れ、まりさは立派な”野良ゆっくり”として成長していました。
ちょっぴり背も伸びました、だけど髪の毛はくしゃくしゃ、大切なおぼうしもボロボロ。
それでもまりさはとっても日々を”ゆっくり”と過ごしていました。
なぜなら今のまりさには”守るべき家族”がいるのです。
それも最初の4匹だけではなく、いつの間にか”まりさの群れ”は何十匹ものゆっくりを抱える大きなものになっていました。
今日もまりさの群れの噂を聞きつけた野良ゆっくりが訪れます。
しかし時にそれは招かれざる客であることもありました。
まりさたちがある商店街の路地裏でゴミ箱をあさっている時のことです。
「ゆふふふ、とってもおいしそうなにおいがするよ!」
突然まりさの前にぼよんぼよんと体を揺らしてまるまると太った”れいむ”が現れます。
「だれ!?」
まりさが手に持ったまりさの背丈と同じくらいの木の棒を構えて威嚇します。
「かわいいかわいいれいむがきてあげたよ!ゆっくりしてないでごはんをちょうだいね!」
れいむは自分に食べ物が貢がれるのが、さも当然のように言い放ちました。
「ここはまりさのむれのかりばだよ!ゆっくりできてないゆっくりはほかをあたってね!」
そんなれいむをまりさはきっぱりと跳ねのけます。
「ゆぎいぃいいいーーー!!!でいぶのめいれいがきけないのぉーー!?」
自らを”でいぶ”といったソレは、全身をブルブルと震わせてまりさに迫りました。
「うるさいよ!ゆっくりしないであっちにいってね!」
しかしまりさは臆することなく木の棒を振ってでいぶを追い払います。
「くそぉおお!そんなのふりまわしたらあぶないでしょぉおおおおーー!」
そういいながらもでいぶは大きな体をゆらしながら、ゆっくりと逃げていきました。
そして群れからは歓声があがります。
「やっぱりおさはすごいんだぜ!」
「すっごくゆっくりしてるよぉおおーーー!!」
「さすがなんだねー、わかるよー」
「んほぉおおーーー!!とってもとかいはだわぁ!」
「むきゅん、やっぱりぱちゅのめにくるいはなかったわ…」
群のゆっくりたちは次々とまりさに称賛の声を浴びせます。
その声にまりさは笑顔でこたえます。
「みんなゆっくりおなかいっぱいになった?それじゃあにんげんさんにみつかるまえにゆっくりおうちにかえるよ!」
『はーい!』
そして群れはぞろぞろと行進し、自然公園や高架下などでゆっくりとした時間をすごします。
まりさは野良ゆっくりになってもとても優秀でした。
胴つきのまりさは、ほかのゆっくりにできないことがなんでもできました。
背が高いのでみんなが気付かない場所にあるものをいち早くみつけることができます。
腕があるので、ポリバケツさんをすぐに引き倒して漁ることができます、そしてお片づけもできました。
これで人間さんに対策ととられる心配がぐっとへりました。
二つの足さんは、ほかのどのゆっくりよりも速く移動することができます。
まりさが走りまわり、安全を確かめてから群を誘導するのです。
そしてまりさのかしこいおつむは、街の賢者のぱちゅりーをも凌ぐものでした。
”借り場”や”おうち”も定期的に移動します、これもまりさの考えたことでした。
それによって、人間さんに見つかって罠を張られたり、駆除されたりする危険が減りました。
そして群れのゆっくりたちから最も信頼を受けている理由。
それが、まりさの”治療能力”でした。
まりさがけがをしたゆっくりのところにいき、傷を塞ぎ、「絶対大丈夫!」と一声かければ、
たちまちそのゆっくりは元気になってしまいました。
まりさの群は、群以外の野良からも噂される、とても”ゆっくりできる”群でした。
しかしそれはしょせん”ゆっくり”での話。
”人間さん”はそう甘くはなかったのです。
日に日に野良ゆっくりを巻き込み、大きくなっていく”まりさの群”は、
次第にいやがおうにも目立つ存在になっていきました。
そしてついにその日は訪れます。
ある日、まりさの群がいつものように”狩り”をしていた時。
群にゆっくりと数人の人間さんが近づいてきました。
「ゆっくりしていってね~っと」
『ゆっくりしていってね!』
群のゆっくりたちは反射的に挨拶を返します。
「ゆっ!人間さん!まりさたちになんのよう!?」
まりさは群を守ろうと必死に棒を構えます。
しかしこのときまりさは内心穏やかではありませんでした。
(どうしよう、にんげんさんにみつかっちゃったよ…)
群れの中で一番強いまりさは、だからこそ一番”ゆっくりの無力さ”を知っていました。
出来る限り人間さんとは関わらないようにしてきましたが、ついに見つかってしまったのです。
「この群のリーダーはお前か」
人間さん達の中の一人が、まりさを見てそう言います。
「そ、そうだよ!」
「ふぅん、ってことはお前が…」
人間さんはふむふむと小さく頷いてまりさに言いました。
「ここいらの野良から聞いたんだ、”不思議な力のゆっくりした胴つきさん”のいる群があるってな」
「ゆっ!まりさは”とくべつなゆっくり”なんだよ!」
まりさはそう言いながら棒を構え、ゆっくりと後退します。
他のゆっくり達は、ただただ人間さんとまりさのやり取りを怯えながら見守っています。
(なんとか逃げなくちゃ…)
しかしまりさの考えを読んだかのように、人間さんはいいました。
「おっと、ちなみにお前らは俺達から逃げられない、すっかり囲んでしまったからな、
もちろん、囲んでなかったところでゆっくりごとき逃がさないけどな」
群に衝撃が走りました。
強いゆっくり達は”ぷくー”をしたり、人間さんを睨みつけます。
弱いゆっくり達は、ただただ涙を流しながら、どうしてどうしてとうろたえます。
