ニルソンは研究室で一人、苦い思いを抱きながら椅子に腰掛けていた。
それは彼が長年補佐してきた女性が、直接的な表現をすれば死んで以来、彼のみになるといつも襲ってくるものと酷似していた。
しかし、今それを感じているのは違った理由だった。
彼の前には机と、小さなテレビが置いてある。普段は殆ど使われないそのテレビだが、珍しく電源が入っていた。
画面に映し出しているのは一本の録画映像。十一人の女性が真っ直ぐ前、視線の先にあっただろうカメラを睨んでいる。
暫くの間、彼女たちには一切の動きが無かった。彫像のように、身を揺るがせもせず立っていた。
沈黙を破ったのは最前に立つ少女。両手でニルソンにも見覚えがある剣の柄を掴み、床に突き立てるようにして保持している。
『マルチアーノ十二姉妹隊隊長エイプリルより、報告』
静かな決意を固めた者がするように、彼女はゆっくりと喋った。ここまではただの連絡に聞こえる。
『我が隊は只今を持ってクリミナル・ギルドより正式に離反、独立します』
少女は言葉を切った。聞く相手が動揺することを見越した間だろう、とニルソンは推測した。
僅かな間沈黙が再来したが、すぐに打ち破られる。
『我々が仕えるのはただ一人きり、マダム・マルチアーノのみ!』
彼女は声を張り上げた。高らかに宣言した。未来永劫決して違えることはないとばかりに、声を大にした。
感情が堰を切って溢れ出し、少女は続けて言う。
『権力に肥えた豚に膝は折れません。我ら姉妹とその配下の兵は、失われたギルドとしての誇りを取り戻します。
 例えそれによって全員が斃れるとしても』
口調を改め、彼女は再度、述べた。
『私は独立する。私たちは独立する。我々全員が、クリミナル・ギルドより独立する!』
演説はそこで終わり、彼女たちはカメラの視界から外れていくが、
ジュライだけは考え事をしているようで、ずっと立ち続けている。
ニルソンは彼女たちの宣戦布告に思いを巡らし、少しだけ頭を抱えたくなった。
この映像を撮ったのが二日前である。編集した映像はもうギルド上層部に届いている頃だろう。後戻りは出来ない。
勝算が無い訳ではないのだ、とニルソンは思った。無ければ、恐らくはここまでのことはしなかっただろう。
だが、彼はそのあるのかさえ朧げな勝算というものが、どれほど危うく不安定なものか十分に承知していた。
十二姉妹──今では十一姉妹に減ってしまった彼女たちは最強であるという点において、
ニルソンは髪の毛一本程度も疑いを抱いていない。彼女たちは人間の形をしながら、人間より遙かに優れている。
単純な力仕事から複雑な精密性を要求される作業まで、何の造作も無くやってみせる。それも全て人間以上の出来栄えで。
彼は誇りを抱いていた。何しろある意味では父親のようなものなのだ。
だから娘のように思っていたし、娘たちはギルドにおける他の精鋭部隊に対し、絶対に引けを取らないだろう、とも思っていた。
けれどそれは戦闘単位での話だ。戦争まで範囲が拡大されれば、損耗は当然増える。
こちらは補給も簡単には行えない。何せ、ギルドの支配は全銀河に遍く行き渡っている。
それに対しあちらは余りにも自由だ。好きな時に補給が行える。好きな時に戦闘し、撤退出来る。
ギルドは結果を急がない。求められはするが、素早く行うことより確実に行う方が良いとされる。
勿論両方揃っていればより良いのだが、多くの要求は任務の完遂を不可能にしかねない。
更に言うならギルド兵の問題だ。彼らは熱狂的な支持者と言える存在の為、離反は問題ないだろう。
欠員となったセプの隊に所属していた隊員は、いずれ来たる復讐の為に銃を取る者もあったし、
指揮官がいなくなっても姉妹への忠誠は絶えないとして銃を取る者もあった。
が、それはいいとして、戦闘での死傷者が問題なのだ。死人は蘇らない。補充など望める訳もない。
十二姉妹は精兵を選りすぐって結成した最強の部隊だ。
彼ら彼女らはギルドの官僚的社会という梯子において、一番上に立つ権利がある。
よって、ギルド所属時ですら補充はそうそう容易に行えなかったくらいだ。傭兵を雇うようなことも出来まい。
弾薬や医療品、食料へ費やす金額は小額ではない。そこに賃金までは支払えない。
当分はギルド兵の給料もカットしなければならないだろう。それでも不足なのだ。
そもそもが戦争で勝利出来る相手ではない。巨大な組織にたった一部隊で勝てるのは映画の中だけだ。
ノックの音がしたので、ニルソンは思考をそこで一度打ち切った。
テレビの向きを変え、椅子を回転させてドアの方に体を向け、鍵が開いている旨を伝える。
控えめに音を立てて入ってきたのはエイプリル、ジャニアリー、ジューン、ジュライの四人だった。
「やあ、エイプリル」
まるで今の今まで休憩を取っていたかのように振舞う。
何としても彼女たちの力にならねばならなかった。
彼女たちがその全力を発揮出来るようにサポートせねばならなかった。
断じて、断じて疑念を抱いていると感付かれてはならなかった。
故に、彼は普段通りの自分を偽装する。
「四人揃って、どうしたんだい?」
誰にも見えなかったが、その時テレビの中で、ジュライが少しだけ目を開いた。

