2020年8月16日
「フランス・ミステリ」を特集した探偵小説研究会の機関誌『CRITICA』第15号[summer 2020](2020年8月13日発行)で、当サイトにご言及いただきました。ありがとうございます。
ただ、当サイト内のフランスミステリ関連情報は、どこにどの情報があるのか、いまいちまとまっておりません。そこでこの機会に、当サイト内のフランスミステリ関連情報の一覧を作成しておくことにいたしました。
当サイトは頻繁に更新していたのは2015年の夏ごろまでで、それ以降はあまり情報を更新できていません。今回、更新・整理のきっかけを作ってくださったことに感謝いたします。
- 『CRITICA』第15号で当サイト(及び筆者が実施した企画)に言及してくださった論考
- 横井司氏「ささやかな読書量でフランス・ミステリの十傑を選んでみよう」
- 嵩平何(たかひら なに)氏「フランスミステリの紹介者たち」
Index
2014年の企画「フランスミステリベスト100」関連
- Webサイト「翻訳ミステリー大賞シンジケート」に寄稿したもの
- 実施要項
- 「書影付き」順位発表 ※ただし書影はamazonにデータがあるもののみ
フランスミステリベスト100概要
2014年7月17日、当時筆者がWebサイト「翻訳ミステリー大賞シンジケート」で月一回の連載をしていた「
非英語圏ミステリー賞あ・ら・かると」の記事内で
実施予告。7月31日、「翻訳ミステリー大賞シンジケート」で
実施要項公開。同日21時より8月12日24時までの約2週間弱のあいだ、Twitterにてアンケート回答を募った(ハッシュタグ
#ATB仏ミス)。1人最大10作品まで(順位はつけてもつけなくてもよい)。高名な小説家や評論家、翻訳家のかたも含め、締切の8月12日までに67名の方から投票をいただき、翌8月13日に予定通りTwitterにて結果を発表した。
実施要項の公開などで「翻訳ミステリー大賞シンジケート」の場をお借りしたが、企画・主催者は筆者(=松川)個人であり、実施要項の策定や集計・発表も筆者が個人でおこなったものである。
なお、このアンケート企画の結果をフランスの人にも見つけてもらえたらいいなという思いで、拙いフランス語と英語で
欧米向けページを作ったところ、実施半年後の2015年2月になってフランスのミステリ専門図書館「BILIPO」のFacebookアカウントにより捕捉され、
「日本の読者が一番好きなフランスミステリはピエール・シニアックの『ウサギ料理は殺しの味』」という情報がフランス中に拡散され(てしまっ)たようである。(
該当のFacebook記事)
さて、本ページは本来、当サイト内に分散している「フランスミステリ関連情報」にアクセスしやすくするため、単にページの一覧(羅列)を作成して終えるつもりだった。ただ、2014年に筆者が実施したアンケート企画「
フランスミステリベスト100」に関しては、2020年現在と当時(6年前)の状況の違いを踏まえた解説を新たに書いておく必要があると考え、以下に記しておく。
2020年の日本におけるフランスミステリの《位置》と、2014年の企画「フランスミステリベスト100」の背景
2020年現在でこそ、フランスミステリは集英社文庫やハヤカワ・ミステリ(いわゆる「ポケミス」)などで毎年ある程度の点数が翻訳出版され、そのなかで注目を集め、ミステリの年間ベスト10にランクインするような作品もある。今年度(2019年11月以降)でいえば、集英社文庫のギヨーム・ミュッソ
『パリのアパルトマン』(吉田恒雄訳、2019年11月)および
『作家の秘められた人生』(吉田恒雄訳、2020年9月予定)、ポケミスのエルザ・マルポ
『念入りに殺された男』(加藤かおり訳、2020年6月)、ジャン=クリストフ・グランジェ
『ブラック・ハンター』(平岡敦訳、2020年9月予定)、ほかにベルナール・ミニエ
『魔女の組曲』(上下巻、坂田雪子訳、〈ハーパーBOOKS〉ハーパーコリンズ・ジャパン、2020年1月)などが刊行され、(来月刊行予定の2点はまだ分からないが)どの作品も高い評価を得ている(タイトルのリンク先はすべて、「翻訳ミステリー大賞シンジケート」内「