それを無視して人間さんは続けました。
「だけどまぁ、お前たちは運がいい、頭のいいやつはわかったかもしれないけど、
俺達は加工所の人間だ。でも”駆除班”じゃない」
人間さんはゆっくり達にもわかるように、やさしくゆっくりと説明をしました。
自分達は”研究班”でゆっくりの生体の研究をしている。
近頃は厳しい環境で育ったゆっくりに特異な進化をする者がいる。
急成長した群のリーダーの”まりさの能力”の噂を聞き、まりさの群を捜していた。
そう人間さんは説明したあと、まりさに言いました。
「お前が俺達についてくるなら、お前の群は見逃してやろう」
「ゆっ!?」
まりさは棒を構えたまま固まってしまいます。
「別に俺達は”お前”一匹に興味があるだけだ、ほかの野良なんてどうでもいいんだよ」
しかしまりさには分かっていました、人間さんの言うとおりにする以外に方法はないのです。
たとえここでまりさがそれを拒んだとしても、
人間さんは群のゆっくりを殺しつくしてでもまりさを連れて帰ったでしょう。
「わ…わかったよ…」
まりさは観念して、人間さんにいいました。
「むきゅ!だめよ!」
街の賢者のぱちゅりーが声をあげます。
「あなたがいなければ、このむれはおしまいだわ」
人間さんは足元にいるぱちゅりーをぎろりと睨みつけます。
「うるさいぞ、俺はお前なんかにきいちゃいないんだ、それともそんなに”ゆっくり”したいのか?」
直接的な言葉ではありませんでしたが、ぱちゅりーを含めたゆっくり達は、
人間さんが言ったことがどういう意味かを理解しました。
群のゆっくり達は皆一様に目を伏せ、口をつぐんでしまいます。
まりさはゆっくりと群の皆の方を向いていいました。
「みんなごめんね、でもこれはみんなをまもるためなんだよ」
その言葉を聞いて、何匹かのゆっくりがぼろぼろと涙を流し始めます。
まりさは最初に出会った”父まりさ”を抱きかかえ、みんなのほうに向かせて続けます。
「まりさは”おとーさんまりさ”にいろんなことをおしえてもらったんだよ。
これからはまりさを”まりさ”だとおもって、みんなこれからもげんきにゆっくりしてね!」
「まりさ…」
父まりさは体をぶるぶると震わせながら必死に涙をこらえていました。
群の中にいた母れいむと子れいむも、ぼろぼろと涙を流しながらまりさをみつめます。
ぱちゅりーはただただ申し訳なさそうに目を伏せていました。
「はいはい、感動感動」
人間さんはめんどくさそうに頭をボリボリとかくと、まりさの脇を抱えてひょいと持ち上げました。
「ゆべっ!」
反動でまりさの手から転げ落ちた父まりさは、地面に顔面から落ちてしまいます。
まりさは人間さんを睨みつけながら言いました。
「にんげんさん!やくそくだよ!まりさのむれにはぜったいにてをださないでね!」
「はいはい、”俺は”約束を守りますよっと」
そう言ってまりさを抱えた人間さんは、他の人間さんを伴ってゆっくりと歩き出しました。
取り残されたゆっくり達は、人間さんたちが見えなくなるまで、
ただただ茫然とその様子を見つめ続けることしかできませんでした。
-------------------------------------
まりさが加工所に連れてこられて、数日がたちました。
まりさはここに連れてこられた初日から、小さな個室が与えられ、さまざまな検査を受けました。
そして加工所の職員の手で、まりさは体を綺麗にしてもらいました。
そのおかげで、髪の毛は以前飼いゆっくりだったころのつやつやな輝きを取り戻し、
可愛いお洋服も着せてもらいました。
まりさは加工所でおいしい食べ物も与えられ、何不自由なく暮らすことができました。
しかしまりさの心はちっとも満たされませんでした。
加工所の職員の対応にはちっとも愛はありませんでした。
まりさはあくまで研究対象だったのです。
まりさは孤独でした。
そして毎日、別れた野良ゆっくり達の無事を案じていました。
寂しくなると、ケンくんの笑顔が頭をよぎったりもしました。
そのたびにまりさは、なんだか泣きそうな気持になってしまいます。
加工所に来てからというもの、まりさは一度も笑顔になることはできませんでした。
「おはようまりさ」
真白な部屋の真白な扉を開けて、”職員さん”がまりさに挨拶をします。
この職員さんは、まりさの世話をする担当になったお姉さんで、
加工所職員の中で唯一まりさに優しくしてくれる存在でした。
「さぁご飯だよ、ゆっくりおたべ」
まりさは差し出されたご飯を黙って食べます。
おいしいはずのご飯さんも、”家族”と一緒に漁ったゴミ箱の中身に比べれば、味気ないものに感じてしまいます。
「惜しいなぁ、まりさは笑えばかわいいとおもうんだけどなぁ」
お姉さんはまりさの綺麗な髪の毛をなでながら、ニコニコして言います。
まりさにはお姉さんがどうしてニコニコしているのかわかりませんでした。
まりさはただただ口を真一文字に結んで、ゆっくりできない日々を、部屋の中で過ごしていました。
そしてお姉さんはまりさが食べ終わるのを待ち、少しだけお話をしながら食器を片づけ、部屋を出て行きます。
「じゃあねまりさ、また」
お姉さんが扉の向こうに吸い込まれていきます。
ガチャリ
まりさはこの音が嫌いでした。
お姉さんがまりさが脱走するのを防ぐために部屋に鍵をかけていきます、
たとえまりさにその気がなかったとしても、それが決まりでした。
でもまりさはそのことで、所詮自分はここに囚われているのだと、強く思いました。
日々がたつにつれ、まりさは徐々に”生きる希望”を無くしていきました。
清潔な暮らし、おいしいごはん、優しいお姉さん。
