鰐男・虎の目大冒険-01

ここは異世界ハルケギニア。
今日の鰐男は、アルビオン大陸にあるウエストウッドの森から物語をはじめよう!
(ナレーション:政宗一成)

うららかな陽射しの下、小川の両岸に丸太を渡しただけの簡素な橋に腰を下ろし、ふと短い足と長い尻尾をぶらぶらさせなが
らのんびりと釣り糸を垂れる鰐が一匹。
我らが獣王クロコダインである。
その近くで野苺を摘んでいるのは革命的バストを持つ美貌のハーフエルフにして実はアルビオンの王位継承権者でもあるテ
ィファニアだ。
ティファニアが口ずさむ「ダニーボーイ」を聞きながら、草原に寝転んだマチルダは青空を横切る白い雲をぼんやりと眺めて
いた。
「平和だねえ…」
そのとき耳障りな羽音を響かせて、子牛ほどもある特大の雀蜂が飛んできた。
蜂はクロコダインの頭上でホバリングすると、大顎をカチカチと鳴らしながら何事かを告げる。
「どうしたんだい?」
「どうやら招かざる客のようだ」
そうマチルダに告げると釣竿を手放した右手にグレイトアックスを掴み、クロコダインは駆け出した。
「あたしも行くよ!」
飛び起きたマチルダは二、三歩走ったところで振り向いた。
「ティファ、あんたは家に戻ってな!ブルース、ティファを頼んだよ!」
緑色の巨大雀蜂は前脚を複眼の前にかざし、マチルダに向かって敬礼してみせる。
CGアニメなら加藤賢崇の声で「了解だブ~ン」と言っているだろう。
鬱蒼とした森の中、鎧冑に身を固めた騎士の一団をモンスターの群れが囲んでいる。
サイクロプスがいる、グリフォンがいる、ヒドラがいる、笛のような声で“テケリ・リ!テケリ・リ!”と鳴くなんだかよく
わからないものがいる。
彼らはみなクロコダインに敗北し、軍門に下ったものたち-所謂ジャンプ方式である-であった。
「ええい近寄るでない下郎!」
円陣を組む騎士たちの中心でやたら偉そうな白髪白髭のジジイが喚いている。
「随分と元気なご老体だ」
モンスターたちの間から貫禄たっぷりに進み出る鰐。
「おお、会いたかったぞクロコダイン!」
「はて、どこぞでお会いしましたかな?」
首をかしげた鰐の背後から地響きが近づいてくる。
全力疾走から跳躍したマチルダはクロコダインを飛び越え、スカートが捲くれあがるのも構わず-黒のレースだった-老人の
顔面に渾身のドロップキックを叩き込んだ。
「何しにきやがったクソジジイ――――――――――ッ!!!」

ここはウエストウッドの森の奥深くにあるマチルダの家。
「するとご老人が…」
「アルビオン王ジェームズ1sぐぎゃあ!」
鰐に向かって威厳たっぷりに自己紹介をはじめたジジイの顔を、マチルダの杖が突いた。
「ティファの両親を処刑したクズ野郎さ!」
鼻の下の急所を打たれて悶絶する老人に唾を吐きかける悪女モード全開のおマチさん。
クロコダインを相棒に冒険者家業に転職して以来武術の研鑽を積んできたマチルダは、いまや明鏡流杖術の達人である。
その手に握られた長さ五尺の樫の木の棒がうなれば大の男でも頭蓋を叩き割られる。
「まあ落ち着け」
エキサイトしまくりな元女盗賊を諌めるクロコダイン。
「過去の遺恨を承知で尋ねてくるには相応の訳があろう、まずはそれを聞いてみるべきではないかね?」
なんと人間の出来た鰐であろうか。
「実は…」
ようやく立ち直った白ヒゲが語り始めたそのとき-
「ウッキ―――――ッ!」
ジェームス1世の隣に置かれたやたら豪勢なつくりの箱が開き、中から一匹の狒狒が飛び出した。
放物線を描いて宙を舞うエテ公の予想着地点はティファニアの胸だ。
「このエロ猿!」
すかさずマチルダの杖が一閃する。
「おお息子よ!」
したたかに背中を打たれて悲鳴をあげる狒狒に駆け寄り、ひしと抱きしめるジジイ。
「今、なんと言われた?」
鰐もおマチさんもメロンちゃんも、「お前は一体なにを言っているんだ?」という顔をしている。
「これは我が息子ウエールズなんじゃぁぁぁッ!」
「な、なんだってぇ――――――――――ッ!?!」
驚く一同。
「陰毛…いや、陰謀じゃ。ヨーク家の陰謀じゃ!わがテューダー家から王位を簒奪するためウエールズに呪いをかけよったん
じゃあああ!」
「王位を巡ってのテューダー家とヨーク家の争いか、まるで薔薇戦争だな」
「そりゃあこのハルケギニア自体中世ヨーロッパのパロディだからねえ」
メタな会話を交わすクロコダインとマチルダをよそに、涙と鼻水を垂れ流しながら泣き喚くジジイと狒狒。
威厳もへったくれもないがそのなりふり構わぬ悲しみと嘆きは、純粋すぎるハーフエルフの少女の魂を激しく揺さぶった。
「義姉さん…」
頼りになる義理の姉をじっと見つめる澄みきった瞳。
「あーもうわかったよ!どうせアタシと鰐の旦那にしかできない仕事なんだろ?」
なんだかんだでティファニアの“お願い”には勝てないのであった。