書評七福神の今月の一冊」の該当月のページ)。
しかしこのアンケート企画を実施した2014年7~8月当時はフランスミステリの邦訳がほとんどなくなっていた時期であった。フランスミステリは日本では1970年代までは盛んに訳されていたものの、その後は急激に翻訳点数が少なくなっている
*1。
2014年当時の日本の若いミステリ読者にとって《フランスミステリ》とは、ごく一部の語り継がれる名作を除き、「過去に大量に訳されているらしいので読もうと思えば読めるけど、そもそもどんなものが訳されているか分からないし、入手困難なものも多いようだし、どの作品から手を付けていいかも分からない」ものだったといっていいだろう。
なお当サイトでは、「どんなものが訳されているか分からない」という状況を打破するため、2012年に「
ポケミス非英語圏作品一覧」と「
創元推理文庫海外ミステリ非英語圏作品一覧」、2013年に「
ハヤカワ・ミステリ文庫非英語圏作品一覧」を公開した。「非英語圏作品一覧」といっても、実質的にはフランスミステリがリストのほとんどを占めていたわけである。
*1
+
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ポケミスで見るフランスミステリの刊行点数(クリックで展開) |
ポケミス(1953年9月創刊)でのフランスミステリの刊行点数は、1950年代が20点、1960年代が31点、1970年代が35点であったのに対し、1980年代前半は8点、1980年代後半は1点(フランソワ・ラントラード『バルザック刑事と女捜査官』高野優訳、1989年8月)、1990年代は10年間でたった1点(ロジェ・ラブリュス『罪深き村の犯罪』高野優訳、1991年8月)である。ポケミスではその後、ポール・アルテ『第四の扉』(平岡敦訳)が2002年5月に刊行されるまで、実に10年以上もフランスミステリの刊行がなかった。
つまり見方を変えれば、1985年1月~2002年4月の約17年間で、ポケミスではフランスミステリが2点しか刊行されなかったということである。(もっとも、ポケミスの刊行ペース自体が年代によって異なることにも留意する必要があるし、ポケミスだけで日本におけるフランスミステリの隆盛を判断するのも無理がある)
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『ミステリマガジン』2003年7月号に「
フランス・ミステリ必読30冊」(選者の記載なし/レビュー:小木曽郷平、香川勇人、川出正樹、不来方優亜、杉江松恋、南波雅、羽取慶治、福井健太、古山裕樹、村上貴史、与儀明子)が載っているが、雑誌のバックナンバーを入手または閲覧するのは必ずしも容易ではない。2012年に新版が出た『東西ミステリーベスト100』(『週刊文春』臨時増刊号 文藝春秋 / 2013年文春文庫)のように書店に行けばすぐに入手できるものではないのである。つまり2014年当時、フランスミステリを読む「指針」になるようなものはほぼ存在しなかったといっても過言ではないだろう。むろん、その「未知の沃野」へと徒手空拳で挑んでいくことこそ読書の醍醐味ではないかと考える読者も多いのではないかと思うが、個人的には、過去に邦訳された膨大なフランスミステリを読むための、なんらかの「指針」がほしいと思ったのも事実である。筆者は2012年版『東西ミステリーベスト100』を発売日の2012年11月21日に購入したが、その翌日、以下のようにツイートした。
2014年に実施した「
フランスミステリベスト100」は、約1年8か月を経てこれを自分で実現した形であった。なお、上に引用したツイートにすぐさまリプライをくださったのは、探偵小説研究会の一員(当時および現在)である
千街晶之氏であった。千街氏のリプライを以下に引用する。
これはまさに慧眼としかいいようがない(千街氏は、当時も今も、筆者が最も信頼しているミステリ評論家のひとりである)。実際、2014年に実施した「