たしかにはたから見ればゆっくりした生活にみえることでしょう。
しかしまりさの”心”は決して満たされませんでした。
以前捨てられたばかりのころのまりさであれば、このまま幸せに暮らしたいと願ったかもしれません。
しかし野良の生活を経て、守るべき大切なものを手に入れ、そして奪われたまりさは、抜けがらでした。
それはおとずれたであろうケンくんとの生活さえもふいにして手に入れた、まりさの宝物だったのです。
ある日それは、突然起こりました。
まりさが眠りから覚めると、”右目”がジクジクと痛み始めたのです。
「まりさのみぎめさん…ゆっくりしてね…」
まりさが右目をさすっていると、今日も職員のお姉さんが食べ物を運んできてくれました。
部屋の中に入ったお姉さんは、すぐにまりさの異変に気付きます。
「どうしたのまりさ、何かあった?」
まりさはしばらく黙っていましたが、どんどん増していく右目の痛みに耐えきれず、ついに口を開きました。
「みぎめさんが…」
しかしまりさの声は、突然なった携帯電話の呼び出し音にかき消されます。
「ごめんね、ちょっとまってね」
お姉さんはまりさの頭を優しくなでると、胸ポケットに入っていた携帯を取り出し、通話ボタンを押します。
「もしもし?」
まりさの左目が見つめるお姉さんの顔は、電話を取った瞬間からどんどん険しいものに変化していきました。
「ええ、そう…わかりました、すぐに行きます」
お姉さんは携帯のボタンを押して、通話をやめ、まりさに言いました。
「まりさ、ごめんなさい、急な仕事が入ってしまって、人手が足りなくて応援に行かなくちゃいけないの
できるだけ早く戻ってくるようにするから、いい子で待っててね」
お姉さんはそう言って急いで部屋を後にします。
まって、という言葉をまりさは言えませんでした、きっと言ってもお姉さんを困らせるだけだとおもったのです。
それからすぐに、部屋の外からバタバタと人間さんの忙しそうな足音が多く聞こえてきました。
まりさはなんとか眠って右目の痛みをやり過ごそうとしましたが、
痛みは時間がたつほど、どんどん大きくなっていきました。
「ゆっくり…できないよ…」
まりさの額にはじっとりと汗が浮かび、もういてもたってもいられませんでした。
まりさはゆっくりと立ち上がり、扉の前に立ちます。
「お姉さん…助けて…」
それはまりさがケンくんと別れてから、初めて人間さんを頼ろうとした瞬間でした。
しかし無情にもその小さな声に反応してくれる人間さんは誰もいませんでした。
まりさが耳を澄ませると、すでに扉の向こうは静かになっていました。
まりさは誰かに気付いてほしくて、背伸びをしてドアノブをつかみます。
するとなぜか扉はゆっくりと開き、まりさは部屋の外に出ることができました。
急いでいたお姉さんは、部屋を出るときに鍵をかけ忘れてしまったのです。
まりさはあてもなくふらふらと部屋の外をさまよいました。
というのも、まりさはまりさの部屋にどうやって連れてこられたのか、あまり覚えていなかったのです。
だからどうすればどこにいけるかもわかりません、
今はただ、誰でもいいから人間さんに会って、右目さんをなんとかしてもらいたかったのです。
しかしまりさはすぐに部屋を出たことを後悔しました。
まりさが部屋を出てしばらく歩いた後、突如目の前に広がったのは
地獄でした。
まりさははじめ目の前で何が起こっているのかわかりませんでした。
まりさの目に映ったのは、まりさがいる場所から透明なガラスで仕切られた向こうにいる、
たくさんのたくさんのゆっくり達。
まりさの方からはゆっくりの後ろ側しか見えませんでしたが、
ゆっくりたちは微動だにせず、”動く床”に乗せられて、ゆっくりと右から左に移動していきます。
そしてまりさの視界の端にある”四角い大きな箱”の中にどんどんとゆっくり達が消えていきます。
ゆっくりが箱の中に入っても動く床は止まることはなく、そして箱のゆっくりが入った方とは逆の方向からは、
なにやら”黒っぽい塊”や”白っぽい塊”が次から次へと動く床に乗って運ばれて、視界の外に消えていきます。
「うわあぁああああああああーーーーーー!!!!!!」
そしてまりさはゆっくりと理解してしまいました。
そう、それはゆっくり達にとっての死の行進、加工ラインだったのです。
ゆっくりたちは動かないのではありません、動けなくされて動く床、つまりベルトコンベアに乗せられていたのです。
そして大きな箱は、ゆっくり達をひきつぶす殺ゆマシーン、反対側から出てきたのは、
無残にも引きつぶされ”あんこの塊”になったゆっくりでした。
そしてまりさは気づいてしまいます、気づかなければまだ幸せだったのに、”気づいてしまった”のです。
「うそ…だ…」
機械の中に吸い込まれていくはるか向こうのコンベアの上にいたのは、まりさの見知ったゆっくりでした。
「お…おとーさん、おかーさん、れいむにぱちゅ…」
そう、野良生活をしていた時の群の、父まりさに母れいむ、子れいむ、街の賢者のぱちゅりーでした。
それにほかの群のゆっくりたちも、一匹残さずベルトコンベアに乗せられていました。
後姿でお顔は見えませんでしたけど、一緒に暮らしたまりさにはわかったのです、わかってしまったのです。
「や、やめてぇぇーーー!!とめて!とめて!!」
まりさは必死にガラスをバンバンと叩きます。
しかし非力なまりさでは、叫んでも、ガラスを叩いてもその残酷な流れを止めることは出来ません。
そうこうする間にも、ベルトコンベアはゆっくりと、ゆっくりと殺戮機械にまりさの”大切な家族”たちを近づけていきます。
「おねがい…おねがいします…だれか…だれか!」
そして
バクンッ!
