もしも正義色があるとするならば、皆はどんな色をイメージする?
情熱の朱? 平和の蒼? それとも、もっと他の色?
ごめん、少し変な質問をしたね。でも次はもっと変な質問になるかもしれない。
嘘色があるとするならば、どんな色だと思う?
ケイオスにやってきて2年と少し。原因は相変わらずサッパリだが、驚くことにこちら生活が割と悪くない。
いくつかのバイトをぱぱーっとこなし、街をふらふらとうろつき、安いマンションに帰って寝る。
この循環過程をひたすら繰り返すだけのなんてことない、生活。
―――ああ、なんて幸せなのだろう。
僕らの歳だと、話し相手は学校の友人がほとんどだと思う。こちらへ来て僕は学校に通っていないので、確かに友達は少ない。
しかし、バイト先で表面上だけの薄っぺらい交友だが話し相手には困りはしないし、なんなら街で適当な人に声をかけて話し相手を作ってもいい。
そんな幸せな生活を謳歌していた僕、清辿吟だが、最近 大きな変化が訪れたのだ。
従兄のアオ君との再会。
こちら側へ来てアオという青年がやれ世界を救っただの、やれ英雄になっただのとちらほら話は聞いていたのだが、特に気には留めていなかった。
僕が知る、従兄のアオという可能性を考えていなかったから。
彼は地球で事故に遭って意識が戻らず、植物状態であったはず。もちろん回復も見込めなかった。
どうしてそのアオ君がここに?――いや、僕もなぜここへ来たのかわからないのだが――謎は深まるばかりだ。
そんな劇的な変化を遂げた僕の生活が、またひと回り大きな変化を遂げようとしていた。
「いやいや、だからどうしてアナタがここに居るのか、私に分かるように説明してくれと言ってるんです!」
「何度も言うけど、UFOにキャトられたんだって!ほら、キャトルミューティレーションわかるで痛い!」
言葉を言い終わる前に何度目か分からぬ鋭いボディーブローを打たれた。とても痛いがなんとか笑顔はキープ。
「あーっと…ほら、その辺りにしておいたら?葵。ギンも少しやりすぎだよ」
アオ君が疲れたような、呆れたような何とも言えない表情で僕らの仲裁に入る。葵は不満を思い切り顔に出しながら渋々引き、僕はいつもの軽い調子でごめんねと言った。
そう、大きな変化とは清辿葵との出会い。信じられないことにこの女性、アオ君の妹なのだそうだ。
なぜ僕も知らないアオ君の妹が居て、尚且つ僕のことをアオ君と同等のレベルで知っているのか物凄く気になるところだが、説明すると少し長くなるそうなので遠慮しておこう。
「かーっ!やっぱり治らないんですねその嘘吐き症候群!!こう何十回も連発されてはさすがの超お淑やか系天才文学少女(自称)も頭にくるってんですよ!!」
「別いいじゃん?減るもんじゃないし!むしろ僕のユーモ痛い痛い!」
「アナタのユーモアでストレスがマッハですよ!どちくしょう!」
容赦なくがつがつと蹴られた。しかし今回も笑顔はキープ。周りの人から見れば、笑顔を絶やさないことに何かプライドか意地でもあるのかと疑うレベルだろう。
相当頭に血、のぼってるなあ。もう痛いのヤだしそろそろ引いておこう。
「まあまあ落ち着いてって!えーっと、これからよろしくね、葵!」
がるるる、と今にも唸り声が聞こえきそうな威嚇をされている。
そこまでされるとさすがにへこむが、まあ、見ていて少し楽しかったりもするので放置。
と、僕らのくだらないやりとりを傍観していたアオ君が隙をみて話題を差し込む。
「それで、どうなの?体質の方は」
「体質?あー、うーん残念ながら進展ナシ。これ何なんだろうね、本当」
肩を竦めてけらけらと笑う。いい加減、どうにかなって欲しいものだ。
僕の体質は少々特殊で、人の『目を欺く』能力を持っている。我ながら、ぱっと聞かされると結構解り難い能力だ。
具体的に説明すると、『錯覚、誤認識』させる能力。
例えば、周囲の人たちから見た僕はベンチに座っている。
けれどこの時僕が能力を使えば、周囲の人物を僕がベンチに座っていると錯覚、誤認識させたまま、本物の僕は動きまわる事ができるのだ。
また、現状の姿そのままだけではなく、僕が空想した姿に錯覚させることも可能。宇宙人とかね(笑)。
あーまったく、面倒な体質だ。
「……早くコントロール出来るようになるといいね、ギン」
「いやーそんな顔されて言われても困るって。割と楽しんでるし、僕!慣れると面白いんだよねーこの能力」
爽やかに笑いながら踵を返し、玄関へ歩いて行く。
「じゃあ、今日はありがとう!新しい友達、もとい従妹と会えてすっごい楽しかった!」
「その言葉に嘘偽りはないでしょーね!?もう来ないでいいですよバーカ!」
「こちらこそ、来てくれてありがとね。暗いし、気をつけて帰るんだよ」
二人分の別れの挨拶を背中で受け止め、履き難いブーツを履いて僕は夜の街へ繰り出した。
嘘色があるとするならば、どんな色だと思う?
朱でも蒼でもない。
僕はどんな色も淀み、鈍く反照する吟色だと思うんだ。
さあ、帰ろう。また始まるんだ。
今にも泣き叫びたくなるような、幸せな日常が――――。
最終更新:2013年03月06日 23:47