「四禅比丘」『正法眼蔵』

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#ref(http://l.yimg.com/g/images/spaceball.gif) *テキスト -「四禅比丘」『正法眼蔵』  大正2582 82巻296頁中  水野弥穂子校注『正法眼蔵』岩波文庫、1990、第4巻 T2582_.82.0296b16: 正法眼藏四禪比丘 T2582_.82.0296b17: 第十四祖龍樹祖師言く。佛弟子の中に。有り一りの T2582_.82.0296b18: 比丘。得て第四禪を。生し増上慢を。謂もふ得たりと四 T2582_.82.0296b19: 果を。初め得しとき初禪を。謂ひ得たりと於須陀洹果を。得し T2582_.82.0296b20: 第二禪を時。謂ひ是れを斯陀含果と。得し第三禪を T2582_.82.0296b21: 時。謂ひ是れを阿那含果と。得し第四禪を時。謂ふ是れを T2582_.82.0296b22: 阿羅漢と。恃して是れを自ら高ふり。不復た求進せ。欲する命 T2582_.82.0296b23: 盡きん時。見るを有り四禪の中陰の相來を。便ち生し邪 T2582_.82.0296b24: 見を。謂ふ無し涅槃。佛爲欺くと我を。惡邪見の故に。 T2582_.82.0296b25: 失四禪の中陰を。便ち見み阿鼻泥犁の中陰の相を。命 T2582_.82.0296b26: 終即ち生す阿鼻泥犁の中に。諸の比丘問佛に曰。阿 T2582_.82.0296b27: 蘭若比丘。命終生するや何の處に。佛言はく。是の人 T2582_.82.0296b28: 生す阿鼻泥犁の中に。諸の比丘大に驚く。坐禪持 T2582_.82.0296b29: 戒。便ち至るや爾るに耶。佛如く前の答へて言はく。彼れ皆な T2582_.82.0296c01: 因り増上慢に。得し四禪を時。謂ひ得たりと四果を。臨 T2582_.82.0296c02: 命終の時に。見て四禪の中陰の相を。便ち生邪見を。謂へらく T2582_.82.0296c03: 無し涅槃。我れは是れ羅漢なり。今還て復た生す。佛爲すと虚 T2582_.82.0296c04: 誑を。是の時即ち見阿鼻泥犁の中陰の相を。命終即ち T2582_.82.0296c05: 生す阿鼻泥犁の中に。是の時佛説いて偈を言はく。多聞と T2582_.82.0296c06: 持戒と禪と。未た得漏盡の法を。雖有りと此の功徳。 T2582_.82.0296c07: 此の事難し可き信す。墮つるは獄に由る謗佛に。非すと關かるに T2582_.82.0296c08: 第四禪に この比丘を稱して。四禪比丘と T2582_.82.0296c09: いふ。または無聞比丘と稱す。四禪をえた T2582_.82.0296c10: るを。四果と僻計せることをいましめ。ま T2582_.82.0296c11: た謗佛の邪見をいましむ。人天大會。みな T2582_.82.0296c12: しれり。如來在世より。今日にいたるまて。 T2582_.82.0296c13: 西天東地。ともに是にあらさるを。是と執 T2582_.82.0296c14: せるをいましむとして。四禪をえて。四果 T2582_.82.0296c15: とおもふかことしとあさける。この比丘 T2582_.82.0296c16: の不是。しはらく略擧するに三種あり。第 T2582_.82.0296c17: 一には。みつから四禪と。四果とを分別す T2582_.82.0296c18: るにおよはさる無聞の身なから。いたつ T2582_.82.0296c19: らに師をはなれて。むなしく阿蘭若に獨 T2582_.82.0296c20: 處す。さいはひにこれ如來在世なり。つね T2582_.82.0296c21: に佛所に詣して。常恒に見佛聞法せは。か T2582_.82.0296c22: くのことくあやまりあるへからす。しか T2582_.82.0296c23: あるに阿蘭若に獨處して。佛所に詣せす。 T2582_.82.0296c24: つひに見佛聞法せさるによりて。かくの T2582_.82.0296c25: ことし。たとひ佛所に詣せすといふとも。 T2582_.82.0296c26: 諸大阿羅漢所にいたりて。教訓をうくへ T2582_.82.0296c27: し。いたつらに獨處する。増上慢のあやま T2582_.82.0296c28: りなり。第二には。初禪をえて初果とおも T2582_.82.0296c29: ひ。二禪をえて第二果とおもひ。三禪をえ T2582_.82.0297a01: て第三果とおもひ。四禪をえて第四果と T2582_.82.0297a02: おもふ。第二のあやまりなり。初二三禪の T2582_.82.0297a03: 相と。初二三果の相と。比類におよはす。た T2582_.82.0297a04: とることあらんや。これ無聞のとかによ T2582_.82.0297a05: れり。師につかへす。くらきによれるとか T2582_.82.0297a06: なり T2582_.82.0297a07: 優婆毱多弟子の中。有り一りの比丘。信心出家し。 T2582_.82.0297a08: 獲得四禪を。謂爲四果と。毱多方便令め往か他 T2582_.82.0297a09: 處に。於路に化作し群賊を。復た化作す五百の賈客を。 T2582_.82.0297a10: 賊劫し賈客を。殺害狼藉なり。比丘見て生す悙を即ち T2582_.82.0297a11: 便ち自ら念ふ。我れは非す羅漢に。應し是れ第三果なる。賈客 T2582_.82.0297a12: 亡後ち。有り長者の女。語けて比丘に言く。唯願くは大徳。 T2582_.82.0297a13: 與我れ共に去れ。比丘答へて言く。佛不許さ我れ與 T2582_.82.0297a14: 女人行くを。女言く。我れ望んて大徳を而も隨はん其の T2582_.82.0297a15: 後に。比丘憐愍。相ひ望んて而行く。尊者次て復た變 T2582_.82.0297a16: 作す大河を。女人言く。大徳。可し共に我れと度る。比 T2582_.82.0297a17: 丘は在り下流に。女は在り上流に。女便ち墮す水に。白 T2582_.82.0297a18: 言く。大徳濟へ我れを。爾の時に比丘手を接而出す。生し T2582_.82.0297a19: 細滑の想を。起す愛欲の心を。即ち自ら知り非すと阿那 T2582_.82.0297a20: 含に。於て此の女人に。極めて生し愛著を將井て向ひ屏處に。 T2582_.82.0297a21: 欲す共に交通せんと。方に見て是れ師なるを。生し大慚愧を。低 T2582_.82.0297a22: 頭而立し。尊者語けて言。汝曾て自ら謂是れ阿羅漢と。 T2582_.82.0297a23: 云何そ欲するやと爲さんと如き此の惡事を。將井て至り僧中に。 T2582_.82.0297a24: 教め其を懺悔せ。爲めに説く法要を。得たり阿羅漢を  T2582_.82.0297a25: この比丘。はしめ生見のあやまりあれと T2582_.82.0297a26: も。殺害の狼藉をみるにおそれを生す。と T2582_.82.0297a27: きにわれ羅漢にあらすとおもふ。なほ第 T2582_.82.0297a28: 三果なるへしとおもふあやまりあり。の T2582_.82.0297a29: ちに細滑の想によりて。愛欲の心を生す T2582_.82.0297b01: るに。阿那含にあらすとしる。さらに謗佛 T2582_.82.0297b02: のおもひを生せす。謗法のおもひなし。聖 T2582_.82.0297b03: 教にそむくおもひにあらす。四禪比丘に T2582_.82.0297b04: はひとしからす。この比丘は。聖教を習學 T2582_.82.0297b05: せるちからあるによりて。みつから阿羅 T2582_.82.0297b06: 漢にあらす。阿那含にあらすとしるなり。 T2582_.82.0297b07: いまの無聞のともからは。阿羅漢はいか T2582_.82.0297b08: なりともしらす。佛はいかなりともしら T2582_.82.0297b09: さるかゆゑに。みつから阿羅漢にあらす。 T2582_.82.0297b10: 佛にあらすともしらす。みたりにわれは T2582_.82.0297b11: 佛なりとのみおもひいふは。おほいなる T2582_.82.0297b12: あやまりなり。ふかきとかなるへし。學者 T2582_.82.0297b13: まつすへからく佛はいかなるへしとなら T2582_.82.0297b14: ふへきなり T2582_.82.0297b15: 古徳曰く。故に知る習ふ聖教を者。薄知れは次位を。 T2582_.82.0297b16: 縱ひ生す逾濫を。亦た易し開解し まことなるか T2582_.82.0297b17: な古徳の語。たとひ生見のあやまりあり T2582_.82.0297b18: とも。すこしきも佛法を習學せらんとも T2582_.82.0297b19: からは。みつからにも欺誑せられし。他人 T2582_.82.0297b20: にも欺誑せられじ T2582_.82.0297b21: 曾て聞く。有り人自ら謂成佛すと。待て天不曉け。謂爲 T2582_.82.0297b22: 魔障と。曉已るに不見梵王の請するを説法を。自ら知り T2582_.82.0297b23: 非すと佛に。自ら謂是れ阿羅漢と。又た被れて他人に罵ら T2582_.82.0297b24: 之。心に生し異念を。自ら知り非と是れ阿羅漢に。仍謂 T2582_.82.0297b25: 是れ第三果なりと也。又た見て女人を起し欲想て。知る T2582_.82.0297b26: 非と聖人に。此れも亦た良に由るか知るに教相を故に。乃ち T2582_.82.0297b27: 如き是の也 それ佛法をしれるは。かくの T2582_.82.0297b28: ことくみつからか非を覺知し。はやくあ T2582_.82.0297b29: やまりをなけすつ。しらさるともからは。 T2582_.82.0297c01: 一生むなしく愚蒙のなかにあり。生より T2582_.82.0297c02: 生をうくるも。またかくのことくなるへ T2582_.82.0297c03: し。この優婆毱多の弟子は。四禪をえて四 T2582_.82.0297c04: 果とおもふといへとも。さらに我非羅漢 T2582_.82.0297c05: の智あり。無聞比丘も。臨む命終にのとき。四 T2582_.82.0297c06: 禪の中陰みゆることあらんに。我れは非す羅 T2582_.82.0297c07: 漢にとしらは。謗佛の罪あるへからす。い T2582_.82.0297c08: はんや四禪をえてのちひさし。なんそ四 T2582_.82.0297c09: 果にあらすとかへりみしらさらん。すて T2582_.82.0297c10: に四果にあらすとしらは。なんそあらた T2582_.82.0297c11: めさらん。いたつらに僻計にととこほり。 T2582_.82.0297c12: むなしく邪見にしつめり。