まりさの耳には、”箱が家族を飲み込む音”が確かに聞こえました。
バクンッ!バクンッ!
「あ…あぁ…」
それはまりさの目の前で、静かに、無慈悲に、ただただ作業的に、ゆっくりとつづけられました。
バクンッ!バクンッ!バクンッ…
「うっ……うぅううううう!!!!」
まりさは声にならない呻きを上げ続けます。
歯をくいしばって、どんなに機械を睨み続けても、ガラスをたたく手が擦り切れても、機械が止まることはありませんでした。
そしてゆっくりと、最後の”家族だったもの”が機械から吐き出されました。
まりさはそれを追ってベルトコンベアの流れと同じ方向にゆっくりと歩き出しました。
「だいじょうぶだよ…きっとだいじょうぶだよ…まりさはとくべつなんだよ、だからだいじょうぶ…」
まりさは涙でくしゃくしゃの顔を無理やり笑顔にして、”魔法の言葉”を唱え続けました。
しかし二度と奇跡が起こることはありませんでした。
ゆっくりとベルトコンベアが、ガラスのある範囲を越えて、まりさの目の届かないところにいってしまいます。
それがまりさと家族の最後の別れでした。
「どうして…どうして…まりさたちなんにもわるいことしてないのに…どうして…」
まりさの”両目”からぼろぼろと大粒の涙がこぼれ落ちます。
まりさの右胸のあたりに、ほほからこぼれたしずくが、ゆっくりと”赤い染み”を広げていきました。
まりさは右目の痛みを忘れてただただ泣き続けました。
いまは右目なんかよりも、心がバラバラになりそうなほど痛かったのです。
ごめんね、みんなごめんね、ゆっくりさせてあげられなくて、ごめんね…
どうしてまりさはいきてるんだろう、まりさだけいきてるんだろう…
こんなおもいをするくらいなら、まりさは”とくべつ”なんかじゃなくてよかったよ…
ごめんね…ごめんね…
それからしばらくして、一人で床に座り込み、茫然自失としているまりさを
加工所職員が発見し、まりさは部屋に連れ戻されました。
まりさが部屋の片隅でひざを抱えていると、白い扉が開き、お姉さんが現れました。
まりさはぼんやりとお姉さんの方を向きました。
まりさの目に映ったお姉さんは、なんだか右側がぼんやりとかすんで見えました。
まりさの右目はいまだ痛み、その痛みはどんどん大きくなっていきます。
「まりさ、その目、どうしたの!?」
お姉さんはまりさの異変にすぐに気がつきました。
このときまりさの右目からは、どろどろとした真赤な涙があふれていたのです。
この涙は、まりさの右目さんそのものでした。
生きる希望を無くしたまりさの右目さんは、今ゆっくりと”右目さん”から”いちごキャンディーさん”に戻ろうとしていたのです。
そしてそれは異物として排除されるかのよに、ゆっくりとまりさに痛みとしてあらわれていました。
けれどまりさはそんなことは忘れ、お姉さんに向って小さな声で訴えかけます。
「どうして…やくそくしてくれたのに…どうして…」
お姉さんは一瞬まりさが何をいっているのかわかりませんでした。
しかしすぐにはっとした顔になって、そしてすぐに目を伏せ、うつむいてしまいます。
「もしかしてまりさ、みてしまったのね…」
まりさはただただぼろぼろと左目からは透明な、右目からは真赤な涙を流し続けます。
「どうして!?やくそくしてくれたのに!まりさのかぞくにはてをださないっていってくれたのに!