*  *  *

薄暗い会議室で、十数名の男たちが椅子に腰掛け、現在の状況について話し合っていた。
ざわめきは膨張し続け、狭い部屋が言葉に埋め尽くされる。
それを、一人の男がただ二度三度手を叩く音のみで打ち消した。
「全員静粛にしてくれ。親交を深めるのは後でいいだろう」
彼は静かにそう言うと、予め用意されていた席が全て埋まったことを確認し、ディスクを一枚取り出した。
それは外見に限って言うならば、何の変哲もないただのディスクである。
二十宇宙ドルもあれば五十枚は買える、普通のディスクだ。
が、当然ながらこれはただのディスクではなかった。男は用意したノートパソコンにディスクを読み込ませると、再生を始めた。
映るのはエイプリルたち十二姉妹の姿。声が少し上がったが、男が睨むとすぐに止まった。
『我が隊は只今を持ってクリミナル・ギルドより正式に離反、独立します』
今度ばかりは声を即座に止めることは出来なかった。男は面倒臭そうに手を何度か打ち鳴らし、止めた。
席に座っているでっぷり肥った中年の男が、それを無視して憤慨を表す。
男が更に嫌な顔をして何かの行動を取る前に、次の言葉が流れた。
『我々が仕えるのはただ一人きり、マダム・マルチアーノのみ!』
言い終えると同時に、次の台詞へ。
『権力に肥えた豚に膝は折れません。我ら姉妹とその配下の兵は……』
「こいつは君のことを言っているんだぞ、ヘル・ディッカーヘン!」
ディッカーヘンと呼ばれた、先程怒りを表明した肥満中年に向かって、反対側の席から野次が飛ぶ。
彼らは笑った。ディッカーヘンも腹を揺らして大いに笑った。
そして男も笑い、内心でほっとした。やれやれ、これで俺は奴に何も言わずに済んだ訳だ!
大笑いの渦の中で映像は終了し、ノートパソコンは閉じられた。
笑い声が収まり、打って変わって厳粛な雰囲気になる。
「さて、諸君。まず、気の利いた野次のお陰で私が気の進まない仕事をしなくて済んだことに礼を言おう」
男が言うと、何人かが声を押し殺して笑った。
「しかしこれ以上の野次は今は遠慮してくれたまえ。我々は共同体として危機を迎えている」
言葉をそこで中断し、場を見渡す。誰もが至って真面目に話を聞いている。
それに満足して、話を再開した。
「このディスクが私の手に届いたのはつい昨日のことだ。届けてくれたのは近所の子供だ。
 ああそうだ、私は彼に五宇宙ドルほど小遣いをやったが、君たちはこれを金の無駄遣いと咎めないだろうね?」
笑い。
「中身は今見て貰った通り、我らが精鋭部隊として擁していたマルチアーノ十二姉妹の独立宣言だ。
 ふむ、宜しい。それ自体は驚くべきことではない。今は亡きマダム・マルチアーノは反乱を起こしていたしね。
 問題は、彼女たちが様々な機密、秘密を胸の谷間に隠してるってことだ」
発言させて貰えることを求めて、手が何本か上がった。男はそれを見て、一人を選んだ。
「よし、プティ。君の発言を許可する」
小柄な男が立ち上がり、口を開く。
「粛清を求めます」
途端、横から複数の声が飛んだ。
どうやってやる気だ、プティ? 君の背ほど彼女たちの脳味噌は小さくないんだぞ。
対抗する兵力は何処から調達するんだ、そらそら早く言えよ、言えないのかプティ?
全く、考えてから物を言った方が恥を掻かなくて済むぞ!
男がほとほと呆れて差し止めた。
「静かに。ここは議会じゃあないぞ。罵りあいは他所でやってくれ」
真っ赤になってプティは席に腰を下ろす。
上がる手。指名。立ち上がる。
「粛清を求めます。兵力には提案が」
「いい案か?」
集まった十数名の中では最も若い提案者の男は頷き、告げた。
「幸いにも、私はマダム・マルチアーノの反乱時、彼女の邸宅に突入し反乱分子を掃討、その時大量にボディを入手しております。
 以来それを研究し続け、つい先日、やっと今は亡き彼女の愛娘同様のものを手に入れました」
会議室は一転、騒然とした。
「そんなことは聞いていないぞ」
「どうなっているんだ、それは報告すべき事象だった」
「君の独断で行ったのか、もしそうならギルド裁判に掛けられても仕方ない……」
「黙りたまえ、諸君」
男はその一言だけで場を十数秒前の静けさまで戻した。
それから、尋ねる。
「やれるか」
「今すぐにでも」
提案者は自信を漲らせた表情で頷いた。

*  *  *

「というのが三十分前の会議の内容だ。分かったか?」
「とても良く。ちょっとした賭けですね」
会議室からそう遠く離れていない場所にある邸宅の、中心部にある小さな書斎。
仕事用に用意されたと思しき机の上に足を投げ出して、提案者は余裕を見せていた。
その傍らに、彼以上に若く見える男が佇んでいる。右手に本の山を抱え、左手で本棚に整理して片付けている。
足を机から除けて、体をぐっと前に乗り出す。
「ギルド兵とお人形を戦闘に備えさせておけ。艦からヘリを下ろし、兵員や燃料などを積み込め。奴らは遠くにいるだろう。
 その本は机の上に放っておいていい。こっちは情報を回すよう色んなところに言っておく。よし、掛かれ」
二人は部屋を出ようとして、ドアにつっかえそうになり、互いに一歩引いた後、またもや同時に進んでつっかえた。
……彼らが遊んでいる間、『目標』は惑星クーロンへと向かう航路を取っていた。
艦の作戦室に十一人の姉妹とニルソン、それに各姉妹配下ギルド兵の小隊長を集めて、
これからの戦闘と相手の行動を様々な角度から予測して対策を考慮していたのである。
考慮の上で第一に頭に入れておかねばならなかったのは、兵員の少なさ、食料、燃料、弾薬の問題であった。
兵員はどうしようもなかったが、残りの三つは、クーロンでなら何とかなる。それがクーロンへの航路を進む理由だった。
姉妹たちやギルド兵たちは思い出す。かつて戦った場所と人間だ。彼らはコヨーテだった。
打たれ強く、誇り高く、ギルドの支配に抵抗する。時にはそれが理由で死ぬこともある。
ギルドの力が弱まるコヨーテ共の巣窟なら。そこでならば、弾薬も、食料も、燃料も安全に購入可能だ。
論を俟たず、コヨーテと一戦交えることになる確率は誰もが認めていた。
特にジュライは強硬に反対した。ミスターの一味が海賊亭に戻っていないとは確認していなかったからだ。
が、これはエイプリル隊所属ギルド兵小隊長の一人が、誰かを大気圏突入用舟艇で送り込み、
確認次第連絡すると請け負った為に取り敢えず引っ込められた。
彼女らは全員の賛成でもってクーロン行きを決定し、次はクーロンでどのように調達などを行うかが主に話された。
「兎に角、最初に艦を隠さなければなりませんわ」
エイプリルが鉛筆を弄びつつ言った。
メイが同調し、ジューンが手に持ったノートに『最優先:艦を隠す』と書き付ける。
「それから、私たち十二姉妹は全員艦の外に出ないようにしなければ」
何故、と聞く者は誰一人としていなかった。
コヨーテに見られた時、ギルド兵は装甲服を脱げば分かるまいが、十二姉妹はすぐ分かる。
騒ぎになればギルドに話も流れるだろう。コヨーテと戦闘を繰り広げれば、いらぬ疲弊と危険を招くだけだ。
言わなければ分からないことではなかった。
「調達についてですけれど、ギルド兵を目的別に四隊に分けるというのはどうですの?」
ジャニアリーが一つの案を提示する。他の者は口を閉じてあれこれとその案の粗を探し、
結果、特にその案を却下するデメリットは無く、効率化の為にはそれが尤もだろうとして、採用された。
その後エイプリルはジューンの纏めたノートを一読し、告げる。
「現時点で論じられるのはここまでのようですわね。それでは、解散します。
 ああ、計算によればクーロン到着は十一時間後ですので、覚えておくように」
が、ぞろぞろと出て行こうとする中から、フェブを呼び止めた。
「何ですの?」
これは考えたくありませんが、と前置きしてから、口を開く。
「クーロンの繁華街と宇宙港及びそれらの周辺において、戦闘を行うかもしれませんわ。だから」
「……地図?」
分かりのいい妹を持って嬉しいですわ、とエイプリルは言った。

