yuya氏が作成した東方についての漢詩文まとめ。
風想儚声星想影
鈴調沈夕螢灯清
即雖幻郷幽渓見
必於永夜月下迎
風には儚声を想い、星には影を想う
鈴調、夕に沈みて螢灯清らげなり
即い幻郷幽渓に見ると雖も
必ずや永夜月下に於いて迎えん
風には貴女の儚げな声を想い、星には貴女の姿を想います
鈴虫の調は夕暮れに沈み、蛍の光はとても清らかである
たとえ幻の郷、人里離れた渓で見たのであろうとも
必ずや明けない夜、月の下に迎えにいきましょう
凛誇向日葵 楽響祭鼓声
半夏為斑雪 万蛍成流星
暑昼求氷精 蒸晩欲半霊
請再注冷酒 惜夏干千瓶
凛誇る向日葵、楽響く祭鼓声
半夏斑雪を為し、万蛍流星と成る
暑昼氷精を求め、蒸晩半霊を欲す
請う、再び冷酒を注げ、夏を惜しみ千瓶を干さん
凛と咲き誇っていた向日葵、楽しげに響いていた祭囃子
半夏生は庭に斑雪を作り、幾万の蛍が流星を成していた
暑い昼は氷精を求め、蒸す夜は半霊が欲しがったものだ
どうかまた冷酒を注いでくれないか、今はこの過ぎ行く夏を惜しんで千個もの瓶を飲み干そうではないか
屍体微睡朱門夢
醒眠零紡詩一句
不覚溢伝涙一片
吾与誰唄春暖愉
屍体微睡み、朱門の夢
眠り醒め、零れ紡ぐ一句の詩
覚えず、溢れ伝う一片の涙
吾、誰と唄うか、春暖の愉
死体、微睡み朱門(羅生門)の夢を見る
目覚め、ふと口ずさんでしまった詩の一節
理由も分からず溢れ頬を伝う一筋の涙
私は誰と春の暖かさの喜びを歌いあっていたのだろう
春暖…都良香の代表作の一つ。羅生門の逸話で有名。
春雨鄙館聴幽弦
嬋娟寂調天上絃
朧月一条照奏姫
幼蝸覚暁春宵幻
春雨、鄙館、幽弦を聴く
嬋娟、寂調、天上の絃
朧月一条、奏姫を照す
幼蝸、暁を覚え、春宵の幻
柔らかく降り注ぐ雨、人の気配のない館、幽かな弦の音を聴く
たおやか、そして寂しい調はまるで天上の世界から垂れる絃のよう
朧月が一条射し奏でていた姫を照す
まだ幼い蝸牛が夢をから覚めた、全ては晩春の夜の幻だったのだろうか
春雨→二月(旧暦春)の季語
朧月→三月(旧暦春)の季語
蝸牛→五月(旧暦夏)の季語なのだが幼蝸とすることで春が終わり、夏が始まる直前をイメージ
覚暁→有名な春眠不覚暁(四月の詩)より、あれも春を惜しむ詩
天高雲往彼岸花
船頭古舟流命河
貪眠遊夢覚一客
天楽獄苦不知我
天高く雲往き彼岸花
船頭古舟命河を流る
眠貪夢遊覚めて一客
天楽獄苦我は知らず
出舌開一眼 怖逃叫恐声
紛闇率百鬼 潜夜舞千京
畏々無愚智 驚々無主俾
勿遊霖雨晩 忘傘笑儚世
舌を出し一眼開く、怖がれ逃げろ恐声を叫べ
闇に紛れ百鬼を率い、夜に潜りて千京を舞う
畏々愚智と無く、驚々主俾と無し
霖雨の晩に遊ぶ勿かれ、忘傘儚世を笑う
舌を出して大きな瞳を開く、怖がれ!逃げろ!悲鳴をあげろ!