「スターボード!」
「スターボード、サー!」
引き締まった細い船体が、アルビオン大陸から剥がれて空中に浮遊する巨岩をひらりと避ける。
フリゲート艦ポートパトリックはジェイク・イースンスミス少佐の水際立った操艦により、スカパフローの狭隘な空路をすい
すいと進んでいった。
国王直々の密命を帯びたポートパトリックの目的地は幻の島カスガル。
宮廷占い師のマーリンによれば、ウエールズにかけられた呪いを解くカギはカスガルにあるというのだ。
乗組員はイースンスミス艦長以下134名、そして狒狒に姿を変えられてしまったウエールズ・テューダーとクロコダインに
マチルダ、さらにティファニアも一緒だった。
蛇蝎のごとく嫌っているジェームス1世に隠れ家を知られたからには、マチルダとしては大事な義妹を目の届くところに置い
ておかないと安心できないのであった。
幻惑の効果を持つアーティファクトを身につけ、エルフの血を引くことを示す長い耳を隠したティファニアは、素性を知らさ
れていない水兵たちに女神のように扱われている。
だが正体を知られたらタダでは済むまい。
そう考えると自然と険しい顔になってしまうマチルダであった。
そんなマチルダのもとにもう一つの頭痛のタネがやってくる。
「そんな難しい顔をしていては美人が台無しですよ」
ブロンドの長髪を風になびかせ、歯の浮くような台詞を臆面もなく口にするカマっぽいイケメンの名はヘンリー・テューダー。
ウエールズの又従兄弟であり、今回の冒険のオブザーバーということになってはいるが、早い話が監視役である。
ジェームズ1世の身内というだけで、マチルダが嫌うには十分だったし、クロコダインも単なる軽薄な若者と見える青年から、
魔王軍の同僚だった煮ても焼いても食えないジジイと同種の匂いを感じていた。
「そう思うんだったらアタシの視界に入らないどくれ」
あっちへ行けと言わんばかりに右手を振り、マチルダは甲板にテーブルとデッキチェアを並べてウエールズとチェスをしてい
るティファニアのほうに歩いていく。
「十時の方向より接近するものあり!」
見張りが発見した飛行物体は飛竜をはるかに凌ぐ速度でグングン近づいてくる。
「ありゃ一体なんです?」
「なんだろうと構わん、戦闘配置だ!」
目を丸くする副長を怒鳴りつけるイースンスミス。
それがカーチス・トマホークという第二次大戦期の戦闘機であり、機首に描かれたシャークマウスが傭兵飛行隊として名高い
「フライングタイガース」のトレードマークであることをハルケギニアの人間が知るはずもないが、イースンスミスの超能力
じみた危機察知能力がボリューム最大で警鐘を鳴らしている。
「下衆どもめ!その棺を下ろすのだ!さもなくば聖パウロに誓って言うが、言うことを聞かぬやつは血祭りにあげるぞ!」
シェイクスピア作「リチャード三世」第一幕第二場の台詞を唱えながら、トマホークの操縦桿を握るグロスター公リチャード
は戦闘機を巧みに操り空飛ぶ帆船と正対させる。
主翼と機首に装備された六挺の機関銃が一斉に火を吹いた。

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最終更新:2012年04月29日 17:19
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