*  *  *

昔から僕は、自分が不運だと信じている。僕の友人たちはそうではない、と頻りに否定するが、彼らこそ間違っているのだ。
だって、もしも不運な人間で無かったならば、よりにもよって自分が先行観測員に選ばれる訳がない。
畜生小隊長めと、心の中で罵ってやる。なんだってコヨーテ共の巣窟に潜入しなければならないんだ。
それも夜。彼らが最も活動的になる時間。僕たちも最も活動的になる時間。最悪。
彼らは目聡い。耳聡い。僕が少しだってギルドのような振る舞いをしようものなら、瞬間に未来が確定する。
唾を飲み込む。カウントダウンは三十秒前からだ。左手首に嵌めた時計を見ようとして、
この忌々しい大気圏突入用舟艇に乗り込む時、装備などを収める箱に入れさせられたことを思い出した。
僕は兵士だ。僕は兵士だ。僕は兵士なのだ。命令には従わねばならない。命令は遂行せねばならない。
早まる動悸を抑える。火照る体を落ち着かせる。震える手は無視する。
『母艦離脱三十秒前』
艇の壁に掛かっているモニターが起動し、装甲服を着込んだ同僚の姿が見えた。
平静を。平静を、だ。命令を拒否する訳には行かない。上手くやらなくては。
十二姉妹の勝利は、僕の肩にも掛かっているのだ。
『二十秒前』
そう考えると、不思議と脈動が元に戻った。手も、意思のままに動くようになった。
出来るぞ。僕には出来る。やってみせる。手抜かり無く、油断せず、やってやる。
『五秒前、四、三、二、一、ランチ』
衝撃が走り、僕は腰掛けていた椅子から転げ落ちそうになったが、シートベルトのお陰でそれは防がれた。
ただ、体は前にずれた後、言うまでも無く後ろに戻る訳だが、その時思い切り僕は後頭部をぶつけた。
白が段々と広がる。まずい。気を失うと色々とまずい。着陸後には己の痕跡を消して、すぐその場から離れねばならないのに。
左手を動かして、太腿を思い切り抓る。何も感じない。白は僕の意識を埋め尽くす。覆う。何もかもを隠
目を覚ますと、僕はどうやら生きているらしいことが分かった。辺りが暗い。
自分の手はどうにか見えるので、失明したのではないようだ。
重力の向きがおかしいことに気付く。コースに問題でもあって横倒しに着地してしまったか。僕は唾を吐いた。
吐いた方向に落下していく唾。これで向きが分かった。そろそろとシートベルトを外す。
落下しないように気をつけて、足先を下ろす。暗い中で、装備品入れの箱を探す。
あった。手探りで鍵を外し、中から時計を取り出して嵌める。
懐中電灯があったので取り出し、電源を入れてみたが、壊れていた。衝撃でどうにかなってしまったらしい。時計も危ういな。
拳銃を取り出し、ズボンに差し込む。弾倉をあるだけポケットへ。コンパスはあったが、地図が無かった。
食料はどうなっているだろう? もしここが本来の降下地点ならいいが、そうでなければ食料が必要だ。
箱を探ると、二日分の食料があった。水もそれなりにあった。
僕はコンパスだけは尻ポケットに入れて、残りは箱に入れた。この箱には取っ手が付いていて、持ち運びも容易だ。
本当に思うが、サバイバル訓練は無駄ではなかった。オーケイ、今こそそれを役立てる時だぞ。まずはドアを探そう。
壁伝いにあちこち探して、やっとのことで突起を見つけた。所謂ボタンという奴だ。動けばいいんだが。
押す。幸いにも開い……いや、途中で止まった。最初っから失敗と予想外だらけとは、泣きたくなる。
月の光でドアの位置が分かったので、出来る限り離れて、蹴りつけることにした。
左足で壁を蹴り、勢いを加えやはり左足で床を蹴り、首を屈めながら小さく跳躍して右足を伸ばす。
想像していたような重い感触は無く、突き抜けるように押し退けて、僕は外へと脱出を果たした。尻で着地。
馬鹿みたいにぼーっと、動きを止める。尻が痛む。まさかとは思うが、コンパスを破壊していないだろうな。
尻を叩き、ついでにコンパスを確かめる。生存。僕は溜め息を吐いて胸元を少し開いた。
全状況に異常無し。オール・クワイエット・オブ・ザ・ウェスタンフロント。まあここが西か東か良く分からないが。
さて、行こう。ここを本来の降下地点だと想定して動くとしよう。
しかして動くのならば静かに行かなければなるまい。ラン・サイレント・ラン・ディープだ。よし、行動開始。

*  *  *

「報告はまだですの?」
部下のギルド兵もいる指揮デッキで、ジャニアリーは苛立ちを隠す気がないようだった。
無理も無い。ミスターたちが海賊亭にいるのか確かめる為に送った男から連絡が途絶えて、既に四、五時間が経っていた。
それまでは返答は無いまでも生命反応と受信反応はあったのに、
大気圏突入時に何らかの予測しなかった問題が突如として発生したらしく、以来何もかもが途切れてしまっていた。
フェブの予測によれば、根拠は明らかにしなかったが、減速用のパラシュートが予備さえも開かず、
逆噴射によってのみ減速したのだろうとかだった。
彼女の計算と推測が正しければ、舟艇は降下ではなく落下のように着地することになっていた。
「落ち着きなさい、ジャニアリー。急いても報告は来ませんわ」
十二姉妹のリーダーがたしなめても、ジャニアリーは一向に態度を改めようとしない。
「エイプリル、どうしてそんなに落ち着いていられますの?
 舟艇からの信号無し。生命反応無し。フェブさえ舟艇へのコンタクト不能!」
大声を出して少しは冷静になったのか、彼女は肩を落として俯く。
自分の為に用意されている椅子に座って、呟いた。
「……何も分からない。何の心配も要らないと言って彼を送り出したのは私たち、いえ、この私ですわ。
 だというのに、何が起こったのかも、何故そうなったかも、何も分からない」
エイプリルは、その兵がジャニアリーの部隊から選出された男だと知っていた。
だから、仕方ない、とは言えなかった。割り切って次の手段を考えることが出来なかった。
そうして、そんなリーダーをジュライはいつも通りの奥底窺えぬ表情で、しかし何らかの意思を持って、後ろから眺めていた。
それを更にジューンがちらちらと気にしていたが、携帯電話の音でそちらに目を向けた。
「俺の携帯だ。一体誰からだ?」
兵の一人が、装甲服の脇に付けた小物入れから携帯電話を取り出し、電話の相手を見て目を見開く。
彼は呼吸を軽く整えてから、エイプリルの注意を聞かずに通話ボタンを押した。
『もしもし、僕だ。聞こえるか?』
ああ、聞こえると返してから兵はエイプリルとジャニアリーの方を向き、彼だと伝える。
慌てて近づいて来る二人を見ながら、兵は死人扱いだった彼に向かい、彼の隊長と電話を代わることを告げた。
『ジャニアリー隊特別斥候班より報告します』
漏れ聞こえてくる小さな声を逃すまいと、誰もが口を閉ざし、息を潜める。
『凡そ四十五分前、ミスターなど数名の仲間の不在を確認。彼らはグレイスランド以来一度帰って来たきりだそうです』
歓声が上がった。これで何もかもが軌道に乗り出した、という喜びだ。
エイプリルはそれを手を振って抑えた。煩くて彼の声が聞こえない。
「分かりましたわ。監視を続行し、五時間、いえ、四時間三十分後にもう一度連絡するように」
『了解』
ジャニアリーはあれだけ取り乱し情緒不安定になっていたくせをして、
いざ電話を取ると極めて無感動な声色で対応を取っていた。
けれど滲み出る喜色は隠せない。誰から見ても、それは明らかだった。
ジューンのように誰かを気にする訳でもなく、真実沈黙と無思考に埋もれていたマーチは、隠れて胸を撫で下ろす。
上手く行った。彼は様々な問題に衝突しながら、何とかやって見せた。十分に働いて見せた。流石は精鋭兵だ。
だがだからと言って、我々もが上手く行くとは限らない。マーチはこの作戦に、一抹の不安を抱き始めていた。

