さて、授業前という事もあり、二人の討論は思いの外早く終わった。途中当麻も少し巻き込まれたが、これも一つの不幸として割り切る事が出来てしまう。
授業が始まったのはいいが、この授業の先生――ミスタ・ギトーは、生徒に不評であった。
自慢ばかりしかしないと言うべきなのか、開始早々、
「最強の系統は『風』である」と、自分の系統は最強発言をしてしまう。
それを実証するかのように、キュルケを挑発した。
それに乗ったキュルケは火の魔法を放ったが、ギトーは風の魔法でそれを打ち消し、尚且つ攻撃を与えるという実演を見せた。
正直当麻自身もこればっかりはやる気が起きない。と言っても今は自然回復に身を預けるので精一杯なのだが。
と、何やら新しい呪文をギトーは唱え始めた。どうやら、まだ自慢し足りないようだ。
「ユビキタス・デル・ウィンデ……」
低い声で呪文を紡ぐ。当麻やルイズは昨日の疲れもあってか、小さなあくびをしながら目をやる。
しかしそのとき、教室の扉が勢いよく開き、普段とは違う緊張した顔のミスタ・コルベールが現れた。
教室にいた全員の視線が向けられ、目を丸くした。頭には、ロールした金髪のカツラを被っている。さらには、ローブの胸にはレースの飾りや刺繍やらが添えられている。
どう考えても女装だ。理由は誰一人わからず、また理解しようとしない。
「ミスタ?」
突然の来訪者にギトーが眉をひそめた。コルベールはギトーの言葉に意識を取り戻したのか、いきなり慌てた。
「あややや、ミスタ・ギトー! 失礼しますぞ!」
「授業中ですぞ?」
対象的に、至って冷静なギトーは短く述べて、コルベールを睨む。
「おっほん。今日の授業はすべて中止であります!」
おおおぉぉぉ!! と逆転満塁サヨナラホームランが決まった野球場みたいな歓声が教室という小さな空間に響き渡る。
その大轟音にコルベールは一瞬のけ反る。その拍子に、頭に被っていたカツラがとれて、ポテッと床に落ちた。ギトーの自慢話のせいで作られた重苦しい空気が、一気にほぐれた。
教室中がくすくす笑いに包まれる。
なるほどっ、あれは伏線だったのか! と、当麻は一人納得してたりする。
すると、一番前に座ったタバサが、コルベールのピカーと輝きそうなハゲ頭を指差して、ぽつりと呟いた。
授業が始まったのはいいが、この授業の先生――ミスタ・ギトーは、生徒に不評であった。
自慢ばかりしかしないと言うべきなのか、開始早々、
「最強の系統は『風』である」と、自分の系統は最強発言をしてしまう。
それを実証するかのように、キュルケを挑発した。
それに乗ったキュルケは火の魔法を放ったが、ギトーは風の魔法でそれを打ち消し、尚且つ攻撃を与えるという実演を見せた。
正直当麻自身もこればっかりはやる気が起きない。と言っても今は自然回復に身を預けるので精一杯なのだが。
と、何やら新しい呪文をギトーは唱え始めた。どうやら、まだ自慢し足りないようだ。
「ユビキタス・デル・ウィンデ……」
低い声で呪文を紡ぐ。当麻やルイズは昨日の疲れもあってか、小さなあくびをしながら目をやる。
しかしそのとき、教室の扉が勢いよく開き、普段とは違う緊張した顔のミスタ・コルベールが現れた。
教室にいた全員の視線が向けられ、目を丸くした。頭には、ロールした金髪のカツラを被っている。さらには、ローブの胸にはレースの飾りや刺繍やらが添えられている。
どう考えても女装だ。理由は誰一人わからず、また理解しようとしない。
「ミスタ?」
突然の来訪者にギトーが眉をひそめた。コルベールはギトーの言葉に意識を取り戻したのか、いきなり慌てた。
「あややや、ミスタ・ギトー! 失礼しますぞ!」
「授業中ですぞ?」
対象的に、至って冷静なギトーは短く述べて、コルベールを睨む。
「おっほん。今日の授業はすべて中止であります!」
おおおぉぉぉ!! と逆転満塁サヨナラホームランが決まった野球場みたいな歓声が教室という小さな空間に響き渡る。