第三には。命終 T2582_.82.0297c13: のとき。おほきなるあやまりあり。そのと T2582_.82.0297c14: かふかくして。つひに阿鼻地獄におちぬ T2582_.82.0297c15: るなり。たとひなんち一生のあひた。四禪 T2582_.82.0297c16: を四果とおもひきたれりとも。臨む命終に T2582_.82.0297c17: のとき。四禪の中陰みゆることあらは。一 T2582_.82.0297c18: 生のあやまりを懺悔して。四果にはあら T2582_.82.0297c19: さりきとおもふへし。いかてか佛われを T2582_.82.0297c20: 欺誑して。涅槃なきに。涅槃ありと施設せ T2582_.82.0297c21: させたまふとおもふへき。これ無聞のと T2582_.82.0297c22: かなり。このつみすてに謗佛なり。これに T2582_.82.0297c23: よりて阿鼻の中陰現して。命終して阿鼻 T2582_.82.0297c24: 地獄におちぬ。たとひ四果の聖者なりと T2582_.82.0297c25: も。いかてか如來におよはん。舍利弗はひ T2582_.82.0297c26: さしくこれ四果の聖者なり。三千大千世 T2582_.82.0297c27: 界所有の智慧をあつめて。如來をのそき T2582_.82.0297c28: たてまつりて。ほかを一分とし。舍利弗の T2582_.82.0297c29: 智意を十六分にせる一分と。三千大千世 T2582_.82.0298a01: 界所有の智慧とを格量するに。舍利弗の T2582_.82.0298a02: 十六分の一分におよはさるなり。しかあ T2582_.82.0298a03: れとも如來未た曾て説かの法をときましま T2582_.82.0298a04: すをききて。前後の佛説ことにして。われ T2582_.82.0298a05: を欺誑しましますとおもはす。波旬無し此 T2582_.82.0298a06: 事とほめたてまつる。如來は福増をわた T2582_.82.0298a07: し。舍利弗は福増をわたさす。四果と佛果 T2582_.82.0298a08: と。はるかにことなることかくのことし。 T2582_.82.0298a09: たとひ舍利弗。およひもろもろの弟子の T2582_.82.0298a10: ことくならん。十方界にみちみてらん。と T2582_.82.0298a11: もに佛智を測量せんことうへからす。孔 T2582_.82.0298a12: 老にかくのことくの功徳。いまたなし。佛 T2582_.82.0298a13: 法を習學せんもの。たれか孔老を測度せ T2582_.82.0298a14: さらん。孔老を習學するもの。佛法を測量 T2582_.82.0298a15: すること。いまたなし。いま大宋國のとも T2582_.82.0298a16: から。おほく孔老と佛道と一致の道理を T2582_.82.0298a17: たつ。僻見もともふかきものなり。しもに T2582_.82.0298a18: まさに廣説すへし。四禪比丘。みつからか T2582_.82.0298a19: 僻見をまこととして。如來の欺誑しまし T2582_.82.0298a20: ますとおもふ。なかく佛道を違背したて T2582_.82.0298a21: まつるなり。愚癡のはなはたしき。六師等 T2582_.82.0298a22: にひとしかるへし T2582_.82.0298a23: 古徳曰く。大師の在世。尚ほ有り僻計生見の之人。 T2582_.82.0298a24: 況や滅度の後。無く師も不る得禪を者をや いま大師 T2582_.82.0298a25: とは。佛世尊なり。まことに世尊在世。出 T2582_.82.0298a26: 家受具せる。なほ無聞によりては。僻計生 T2582_.82.0298a27: 見のあやまりのかれかたし。いはんや如 T2582_.82.0298a28: 來滅後。五五百歳。邊地下賤の時處。あや T2582_.82.0298a29: まりなからんや。四禪を發せるもの。なほ T2582_.82.0298b01: かくのことし。いはんや四禪を發するに T2582_.82.0298b02: およはす。いたつらに貪名愛利にしつめ T2582_.82.0298b03: らんもの。官途世路をむさほるともから。 T2582_.82.0298b04: 不足言なるへし。いま大宋國に。寡聞愚鈍 T2582_.82.0298b05: のともからおほし。かれらがいはく。佛法 T2582_.82.0298b06: と。孔子老子の法と一致にして。異轍にあ T2582_.82.0298b07: らす T2582_.82.0298b08: 大宋嘉泰中。有り僧正受と云ふもの撰進す普燈録 T2582_.82.0298b09: 三十卷。曰く。臣聞くに孤山智圓の之言を。曰く。吾か T2582_.82.0298b10: 道如く鼎の也。三教は如し足の。足一も虧けぬれは而鼎 T2582_.82.0298b11: 覆焉。臣嘗て慕ひ其の人を稽其の説を。乃ち知んぬ。 T2582_.82.0298b12: 儒の之爲る教。其の要在り誠意に。道の之爲る教。其の T2582_.82.0298b13: 要在り虚心に釋の之爲る教。其の要在り見性に。誠 T2582_.82.0298b14: 意や也。虚心や也。見性や也。異にし名を同うす體を。究る T2582_.82.0298b15: 厥攸を歸する。無適と而不るは與此の道會せ云云 T2582_.82.0298b16:  かくのことく僻計生見のともからのみ T2582_.82.0298b17: おほし。智圓。正受のみにはあらす。この T2582_.82.0298b18: ともからは。四禪をえて四果とおもはん T2582_.82.0298b19: よりも。そのあやまりふかし。謗佛。謗法。 T2582_.82.0298b20: 謗僧なるへし。すてに撥無解脱なり。撥 T2582_.82.0298b21: 無三世なり。撥無因果なり。莽莽蕩蕩と招く T2582_.82.0298b22: 殃禍をうたかひなし。三寶。四諦。四沙門の果 T2582_.82.0298b23: なしとおもひしともからにひとし。佛法 T2582_.82.0298b24: いまた其要見性にあらす。七佛。西天二十 T2582_.82.0298b25: 八祖。いつれのところにか佛法たた見性 T2582_.82.0298b26: のみなりとある。六祖壇經に見性の言あ T2582_.82.0298b27: り。かの書これ僞書なり。付法藏の書にあ T2582_.82.0298b28: らす。曹谿の言句にあらす。佛祖の兒孫。ま T2582_.82.0298b29: たく依用せさる書なり。正受。智圓。いまた T2582_.82.0298c01: 佛法の一隅をしらさるによりて。一鼎三 T2582_.82.0298c02: 足の邪計をなす T2582_.82.0298c03: 古徳曰く。老子。莊子。尚ほ自ら未た識ら小乘の能 T2582_.82.0298c04: 著所著。能破所破を。況や大乘中の。若著若破をや。 T2582_.82.0298c05: 是の故に不與佛法少しも同から。然れは者世間の愚者は。 T2582_.82.0298c06: 迷ひ於名相に。濫禪の者惑ひ於正理に。欲するも將もつて T2582_.82.0298c07: 道徳逍遥の之名を齊しめんと於佛法解脱之説に。豈に T2582_.82.0298c08: 可けんや得乎 むかしより名相にまよふも T2582_.82.0298c09: の。正理をしらさるともから。佛法をもて。 T2582_.82.0298c10: 莊子老子にひとしむるなり。いささかも T2582_.82.0298c11: 佛法の稽古あるともからは。むかしより T2582_.82.0298c12: 莊子老子をおもくする。一人なし T2582_.82.0298c13: 清淨法行經に曰く。月光菩薩。彼に稱し顏回と。光 T2582_.82.0298c14: 淨菩薩。彼に稱し仲尼と。迦葉菩薩。彼に稱す老 T2582_.82.0298c15: 子と云云 むかしよりこの經の説を擧し T2582_.82.0298c16: て。孔子老子等も菩薩なれは。その説ひそ T2582_.82.0298c17: かに佛説におなしかるへし。いととまた T2582_.82.0298c18: 佛のつかひならん。その説おのつから佛 T2582_.82.0298c19: 説ならんといふ。この説みな非なり。古徳 T2582_.82.0298c20: 曰く。準するに諸の目録に。皆な推め此の經を。以て爲す疑 T2582_.82.0298c21: 僞と云云。いまこの説によらは。いよいよ T2582_.82.0298c22: 佛法と。孔老とことなるへし。すてにこれ T2582_.82.0298c23: 菩薩なり。佛果にひとしかるへからす。ま T2582_.82.0298c24: た和光應迹の功徳は。ひとり三世諸佛菩 T2582_.82.0298c25: 薩の法なり。俗塵凡夫の所能にあらす。實 T2582_.82.0298c26: 業の凡夫。いかてか應迹に自在あらん。孔 T2582_.82.0298c27: 子いまた應迹の説なし。いはんや孔老は T2582_.82.0298c28: 先因をしらす。當果をとかす。わつかに一 T2582_.82.0298c29: 世の忠孝をもて。きみにつかへ。家よをさ T2582_.82.0299a01: むる術をむねとするなり。さらに後世の T2582_.82.0299a02: 説なし。すてにこれ斷見の流類なるへし。 T2582_.82.0299a03: 莊老をきらふに。小乘なほしらす。いは T2582_.82.0299a04: んや大乘をやといふは。上古の明師なり。 T2582_.82.0299a05: 三教一致といふは。智圓。正受なり。後代澆 T2582_.82.0299a06: 季。愚闇の凡夫なり。なんちなんの勝出あ T2582_.82.0299a07: れはか。上古の先徳の所説をさみして。み T2582_.82.0299a08: たりに佛法と。孔老とひとしかるへしと T2582_.82.0299a09: いふ。なんたちか所見。すへて佛法の通塞 T2582_.82.0299a10: を論するにたへす。負笈して明師に參學 T2582_.82.0299a11: すへし。智圓正受。なんちら大小兩乘すへ T2582_.82.0299a12: ていまたしらさるなり。四禪をえて四果 T2582_.82.0299a13: とおもひしよりもくらし。かなしむへし T2582_.82.0299a14: 澆風のあふくところ。かくのことくの魔 T2582_.82.0299a15: 子おほかることを T2582_.82.0299a16: 古徳曰く。如きは孔丘姫旦の之語。三皇五帝之 T2582_.82.0299a17: 書の。孝は以て治め家を。忠は以て治め國を。輔は以て利す民を。 T2582_.82.0299a18: 只た是れ一世の之内。不渡ら過未に。