フランスミステリベスト100」では、おおかたの予想を裏切り、ピエール・シニアックの怪作『ウサギ料理は殺しの味』が1位を掻っ攫ったのである(ルルーは3位、ジャプリゾは5位)。
このアンケート企画を実施した2014年当時、筆者は特にフランスミステリに詳しかったわけでも、たくさん読んでいたわけでもなかった。むろん、投票するに際してそれなりの冊数をまとめて読んだわけだが、「
フランスミステリベスト100」は、そんなフランスミステリの初心者だった筆者が、「かつて邦訳されたフランスミステリ」について、どの作品がお薦めなのか、どの作品から手に取っていけばいいのか、なんらかの指針が作れないものかと思って実施したものである。
なお、「
フランスミステリベスト100」の結果発表の約3週間後、文春文庫から
ピエール・ルメートル『その女アレックス』(橘明美訳)が刊行されて大ベストセラーとなり、以降、日本でのフランスミステリの翻訳出版状況は一変することとなった。集英社文庫からは
エルヴェ・コメール、
ミシェル・ビュッシら、新たなフランスのミステリ作家の紹介が続き、また《その女アレックス以前》に紹介されていた
ポール・アルテや
ジャン=クリストフ・グランジェらの作品の邦訳も再開され、まさに日本における《フランスミステリ
再興》の様相を呈するようになったのである。
*2 *3
*2=集英社の果たした役割/なぜ『その女アレックス』というヒット作が「潮流」の起点になり得たか【2020年8月17日追記】
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もっとも、エルヴェ・コメールの初訳作品『悪意の波紋』(山口羊子訳、集英社文庫)が刊行されたのは2015年3月、つまり《その女アレックス以後》ではあるが、この作品の刊行は2012年12月刊の『このミステリーがすごい! 2013年版』に掲載された「我が社の隠し玉」で、『水の波紋』としてすでに予告されている。日本の翻訳ミステリ界が『その女アレックス』旋風に沸く中で、集英社の編集部がそれに続けとばかりに版権を取ったわけではないということである。また、ミシェル・ビュッシの初訳作品『彼女のいない飛行機』(平岡敦訳)は2015年8月に刊行されている。これもおそらくは、『その女アレックス』旋風以前に版権を取得したものだろう。
つまり、2014年以降の《フランスミステリ再興》は『その女アレックス』が一つの起爆剤となったとはいえるだろうが、それがピエール・ルメートルという作家の単発の人気で終わらず「フランスミステリ復権」へのひとつの流れとなったのは、時間的にはあとになったが、集英社文庫の支えがあったからこそだといえるだろう。集英社文庫が「点」を「線」に、あるいは「局所的爆発」を「一つの潮流」に変えたのである。
そもそも、『その女アレックス』を出版した文藝春秋は、ほかのフランス作家のミステリを続けて刊行したりはしていない。その点からみても、2008年に邦訳出版が始まった《ミレニアム》シリーズに端を発する北欧ミステリ・ブームや、2011年に邦訳されたフェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』を契機とするドイツ語圏ミステリ・ブームと、2014年からの日本における《フランスミステリ再興》はかなり質の違うものである。北欧ミステリ・ブームとドイツ語圏ミステリ・ブームにもまた明確な差異があるが、この3つの違いについては時間があれば改めて述べたい。
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*3=ポール・アルテの復活/《フランスミステリ再興》の成立過程【2020年8月17日追記】
(※注3は注2の内容を前提に書いたものです)
