ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-13

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匿名ユーザー

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本日は学院恒例の品評会。
すなわち、生徒達による使い魔のお披露目が行われるのだ。
しかし、ただの年中行事ではない。
優勝した生徒には賞品が授与されるし、多くの貴族も参観にやってくる。
そこで自分を売り込めれば覚えよろしく宮仕えだってあるのだ。
だが、今回の品評会の熱の入り様は桁違いだった。
なにしろトリステイン王国アンリエッタ王女が来るというのだから、
生徒達が色めきたつのも無理はない。
当日に備えて付け焼刃の特訓をしていた生徒達が野望に燃える。

そしてアンリエッタ王女が歓声で迎え入れられるのと同時刻、
学院の裏手では話し合う二人の男の影があった。
それはまるで彼女を囮に人目を忍ぶかのような振る舞い。

「『光の杖』は厩舎の裏の馬車の中に。ここを立ち去る際に一緒にお持ち帰りください」
「分かった。それで『光の杖』が何か判ったのか?」

被っていたフードを外し、コルベールが顔を見せる。
だが、相手は顔を隠したまま淡々と質問を返す。
貴族にあるまじき非礼な態度に腹を立てるも声には出さず答える。


「…いえ。共に見つかった書物からも情報が得られませんでした」
「ほう。オールド・オスマンは宮廷の命令なぞ聞く気はないと?」
「っ…! 何をバカな事を! 元々、無茶な命令を突き付けてきたのは貴方がた…」
「黙れッ! 我々は『やれ』と言ったのだ! 出来なかったのは貴様等が無能だからだろうが!」

怒号と共に突きつけられた杖。
それをコルベールは臆する事なく見据える。
その静かな迫力に男の気迫が僅かに飲まれた。
遠くからは響いていた声は次第にこちらへと近づいてくる。
歓迎の式典も終わり、会場へと移動しているのだろう。

「…まあいい。どうせ期待などはしていなかった」
捨て台詞同然の言葉を言い終わると、男は視線を向ける事なく立ち去っていく。
その後姿を眺めながらコルベールは毒づく。
(有能が聞いて呆れますな。あのような者が“アカデミー”の人間だとは)
そもそも自分達で解明できなかったから、こちらに回されたというのに。
能力以前に人格を疑いたくなってくる。
もし、ミス・ヴァリエールの使い魔の事がバレたら何をしでかすか予想も付かない。
さっさと荷を引き取ってお帰り願いたい所だ。
しかし、あんなのが大手を振ってるとなると宮廷の住み心地も悪かろう。
王女とはいえアンリエッタ姫殿下はまだ幼い少女。
彼女の心中を察するにコルベールは心を痛めた。


「誰だ!?」
完全に彼の視界から消えようとした瞬間、男の叫び声が上がった。
見れば遠くで杖を構え、何かを睨みつけている。
(まさか今の話を聞かれていた…?)
咄嗟にコルベールも杖を手に向かう。
もしかしたら噂の『土くれのフ-ケ』が学院内に…。
不安を押し隠し、彼が辿り着いた先で繰り広げられる光景。

それは殺気の入り混じった視線を送るフードの男と、
自分が与えたソリを引く使い魔の姿だった。

「貴様、今の話を聞いていたのか!?」
「っ……!」
まずい。主と使い魔は一心同体、加えて使い魔は人の言葉を理解できる。
今の話を聞かれたと思えば、この男は平気で彼女達に危害を加えかねない。
それが誤解だと言ったとしても男は納得しないだろう。
何とかここはやりすごさなくては…。

「おい! こいつは誰の使い魔だ!?」
「ええと…その犬は使い魔ではなくて野良犬なのですが…」
「野良犬…だと?」
反射的に出した言葉に男の眉が上がる。
明らかに警戒するような目。
元より人を疑ってかかるような気質だ。
私の言葉など信じる気はないだろう。

「バカを言うな! 魔法学院に野良犬が出入りするものか!」
「それが生徒の誰かが餌を与えているらしく、ここに出入りするように…」
無茶と分かっていても嘘を押し通す。
どのみち、向こうにはこちらの言葉を証明する方法など無いのだ。
ルーンも体毛に隠されて傍目に見つけ出す事は出来ない。
野良犬かもしれない以上、手を汚してまで自ら調べようとしないだろう。
その私の顔を蔑むように男は見下し言った。

「ふん…愚か者め。使い魔は普通の獣とは決定的に違う。
その動作を具に観察すれば自ずと判別は付く」
一瞬。たった一瞬だが血の気の引いた自分の顔が青ざめるのを感じた。
それを気取られないように必死に平常心を保つ。
そして、男は彼へと振り返った。

そこには牽引索を引っ張り丘の上に駆ける彼の姿。
そのまま、てっぺんまで上り詰めると今度はソリに乗って下っていく。
そしてソリが止まると再び索を引っ張り上っていく。
再び丘をソリで滑り降りる彼。
実に楽しげで“ひゃっほー”なんて声が聞こえてきそうだ。
延々と繰り返されるその光景の前に、男が唖然としたまま固まる。


「…どうやらただの犬のようだな」
自分が犬を相手に醜態を晒した事に気付いたのか。
おほん、と小さく咳払いし杖を袖口に戻す。
「だがな! 姫殿下がいらっしゃっているのだ!
警備は厳に! 野良犬、野良猫一匹見逃してはならんぞ!
ましてや『土くれのフーケ』などと名乗るコソ泥はな!」
恥を誤魔化すように人を怒鳴った後、そそくさと男は消えていった。
その背中を呆けたようにコルベールは見送った。

良かった…本当に良かった。
彼がまともな使い魔に見えなくて助かった…。
本来なら喜ぶべき事じゃないのだろうがそれに救われた。
どっと出た冷や汗を袖で拭い取る。
だが、事はそれで終わりではない。
何事も無くやり過ごす為には、もう一度だけ男の目を欺かなければならない。