闇に紛れて百鬼夜行を率い、夜に潜って千の京を舞い翔ぶ
愚者も智者も皆畏れおののき、主人も奴隷も無く皆驚き叫ぶ
静かに続く雨の晩に出歩くことなかれ、忘れ傘は儚い人の世を笑う
蒼天広悠々 雲流供宝船
持宝何処往 抱欲何人辿
求妖魔倒伐 狙金銀玉銭
到墨夢乃跡 彼聖眠法園
蒼天悠々と広がり、宝船と供に雲流れる
宝を持ちて何処へ往く、欲を抱きて何人が辿る
求むは妖魔倒伐、狙うは金銀玉銭
到りて墨夢の跡、彼の聖は法園に眠る
青い空は悠々と広がり、何処からか来た宝船と共に雲は流れてゆく
そんな宝を持って何処にいこうというのかね、欲を持った何人の人間たちがついてゆくだろう
求めるのは妖怪退治?欲しいのは金銀財宝?
どうせ到るのは墨家(諸子百家のうちの一家。非攻『平和主義、但し自衛は可』、や兼愛『無差別の愛』を唱え戦乱の世に巻き込まれ消滅)の夢の成れの果てに過ぎないと言うのに、その念仏聖は法の園に静かに眠る
追兎入竹林 失道遭紅眼
酔脚不覚先 揺頭不頼腕
無知何処迷 無分何時還
夢醒咲一華 我疑真与瞞
兎を追いて竹林に入り、道を失い紅眼に遭う
酔脚先を覚えず、揺頭腕も捕らえず
何処を迷うも知ること無く、何時還るも分かること無し
夢醒めて一華咲く、我疑う真と瞞
兎を追って竹林に入り、迷子になって紅い眼をした化物に遭った
酔ったような脚では先に進むことも出来ない、揺れる頭では自分の腕すら頼ることすらできない
何処を迷っているのかも分からず、何時出られるのかも分からない
夢から醒めてみると、目の前には一輪の優曇華の花、これも夢か現か分からなくなる
一輪唐傘破 濡頬佇秋霖
到白宿精魄 覚生知哀淋
唯叫怨忘君 独悔恨壊身
其嘆誰届乎 雨中無戻人
一輪唐傘破れ、頬を濡らし秋霖に佇む
白に到りて精魄宿り、生を覚えて哀淋を知る
唯忘れた君を怨むと叫ぶのみ、独り壊れた身を恨むと悔いるのみ
其の嘆誰をか届くや、雨中戻る人は無し
一輪の破れた唐傘が、秋霖(秋の長く降る雨)頬を濡らして佇んでいる
九十九神になって(白と『百年に一年たらぬ九十九髪』=白髪を掛けている)魂魄が宿り、生きることを知ったが故に哀しさ、淋しさを知っってしまった
ただ私のことを忘れてしまった貴方が怨めしい、ただ壊れてしまった我が身が恨めしい
その嘆きは誰に届くことがあるだろう、雨の中取りに戻る人はいないのだった
鎮気睨好敵 俎上肉菜菓
踊材煌白楼 跳油舞鉄鍋
白米為銀嶺 汁物成黄河
然主求再飯 何由飽腹乎
気を鎮め好敵を睨む、俎上肉菜菓
材踊り白楼煌めき、油跳ね鉄鍋舞う
白米銀嶺を為し、汁物黄河と成る
然れど主再飯を求む、何に由りて腹飽くや
精神を落ち着かせ目の前の好敵手を睨む、まな板の上には肉や野菜や果物
食材は踊り、煌めく白楼剣が斬り刻んでゆく、油は跳ねて鉄鍋が舞うように食材を炒めてゆく
炊きあがったご飯は雪山のように盛り上がり、出来たお味噌汁はまるで黄河のよう
でも私の主はそれでも御代わりを要求してくる、どうすればあの方の腹を満たすことができるのだろう
週終来土夜 心高煌鏡光
心労爆雷撃 身苦消酒泡
無礼酌少長 忘時躍人妖
此正有頂天 請無至月曜
週終り土夜来る、心高まり鏡光煌めく
心労雷撃に爆ぜ、身苦酒泡と消ゆ
礼を無くし少長と酌み、時を忘れ人妖と躍る
此、正に有頂天、請う、月曜の至ること無きを!
仕事も終わってサタデーナイトフィーバー、テンション上がってネオンも煌めく
心労は雷撃で弾け飛び、体の疲れはこの酒の泡のように消えてしまう
無礼講で上司とも後輩とも酒を酌み交わし、時間も忘れて人も妖怪も躍り狂う
此処がまさしく有頂天、お願いだから月曜などこないでおくれ!