未た齊から佛法の T2582_.82.0299a19: 之益するに於三世を。豈不んや謬ら乎 まことなる T2582_.82.0299a20: かな古徳の語。よく佛法の至理に達せり。 T2582_.82.0299a21: 世俗の道理にあきらかなり。三皇。五帝の T2582_.82.0299a22: 語。いまた轉輪聖王のをしへにおよふへ T2582_.82.0299a23: からす。梵王。帝釋の説にならへ論すへか T2582_.82.0299a24: らす。統領するところ。所得の果報。はる T2582_.82.0299a25: かに劣なるへし。輪王。梵王。帝釋。なほ出 T2582_.82.0299a26: 家受具の比丘におよはす。いかにいはん T2582_.82.0299a27: や如來にひとしからんや。孔丘姫旦の T2582_.82.0299a28: 書。また天竺の十八大經におよふへから T2582_.82.0299a29: す。四韋陀の典籍にならへかたし。西天婆 T2582_.82.0299b01: 羅門教。いまた佛教にひとしからさるな T2582_.82.0299b02: り。なほ小乘聲聞教にひとしからす。あは T2582_.82.0299b03: れむへし震旦。小國邊方にして。三教一 T2582_.82.0299b04: 致の邪説あることを T2582_.82.0299b05: 第十四祖龍樹菩薩の曰く。大阿羅漢。辟支佛は。 T2582_.82.0299b06: 知り八萬大劫を。諸の大菩薩は。及へり知るに無量劫を T2582_.82.0299b07:  孔老等。いまた一世のうちの前後をし T2582_.82.0299b08: らす。一生二生の宿通あらんや。いかにい T2582_.82.0299b09: はんや一劫をしらんや。いかにいはんや T2582_.82.0299b10: 百劫千劫をしらんや。いかにいはんや八 T2582_.82.0299b11: 萬大劫をしらんや。いかにいはんや無量 T2582_.82.0299b12: 劫をしらんや。この無量劫をあきらかに T2582_.82.0299b13: てらししれること。たなこころをみるよ T2582_.82.0299b14: りもあきらかなる諸佛菩薩を。孔老等に T2582_.82.0299b15: 比類せん。愚闇といふにもたらさるなり。 T2582_.82.0299b16: みみをおほふて。三教一致の言をきくこ T2582_.82.0299b17: となかれ。邪説中最邪説なり T2582_.82.0299b18: 莊子曰く。貴賤苦樂。是非得失。皆な是れ自然 T2582_.82.0299b19: この見すてに西國の自然見の外道の流 T2582_.82.0299b20: 類なり。貴賤苦樂。是非得失。みなこれ善 T2582_.82.0299b21: 惡業の感するところなり。滿業引業をし T2582_.82.0299b22: らす。過去來世をあきらめさるかゆゑに。 T2582_.82.0299b23: 現在にくらし。いかてか佛法にひとしか T2582_.82.0299b24: らん。あるかいはく。諸佛如來。ひろく法界 T2582_.82.0299b25: を證するゆゑに。微塵法界。みな諸佛の所 T2582_.82.0299b26: 證なり。しかあれは依正二報。ともに如來 T2582_.82.0299b27: の所説となりぬるかゆゑに。山河大地。日 T2582_.82.0299b28: 月星辰。四倒三毒。みな如來の所説なり。山 T2582_.82.0299b29: 河をみるは。如來をみるなり。三毒四倒。佛 T2582_.82.0299c01: 法にあらすといふことなし。微塵をみる T2582_.82.0299c02: は。法界をみるにひとし。造次顛沛。みな T2582_.82.0299c03: 三菩提なり。これを大解脱といふ。これを T2582_.82.0299c04: 單傳直指の祖道となつく。かくのことく T2582_.82.0299c05: いふともから。稻麻竹葦のことく。朝野に T2582_.82.0299c06: 遍滿せり。しかあれともこのともから。た T2582_.82.0299c07: れ人の兒孫といふことあきらかならす。 T2582_.82.0299c08: すへて佛祖の道をしらさるなり。たとひ T2582_.82.0299c09: 諸佛の所説となるとも。山河大地。たちま T2582_.82.0299c10: ちに凡夫の所見なかるへきにあらす。諸 T2582_.82.0299c11: 佛の所説となる道理をならはす。きかさ T2582_.82.0299c12: るなり。なんち微塵をみるは。法界をみる T2582_.82.0299c13: にひとしといふ。たみの。王にひとしとい T2582_.82.0299c14: はんかことし。またなんそ法界をみて。微 T2582_.82.0299c15: 塵にひとしといはさる。このともからの T2582_.82.0299c16: 所見を。佛祖の大道とせは。諸佛出世すへ T2582_.82.0299c17: からす。祖師出現すへからす。衆生得道す T2582_.82.0299c18: へからさるなり。たとひ生即無生と體達 T2582_.82.0299c19: すとも。この道理にあらす T2582_.82.0299c20: 眞諦三藏云く。震旦有り二福。一に無く羅刹。二 T2582_.82.0299c21: 無し外道 このことは。まことに西國の T2582_.82.0299c22: 外道婆羅門の傳來せるなり。得通の外道 T2582_.82.0299c23: なしといふとも。外道の見をおこすとも T2582_.82.0299c24: からなかるへきにあらす。羅刹はいまた T2582_.82.0299c25: みえす。外道の流類はなきにあらす。小國 T2582_.82.0299c26: 邊地のゆゑに。中印度のことくにあらさ T2582_.82.0299c27: ることは。佛法もわつかに修習すといへ T2582_.82.0299c28: とも。印度のことくに證をとれるなし T2582_.82.0299c29: 古徳曰く。今時多く有り還俗の者。畏憚王役を。 T2582_.82.0300a01: 入り外道の中に。偸み佛法の義を。竊に解し莊老を。遂に T2582_.82.0300a02: 成し混雜を。迷惑せしむ初心を。孰れか正孰れか邪に。是れを爲す T2582_.82.0300a03: 發得するの韋陀法を之見と しるへし佛法と。 T2582_.82.0300a04: 莊老と。いつれか正。いつれか邪をしらす。 T2582_.82.0300a05: 混雜するは。初心のともからを迷惑する。 T2582_.82.0300a06: いまの智圓。正受等これなり。たた愚昧の T2582_.82.0300a07: はなはたしきのみにあらす。稽古なきの T2582_.82.0300a08: いたり。顯然なり。炳焉なり。近日宋朝の僧 T2582_.82.0300a09: 徒。ひとりとしても孔老は。佛法におよは T2582_.82.0300a10: すとしれるともからなし。なほ佛祖の兒 T2582_.82.0300a11: 孫になれるともから。稻麻竹葦のことく。 T2582_.82.0300a12: 九州の山野にみてりといふとも。孔老の T2582_.82.0300a13: ほかに。佛法すくれいてたりと曉了せる。 T2582_.82.0300a14: 一人半人あらす。ひとり先師天童古佛の T2582_.82.0300a15: み。佛法と。孔老とひとつにあらすと曉了 T2582_.82.0300a16: せり。晝夜に施設せり。經論師また講者の T2582_.82.0300a17: 名あれとも。佛法はるかに孔老の邊を勝 T2582_.82.0300a18: 出せりと曉了せるなし。近代一百年來の T2582_.82.0300a19: 講者。おほく參禪學道のともからの儀を T2582_.82.0300a20: まなひ。その解會をぬすまんとす。もとも T2582_.82.0300a21: あやまれりといふへし。孔子の書に生知 T2582_.82.0300a22: 者あり。佛教には生知者なし。佛法には舍 T2582_.82.0300a23: 利の説あり。孔老舍利の有無をしらす。一 T2582_.82.0300a24: にして混雜せんとおもふとも。廣説の通 T2582_.82.0300a25: 塞。つひに不得ならん。論語に云く。生れなからに而 T2582_.82.0300a26: 知るは之を上みなり。學て而知る者は次きなり。困んて而學ふは之を。 T2582_.82.0300a27: 又た其の次きなり也。困んて而不る學は。民斯れを爲す下もと矣。 T2582_.82.0300a28: もし生知あらは。無因のとがあり。佛法に T2582_.82.0300a29: は無因の説なし。四禪比丘は。臨命終のと T2582_.82.0300b01: き。たちまちに謗佛のつみに墮す。佛法を T2582_.82.0300b02: もて。孔老の教にひとしとおもはん。一 T2582_.82.0300b03: 生のうちより謗佛のつみふかかるへし。 T2582_.82.0300b04: 學者はやく佛法と。孔老と一致なりと邪 T2582_.82.0300b05: 計する解をなけすつへし。この見たくは T2582_.82.0300b06: へてすてすは。つひに惡趣に墮すへし。學 T2582_.82.0300b07: 者あきらかにしるへし。孔老は三世の法 T2582_.82.0300b08: をしらす。因果の道理をしらす。一洲の安 T2582_.82.0300b09: 立をしらす。いはんや四洲の安立をしら T2582_.82.0300b10: んや。六天のことなほしらす。いはんや三 T2582_.82.0300b11: 界九地の法をしらんや。小千界をしらす。 T2582_.82.0300b12: 中千界をしるへからす。三千大千世界を T2582_.82.0300b13: みることあらんや。しることあらんや。震 T2582_.82.0300b14: 旦一國に。なほ小臣にして。帝位にのほら T2582_.82.0300b15: す。三千大千世界に王たる如來に比すへ T2582_.82.0300b16: からす。如來は。梵天。帝釋。轉輪聖王等。晝 T2582_.82.0300b17: 夜に恭敬侍衞し。恒時に説法を請したて T2582_.82.0300b18: まつる。孔老にかくのことくの徳なし。た T2582_.82.0300b19: たこれ流轉の凡夫なり。いまた出離解脱 T2582_.82.0300b20: の道をしらす。いかてか如來のことく諸 T2582_.82.0300b21: 法實相を究盡することあらん。もしいま T2582_.82.0300b22: た究盡せすは。なにによりてか世尊にひ T2582_.82.0300b23: としとせん。孔老内徳なし。外用なし。世尊 T2582_.82.0300b24: におよふへからす。三教一致の邪説をは T2582_.82.0300b25: かんや。孔老。世界の有邊際。