うそつき!やっぱりにんげんさんはうそつきなんだ!しんじゃえ!みんなしんじゃえぇぇ!!!!」
まりさは感情を爆発させて、近くにあったものをつかんでは、お姉さんに投げつけました。
しかしそれはクッションのようなものばかりで、お姉さんにはちっとも痛みを与えることはできませんでした。
だけどまりさの悲痛な叫びは、確実にお姉さんの”優しい心”をえぐりました。
「ごめんなさい…」
お姉さんは言います、お姉さんには謝る以外の償いは思いつきませんでした。
「ごめんなさい…」
お姉さんはまりさを優しく抱きしめ、ただただ謝り続けます。
「うぅうぅぅぅ!!!」
手足をじたばたとさせながら泣き叫ぶまりさを強く抱きしめ、
お姉さんはごめんなさい、ごめんなさいと何度も何度も繰り返しました。
まりさの涙が枯れ果てたころ、お姉さんが言いました。
「私たち”研究班”は約束通りまりさの群は触れないことにしていたわ、でも”駆除班”とは管轄が違うのよ」
まりさにとってそれは何の慰めにもなりませんでした。
しかしお姉さんも、まりさと約束をしたあの職員さんも所詮一人の加工所職員にすぎません。
確かに約束をしてくれた人間さんは約束を守ってくれていました。
しかし職場の他部署、ましてや”害獣としての野良ゆっくり”を
定期的に駆除する行政的な流れを止めることなどできなかったのです。
そしてそれは、”野良”であるということだけで駆除、処理される街のゆっくりたちの”残酷な運命”でした。
まりさはそれ以上お姉さんと口を聞こうとはしませんでした。
もうまりさは人間さんなど信用できなくなってしまっていました。
きっとつぎにかおをあわせたときにはおねえさんもまりさにひどいことをするんだ。
まりさは与えられた食事にも手をつけず、毎日そんなことばかり考えていました。
そして”残酷な運命”がついにまりさのもとにも訪れる時がやってきました。
いつものように、お姉さんが部屋の中にはいってきます。
しかしお姉さんはいつもと違い、暗い表情を浮かべ、手には真っ黒な袋を持っていました。
そしてお姉さんは、まりさに近付き、静かに言い放ちました。
「まりさ、検査の結果、あなたは”ただの胴つき”ゆっくりだということがわかったわ
ゆっくりの傷を治す”不思議な力”も、加工所研究班は”所詮思い込みの力”だった、という結論に至ったわ」
まりさは何も言いません、ただ黙って力無くお姉さんを見つめるだけでした。
ここ数日で、まりさの右目の痛みは、すっかりとなくなりました、しかし右目さんが見えなくなってしまったのです。
なのでまりさは右目をぎゅっととじ、左目だけを開けていました。
そうしないと、まりさの大切な右目さんがいなくなってしまうような気がしたのです。
まりさにとって右目さんは、まりさに最後に残された、”ケンくん”との想い出でした。
お姉さんはゆっくりとつづけます。
「そして加工所は明日からまりさを置いておく部屋は無いと判断したわ、
残念だけどまりさはこれから”廃棄物”として処理されます」
そう言ってお姉さんはまりさの頭の上で、持っていた黒い袋を広げます。
まりさの頬に温かい水が落ちてきました。
まりさが見上げると、なぜかお姉さんの目がキラキラと光っていました。
そしてお姉さんはゆっくりとまりさに黒い袋を覆いかぶせ、その上からぎゅっとまりさを抱きしめました。
「ごめんね…ごめんねまりさ」
お姉さんは震える声で何度も何度も謝りました。
優しいお姉さんは、すっかりまりさに情をうつしてしまっていたのです。
そしてまりさは真っ暗な視界の中、急に重力を感じなくなりました。
持ち上げられて運ばれていくのです。
まりさは眼をとじ、ゆっくりと考えました。
まりさは”とくべつ”じゃなかったんだ…
じゃあブリーダーのおねえさんも、ほかのにんげんさんとおんなじでうそつきだったのかな…
もうわかんないや…
このまま、まりさはころされちゃうのかな…
しんだら、”みんな”のところにいけるかな…
でも、しんじゃうまえに、あいたかったよ…
ケンくん…
ドサリッ!