その大轟音にコルベールは一瞬のけ反る。その拍子に、頭に被っていたカツラがとれて、ポテッと床に落ちた。ギトーの自慢話のせいで作られた重苦しい空気が、一気にほぐれた。
教室中がくすくす笑いに包まれる。
なるほどっ、あれは伏線だったのか! と、当麻は一人納得してたりする。
すると、一番前に座ったタバサが、コルベールのピカーと輝きそうなハゲ頭を指差して、ぽつりと呟いた。
「滑りやすい」
ドッ、と教室が爆笑に包まれた。皆腹をくの字に曲げて、これでもかというぐらい笑い出す。
「あなた、たまに口を開くと言うわね」
キュルケが笑いながらタバサの肩をぽんぽんと叩く。叩かれたタバサは気にせずいつもの表情で再び黙りこむ。
コルベールは顔を真っ赤にし、怒りの表情をあらわにしながら教室一帯に怒鳴った。
「ええい! 黙りなさいこわっぱどもが! 大口を開けて下品に笑うとは貴族にあるまじき行い! 貴族はおかしいときは下を向いてこっそり笑うものですぞ! これでは王室に教育の成果が疑われる!」
あれ、じゃあ俺はまだ笑っていいのか? と問う当麻にルイズが一発殴る。
その衝撃音を境に、教室中が静かになった。コルベールは満足したのか、笑みを浮かべる。
「えーおほん。皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとってよき日であります。始祖ブリミルの降臨祭に並ぶ、めでたい日であります。」
ちなみにギトーはちゃんとまだ残っています。忘れられてはいるが。
「恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます」
コルベールの発言に、教室がざわめく。当麻も、何となく凄いんだなぁというぐらいに感じていた。
「したがって、粗相があってはいけません。急なことですが、今から全力を挙げて、歓迎式典の準備を行います。そのために本日の授業は中止、生徒諸君は正装し、門に整列すること」
生徒達は先ほどとは違い、緊張した面持ちになると一斉に頷いた。ミスタ・コルベールはうんうんと重々しげに頷くと、目を見開いて怒鳴った。
「諸君が立派な貴族に成長したことを、姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ! 御覚えがよろしくなるように、しっかりと杖を磨いておきなさい! よろしいですかな!」
ドッ、と教室が爆笑に包まれた。皆腹をくの字に曲げて、これでもかというぐらい笑い出す。
「あなた、たまに口を開くと言うわね」
キュルケが笑いながらタバサの肩をぽんぽんと叩く。叩かれたタバサは気にせずいつもの表情で再び黙りこむ。
コルベールは顔を真っ赤にし、怒りの表情をあらわにしながら教室一帯に怒鳴った。
「ええい! 黙りなさいこわっぱどもが! 大口を開けて下品に笑うとは貴族にあるまじき行い! 貴族はおかしいときは下を向いてこっそり笑うものですぞ! これでは王室に教育の成果が疑われる!」
あれ、じゃあ俺はまだ笑っていいのか? と問う当麻にルイズが一発殴る。
その衝撃音を境に、教室中が静かになった。コルベールは満足したのか、笑みを浮かべる。
「えーおほん。皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとってよき日であります。始祖ブリミルの降臨祭に並ぶ、めでたい日であります。」
ちなみにギトーはちゃんとまだ残っています。忘れられてはいるが。
「恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます」
コルベールの発言に、教室がざわめく。当麻も、何となく凄いんだなぁというぐらいに感じていた。
「したがって、粗相があってはいけません。急なことですが、今から全力を挙げて、歓迎式典の準備を行います。そのために本日の授業は中止、生徒諸君は正装し、門に整列すること」