無邊際を通 T2582_.82.0300b26: 達すへからす。廣をみす。しらす。大をしら T2582_.82.0300b27: す。みさるのみにあらす。極微色をみす。刹 T2582_.82.0300b28: 那量をしるへからす。世尊あきらかに極 T2582_.82.0300b29: 微色をみ。刹那量をしらせたまふ。いか T2582_.82.0300c01: にしてか孔老にひとしめたてまつらん。 T2582_.82.0300c02: 孔。老。莊子。惠子等は。たたこれ凡夫なり。な T2582_.82.0300c03: ほ小乘の須陀洹におよふへからす。いか T2582_.82.0300c04: にいはんや第二第三第四の阿羅漢におよ T2582_.82.0300c05: はんや。しかあるを學者くらきによりて。 T2582_.82.0300c06: 諸佛にひとしむる。迷中又深迷なり。孔老 T2582_.82.0300c07: は三世をしらす。多劫をしらさるのみに T2582_.82.0300c08: あらす。一念しるへからす。一心しるへか T2582_.82.0300c09: らす。なほ日月天に比すへからす。四大 T2582_.82.0300c10: 王。衆天におよふへからさるなり。世尊に T2582_.82.0300c11: 比せは。世間。出世間に迷惑するなり T2582_.82.0300c12: 列傳に云く。喜爲たり周の大夫と善くす星象を。因て見るに T2582_.82.0300c13: 異氣を。而東に迎ふ之を。果得たり老子を。請著しむ書 T2582_.82.0300c14: 五千有言を。喜欲す從ひ聃に求めんと去るを。聃云く。若し T2582_.82.0300c15: 欲せは志心に求めんと去るを。當に將ち父母等七人の T2582_.82.0300c16: 頭を來る。乃ち可し得去るを。喜乃ち從ふ教へに。七 T2582_.82.0300c17: 頭皆な變す豬頭と。古徳云く。然るに俗典の孝儒。尚ほ T2582_.82.0300c18: 尊ふ木像を。老聃設るに化を。令む喜を害せ親を。如來の。 T2582_.82.0300c19: 教門は。大慈を爲す本と。如何んそ老氏。逆を爲るや化 T2582_.82.0300c20: 原と むかしは老聃をもて。世尊にひとし T2582_.82.0300c21: むる邪黨あり。いまは孔老ともに世尊に T2582_.82.0300c22: ひとししといふ愚侶あり。あはれまさら T2582_.82.0300c23: めやは。孔老なほ轉輪聖王の。十善をもて T2582_.82.0300c24: 世間を化するにおよふへからす。三皇。五 T2582_.82.0300c25: 帝。いかてか金銀銅鐵諸轉輪王の七寶千 T2582_.82.0300c26: 子具足して。あるひは四天下を化し。あ T2582_.82.0300c27: るひは三千界を領せるにおよはん。孔老 T2582_.82.0300c28: はいまたこれにも比すへからす。過現當 T2582_.82.0300c29: 來の諸佛諸祖。ともに父母師僧三寶に孝 T2582_.82.0301a01: 順し。病人等を供養するを化原とせり。害 T2582_.82.0301a02: 親を化原とせる。いまたむかしよりあら T2582_.82.0301a03: さるところなり。しかあれはすなはち老 T2582_.82.0301a04: 聃と佛法と。ひとつにあらす。父母殺害す T2582_.82.0301a05: るは。かならす順次生業にして。泥犁に墮 T2582_.82.0301a06: すること必定なり。たとひ老聃みたりに T2582_.82.0301a07: 虚無を談するとも。父母を害せんもの。生 T2582_.82.0301a08: 報をまぬかれさらん T2582_.82.0301a09: 傳燈録に云く。二祖毎歎云く。孔老の之教は。禮術 T2582_.82.0301a10: 風規なり。莊易の之書。未た盡さ妙理を。近ろ聞く達磨 T2582_.82.0301a11: 大士。住止すと少林に。至人不遥なら。當に造は玄境に T2582_.82.0301a12:  いまのともから。あきらかに信すへし。 T2582_.82.0301a13: 佛法の振旦に正傳せることは。たたひと T2582_.82.0301a14: へに二祖參學のちからなり。初祖たとひ T2582_.82.0301a15: 西來せりとも。二祖をえすは。佛法つたは T2582_.82.0301a16: れさらん。二祖もし佛法をつたへすは。東 T2582_.82.0301a17: 地いまに佛法なからん。おほよそ二祖は T2582_.82.0301a18: 餘輩に群すへからす T2582_.82.0301a19: 傳燈録に云く。僧神光は者。曠達の士なり。久居りて伊 T2582_.82.0301a20: 洛に。博く覽群書を。善く談す玄理を むかし二祖 T2582_.82.0301a21: の群書を博覽すると。いまの人。書卷をみ T2582_.82.0301a22: ると。はるかにことなるへし。得法傳衣の T2582_.82.0301a23: のちも。むかしわれ孔老之教へは。禮術風規 T2582_.82.0301a24: とおもひしは。あやまりなりとしめすこ T2582_.82.0301a25: とばなし。しるへし二祖。すてに孔老は。佛 T2582_.82.0301a26: 法におよふことあらすと通達せり。いま T2582_.82.0301a27: の遠孫。なにとしてか祖父に違背して。佛 T2582_.82.0301a28: 法と一致なりといふや。まさにしるへし T2582_.82.0301a29: 邪説なりと。二祖の遠孫にてあらすは。正 T2582_.82.0301b01: 受等が説たれかもちゐん。二祖の兒孫た T2582_.82.0301b02: るへくは。三教一致といふことなかれ T2582_.82.0301b03: 如來在世に有り外道。名つく論力と。自ら謂らく。論議 T2582_.82.0301b04: 無學は等は者。其の力最も大なりと。故に曰ふ論力と。受けて T2582_.82.0301b05: 五百梨昌の募りを。撰し五百の明難を。來て難す世尊を。 T2582_.82.0301b06: 來至し佛の所に。而奉りて問ひ佛に云く。爲一究竟の T2582_.82.0301b07: 道とや。爲衆多究竟の道とや。佛言はく。唯一究竟道なり。 T2582_.82.0301b08: 論力云く。我れ等か諸師。各説く有りと究竟の道。以て T2582_.82.0301b09: 外道の中。各自ら謂ひ是と。毀訾し他の法を。互に相ひ是 T2582_.82.0301b10: 非するを故に。有り多道。世尊其の時。已に化し鹿頭を。 T2582_.82.0301b11: 成無學果を。在て佛邊に立つ。佛問ふ論力に。衆多 T2582_.82.0301b12: 道中。誰をか爲す第一と。論力云く。鹿頭第一なり也。佛 T2582_.82.0301b13: 言はく。其若第一ならは。云何そ捨てて其の道を。爲り我か弟 T2582_.82.0301b14: 子と。入るや我か道中に。論力見て既慚愧低頭し。歸依 T2582_.82.0301b15: 入道す。是の時佛説いて義品の偈を。曰はく。各各謂て究 T2582_.82.0301b16: 竟と。而各自ら愛著し。各是とし自を非とす他を。是れ皆な T2582_.82.0301b17: 非す究竟に。是の人入り論衆に。辨明し義涅槃を。各 T2582_.82.0301b18: 各相ひ是非し。勝負懷く憂喜を。勝者は墮し慢坑に。 T2582_.82.0301b19: 負者は墮す憂獄に。是の故に有智の者は。不墮せ此の二 T2582_.82.0301b20: 法に。論力汝當に知。我か諸の弟子の法は。無く虚も亦た T2582_.82.0301b21: 無し實も。汝欲す何の處にか求めんと。汝欲せは壞せんと我か論を。 T2582_.82.0301b22: 終已無し此の處り。一切知も難し明め。還て是れ自ら T2582_.82.0301b23: 毀壞すと いま世尊の金言。それかくのこと T2582_.82.0301b24: し。東土愚暗の衆生。みたりに佛教に違背 T2582_.82.0301b25: して。佛道とひとしき道ありといふこと T2582_.82.0301b26: なかれ。すなはち謗佛謗法となるへきな T2582_.82.0301b27: り。西天の鹿頭。竝に論力。乃至長爪梵志。先 T2582_.82.0301b28: 尼梵志等は。博學の人たり。東土にむかし T2582_.82.0301b29: よりいまたなし。孔老さらにおよふへか T2582_.82.0301c01: らさるなり。これらみなみつからか道を T2582_.82.0301c02: すてて。佛道に歸依す。いま孔老の俗人を T2582_.82.0301c03: もて。佛法に比類せんは。きかんものもつ T2582_.82.0301c04: みあるへし。いはんや阿羅漢。辟支佛も。み T2582_.82.0301c05: なつひに菩薩となる。一人としても小乘 T2582_.82.0301c06: にしてをはるものなし。いかてかいまた T2582_.82.0301c07: 佛道にいらさる孔老を。諸佛にひとしと T2582_.82.0301c08: いはんや。大邪見なるへし。おほよそ如來 T2582_.82.0301c09: 世尊。はるかに一切を超越しましますこ T2582_.82.0301c10: と。すなはち諸佛如來。諸大菩薩。梵天。帝 T2582_.82.0301c11: 釋。みなともにほめたてまつり。しりたて T2582_.82.0301c12: まつれるところなり。西天二十八祖。とも T2582_.82.0301c13: にしれるところなり。おほよそ參學のち T2582_.82.0301c14: からあるもの。みなともにしれり。いま澆 T2582_.82.0301c15: 運の衆生。宋朝愚暗のともからの。三教一 T2582_.82.0301c16: 致の狂言もちゐるへからす。不學のいた T2582_.82.0301c17: りなり T2582_.82.0301c18: 正法眼藏四禪比丘 T2582_.82.0301c19: 建長七年。乙卯夏安居日。以て御草案の本を T2582_.82.0301c20: 書し寫畢んぬ 懷奘 *訳 *論文 - 吉村 均 [[『神と仏の倫理思想―日本仏教を読み直す』>http://www.amazon.co.jp/神と仏の倫理思想―日本仏教を読み直す-吉村-均/dp/4779301866/ref=sr_1_2?ie=UTF8&s=books&qid=1245207261&sr=8-2]] -石井 修道 [[『四禅比丘』考 >http://ci.nii.ac.jp/naid/110000985584/]] -矢島 忠夫 [[『正法眼蔵』の改作 >http://repository.ul.hirosaki-u.ac.jp/dspace/bitstream/10129/279/1/AN00211590_ 99_15.pdf]]
