帰ってきた鰐男-03


ブリミル暦601X年初夏
人々はひび割れた赤土に己が足跡を刻印しつつ歩いていた
酷く暑い-

古い煉瓦塀の内側に建つ壮大な<本館>の中庭で、大勢の男たちの輪の中に一人の女が立っている。
歳の頃は二十台前半、きりりと引き締まった目鼻立ちと真一文字に結ばれた鮮やかな朱唇が、意思の強さを
伺わせる。
ゆったりしたブラウスと丈の長いスカートも、世の女性全てが羨望の眼差しを送る完璧なプロポーションを
隠しきれてはいない。
腰までなだらかに流した緑の髪は絹のように細く、うなじから覗くクリーム色の肌からは、むせるような女
の色香が漂っている。
ゆっくりと、固唾を呑んで視姦する男たちを焦らすようにゆっくりと、女の指が胸元のボタンを上から順に
外していく。
しわぶき一つ聞こえない中庭で、ブラウスとスカートが白磁の肌を滑る衣擦れの音が、やけに大きく感じら
れた。
着衣を脱ぎ捨て、妖艶な黒の下着姿を白日の下に晒す女に向って、獣欲を剥き出しにした男たちの野次が飛
ぶ。
「四つん這いだ~」
「腰くねらせろ~上下に動け」
「もっとワイセツにミダラにやれ~」
「いい顔しろ~」
女は妖しい微笑を浮かべると両手を頭の後ろに組み、石畳の上に両膝をついて淫靡な曲線を描く肢体をエロ
ティックに揺すり始めた。