まりさの体が急に硬いものに叩きつけられました。
まりさは袋に入ったまま投げ捨てられたのです。
しかしそのとき、まりさは、足元にある袋の口からわずかに光が漏れていることに気がつきました。
まりさが足で袋の口を押すと、すんなりと袋は大きく口を開けて、まりさは外に出ることができました。
お姉さんがわざと袋の口をとても緩く締めていたのです。
それはお姉さんがまりさに出来る最大の償いでした。
まりさは重たい体をゆっくりとおこし、左目で辺りを確認します。
外はわずかに雨が降っていました。
まりさが這い出たものと同じ黒い袋が、そこかしこに転がっていました。
まりさが途方にくれていると、遠くから人間さんの声がしました。
まりさは反射的に声とは違う方向の、近くの茂みに身を隠しました。
「ったくめんどくせぇなぁ、雨の日はお休みがいいよなぁ」
「まぁまぁ、そういうなって、ゴミってやつは毎日出るもんだ」
まりさが身を隠した直後、車輪のついた大きなかごをもって二人の人間さんがやってきて、
黒い袋をつかみ、次々とかごの中に放り込んでいきました。
「これで全部か?」
一人が最後の袋を放り込んで、もう一人に確認します。
「ん~、なんでか知らないけど空の袋が一枚あったけど、それで全部じゃないかなぁ」
(たいへん、きづかれちゃうよ…)
まりさは人間さんに音をたてて気付かれないように慎重に茂みの奥へ奥へとはいっていきます。
幸いなことに、雨音がまりさの気配を消してくれました。
二人の人間さんは、まりさに気づくことなくもと来た道を戻って行きました。
しかしまりさは歩みを止めません。
まりさは自分が今どこにいるかもわかりませんでした。
なのでとりあえずただ闇雲にまっすぐ歩くことにしたのです。
歩いても歩いても、茂みは続いていました。
そして気が遠くなるほど歩きつづけていると突然まりさの足元にあった草がなくなり、コンクリートに変わりました。
道路に出ることができたのです。
しかしそれでもまりさはここがどこかわかりませんでした。
お姉さんが出してくれていたご飯を拒み続けていたおかげで、まりさの体力は既に底をついていました。
それ以上歩くことが出来ず、まりさはゆっくりと座り込んでしまします。
まりさは疲れ切り、もうなにもかもがどうでもよくなってしまいました。
袋から出た時人間さんが来て、反射的に身を隠してしまったけれど、
あの時すんなりと見つかって殺された方が楽だったかもしれません。
まりさは、ぼんやりと、最初に飼ってくれたお兄さんに捨てられた日のことを思い出していました。
あの日も丁度こんなふうに雨が降っていました。
まりさは思いました。
あめさん、こんどこそまりさをとかしてね…
しとしとと、雨が振り続けます。
透明なしずくが、まりさの髪の毛濡らし頬を伝いお洋服をぐしょぐしょにしていきます。
閉じた右目の回りに赤みがかったしずくが流れだします。
しかしそれもすぐに雨で薄まり、わからなくなってしまいます。
そしてまりさはゆっくりと目をとじ、ごろりと横になりました。
もう二度と目覚めないことを祈って。
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「ゆ…ゆぅ…」
まりさが気がつくと、そこは暖かで光があふれる、とてもゆっくりできるお花畑でした。
まりさが目をこすりながらあたりを見回すと、そこにはあの時別れたはずの”家族”の姿がありました。
「ぱちゅ!?おとーさんまりさに、おかーさんれいむに、れいむも!?」
まりさは皆の元に駆け寄り、家族たちを抱きしめます。
「よかった、生きてたんだ、やっぱりきせきさんはおこったんだね!」
喜ぶまりさをいさめるように、ぱちゅりーが静かに口を開きました。
「むきゅ…ちがうのよまりさ、ここはてんごくさんなのよ…」
まりさはぱちゅりーの声に耳を疑います。
「えっ、じゃ、じゃあやっぱり…」
まりさは今まで天に昇っていた気持ちがしゅんと萎え、涙目になってしまいます。
「う…ごめんなさい、まりさはどうすることもできなかったよ、ごめんなさい…」
「あやまることはないわ…もともとぱちゅたちは、いずれこうなる”うんめい”だったのよ…
のらのせかいでそうながくいきていけないことは、みんなしっていたわ…」
今度はぱちゅりーの横にいた父まりさが元気に跳ねながら答えます。
「だけどまりさたちは、まりさのおかげでとってもゆっくりできたよ!だからだれもまりさをせめたりしないよ!」
父まりさがそういうと、みんなが、そうだそうだと声をあげます。
「あ、ありがとう!でも、ここがてんごくさんなら、まりさもしんじゃったんだよね、
これからはここでみんなでゆっくりしようね!」
「だめだよ!」
母れいむがまりさに厳しく言いました。
その語調にまりさはビクリと身を震わせます。
「ど…どうして…?」
「れいむたちにはわかるよ、まだまりさは”えいえんにゆっくり”してないよ!
いきてるんだから、もっともっといきて、れいむたちのぶんもゆっくりしていってね!」
「むきゅ、そうよ、いつまでもここにいてはいけないわ、もどるのよ」
「でも…でも…」
まりさはどうしたらいいかわかりませんでした。
失ったはずの家族にせっかく出会えたのです、もうこれ以上つらい思いをせずに、ここでゆっくりできたら幸せでした。
まりさの足元で、まだ小さな子れいむがぴょんぴょんと跳ねながらいいました。
「おねーちゃん!なかないでね!れいむはおねーちゃんのとってもゆっくりできるえがおがだーいすきだよ!」
「れいむ…」
まりさはあふれる涙をなんとかこらえながら、無理やり笑顔を作ろうとしました。
だけどやっぱりできませんでした、まりさの目からは次々と涙があふれてしまいます。
「やだよ…まりさ、みんなともっとずっとゆっくりしていたいよ…もうつかれちゃったよ…」
子れいむが言います。
「だめだよ!なきむしでゆっくりできないおねーちゃんなんか、おねーちゃんじゃないよ!