生徒達は先ほどとは違い、緊張した面持ちになると一斉に頷いた。ミスタ・コルベールはうんうんと重々しげに頷くと、目を見開いて怒鳴った。
「諸君が立派な貴族に成長したことを、姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ! 御覚えがよろしくなるように、しっかりと杖を磨いておきなさい! よろしいですかな!」
王女の一行が、この魔法学院の正門をくぐった時、既に生徒達は整列していた。
しゃん! と一斉に杖を振った音がうまく重なり、喜びの挨拶を王女に伝える。
馬車が止まり、オスマン氏が代表者として迎える。召使達が駆け寄り、緋毛氈のじゅうたんを素早く敷き詰めた。
しゃん! と一斉に杖を振った音がうまく重なり、喜びの挨拶を王女に伝える。
馬車が止まり、オスマン氏が代表者として迎える。召使達が駆け寄り、緋毛氈のじゅうたんを素早く敷き詰めた。
「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなー――――りー――――ッ!」
呼び出しの衛士が、いかにも緊張してますといった雰囲気で、王女の登場を告げる。
しかし、がちゃりと開いた扉から現れたのは、枢機卿のマザリーニであった。
あまり人気がない人である為、生徒達は一斉に鼻を鳴らした。いやはや、こいつらのシンクロ度はすごいなーと場違いな考えをしている当麻。
しかし、マザリーニは全く気にするそぶりを見せず、続いて降りてくる王女の手を取った。
生徒の間から歓声が沸き上がる。
王女はにっこりと、男性の心を一発で掴んでしまうぐらいの微笑を浮かべると、優雅に手を振った。
「あれがトリステインの王女ねぇ……。ふん、あたしの方が美人じゃないの」
髪をかきあげて、つまらなそうに呟く。
「ねえ、ダーリンはどっちが綺麗だと思う?」
「さぁ? 俺にはよくわからないよ」
「えー、決めてよ。ねぇどっち?」
適当にキュルケの質問を受け流しながらも、当麻はルイズの方を観察していた。
王女の事を真面目に見ていた顔が、いきなり赤く染まったのだ。
どうしたんだ? と、首をルイズの視線の先を向ける。
そこには、見事な羽帽子を被った、凛々しい貴族の姿があった。鷲の頭と獅子の胴体を持った、見事な幻獣に跨がっている。
ルイズはボケーッ、とただ見つめていた。
知り合いかな? と唐突に思った当麻は、隣で座って本を広げているタバサが目に入る。
「いつも通りだな」
「あなたも」
タバサは短く返事をした。
呼び出しの衛士が、いかにも緊張してますといった雰囲気で、王女の登場を告げる。
しかし、がちゃりと開いた扉から現れたのは、枢機卿のマザリーニであった。
あまり人気がない人である為、生徒達は一斉に鼻を鳴らした。いやはや、こいつらのシンクロ度はすごいなーと場違いな考えをしている当麻。
しかし、マザリーニは全く気にするそぶりを見せず、続いて降りてくる王女の手を取った。
生徒の間から歓声が沸き上がる。
王女はにっこりと、男性の心を一発で掴んでしまうぐらいの微笑を浮かべると、優雅に手を振った。
「あれがトリステインの王女ねぇ……。ふん、あたしの方が美人じゃないの」
髪をかきあげて、つまらなそうに呟く。
「ねえ、ダーリンはどっちが綺麗だと思う?」
「さぁ? 俺にはよくわからないよ」
「えー、決めてよ。ねぇどっち?」
適当にキュルケの質問を受け流しながらも、当麻はルイズの方を観察していた。
王女の事を真面目に見ていた顔が、いきなり赤く染まったのだ。
どうしたんだ? と、首をルイズの視線の先を向ける。
そこには、見事な羽帽子を被った、凛々しい貴族の姿があった。鷲の頭と獅子の胴体を持った、見事な幻獣に跨がっている。
ルイズはボケーッ、とただ見つめていた。
知り合いかな? と唐突に思った当麻は、隣で座って本を広げているタバサが目に入る。
