マイテイの亡霊

王たるもの勇ましく、女王たるもの気高くあれ




祖父はろくでもない人間であった
家族と私の母である娘を母国に捨て置き、空虚な夢を追って姿を消した
しかし面識のない筈の祖父の背中は将来私の人生における壁となって立ちはだかる

特化型と互角に渡り合えた格闘型の戦士、その伝承は50年に渡り伝えられている
それが私の祖父、ジョン・ワイズマンであった
今でこそただの老いぼれであろうが、若き日の祖父の生み出した偶像は私から光を奪う影、
幼き頃はしつこくついて回る小石程度だったものがやがて巨大な岩となり影を落としているのだ

「なぁ……お前さ、何やっても駄目なのな」

「ていうかよォ…お前何型な訳?」

「アイツのじいさんは出来る男だったんだがな」

比較して私はマイテイ人特有の【型】のどれにも当てはまらない、何をやっても成果を出せない、言わばクズだ
周囲からは同情するような哀れむ視線を浴びる事が成長につれ日に日に多くなる

いつの日か、私は自らを【劣等型】と称し、才気溢れる隣人達との交流を絶ち切っていた
一目を避け国外へ出掛ける事が次第に多くなる、祖父の面影と照らし合わされる生活にいい加減嫌気が刺す

外界は気が楽だ、母国と違って、自分と比較されるものなど無い、時折同胞を見かければ目を逸らしその場を離れれば良いだけ
ただ、それだけの恐怖から逃れられる生活の筈だった……

「レインド…?」

何時頃からその名が耳に入り込むようになったかは、正直覚えていない
祖父と同じ格闘型のマイテイ人、数多の修羅場を切り抜け、世界の危機すらも切り裂いて見せたそうだ
クロフォードの件、これが最も記憶に真新しい
やがて外界に居てもその名がついて回るようになる、彼の放つ眩しすぎる栄光が、

ガリガガリガリ……

たまらなく

ガリガリガリ…

目障りで仕方ない


「アアアアアアアァァァァァァァァァァッ!!!!」


…………頭から血を流して気を失う事が頻繁になっていた
妬み、怒り、そういった塁のドス黒い感情が入り乱れて発狂したのだろう
このままの生活が続けば私はどうなってしまうのだろう、恐ろしい…何をしでかすかわからない

ある日、自分に生じる異常を自覚するようになる

他人の視線に対する【恐怖】と【殺戮願望】この二つに取り憑かれるようになる
本当に人を殺めてしまうかもしれない、その時、自分を殺してくれるは、誰なんだ?
ただの人間か?
あり得ない、そんな終わり方、それこそ恥だ

無意識の内に、自分の足はマイテイ国へ向かっていた、そこなら、自分を殺してくれるマイテイ人がいるはずだった
ただの人間に殺されるならば、同胞である彼等に引導を渡された方がマシだ
終わりぐらいは、マイテイ人らしくしたい今まで逃げていた自分の人生にピリオドを打てるとしたら、それは今なのだ

…………

「!?」



母国が、既に原型を失っている
積み重なるはおびただしく生々しい遺体
血生臭い悪臭
まるでここは……墓標じゃないか

「誰か……誰かいないのか!?」

冗談じゃない

「返事をしてくれ!」

奪われるというのか

「誰でも良いんだッ!」

死に場所さえも奪われるというのか!

「誰かッ……」



旋風吹き荒れる夜のことだった、その男は闇夜を照らす月の象徴のように思えた

「ほう、まだ生き残りが彷徨っていたのか」

その男は、雲の上の存在であり実在するのかどうか疑う存在だった
だが目前にして直感がこう告げる【味方殺しのロバート】であると

私は歩み寄ってくるその男をただただ、じっと見つめていた
彼が終わりをくれる、それは光栄でもあった

私は密かに、その男に憧れていたのかもしれない


【超特化型】という、天上の存在に








ー亡国と化したマイテイ国ー

ザリ……

ジール「此処まで荒れていると最早芸術品だなぁ……記念に写メっておくとするかね」ピローン

ルシア「とぅっとぅるー♫」

ジール「土産も売ってないのかー、こいつは味気のない旅行だったかな」

ジールはそう言って辺りを見渡し、暫くして不適微笑む
やがて十字架のような黒剣を墓標のようにして突き刺し垂れ下がった前髪は剣に漂う異風に揺れる

ジール「お目覚めの時間だ」

眠れぬ魂よ




目が覚めると、私は彼に殺された場所で棺桶に閉じ込められていたようだ
棺桶の蓋を開き顔をのぞかせるその男はえらく上機嫌で、私の質問に対しては道化師のように淡々と語って見せた

ジール「聞かせてやるよ、殺戮に身を投じた男の物語【キルライフ】を」

まるでその男は全てを記録していたかのように私が意識を失っている間に起こっていた事を聞かせてくれた
そして、私が未練によって自らこの世に蘇ることを選択してしまったということも

ジール「受け取りたまえよ、君が生前にしたかった事を成し遂げるために
    君、やり直したいんだろ?」

その男が手渡したのは血のように紅い、ハートの宝石がはめこまれたトランプ
そのトランプは手に取るやいなや、私目掛けて飛び出し……

心臓を貫いた

ジール「おめでとうヴィンセント・ワイズマン。君もこれで我々の仲間入りだよ」




これが、劣等型マイテイ人である私とこの能力、女王の意

Queen・of・Heartとの出会いだった

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最終更新:2013年02月01日 20:07