ゆっくりあっちにいってね!」
子れいむは小さな体をぽすぽすとまりさの体にぶつけてきます。
「ゆっくりできるえがおさんになるまで、ぜったいぜったいここにきちゃだめだよ!れいむとのやくそくだよ!」
子れいむの声に合わせて、群の皆が一斉にまりさの体に体当たりをします。
けれどそれは、とても優しい、ぬくもりのある衝撃でした。
あっちにいけ!もどってくるな!と、みんなは笑顔でまりさに”エール”を送ります。
けれどまりさは踏みとどまってしまいます。
「うるさいよ!まりさは”とくべつなゆっくり”なんだよ!みんながたばになったって、まりさにはかてないよ!」
まりさがぷくー!と頬をふくらませて皆を受け止めます。
そのまま踏ん張ろうとしたとき、まりさの耳に、突然声が飛び込んできました。
『まりさ!死ぬな!戻って来い!』
まりさはその力強い声に、聞き覚えがありました。
「ケン…くん?」
まりさの踏ん張ろうとしていた足から、急に力が抜けます。
そのまままりさは、たくさんのゆっくり達に囲まれ、押しつぶされてしまいます。
「むきゅ…やっぱりあなたはここにいるべきじゃないわ、たいせつなひとが、いたのね…」
「みんなのぶんもゆっくりしなきゃ、ゆるさないんだぜ!」
「れいむはまだまだなきむしでおちびちゃんなまりさのこと、
いつでもみまもってるからね!れいむはおかーさんなんだよ!」
「おねーちゃん!ゆっくりまたね!」
『ゆっくりしていってね!』
温かな声の波と、柔らかな光に、まりさの意識が溶けていきます。
みんな…ありがとう…
まりさは意識が途切れる最後の瞬間まで、ありがとう、と繰り返し続けました。
-------------------------------------
「…!…!」
まりさの耳に、誰かが力強い声をかけ続けていました。
「ゆ…」
小さくうめき声をあげ、まりさがゆっくりと目を開けます。
しかしそれはすぐに真っ暗な世界に変わってしまいました。
「よかった!生きてた!心配したんだぞ!」
まりさは目覚めた瞬間、お顔を強く強く抱きしめられたのです。
しかしまりさには、それが誰か声でわかりました。
「ケン…くん?」
「そうだよ、僕だよ、また会えたね、ずっと会いたかった」
ケンくんはまりさを抱きしめる腕を放し、顔をまりさにみせてくれました。
まりさの左目には、たしかにケンくんの笑顔が写っていました。
「ケンくん…まりさも…ずっとずっとあいたかったよぉぉ」
二人が再開の喜びを分かち合っていると、ケンくんの背後から、男の人が現れました。
「おぉ!気がついたのか、よかったよかった!」
「ゆっ?」
ケンくんとの再会の喜び以外、状況が飲み込めていないまりさに男の人、
ケンくんのお父さんがゆっくりと事情を説明してくれました。
まりさがあの日、道路の端で倒れているところを、近隣住民が
”女の子が倒れている”と通報し、まりさは病院に運ばれたのです。
しかし病院の検査で、まりさが人間ではないことが発覚し、”ゆっくりの病院”に搬送されたのでした。
それが”ケンくんのお父さんの病院”だったのです。
そして、運ばれてきたまりさが、”あのまりさ”だと気付いたケンくんが、
目が覚めるまでつきっきりで看病してくれていたのです。
事情を説明し終わった後、ケンくんのお父さんが笑いながら言いました。
「しかしまぁ、ずいぶんかわいいゆっくりちゃんだなぁ、これはケンが惚れるわけだ」
お父さんがそう言うと、ケンくんは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまいます。
「そんなんじゃないよ!でもまりさ、本当によかった、もう二度と会えないと思ってたよ」
ケンくんがまりさの手を握って、言いました。
「もう絶対にどっかにいったりするなよ、まりさはもう”うちの子”なんだからな!」
「ゆゆっ!?ほんとう?ほんとうにいいの?」
まりさは嬉しさのあまり困ってしまいます、それはまりさがとうにあきらめたはずの、幸せなもう一つの未来でした。
「もちろんさ!」
ケンくんが笑顔でいいました。
「うちにも、キミみたいなかわいいマスコットがいれば、お客さんがいっぱいきてくれるかもしれないね、
そうじゃなくても、大歓迎さ、いいだろう?母さん」
ケンくんのお父さんが、後ろの扉に向って声をかけます。
するとケンくんのお母さんが、ひょっこりと顔をだして、まりさの元にやってきました。
「いやぁ、私は最初は反対だったんだけど、まさかこんな可愛い子だったなんて…
私、こんな可愛い娘もほしかったのよね、ケンなんかよりかわいがっちゃうもんね~」
ケンくんのお母さんは、デレデレとしただらしない顔になって、まりさの頭をなでまわしました。
「ゆ…ゆゆっ!」
三人の笑顔に囲まれて、まりさはゆっくりとほほ笑みました。
それはまりさが家族と別れてから見せる、久し振りの本当の笑顔でした。
だけどケンくんは、まりさの顔を見て、いいました。
「あ、だめじゃないかまりさ」
ケンくんはまりさの右目を指さして言います。
「右目、見えるはずだろう?もう一度僕に見せてくれよ、あの綺麗な”赤い目”」
「ゆ…でも…」
まりさは困ってしまいます。
あの右目が見えなくなってしまった日のことを、まだケンくんにはいっていませんでした。
その様子をみて、ケンくんはゆっくりとほほ笑みます。
そして言いました。
「大丈夫だって、言っただろう、さぁまりさ、僕を信じて…」
ケンくんが魔法の言葉を唱えます。
それだけでまりさは、心の底から勇気が湧いてくる思いでした。
そしてケンくんがまりさの右瞼を優しく指でなでます。
ゆっくりと、ゆっくりとまりさが右瞼をあけます。
まりさの”真っ赤な右目さん”には確かに、とっても明るい、幸せな未来が映っていました。
おわり
-------------------------------------
---おまけ…まりさのひみつにっき---
○がつ○にち、はれ
きょうはまりさのしんっじんっなーすさんのでびゅーのひだったよ!
