タバサは母親の居室の扉に手をかけた。
ぎい、と音を立てて扉が開いていく。
ぎい、と音を立てて扉が開いていく。
ベッドの上には母の姿はない。代わりに、男が一人、部屋の中央に立っていた。
タバサは男の姿を見て、はっと息を飲む。
タバサは男の姿を見て、はっと息を飲む。
目の周りと鼻筋を彩る、顔に施された赤い刺青。背負い紐のついた木箱、異国風の青い着物。
なによりも、長い髪をまとめる紫の布を巻いた下に覗く、二つのとがった耳――
なによりも、長い髪をまとめる紫の布を巻いた下に覗く、二つのとがった耳――
(エルフ……!)
タバサは戦慄した。
はるか東方の地に住むエルフは強力な先住魔法の使い手にして、恐るべき戦士である。
冷や汗がながれる。それでもタバサは凛と声を張って問うた。
はるか東方の地に住むエルフは強力な先住魔法の使い手にして、恐るべき戦士である。
冷や汗がながれる。それでもタバサは凛と声を張って問うた。
「母をどこへやったの?」
「……はて、母?」
男は芝居がかった仕草で、こき、と首を傾げる。その様子に敵意は感じられないが、少しずつタバサの頭に血が上っていく。
タバサは語気を強めた。
タバサは語気を強めた。
「母をどこへやったの?」
ああ、と男は手を打った。そして、ゆっくりと傍らのベッドを振り返る。
「こちらの布団で寝ていた女性……ですか、ね」
「答えて」
「答えて」
こちらをからかうような男の様子に、杖を握るタバサの手に力がぎゅっと入る。
相手はエルフだ。系統魔法と違い、先住魔法を操るエルフは、タバサにとって底の読めない嫌な相手であった。
相手はエルフだ。系統魔法と違い、先住魔法を操るエルフは、タバサにとって底の読めない嫌な相手であった。
「さぁて、このとおり……わたしは、ただの薬売りですから、ね」
「……そう」
「……そう」
なら用はない、と言わんばかりにタバサは『ウィンディ・アイシクル』の呪文を唱える。
水の二乗、風の二乗。スクウェア・クラスの威力をそなえた氷の矢が男目掛けて飛ぼうとした。
水の二乗、風の二乗。スクウェア・クラスの威力をそなえた氷の矢が男目掛けて飛ぼうとした。
しかし――
「やれ、やれ」
さっと男が手の平をタバサに向けた。と、パタパタパタパタと音を立てて、その手に持っていた札が見る間に広がり、タバサと男の間に壁を作る。
(なに……?)
タバサの『ウィンディ・アイシクル』が札の壁に当たる瞬間、札に赤い文字が浮かび上がった。
次の瞬間には、タバサが放った氷の矢は霧散していた。
男は余裕の表情で、じっとタバサを見つめてくる。
次の瞬間には、タバサが放った氷の矢は霧散していた。
男は余裕の表情で、じっとタバサを見つめてくる。
「あなたの母君は、長く心を失っていらっしゃった。どうやらこれは……モノノ怪のしわざだと、わたしは思っているんですよ」
「いや、それはガリア王が」
タバサの突っ込みを流しつつ、男は言葉を続ける。
「よってモノノ怪を斬れば、あなたの母上も無事に記憶を取り戻す……!」
「いや、だからガリア王が」
どうやら聞いていないようだ。
「退魔の剣を抜くには条件がある! 形と真と理の三つが揃わなければ、退魔の剣は抜けぬ。
モノノ怪の形をなすのは人の因果と縁。真とは事の有様。理とは心の有様……」
モノノ怪の形をなすのは人の因果と縁。真とは事の有様。理とは心の有様……」
さっと男は柄に鬼の頭の装飾がある剣をかざす。シャラーン、と男が右手に持った天秤が鈴の音を響かせた。
「よって皆皆様の、真と理……お聞かせ願いたく候……!」
(困った……)
はてさて……このズレたエルフをどうしたものかと、タバサは首を捻ったのだった。
(『モノノ怪』の薬売りの男)