世界設定 砂都サンドラム編


「ふぅ……暑かった」

使い込まれた杖を携え、額から流るる汗を手の甲で拭いつつ旅の魔法使いは自らの歩んだ旅路を振り返った。
見渡す限りの砂のカーペット。
抜けるような青空すらが憎くなってしまうくらいに熱く灼(あつ)い砂漠の道。
それも今は良い思い出だったなと思いつつ、彼女は次なる旅を目指して港町へと足を踏み入れるのであった。



ケルト大陸南部に広がる大砂漠地帯。
夢幻に続くかのような砂色の大平原は、創世の女神の名を取り『アイテールのビロード』と称される美しさを持つ。

その砂の世界の更に端。
砂漠の厳しい気候の中にありながらも活気溢れる都市として聳えるのが「砂漠の町サンドラム」である。
砂の中に築かれた砂岩造りの町並みは、灼熱に焼かれながらも訪れた旅人に安らぎを与える。
大陸の端……海に面しているという地理的状況から、少し砂漠を歩くと容易に港町へと辿り着く事が出来る。
その為か、辺境の町でありながらも他所からの来訪者が絶えない。

古くから偉大な砂漠に慣れ親しみ、その酷烈な環境にも適応する術を見つけて来たサンドラムの民。
港町を近くに据え、砂漠の移動手段にも長けている彼らは、
ケルト大陸とアルスター大陸の橋渡しをする貿易を基に生計を立てる者が多い。
世界の大都市に数えられるルエンやヴァルガナもサンドラムからの貿易商を非常に重要視しているという。

故にケルト大陸にありながらも、アルスター大陸に属する王都ルエンと個別に同盟が結ばれている。
貿易を生業にするが為に戦闘技術が発達しなかったサンドラム。
その警護の為に町を歩く王都兵士団の姿は、町の一種の名物となっている。



昼は活発に砂漠地帯のあちこちを行き来するサンドラムの住民だが、夜には町に戻り家族や仲間たちと過ごすのが殆どである。
同業仲間と酒場に集まり一日の終わりの一杯を楽しむ者。
家族で団欒を楽しむ者。子供に一日の旅の話を語る父親。
町の公園で民族楽器のサウニハープを演奏する者に、その調を楽しむ者。
夜を楽しむ行客を目当てに軽食の類を商う屋台を営業する者。

大部分に文明は疎か人間すら住んでいない砂漠の夜は全くの暗闇である。
他では味わえない満天の星々は望めるものの、人間が活動するには心許ない。

その漆黒の中で一点だけに輝くサンドラムの夜の光。
それは不毛な砂漠に輝く「希望」である。
砂漠で彷徨って夜を迎えてしまった旅人には至極の一言であろう。


過酷の環境下にありながら各々が幸福に暮らす砂漠の町。
今宵も彼らは家族や仲間との楽しい時間を胸に、明日への旅に備えて眠りに就くのだった。

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最終更新:2016年10月10日 02:34