*  *  *

彼は焦っていた。自分の状況を把握出来ないでいた。自分がどうすべきかも分からないでいた。
『ヴァレーリア、速度が速すぎる。減速せよ』
手元の無線機からは管制と艦のやり取りが聞こえてくる。
が、彼の耳には全く入ってこなかった。
あちらこちらを見回し、自分以外に誰もいないことを確認する。
己の椅子にどっかと腰を掛けて、頭を抑え、ぶつぶつ呟く。
俺はこれまで何処で働いても下っ端だった。軍、一般会社三つ、特殊清掃とだ。
そうだ、そうに違いないんだ。これが、これこそが正しく、俺の『チャンス』なんだ。
マルチアーノ十二姉妹。ギルドの力はクーロンに届かないものの、話は届く。それも結構なスピードで。
元ギルドの裏切り者。造反者。反乱軍。たった一個か二個中隊そこらの戦力で、全宇宙に広がるギルドに抵抗する命知らずの一群。
ヴァレーリア号などと偽の艦名を使ってはいたが、データと照合すれば明らかだ。
俺以外の誰もがそれに気付いているだろう。誰かに先を越されてはならない。
人生における勝利者という奴は、この俺のような奴のことを言うんだろう。たった一度の機会を見逃さぬ者のことだ。
彼は唇を湿らせてから、電話機の番号を押し始める。
同刻、立てられた計画を根底から覆す出来事が起こっているとは露知らず、
エイプリルは宇宙港の責任者に連絡、艦を隠す手立てを用意していた。
「……はい。ご厚意に感謝致しますわ。では」
相手の返事も聞かずに一方的に通信を切断し、各隊の小隊長と姉妹たちを作戦室に呼び集める。
彼女たちが集まるなり、エイプリルは本題に入った。
「これより、各隊の作業と交戦規則を決定します」
皆の顔が引き締まり、小隊長たちはメモを取り出す。
エイプリルは作戦室の片隅にあるホワイトボードを引っ張って来ると、それに各隊の名前を書き込んだ。
それから、フェブに尋ねる。
「頼んだものは出来ているかしら」
「細部に自信のないところがありますけれど。これです。データは後で送信します」
十分ですわと返答し、一枚の紙を受け取って、それをボードに貼り付けた。
「ジャニアリー隊、ジューン隊、オーガスト隊は、繁華街北側で弾薬を調達すること。
 その為にトラックを、そうですわね、四台使用許可を出しますわ。足りるかしら?」
「はい、問題ありません」
小隊長の言葉に頷きを返し、ホワイトボードの隊名の後に、『北側:弾薬調達』と書き込む。
「現場の指揮はジューン隊小隊長に命じます。決してコヨーテと戦闘にならないように。
 次、オクト、ノヴェ、ディッセ隊。あなたたちは繁華街東側にて燃料を調達。
 トラックは六台、現場指揮官はディッセ隊小隊長」
エイプリルが書く前に、ジューンが出て来て必要な事項を全て書き留めた。
「了解です。うんざりするほど手に入れてきますよ」
「なら、帰って来たらまずシャワーか風呂に入ることを命じます。次」
士官たちは笑った。エイプリルの口も緩む。
「フェブ隊、ジュライ隊、セプ隊は繁華街中央部で食料を確保。
 トラックは五台。現場指揮官はジュライ隊小隊長に命じます」
「承りました。ところで、桃缶は幾つ手に入れれば?」
「いつだって、買ってきた量より一缶多めに彼女たちは欲しがりますわ」
またもや笑い。兵にも姉にもからかわれた三人の妹は頬を膨らませてその扱いに抗議するが、
実際そうなのだから仕方ないじゃないと同じ第三世代のオーガストにさえ言われて、機嫌を少し損ねてしまった。
「残りの三隊、マーチ、エイプリル、メイ隊は艦で待機。行動は自由ですが、艦から出ないように」
ジューンが書き込む。彼女を見ながら、小隊長の一人が言った。
「帰還はいつがいいでしょうか?」
「現在時刻が一五〇〇ですから、九時間後、二四○○に。さて、最後に交戦規則を決めましょう。一応決まりですから。
 基本的に我々は撃たれる前に撃つ、と決めていますが、今回ばかりは撃たれてから撃つように。
 但し、明らかに敵意を持って構えている場合はその限りではない、ということで」
「全て了解です。何もかも問題なく遂行してみせますよ」
「本当に、そうなることを祈りますわ」
エイプリルは神妙な顔でそう言った。
──同刻。ギルド十二姉妹粛清部隊旗艦指揮官室。
「マルチアーノ十二姉妹の現在地を特定しました!」
ドアが開け放たれたのと同時に発されたその言葉を聞いて、
部屋の窓を開けてその傍らで吸っていた煙草をぴんと外に弾き飛ばし、粛清の提案者にして指揮官は発言者の方を向いた。
彼はどうやらその情報を何処かそれなりに遠くで手に入れたらしく、額に汗を浮かべている。
「落ち着け。深呼吸だ」
言われるがままに深く息を吸い込み、吐き、吸い込み、吐く。
それを何度か繰り返して落ち着いた男は、指揮官に言った。
「はい、間違いないそうです。クーロンの宇宙港からリークがありました。
 彼は丁寧に艦を撮影までしてくれましたよ」
一枚の写真を渡す。ちらりと見て、指揮官は口元に手をやった。
男は彼が情報を疑っているのかどうか気になったが、違ったようだ。
「リークした奴に常識の範囲内でお返しをしてやれ。余り無理を言ったら宇宙を遊泳して貰うがね」
言いながら部屋を横切る。
「誰かに命じておきます。我々は出撃するのですか?」
ドアを開けて、一歩進んで外に出てから振り返り、彼は宣告した。
「そうとも、休んでなどいられない、すぐ出撃だ!」
「了解しました、大佐」