#ref(http://farm3.static.flickr.com/2003/2113812748_6180cce1de.jpg?v=0) *テキスト -「四禅比丘」『正法眼蔵』  大正2582 82巻296頁中  水野弥穂子校注『正法眼蔵』岩波文庫、1990、第4巻 T2582_.82.0296b16: 正法眼藏四禪比丘 T2582_.82.0296b17: 第十四祖龍樹祖師言く。佛弟子の中に。有り一りの T2582_.82.0296b18: 比丘。得て第四禪を。生し増上慢を。謂もふ得たりと四 T2582_.82.0296b19: 果を。初め得しとき初禪を。謂ひ得たりと於須陀洹果を。得し T2582_.82.0296b20: 第二禪を時。謂ひ是れを斯陀含果と。得し第三禪を T2582_.82.0296b21: 時。謂ひ是れを阿那含果と。得し第四禪を時。謂ふ是れを T2582_.82.0296b22: 阿羅漢と。恃して是れを自ら高ふり。不復た求進せ。欲する命 T2582_.82.0296b23: 盡きん時。見るを有り四禪の中陰の相來を。便ち生し邪 T2582_.82.0296b24: 見を。謂ふ無し涅槃。佛爲欺くと我を。惡邪見の故に。 T2582_.82.0296b25: 失四禪の中陰を。便ち見み阿鼻泥犁の中陰の相を。命 T2582_.82.0296b26: 終即ち生す阿鼻泥犁の中に。諸の比丘問佛に曰。阿 T2582_.82.0296b27: 蘭若比丘。命終生するや何の處に。佛言はく。是の人 T2582_.82.0296b28: 生す阿鼻泥犁の中に。諸の比丘大に驚く。坐禪持 T2582_.82.0296b29: 戒。便ち至るや爾るに耶。佛如く前の答へて言はく。彼れ皆な T2582_.82.0296c01: 因り増上慢に。得し四禪を時。謂ひ得たりと四果を。臨 T2582_.82.0296c02: 命終の時に。見て四禪の中陰の相を。便ち生邪見を。謂へらく T2582_.82.0296c03: 無し涅槃。我れは是れ羅漢なり。今還て復た生す。佛爲すと虚 T2582_.82.0296c04: 誑を。是の時即ち見阿鼻泥犁の中陰の相を。命終即ち T2582_.82.0296c05: 生す阿鼻泥犁の中に。是の時佛説いて偈を言はく。多聞と T2582_.82.0296c06: 持戒と禪と。未た得漏盡の法を。雖有りと此の功徳。 T2582_.82.0296c07: 此の事難し可き信す。墮つるは獄に由る謗佛に。非すと關かるに T2582_.82.0296c08: 第四禪に この比丘を稱して。四禪比丘と T2582_.82.0296c09: いふ。または無聞比丘と稱す。四禪をえた T2582_.82.0296c10: るを。四果と僻計せることをいましめ。ま T2582_.82.0296c11: た謗佛の邪見をいましむ。人天大會。みな T2582_.82.0296c12: しれり。如來在世より。今日にいたるまて。 T2582_.82.0296c13: 西天東地。ともに是にあらさるを。是と執 T2582_.82.0296c14: せるをいましむとして。四禪をえて。四果 T2582_.82.0296c15: とおもふかことしとあさける。この比丘 T2582_.82.0296c16: の不是。しはらく略擧するに三種あり。第 T2582_.82.0296c17: 一には。みつから四禪と。四果とを分別す T2582_.82.0296c18: るにおよはさる無聞の身なから。いたつ T2582_.82.0296c19: らに師をはなれて。むなしく阿蘭若に獨 T2582_.82.0296c20: 處す。さいはひにこれ如來在世なり。つね T2582_.82.0296c21: に佛所に詣して。常恒に見佛聞法せは。か T2582_.82.0296c22: くのことくあやまりあるへからす。しか T2582_.82.0296c23: あるに阿蘭若に獨處して。佛所に詣せす。 T2582_.82.0296c24: つひに見佛聞法せさるによりて。かくの T2582_.82.0296c25: ことし。たとひ佛所に詣せすといふとも。 T2582_.82.0296c26: 諸大阿羅漢所にいたりて。教訓をうくへ T2582_.82.0296c27: し。いたつらに獨處する。増上慢のあやま T2582_.82.0296c28: りなり。第二には。初禪をえて初果とおも T2582_.82.0296c29: ひ。二禪をえて第二果とおもひ。三禪をえ T2582_.82.0297a01: て第三果とおもひ。四禪をえて第四果と T2582_.82.0297a02: おもふ。第二のあやまりなり。初二三禪の T2582_.82.0297a03: 相と。初二三果の相と。比類におよはす。た T2582_.82.0297a04: とることあらんや。これ無聞のとかによ T2582_.82.0297a05: れり。師につかへす。くらきによれるとか T2582_.82.0297a06: なり T2582_.82.0297a07: 優婆毱多弟子の中。有り一りの比丘。信心出家し。 T2582_.82.0297a08: 獲得四禪を。謂爲四果と。毱多方便令め往か他 T2582_.82.0297a09: 處に。於路に化作し群賊を。復た化作す五百の賈客を。 T2582_.82.0297a10: 賊劫し賈客を。殺害狼藉なり。比丘見て生す悙を即ち T2582_.82.0297a11: 便ち自ら念ふ。我れは非す羅漢に。應し是れ第三果なる。賈客 T2582_.82.0297a12: 亡後ち。有り長者の女。語けて比丘に言く。唯願くは大徳。 T2582_.82.0297a13: 與我れ共に去れ。比丘答へて言く。佛不許さ我れ與 T2582_.82.0297a14: 女人行くを。女言く。我れ望んて大徳を而も隨はん其の T2582_.82.0297a15: 後に。比丘憐愍。相ひ望んて而行く。尊者次て復た變 T2582_.82.0297a16: 作す大河を。女人言く。大徳。可し共に我れと度る。比 T2582_.82.0297a17: 丘は在り下流に。女は在り上流に。女便ち墮す水に。白 T2582_.82.0297a18: 言く。大徳濟へ我れを。爾の時に比丘手を接而出す。生し T2582_.82.0297a19: 細滑の想を。起す愛欲の心を。即ち自ら知り非すと阿那 T2582_.82.0297a20: 含に。於て此の女人に。極めて生し愛著を將井て向ひ屏處に。 T2582_.82.0297a21: 欲す共に交通せんと。方に見て是れ師なるを。生し大慚愧を。低 T2582_.82.0297a22: 頭而立し。尊者語けて言。汝曾て自ら謂是れ阿羅漢と。 T2582_.82.0297a23: 云何そ欲するやと爲さんと如き此の惡事を。將井て至り僧中に。 T2582_.82.0297a24: 教め其を懺悔せ。爲めに説く法要を。得たり阿羅漢を  T2582_.82.0297a25: この比丘。はしめ生見のあやまりあれと T2582_.82.0297a26: も。殺害の狼藉をみるにおそれを生す。と T2582_.82.0297a27: きにわれ羅漢にあらすとおもふ。なほ第 T2582_.82.0297a28: 三果なるへしとおもふあやまりあり。の T2582_.82.0297a29: ちに細滑の想によりて。愛欲の心を生す T2582_.82.0297b01: るに。阿那含にあらすとしる。さらに謗佛 T2582_.82.0297b02: のおもひを生せす。謗法のおもひなし。聖 T2582_.82.0297b03: 教にそむくおもひにあらす。四禪比丘に T2582_.82.0297b04: はひとしからす。この比丘は。聖教を習學 T2582_.82.0297b05: せるちからあるによりて。みつから阿羅 T2582_.82.0297b06: 漢にあらす。阿那含にあらすとしるなり。 T2582_.82.0297b07: いまの無聞のともからは。阿羅漢はいか T2582_.82.0297b08: なりともしらす。佛はいかなりともしら T2582_.82.0297b09: さるかゆゑに。みつから阿羅漢にあらす。 T2582_.82.0297b10: 佛にあらすともしらす。みたりにわれは T2582_.82.0297b11: 佛なりとのみおもひいふは。おほいなる T2582_.82.0297b12: あやまりなり。ふかきとかなるへし。學者 T2582_.82.0297b13: まつすへからく佛はいかなるへしとなら T2582_.82.0297b14: ふへきなり T2582_.82.0297b15: 古徳曰く。故に知る習ふ聖教を者。薄知れは次位を。 T2582_.82.0297b16: 縱ひ生す逾濫を。亦た易し開解し まことなるか T2582_.82.0297b17: な古徳の語。たとひ生見のあやまりあり T2582_.82.0297b18: とも。すこしきも佛法を習學せらんとも T2582_.82.0297b19: からは。みつからにも欺誑せられし。他人 T2582_.82.0297b20: にも欺誑せられじ T2582_.82.0297b21: 曾て聞く。有り人自ら謂成佛すと。待て天不曉け。謂爲 T2582_.82.0297b22: 魔障と。曉已るに不見梵王の請するを説法を。自ら知り T2582_.82.0297b23: 非すと佛に。自ら謂是れ阿羅漢と。又た被れて他人に罵ら T2582_.82.0297b24: 之。心に生し異念を。自ら知り非と是れ阿羅漢に。仍謂 T2582_.82.0297b25: 是れ第三果なりと也。又た見て女人を起し欲想て。知る T2582_.82.0297b26: 非と聖人に。此れも亦た良に由るか知るに教相を故に。乃ち T2582_.82.0297b27: 如き是の也 それ佛法をしれるは。かくの T2582_.82.0297b28: ことくみつからか非を覺知し。はやくあ T2582_.82.0297b29: やまりをなけすつ。しらさるともからは。 T2582_.82.0297c01: 一生むなしく愚蒙のなかにあり。生より T2582_.82.0297c02: 生をうくるも。またかくのことくなるへ T2582_.82.0297c03: し。この優婆毱多の弟子は。四禪をえて四 T2582_.82.0297c04: 果とおもふといへとも。さらに我非羅漢 T2582_.82.0297c05: の智あり。無聞比丘も。臨む命終にのとき。四 T2582_.82.0297c06: 禪の中陰みゆることあらんに。我れは非す羅 T2582_.82.0297c07: 漢にとしらは。謗佛の罪あるへからす。い T2582_.82.0297c08: はんや四禪をえてのちひさし。なんそ四 T2582_.82.0297c09: 果にあらすとかへりみしらさらん。すて T2582_.82.0297c10: に四果にあらすとしらは。なんそあらた T2582_.82.0297c11: めさらん。いたつらに僻計にととこほり。 T2582_.82.0297c12: むなしく邪見にしつめり。第三には。命終 T2582_.82.0297c13: のとき。おほきなるあやまりあり。