おとーさんのびょういんさんには、まいにち、おけがをしたり、
びょーきさんのゆっくりがいっぱいくるよ!
でもまりさは”とくべつなゆっくり”だから、しょにちさんからだいかつやく!
けんくんじきでんの、まほーのことばで、みんなあっというまにえがおさんになりました!
おしごとがおわったら、けんくんといっしょにおかいものにいきました。
しばらくあわないうちに、まりさはけんくんよりほんのちょっとせがのびていました。
まりさのほうがおねーさんみたいだよ!
でも、きっとけんくんはすぐにまりさよりおっきくなるとおもいます!
かたさんをならべておさんぽできるのは、いつまでかなぁ。
けんくんはいっつもてれておててをつないでくれないけど、
いつかおっきくなったけんくんにおひめさまだっこしてもらいたいな!
けんくんは、”とくべつなゆっくり”のまりさの”とくべつなそんざい”だよ!
おしまい。
-------------------------------------
スペシャルサンクス:ぷにあきさん
あとがき
いかがでしたでしょうか。
このSSを書くきっかけとなったぷにあきさんのイラストは
ふたば系ゆっくりR-18ろだ
ttp://loda.jp/otaku_13854/?gal=1
の 1.jpg と 2.jpg の二つです。
うまく文の中に表現できていたでしょうか。
幼いまりさを取り巻く環境をえがくために、あえて文全体を『ですます調』にしてみました。
読みにくく感じてしまったら、申し訳ありません。
かなり妄想駄文を書きなぐってしまったので
ぷにあきさんがイメージしていたものと大分違うかと思いますが、どうかご容赦ください。
胴つきまりさへの愛がこういった結果を招いてしまったのです(笑
ご意見、ご感想などあれば
ふたば系ゆっくりSS感想用掲示板(単独作品用)
に、
ばや汁あき(仮 とくべつ anko1829 anko1830 というスレをたててみましたので、出来ればそちらにお願いいたします。
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13856/1276714275/
以下蛇足
*本編に出てきた登場人物とは一切関係ありません。
~おませなまりさとお兄さんの日常~
「ふぅ~、すっきりすっきり」
トイレから出て、部屋に戻ろうとするお兄さんに、
物陰から二つのまんまるなおめめがジットリとした視線をぶつけていました。
「お…おにいさんったら…まりさというものがありながら”ひとりすっきり”だなんて!」
まりさは部屋に入ったお兄さんを追いかけます。
お兄さんがゆっくりと部屋でくつろいでいると、
小さなほっぺをぷくーっとふくらませたまりさがすぐに部屋に入ってきました。
「まりさ、どうした?」
まりさはまゆげさんをキッと吊り上げて、お兄さんを睨みつけます。
「おにいさん、ちょっとそこにすわってね!」
と、いってもお兄さんはすでに床に座ってくつろいでいるところでした。
「ん?なにかあったのかな?」
お兄さんはまりさにやさしく微笑みかけます。
「おにいさんが、まりさというものがありながらあんなことするからだよ!
これはおしっおきっだよ!」
そういうとまりさは、おにいさんの元に駆け寄り、お兄さんのほっぺたに自分のほっぺをくっつけます。
「まりさのみりょっくっさんにもういちどきづかせてあげるよ!」
そしてまりさは合わせたほほをゆっくりと左右にこすりつけました。
「すーりすーり!」
まりさのぷにぷにのほっぺたの感触に、お兄さんはたまらず声をあげます。
「あはは、どうしたんだよまりさ」
「どう!?きもちいーでしょ?」
「たしかに、きもちいいな、まりさのぷにぷにのほっぺ」
単なるスキンシップと勘違いしたお兄さんは、まりさを軽く抱きしめ、
まりさのすーりすーりに合わせてほほをすりよせました。
「ゆゆっ!?おにいさんだいったんっだよ!だめだよ!まりさ、このままじゃ!」
「そーれ、すりすり~」
お兄さんは無邪気にまりさに頬をすりつけ続けます。
「す…す…すっきりー!!」
まりさはぶるぶるっと体を震わせると、体から力を抜いて、お兄さんの腕の中にくたりと身を預けてしまいました。
「も、もう…おにいさん…えっちすぎるよ…」
お兄さんはまりさが何をいっているのかよくわかりませんでした。
「ん~…なんだかよくわからないけど、よしよし」
お兄さんはやさしくまりさの頭をなでなでします。
その手の感触に、まりさがビクリっと体を震わせます。
「だめだよおにいさん、まりさいっちゃったばっかりなんだからね、でりけぇとさんなんだよ!」
(ゆふふ、これでおにーさんはまりさのみりょっくっさんにめーろめーろだね!)
「おにーさん、もう”ひとりすっきり”なんてしちゃだめだからね!」
一人でよくわからないことを訴えるまりさの頭を、お兄さんはとりあえず優しくなで続けました。
「はいはい、ゆっくりゆっくり」
おしっまいっだよ!
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ぷにあきさんのおませなまりさを見るとどうしてもこんな妄想が止まりません、なんとかしてください。
これでほんとにおわりです、長々とお付き合いありがとうございました~
今までの作品
anko1748 かみさま
ばや汁あき(仮)でした。