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ポール・アルテの邦訳が再開されたことも、『その女アレックス』のヒットとは関係がない。ポール・アルテは2002年から2010年にかけて、ポケミスで平岡敦氏の訳で9冊が刊行されたが、2010年10月の『殺す手紙』を最後に邦訳が止まっていた(短編の邦訳が『ミステリマガジン』に載ったことはあった)。そして2018年7月、福岡の小出版社・行舟文化(ぎょうしゅうぶんか)から、『あやかしの裏通り』を皮切りに、同じ平岡敦氏の訳で、日本では未紹介だった《名探偵オーウェン・バーンズ》シリーズの翻訳出版が開始された。この「アルテ復活」は、本格ミステリマニアで日本語も堪能なある福岡在住の中国人夫婦のミステリ愛と行動力によって実現したものである。筆者が知っている限りで、ざっと経緯を書いておく。(前にTwitterで書いたこともある)
その福岡在住の中国人夫婦というのは、麻耶雄嵩作品や三津田信三作品の中国語訳を手掛け、霜月蒼『アガサ・クリスティー完全攻略』や権田萬治『謎と恐怖の楽園で』などの評論書の中国語訳もおこない、さらには自ら推理小説も上梓しており、またミステリ賞の審査員として陸秋槎らを発掘した張舟(ちょう しゅう)氏のことである(公開されていることだが、夫妻2人の筆名である)。
筆者が張舟氏から、なぜ日本ではポール・アルテの翻訳が出なくなったのかを尋ねられたのは、2016年6月のことだったと思う。東京で本格ミステリ大賞受賞者のトークショー&サイン会が開催され、張舟氏はこれに申し込んで上京してきていたのである。
筆者はそれ以前に、平岡敦氏が雑誌でポール・アルテをまた訳したい旨書いていたことを覚えていたし(『ミステリマガジン』2013年11月号[ポケミス60周年記念特大号]だと思うが、実家に置いてあるため、確認できない)、なにかのミステリ賞の授賞式に参加させていただいたときに平岡氏とお会いする機会があり、そのときにもご本人からそのご意向を伺っていた。そこで、それを張舟氏に伝えたわけである。
次に張舟氏に会ったのはその1年後、2017年6月の本格ミステリ大賞イベントのときだが、そのときに張舟氏から、「自分が設立する出版社でアルテを出すことになった。版権はすでに取れており、翻訳は平岡敦氏が引き受けてくださった」というようなことを言われて、その行動力に仰天することになった(その1年のあいだに、関連するメールはもらっていたのだが、見逃していたのである)。そしてさらに1年後の2018年7月、張舟夫妻が設立した行舟文化からポール・アルテ『あやかしの裏通り』が刊行された。そして見事、年末の各種のミステリランキングで上位に入ったのである。
長くなってしまったが、つまり2014年以降の《フランスミステリ再興》は、『その女アレックス』に端を発するひとつの流れというわけではなく、実際には、『その女アレックス』でルメートルを大人気作家にした文藝春秋、それ以前から着実にフランスの実力派ミステリ作家に目を付けていた集英社、そして並外れた行動力でアルテを復活させた行舟文化、といった別々の出版社の別個の動きが、なにか一つの大きな潮流に「見えた」ということなのだと筆者は考えている。とはいえ、それも「最初はそうだったのだろう」という話である。ジャン=クリストフ・グランジェの邦訳が再開されたのは、やはりその「潮流」(のように見えたもの)が影響しているのかもしれないし、ポケミスからサンドリーヌ・コレット『ささやかな手記』(加藤かおり訳、2016年)やソフィー・エナフ『パリ警視庁迷宮捜査班』(山本知子、川口明百美訳、2019年)が刊行されたのも、この「潮流」なくしてはありえなかったかもしれない。いまや《フランスミステリ再興》の潮流は、翻訳ミステリ界を形作る重要な要素のひとつとなり、厳然として存在しているといえるだろう。
|
このアンケート企画を『その女アレックス』邦訳刊行直前に実施したのは単なる偶然だったが、振り返って考えると2014年版「フランスミステリベスト100」は、ちょうど《その女アレックス以前》の日本のフランスミステリの状況を切り取ることができており、まさにベストなタイミングだったのではないかと考えている。仮に今後同趣旨の企画が実施された場合、《その女アレックス以後》の邦訳作品群により、ランキングの結果は一変することになるだろう。次はどこかの出版社や雑誌の企画で「正式」に実施していただきたいところだが、《その女アレックス以後》を反映した新たな「フランスミステリベスト100」のランキングを見られる日が来ることを期待している。