*  *  *

小隊長たちは宇宙港の外に出るとすぐさま、己の隊員に最後のチェックを要求した。
「武装を確認しろ。拳銃でも、強装弾なら装甲服を撃ち抜けるんだ。換えの弾倉を忘れるな。手榴弾を落とすなよ」
「水は持ったか? 向こうは人も多けりゃ熱気も凄いぞ」
「まさか、さっき配布した地図をもう失くした奴はいないだろうな」
「トラックの無線周波数は全員覚えておくんだぞ。お前以外に覚えてる奴がいなくなるかもしれないことを忘れるな」
全ての確認が終わり、小隊長たちは互いに頷き合うと、声を張り上げた。
「タイムハック用意! 五、四、三、二、一」
「ハック!」
全員の掛け声と共に、私物の腕時計の時間を合わせる。
「よし、乗り込め! 後は歩くか走るんだ!」
大型車輌の運転手はトラックに乗り込み先行、残りの兵は己の足で移動である。
宇宙港から繁華街までは十キロほど離れていたが、ギルドで精鋭と謳われた十二姉妹隊隊員にとって、
十キロとは遠い距離を表す言葉ではなく、散歩程度の距離である。
彼らの内それを面倒だと思った者は小隊長の目を盗んでトラックの荷台に乗り込んだが、寧ろ彼らは少数派で、
敢えて地を駆けて繁華街まで向かおうという男たちが過半数以上を占めていた。
「そういえば、あいつはどうなったんだ?」
走りながら、フェブ隊の一人が同僚に訊いた。
「あいつ? ああ、もしお前が言ってる男がジャニアリー隊の運が悪いあの男なら、宇宙港でもう拾われてる。
 宇宙港からじゃなきゃ、連絡なんて出来なかっただろうよ。だろ?
 だからトラックに乗り込んでなけりゃ、何処かで走ってる筈だ」
「へえ、休み無しか。そりゃ、運が悪いな」
実のところを言えば、彼はしっかり休んでいた。
最初の連絡から次の連絡まで四時間半の時間があったし、実は今だってトラックの荷台に揺られて眠っているのである。
装甲服をつけず、銃なども持たずに走り続けた彼らは、大した疲れも感じない内に繁華街に辿り着いていた。
この繁華街というのは、クーロンという星で最も人が多く、物が多く、危険の多いところだ。
「俺たちはここでお別れだ。また後で会おうぜ」
ジューン隊を筆頭とする弾薬調達班が、太い道を曲がって行く。
仲間は互いに、ちゃんと働けよ、などと冗談を言って笑いあった。
次にジュライ隊小隊長を指揮官とする食糧確保隊が、繁華街に入って少し進んだところで止まった。
「我々はこの周辺で調達を始める。さっきも言ったが、無線の周波数は分かってるな? いつも通りだ」
さっきと同じように、軽口を返して彼らは別れる。
残ったオクト、ノヴェ、ディッセ隊は東へと進んで少ししたところにある広場で停止し、
トラックの運転手と助手席の者を除き、二時間後に一度ここへ集合することとの命令を受けて、散らばって行った。
殆ど全員が消えたことを確認して、あるトラックの運転手がシートベルトを外して尻を浮かせる。
「お前、何やってるんだ?」
意味が分からない、という顔で助手席の男が首を傾げる。
「いや、ただ待つのは苦手でね。時間を忘れられる魔法を持ってきたのさ」
そう言って彼が取り出したのは、一冊の文庫本だった。

*  *  *

「我が艦は指定位置にて停船中です。後三時間ほどで第一波の準備が整います。斥候は既に突入しました」
「斥候はどうでもいい。本隊の奴らの桃尻を引っ叩いて急がせるんだ。
 三時間だと? 俺は短気なんだ、そんなに待てない。指揮官の言葉だぞ、副官」
「あなたは私に黒を白と言わせられますが、黒を白に変えられはしませんよ。私だって急いでるんです。急がせてるんです。
 ビッグピンクからこちら、ずっと用意を進めてきたんですから。作戦の立案もやったんですよ。あなたの仕事です」
指揮官は、それだって怪しいもんだ、と嘯いて、自分の腰掛けている椅子の肘掛をとんとんと叩いた。
彼の言葉に副官は一瞬本気で憤慨しかけたが、浮かんでいる表情がからかうようなものだった為、
呆れて全身で脱力を表現してみせる。顔には薄い笑いがあるが、余裕のあるものではない。
「ま、それはどうでもいい。そこのガラス棚に入ってる缶コーヒーを一本くれないか。実は酷く眠いんだ」
「はい。しかし、眠った方が宜しいのでは? 攻撃までは時間が掛かりますし」
指を振って彼の言葉を否定する。瞼は半分まで落ちていたが、この男には眠る気は毛頭無いようだった。
分かってないな、と指揮官は言う。副官は憮然とした顔になる。
「攻撃の瞬間は興奮するだろう? 攻撃を指揮することは楽しいだろう? 勝利は正に美酒そのものだろう?」
「肯定ですが、その逆もある、ということを覚えておいて頂きたいですね。敗北は何を意味しますか?」
「可及的速やかな再起と勝利へ向かう歩みの開始。素敵だ」
沈黙が支配する。唯一の音といえば、どうしようもない一人の男が缶コーヒーを飲むものだけだ。
やっとのことで副官はそれから脱した。回れ右をして、部屋を出ようとする。
それを呼び止める。彼は足を止めたが、後ろを向こうとはしなかった。
「二時間後、第一波以外の兵員をガラガラの第一格納庫に集めろ。完全装備で。降りる準備をさせるんだ」
部屋を退出していく副官。指揮官の男は、やれやれと肩を竦めた。彼は冗談を真に受け過ぎだ。それが彼らしいのだが。
苛立ちを胸に溜め込んで、副官は廊下を歩く。このままあの指揮官とやって行けるのだろうか?
彼には時折、あの類のふざけた回答や彼の振る舞いが我慢ならなくなる時があった。
窓から見える広い宇宙に目をやる。この広さの前には自分の悩みなど小さなものだという歌があったな、などと思い出した。
「大尉、ボルツマン大尉」
自分の名前を呼ばれて、彼は声の方を振り返る。
そこには部下が一人いた。手に手に酒瓶を握り締めている。
「食堂で酒盛りでもやっているのか。特に許可のない限り、週に三度以上の酒盛りは規則違反だぞ」
「大尉、目の隈が凄いですよ。それに時計を見て下さい。今日は月曜日ですよ」
指摘されて、もう一度窓を向く。確かに凄い隈だ。私こそ寝る必要があるかもしれない。
部下の兵は心配そうに言った。
「大尉は真面目ですからね、ペトルッツィ艦長の言うことを一々本気にしてたら、疲れますよ」
「知ってたのか?」
「ドアはしっかりと閉めておくべきですね、大尉。秘密も何もありませんよ、半開きでは」
頭を掻く。どうやら、本当に私こそ眠るべきらしい、と彼は思った。
兵はちょっと赤らんだ顔を笑いで埋めて、酒を煽る。
「良ければ、私にもくれないか」
「どうぞ。まだまだありますからね、食堂に行けば幾らでも飲めますよ」
瓶を傾けて、喉を焼く液体を嚥下する。目が僅かに覚めてしまったが、時間が経てばより深い眠りに誘ってくれる。
中身を全て胃の中に流し込んでしまったことに気付いて、ボルツマンは兵に謝った。兵は大笑いをして許してくれた。
「ところで、ヴィート」
「何です?」
「今すぐ食堂に戻って、全員に伝えろ。二時間後までに三リットルの水を飲んで第一格納庫に完全装備で集合」
「了解。いよいよですね。やっちまいましょう、大尉。やっちまいましょうぜ」
彼は酒瓶を背後に放り投げようとして、目の前の人物に気付き、廊下の隅に置くだけに留めた。
これでいいんでしょ? という視線に対し、大尉は頷いて肯定を示す。
丁度彼らがそうしていた時、フェブは艦の作戦指揮室で、巨大なコンピュータを前にしながらうつらうつらと舟を漕いでいた。
コンピュータが画面に映しているのは、半径五十キロの動体情報。
プログラムによって条件に合わぬものは自動的に除外されているので、今は何の反応もない。
それ故、フェブはさっきから居眠りを始めていた。それどころか、今や本格的に眠り始めていた。
一瞬、遥か上空を表す区域で光点が一つ生まれ、発信音を出し、消えた。
「……ぅぇ?」
ぼーっとした顔でフェブは確認するが、その時にはもう完全に消えている。
彼女はもう一度目を閉じて、眠りに落ちた。
点滅する光点が発生。発信音。しかしフェブは起きない。
発信音と点滅の間隔が狭まって、画面の下へ降下していく。狭まっていく。急激に降下。
が、あるところで間隔の狭まり方が緩和した。それでも、段々と下へと降り続けている。
点滅と音の間隔がいずれ連続になり、そして、消えた。フェブは最後まで、目を覚まさなかった。
宇宙港西十五キロ。開けた土地に、一機の大気圏突入用舟艇が着陸していた。
ドアが開き、中から小さな人影が出て来る。数は三つ。
その人影は宇宙港の方向を確かめると、そちらに向かって尋常ならざるスピードで走り始めた。

