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2-244

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244.『信じる』ということ[3日目朝]

「信用できそうな仲間が見つかるといいですね・・・」

・・・ずん・・・ずん・・・ずん・・・

「あそこに生っている木の実って、食べられるでしょうか?」

・・・ずん・・・ずん・・・ずん・・・

「結構身体が汚れてますし、飲み水もほとんどないので、何処か水場を探したほうがよさそうな気がしません?」

・・・ずん・・・ずん・・・ずん・・・ずん・・・ずん・・・!

話かけても反応をよこさず無言で先を歩き続ける♂スパノビに♀アルケミストは大きくため息をつく。

(彼には人の話を聞くという概念がないの・・・?)

微笑をその顔に浮かべながらも、♀アルケミスト内心で悲鳴をあげていた

このゲームが始まって既に3日。
食料、水はすでに付きかけており、参加者の約半数が死亡している。
自分には一人で生き残る力はなく、見つけた宿木は『仲間を探す』ことに集中し、
こちらの誘いにノってくる様子がまったくない。
むしろ誘う以前に会話すらできそうな気がしてこない。
♀アルケミストに軽い絶望感が襲う。

(いい加減にしないと自分の魅力に自信なくしちゃうじゃないの・・・)

その後は無言で歩き続ける。
だが男女の力の差なのか、それとも製造型と戦闘型の差だろうか、
少しづつ♀アルケミストが遅れてきていた。

「少し待ってください・・・」

流石に♀アルケミストが悲鳴をあげる。
だが♂スパノビは彼女が呼びかける前に既にその歩みを止めていた。
訝しげに♀アルケミストがその背中を見つめていると、♂スパノビはゆっくりとその口を開いた

「おで・・・馬鹿だから・・・相手が悪くても悪くなくてもわからない・・・
信じられるか信じられないのかわからない・・・
だから信じることしかできない・・・悪い奴いないって思うしかできない・・・
だって・・・おで・・・馬鹿だから・・疑うことのできない馬鹿だから・・・」
「♂スパノビさん・・・?」

何を言っているのかわからなかった。
内容はわかる。
『自分は馬鹿だから相手を疑うことができない、故に自分ができるのは相手をとにかく信じること』
だが、何故今そんなことを言い出し始めるのか♀アルケミストには理解ができない。
もっとも彼女には他人を信じること自体が理解ができないのだが・・・

「・・・ぼず、おで仲間見つけた。おで生き残る、信じられる人かわからないけど、おで信じる・・・
信じて・・・彼女と一緒に生き残る・・・」

♂スパノビの巨体の影で見えなかったが、彼のすぐ近くには横たわる♀BSがいた。
服は血まみれで既に息を耐えていることがわかる。
♀アルケミストは状況を見て頭を働かせ、やるべきことを決めると♀BSの前に座り込んだ。

「お亡くなりになったのですね・・・」

こくん、と頷く♂スパノビに頷き返すと、♀アルケミストは膝を付き、祈りを捧げるように手を組んだ。
死者への祈りを済ませた彼女は頭をあげ、「ぼず」への報告を終えて無表情に立ち尽くしている♂スパノビに
悲しそうな、それでいて少し怒っているような複雑な表情を向ける。

「大事な『ぼず』ならこんな所で野ざらしにしてはダメですよ。一緒に埋葬しましょう」
「・・・埋葬?」
「死んだ人を休ませてあげるための・・・そして、生き残った人が相手が死んだことを受け入れて、
前に進んでいくために必要な儀式です・・・さあ、そこに穴を掘ってください。
私は彼女の身体をキレイにしますから」
「・・・わかった。ぼず休ませる、おで前に進む・・・」

スティレットを使い、地面を掘り始める♂スパノビの後ろで♀アルケミストはグラディウスに手を伸ばした。
『ぼず』である♀BSは死んでいる。
しかし死して尚、彼女の命令に従い、遺体に命令の遂行を報告するほどの忠実ぶりでは、
こちらの思い通りに動く可能性は低い。
生かして盾くらいにすることもできるが、このゲームで愚かにも他人を信じることしかできないようでは、
こちらに被害が及ぶことも想定しなければならない。
だが、ここで♂スパノビを殺せば彼の水や食料が手に入る。
彼一人分では量も期待できないために動くメリットは少ないが、ここに♀BSの分もある。
篭絡することもできず、共に歩き続けることにもメリットを見出せない以上、考える余地はなかった。