なお、「
フランスミステリベスト100」はそれ単独で企画したものではなく、続けて実施した「
非英仏語圏ミステリベスト100」と合わせて1つの企画となっている。後者では北欧ミステリやドイツミステリ、中南米ミステリなどが上位を競っているが、
華文ミステリは非常に影が薄い。2014年当時、「華文ミステリ(ー)」という言葉は日本のミステリ読者のあいだではまったく一般的ではなく、邦訳もまだ少なかった。この言葉が日本のミステリ読者に広く知られるようになったのは、2017年9月に刊行された
陳浩基『13・67(いちさん ろくなな)』(文藝春秋)の「帯」で使用されたのがきっかけであり、その後、
陸秋槎(りく しゅうさ)の
『元年春之祭(がんねんはるのまつり)』や
『雪が白いとき、かつそのときに限り』などの邦訳が続いたことで、「華文ミステリ(ー)」、あるいは「華文推理」という言葉が日本のミステリ読者のあいだに定着することになったのである。「
非英仏語圏ミステリベスト100」を仮にまた実施することがあれば、華文ミステリももっと存在感が強まっていることだろう。
完全に脱線するが、筆者は2016年ごろから、「非英語圏ミステリ3年周期説」というものを唱えている。
日本では3年に一度、非英語圏から界隈を席捲するミステリ小説が翻訳出版され、翻訳ミステリ出版業界を一変させる
という、まあ冗談みたいなものである。
- 2008年、スティーグ・ラーソン《ミレニアム》三部作(スウェーデン作品)の邦訳が開始され、それ以降、スウェーデンのみならず北欧ミステリの邦訳が急増する
- 2011年、フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』(ドイツ作品)が邦訳され、それ以降、ドイツ語圏ミステリの邦訳が急増する
- 2014年、ピエール・ルメートル『その女アレックス』(フランス作品)が邦訳され大ベストセラーになったことにより、フランスミステリが再度注目され、邦訳がコンスタントに出るようになる
ここから勝手に「3年周期」という法則を読み取り、「じゃあ来年(2017年)あたりに中国語圏ミステリ・ブームを引き起こす大作でも訳されないかな」という単なる冗談に過ぎなかったわけだが、2017年に陳浩基『13・67』が邦訳され、実際に華文ミステリへの注目度が一変することになるとはまさか思ってもいなかった。いや、『13・67』という作品のポテンシャルは当時原書で途中まで読んで知っていたので、『13・67』が邦訳出版されると知った際に、早くも「3年周期説」の実現を確信した、というのが実際に近いが。
そう考えると、今年、2020年はまさにその「3年周期」の年に当たる。今年は、2020年8月現在のところ、新たなブームを巻き起こすような非英語圏ミステリは翻訳されていないように思う。ただ、今年の翻訳ミステリ界で気になるのは、イタリアミステリの邦訳が増えていることである。把握している限りで、
- イーゴル・デ・アミーチス『七つの墓碑』(清水由貴子訳、〈ハヤカワ文庫NV〉早川書房、2020年2月)
- アントニオ・マンジーニ『汚(よご)れた雪』(天野泰明訳、〈創元推理文庫〉東京創元社、2020年2月)
- マウリツィオ・デ・ジョバンニ『集結 P分署捜査班』(直良和美訳、〈創元推理文庫〉東京創元社、2020年5月)
- アンドレア・プルガトーリ『裏切りのシュタージ』(安野亜矢子訳、〈ハーパーBOOKS〉ハーパーコリンズ・ジャパン、2020年8月17日発売予定)
の4点がある。あくまで「3年周期説」を唱え続けるとしたら、今年は「なにか飛び抜けた一作があったわけではないが、イタリアミステリが続々と刊行されるようになった年」として日本の翻訳ミステリ史に刻まれるべき年なのかもしれない。もっとも、「今年」はまだあと4か月半残っている。今年の終わりまでに、思わぬところから優れた一作が現れることもあるかもしれない。自分がちょっと発した冗談に囚われるのもおかしな話だが、今後も翻訳ミステリには引き続き注目していきたい。