「やっと…やっと見つけたわ」
背後から聞こえる幽鬼のような声に彼がハッと振り返る。
そこには怨敵を見つけたかのような殺気を放つ主の姿。
そのまま針串刺しの刑か解体かと思わせる雰囲気に、あっさりと降伏する。
「もうすぐ品評会が始まるっていうのに……このバカ犬!」
しかしそれに構わず、むんずと首輪を掴むとそのまま彼を引きずっていく。
まさか姫殿下を見に行った隙に逃げ出すとは思っていなかったのだ。
もう芸を練習している暇など無い。
ぶっつけ本番でどうにかするしなかない。
そう覚悟して会場に向かう彼女をコルベールが遮る。

「ミス・ヴァリエール! 少し話があります!」

その顔は必死で、思わずルイズも『はい…』と頷いてしまった。
それがどのような結果をもたらすかなど考えもしないままに…。


「ぷっくくくく…」
「………」
「これはちょっと…ねえ」
舞台脇の順番待ちの列、そこで巻き起こる笑い。
その中心にいるのは、出を待つルイズ嬢と彼女の使い魔。
ルイズの顔が恥辱に赤く染まる。
見知った知人でもこうなのだから、見知らぬ他人の前に出たらどうなるか。
いや、それよりも姫殿下に見られでもしたらどうするのか。
この場で命を絶った方がマシかもしれないと案じてしまう。

ちらりと向いた隣にはその元凶。
金髪のカツラを被り、涎掛けを付けた彼女の使い魔がいる。
仮装をしたのはコルベール先生の指示だ。
コルベール先生曰く『蚤取りの薬を塗ったので、それを舐めない為の処置』との事だが、
蚤なんて付いてたのか、何で事前に話が無かったのか、そもそも何で今日なのか。
考えるほどに疑問の種は尽きない。
しかし、あそこまで迫られると頷く事しか出来ない。
逆らったりしたら食い殺されかねない勢いだったのだ。

「ねえタバサ。貴方も何か言ってあげたら?」
「…ユニーク」
「インパクトはあると思うよ。うん、インパクトだけは」
知人の反応に一層空気が重たくなる。
このまま舞台の上に立ったら生殺しである。
しかも、こいつは使い魔らしい特技が何も無いのだ。
もし芸をやって観客が無反応だったらどうなるのか?
空回りする空気に耐え切れずに押し潰される姿がありありと浮かぶ。


「いっそ大地震でも来て学院が崩壊してくれれば…」
ぽつりと空恐ろしい事をルイズは呟く。
瞬間、鳴り響く轟音。
弾むように大地が揺れる。
悲鳴を上げる生徒達と観客。
王女を守ろうと護衛が彼女の周りを囲む。
不意にキュルケとギーシュの視線がルイズへと向けられる。
「私のせい!?」
「……あっち」
一人冷静に状況を判断したタバサが指差す。
その先には塔に並び立つ巨大なゴーレムの姿。
それは岩塊のような拳をもって壁を殴りつける。
だが、それでも壁は崩れない。
不動のまま拳を押し返し、よろめいたゴーレムがたたらを踏む。
その振動が地面を伝わり周囲に響いているのだ。
壊そうとしている壁の位置にあるのは宝物庫か。
衆人環視の中、それも王女もいるというのに余りにも大胆な犯行。

「っ…!」
「ちょっと! ルイズ、どこへ行くのよ?」
「決まってるじゃない! あのゴーレムを止めるのよ!」
目の前で堂々とやられているのに、何もしないなど我慢できない。
教師達も何人か来てはいるが、どうしていいか分からず右往左往するだけ。
私が、私がやるんだ! 誰も止められないというなら私が止める!


「なんて頑丈さだいコイツは!」
ゴーレムの肩に掴まりながらフーケが愚痴る。
魔法での突破が無理と判断しての強攻策。
物理攻撃ならどうにかなると踏んだが、それも甘い考え。
ヒビが入る気配さえ感じない。
これ以上は警備の連中も駆けつけて来るだろう。
潮時かと諦め立ち去ろうとした瞬間、彼女の目にある物が飛び込んで来た。


「はあ…はあ…はっ…」
流れ落ちる汗など気にする事なく男は駆ける。
向かう先は厩舎、その裏手にある馬車。
コルベールという男が指示した『光の杖』の隠し場所だ。
もし、あれがフーケの手に落ちたら身の破滅。
あんな所に置いていたら、いつ見つかるか知れたもんじゃない。
何よりも自分の立場の為に、男は必死に厩舎へと向かう。

あった…!
未だ馬も付けられずに放置された馬車。
そこに彼が近づいた瞬間、ゴーレムの手が馬車を捕らえる。
目の前で消えていく己の保身。
それを見上げながら男はその場にへたり込んだ。


「お・ば・か・さ・ん。そんなに慌ててたんじゃ、そこに宝があるって言ってんのと一緒さ」

フーケが目にした光景。
それは眼下に広がる人間達の行動だった。
王女の周囲に固まる護衛。
その場を動けずにいる観客と生徒達。
何も出来ずウロウロするだけの教師達。
自分に向かってくる命知らず。
そして、全く見当違いの方向に走る男の姿。

それを見た時に、彼女の唇に笑みが浮かんだ。
人は賊が現れたと知れば、まず自分の大事な物を確認しようとする。
その欲求による動作を彼女は見逃さなかったのだ。
目的の品とは違うが、別の獲物を手にした彼女が吼える。

「手ぶらで帰るってのも癪に障るからね。
何のお宝か知らないけど、この『土くれのフーケ』が頂いたよ!」

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