そのと T2582_.82.0297c14: かふかくして。つひに阿鼻地獄におちぬ T2582_.82.0297c15: るなり。たとひなんち一生のあひた。四禪 T2582_.82.0297c16: を四果とおもひきたれりとも。臨む命終に T2582_.82.0297c17: のとき。四禪の中陰みゆることあらは。一 T2582_.82.0297c18: 生のあやまりを懺悔して。四果にはあら T2582_.82.0297c19: さりきとおもふへし。いかてか佛われを T2582_.82.0297c20: 欺誑して。涅槃なきに。涅槃ありと施設せ T2582_.82.0297c21: させたまふとおもふへき。これ無聞のと T2582_.82.0297c22: かなり。このつみすてに謗佛なり。これに T2582_.82.0297c23: よりて阿鼻の中陰現して。命終して阿鼻 T2582_.82.0297c24: 地獄におちぬ。たとひ四果の聖者なりと T2582_.82.0297c25: も。いかてか如來におよはん。舍利弗はひ T2582_.82.0297c26: さしくこれ四果の聖者なり。三千大千世 T2582_.82.0297c27: 界所有の智慧をあつめて。如來をのそき T2582_.82.0297c28: たてまつりて。ほかを一分とし。舍利弗の T2582_.82.0297c29: 智意を十六分にせる一分と。三千大千世 T2582_.82.0298a01: 界所有の智慧とを格量するに。舍利弗の T2582_.82.0298a02: 十六分の一分におよはさるなり。しかあ T2582_.82.0298a03: れとも如來未た曾て説かの法をときましま T2582_.82.0298a04: すをききて。前後の佛説ことにして。われ T2582_.82.0298a05: を欺誑しましますとおもはす。波旬無し此 T2582_.82.0298a06: 事とほめたてまつる。如來は福増をわた T2582_.82.0298a07: し。舍利弗は福増をわたさす。四果と佛果 T2582_.82.0298a08: と。はるかにことなることかくのことし。 T2582_.82.0298a09: たとひ舍利弗。およひもろもろの弟子の T2582_.82.0298a10: ことくならん。十方界にみちみてらん。と T2582_.82.0298a11: もに佛智を測量せんことうへからす。孔 T2582_.82.0298a12: 老にかくのことくの功徳。いまたなし。佛 T2582_.82.0298a13: 法を習學せんもの。たれか孔老を測度せ T2582_.82.0298a14: さらん。孔老を習學するもの。佛法を測量 T2582_.82.0298a15: すること。いまたなし。いま大宋國のとも T2582_.82.0298a16: から。おほく孔老と佛道と一致の道理を T2582_.82.0298a17: たつ。僻見もともふかきものなり。しもに T2582_.82.0298a18: まさに廣説すへし。四禪比丘。みつからか T2582_.82.0298a19: 僻見をまこととして。如來の欺誑しまし T2582_.82.0298a20: ますとおもふ。なかく佛道を違背したて T2582_.82.0298a21: まつるなり。愚癡のはなはたしき。六師等 T2582_.82.0298a22: にひとしかるへし T2582_.82.0298a23: 古徳曰く。大師の在世。尚ほ有り僻計生見の之人。 T2582_.82.0298a24: 況や滅度の後。無く師も不る得禪を者をや いま大師 T2582_.82.0298a25: とは。佛世尊なり。まことに世尊在世。出 T2582_.82.0298a26: 家受具せる。なほ無聞によりては。僻計生 T2582_.82.0298a27: 見のあやまりのかれかたし。いはんや如 T2582_.82.0298a28: 來滅後。五五百歳。邊地下賤の時處。あや T2582_.82.0298a29: まりなからんや。四禪を發せるもの。なほ T2582_.82.0298b01: かくのことし。いはんや四禪を發するに T2582_.82.0298b02: およはす。いたつらに貪名愛利にしつめ T2582_.82.0298b03: らんもの。官途世路をむさほるともから。 T2582_.82.0298b04: 不足言なるへし。いま大宋國に。寡聞愚鈍 T2582_.82.0298b05: のともからおほし。かれらがいはく。佛法 T2582_.82.0298b06: と。孔子老子の法と一致にして。異轍にあ T2582_.82.0298b07: らす T2582_.82.0298b08: 大宋嘉泰中。有り僧正受と云ふもの撰進す普燈録 T2582_.82.0298b09: 三十卷。曰く。臣聞くに孤山智圓の之言を。曰く。吾か T2582_.82.0298b10: 道如く鼎の也。三教は如し足の。足一も虧けぬれは而鼎 T2582_.82.0298b11: 覆焉。臣嘗て慕ひ其の人を稽其の説を。乃ち知んぬ。 T2582_.82.0298b12: 儒の之爲る教。其の要在り誠意に。道の之爲る教。其の T2582_.82.0298b13: 要在り虚心に釋の之爲る教。其の要在り見性に。誠 T2582_.82.0298b14: 意や也。虚心や也。見性や也。異にし名を同うす體を。究る T2582_.82.0298b15: 厥攸を歸する。無適と而不るは與此の道會せ云云 T2582_.82.0298b16:  かくのことく僻計生見のともからのみ T2582_.82.0298b17: おほし。智圓。正受のみにはあらす。この T2582_.82.0298b18: ともからは。四禪をえて四果とおもはん T2582_.82.0298b19: よりも。そのあやまりふかし。謗佛。謗法。 T2582_.82.0298b20: 謗僧なるへし。すてに撥無解脱なり。撥 T2582_.82.0298b21: 無三世なり。撥無因果なり。莽莽蕩蕩と招く T2582_.82.0298b22: 殃禍をうたかひなし。三寶。四諦。四沙門の果 T2582_.82.0298b23: なしとおもひしともからにひとし。佛法 T2582_.82.0298b24: いまた其要見性にあらす。七佛。西天二十 T2582_.82.0298b25: 八祖。いつれのところにか佛法たた見性 T2582_.82.0298b26: のみなりとある。六祖壇經に見性の言あ T2582_.82.0298b27: り。かの書これ僞書なり。付法藏の書にあ T2582_.82.0298b28: らす。曹谿の言句にあらす。佛祖の兒孫。ま T2582_.82.0298b29: たく依用せさる書なり。正受。智圓。いまた T2582_.82.0298c01: 佛法の一隅をしらさるによりて。一鼎三 T2582_.82.0298c02: 足の邪計をなす T2582_.82.0298c03: 古徳曰く。老子。莊子。尚ほ自ら未た識ら小乘の能 T2582_.82.0298c04: 著所著。能破所破を。況や大乘中の。若著若破をや。 T2582_.82.0298c05: 是の故に不與佛法少しも同から。然れは者世間の愚者は。 T2582_.82.0298c06: 迷ひ於名相に。濫禪の者惑ひ於正理に。欲するも將もつて T2582_.82.0298c07: 道徳逍遥の之名を齊しめんと於佛法解脱之説に。豈に T2582_.82.0298c08: 可けんや得乎 むかしより名相にまよふも T2582_.82.0298c09: の。正理をしらさるともから。佛法をもて。 T2582_.82.0298c10: 莊子老子にひとしむるなり。いささかも T2582_.82.0298c11: 佛法の稽古あるともからは。むかしより T2582_.82.0298c12: 莊子老子をおもくする。一人なし T2582_.82.0298c13: 清淨法行經に曰く。月光菩薩。彼に稱し顏回と。光 T2582_.82.0298c14: 淨菩薩。彼に稱し仲尼と。迦葉菩薩。彼に稱す老 T2582_.82.0298c15: 子と云云 むかしよりこの經の説を擧し T2582_.82.0298c16: て。孔子老子等も菩薩なれは。その説ひそ T2582_.82.0298c17: かに佛説におなしかるへし。いととまた T2582_.82.0298c18: 佛のつかひならん。その説おのつから佛 T2582_.82.0298c19: 説ならんといふ。この説みな非なり。古徳 T2582_.82.0298c20: 曰く。準するに諸の目録に。皆な推め此の經を。以て爲す疑 T2582_.82.0298c21: 僞と云云。いまこの説によらは。いよいよ T2582_.82.0298c22: 佛法と。孔老とことなるへし。すてにこれ T2582_.82.0298c23: 菩薩なり。佛果にひとしかるへからす。ま T2582_.82.0298c24: た和光應迹の功徳は。ひとり三世諸佛菩 T2582_.82.0298c25: 薩の法なり。俗塵凡夫の所能にあらす。實 T2582_.82.0298c26: 業の凡夫。いかてか應迹に自在あらん。孔 T2582_.82.0298c27: 子いまた應迹の説なし。いはんや孔老は T2582_.82.0298c28: 先因をしらす。當果をとかす。わつかに一 T2582_.82.0298c29: 世の忠孝をもて。きみにつかへ。家よをさ T2582_.82.0299a01: むる術をむねとするなり。さらに後世の T2582_.82.0299a02: 説なし。すてにこれ斷見の流類なるへし。 T2582_.82.0299a03: 莊老をきらふに。小乘なほしらす。いは T2582_.82.0299a04: んや大乘をやといふは。上古の明師なり。 T2582_.82.0299a05: 三教一致といふは。智圓。正受なり。後代澆 T2582_.82.0299a06: 季。愚闇の凡夫なり。なんちなんの勝出あ T2582_.82.0299a07: れはか。上古の先徳の所説をさみして。み T2582_.82.0299a08: たりに佛法と。孔老とひとしかるへしと T2582_.82.0299a09: いふ。なんたちか所見。すへて佛法の通塞 T2582_.82.0299a10: を論するにたへす。負笈して明師に參學 T2582_.82.0299a11: すへし。智圓正受。なんちら大小兩乘すへ T2582_.82.0299a12: ていまたしらさるなり。四禪をえて四果 T2582_.82.0299a13: とおもひしよりもくらし。かなしむへし T2582_.82.0299a14: 澆風のあふくところ。かくのことくの魔 T2582_.82.0299a15: 子おほかることを T2582_.82.0299a16: 古徳曰く。如きは孔丘姫旦の之語。三皇五帝之 T2582_.82.0299a17: 書の。孝は以て治め家を。忠は以て治め國を。輔は以て利す民を。 T2582_.82.0299a18: 只た是れ一世の之内。不渡ら過未に。未た齊から佛法の T2582_.82.0299a19: 之益するに於三世を。