フランスミステリ必読リスト
「フランスミステリ」の必読リストと、フランスの「ミステリ必読リスト」。
- フランス・ミステリ必読30冊(『ミステリマガジン』2003年7月号)(2013年5月16日)
- 附:2000年以降に日本で出版された主なフランス・ミステリ(~2013年)
- 附:森英俊編(編著)『世界ミステリ作家事典』で扱われているフランス語圏作家一覧
- フランスのミステリ編集者が選んだ必読ミステリ100(2014年8月27日)
- フランスで2008年に刊行された『Le guide des 100 polars incontournables』(必読ミステリ100作ガイド)で選ばれている100作品の一覧。選者はフランスのミステリ編集者でありミステリの翻訳や創作も手掛けるエレーヌ・アマルリック(Hélène Amalric)。
- 100作品中、英語圏の作品が74作品、フランス語圏の作品が16作品、それ以外が10作品。英語圏の名作と並べて自国のどの作品を選んでいるのかという観点で興味深い。
- 関連:ポーランドのミステリ評論家が選んだ最重要ミステリ100(2014年8月28日)
- ポーランドで2007年に刊行された『Krwawa setka. 100 najważniejszych powieści kryminalnych』(ブラッディー・ハンドレッド: 最重要ミステリ100選)で選ばれている100作品の一覧。選者はポーランドのミステリ研究家・評論家であるヴォイチェフ・ブルシュタ(Wojciech Burszta)と、ミステリ研究家でミステリの創作も手掛けるマリウシュ・チュバイ(Mariusz Czubaj)の2人。フランス語圏の作品が4作選ばれている。
フランスミステリ邦訳一覧
当サイトでは、「
北欧ミステリ邦訳一覧」(最終更新:2017年3月)、「
南欧ミステリ邦訳一覧」(イタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャ / 最終更新:2014年)、「
ドイツ語圏ミステリ邦訳一覧」(最終更新:2014年)など、全邦訳を網羅することを目指して作成したリストを公開しているが、フランスミステリに関してはあまりにも量が多すぎるため、網羅的なリストは作成していない。
ただ、当サイトでは「
ポケミス非英語圏作品一覧」などレーベルごとの非英語圏作品のリストを作成・公開しており、事実上、それがほとんど「フランス語圏の作品のリスト」であることが多い。
また当サイトでは、日本で翻訳出版された非英語圏ミステリの年度ごとの一覧を作成していたが、2013年からスタートし、2015年秋ごろにストップしてしまった。
フランスのミステリ賞受賞作の邦訳状況
フランスミステリの日本での評価
本格ミステリ・ベスト10(原書房)
|
順位 |
タイトル |
作者 |
国 |
備考 |
2003年 |
第1位 |
第四の扉 |
ポール・アルテ |
フランス |
このミス4位、文春2位 |
第8位 |
死者を起こせ |
フレッド・ヴァルガス |
フランス |
|
2004年 |
第1位 |
死が招く |
ポール・アルテ |
フランス |
|
2005年 |
第1位 |
赤い霧 |
ポール・アルテ |
フランス |
文春10位 |
2006年 |
第3位 |
カーテンの陰の死 |
ポール・アルテ |
フランス |
|
2007年 |
第3位 |
赤髯王の呪い |
ポール・アルテ |
フランス |
|
2008年 |
第1位 |
狂人の部屋 |
ポール・アルテ |
フランス |
このミス7位、早ミス3位 |
2009年 |
第3位 |
七番目の仮説 |
ポール・アルテ |
フランス |
|
2010年 |
第3位 |
虎の首 |
ポール・アルテ |
フランス |
|
第7位 |
騙し絵 |
マルセル・F・ラントーム |
フランス |
|
2011年 |
第6位 |
殺す手紙 |
ポール・アルテ |
フランス |
|
2013年 |
第10位 |
彼の個人的な運命 |