(・・・信じるものが馬鹿を見るのが現実なのよ・・・)

グラディウスを♂スパノビの首に突き刺すために取り出そうとした刹那、♂スパノビは振り返り、
彼女に強烈な体当たりをした。

「・・・きゃっ!?」

悲鳴をあげる♀アルケミスト。
二人は絡み合い、倒れこんでいく。
♀アルケミストは自分の考えがバレたのかと警戒し、覆いかぶさる♂スパノビを押しのけようと力を入れた。

(力が入ってない?)

♀アルケミストが見ると、その肩の背中側には矢が突き刺さり、赤い血がじわじわと流れ出していた。

(・・・私をかばって・・・? 篭絡されてもいない。ただ仲間だって、そう言っただけじゃないの・・・)

♂スパノビは痛みを感じさせない声で♀アルケミストに言う。

「・・・おで・・・仲間を護る・・・生き残るための・・・一緒にいる・・・おで信じた仲間を護る・・・!」

♂スパノビは立ち上がり、矢を飛んできた方向に視線を向けた。
♀アルケミストも同じように視線をそちらに向ける。
そこには足を引きずり、クロスボウを携え、こちらに敵意をむき出しにしている♂ローグがいた。

「・・・次はぶっころしてやる・・・」

二人にクロスボウを向ける♂ローグ。♂スパノビはまだ座り込んでいる♀アルケミストを庇うように前に立つ。
♀アルケミストは座り込んだまま混乱していた。

(信じる? 仲間? そんなくだらないことで自分の命を危険に晒して何が楽しいの?
馬鹿じゃないの? そんなこと有り得ない、他人は利用するもの・・・なのに・・・)

♀アルケミストにはわからない、♂スパノビの行動の全て理解ができない。
彼女に迫った男は快楽を得るために自分の身体を利用し、自分はそのことを利用して男を利用し続けた
しかし、彼はそんなこと関係なく、『信じた仲間』だから、ただそれだけで命をかけて戦おうとしている。
わからない・・・理解ができない・・・本当に・・・

「最っ低・・・!!」

♀アルケミストは叫び、いきなり立ち上がった。振り返る♂スパノビ。
それを機に♂ローグが矢を放つ。だが♂スパノビを狙ったそれは♀アルケミストが彼を押しやったため、
目標をはずし、♀アルケミストの頬に浅い傷をつけるだけにとどまった。

「ちっ!!」

舌打ちをして、再びクロスボウを構え、邪魔をした♀アルケミストを狙う♂ローグ。
同時に♀アルケミストは鞄から赤い毒薬の入ったビンを取り出すと、アシッドテラーの要領で
♂ローグに投げつけるために、それを大きく振りかぶった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

♀アルケミストにはわからなかった。
自分が何故こんなことをしているのか、自分の今の行動全てが理解できなかった。
ただ、理解ができないまま自然に身体が動いてしまっていたのだった。


<♀アルケミスト>
<現在地:F-6>
<所持品:S2グラディウス 毒薬の瓶 ガーディアンフォーマルスーツ(ただしカードスロット部のみ)>
<外見:絶世の美女>
<性格:策略家>
<備考:製薬型 やっぱり悪 ♂スパノビと同行>
<状態:軽度の火傷、頬に浅い切り傷>


<♂スパノビ>
現在地:F-6
所持品:スティレット ガード ほお紅 装飾用ひまわり 古いカード帖
スキル:速度増加 ヒール ニューマ ルアフ 解毒
外 見:巨漢 超強面だが頭が悪い
備 考:BOT症状発現? ♀BSの最期の命令に従っている ♀アルケミストと同行
状 態:HP消耗、SPはほぼ回復? 肩に矢が突き刺さっている


<♂ローグ>
現在地:F-6
所持品:ポイズンナイフ クロスボウ(回収済み) 望遠鏡 寄生虫の卵入り保存食×2
外 見:片目に大きな古傷
備 考:殺人快楽至上主義 GMと多少のコンタクト有、自分を騙したGMジョーカーも殺す なるべく2人組を狙う
状 態:左足首を損傷(バンデージ固定済) 肩口に刺傷

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