*  *  *

いやはや、警備という仕事ほど退屈なものは無い。これは俺の持論だ。
それも自分一人での警備を九時間となれば、もっと退屈になる。もう二時間近い。外は既に暗くなっているだろう。
我がエイプリル隊は自由行動の筈なのに、どうして俺だけが警備しなければならないんだ?
……分かってる。命令だからじゃあなくて、ちゃんとした理由がある。命令だからというのも十分な理由だが。
その理由というのも、下らない規則のせいだ。小隊長と来たら、端から端まで掘り返して来やがる。
戦闘になったら有能な男だが、あの性格は良くない。寝る時には靴を脱げ、だって? 酔って眠かったんだよ。
それは十日前の話だったし、非常時だから今の今まで罰は保留されていたが、丁度いいとか言いやがって。
今頃仲間は好きなことをやっているに違いない。俺の私物袋からウィスキーを出してなきゃいいんだが。
これがもう少し重要じゃない任務なら俺もすっぽかして遊んでるんだが、曲がりなりにも警備の仕事だ。
俺がいないと仲間を危険に曝すし、十二姉妹をも危険に曝す。それは避けたい。
だが、とも思う。だが、暖かい飲み物一杯を淹れて来る時間くらい、別にいいじゃないか?
辺りを確認した後、俺はこっそり艦内へと戻った。
小隊長や口煩い真面目タイプの仲間に見つからぬよう、隠密行動を心がける。
隊員食堂に行こうかと思ったが、やめた。絶対に誰かいる。あそこは誰もいない時間帯というものが存在しない。
となれば、十二姉妹専用食堂から失敬してくるか。これも駄目だな。
十二姉妹から盗む気にはとてもじゃないがならない。そんなことなら煮え滾る油を一ガロン飲み干す方がマシだ。
やっぱり隊員食堂か。乗り気じゃないが仕方ない。俺は何か飲みたいんだ。熱くても冷たくてもいいから、何かを。
足を速めて、入り口まで辿り着く。予想通りの混雑だ。結構結構。逆に隠れられるってものだ。
多大な苦労をしながらも、自動販売機群に出来ている長蛇の列へと進む。何飲もうかな。コーヒーもいいけど、紅茶もいい。
運良く列が短いところに潜り込めたので、あっさり手に入れられた。
どれを選んだかについては、商品を目にしても迷ったのでどうせだからと両方買った。
と、ヤバい。小隊長がいた。こっちには気付いてないが、バレるといけない。
帆を掛けて逃げ出そう。見つかれば、奴は俺に猛烈な懲罰とやらをくれるだろう。
そうなったら最後だ。残り一生、自分のクソの始末も出来なくなる。
努めて人を押し退けないようにしながら、俺はそこを抜け出した。後ろを振り返らずに、廊下を走って逃げる。
もう大丈夫だろう、というところまで戻り、缶コーヒーを開けた。走ったせいで喉が渇く。
暖かいそれを飲みながら歩いて警備位置まで戻る最中、年末三姉妹に会った。
彼女たちは何故か、訳有って呼ばれない限り普段は立ち入らない機関室への道を進もうとしていた。
因みに立ち入らないというより、立ち入らせて貰えない、の方が正しい。悪戯されると洒落にならないからだ。
俺が声を掛けると、彼女たちは同時に、ぴったり同時にこちらを向いた。
「そっちは立ち入り禁止ですよ」
「「「ちぇー」」」
流石三つ子だ。声もぴったり。
三人は食堂の方に歩いていった。俺はそれを何となく見ていて、ふと気付いた。
靴だ。おかしい。どういうことだ? 三人の靴には土が付着していた。床を見ると、僅かに散らばっている。
しかし仮にも姉妹の一員だ、エイプリル様の言葉を守らない訳がない。こういう状況下にもなれば、特に。
俺の混乱は、食堂とは反対側から年末三姉妹がやって来たことで余計に発展した。
目を白黒させる俺を不思議そうに見つめ、囁きあっている。
「ねえねえノヴェ、この人どうしたの?」
「知らない。ディッセは分かるー?」
「分かんなーい」
俺は、あれを幻覚と幻聴だと思うことにした。こっちに本物がいる以上、あちらは気のせいの類だろう。
「ああいえ、ただの気のせいで」
「で、警備を放棄するのも気のせいか?」
やあ小隊長。後ろに立つのは怖いから止めなよ。尾行して来たのか?
「それも気のせいですね」
更に三時間警備を延長された。