フレッド・ヴァルガス |
フランス |
|
2015年 |
第10位 |
その女アレックス |
ピエール・ルメートル |
フランス |
このミス1位、文春1位、早ミス1位、IN☆POCKET1位 |
2016年 |
第7位 |
悲しみのイレーヌ |
ピエール・ルメートル |
フランス |
このミス2位、文春1位、早ミス5位、IN☆POCKET7位 |
2017年 |
第10位 |
傷だらけのカミーユ |
ピエール・ルメートル |
フランス |
このミス6位、文春1位、IN☆POCKET6位 |
2018年 |
第4位 |
黒い睡蓮 |
ミシェル・ビュッシ |
フランス |
このミス5位 |
2019年 |
第2位 |
あやかしの裏通り |
ポール・アルテ |
フランス |
このミス6位、文春8位 |
2020年 |
第5位 |
金時計 |
ポール・アルテ |
フランス |
|
このミステリーがすごい!(宝島社)
|
順位 |
タイトル |
作者 |
国 |
備考 |
1996年 |
第10位 |
パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない |
ジャン・ヴォートラン |
フランス |
|
2003年 |
第4位 |
第四の扉 |
ポール・アルテ |
フランス |
本ミス1位、文春2位 |
第9位 |
グルーム |
ジャン・ヴォートラン |
フランス |
IN☆POCKET10位 |
2008年 |
第7位 |
狂人の部屋 |
ポール・アルテ |
フランス |
本ミス1位、早ミス3位 |
2015年 |
第1位 |
その女アレックス |
ピエール・ルメートル |
フランス |
本ミス10位、文春1位、早ミス1位、IN☆POCKET1位 |
第6位 |
ハリー・クバート事件 |
ジョエル・ディケール |
スイス(フランス語) |
文春4位、早ミス9位 |
2016年 |
第2位 |
悲しみのイレーヌ |
ピエール・ルメートル |
フランス |
本ミス7位、文春1位、早ミス5位、IN☆POCKET7位 |
第9位 |
彼女のいない飛行機 |
ミシェル・ビュッシ |
フランス |
IN☆POCKET9位 |
2017年 |
第6位 |
傷だらけのカミーユ |
ピエール・ルメートル |
フランス |
本ミス10位、文春1位、IN☆POCKET6位 |
2018年 |
第5位 |
黒い睡蓮 |
ミシェル・ビュッシ |
フランス |
本ミス4位 |
2019年 |
第6位 |
あやかしの裏通り |
ポール・アルテ |
フランス |
本ミス2位、文春8位 |
第8位 |
監禁面接 |
ピエール・ルメートル |
フランス |
文春5位 |
『週刊文春』ミステリーベスト10(文藝春秋)
|
順位 |
タイトル |
作者 |
国 |
備考 |
1997年 |
第10位 |
眠りなき狙撃者 |
ジャン=パトリック・マンシェット |
フランス |
|
2002年 |
第2位 |
第四の扉 |
ポール・アルテ |
フランス |
本ミス1位、このミス4位 |
2004年 |
第10位 |
赤い霧 |
ポール・アルテ |
フランス |
本ミス1位 |
2012年 |
第6位 |
ルパン、最後の恋 |
モーリス・ルブラン |
フランス |
|
2013年 |
第9位 |
HHhH プラハ、1942年 |
ローラン・ビネ |
フランス |
|
2014年 |
第1位 |
その女アレックス |
ピエール・ルメートル |
フランス |
本ミス10位、このミス1位、早ミス1位、IN☆POCKET1位 |
第4位 |
ハリー・クバート事件 |
ジョエル・ディケール |
スイス(フランス語) |
このミス6位、早ミス9位 |
2015年 |
第1位 |
悲しみのイレーヌ |
ピエール・ルメートル |
フランス |
本ミス7位、このミス2位、早ミス5位、IN☆POCKET7位 |
2016年 |
第1位 |
傷だらけのカミーユ |
ピエール・ルメートル |
フランス |
本ミス10位、このミス6位、IN☆POCKET6位 |