豈不んや謬ら乎 まことなる T2582_.82.0299a20: かな古徳の語。よく佛法の至理に達せり。 T2582_.82.0299a21: 世俗の道理にあきらかなり。三皇。五帝の T2582_.82.0299a22: 語。いまた轉輪聖王のをしへにおよふへ T2582_.82.0299a23: からす。梵王。帝釋の説にならへ論すへか T2582_.82.0299a24: らす。統領するところ。所得の果報。はる T2582_.82.0299a25: かに劣なるへし。輪王。梵王。帝釋。なほ出 T2582_.82.0299a26: 家受具の比丘におよはす。いかにいはん T2582_.82.0299a27: や如來にひとしからんや。孔丘姫旦の T2582_.82.0299a28: 書。また天竺の十八大經におよふへから T2582_.82.0299a29: す。四韋陀の典籍にならへかたし。西天婆 T2582_.82.0299b01: 羅門教。いまた佛教にひとしからさるな T2582_.82.0299b02: り。なほ小乘聲聞教にひとしからす。あは T2582_.82.0299b03: れむへし震旦。小國邊方にして。三教一 T2582_.82.0299b04: 致の邪説あることを T2582_.82.0299b05: 第十四祖龍樹菩薩の曰く。大阿羅漢。辟支佛は。 T2582_.82.0299b06: 知り八萬大劫を。諸の大菩薩は。及へり知るに無量劫を T2582_.82.0299b07:  孔老等。いまた一世のうちの前後をし T2582_.82.0299b08: らす。一生二生の宿通あらんや。いかにい T2582_.82.0299b09: はんや一劫をしらんや。いかにいはんや T2582_.82.0299b10: 百劫千劫をしらんや。いかにいはんや八 T2582_.82.0299b11: 萬大劫をしらんや。いかにいはんや無量 T2582_.82.0299b12: 劫をしらんや。この無量劫をあきらかに T2582_.82.0299b13: てらししれること。たなこころをみるよ T2582_.82.0299b14: りもあきらかなる諸佛菩薩を。孔老等に T2582_.82.0299b15: 比類せん。愚闇といふにもたらさるなり。 T2582_.82.0299b16: みみをおほふて。三教一致の言をきくこ T2582_.82.0299b17: となかれ。邪説中最邪説なり T2582_.82.0299b18: 莊子曰く。貴賤苦樂。是非得失。皆な是れ自然 T2582_.82.0299b19: この見すてに西國の自然見の外道の流 T2582_.82.0299b20: 類なり。貴賤苦樂。是非得失。みなこれ善 T2582_.82.0299b21: 惡業の感するところなり。滿業引業をし T2582_.82.0299b22: らす。過去來世をあきらめさるかゆゑに。 T2582_.82.0299b23: 現在にくらし。いかてか佛法にひとしか T2582_.82.0299b24: らん。あるかいはく。諸佛如來。ひろく法界 T2582_.82.0299b25: を證するゆゑに。微塵法界。みな諸佛の所 T2582_.82.0299b26: 證なり。しかあれは依正二報。ともに如來 T2582_.82.0299b27: の所説となりぬるかゆゑに。山河大地。日 T2582_.82.0299b28: 月星辰。四倒三毒。みな如來の所説なり。山 T2582_.82.0299b29: 河をみるは。如來をみるなり。三毒四倒。佛 T2582_.82.0299c01: 法にあらすといふことなし。微塵をみる T2582_.82.0299c02: は。法界をみるにひとし。造次顛沛。みな T2582_.82.0299c03: 三菩提なり。これを大解脱といふ。これを T2582_.82.0299c04: 單傳直指の祖道となつく。かくのことく T2582_.82.0299c05: いふともから。稻麻竹葦のことく。朝野に T2582_.82.0299c06: 遍滿せり。しかあれともこのともから。た T2582_.82.0299c07: れ人の兒孫といふことあきらかならす。 T2582_.82.0299c08: すへて佛祖の道をしらさるなり。たとひ T2582_.82.0299c09: 諸佛の所説となるとも。山河大地。たちま T2582_.82.0299c10: ちに凡夫の所見なかるへきにあらす。諸 T2582_.82.0299c11: 佛の所説となる道理をならはす。きかさ T2582_.82.0299c12: るなり。なんち微塵をみるは。法界をみる T2582_.82.0299c13: にひとしといふ。たみの。王にひとしとい T2582_.82.0299c14: はんかことし。またなんそ法界をみて。微 T2582_.82.0299c15: 塵にひとしといはさる。このともからの T2582_.82.0299c16: 所見を。佛祖の大道とせは。諸佛出世すへ T2582_.82.0299c17: からす。祖師出現すへからす。衆生得道す T2582_.82.0299c18: へからさるなり。たとひ生即無生と體達 T2582_.82.0299c19: すとも。この道理にあらす T2582_.82.0299c20: 眞諦三藏云く。震旦有り二福。一に無く羅刹。二 T2582_.82.0299c21: 無し外道 このことは。まことに西國の T2582_.82.0299c22: 外道婆羅門の傳來せるなり。得通の外道 T2582_.82.0299c23: なしといふとも。外道の見をおこすとも T2582_.82.0299c24: からなかるへきにあらす。羅刹はいまた T2582_.82.0299c25: みえす。外道の流類はなきにあらす。小國 T2582_.82.0299c26: 邊地のゆゑに。中印度のことくにあらさ T2582_.82.0299c27: ることは。佛法もわつかに修習すといへ T2582_.82.0299c28: とも。印度のことくに證をとれるなし T2582_.82.0299c29: 古徳曰く。今時多く有り還俗の者。畏憚王役を。 T2582_.82.0300a01: 入り外道の中に。偸み佛法の義を。竊に解し莊老を。遂に T2582_.82.0300a02: 成し混雜を。迷惑せしむ初心を。孰れか正孰れか邪に。是れを爲す T2582_.82.0300a03: 發得するの韋陀法を之見と しるへし佛法と。 T2582_.82.0300a04: 莊老と。いつれか正。いつれか邪をしらす。 T2582_.82.0300a05: 混雜するは。初心のともからを迷惑する。 T2582_.82.0300a06: いまの智圓。正受等これなり。たた愚昧の T2582_.82.0300a07: はなはたしきのみにあらす。稽古なきの T2582_.82.0300a08: いたり。顯然なり。炳焉なり。近日宋朝の僧 T2582_.82.0300a09: 徒。ひとりとしても孔老は。佛法におよは T2582_.82.0300a10: すとしれるともからなし。なほ佛祖の兒 T2582_.82.0300a11: 孫になれるともから。稻麻竹葦のことく。 T2582_.82.0300a12: 九州の山野にみてりといふとも。孔老の T2582_.82.0300a13: ほかに。佛法すくれいてたりと曉了せる。 T2582_.82.0300a14: 一人半人あらす。ひとり先師天童古佛の T2582_.82.0300a15: み。佛法と。孔老とひとつにあらすと曉了 T2582_.82.0300a16: せり。晝夜に施設せり。經論師また講者の T2582_.82.0300a17: 名あれとも。佛法はるかに孔老の邊を勝 T2582_.82.0300a18: 出せりと曉了せるなし。近代一百年來の T2582_.82.0300a19: 講者。おほく參禪學道のともからの儀を T2582_.82.0300a20: まなひ。その解會をぬすまんとす。もとも T2582_.82.0300a21: あやまれりといふへし。孔子の書に生知 T2582_.82.0300a22: 者あり。佛教には生知者なし。佛法には舍 T2582_.82.0300a23: 利の説あり。孔老舍利の有無をしらす。一 T2582_.82.0300a24: にして混雜せんとおもふとも。廣説の通 T2582_.82.0300a25: 塞。つひに不得ならん。論語に云く。生れなからに而 T2582_.82.0300a26: 知るは之を上みなり。學て而知る者は次きなり。困んて而學ふは之を。 T2582_.82.0300a27: 又た其の次きなり也。困んて而不る學は。民斯れを爲す下もと矣。 T2582_.82.0300a28: もし生知あらは。無因のとがあり。佛法に T2582_.82.0300a29: は無因の説なし。四禪比丘は。臨命終のと T2582_.82.0300b01: き。たちまちに謗佛のつみに墮す。佛法を T2582_.82.0300b02: もて。孔老の教にひとしとおもはん。一 T2582_.82.0300b03: 生のうちより謗佛のつみふかかるへし。 T2582_.82.0300b04: 學者はやく佛法と。孔老と一致なりと邪 T2582_.82.0300b05: 計する解をなけすつへし。この見たくは T2582_.82.0300b06: へてすてすは。つひに惡趣に墮すへし。學 T2582_.82.0300b07: 者あきらかにしるへし。孔老は三世の法 T2582_.82.0300b08: をしらす。因果の道理をしらす。一洲の安 T2582_.82.0300b09: 立をしらす。いはんや四洲の安立をしら T2582_.82.0300b10: んや。六天のことなほしらす。いはんや三 T2582_.82.0300b11: 界九地の法をしらんや。小千界をしらす。 T2582_.82.0300b12: 中千界をしるへからす。三千大千世界を T2582_.82.0300b13: みることあらんや。しることあらんや。震 T2582_.82.0300b14: 旦一國に。なほ小臣にして。帝位にのほら T2582_.82.0300b15: す。三千大千世界に王たる如來に比すへ T2582_.82.0300b16: からす。如來は。梵天。帝釋。轉輪聖王等。晝 T2582_.82.0300b17: 夜に恭敬侍衞し。恒時に説法を請したて T2582_.82.0300b18: まつる。孔老にかくのことくの徳なし。た T2582_.82.0300b19: たこれ流轉の凡夫なり。いまた出離解脱 T2582_.82.0300b20: の道をしらす。いかてか如來のことく諸 T2582_.82.0300b21: 法實相を究盡することあらん。もしいま T2582_.82.0300b22: た究盡せすは。なにによりてか世尊にひ T2582_.82.0300b23: としとせん。孔老内徳なし。外用なし。世尊 T2582_.82.0300b24: におよふへからす。三教一致の邪説をは T2582_.82.0300b25: かんや。孔老。世界の有邊際。無邊際を通 T2582_.82.0300b26: 達すへからす。廣をみす。しらす。