第二席【怒りの鰐】

ありのままに起きた事を言う!
ヌルポガの森で悪い魔法使いの財宝を手に入れウハウハで帰ってきたら、ティファがナスビになってい
た!?!(by マチルダ

「こりゃー皇帝疫だねえ」
紫色に腫れ上がり色といい形といい“まさにナスビ!”といった有様になっているティファニアの顔を濡れ
タオルで拭きながら、マチルダは心底ウンザリした口調で言った。
「皇帝疫?」
「伝染病の皇帝って言われるくらい厄介な病気さ、アタシは小さい頃に経験済みだから無問題だけどティフ
ァくらいの年頃の娘が発病するとマジで命に関わるんだよ」
「母親の形見と言っていた指輪の力で治せんのか?」
クロコダインの問いに、マチルダは大袈裟に肩を竦めた。
「この病気の何が厄介かっていうとね、うかつに回復系の魔法を使うとウイルスまで元気になっちまうのさ」
「では?」
マチルダは腰をあげると、壁に掛かっていた杖とマントを手に取った。
「薬を買いに行くしかないってこと」
その老婦人を見たクロコダインの脳裏に【妖婆 死棺の呪い】という謎のフレーズが浮かんだ。
「悪いねえエンヤ婆」
「フェフェフェ、他ならぬマチルダ嬢ちゃんの頼みではのう」
マチルダの古くからの協力者だという老嬢が歯茎をムキ出しにして、抜け落ちた歯の隙間から空気を漏らし
ながら笑うと、鋭角的に突き出した鼻先が腐肉を啄むハゲタカの嘴のように上下する。
「それにしてもまあ-」
クロコダインに向って意味ありげな流し目を送り、ニタリと笑うエンヤ婆。
「行かず後家確定かと思ってたマチルダ嬢ちゃんが意外とやるもんだねえ」
「な、なななナニ言ってんだか!コイツはそんなのじゃなくてタダのえ~とそう、居候よイソーロー!べっ
別に人間だったらとっくに迫ってるとか!もしヤっちゃったらやっぱり生むのはタマゴなのかとかそんなこ
と全然思ってないんだからね!」
耳まで真っ赤にして自爆しまくるマチルダにじゅうさんさい。
「あと頼んだからね――――――――――ッ!!!」
羞恥で肉体のリミッターを外したマチルダは、片手でクロコダインを引き摺りながらシベリア超特急のよう
な勢いで家を飛び出す。
「若いねえ…」
静けさを取り戻した室内で、のんびりほうじ茶を啜るエンヤ婆であった。
街を見下ろす丘の上で、ヒースの木陰に寝転びながら、クロコダインは青空をゆっくりと流れる鰯雲の群れ
を見ていた。
「あの街は色々と面倒なところだからアンタはここで待っとくれ」
そう言って一人で街に入ったマチルダが心配ではあったが、初見の人間が自分の外見にどんな印象を受ける
かを考えれば、一緒に行くことで余計なトラブルを生む可能性も無視できない。
「ここは“土くれのフーケ”のお手並み拝見といくか」
つい先日、森の中で遭遇した野党の一団を、新開発の三段逆スライド式可変ゴーレムで蹴散らすマチルダの
雄姿を思い出して苦笑するクロコダイン。
その時、欠伸をかみ殺しながら寛ぐ鰐男の片方だけ生き残った目に、互いに支えあいながらのろのろとおぼ
つかない足取りで丘を登る二つの小柄な影が映った。
「では、確かに」
書面を確認したマチルダは、大きく息をついた。
これで遅くとも明後日には、皇帝疫用に特別に調整された秘薬がウエストウッド村近くの、旧サウスゴータ
公の家臣が経営する宿屋に向けて発送される。
「私どもにお任せいただければ万に一つの心配も要りませんよ」
製薬の町として知られるブラウンズヴィルを含む周囲一帯の領主であるとともに、地元で医療に携わる水メ
イジの元締めでもあるデイヴィス・トゥルーグッドは、スコーンの欠片の乗った皿と空のティーカップが置
かれたテーブルの向いで優雅に脚を組むやり手の女秘書モードのマチルダの、スカートの裾から覗く白い脹
脛に粘液質な視線を這わせながら言った。
「特に貴女のような方には今後も末永く贔屓にして頂きたい」
テーブルの上に置かれたマチルダの白魚のような指を狙って伸びてくる脂ぎった中年の掌を巧みに掻い潜り、
年季の入った愛想笑いを浮かべながらマチルダが立ち上がったその時-
窓をブチ破って飛び込んできた衛士がドップラー効果を伴った悲鳴をあげながらマチルダの眼前を通過し、
前衛的なポーズを取って壁にメリ込む。
それと同時に耳に飛び込んでくる、聞き覚えのあり過ぎるサビの聞いた声。
「ええい雑兵ごときに用は無い!料理長…じゃない、領主を呼べ!」
「あの馬鹿…」
領主の屋敷の中庭では、クロコダインが衛士を相手に大立ち回りをしていた。
といっても鋼鉄の肉体と黄金の精神を持つ爬虫類型決戦兵器とモブ兵士では、タイガー戦車とスナドリネコ
ほどの戦力差が存在する。
相手を過剰に傷付けないよう微妙な力加減をしなくてはならない分、かえってクロコダインの方が戦い辛い。
そこに領主とともに駆けつけたマチルダの仲裁によって、戦いは衛士39人が重軽傷を負い、直立歩行鰐は
鎧がちょっと凹んだだけという結果に終わった。
「で、このバカ騒ぎの原因はナニ?」
クロコダインを問い詰めるマチルダの表情は険しく、口調は刺々しい。
「うむ、先刻待ち合わせ場所の林の中でボロボロになって街から出てきた兄弟を見かけてな、訳を聞いてみ
ると病気の両親の薬を買いに来たのだが平民というだけでまともに取り合ってもらえず、たまらず文句を言
ったら袋叩きにされたうえ罰金という名目で有り金全部取り上げられたというのだ」
「それで頭にきてカチコミかい…」
コメカミを押さえて首を振るマチルダの背中に、険しい声が掛けられた。
「ミス・ロングヴィル!」
絵に描いたように不機嫌な顔をしたトゥルーグッドが大股で歩いてくる。
「その薄汚い蜥蜴モドキは貴女のペットですかな?」
「貴様-
怒りの声をあげようとしたクロコダインの両顎を、女盗賊の腕がガッチリとホールドする。
実はワニは口を閉じる力は強いが開ける力はショボイ(by エクセル・サーガ)
「ここで下手を打ったらティファの薬がパアになっちまうんだよ!この場はアタシが収めるからアンタは何
もするんじゃないよ!」
クロコダインに釘を刺したマチルダは深呼吸をして気持ちを切り替えると、男の性欲中枢を直撃する取って
置きの微笑を浮かべてトゥルーグッドに向き直った。
「大変なご迷惑をお掛けしてしまい誠に申し訳ございませんでした、お詫びといってはなんですが…」
トゥルーグッドが何か言うよりも早く傍らに寄り添い、ピタリと身体を密着させたマチルダが、それ自体が
愛撫であるかのようななめらかな声で何事かを耳打ちする。
「ナニ?貴女がこの場で白昼ストリップ&全裸ムチ打ち受けるから許してやってくれ?フム、そこまで言う
のなら、というかゼヒそうしてくれ」

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最終更新:2010年06月07日 13:27
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