「いつも通りだな」
「あなたも」
タバサは短く返事をした。
その日の夜……。
当麻は困っていた。
ルイズの様子が変である。立ち上がったり、ベッドに腰掛けたり、枕を抱いたりと、とにかく落ち着きがない。昼間、あの凛々しい貴族を見てからずっとこうだ。
恋心がわからない当麻は、ルイズがおかしくなったのでは? と思うしかなかった。
「おーいルイズ」
呼び掛けても、目の前で手を振っても、肩を突いても、返事をしない。ずっと、ぼんやりとしている。
別にこうなってても、なんら当麻には問題ないのだが、やっぱり少し気になってしまう。
どうしようかなー、と思っていると、不意にドアがノックされた。
ん? と当麻の視線がドアへと向けられる。
ノックは規則正しく叩かれた。初めに長く二回、それから短く三回……。
その音にルイズの顔に生気が宿る。
トテテテ、という擬音が合うように小走りで扉へ向かうと、ドアを開いた。
そこに立っていたのは、真っ黒な頭巾をすっぽりと被った少女であった。
キョロキョロと辺りを伺い、誰もいない事を確認した後、ささっと部屋に入ってくる。もちろん扉を閉めるのも忘れず。
「……あな――」
ルイズが驚いたような声をあげる前に、少女がしっと口元に指を立てた。それから、漆黒のマントの隙間から、魔法の杖を取り出し、軽く振る。振りながら、ルーンを呟く。
光の粉が、部屋に漂う。
「……ディティクトマジック?」
「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」
二人が話している間、当麻は右手をシャツの内側に隠す。触れてはマズイと感じたからだ。
部屋のどこにも監視されている部分がないことを確認すると、少女は頭巾を取った。
「姫殿下!」
「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」
先ほど手を振っていた王女が現れて、当麻は思わず一歩後ろに下がっていた。
当麻は困っていた。
ルイズの様子が変である。立ち上がったり、ベッドに腰掛けたり、枕を抱いたりと、とにかく落ち着きがない。昼間、あの凛々しい貴族を見てからずっとこうだ。
恋心がわからない当麻は、ルイズがおかしくなったのでは? と思うしかなかった。
「おーいルイズ」
呼び掛けても、目の前で手を振っても、肩を突いても、返事をしない。ずっと、ぼんやりとしている。
別にこうなってても、なんら当麻には問題ないのだが、やっぱり少し気になってしまう。
どうしようかなー、と思っていると、不意にドアがノックされた。
ん? と当麻の視線がドアへと向けられる。
ノックは規則正しく叩かれた。初めに長く二回、それから短く三回……。
その音にルイズの顔に生気が宿る。
トテテテ、という擬音が合うように小走りで扉へ向かうと、ドアを開いた。
そこに立っていたのは、真っ黒な頭巾をすっぽりと被った少女であった。
キョロキョロと辺りを伺い、誰もいない事を確認した後、ささっと部屋に入ってくる。もちろん扉を閉めるのも忘れず。
「……あな――」
ルイズが驚いたような声をあげる前に、少女がしっと口元に指を立てた。それから、漆黒のマントの隙間から、魔法の杖を取り出し、軽く振る。振りながら、ルーンを呟く。
光の粉が、部屋に漂う。
「……ディティクトマジック?」
「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」
二人が話している間、当麻は右手をシャツの内側に隠す。触れてはマズイと感じたからだ。
部屋のどこにも監視されている部分がないことを確認すると、少女は頭巾を取った。
「姫殿下!」
「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」
先ほど手を振っていた王女が現れて、当麻は思わず一歩後ろに下がっていた。