*  *  *

フェブは、マーチによって作戦指揮室に運ばれてきた飲み物と食事に文句をつけた。
「これがフレンチロースト? この冷えたコーヒーの方がマシですわよ」
「この艦ではね。ドーナツは?」
「貰いますわ。ところで、あなたも食べる気なんですの?」
頷いたマーチの為に、椅子を一つ引っ張ってくる。
彼女はそれに腰掛けて、チョコレートでコーティングされたドーナツを一つ摘まんだ。
フェブも紙コップに満たされたやたら苦くやたら黒い飲み物を飲みつつ、口直しにドーナツをかじる。
意味も無くコンピュータを見るが、何の情報も表示されてはいない。
「敵影無しのようね」
「今のところは、ですわ。もしかしたら、もうすぐ来るかもしれませんもの。
 とても、気を抜いてはいられませんわね」
さっきまで寝てたくせに、とマーチが言った。それを無視するフェブ。
が、もう一度繰り返して言われて、反撃を開始する。
「あなたは遊んでいたんじゃありませんの? 働いていた者に向かってその言い草は──」
ぞくりと、彼女の体に悪寒のような刺激が走った。
これは。これは、知っている。この感触は知っている。この感触を覚えている。
彼女が感じたものを裏付けるように、コンピュータのスクリーン上に光点が一つ発生した。
「マーチ! エイプリルに連絡して警報を!」
「分かった」
マーチが通信を始めるのを確かめもせずに、フェブは己の能力たる広域レーダーを周囲に出力した。
黄緑の板が目前に広がる。赤い光点が、一つ発生している。
いや、一つではない。二つ。三つ。四つ。五つ六つ七つ八つ九つ十十一十二十三十四十五十六──目視では数え切れない!
──フェブ? 何があったんですの?
エイプリルの声が響いた。答えられず、フェブは画面を凝視し、何とかして数えようとする。
十七十八十九二十二十一二十二二十三二十四二十五二十六二十七二十八二十九三十三十一三十二三十四三十五三十六三十七三十八三十九
四十四十一四十二四十三四十四四十五四十六四十七四十八四十九五十五十一五十二五十三五十四五十五五十六五十七五十八五十九六十!
──フェブ、報告しなさい! フェブラリー!
エイプリルが怒鳴って、彼女はやっと我に返った。知らず噛み締めていた歯を圧力より解放する。
「ほ、報告します! 敵大気圏突入用舟艇団が広域レーダー網に侵入、いえ、侵入中! 凄い数ですわ!」
──数はどうなっていますの? 舟艇の大きさは? 個人用ですの? 落下ルートは?
フェブは叫び声を上げた。
「数は不明、数は不明ッ! レーダーを埋め尽くしてます! 繁華街の方にも……大きさは殆どが分隊用、宇宙港への直撃コース!」
──スピードは? 到着時刻は?
「正確なスピードは不明、落下に近いと思われます! ち、地表との衝突まで残り十五秒!」
エイプリルが息を呑む音がして、やっと警報が鳴り始める。
『警報レベル五。警報レベル五。全ギルド兵は完全武装し所定の位置に付け。警報レベル五。艦内への敵の侵入の危険あり』
『繰り返す、警報レベル五。全ギルド兵は全ての職務を放棄することを認める。警報レベル五。各小隊長又は姉妹の指示に従え』
『警報レベル五。戦闘の可能性あり。装甲服を着用せよ。完全武装せよ。小隊長は艦橋にて指示を受けよ』
──フェブ、マーチと一緒に艦橋に来なさい! 早くッ!
リーダーの声も全く耳に入っていない。マーチが駆け寄って立たせ、無理矢理引っ張っていこうとする。
「あ、あ、衝突まで十、九、八、七、六、五、四、三、二、衝突、今ですッ!」
爆発にも近い音が発生し、それと共に立っていられないほどの揺れが発生した。

*  *  *

「一体あれは何なんだ?」
僕は知らず口に出した。横で弾薬をトラックに積んでいた仲間が振り返り、空を見上げて、同じことを言う。
ギルド兵とは知らずに先程まで値下げ交渉に臨んでいたコヨーテも同様だ。
空を埋め尽くす白。繁華街の光はそれをより見易くしてくれる。僕たちにはあれが何なのか思い当たる節があった。
「分隊突撃艇」
小隊長が歯軋りして言葉を漏らす。僕も心の中で同意した。あれはそれだ。それしかない。
本当は大気圏突入用舟艇分隊用が規定された呼び名だけれど、現場では誰もそう言わず、分隊突撃艇と呼称する。
その方が格好いいし、突撃の文字は士気も上げてくれたからだ。
今、僕たちはそれの襲撃を受けている。なるほど、これが奴らの気分か。僕たちの敵だった者の気分か。最悪だ。
周りを見る。コヨーテは姿を消していた。何処に行ったのかは知らないが、
我々が最後の調達場所に選んだ『アンディの銃器店』の中ではないらしい。好都合という奴だな。
小隊長も考えは同じだった。
「ハンス、ゴッドボルト、運転手たちに地下駐車場へトラックを隠せと言え。
 シグリッド、俺たちはこの銃器店を占拠し敵の襲撃を凌ぐぞ。
 トラックの無線で食料班と燃料班にそう伝えろ。地図の座標を送信するんだ」
「了解。おい、急いで残りの弾薬を積み込むんだ! ヴィンスは店の窓に重機関銃を設置しろ、全方位に向けてな。
 ヴィクトール、ヴィンスを手伝ってやれ」
僕はヴィンスを手伝い、三階建て銃器店の三階から見える南の太い道路に向かって五十口径を設置し、
東西から来る細めの通路に向けて三十口径を設置した。当然ながら、北にも三十口径を置いた。
作業を終えて戻ると、銃器店から拝借した武器の配給を始めていた。
銃はコヨーテの集めるものらしく旧式が大半を占める。
まあ、十二姉妹だってルガーを使ってたりスパスだったりするし、
使えと言われたなら僕たちは先込め銃だって使って戦えるからどうでもいいんだが。
それでも、大して銃の種類がバラけてない辺りは評価しよう。
これで弾が合わないせいで棍棒にしか出来なくなるかもという心配からほぼ解放される。
僕が配給されたのは突撃銃一挺に弾薬四百二十プラス既装填の三十発、手榴弾三発だった。拳銃はもう持ってるからな。
そしてこの突撃銃、M4カービンが中々泣ける。
何が泣けるって、新品なのはいいのだが、グリースが付いてるくらいの新品なのだ。
よって、照準は調整されていない。戦いながら合わせるしかあるまい。
指揮官のジューン隊小隊長はここに来た敵に待ち伏せを掛ける気だ。銃声なんて聞こえりゃ、失敗するに決まってる。
取り敢えず僕は銃器店に入って、ダットサイトを探すことにした。あれがあれば、照準直しにも射撃にも使える。
店内を探して回る。が、見つからない。そういうアクセサリは置いていないのか?
舌打ちをして、僕は壁を蹴った。と、崩れる。周囲の視線集中。やらかしちまったか?
「何とまあ、お手柄だな」
ジューン隊の一人がそう言って僕の肩を叩いた。皮肉かと思ったが、違った。
彼が指差している先には箱が沢山あった。そこには何か書いてある。
ある一つの種類の箱の一群には『Raketenpanzerbuchse』『RPzB 54/1』とあり、
その隣にあった箱の山にはこうあった。『Panzerfaust 100』。
僕は腕組みをして感心していたジューン隊の男ににやっと笑いを見せて、
これらの対装甲攻撃手段となる素晴らしい発見物の物色に走った。
ダットサイトは後で仲間が見つけてくれた。