大をしら T2582_.82.0300b27: す。みさるのみにあらす。極微色をみす。刹 T2582_.82.0300b28: 那量をしるへからす。世尊あきらかに極 T2582_.82.0300b29: 微色をみ。刹那量をしらせたまふ。いか T2582_.82.0300c01: にしてか孔老にひとしめたてまつらん。 T2582_.82.0300c02: 孔。老。莊子。惠子等は。たたこれ凡夫なり。な T2582_.82.0300c03: ほ小乘の須陀洹におよふへからす。いか T2582_.82.0300c04: にいはんや第二第三第四の阿羅漢におよ T2582_.82.0300c05: はんや。しかあるを學者くらきによりて。 T2582_.82.0300c06: 諸佛にひとしむる。迷中又深迷なり。孔老 T2582_.82.0300c07: は三世をしらす。多劫をしらさるのみに T2582_.82.0300c08: あらす。一念しるへからす。一心しるへか T2582_.82.0300c09: らす。なほ日月天に比すへからす。四大 T2582_.82.0300c10: 王。衆天におよふへからさるなり。世尊に T2582_.82.0300c11: 比せは。世間。出世間に迷惑するなり T2582_.82.0300c12: 列傳に云く。喜爲たり周の大夫と善くす星象を。因て見るに T2582_.82.0300c13: 異氣を。而東に迎ふ之を。果得たり老子を。請著しむ書 T2582_.82.0300c14: 五千有言を。喜欲す從ひ聃に求めんと去るを。聃云く。若し T2582_.82.0300c15: 欲せは志心に求めんと去るを。當に將ち父母等七人の T2582_.82.0300c16: 頭を來る。乃ち可し得去るを。喜乃ち從ふ教へに。七 T2582_.82.0300c17: 頭皆な變す豬頭と。古徳云く。然るに俗典の孝儒。尚ほ T2582_.82.0300c18: 尊ふ木像を。老聃設るに化を。令む喜を害せ親を。如來の。 T2582_.82.0300c19: 教門は。大慈を爲す本と。如何んそ老氏。逆を爲るや化 T2582_.82.0300c20: 原と むかしは老聃をもて。世尊にひとし T2582_.82.0300c21: むる邪黨あり。いまは孔老ともに世尊に T2582_.82.0300c22: ひとししといふ愚侶あり。あはれまさら T2582_.82.0300c23: めやは。孔老なほ轉輪聖王の。十善をもて T2582_.82.0300c24: 世間を化するにおよふへからす。三皇。五 T2582_.82.0300c25: 帝。いかてか金銀銅鐵諸轉輪王の七寶千 T2582_.82.0300c26: 子具足して。あるひは四天下を化し。あ T2582_.82.0300c27: るひは三千界を領せるにおよはん。孔老 T2582_.82.0300c28: はいまたこれにも比すへからす。過現當 T2582_.82.0300c29: 來の諸佛諸祖。ともに父母師僧三寶に孝 T2582_.82.0301a01: 順し。病人等を供養するを化原とせり。害 T2582_.82.0301a02: 親を化原とせる。いまたむかしよりあら T2582_.82.0301a03: さるところなり。しかあれはすなはち老 T2582_.82.0301a04: 聃と佛法と。ひとつにあらす。父母殺害す T2582_.82.0301a05: るは。かならす順次生業にして。泥犁に墮 T2582_.82.0301a06: すること必定なり。たとひ老聃みたりに T2582_.82.0301a07: 虚無を談するとも。父母を害せんもの。生 T2582_.82.0301a08: 報をまぬかれさらん T2582_.82.0301a09: 傳燈録に云く。二祖毎歎云く。孔老の之教は。禮術 T2582_.82.0301a10: 風規なり。莊易の之書。未た盡さ妙理を。近ろ聞く達磨 T2582_.82.0301a11: 大士。住止すと少林に。至人不遥なら。當に造は玄境に T2582_.82.0301a12:  いまのともから。あきらかに信すへし。 T2582_.82.0301a13: 佛法の振旦に正傳せることは。たたひと T2582_.82.0301a14: へに二祖參學のちからなり。初祖たとひ T2582_.82.0301a15: 西來せりとも。二祖をえすは。佛法つたは T2582_.82.0301a16: れさらん。二祖もし佛法をつたへすは。東 T2582_.82.0301a17: 地いまに佛法なからん。おほよそ二祖は T2582_.82.0301a18: 餘輩に群すへからす T2582_.82.0301a19: 傳燈録に云く。僧神光は者。曠達の士なり。久居りて伊 T2582_.82.0301a20: 洛に。博く覽群書を。善く談す玄理を むかし二祖 T2582_.82.0301a21: の群書を博覽すると。いまの人。書卷をみ T2582_.82.0301a22: ると。はるかにことなるへし。得法傳衣の T2582_.82.0301a23: のちも。むかしわれ孔老之教へは。禮術風規 T2582_.82.0301a24: とおもひしは。あやまりなりとしめすこ T2582_.82.0301a25: とばなし。しるへし二祖。すてに孔老は。佛 T2582_.82.0301a26: 法におよふことあらすと通達せり。いま T2582_.82.0301a27: の遠孫。なにとしてか祖父に違背して。佛 T2582_.82.0301a28: 法と一致なりといふや。まさにしるへし T2582_.82.0301a29: 邪説なりと。二祖の遠孫にてあらすは。正 T2582_.82.0301b01: 受等が説たれかもちゐん。二祖の兒孫た T2582_.82.0301b02: るへくは。三教一致といふことなかれ T2582_.82.0301b03: 如來在世に有り外道。名つく論力と。自ら謂らく。論議 T2582_.82.0301b04: 無學は等は者。其の力最も大なりと。故に曰ふ論力と。受けて T2582_.82.0301b05: 五百梨昌の募りを。撰し五百の明難を。來て難す世尊を。 T2582_.82.0301b06: 來至し佛の所に。而奉りて問ひ佛に云く。爲一究竟の T2582_.82.0301b07: 道とや。爲衆多究竟の道とや。佛言はく。唯一究竟道なり。 T2582_.82.0301b08: 論力云く。我れ等か諸師。各説く有りと究竟の道。以て T2582_.82.0301b09: 外道の中。各自ら謂ひ是と。毀訾し他の法を。互に相ひ是 T2582_.82.0301b10: 非するを故に。有り多道。世尊其の時。已に化し鹿頭を。 T2582_.82.0301b11: 成無學果を。在て佛邊に立つ。佛問ふ論力に。衆多 T2582_.82.0301b12: 道中。誰をか爲す第一と。論力云く。鹿頭第一なり也。佛 T2582_.82.0301b13: 言はく。其若第一ならは。云何そ捨てて其の道を。爲り我か弟 T2582_.82.0301b14: 子と。入るや我か道中に。論力見て既慚愧低頭し。歸依 T2582_.82.0301b15: 入道す。是の時佛説いて義品の偈を。曰はく。各各謂て究 T2582_.82.0301b16: 竟と。而各自ら愛著し。各是とし自を非とす他を。是れ皆な T2582_.82.0301b17: 非す究竟に。是の人入り論衆に。辨明し義涅槃を。各 T2582_.82.0301b18: 各相ひ是非し。勝負懷く憂喜を。勝者は墮し慢坑に。 T2582_.82.0301b19: 負者は墮す憂獄に。是の故に有智の者は。不墮せ此の二 T2582_.82.0301b20: 法に。論力汝當に知。我か諸の弟子の法は。無く虚も亦た T2582_.82.0301b21: 無し實も。汝欲す何の處にか求めんと。汝欲せは壞せんと我か論を。 T2582_.82.0301b22: 終已無し此の處り。一切知も難し明め。還て是れ自ら T2582_.82.0301b23: 毀壞すと いま世尊の金言。それかくのこと T2582_.82.0301b24: し。東土愚暗の衆生。みたりに佛教に違背 T2582_.82.0301b25: して。佛道とひとしき道ありといふこと T2582_.82.0301b26: なかれ。すなはち謗佛謗法となるへきな T2582_.82.0301b27: り。西天の鹿頭。竝に論力。乃至長爪梵志。先 T2582_.82.0301b28: 尼梵志等は。博學の人たり。東土にむかし T2582_.82.0301b29: よりいまたなし。孔老さらにおよふへか T2582_.82.0301c01: らさるなり。これらみなみつからか道を T2582_.82.0301c02: すてて。佛道に歸依す。いま孔老の俗人を T2582_.82.0301c03: もて。佛法に比類せんは。きかんものもつ T2582_.82.0301c04: みあるへし。いはんや阿羅漢。辟支佛も。み T2582_.82.0301c05: なつひに菩薩となる。一人としても小乘 T2582_.82.0301c06: にしてをはるものなし。いかてかいまた T2582_.82.0301c07: 佛道にいらさる孔老を。諸佛にひとしと T2582_.82.0301c08: いはんや。大邪見なるへし。おほよそ如來 T2582_.82.0301c09: 世尊。はるかに一切を超越しましますこ T2582_.82.0301c10: と。すなはち諸佛如來。諸大菩薩。梵天。帝 T2582_.82.0301c11: 釋。みなともにほめたてまつり。しりたて T2582_.82.0301c12: まつれるところなり。西天二十八祖。とも T2582_.82.0301c13: にしれるところなり。おほよそ參學のち T2582_.82.0301c14: からあるもの。みなともにしれり。いま澆 T2582_.82.0301c15: 運の衆生。宋朝愚暗のともからの。三教一 T2582_.82.0301c16: 致の狂言もちゐるへからす。不學のいた T2582_.82.0301c17: りなり T2582_.82.0301c18: 正法眼藏四禪比丘 T2582_.82.0301c19: 建長七年。乙卯夏安居日。以て御草案の本を T2582_.82.0301c20: 書し寫畢んぬ 懷奘 *訳 *論文 - 吉村 均 [[『神と仏の倫理思想―日本仏教を読み直す』>http://www.amazon.co.jp/神と仏の倫理思想―日本仏教を読み直す-吉村-均/dp/4779301866/ref=sr_1_2?ie=UTF8&s=books&qid=1245207261&sr=8-2]] -石井 修道 [[『四禅比丘』考 >http://ci.nii.ac.jp/naid/110000985584/]] -矢島 忠夫 [[『正法眼蔵』の改作 >http://repository.ul.hirosaki-u.ac.jp/dspace/bitstream/10129/279/1/AN00211590_ 99_15.pdf]]

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