2018年 |
第5位 |
監禁面接 |
ピエール・ルメートル |
フランス |
このミス8位 |
第8位 |
あやかしの裏通り |
ポール・アルテ |
フランス |
本ミス2位、このミス6位 |
2019年 |
第8位 |
わが母なるロージー |
ピエール・ルメートル |
フランス |
|
ミステリが読みたい!(早川書房)
|
順位 |
タイトル |
作者 |
国 |
備考 |
2008年 |
第3位 |
狂人の部屋 |
ポール・アルテ |
フランス |
本ミス1位、このミス7位 |
2015年 |
第1位 |
その女アレックス |
ピエール・ルメートル |
フランス |
本ミス10位、このミス1位、文春1位、IN☆POCKET1位 |
第9位 |
ハリー・クバート事件 |
ジョエル・ディケール |
スイス(フランス語) |
このミス6位、文春4位 |
2017年 |
第5位 |
悲しみのイレーヌ |
ピエール・ルメートル |
フランス |
本ミス7位、このミス2位、文春1位、IN☆POCKET7位 |
2019年 |
第7位 |
黒い睡蓮 |
ミシェル・ビュッシ |
フランス |
本ミス4位、このミス5位 |
『IN☆POCKET』文庫翻訳ミステリー・ベスト10(講談社)
|
順位 |
タイトル |
作者 |
国 |
備考 |
1998年 |
第9位 |
鉄の薔薇 |
ブリジット・オベール |
フランス |
|
2002年 |
第10位 |
グルーム |
ジャン・ヴォートラン |
フランス |
このミス9位 |
2003年 |
第6位 |
夜鳥(よどり) |
モーリス・ルヴェル |
フランス |
|
2004年 |
第7位 |
蜘蛛の微笑(のちに『私が、生きる肌』に改題) |
ティエリー・ジョンケ |
フランス |
|
2014年 |
第1位 |
その女アレックス |
ピエール・ルメートル |
フランス |
本ミス10位、このミス1位、文春1位、早ミス1位 |
2015年 |
第6位 |
悪意の波紋 |
エルヴェ・コメール |
フランス |
|
第9位 |
彼女のいない飛行機 |
ミシェル・ビュッシ |
フランス |
このミス9位 |
2016年 |
第7位 |
悲しみのイレーヌ |
ピエール・ルメートル |
フランス |
本ミス7位、このミス2位、文春1位、早ミス5位 |
2017年 |
第6位 |
傷だらけのカミーユ |
ピエール・ルメートル |
フランス |
本ミス10位、このミス6位、文春1位 |
『IN☆POCKET』休刊(~2018年8月号)のため、2017年11月号での発表分をもって終了 |
東西ミステリーベスト100(1985年版、2012年版)
1985年 |
第16位 |
黄色い部屋の謎 |
ガストン・ルルー |
フランス |
|
第23位 |
わらの女 |
カトリーヌ・アルレー |
フランス |
|
第41位 |
813 |
モーリス・ルブラン |
フランス |
|
第67位 |
シンデレラの罠 |
セバスチアン・ジャプリゾ |
フランス |
|
第83位 |
男の首 |
ジョルジュ・シムノン |
ベルギー(フランス語) |
|
2012年 |
第28位 |
黄色い部屋の謎 |
ガストン・ルルー |
フランス |
|
第41位 |
シンデレラの罠 |
セバスチアン・ジャプリゾ |
フランス |
|
第53位 |
わらの女 |
カトリーヌ・アルレー |
フランス |
|
第92位 |
奇岩城 |
モーリス・ルブラン |
フランス |
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フランスにおける日本ミステリ
なお、2013年以降については、当サイトのトップページで時系列順に日本ミステリの欧米での翻訳出版情報を載せている。日本ミステリのフランス語訳については、トップページを「【フランス語訳】」でページ内検索していただきたい。
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最終更新:2020年08月18日 00:21