*  *  *

分隊突撃艇で降下しながら、俺は思った。リークした奴は何を考えたんだ、本当に?
彼の分隊は全員でリークした奴の言葉を録音したテープを聴き、大笑いしたものだ。
彼は十二姉妹隊を一個か二個の中隊規模だと思っていた。これが笑えるポイント一。
彼は十二姉妹隊を単なる反逆者共だと思っていた。これが笑えるポイント二。
彼は十二姉妹隊の位置を教えるだけで人生の勝利者になれると思っていたようだ。これがポイント三。
ふざけるな。
彼らがただの反逆者共だと? 一個か二個中隊ほどの規模だと? 情報を伝えるだけで人生の勝利者?
最後はどうでもいい。それは個人の価値観が関係するからどうでもいい。
出来れば彼に教えたかったものだ。十二姉妹配下のギルド兵の規模を。
彼が何を見たのか知らないし、何を知っていたのか知らないが、彼らは一個大隊に中隊一つ分くらい足りないだけだ。
そして統率者。マルチアーノ十二姉妹。今はエイプリルというお人形がリーダーらしいが、彼女たちも問題だ。
銃弾を無効化する体。恐るべきその単純な力。人間にはない特殊な能力。機械故の精密性。
どれをとっても最高級に敵にしたくない相手だ。
配下のギルド兵だって怖い。選び抜かれた精兵。衛生兵から伝令兵までがだ。
勿論、俺たちだって精鋭兵さ。その証拠に、このクソ溜めに突っ込まれても生き残る気でいる。
こいつが一級の精鋭である証拠じゃなかったら、何だってんだ?
「上陸一分前だぞ。俺たちが上陸部隊の先遣隊の最終便だ。数時間後に第二波、本隊が降下する。
 俺たちは敵が腰を抜かしている隙に辺りを確保しなければならん。
 確保次第、連絡し、その二分後には強力な本隊の一部が着陸する。
 武装八輪装甲車を含んだ強力な部隊だ。俺たちは何としてもこの一帯を確保しなくちゃならないんだ」
「ヴィート分隊長」
シートベルトでぐるぐる巻きにされた部下が発言許可を求めた。
俺はそれを言え、の一言で許可する。
「何故一気に送り込んでしまわないんです? 兵力の逐次投入は最大最悪の愚ですよ」
「理由を教えてやろう、ティリンギャースト。
 市街地に突っ込ませて無事な車輌輸送用突撃艇がスーパーマーケットで売り切れだったからだ」
「どうも」
彼の心底どうでもいい質問を終わらせて、作戦についての説明を続ける。
もう上陸四十五秒前だ。
「まず我々は、スキャンによって確認した最新のデータによる支援を受け、
 繁華街北部に東部、それに中央部の敵兵を制圧する。降下地点は南部に広がる平野地帯になるだろう。
 西にある母艦は既に特殊選抜隊六十名のギルド兵と特別兵七十一名が襲撃しているから心配するな。
 我々十二名は降下後、第一小隊の傘下に置かれる。
 近くに降下して指揮センターを設置している筈だから、まずはそれを探さなくてはならない」
手が上がる。ティリンギャーストだ。またお前か、お喋り野郎。
「コースが逸れて建物に突っ込んだ場合、大丈夫なんですか、この艇は? 二年前はそれで死に掛けましたよ」
「例えば大丈夫だったとしよう。その場合全く心配ない、だろう?
 そしてもし大丈夫じゃなかったら? 俺もお前もくたばるだけだ。一瞬だから痛くない。良かったな」
降下前になるといつも彼はお喋りになる。それがこいつの欠点の一つだ。
機内表示によれば、残り二十五秒で着陸するようだ。外は暗いだろうか、明るいだろうか。腕時計を見る。十七時そこら。
なら、もう暗いだろう。クーロンはそういうところだ。
「降下前最後の点検だ。マック、ヘルメットは正しく被っておけ。死ぬぞ」
「了解、サー」
「スタインベック、お前降下は何回目だ? その顔を止めてヘルメットを被るんだ。葡萄農家の怒りを表現してるのか?」
「いいえ、ただこのGが嫌いで。ヘルメットを被るともっと酷いんです」
「いいから被るんだ。死ぬよりはいい。ティリンギャースト、手を上げて発言許可を求めるな、俺が困る。
 着陸まで残り十五秒だ。舌を噛み切るなよ。衝撃に備えろ。何度も言うが、ティリンギャーストはその手を下ろせ」

*  *  *

「フェブ、この艦橋を臨時司令室にしますわ。あなたはここで情報支援をお願いします。
 作戦指揮室まで回す人員がいないんですの」
「分かりましたわ。エイプリルは?」
彼女は手に握った銃を見せた。それでフェブは理解した。
フェブと艦橋に来る途中ギルド兵に呼ばれてそちらに行ったマーチが遅れてやって来て、
自分の銃にボルトを引いて初弾を装填しながら報告する。
「四つある艦への入り口の内、南の一つは破壊した。東はメイ隊が守備中。西はエイプリル隊。北は私の隊。
 報告終わり、私は北に向かうわ。メイは既に東にて警戒中。ジューンもそこにいる。ジャニアリーは北。
 オーガストとオクトたちはニルソン様の保護へ向かった。ジュライは不明」
「了解。フェブ、ここのことを宜しく。私は西で指揮を──」
「それは賛成出来ない。エイプリルはここで全部隊の指揮をするべきだと思う」
エイプリルは反論に少し考え込み、その考えの方が理論的で、合理的で、つまり尤もだと結論した。
彼女は前言を撤回するとジューンに連絡し、西でそのエイプリル隊の指揮を頼む旨を伝える。
ジューンは快諾し、急いで向かうと通信した。マーチはその間に、艦橋から姿を消した。
「フェブ、艦周辺の詳細スキャンを生命反応のみに絞って行って」
「了解」
様々な表示が展開される。エイプリルは見えてこない状況に爪を噛もうとして、それは淑女のすることではないと思い直した。
エラー音が鳴り響き、フェブが舌打ちする。何度やっても、エラー音が鳴った。
「どうしたんですの?」
「分かりませんわ。分かりませんわ! せ、生命反応が、生命反応が『無い』んですの!」
「無いですって?」
その意味が少しの間分からなかった。生命反応が無い? ということは敵は空の舟艇を落としたのか?
顎に手を当てて意味を考慮する。空を落とすメリットは? ダミーにしてもすぐバレる。それこそ無意味だ。
それではなんだ? 武装? それなら壊れないようにもっとゆっくり落とす筈だからこれも違う。
と、頭の中で銃声と聞き慣れた女性の声が聞こえた。
──エイプリル? エイプリル! こちらジャニアリーですわ! 北侵入口でマーチたちと共に交戦中!
「ジャニアリー、こちらのモニターに連絡して」
──了解!
声と同時に、モニターに現在ジャニアリーの見ている映像が映る。彼女は遮蔽物の後ろに隠れているようだった。
『敵は多数の模様、敵は多数の模様! 頭を上げられませんわ! 敵影すら確認出来ず! 支援を!』
「フェブ?」
視線を向けるが、彼女は何が何だか分からない顔だ。
モニターの向こう側で支援を求めるジャニアリーに応答しながら、エイプリルは必死で頭脳を回転させた。
考えろ。敵がいる。それは確かだ。だが周辺に生命反応は無い。それはどういうことか?
答えは気付いてみれば簡単だった。エイプリルは拳を握り締めた。
「フェブ、私たちの反応で調べてみてくれるかしら」
「了解。けれど……ッ!」
彼女のレーダー領域に、大量の光点が発生していた。
そして、上空から新たな舟艇が降下しているようだ。通常のスピードで降下してくる。
「これが答えということね」
エイプリルとフェブは、敵が十二姉妹と同じものを投入して来たことを確信した。
それも、大量に。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年01月23日 22:24